仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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熱戦!VSクジカ&パルマ!

「うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 クジカの双剣に切り裂かれた生徒が吹き飛びながら悲鳴を上げる。地面に倒れ伏して呻くだけのその生徒をちらりと見た後、クジカは次の獲物を捉えるべく走り出す。

 

「くそっ! クジカ、俺と戦えっ!」

 

 次々とクジカに傷つけられていく仲間たちを見ながら光牙が叫ぶ。自分ではなく、クジカと戦う力のないA組の生徒たちを狙って攻撃を仕掛けてくる相手に向かってエクスカリバーを振り上げながら迫って行く。

 

 しかし、そんな光牙の攻撃には目もくれずに動くクジカは、また一人の生徒を蹴り飛ばして仕留めた。

 

「くそっ! 何故だ!? 何故俺と戦わない!? 負けるのが恐いのか!?」

 

「ふん……何を勘違いしている、雑魚め」

 

 光牙の挑発に面倒だとでも言う様に答えたクジカは、ようやく彼と向き直った。そして、侮蔑する様な視線を向けながら口を開く。

 

「貴様など何時でも始末できる。まずは邪魔な小蝿どもを始末しなければ煩くてかなわんというだけの話よ……」

 

「なんだと……!?」

 

 光牙を舐め切ったその態度に怒りが募る。光牙は強く剣を握り締めると、怒りの感情を爆発させながらクジカへ突進した。

 

「そこまで言うなら俺を倒してみろっ! 俺だって、そう簡単に負けるわけにはいかないっ!」

 

 宙へ飛び上がり、落下の勢いを生かした振り下ろしを繰り出す。会心の一撃、光牙はそう思っていた。

 

「……ふん、彼我の実力さも理解できん愚か者めが」

 

「えっ……!?」

 

 だが、クジカはその一撃を左手の剣で振り払い、容易く光牙の体勢を崩す。そして右手の剣での斬撃をがら空きになった光牙の胴へと繰り出した。

 

「が、はっ……!」

 

 胴を切り裂かれる痛みに呻き声を漏らす光牙。地面を転がり、体の斬られた箇所を手で押さえる。

 

 文字通り、レベルの違う一撃だった。速く、重く、鋭い……ただでさえ皆とのレベル差がある光牙には、魔人柱の相手は荷が重すぎたのだ。

 

「……少しは相手になるとでも思ったか? よもや俺に勝てるかもしれないと思ったわけではあるまいな? なんとも傲慢、愚かなり」

 

「ま、だだ……俺は、俺はっ……!」

 

 よろめき、ボロボロになりながらも光牙は立ち上がる。負ける訳にはいかない、自分が勝たなければ、A組の皆の命が危ないのだ。

 

 しかし、そんな彼に付き合ってはいられないと言うようにクジカは光牙に背を向ける。そして、反対側にいた生徒に狙いをつけて駆け出した。

 

「ひ、ひいっ!?」

 

「やめろぉぉぉっ!!!」

 

 クジカに狙われた女子生徒が短い悲鳴を上げる。光牙はただ、その光景を見ることしか出来なかった。

 

 振り下ろされる刃、かわすことに出来ないその一撃を涙を浮かべた目で見つめる女子。鮮血が舞い、一つの命が奪われるかと誰もが思ったその時だった。

 

「させるかよっ!!」

 

「ぬうっ!?」

 

 叫び声と共に甲高い金属音がその場に響く。自分と女子生徒の間に入ってきた黒い人影を見たクジカは、苦々しげな声で呻いた。

 

「貴様は……あの時の奴か!?」

 

「ジャパンTV以来だな、こっからは俺が相手してやるぜ!」

 

「ぬかせ、小童がっ!」

 

 怒りの叫びと共に繰り出されるクジカの双剣の乱舞。目にも留まらぬスピードで繰り出される斬撃を何とか防いだ勇は、そのまま大きく後退してクジカと距離を取るために大きく後ろへ跳び上がった。

 

<ディスティニー! シューティング ザ ディスティニー!>

 

「これでも食らいなっ!」

 

 跳びながらガンナーディスティニーへとフォームチェンジした勇は、着地と同時に引き金を引く。マシンガンモードの細かな弾丸がクジカへと飛び、無数の弾幕を張った。

 

「ちょこざいな! こんなもので俺を止められるとでも思ったか!?」

 

 だが、クジカは怯まない。飛び交う弾丸を双剣で切り払い、まっすぐに勇へと接近して行く。

 

 猛スピードで勇との距離を詰めるクジカは、あっという間に攻撃の間合いに入って双剣を振り上げる。そのまま勇目掛けて攻撃を繰り出そうとした彼だったが、何かが唸りを上げて飛んで来る音を耳にしてその動きを止めた。

 

「ぐうっ!?」

 

 ガキッ! と自分の横っ腹に何かがぶち当たった音がした。同時に焼ける様な痛みと衝撃が体を襲い、クジカは体勢を崩してよろめいた。

 

「おらよっ、こいつも喰らってけっ!」

 

<必殺技発動! クライシスエンド!>

 

「ぐっ……ぬぅぅぅぅぅぅぅっ……!」

 

 追い討ちをかける様に発射された勇の必殺技を剣で防ぐクジカ。だが、その勢いを殺しきれずに大きく後ろに吹き飛んでしまった。

 

「よしっ! 作戦成功だぜ!」

 

「光牙っ、大丈夫!?」

 

 時間を稼ぐことに成功した真美と櫂が光牙に駆け寄る。先ほどのクジカの不意を突いた攻撃は二人が仕掛けたのだ。

 

 勇がクジカの気を惹き、隙が出来た所で二人が不意打ちを仕掛ける。シンプルながら十分な効果が期待出来るこの作戦を成功させた勇たちは、今が好機とばかりに撤退を開始した。

 

「負傷者には手を貸してあげて! 急いで後続部隊と合流するのよっ!」

 

「走れーーっ! 死ぬ気で走るんだーーっ!」

 

 真美が光牙に肩を貸しながら走る。櫂は先頭に立って敵を蹴散らし、皆が進む道を切り開いていた。

 

「ぬぅぅ……っ! この俺が貴様らをこのまま逃がすと思うかっ!?」

 

 撤退を開始したA組の後ろ姿を見ながら立ち上がったクジカが叫ぶ。部下のエネミーたちに指示を出し、追撃戦を開始しようとするクジカ。しかし……

 

「ギゲェェッ!!!」

 

「グギャァァァッ!」

 

 A組の背を追うエネミーが数体撃ち抜かれた。光へと還りながら消滅するエネミーの向こう側では、銃を構えた勇が得意げにこちらを見ている。

 

「……そう簡単に追わせてやると思ったか?」

 

「ぬ、ぐぅ……っ!」

 

 そう自分を挑発する勇の行動に、クジカは怒りを募らせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、勇たちと時を同じくして、謙哉もまた激闘を繰り広げていた。相手はクジカと同じ魔人柱の一人、怠惰のパルマだ。

 

「ふっ、はぁぁっ!」

 

 パルマが両手から光輪を放つ。切れ味抜群のその攻撃は謙哉を追尾し、当たるまで追ってくる物だ。しかし、自分に迫る光輪を見る謙哉の表情には焦りの色はまったく無かった。

 

「せいやぁぁっ!」

 

「なっ!?」

 

 謙哉は両腕に生えた巨大な爪を振るい、迫る光輪を迎え撃った。鋭いその爪の一撃はいとも容易くパルマの攻撃を打ち砕き、粉々にする。

 

 その光景に驚くパルマ目掛けて急接近した謙哉は、もう一度爪を振るってパルマを切り裂く様に攻撃を仕掛けた。

 

「ぐっ、っっ……!」

 

 謙哉の攻撃を両腕を交差することで防ぐパルマ。しかし、その痛みは激しく、腕には大きな爪痕が残っていた。

 

(……まさか、これほど強力な力を隠していたとは……!)

 

 素直に計算外の相手の実力を認めるパルマ。恐らく、今の自分では謙哉には敵わないだろう。

 

 そのことを察知したパルマはすぐに次の行動に移る。空中を舞う謙哉を見ると、そのまま両手を開いて彼に言った。

 

「なかなかやるね。じゃあ、僕もとっておきを見せてあげるよ」

 

 パルマの手に再び光輪が出現する。しかし、今度は2つでは無かった。

 

 出現した光輪がいくつにも分裂し、数十の数へと膨れ上がったのだ。その全てを自分の意のままに操るパルマが謙哉を指差すと、全ての光輪が謙哉目掛けて猛スピードで突撃して行った。

 

<必殺技発動! パトリオット・リング!>

 

「さぁ! この技をしのげるかな!?」

 

 先ほどの攻撃同様に追尾性を持った無数の光輪が謙哉に迫る。一つ一つ切り払っていてはきりが無いと判断した謙哉は、必殺技を使うことを決心した。

 

<ドラゴウイング! フルバースト!>

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

 

 謙哉の背に生える翼に青い光が篭って行く。その光が最大限に輝きを増した瞬間、謙哉は翼を大きくはためかせた。

 

<必殺技発動! ブラストウイング!>

 

「これで……吹き飛べぇっ!」

 

 翼の羽ばたきが起こす突風は竜巻となって光輪を包んだ。巻き起こる風の勢いに負けた光輪は砕け散り、消滅して行く。

 

 そのまま竜巻は地面にいたパルマへと襲いかかった。真っ直ぐに地面へと伸びて行った旋風がパルマを包み、その姿を覆い隠す。

 

 地面を舞う砂埃、周囲を襲う衝撃……その全てを上空から見ていた謙哉は、視界が晴れるまでその場に留まり続けた。

 

「……なかなか楽しかったよ。でも、次はこうは行かないからね……?」

 

「っっ!?」

 

 遠くぼんやりと聞こえたその声を耳にした謙哉が次に見たのは、砂埃と竜巻が去って晴れた視界に映る何も無い地面だった。どうやらパルマは逃げ出したらしい。

 

「くっ……まんまと逃げられたか……!」

 

 地面に着地し、変身を解除する謙哉。パルマの撃退には成功したが、まだ勇たちは戦いを続けている。急ぎ戻って援護しなくては……そう考えた彼は走り出そうとしたが、急に表情を歪めて苦しみだした。

 

「ぐっ……! こんな、時に……っ!」

 

 急ぎポーチに手を突っ込み、水と天空橋から渡された薬を取り出す。それを一息に飲み込むと、確かに痛みは軽減された。

 

 だが、すぐに動ける様な痛みでは無い。仲間の元へと駆けつけられない事に悔しさを感じながら座り込んだ謙哉は、親友たちを信じてしばしの休息を取る事にし、目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光牙さん! よくぞご無事で……っ!」

 

「すまないマリア、今は話している暇は無いんだ。急いで回復を頼む!」

 

「は、はいっ!」

 

 同時刻、何とか後方に展開していた部隊と合流を果たした光牙たちは、マリアに頼んで怪我の回復を行っていた。 真っ先にマリアの治療を受けた光牙は勢い良く追撃を仕掛けてくるエネミーの集団へと駆け出す。

 

「今度こそっ……今度こそはっ!」

 

 迫る雑魚エネミーを斬り伏せ、目標であるクジカへと接近する光牙。先ほどのリベンジを果たすべく斬りかかった光牙をクジカは舌打ちと共に迎え撃つ。

 

「また来たのか、お前にかまっている暇などないと言うに!」

 

 双剣を振るって光牙を攻撃するクジカ。エクスカリバーでその斬撃を凌ぐ光牙だったが、嵐の様な剣劇を捌き切れずに胴に剣を受けてしまう。

 

「ぐわぁっ!!!」

 

 光牙は痛みに悲鳴を上げながら退く。その隙を突いてトドメを刺そうとするクジカだったが、間に入ってきた勇にそれを邪魔されて苦々しげな表情を見せた。

 

「無理すんな光牙っ! 魔人柱相手に一人で戦おうなんて無茶だぜ!」

 

「黙っていてくれ龍堂くん! 俺は、こいつを倒さなきゃいけないんだ!」

 

 光牙を案じ、連携を取ろうとする勇。しかし、光牙はそんな彼の忠告を無視してクジカへと再び挑みかかって行く。

 

 連携も何も無いその行動はすぐさまクジカに見切られ、勇と光牙は彼の持つ二本の剣のそれぞれに斬られて吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐぅっ……!」

 

「がっ、はっ……!」

 

「勇さんっ! 光牙さんっ!」

 

 後ろから聞こえるマリアの叫びを耳にしながら光牙は立ち上がろうとする。しかし、元々傷ついていた体を応急処置しただけの彼には、それだけの力が残っていなかった。

 

「ぐっ……!?」

 

 呻き、地面に膝をつく。言うことを聞かない体に鞭打って、光牙は戦いへと戻ろうとする。

 

(負けるわけにはいかない! 俺は、勇者なんだっ!)

 

 地面に剣を突き刺し、それを杖代わりに立ち上がろうとする光牙。そんな彼の隙を見逃さずに攻撃を仕掛けてきたクジカだったが、真横から飛び出してきた赤い影に気を取られて固まってしまう。飛び出してきた赤い影……櫂は、動きを止めたクジカに渾身の一撃を叩き込んだ。

 

<必殺技発動! パワードダックル!>

 

「おおっしゃぁぁぁぁっ!」

 

「ぬおぉぉぉっ!?」

 

 ダンプカーよろしく突っ込んできた櫂の必殺技を真正面から喰らったクジカは凄まじい勢いで吹き飛び、地面に叩きつけられた。それでもまだ戦おうとするクジカに対して構える櫂の隣に勇が並ぶ。

 

「手を貸せ、筋肉ダルマ! 連携してあいつを倒すぞ!」

 

「けっ! 気にいらねえかが、仕方がねえ!」

 

 立ち上がったクジカに対してそれぞれの得物を持った勇と櫂が駆け出して行く。二人を迎え撃つクジカは双剣を振るい、防御の構えを取った。

 

「うっ……らぁっ!」

 

「どらぁぁっ!」

 

 勇の剣がクジカの防御をすり抜けて体を切り裂く、櫂の斧が防御に出された剣を打ち、クジカの腕を痺れさせる。

 

 連携と呼ぶにはあまりにも拙い、されど勢いは確かな二人の猛攻は、クジカを徐々に追い詰めて行った。

 

「これで……!」

 

「どうだぁっ!」

 

 ついにクジカの双剣を弾いた二人は、己の武器をがら空きになったクジカの体へと思い切り振るった。Xの軌跡を残して繰り出された二人の斬撃は、クジカに大きなダメージを与え、よろけさせた。

 

「ぐっ……! やるっ!」 

 

「おっしゃあっ! これで終わりにしてやるぜ!」

 

<必殺技発動! ブーメランアクス!>

 

 弱ってきたクジカの姿を見た櫂がこれを好機と見て必殺技を発動する。渾身の力を込めて繰り出された斧は、空を切り裂きながらクジカへと迫っていく。

 

「舐めるなよ、人間っ!」

 

 だが、クジカも負けてはいない。双剣を巧みに扱ってその一撃を防ぐと、思い切り斧を弾き飛ばしたのだ。まだそれだけの力が残っていることに驚きながらも、櫂は素手で戦いを挑もうとする。

 

 しかし、それよりも早く動いたのは勇だった。ホルスターからカードを二枚取り出すと、その内の一枚をディスティニーソードへと使う。電子音声と共に、ディスティニーソードからは炎が噴き出した。

 

「これでも喰らいやがれっ!」

 

 そのまま剣を地面に突き刺す勇。剣から放たれる炎は地中を伝い、まるで間欠泉の様にクジカの足元から噴き出した。

 

「ぐおぉぉぉぉっ!?」

 

 体を焦がす炎の熱さに呻くクジカ。そんなクジカを見ながらも勇は次の行動を開始する。

 

 地面に突き刺さっているディスティニーソードにもう一枚のカードを使用すると、そのまま開いている手を上に向ける。まるでその行動を予期していたかの様に、手の中には櫂の投げたグレートアクスが落ちてきた。

 

「あっ! てめえ、それは俺の武器だぞ!」

 

「へっ、ちょっと借りるぜ!」

 

<フレイム! スラッシュ!>

 

<必殺技発動! バーニングスラッシュ!>

 

 剣と斧、同じカードを使われた二つの武器からは電子音声が同時に鳴り響き、これまた同じ必殺技が発動された。燃え盛る二つの武器を手に持った勇はクジカへと接近し、ディスティニーソードとグレートアクスを振るう。

 

「はぁっ! おりゃあっ!」

 

「ぐっ! うおぉっ!?」

 

 一本目の剣をディスティニーソードで、二本目の剣をグレートアクスで吹き飛ばす。燃え盛る武器たちを頭上へと振り上げた勇は、勢い良くそれをクジカの脳天へと振り下ろした。

 

「これで、終わりだぁぁぁっ!」

 

「ぬぅぅぅぅぅっ!?」

 

 自分へと繰り出された必殺の一撃をすんでのところで回避するクジカ。しかし、完全に避け切ることは出来ず、胴体を燃え盛る斬撃が襲う。

 

 決して浅くは無い傷を負わされたクジカは大きくよろめきながら後退すると、鋭く勇を睨みながら怒鳴った。

 

「貴様……! 貴様、貴様、貴様ぁっ! 許さぬ、決して許さぬぞ……! この屈辱、必ずや晴らして見せる!」

 

 憎々しげに吐き捨てながらクジカは手の平から黄金の光線を飛ばす。勇と櫂がそれを回避している内に更に大きく後退したクジカは、完全に戦線から離脱してしまった。

 

「あの野郎! 逃げやがった!」

 

「待て、追うんじゃねえ! 今はこの町を制圧することが先決だ!」

 

「そうよ櫂! さっき無理に追撃してピンチになったのを忘れたの!?」

 

「ぐっ! ぬぅぅぅっ……!」

 

 逃げたクジカを追おうとした櫂だったが、それを勇と真美の二人に制止されてその足を止める。まだ戦いは終わっていない、本来の目的であるこの町の開放をしなければならないことを思い出した彼は、地団太を踏みながら手近なエネミーへと殴りかかって行った。

 

「……良し、マリア! 光牙の治療を頼む! 他のA組のやつらもな!」

 

「わかりました! さあ、光牙さん、私に掴って下さい」

 

「あ、あぁ……」

 

 戦う櫂の姿を見ていた光牙は、マリアの肩を借りて戦線から離脱しようとしていた。彼に近づいた勇は、その背中に向けて労いの言葉をかける。

 

「光牙! お前が粘ってくれたから俺は間に合った! A組のやつらを救ったのはお前だって事、忘れんなよ!」

 

 勇のその言葉は確かに光牙に届いたが、彼はなんの反応も示さないまま、その場から立ち去って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……うぅっ……」

 

「痛い……痛いよぉ……っ!」

 

 戦場から少し離れた救難所に辿り着いた光牙は、そこで繰り広げられている惨状に目を覆った。そこでは、A組のクラスメイトたちが痛みに呻きながら怪我の治療を受けていた。

 

 クジカに斬られ、体から血を流す者がいた。エネミーに殴られ、胸を押さえて痛がる者もいた。

 

 親しい友人たちが傷ついた姿を目の当たりにした光牙は悔しさを覚えながらただ俯く。その胸の中は自分の不甲斐なさを責める気持ちでいっぱいだった。

 

(すべて俺の責任だ……すべて、俺の……っ!)

 

 自分の考えが浅はかだった故に仲間たちは傷ついた。自分が弱かった故に仲間たちを守れなかった。

 

 そして、自分は何も出来なかった。クジカを倒すことも、町を開放するための作戦を指揮することも、何も出来なかったのだ。

 

 光牙はそれが悔しかった。自分が出来なかったそれを行ったのが勇である事がその悔しさに拍車をかけた。体の痛みを忘れてしまうほどの心の痛みに、光牙はただ嗚咽を漏らして呻くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何とか終わったか」

 

 虹彩学園の教室の中、慌しい一日を思い返しながら勇は一人呟く。

 

 当初の目的通り、ガグマに制圧されていた町の一つを開放することには成功したが、決してこちらの被害も軽くは無い。だが、魔人柱二人と戦ったと考えれば決して甚大な被害だとも言えないだろう。少なくともミギーと戦った時よりかはましだ。

 

「俺たちは順当に強くなってる……! このまま行けば、ガグマだって……!」

 

 確かな手応えを感じた勇が拳を握り締め、笑顔を浮かべる。レベルが上がったと言うことだけでは無く、戦いの経験を積んだ事によって個々の技術や集団の連携が取れる様になって来たのも確かだ。

 

 条件さえ整えばガグマにも勝てるかもしれない……勇がそんな希望を思い浮かべた時だった。

 

『いや、まだ早いな……』

 

「えっ……!?」

 

 自分以外誰もいないはずの部屋の中に響く声、聞き覚えの無い男の声に驚いた勇は周囲を見渡すも、やはり自分以外の人影は見えない。

 

「だ、誰だ……? 俺の空耳か……?」

 

『いいや、聞き間違いなどではないさ。私はここにいる』

 

 再び聞こえた男の声が自分のすぐ傍から聞こえる事に気がついた勇は自分の体をまさぐる。そして、自分の携帯電話が見た事の無い画面を映し出している事を見て取ると、それを机の上に放り投げた。

 

「な、なんだこりゃあっ!? 電話か……?」

 

『ふむ、そう考えると良いかもしれないな。私は君に話があってこうしているわけだ』

 

「い、いや、何なんだよお前? どちら様?」

 

『……ああ、そうか。まだ自己紹介をしていなかったな。失念していたよ』

 

 電話から聞こえる謎の男の声に警戒しながら話を続ける勇。顔も名前も知らない男とこうして話していると言うのはなんとも奇妙だと思っていた彼だったが、数秒後、電話の向こう側から信じられない言葉が聞こえてきた。

 

『……私の名はマキシマ。「機械魔王 マキシマ」だ』

 

「……は?」

 

 一瞬、相手の言っている事の意味がわからなくなる。勇はポカンとした表情で自分の携帯電話を見つめる。

 

 葉月たち薔薇園学園から繋がるソサエティ、SFワールドの支配者『機械魔王 マキシマ』。その名を名乗る人物が自分に電話をかけてきた。

 

『状況が理解出来なくて当然だ。しかし、私は君に忠告をしに来ただけだ。この言葉は信じて欲しい』

 

「は、はぁ……? そ、それで、俺に何を伝えようとしたわけで?」

 

 理解不能の状況のままに流された勇は、とりあえず相手の話を聞いてみようと思い相手の話の先を促した。この異質な状況の中で彼が何を話すのか興味があったからでもある。

 

 そんな軽めの勇の考えとは裏腹に、マキシマを名乗った人物は真剣な声色で勇へと忠告を投げかけた。

 

『……ガグマと戦ってはならない。奴には、まだ君たちの知らない恐ろしい能力がある』

 

 


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