仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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雷龍咆哮

「5分……? たったそれだけで私を倒すですって? ふざけるな!」

 

 謙哉の言葉にマリアンは憤慨した。ただの人間である彼が魔人柱である自分を見くびっていることに憤りを隠せなかったのだ。

 

 しかし、怒りのプレッシャーを放つマリアンに対して一切の遅れを見せないまま、謙哉は戦いの構えを取った。

 

「……悪いけど時間が無い。速攻で決めさせて貰う!」

 

 風を巻き起こしながら謙哉が翼をはためかせて飛び立つ。次の瞬間、マリアンとの間にあった距離を消失させて接近した謙哉のスピードに誰もが目を疑った。

 

「なっ!?」

 

 速過ぎる……マリアンの感想はそれしかなかった。鈍重な見た目に反したその瞬発力の高さに驚愕した彼女を襲ったのは、鋭い痛みだった。

 

「あぐっ……!」

 

 謙哉の両腕から生えた巨大な爪での一撃、すれ違い様に繰り出されたその攻撃をかわす事も防ぐ事も出来ないまま胴を切り裂かれる。

 

 空中で反転した謙哉はそのまま反対側の爪でもう一度マリアンを切り裂きながら上昇、今度は腰から生えた尾でマリアンを絡め取った。

 

「ああっ!?」

 

「はぁぁっ!」

 

 気合の雄たけびと共に尾を振り回す謙哉。マリアンは成すがままに地面や壁に叩き付けられる。

 

 地面にめり込み、壁を破壊しながら振り回され、最後に大回転した謙哉の勢いのまま放り投げられたマリアンは、痛みに呻きながら立ち上がった。

 

「ぐ、あ……こんな……こんな馬鹿な事がある訳が無い……! 私は、魔人柱よ……ただの人間に、こんな……」

 

 首を振り、現実を否定しながら巨大な氷弾を作り出すマリアン。己の全力を込めて作り出された必殺技を謙哉に向けて発射する。

 

<必殺技発動! ラストオブブリザード!>

 

「凍り付け! 仮面ライダーッッ!」

 

 巨大な氷弾が謙哉目掛けて飛来する。マリアンの必殺技は同格のミギーのエンヴィー・ダイナマイトと比較しても遜色無い威力を誇っていた。

 

「これでお前もお終いね!」

 

 勝利を確信しほくそ笑むマリアン。しかし次の瞬間、彼女のその笑みが文字通り凍りついた。

 

「はぁぁぁぁぁっっ!」

 

 謙哉全身に力が篭って行く。蒼のエネルギーを纏った謙哉が顔を上げると、両腕と頭部からそのエネルギーが放出された。

 

<ドラゴブレス! フルバースト!>

 

<必殺技発動! グランドサンダーブレス!>

 

 放たれる三本の蒼の光線、それはまっすぐにマリアンの放った氷弾へと伸び、その動きを静止させる。

 

 ぶつかり合う二つの必殺技、凄まじい威力を誇る技同士のぶつかり合いは周囲に相当な衝撃を放ちつつ続けられたが、やがて何かにひびが入って行く音が倉庫の中に響き始めた。

 

「そ、そんなっ!?」

 

 謙哉の放った光線がマリアンの氷弾を打ち砕いたのだ。雪ほどの大きさに砕け散った自分の必殺技の姿を見て愕然とするマリアンだったが、そんな彼女に謙哉の放った光線が直撃した。

 

「がっ! あぁぁぁぁっ……!」

 

 爆発と衝撃、自分の体を叩く未体験の痛みに叫びながらマリアンは吹き飛ぶ。壁に叩きつけられ、地面に転がったマリアンは大いなる屈辱と怒りを感じながら立ち上がった。

 

「あって良い筈が無い……。私は色欲のマリアン、ガグマ様の誇る最強の部下、魔人柱の一人よ! それが、こんなガキに負けるわけが……」

 

「……現実を認められないならそれでも良い。だが、お前には報いを受けて貰う。水無月さんの心を踏み躙り、弄んだ事への報いを!」

 

 冷ややかにマリアンに言い捨てながら謙哉が空中へ飛び立つ。大きく翼を広げた謙哉に対して、マリアンは最後の抵抗を試みた。

 

「ふざけるな! 私は、私はぁぁぁぁっっ!」

 

 繰り出される氷弾の雨、そのうちいくつかは謙哉の体に当たるも彼にたいしたダメージを与えている様子は無い。だが、それでもマリアンは攻撃を続ける。

 

「私は魔人柱だ! 強いんだ! お前なんかに……人間なんかにぃぃぃっ!!!」

 

「……もう黙れ、お前にかける慈悲は無い!」

 

<ファング! クロー! ブレス! ウイング! テイル! フルバースト!>

 

 ギアドライバーが謙哉の全身を強化するドラゴンのカードの力を全力で引き出す。牙、爪、翼、尾、そして息吹……その全ての力を最大限に高まらせた謙哉は、全力の必殺技を発動した。

 

<必殺技発動! オールドラゴン・レイジバースト!>

 

「さぁ、終わりにするよ!」

 

 空中で謙哉が翼をはためかせ、旋風を巻き起こす。その風にさらわれたマリアンは宙へと投げ出され、拘束された。

 

「あ、ああぁぁぁっ!」

 

 謙哉は叫ぶマリアンに接近しながら兜の角から雷撃を発射する。風の衝撃と雷の痺れを同時に受けたマリアンは、苦しさに一層大きな叫びを上げた。

 

「ぎ、ぎゃぁぁぁぁっ!!!」

 

「これで……トドメだっ!」

 

 左爪を光らせたイージスの斬撃がヒットする。そのまま回転した謙哉は、エネルギーが込められた左足を前に突き出し、マリアンの腹部を蹴り飛ばす。

 

「あ、ぐあぁぁぁぁっっっ!」

 

 そのまま直進、腹部に繰り出された必殺キックの衝撃を受け竜巻の中から飛び出したマリアンは、そのまままっすぐに地面へと落下して行った。

 

「あ、有り得ない……。こんな、こんなことが、あって良い筈がない……っ!」

 

 痛みに呻き、敗北感に打ちのめされながらマリアンは立ち上がる。しかし、それ以上の力は彼女には残っていなかった。

 

「認めない……私は、こんな結末を認めるわけには……」

 

「……マリアン、お前に言えることはたった一つだ」

 

「あ、ぐあ……」

 

 バチバチと体の中で弾ける火花を感じながらマリアンが謙哉を見る。怒りと哀れみを込められた眼差しに反発した彼女が何か言う前に、謙哉は彼女にかける最後の言葉を口にした。

 

「……お前の負けだ。お前は、人の怒りの感情を甘く見すぎたんだよ」

 

「あ、あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 最後の瞬間、体の中で弾けていた火花が爆発した事をマリアンは感じた。それと共に巻き起こる衝撃に体が崩壊していく。

 

(負けるはずが無い! 負けるわけが無いんだ! 私は、私は……っ!)

 

 最後の最後まで敗北を認められないまま、魔人柱 色欲のマリアンは光の粒へと還って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お答えください社長! 本当にこの病院に水無月玲さんが入院しているのですか!?」

 

「入院、と言うことはなにかご病気で?」

 

「芸能界引退の噂は本当なのでしょうか!?」

 

 翌日、玲が担ぎこまれた病院の前にはどこからか情報を聞きつけた報道陣が殺到していた。

 

 皆口々に園田に向かって質問を飛ばしながらマイクを向け、カメラを回している。その全ての人々に冷ややかな視線を向けながら園田は口を開いた。

 

「お引取り願おう。今はそう言った話をする場ではなく、病院や患者の方々にも迷惑がかかっている」

 

「な、何か一言だけでもコメントを!」

 

「くどい! 帰れと言っている! あの子を追い詰める様な真似は許さん、これは事務所の社長としてでも学園長としてでもなく、彼女の母親としての言葉だ!」

 

 園田がそう叫ぶと同時に警備員や彼女のボディーガードが報道陣を抑えにかかった。その中心を悠々と通り抜けて待機していた車に乗り込んだ園田は、玲の病室へと視線を向けた。

 

(……玲、お前の傷はきっと癒える……あれほどお前の身を案ずる友が居るのだ、その友に支えられ、お前はきっと立ち上がる事が出来るだろう)

 

(だからそれまでは私が守ろう。義理とは言え、私はお前の母なのだからな……)

 

 走る車の中で園田は目を閉じた。その表情は、どこか穏やかなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にごめんなさい。皆に迷惑をかけて……」

 

「そんなの言いっこなしだよ! 玲が戻ってくれたからオールOKだって!」

 

「本当に……本当に良かったよぉぉ……!」

 

「大げさよやよい。でも、ありがとうね……」

 

 顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくるやよいの頭を撫でながら玲が微笑む。検査の結果、特に異常は見受けられなかったとのことでしばらくすれば退院出来るだろうとのことであった。

 

「玲ちゃん、ディーヴァ辞めたりしないよね? 私達と一緒にアイドルやるよね?」

 

「ええ、そのつもりよ! ……もう、悩むのは止めにするわ。これからは前を向いて頑張っていく、そう決めたの」

 

「よっしゃー! ディーヴァ復活だーい! やっぱ玲がいないと突っ込みが足りないって言うか、やよいだけじゃ弄るの物足りないって言うかさ~!」

 

「ふふふ……そうそう、言っておかないとね」

 

 葉月とやよいから視線を外し、病室の扉の方を見た玲は、そこに居るであろう三人組みに向けて感謝の言葉を口にした。

 

「あなたたちもありがとうね。特にお人好しの男には感謝してるわ」

 

「そうだね! って言うか、謙哉さんのアレ凄かったね!」

 

「まったくだよ! あんな隠し玉があるなら言っておいて欲しかったな!」

 

 玲の言葉を皮切りに次々と投げかけられる言葉を耳にした謙哉は扉の向こう側で頬を掻いた。その様子を目にした勇とマリアがからかう様に笑う。

 

「凄かったぜ謙哉! まさか魔人柱をぶっ飛ばせる切り札があったとはな!」

 

「光牙さんたちも聞いたら驚きますよ! これからの戦いに向けて大きな戦力が加わりましたね!」

 

「あはは……そんな大したもんじゃないさ」

 

 仲間たちからの賛辞の言葉に照れた様に笑う謙哉。そんな彼に、追い討ちとばかりに玲の言葉が飛んできた。

 

「……お礼としてデートに付き合ってあげるから……私が退院するまでの間にプランを考えておくのよ?」

 

「「お、おおーーーっ!」」

 

 珍しく素直な姿を見せた玲のその態度に葉月とやよいの歓声が上がる。扉の向こうでは勇とマリアが謙哉に対して詰め寄っていた。

 

「良し、力を貸してやる。現役アイドルとのデートだなんて気合入れないとな!」

 

「女性目線の意見ならお任せください! もうバッチリとサポートさせて頂きます!」

 

「あ、いや、そんな、僕は……」

 

「どうすんの謙哉っち!? これは一生に一度有るか無いかの機会だよ!」

 

「玲ちゃんのこと、よろしくお願いします!」

 

「え、あ、ええっ……!?」

 

 いつの間にか病室から出てきた葉月とやよいにも取り囲まれ、謙哉は困り顔になってしまう。自分に向けられる期待のこもった視線に耐えられなくなった彼は、くるりと振り返ると駆け出してしまった。

 

「ちょ、ちょっとトイレ!」

 

「あ、逃げた!」

 

「ったく、しょうがねぇなぁ……」

 

 走り去る謙哉の後ろ姿を見送りながら勇たちが笑う。病室の中では玲もまた笑みを浮かべていた。

 

「……本当にありがとう、謙哉」

 

 小さくそう呟くと頬を染めた玲は、胸のときめきを隠すようにすっぽりとベッドの中に潜り込むと、幸せな気持ちのまま目を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐっ、っぅ」

 

 トイレの中、強く胸を抑えながら苦しみに歪んだ表情を見せた謙哉は鏡に映る自分の姿を見て苦笑した。

 

「はは……こんな姿は見せられないよね……っぅっ!」

 

 胸を締め付ける様な痛みに顔をしかめ、洗面台に手を付く。昨日から続くこの痛みにも慣れないなと思いながら、謙哉は深く呼吸を繰り返した。

 

「制限時間ギリギリまでの使用に必殺技の発動は二回、その内一回は全部盛りなんだからこの痛みも妥当か……」

 

 顔を洗った後で再び鏡を見る。もう少しここで休んでいかないと察しの良い勇には不調がバレてしまうかもしれないと判断した謙哉は、落ち着きを取り戻してきた胸の痛みに耐えながら懐のドライバーへと視線を落とした。

 

「多用は禁物……ってことかな? でも、僕は……あぐっ!」

 

 大地が揺れる感覚を覚えながらも謙哉は痛みに耐える。そうした後、すっくと立ち上がった謙哉は静かに呟いた。

 

「……でも、水無月さんが無事で良かったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女に絶望が舞い降りるまで、あと30日……

 


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