「……良いだろ? 素直になれよ……!」
「強引ね……でも、そういう人は嫌いじゃ無いわ」
整った顔立ちの男性に詰め寄られた玲が呟く。右手を彼に握られ、所謂『壁ドン』と言うものをされた玲は熱を帯びた視線で男を見ていた。
「最初は好きになれないと思ってたけど、その強気な所に惹かれてたみたい……私の負けね」
「ふふ……なら、言ってくれよ。お前の気持ちを、さ……」
男のその言葉に顔を赤らめた玲が少し俯く。やがて顔をあげると、意を決した様に言った。
「……あなたが好きです。彼女にしてください」
男は玲のその言葉に満足そうに笑うと、そのまま彼女の唇めがけて自分の唇を近づけて行き………
「……監督、私キスは無しって言いましたよね?」
他ならぬ玲の手に止められ、いつもの彼女の冷たい声色に固まったのであった。
「玲お姉ちゃん、お疲れ様!」
「ふふ……久しぶりね、悠子ちゃん」
休憩室で微笑みながら目の前の少女と会話する玲、珍しい彼女の微笑を目の前にしているのは、かつてエンドウイルスに感染し、命の危険に陥った少女『悠子』だ。
「でもお姉ちゃんお芝居上手だったね! 私、ドキドキしちゃった!」
「一応指導は受けてたからね……でも、初めてだから私もドキドキしてるのよ?」
「え~? ほんと~?」
「ほんとよ。私だって女の子なんだから緊張くらいするわよ」
そう言ってくしゃくしゃと悠子の頭を撫でる玲はまるで彼女の姉の様な温かな笑みを浮かべていた。そうやって悠子を構っていた玲だったが、不意に思い出したかの様に顔を上げると、もう一人の人物に声をかけた。
「悠子ちゃんの付き添いをしてくれてありがとう、謙哉」
「気にしないでよ。僕も悠子ちゃんとは会いたかったし、水無月さんのお芝居を見れて楽しいからさ」
そう言ってニコニコと笑う謙哉は玲と悠子の楽しげなやり取りが見れただけでもここに来て良かったなと考えながら部屋に飾られているポスターへと視線を移した。
真夏の恋物語、2大新人アイドル豪華競演のドラマ、三夜連続放送決定!………そう銘打たれたポスターには玲たちディーヴァの3人と男性アイドルグループのEASTの三人組の写真が写っていた。先ほどの玲の共演相手である男性の一人、東海林英太郎(しょうじえいたろう)の写真を見ながら、謙哉はドラマの出来栄えを楽しみにしていた。
そう、本日はディーヴァが三人揃って初ヒロインを努める特別ドラマの撮影日であり、謙哉と悠子は玲に誘いを受けて見学に来ていたのである。
メンバーの中で玲は初めてのドラマ出演と聞いていたが、とてもそうとは思えない演技っぷりを見せ、監督や共演者たちに感心されていた。歌以外の仕事をすると言うのは玲にとっては珍しい事で、園田や葉月たちも驚いていたものだ。
「……まぁ、まさか初めてのドラマ出演が恋愛ものだなんてね……」
「え?でもアイドルってそういうドラマに出演する事が多くないかな?」
「……私はそんな青春真っ盛りなドラマより、サスペンスやホラーの方がしっくり来ると思うけどね」
若干不貞腐れた表情で玲が呟く。甘い台詞を台本で目にするだけでこれを自分が言うのかと身震いしたものだ。
だがまぁ、そこはプロ。しっかりと気持ちを作り、万全の状態で撮影に臨んだわけなのだが……
「まったく……キスシーンは無しって事前の取り決めで決めてたのに……」
お相手役の東海林に対する愚痴が自然に漏れる。そんな事をしたら両方のファンから不満が出る事は間違いないだろうし、園田も事前にしっかりと釘を刺していたはずだ。
何より、例え演技であろうと好きな相手が見ている前で他の男とキスする趣味など玲には無い。そんな事を考えながらむすっとした表情になっている玲をその好きな相手が嗜めた。
「水無月さん、笑顔笑顔! 悠子ちゃんが見てるよ!」
無駄に良い笑顔を浮かべる謙哉に若干の苛立ちを感じながらもそれ以上の愉快さを感じる玲。ついつい噴き出してしまった彼女を悠子も楽しそうな表情で見ていた。
「はぁ……なんで共演相手があいつなのかしら?」
「え? 何か問題があるの?」
「……ここだけの話、女たらしで有名なのよ。年上年下関係無し、手を出せる女には手を出してるみたい」
「え、ええっ!?」
自分とそう歳の変わらないアイドルの汚い裏の顔に驚く謙哉。というより、それはスキャンダルでは無いのだろうか?
「……相手側も事務所の所属タレントが男と付き合ってるなんて公表したくは無いでしょう? だから基本は泣き寝入りよ」
「うへぇ……感心するやら呆れるやら……芸能界も意外とドロドロしてるんだね……」
知りたくなかった事を知ってしまって少しショックを受ける謙哉。いまいち意味のわかっていない悠子はぽかんとしているが、玲は軽く溜息をつきながら話を続けた。
「撮影も3日目だけど、毎日食事の誘いやら連絡先の交換を迫ったりしてくるし……もう本当に迷惑よ」
「あ~……園田さんに何とかして貰えないの?」
「言ってるんだけどね、流石によその事務所にそこまで強くは言えないわよ。ま、母さんも頑張ってくれてるみたいだけどね……」
「……ちょっと不謹慎だけど、片桐さんじゃなくて良かったね。あんまり免疫なさそうだから、騙されちゃいそうで恐いよ」
「……そうね。確かにそう。私や葉月ならともかく、やよいには近づけさせられないわね」
謙哉の言う事はもっともだと言うように頷く玲。女の勘ではあるが、東海林ならやよいを手玉に取る事位朝飯前だろう。
(絶対に会わせられないわね。やよいにも注意しておこう)
そう固く彼女が決心したときだった。
「お邪魔するよ、玲ちゃん!」
休憩室のドアがいきなり開き、東海林が入って来たのだ。驚く謙哉と悠子を尻目に玲に近づいてきた東海林は、なれなれしい口調で彼女に話しかけてきた。
「ね~、頼むよ玲ちゃ~ん! あのシーンにはキスが絶対必要だって~!」
「……事前の取り決めでキスシーンは無しと決まっているはずです。事務所からの指示もあります」
「でもさー、そっちの方がドラマの完成度もあがるしさ。ちょっと位良いじゃん! するだけだしさ、お願い! ね?」
「お断りします。どうしてもキスシーンが必要だと思うのならば監督に言って、事務所に正式に要求してください」
どこか不快感を感じる喋り方をする東海林に対して淡々と接する玲。さっさと会話を切り上げてしまいたいと願う彼女だったが、何を思ったのか東海林は玲の頬に手を添えてきた。
「っっ!?」
ゾクリとした震えを感じる玲、無論この震えは不快感から来るものだ。しかし、そんな事も察せ無い東海林は彼女に対して彼なりのキメ顔と甘い声で迫ってくる。
「やっぱキスを嫌がるのって、ファーストキスがまだだから?」
「な、何を……!?」
「はは、そうなんだ……。玲ちゃんって意外と恋愛に憧れを抱いているんだね。可愛いなぁ!」
ゾワリと鳥肌が立つ。どんなイケメンにやられようが、相当好意的な印象を抱いていない限りこんな事をされても不快になるだけだ。
「じゃあさ、一回俺とキスしてみようよ。そうすればきっと大丈夫だって……!」
ドラマの役の様な強引な振る舞いで玲に迫る東海林。どうやら本気で玲とキスをしようとしているらしい。
その行動に我慢の限界を感じた玲が東海林を一発ぶん殴ってしまおうかと思った時、謙哉が助け舟を出してきた。
「あのー……子供の前でそういう事は良くないと思うんですけど……」
「……あぁ、何? こっちが良い雰囲気なの見てわかんない?」
どこが良い雰囲気だと言いかけた玲だったが、それよりも早く東海林の疑問の声が謙哉へと投げかけられた。
「いや、それよりもお前誰よ? ここは関係者以外立ち入り禁止なわけだけど?」
「私の友人です。ここへは私が呼びました」
「へぇ、玲ちゃんのねぇ……ふ~ん……」
何処か馬鹿にした声を上げながら東海林が謙哉を見る。ジロジロと不快感を催す視線で謙哉を眺めた後、いきなり笑い始めた。
「なんつーかさ、地味だね! ぱっとしないって言うか、もてないでしょ?」
「え、ええ、まぁ……」
「駄目だな~! 君みたいな奴を好きになる女の子が居たら見てみたいよ!ねえ、玲ちゃん!」
ここに居る、と言おうとした玲はその言葉をギリギリで飲み込んだ。と言うより、東海林に対する怒りの感情で声が詰まったのである。
初対面の自分の友人を馬鹿にするその態度が非常に気に食わなかった。やっぱり一発殴ろうと思った玲だったが、気分が乗っている東海林はなおも謙哉に続けて罵声の言葉を投げかけ続ける。
「俺さ、もしかして君が仮面ライダーなんじゃないかって思ってたんだけど……ちがうよねー? だって君みたいなのがカッコいいヒーローな訳が無いもんね!?」
東海林のその言葉に謙哉に耳を塞がれている悠子も表情を曇らせた。どうやら彼の大きな罵声は謙哉の手をすり抜けて彼女の耳に届いてしまったらしい。
悠子のその表情には悲しみと怒りが篭っていた。それもそうだ、謙哉は自分を救ってくれた恩人であり、悠子にとってみればヒーローと呼ぶほか無い存在だ。そんな彼を馬鹿にされて良い気分になる訳が無い。
「でもおっしいな~! 俺がアイドルじゃなくって仮面ライダーやってたら、きっとすげーもててたんだろうなー!」
「カッコ良く化け物を倒してさ! クラスメイトの女の子たちからキャーキャー言われるの! それで、子供たちからも憧れちゃったりしてさ~! ……あ、憧れられられてんのは今も同じか!」
子供たちからの憧れも女子からの好感度も現在進行形で急降下させながら東海林は語り続ける。とりあえず玲は殴る回数を悠子と謙哉の分も合わせた三回にしようと決意した。
「いや、あの……無理だと思いますよ、あなたには」
「……は?」
だが、玲が東海林に反撃を開始する前に謙哉が発した一言で場の空気が凍りついた。マリアンの必殺技並に冷たい雰囲気の中、明らかに機嫌を害した東海林が謙哉に詰め寄る。
「何? 嫉妬? 俺みたいにカッコ良くねーからって口ごたえですかぁ~?」
「……確かにあなたはカッコ良いと思います。でも、ヒーローに必要なのはカッコ良さじゃあないと思うんです」
「はぁ……?」
「僕の知る仮面ライダーたちは、何かを守る為に戦ってます。そこに褒められたいとかもてたいとか、不純な動機はありません。皆の為に必死に恐い戦いを続けてるんです」
「たとえ相手がデータの存在だとしても、誰かを傷つける事って良い気分はしないですよ。それを楽しんだら、もうヒーローとしての資格は無いと思うんです」
「だからあなたには無理です。あなたが何かの拍子で力を手に入れても、ヒーローにはなれません。絶対に」
怒りが篭っているわけでもなく、ただ淡々と自分の考えを述べていく謙哉。その様子に東海林は何も言えなかった。
「……まあ、なんの変哲もない地味な僕の意見なんですけどね。気分を害されたら申し訳ないです」
最後に笑顔でそう締めくくると、謙哉は照れたように頭を掻いた。そんな謙哉に対して、やっぱり東海林は何も言えないままであった。
「謙哉お兄ちゃん、仮面ライダーって恐いものなの?」
「……ん?」
「お兄ちゃん、さっきそう言ってたから……」
聞こえてしまっていたかと謙哉は心の中で舌打ちをした。もう少しちゃんと悠子の耳を塞いでおくべきだったと反省しつつ、彼女の目を見る。
「……そうだね、恐いと言えば恐いよ。悠子ちゃんはお友達と喧嘩したことはある?」
「うん……すごく悲しくなったよ……」
「その気持ちがずっと続くんだ、それで、相手とは仲直り出来ない。そういう事をずっと続けてるんだよ」
「……じゃあ、何で辞めないの? さっきのお兄さんが言ってたみたいに、誰かに褒められたいから? 恐いんじゃないの?」
泣き出しそうな悠子の目を見ながら、謙哉は優しく微笑んだ。そして、目線を彼女に合わせる為にしゃがむと、頭を撫でながらこう告げる。
「嫌だよ、恐いよ。本当はすぐにでも逃げ出したい。でも、僕には戦う理由が2つあるんだ」
「理由って、何?」
「一つ目は、僕が戦いから逃げ出したら、僕の代わりに仮面ライダーとして戦わなきゃいけない人が出てくる。もしかしたらそれは悠子ちゃんかもしれない」
「私が……?」
「……誰かはわからないよ。でも、その人が今の僕と同じ恐さを感じる事になるとしたら……そんな事させたくない。だから、僕は逃げないんだ」
そっと、謙哉は自分の拳を左胸に押し当てる。心臓の鼓動を感じながら、ようやく収まった痛みを思い返す。
オールドラゴンを使った反動で受ける激痛、それがどれだけ危険なものなのかも理解はしていた。
だが、誰かの命を守る為に力が必要なら使うしかない。それがどんなに危険な力であったとしても……
「……お兄ちゃん、もう一つの理由はなんなの?」
「ん? ああ、それはね……」
それならきっと笑顔で言える。謙哉は親友の事を思い浮かべながら悠子に告げた。
「一緒に戦ってくれって友達から言われたからね。だから、僕はその友達と一緒に最後まで戦うよ。一人じゃないから、だからどんなに恐くても戦えるんだ」
「……お兄ちゃん」
「ほらほら、泣かないの! 可愛い顔が台無しだよ? あっちで水無月さんがドラマを撮影してるから、見ておいで」
涙を浮かべる悠子を笑顔で励まして玲の元へと送り出す。涙を拭って駆け出して行った悠子の後ろ姿を見送りながら謙哉は思う。
(……後悔なんかしないよ。どんな結末を迎えたって、僕は……)
それは悲壮な決意であり、謙哉の優しさの表れでもあった。ゆっくりと目を開き、自分もまた悠子たちの元へと歩きだそうとした彼の背中に声がかけられる。
(あんま気張んなよ。片意地張ったって碌な事無いぞ)
「え……?」
振り返れば、背後にあった柱の影から誰かの後ろ姿が見えた。自分に声をかけてきたその人物に謙哉が近づこうとした時だった。
「きゃーーーーっ!!!」
響く女性の悲鳴と破壊音に謙哉が振り返る。なんかただならぬ事が起きていると察知した謙哉は、急いで声のした方向へと向かって駆け出して行った。
<オルフェノク……!>
謙哉が現場に辿り着いた時に見たのは、あの白いエネミーがカードを使用して灰色の化け物になる姿だった。
巨大な両腕の爪を振り回すドラゴンオルフェノクへと変貌したエネミーを見ながら、謙哉は腰からドライバーを取り出す。
(おい、ちょっと待てよ。本気で戦うつもりか? 戦いは恐いってお前がさっき言ったんだろ?)
「……ああ、そう言ったよ。それは本心さ、戦うのは恐い、戦いたくなんか無いよ」
(そうだろ? それに、どんなに飾ったって誰かを傷つける事は罪だ。お前はそれがわかってんのか?)
「わかってるよ! でも、それでも……」
聞こえる声に叫び返すようにして返事をする謙哉。視線の先ではドラゴンオルフェノクが人を蹴散らしながら悠子と彼女を庇う玲へと距離を詰めている。
「お兄ちゃん、助けてっ!」
悠子の叫びが木霊する。もしここで自分が躊躇っていれば、きっと二人はオルフェノクに殺されてしまうだろう。それだけでは無い、沢山の人の命が奪われ、傷つく事になる。謙哉はその結果生み出される悲しみを思いながら叫んだ。
「恐いよ、逃げたいよ、迷うこともあるよ! でも……それでもっ!」
「迷ってる間に誰かが傷つくなら、命が消えていくって言うのなら……僕はもう迷わない! 全部の罪を背負って戦ってやる!」
ドライバーを装着し、駆け出す。決意を固めた謙哉の手に光が灯っていく。
(……俺には夢は無い。でも、何かを守ると決めた奴に手を貸すことは出来る……お前は、俺と同じ末路を迎えんなよ)
ぶっきらぼうだがどこか温かみを感じる声が最後に残したのは、謙哉に対する激励の言葉と一枚のカードだった。謙哉は走りながら出現したカードをドライバーへとリードし、変身する。
「変身っっ!!」
<555! CHANGE NUMBER! GO! GO! GO!>
謙哉の体を縁取る様にして伸びる赤いライン。それが人の形を作り上げた時、大きく光が弾けた。
「たぁぁぁぁっ!!!」
光を放ちながら跳躍、そのまま飛び蹴りを食らわせてオルフェノクを吹き飛ばす。立ち上がったドラゴンオルフェノクが見たのは、黒のスーツに赤いラインが入った鎧を身に纏ったイージスの姿だった。
「それは……555かっ!?」
唸り声と共に駆け出すオルフェノク、謙哉はそれを待ち構えるとカウンター気味の拳をオルフェノクの腹へと繰り出す。
「がふっ!?」
「てえやっ!」
見事にヒットしたその一撃の後で回し蹴りを食らわせると、そのまま右手に出現した携帯電話を変形させてオルフェノクへと向けた。
<ファイズフォン! シングルモード!>
引き金を引いてレーザービームを発射する謙哉。長く伸びた光線を受け、オルフェノクがよろめく。
<バーストモード!>
モードを切り替えた謙哉は再び光線を発射する。今度は短めの光線を三連発で放つバースト撃ちで連射し続けながら、謙哉は相手との距離を詰めて行った。
「がっ、ぐっ、ぬおおっ!!!」
苦し紛れの一撃も謙哉には当たらない。大きく頭上を飛び越えながら連続してレーザーを浴びせかけると、ドラゴンオルフェノクはその場に膝を付いた。
「お、おお……おあぁぁぁぁぁっ!!!」
ドラゴンオルフェノクが咆哮する。怒りを青い炎へと変換させたオルフェノクは、それを謙哉ではなく玲と悠子の居る方向へと発射した。
「悠子ちゃん、危ないっ!」
「きゃぁぁぁぁっ!!!」
迫る炎に悠子が叫び、玲が彼女を守ろうとする。しかし、その炎は二人に届くことは無かった。
<START UP!>
555の能力を発動させた謙哉が超高速で二人と炎の間に入り込むとその勢いのまま炎を薙ぎ払ったのだ。中心を突き抜ける拳の威力に消し去られた炎が完全に消滅する前にドラゴンオルフェノクへと接近した謙哉は、そのまま相手を空中へと蹴り上げた。
(……誰かに褒められたいわけでも、認められたい訳でもない。僕は、ただ……)
そのまま自分も空中へ跳ぶ。超高速移動出来る制限時間は残り4秒、決着を付けるには十分すぎた。
(皆を守るために戦うだけだっ!)
<必殺技発動! アクセルクリムゾンスマッシュ!>
謙哉だけに聞こえる電子音声、玲も悠子も、そしてドラゴンオルフェノクでさえも何が起きているのかを理解出来てはいない。
空中に浮かぶ赤いレーザーポインター、それらを一つ一つ潜りながら謙哉は必殺のライダーキックを繰り出す。
10、20もの回数の飛び蹴りを一瞬の間に受けたドラゴンオルフェノクは空中で青く燃え上がると灰になり、最後には光の粒へと変貌して消えて無くなった。
<TIME OUT>
「……あれ?」
自分に向かってきた炎の熱さが消えた事に疑問を抱いた悠子は目を開く。そして、彼女は見た。
肩で息をしながら拳を握り締める謙哉の……自分たちを守ったヒーローの姿を……
「……同じ末路、ってどういう意味だ……?」
だが、謙哉は誰かを守った事を誇るわけでもなく、自分にかけられた声の真意を探ろうとしている。悠子にはなぜか、その姿が痛ましく思えた。
仮面ライダー555……別世界の戦士である彼の事を、謙哉は知る由も無い。彼もまた誰かを守るために戦い、命を燃やした。いや、燃やし尽くしたのだ。
自分と同じ終わりを迎えぬ様、忠告に来たぶっきらぼうな優しい戦士の言葉の意味を謙哉は理解出来ないまま考え続けていた。
―――NEXT RIDER……
「泣いたって叫んだって逃げたって……今は嘘にはならねぇよ。だから、自分に胸を張れるように生きるしかねえんだ」
「誰も誰かの運命を決める事なんてしちゃいけねえんだ! もしお前の手に誰かの運命があるって言うのなら、俺がそれを奪い返してやる!」
次回、『目覚めよ、その魂』