仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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譲渡

 目を覚まし、朝食を取り、身支度を整える。そうした後、カレンダーの前に立った勇は、今日の日付を見て小さく呟いた。

 

「いよいよ今日か……」

 

 ガグマ討伐作戦決行の日付、7月30日……とうとうこの日がやってきてしまった。

 

 準備はした、計画も練った。戦力も現状で揃えられる最大数を抑えたはずだ。

 

 だが、それでも不安は拭い切れないでいる。未だ姿を現さない憤怒の魔人やチーム内に残る僅かなしこりが勇の不信感を囃し立てているからだ。

 

 加えて、マキシマの言っていたガグマの恐るべき能力と言うものも気になる。敵の全容が見えていないと言う事もこの不安を掻き立てる事に一役買っているのだろうと勇は思った。

 

「……それも全部今更の話か……」

 

 自嘲気味に呟き、鞄を取る。もう事態は後戻り出来ない所まで来てしまっている。ならば、突き進むしか無いのだろう。

 

「……行くか」

 

 誰に言う訳でもない自分に対する言葉を呟いた勇は、玄関の扉を開いて決戦の地へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虹彩学園のゲート前、そこでは光牙率いる攻略隊を教師を始めとする大人たちが見送りに来ていた。

 

「白峯、お前の指揮に期待している……必ず、生きて帰って来い」

 

「命さん、ありがとうございます」

 

 大人たちを代表してリーダーである光牙に激励の言葉をかけた命は、そう言って光牙の手を取った。光牙もにこやかな表情を浮かべながらそれに応える。

 

「葉月、やよい、玲……苦しい戦いになるだろうが、お前たちならば乗り越えられると信じているぞ」

 

「まっかせてくださいよ! 帰って来たら祝勝パーティーといきましょう!」

 

「ご、ご期待に添えられる様に頑張ります!」

 

「……行って来ます、義母さん」

 

 園田の言葉に思い思いの反応を返すディーヴァの三人。緊張した面持ちなのは変わらないが、それを抑えようと三人共にそれぞれの方法でリラックスしようとしていた。

 

 そして最後、天空橋が勇に近寄ると彼の瞳を見る。やや不安げなその視線を受けた勇は、その不安を払いのける様にして笑った。

 

「なに死にそうな目で見つめてんだよ、オッサン! 戦いに行くのはオッサンじゃないだろ?」

 

「ええ……ですから不安なんですよ。勇さんたちが戻ってこないんじゃないかって考えてしまって……」

 

「縁起でも無いこと言うなっつーの! ……大丈夫だよ、オッサンがサポートしてくれるんだろ? 俺はそれを信じてるぜ」

 

「勇さん……!」

 

 信頼を込めた眼差しと言葉を勇から受け取った天空橋はそこでようやく笑みを見せた。そして、勇に対して激励の言葉を送る。

 

「……勝ちに行きましょう。私も出来る限りの援護はさせて頂きます、だから……」

 

「ああ! ……必ず誰も欠けずに帰ってくる。待っててくれよ、オッサン」

 

 二人は手を伸ばすと、お互いの手を取り合って握手を交わした。戦いの場は違えと共に戦う仲間としての信頼を込めたその行動を終えた後、勇は自分を待つ仲間たちの元へと歩き出す。

 

「……行こう! 世界を救うんだ!」

 

「おおーーっ!」

 

 リーダーの光牙の下で一致団結した生徒たちは、士気も高くソサエティへと乗り込んで行く。一人、また一人とゲーム世界へと飛び込んで行く生徒たちの背中を見つめながら、大人たちは期待と不安が入り混じった表情でそれを見守り続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……最後の作戦確認だ。皆、首尾は良いか!?」

 

「当たり前だぜ、光牙!」

 

 ソサエティを進み、目的地の前まで辿り着いた一行はそこで最終確認をしていた。目の前に広がる巨大な城を見るたびに心臓の鼓動が緊張と恐怖で大きくなる。黒々としたいかにもなボスの居城であるガグマの城は、それに相応しい威圧感を放っていた。

 

「ここまでは問題無く辿り着けた、そしてここからが本番だ。わかっていると思うが、油断せずに行くぞ!」

 

「おう! 敵も中で待ち構えているだろうしな。じっくり、慎重に攻めて行くんだろ?」

 

「櫂、あなたにしては良い判断じゃない。やっと知能が追いついて来た?」

 

「うっせぇ! 俺をいつまでも駄目な奴だと思ってんじゃねえぞ!」

 

 真美の軽口から湧き上がった笑いに若干憤慨しながら櫂が叫ぶ。場の空気が和み、生徒たちがリラックスする中、光牙はそんな空気を引き締める様に声を出した。

 

「櫂の言う通り、この城の中には大量のエネミーが居ると見て間違いないだろう。魔人柱の生き残りと、当然ガグマも一緒だ」

 

「まずは雑魚の露払い、次に魔人柱を倒して、最後に全員でガグマを攻める。三段階に分かれた作戦になるわね」

 

「けど、やることは非常にシンプルだ。敵を倒す、これだけで良い。もしも魔人柱とガグマが同時に現れたら……」

 

「光牙がガグマと戦闘、残ったメンバーでそのフォローをしつつ魔人柱を撃破する、だろ?」

 

「ああ! 迅速に、そして確実に戦おう!」

 

 城の中に入った後の行動を確認する光牙たちは最後に戦いの準備を始めた。入念に装備や体をチェックし、不備が無いか確認していく。

 

「……全員、準備は良いか!?」

 

「おおーーっ!!!」

 

 響く歓声、鬨の声と言っても良いそれを耳にしながら、生徒たちの先頭に立った光牙は腕を振り上げて響く歓声に負けない大声で叫んだ。

 

「全軍、行くぞっっ!」

 

 その言葉を合図にして生徒たちが駆け出す。目指すは敵城、ガグマの住まう闇の城。その入り口である巨大な門目掛けて数十は下らない人数の生徒たちが殺到する。

 

<フレイム!>

 

<バースト!>

 

 部隊の後方から飛来する数々の魔法が門を叩く。二度、三度と軋み、音を立てるそこを目掛けて、光牙は大きくジャンプすると変身しながら跳び蹴りを繰り出した。

 

<ブレイバー! ユー アー 主人公!>

 

「てやぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 勢いの乗ったブレイバーの跳び蹴りを受けた門は激しい音を響かせながら崩壊した。内部に一番最初に突入した光牙は、急いで周囲を確認する。

 

「グラッ! ギッ! ガァァッ!」

 

「やはり居たか、エネミー!」

 

 城の薄暗がりから飛び出してきた二体のエネミーを迎撃すべく剣を振るう光牙。さほど強くは無いそのエネミーを難なく捌き、次の行動に移る。

 

「どけっ! お前たちに構っている暇は無いんだ!」

 

 光牙は下から掬い上げる様にして切り上げを繰り出すと一体のエネミーを両断した。そのまま一歩前進し、勢いのまま体を次のエネミーにぶち当てる。

 

「ふんっ!」

 

「ギャゴォォッ!?」

 

 強烈なタックルを受けて大きく後退したエネミー、そんな彼に向かって赤い影が突撃していく。

 

<必殺技発動! パワードタックル!>

 

「ナイスだ光牙! トドメは俺がもらうぜっ!」

 

「ギャガガガァッ!!!」

 

 巨大な体躯を活かした櫂のタックル、それを受けたエネミーは光牙の時とは比べ物にならないほどの距離を跳び、その最中で爆発四散した。

 

「良し! 押してるぞ! このままガンガン進むんだ!」

 

 新手のエネミーを切り伏せながら味方へと号令を出す光牙。そんな彼の活躍に合わせて生徒たちも奮起していた。

 

 ある者は手に持つ武器でエネミーを打ち倒し、ある者は魔法で一気に敵をなぎ払う。またある者はカードを使ってモンスターを呼び出してエネミーと戦わせていた。

 

「ふっ! おらぁっ!」

 

「勇さん、援護しますっ!」

 

 城のエントランスでの戦いは熾烈を極めた。勇もドライバ所持者としてその力をいかんなく発揮している。

 

 今、正に同時に三体のエネミーを撃破した彼が次の相手を探そうとした時、自身の体に力が湧き上がって来るのを感じた。マリアが体力回復のカードを使ってくれたのだ。

 

「サンキュー、マリア!」

 

「お気をつけて! 敵はまだまだ居ます!」

 

 自分に攻撃を仕掛けて来たエネミーをバリアで牽制し、光属性の魔法で攻撃しながらマリアが叫ぶ。頼もしい彼女の活躍に頷いた勇は、再び敵の真っ只中へと飛び込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ! おりゃぁっ!」

 

「あー、もう! 全然終わりが見えないよ~っ!」

 

「葉月! 愚痴を言ってないで敵を倒しなさい!」

 

 泣き言を口にする葉月に対して玲の叱責が飛ぶ。かく言う彼女も休み無くメガホンマグナムの引き金を引き続けてエネミーを撃破しているものの、敵の数が減る様子は一切無かった。

 

「既に30分はここで戦っているわ、これ以上の消耗は避けないと不味いわよ!」

 

「わかってる! でも、どうすれば……!?」

 

 この先に居る魔王と言う強敵との戦いを前にして消耗するわけにはいかない。真美の言葉に対してそう言ってみたものの、光牙はこの状況をどうにかする方法を見つけ出すことは出来ずにいた。

 

(この敵を放置するわけにはいかない! ガグマたちと戦っている時に背後を突かれることは避けなければならないが、どうすれば良いんだ?)

 

 ガグマたちとの戦いに集中するためにもこのエネミーを放っておくわけにもいかない。さりとてこのまま戦い続ければじりじりと消耗していくことは目に見えている。

 

 この状況をどう打破しようかと思案を巡らせていた光牙だったが、彼が考えを纏めるよりも先に謙哉が動いた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

<ドラゴウイング!>

 

 カードを使用して背中から翼を生やした謙哉は宙に舞うと、そのままエネミーの上空から攻撃を開始した。ヒット&アウェイの要領で攻撃を繰り返しながら、謙哉は勇たちの方を見て叫んだ。

 

「ここは僕が引き受ける! 皆は先に進んでくれ!」

 

「謙哉っ! 流石に一人じゃ無茶だ! 俺も一緒に残る!」

 

「駄目だよ、勇の力はガグマとの戦いできっと必要になる! ここで足止めに残すわけにはいかない!」

 

 勇の申し出を断った謙哉は再びエネミーへと攻撃を繰り出すと地面に一度着地した。そして、先が見えない城の廊下目掛けて盾を構える。

 

<ドラゴブレス! サンダー!>

 

<必殺技発動! グランドサンダーブレス!>

 

「はぁぁぁ……っ!」

 

 蒼い龍の顔を模した盾の口部分が開き、雷光が集って行く。その光が最大限に高まった時、龍の息吹の様な必殺技が放たれ、謙哉の前方に居たエネミーを灰と化した。

 

「さぁ! 先へ進むんだ! ここは僕が引き受けた!」

 

「謙哉……っ!」

 

 親友が切り開いてくれた道の先を見た勇は、一度振り向いて大量のエネミーと戦い続ける謙哉へと視線を移す。このまま彼一人だけをこの場に残すことを心苦しく思っていると……

 

「何名か私と一緒に援護に残って! 皆の退却ルートを確保するわよ!」

 

「水無月、お前!?」

 

 薔薇園の生徒たちに指示を出しながら一歩前に出た玲がエネミーと戦い続ける謙哉の援護に回ったのだ。驚く勇たちに対し、玲は振り向かないまま短く答える。

 

「私も援護に残るわ。薔薇園からも何部隊かこの場で援護させる。あなたたちが戻ってくるまでの間この場を持たせるなら、これがベストじゃないかしら?」

 

「……確かにその通りだ。水無月さん、この場を任せるよ」

 

「そう言ってるでしょう、さっさと行きなさい……葉月、やよい、一緒に行けなくてごめんなさい。あなたたちの事、信じてるわよ」

 

「玲ちゃん……!」

 

「……うん、任せてよ! ガグマをささっとやっつけて、戻ってくるからさ!」

 

 光牙が、櫂が、葉月とやよいが……次々と廊下の奥へと走り去って行く。その背に続いて多くの生徒たちが先へと進む中、最後まで残っていた勇は自分たちのために足止めを買って出てくれた二人のライダー目掛けて大声で叫んだ。

 

「謙哉っ! 水無月っ! 絶対にやられるなよ! すぐに戻ってくるからな!」

 

 仲間に対する激励の言葉を言い残し、勇もまた先へと進んで行く。エントランスに取り残されたいくつかの部隊は、一箇所に固まってエネミーの攻撃を凌いでいた。

 

「水無月さん、別に君が残る必要は……」

 

「あなた一人でどうにかできる数じゃないでしょ? 大人しく人の手を借りなさいよ」

 

 玲が残る事に不安を感じている謙哉を短く叱り、その横に並び立つ。それぞれの得物を構え、迫り来る敵を睨むと、二人はお互いに声をかけた後で駆け出して行く。

 

「援護は任せたよ、水無月さんっ!」

 

「あんまり無茶するんじゃないわよ!」

 

 雷光と銃弾が飛び交う戦場の中、仲間たちを信じて時間稼ぎを行う二人のライダーは獅子奮迅の活躍で次々とエネミーを倒して行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謙哉と玲をエントランスに残して城の内部へと突入した光牙たち一行は、そこでも激しい戦闘を続けていた。数こそ少ないものの物陰から急に飛び出してくるエネミーに驚かされながらも次々とそれを撃破して先に進んでいく。

 

<必殺技発動! バーニングスラッシュ!>

 

「おおっらぁっ!」

 

 右薙ぎに剣を一振り、続けて正面の敵二体を串刺しにする様に突きを繰り出した勇の攻撃を受けてエネミーたちが消滅する。ほっと一息ついていた勇だったが、背後から別のエネミーが飛び掛って来た事に気がついて咄嗟に剣でそれを防ごうとすると……

 

「勇さん、危ないっ!」

 

<バリア!>

 

「グガガッ!?」

 

 電子音声と共に勇の周囲に光り輝く壁が生成されたではないか。突然目の前に出現した障害物に驚いたエネミーは攻撃を取り止め、地面に着地する。そこからどうしたものかと戸惑う隙だらけのそのエネミーに向かって、勇は瞬時に駆け出した。

 

「っしゃぁっ!」

 

「グギイッ!?」

 

 勇の動きに合わせてバリアが消え、エネミーとの間にあった隔たりが消滅する。あっという間にエネミーに接近した勇が勢いのままに右のフックを繰り出してエネミーの顔面を叩くと、情けない悲鳴を上げてエネミーは数歩後ろへとよろめいた。

 

 なおも勇の攻撃は止まらない。剣の柄でエネミーの胸を突き、そのまま回転して横薙ぎに胴を切り払う。連撃を受けてグロッキー状態になったエネミーに対して、勇は止めと言わんばかりに回し蹴りを繰り出した。

 

「ゲゲェェッ!!?」

 

 クリーンヒット、側頭部を蹴り飛ばされて床に倒れたエネミーは短い悲鳴を上げると光の粒になって消滅した。勇は今度こそ周囲が安全になったことを確認した後、自分を援護してくれたマリアに感謝の言葉を述べる。

 

「サンキュな、マリア。お陰で助かったぜ」

 

「いいえ、お礼を言われることなんかしていませんよ。助け合うのは当然じゃないですか」

 

 勇の言葉に笑顔で応えるマリア。変身しているので今の勇の表情はわからないが、きっと笑顔を見せてくれているのだろうと思ったマリアは自分もまた嬉しそうに笑顔を見せる。

 

 数日前、光圀から事の真相を聞いたマリアは、その日のうちに勇に連絡を取って謝罪をしていた。翌日も朝早くに登校し、勇が教室に来てすぐに改めて自分の行動で勇を傷つけてしまった事を謝った。

 

 マリアのその謝罪に対し、勇は若干やりすぎだと苦笑しながらも何でも無いようにそれを受け止めて彼女を許してくれた。と言うより、そもそも怒っていなかったわけなのだが、ようやっとわだかまりが無くなった二人は以前と同じ様に笑い合える関係に戻ったわけである。

 

 マリアはそれが嬉しかった。意見の衝突から亀裂が入った関係を修復出来た事がとても喜ばしかった。なにより、胸の中に渦巻く不安を相談できる相手が出来た事が彼女の心を大きく安らがせてくれたのだ。

 

 光牙と対等に接し、彼に意見を物怖じせずに言える勇が居れば、万が一の事態の時も大丈夫だろう。その時は、今度こそ自分が彼の後押しをしてみせると決意しながら先へ進むマリアの耳に先頭を進む光牙の声が聞こえてきた。

 

「……あったぞ、ここだ」

 

 彼が指差す先にあったもの、それは大きな扉だった。赤黒く、血の色にも見えるその扉には豪華な装飾も施されており、扉の奥からは痛いほどに感じる威圧感が放たれていた。

 

「この先にガグマがいるのか?」

 

「おそらくだけどそうだろう。ここは城の行き止まり、雰囲気からしてここがガグマの居る部屋だ」

 

 光牙のその言葉を聞いた生徒たちの間に緊張が走る。とうとうやってきた大ボス戦を前にして緊張しない方がおかしいと言うものだろう。

 

 マリアも、真美も、櫂も……この場に居る全ての人間が少なからずプレッシャーを感じていた。しかし、光牙はそんな彼らの様子もお構い無しに扉に手を掛けると腕に力を込めてそれを開く。

 

「こ、光牙っ!?」

 

「……固まっている暇なんか無い。ここまで来たら勝つだけなんだ!」

 

 勝利への渇望と意欲を見せたその言葉にA組の生徒たちもはっとした表情を見せる。そして、各々で深呼吸をすると、光牙が開く扉の先へと視線を向けた。

 

 ゆっくり、ゆっくりと、扉が開いていく。鈍い音を立てるそれがぴたりと動きを止めた時、光牙たちは扉の先にあった玉座と、そこに座る人物を睨みつけた。

 

「……よくぞここまでやって来たな。その事を素直に褒め称えよう」

 

 ぱちぱちと手を叩いて光牙たちを称える言葉を口にするガグマ。その周囲に居た二つの影が動き、光牙たちとガグマの間へと入り込む。

 

「イージスはどこだい? あいつはボクが倒すって決めてるんだ」

 

 この場に居ない謙哉の姿を探すパルマは、そう不機嫌そうに呟くと両腕を開いて戦いの構えを見せた。彼の隣に控える黄色の魔人……クジカもまた、鋭い視線を勇へと向けながら苛立ち混じりに言葉を吐き捨てる。

 

「貴様から受けたあの屈辱と痛み、一時も忘れた事は無かったぞ……! 今日こそ借りを返してくれよう!」

 

「……どうやら、クジカは俺との一騎討ちをご所望みたいだな。んじゃ、あいつは俺に任せろ」

 

「任せたよ、龍堂くん。俺と櫂はガグマを狙う!」

 

「ってことは、アタシとやよいがパルマを相手するってわけだね!」

 

「強敵だし、玲ちゃんも居ないけど……絶対に勝ってみせます!」

 

 部屋の中には他のエネミーの姿は見当たらない。真美は後ろに控える生徒たちに背後の警戒を任せながら、何時でも光牙たちを援護できる体制を取る。良く訓練された生徒たちは各自の割り当てられた役目を果たすべく、必死になって行動していた。

 

「行くぞ……覚悟しろ、ガグマっっ!!!」 

 

「そう猛るな、急いては事を仕損じると言うだろうに」

 

 剣の切っ先を自分へと向けて叫ぶ光牙に対して、ガグマはまるでおちょくる様な口調で言葉を返した。その反応に仮面の下で怒りの表情を見せた光牙は、剣を構えると一直線にガグマへと駆け出して行く。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「……そう易々とガグマ様に挑ませると思う? ボクたちが居る事を忘れないで欲しいな!」

 

 自分たちの間を縫ってガグマの元へと向かおうとする光牙を迎撃するパルマ。手の平から光輪を飛ばし、彼を攻撃する。

 

「くっっ!?」

 

 無数に飛び交うパルマの光輪を受け、前へと進む動きを止めた光牙がそれを剣で薙ぎ払って防ごうとするも、一つや二つ叩き落した所で完璧に攻撃を防げるわけでもない。何とかして攻撃を防ぎながら前へと進もうとする彼だったが、肩と腹に飛来した光輪を受け、堪らず後ろへと後ずさってしまった。

 

「ふん……! 愚か者めが、己の力を考えてから行動するのだな!」

 

 その隙を見逃すまいと距離をつめたクジカが双剣を振り上げて光牙を攻撃する構えを取った。目にも止まらぬ早業で光牙を切り裂こうとした彼だったが、自身と標的の間に入り込んだ勇にその攻撃を受け止められてしまう。

 

「……おいおい、寂しいことすんなよ。お前の相手は俺なんだろ?」

 

「ちぃっ!」

 

 剣を振り払い、クジカの双剣を弾く勇。クジカはすぐさま右の剣で勇へと攻撃を仕掛けるも、その行動を見切っていたかの様に動いた勇は身を屈め、頭上スレスレを通るクジカの一撃を回避した。

 

「うっらぁぁっっ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

 勇はそのまま屈めた体を跳ね上げる勢いを活かして剣での斬り上げを繰り出す。攻撃を出した後の隙を疲れたクジカは、その攻撃を防ぐことが出来ずに左肩を斬られ、痛みに呻いた。

 

「光牙、行けっ! くれぐれも慎重にな!」

 

「ああ! ありがとう!」

 

 勇の援護を受けた光牙が再びガグマへと突撃を仕掛ける。クジカが居なくなった分スペースが空き、彼の進むルートも大きく増えた。

 

「また突っ込んでくる気かい? 何度やっても同じ事さ!」

 

 己と、己の主君に対して迫り来る光牙へもう一度光輪を飛ばして攻撃を仕掛けようとするパルマ。だが、それを邪魔する様にピンク色の光弾が彼目掛けて飛んで来た。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟にサイドステップを踏んでその攻撃をかわす。しかし、次に仕掛けられた葉月の一撃を避ける術は無く、真横一文字に胴を切り裂かれてしまった。

 

「ぐわぁぁぁっ!?」

 

「邪魔はさせないよっ!」

 

「光牙さん、今ですっ!」

 

 葉月とやよいがパルマを足止めし、作ってくれたチャンス……それをものにすべく、光牙はひた走る。その横には彼に付き従う櫂の姿もあった。

 

「光牙ぁっ! 俺が真正面を攻める、お前は……!」

 

「ああ、上から同時に攻めるぞっ!」

 

 一瞬の内に定まる攻めのパターン、何度も練習したそのフォーメーションを頭に思い浮かべながら光牙は跳ぶ。

 

「今よ! 全員、二人に補助魔法を!」

 

 ここを最大の好機と見た真美は生徒たちに能力強化のカードを使うことを指示した。攻撃力と防御力、素早さを強化する魔法が発動され、光牙と櫂に集中してその効果が注がれていく。

 

「みんな、ありがとう! ここで決めてみせるっ!」

 

<必殺技発動! ビクトリースラッシュ!>

 

 光り輝き、強い力を放つエクスカリバーを握り締め、光牙はガグマへと向かう。仲間が道を切り開き、力を託してくれた。この絶好の機会を逃す訳にはいかない。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 光牙は剣の柄を強く握り締め、それをガグマ目掛けて振るう。

 

 完璧な一撃、跳躍と落下の勢いを乗せた今の自分に放てる最高の攻撃を繰り出しながらガグマへと迫る。

 

(俺は……俺はっ! 勇者になるんだっ!)

 

 父の思いに応える為に、世界を救う為に、皆の期待に応える為に……エクスカリバーに自分の全ての思いを込め、ガグマへと渾身の一撃を放つ光牙。

 

 あと1m、50cm、30、10、5……光牙は、エクスカリバーが放つ光がガグマを捉えた事を見て、そして……

 

「……がはぁっっ!?」

 

 次の瞬間、城の壁へと叩きつけられていた。

 

「……え? え?」

 

「な、なに、が……!?」

 

 ほんの一瞬、まばたき一つの間に起こったその出来事を正しく理解できる人間などここには居なかった。吹き飛ばされた光牙のすぐ隣にいた櫂ですら、何が起こったのかを理解出来ていなかったのだ。

 

 戦いを見守っていた生徒たちには、攻撃を仕掛けた光牙が消えた様にしか見えなかった。ガグマがなにか特殊な能力を使ったのでは無いかと身構えた彼らだったが、そうでは無い事をただ一人だけ理解していた男が居た。

 

(な、殴られたのか……? あの状況から、一瞬で!?)

 

 よろめき、立ち上がった光牙は、あの瞬間の事を思い返していた。ガグマに自分の必殺技が当たると思われたその時、自分はガグマに殴られて吹き飛ばされたのだ。

 

 何か特別な能力を使われたわけでは無かった。信じられないトリックがあるわけでも無かった。ただ、殴られただけだったのだ。それだけで、大幅に能力を強化され、櫂との連携で繰り出した自分の必殺技が破られたのだ。

 

「こ、光牙っ!? てめえっ!」

 

 ようやく光牙が攻撃された事を悟った櫂がガグマへと斧を振るうも、ガグマはいとも容易くその攻撃を受け止めるとまっすぐに光牙を見る。そして、とても愉快そうに笑い始めた。

 

「クカカカカカカ! やはりその程度か。あの日よりかは強くなった様だが、それでもまだまだ弱い!」

 

「ぐっ! うぅっ! ぐうっ!?」

 

 ガグマは笑いながら光牙への嘲りの言葉を口にした。片手で斧を掴み、櫂の方を一瞥もせず、ピクリとも動かないでいる。

 

「う、嘘……!? 何で? どうして!?」

 

 理解出来ない光景だった。ガグマは最大までレベルを上げ、自分たちの援護で能力を強化したはずのブレイバーの必殺技を打ち破り、力自慢のウォーリアの全力を涼しい顔で受け止めているのだ。

 

 どう考えてもおかしかった。魔王や魔人柱たちの能力値が同じレベルであっても自分たちよりも高い事は知っている。しかし、これはどう考えても差がありすぎた。

 

「が、ガグマのレベルは40の後半のはずでしょ……? どうしてこんな差があるのよ!?」

 

「ああ……そうか、やはり勘違いをしていたか」

 

「か、勘違い、だと……!?」

 

 ゾワリ、とした悪寒が光牙の体を駆け巡った。光牙だけではない、この場に居るガグマの声を聞いた生徒たち全員が同じ感覚を覚えていた。

 

 なにかとても嫌な事を告げられる予感………絶望的で、悪夢の様な何かを感じさせるその声が、不安と共に生徒たちの心を蝕んでいく。自分以外の誰もが身動きを止めたこの状況で、ガグマは悠々と自分の『能力』について語り始めた。

 

「冥土の土産に教えてやろう。わしの能力をな……」

 

「能、力……?」

 

「左様、わしの能力の名は『譲渡』。譲り渡す、と書く譲渡だ」

 

 広い王座の間の中にガグマの声だけが響く。光牙はその声を聞きながら、自分の心臓が爆発するのでは無いかと思うほどに早鐘を打っている事を感じていた。

 

「わしはレベルを10下げる事で素体を作り上げることが出来る。その素体に自身の能力を譲り渡すことも出来る。そうして出来た素体はレベル10の唯一の個体となり、育てていく事が出来るのだ」

 

「素体? 唯一の個体? ど、どういう……!?」

 

「え? あ……!? も、もしかして、その個体って……!?」

 

「そう、お前の考えた通りだ。魔人柱とは、わしが作り上げ、わしの能力を一部授かったオリジナルのエネミーなのだよ」

 

 やよいの呟きを肯定し、答えを口にするガグマ。じわじわと迫る悪寒に身を震わせながら、真美は彼にこう尋ねた。

 

「つ、つまり……あんたは、自分のレベルの能力を犠牲にして魔人柱を生み出せるって事?」

 

「正解だ、明晰な頭脳だな。お前たちは良くやったよ、なにせ魔人柱は育ちきれば精強無比の存在となる。そうなる前に倒されてしまったのでは、わしの費やした時間が無駄になってしまうと言うものだ」

 

 真美はその答えを聞いて安堵した。もしも自分たちが魔人柱たちを倒すことが遅れていれば、彼らは更なる強敵として自分たちの前に立ちはだかっていたのだろう。それを阻止出来た事は素直に喜べることであった。

 

「……だから、なんだ!? お前が魔人柱をいくら作り出しても、俺たちは何度だって倒すだけだ!」

 

 徐々にガグマのペースに巻き込まれている事を危惧した光牙が痛む体に鞭打って立ち上がり、戦いの構えを見せながら叫んだ。その頼もしい姿にA組の生徒たちの心は奮起し、ガグマへの対抗心を募らせる。しかし……

 

「クカカ……まだ分からんのか?」

 

 ガグマはただ笑うだけだった。愉快そうに、まるで簡単ななぞなぞが解けずに四苦八苦する子供を見るかの様に光牙たちへと視線を注いでいる。

 

 その視線の意味する所は何なのか? 光牙はそれを考えようとして、止めた。ごちゃごちゃ考えるのならばガグマを斬る方法を考えた方が良い。そう思い直した彼が再びガグマに挑みかかろうとした時だった。

 

「皆っ、逃げろっ! 撤退だっ!」

 

「なっ!?」

 

 勇がこの場に集まる生徒たちに大声で叫んで指示を出したのだ。リーダーである自分を差し置いて全軍の指揮を執る彼に対して苛立ちを超えた怒りを感じた光牙は、勇へと突っかかる。

 

「龍堂くん、何を言っているんだ!? まだ戦いは始まったばかりだ、なのにもう諦めるだなんて……君は何を考えているんだ!?」

 

 光牙の言葉にA組のほとんどの生徒が同意の表情を見せた。だが、そんなこともお構い無しに勇は叫び続ける。

 

「櫂っ! お前も早くガグマから離れろっ! 今の俺たちじゃ絶対にそいつには勝てないんだっ!」

 

「何言ってやがる!? 光牙の言うとおりだ、まだ戦いは始まったばかりじゃねえか!」

 

「ほぅ……そうか、そう言うか……ならば……」

 

 櫂の言葉を聞いたガグマが斧を掴む手に力を込めた。瞬間、グレートアクスは黒い炎に包まれて消滅してしまう。

 

「引き際を見失ったのだ。その覚悟に殉じるつもりはあるのだろう?」

 

「っっ!?」

 

 ぞっとするほど冷たい声だった。それを耳にした櫂が固まっていると、体を叩く強い衝撃と共に大きく吹き飛ばされてしまう。方向は光牙たちと反対の方向、入り口から最も離れた位置だ。

 

「あ……がっ……!?」

 

「櫂ーーーっ!」

 

 倒れ、あまりの衝撃に立ち上がることすら出来ない櫂を勇が助けに向かおうとする。しかし、パルマとクジカの妨害に遭い、彼に近づくことは叶わなかった。

 

「くそっ! 除けよっ!」

 

「……話の続きをしよう。わしの能力が魔人柱を作り出すことだと言うことは話したな。では、もしもわしが作り出した魔人柱が死んだ場合、どうなると思う?」

 

「あっ……!?」

 

 その言葉を聞いた真美が何かに気が付くと愕然とした表情を浮かべて小刻みに震え始めた。顔は青ざめ、瞳には涙が浮かんでいる。気丈な彼女をここまで追い込む事実が存在する事を悟った光牙は、そこでようやくガグマの能力が自分の想像を超えていることに気が付いた。

 

「……答えを教えよう。その魔人柱を生み出すために使ったレベルと能力がわしの元に戻ってくる、だ。さて、ここまで言えばわかったのではないか?」

 

「え……!? あっ……!」

 

 はたと気が付く。恐ろしい考えが思い浮かぶ。絶対にあって欲しくない、だが、全ての事実がこの考えが正しい事を物語っている。

 

 ガグマは魔人柱を生み出す為にレベルを10必要とする。つまり、強欲以外の6つの罪の名を背負った魔人柱を生み出すには60ものレベルを下げる事が必要になるのだ。

 

 自分たちがガグマと初遭遇した時、ガグマはミギー、マリアン、クジカ、パルマの4体の魔人柱を従えていた。光牙たちが倒したドーマと存在が確認されて居ない憤怒の魔人柱を除いたとしても、その時点で40レベルは本来のレベルから下がっていた事になるのだ。

 

 その時点で40後半、つまり、ゆうに光牙たちが考えていた最大レベルである50を超える事になる。その事実に気が付き、青ざめていく生徒たちを目にしたガグマは再び愉快そうに笑った。

 

「クカカカカ! もう一つサービスだ。お前たちと初めて会った時、わしは憤怒の魔人柱の素体も完成させていた。その時点でのレベルは49……さあ、ここから導きだされる答えはなんだ?」

 

 単純な計算、49+五体の魔人柱を生み出すのに必要なレベル=50……つまり、ガグマの本来のレベルは……

 

「レベル……99?」

 

「正解、良く出来たな。褒美にわしの真の名を教えてやろう……はぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 

 空気が震える。地面が揺らぐ。ガグマが力を滾らせるだけで周囲に大きな影響を与えると言うことに身震いしながら、光牙はガグマの姿を見続ける。

 

 灰色のガグマの体が徐々に黒ずみ始める。まるで人の罪を顕現させたかの様な深い黒の色、闇の色と言っても過言では無いその体表の上に纏う黄金の鎧には、新たに紫、赤、そして青の宝玉が出現して鈍く輝き始めた。

 

「……これで半分と言った所か。さて、改めて名乗らせて貰おう」

 

 装いと姿を新たにしたガグマが光牙たちへと向き直る。その圧倒的な威圧感を前に、生徒たちの中には呼吸が困難になる者も居た。

 

「我が名は『大罪魔王 ガグマ』、現在のレベルは69である……さて、挨拶は終わりだ。戦いを再開しよう」

 

「えっ……!?」

 

 戦いを再開する……そう口にしながら、ガグマは光牙たちに背を向けた。およそ戦うつもりがあるとは思えない彼の行動に驚く光牙だったが……その先を見て血相を変えた。

 

「あ、ぐ……っ!」

 

 自分たちの視線の先、ガグマが見ている方向…………そこには櫂が居た。傷つき、倒れ、立ち上がることも出来ずに呻く櫂の姿を見た瞬間、光牙はガグマが彼に止めを刺そうとしている事に気が付き、叫んだ。

 

「や、止めろぉぉぉぉっ!」

 

 ガグマを止めようと駆け出す。しかし、傷ついた体は言うことを聞いてくれず数歩走った所で倒れてしまった。

 

「に、逃げろ! 逃げるんだ、櫂っ!」

 

 なんとか時間を稼ぐ様に親友に叫ぶ光牙。しかし、櫂も限界の様で、立ち上がる事で精一杯だった。

 

「まず一人目だ。わしの手で倒されることを光栄に思え」

 

「あ……あ……!」

 

 黒い炎がガグマの手に集まっていく。それが炎なのか、それとも闇なのか、遠目には判断がつかない。唯一つ分かっている事は、それが今まで見たどんな必殺技よりも強大な威力を秘めている事だった。

 

<必殺技発動 セブンス・シン>

 

「ぬぅぅぅぅぅん……っ!」

 

「あ、ああ……うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 いつもより低く響く電子音声をバックにガグマの手から必殺技が放たれる。黒く渦巻くそれが櫂へと向かう光景が、光牙にはスローモーションに見えた。

 

 どうしようも無かった。全てが遠すぎた。距離も、実力の差も、全てがかけ離れていた。そしてなにより、彼らは判断を誤った。故に、この悲劇は起きた。

 

 後悔と絶望を感じながらその光景を見守っていた生徒たちの前で、ガグマの放った必殺技は櫂へとぶち当たり、そして……

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「か、櫂ぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」

 

 悲鳴と爆発、黒い炎が巻き起こした衝撃波が部屋の中を包む。変身していない生徒たちの中には、その衝撃波だけで吹き飛び、壁に叩きつけられて気を失う者まで居た。

 

「か、櫂っ! 櫂ぃぃっ!」

 

 光牙は待った。煙が晴れ、櫂の様子が伺える様になる時を待った。どうか櫂が生きていてくれる様にと心の底から願った。

 

 ゆっくり、ゆっくりと煙が晴れていく。視界を取り戻した光牙たちはすぐさま櫂の居た場所を見て、そして、愕然とした。

 

「か、い……?」

 

 そこには誰も居なかった。ただ一つ、櫂の着けていたギアドライバーだけが転がっていた。その光景を見た光牙の口から呆然とした呟きが漏れる。

 

「い、いや……いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 やよいの叫びが木霊する。真美が膝から崩れ落ちる。葉月の手からは剣が取り落とされ、誰もが悪夢を見ているかの様に呆然と立ち尽くしていた。

 

「ク、ククク……クハハハハハハハ!」

 

 絶望と悪夢で染め上げられた部屋の中、ガグマはひたすらに笑い続けた。至極愉快そうに笑って、自分の勝利を喜び続けた。

 

 全ての音がその笑い声でかき消される。だが、生徒たちは確かに聞いた。櫂のゲームギアから鳴り響く、短いたった一つのアナウンスの言葉を……

 

<GAME OVER> 

 

 


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