仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

4 / 100
電王編

 

 

 

 

「いや~、今日は晴れて良かったなぁ!」

 

「ええ! 希望の里の皆さんも喜んでいるんじゃないですかね?」

 

 夏のある日、養護施設「希望の里」へと続く道を勇とマリアが会話をしながら歩いていた。今日はこの間のチャリティーコンサートの事件に巻き込まれた為にディーヴァのコンサートが見れなかった子供たちの為に、わざわざ葉月たちが施設までやって来て歌を披露してくれることになっていたのだ。

 

 勇とマリアは学校が終わってすぐに施設へと赴き、飾りつけをする役目についていた。謙哉に三人を迎えに行く役目を頼んだ勇の子供たちと一緒の時間を過ごしたいと願っての行動だったが、彼にはもう一つの狙いがあった。

 

(な、なんとかこないだの一件を謝らねぇと……!)

 

 そう、つい最近のあの出来事。ちょっとした偶然が重なり合った結果、マリアのあられもない姿を見てしまった事をどうにかして謝らないといけないと考えた勇は、何とかマリアと二人きりになりたかったのだ。

 

 施設には後で光牙たちも来ると言う、もしも彼らにこの事がバレたら半殺しでは済まないだろう。その前にしっかりと謝っておかなくてはならないと考えた勇は、笑顔で話を続けながらその機会を探っていく。

 

「そ、そう言えばテスト、マリアは流石の成績だったな!」

 

「い、いえいえ! 勇さんこそ凄かったですよ!」

 

 この勇の会話のセレクトはちょっとした計算があっての事だった。テストの事から話を繋げ、自分の非礼を詫びる。会話の流れを上手く繋げてそこまでたどり着かせなければならない。

 

「でもやっぱりマリアの教えがあっての事だと思うぞ! 本当に助かったぜ!」

 

「そ、そうですか!? いや~、そう言われると照れますねぇ!」

 

 うふふふふ、と異様な大きさで妙な笑い方をするマリアを見た勇は背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。

 間違いなくマリアはこの話題を避けている……きっと、自分のしでかした行動を怒っているのだと感じていた。

 

(……で、でも、謝らなくちゃいけないよな!)

 

 今後の付き合いに亀裂を入れない為にもしっかりと禍根は絶っておくべきだ。固く決意した勇は顔を上げるとマリアへと向き直った。

 

「マ、マリア!」

 

「は、はひっ!?」

 

 いきなり大声を出されたことに驚いているマリアの顔を見つめながら勇はどうにかして謝罪の言葉を切り出そうとする。何とも言いにくい事だが、しどろもどろになりながらも直実に話を前に進めていく。

 

「あ、あの……この間の、あの事なんだけど……」

 

「あ、あの事って、あの事、です、よね……?」

 

「あ、ああ、あの事」

 

 しっかりと明言はしないまま二人の会話は続いて行く。だが、意思の疎通は出来ていると踏んだ勇はしっかりと謝ろうと口を開いたが……!

 

「この間のあれ、ほんと申し訳……うおっ!?」

 

「なんだぁ、てめぇ? いちいちアレだのソレだのまどろっこしい……!」

 

 目の前に居るマリアの様子が完全におかしい事に気が付いて口を閉じてしまった。勇はそのまままじまじとその姿を観察する。

 

 何とも不機嫌そうな表情、完全にイライラして顔で勇の事を睨みつけている。見間違いかもしれないが、いつもは青いマリアの瞳が真っ赤になっていた様な気がした。

 

 綺麗な髪も所々逆立ち、一部には赤いメッシュの様なものまで付いている。まるで某スーパーなサイヤ人の様なその変貌に勇は言葉を失ってしまっていた。

 

「男だったら言いたい事ははっきり言えっての! うじうじしやがって、気持ち悪い!」

 

「き、きも……っ!?」

 

「大体その面が気に入らねぇ! 理由はわからんが気に入らねぇんだよ!」

 

「き、気に入らない……!?」

 

「……ってか、この体動きづれぇ! やわっこいし、尻やら胸やらが妙に重いし……あ~、これならまだ良太郎の方がましだっての!」

 

「う、うう……」

 

 もう駄目だ、マリアは間違いなく自分に対して怒りを募らせているのだろう。勇はそう考えると地面にがっくりと跪く

 あの聖母の様なマリアにここまで言わせるとは自分はなんて罪深い人間なのだろう。あの筋肉ダルマですら自分よりましに思えてきた。

 

 絶望しきった勇はそのままぴくりとも動かないままに傷ついていた。この世の終わりを思わせるその姿を誰かが見ていたのならば、間違いなく理由を問い質すだろう。

 そんな事まで気が回らないままに呻いていた勇だったが、その肩を掴まれて必死に揺さぶられたことで顔を上げる。するとそこには涙目で顔をくしゃくしゃにしたマリアの姿があった。

 

「……あ、ああ! ち、違うんですよ勇さん! 私、そんな事言おうとしたわけじゃ無いんです! そんな事思って無いんですよ~!」

 

「え? あ? へ?」

 

「あんなこと思って無いんですよ~! この間の事も悪いのは鍵を閉め忘れた私ですし、全然怒って無いんです! 勇さんの事、嫌ってなんかいませんから! むしろ大好きですから! 信じてください~!」

 

「なっ、お、ちょ、落ち着けってマリア!」

 

 大声で叫ぶと同時にえんえん泣き始めてしまったマリアを必死に宥める勇。こんな姿を誰かに見られたら絶対に自分が何かをしでかしたと思われてしまうでは無いか。

 

「大丈夫だから、お前の事を悪く思ったりなんかしねぇから!」

 

『おい、ちょっと……』

 

「ふえぇぇ~~ん! え~~ん!」

 

「だいじょぶ! 大丈夫だって! こないだの事は俺も悪かったと思うし、別にマリアが責任感じる必要はねぇって!」

 

『お~い、ちょっと良いか?』

 

「あ~~ん! わぁぁ~~ん!」

 

「ほら! 飴上げるから! クッキーもあるぞ! だから泣き止んでくれ!」

 

『おい! 俺を無視すんじゃねぇ!』

 

「だ~! さっきからうるせぇんだよ! なんだてめぇは!?」

 

「わ~ん! うるさくってごめんなさ~い!」

 

「違う! うるさいのはマリアじゃなくってこっちの、こっち、の……?」

 

 先ほどからちょくちょく自分たちに話しかけて来る謎の声の主を見た勇は瞬時に凍り付いた。その様子を見たマリアも一度落ち着き、勇の視線の先を見ると……

 

『……わりぃ、俺のせいで面倒な事になったな』

 

 そこには、砂の様なもので出来た上半身と下半身がさかさまの鬼の様な生き物が居たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、あれ、どういう事?」

 

「さ、さぁ……?」

 

 同時刻、薔薇園学園の校門前でとある光景を見ている葉月とやよいが恐る恐ると言った様子で口を開く、視線の先にはたくさんの女子とそれに囲まれる一人の男子の姿があった。

 

「あぁ、ここはなんて素敵な所なんだろう! 君たちの様な天使がこんなにいるだなんて、まさに天国だよ!」

 

 キザな台詞を口にした男子が自分を囲む女子たちの手を取り、ウインクし、投げキッスを送る。その挙動の一つ一つに女子たちは黄色い悲鳴を上げて大騒ぎしていた。

 これがただのナンパならば二人はここまで驚かなかっただろう。しかし、二人にとってはこのハーレムを作り出している人物が問題であった。

 

「け、謙哉っちって、あんなキャラだったっけ……?」

 

「ち、違うとおもうよ……」

 

 視線の先に居る人物、それは、間違いなく虎牙謙哉その人だ。青いメッシュと瞳をしていて、眼鏡をかけている事を除けばいつも見ている彼にしか思えない。

 

 だがしかし、彼はナンパなどする性格では無いはずだ。そう考えながら二人は自分たちの後ろに居る人物へとゆっくりと振り返る。

 

「………」

 

 振り返った先に居る親友、水無月玲はいつも通りのポーカーフェイスでナンパをする謙哉の姿を見つめていた。その背後からは完全に怒りのオーラが溢れ出ている。

 

 葉月とやよいにはいつもの様に彼女をからかう余裕は無かった。もし、下手な事を言ったならば殺される事が目に見えていたからだ。

 

「……ちょっと行って来るわね」

 

「れ、玲?」

 

「校内でナンパするあの馬鹿の所に行って殺るだけよ、問題無いわ」

 

 行ってやる、という言葉なのにどうして物騒な言葉に聞こえるのかは分からない。しかし、謙哉目がけて歩き始めた玲の背中を見ていた葉月がはっと正気に戻ると、やよいにあわてて声をかけた。

 

「ま、不味いよ! 間違いなく玲は謙哉っちを殺すつもりだよ!」

 

「あわわ……急いで止めないと!」

 

 そう言って駆け出すやよい、その背中に付いて行こうとした葉月だったが、ある事に気が付いて足を止めた。

 

 それは光の玉だった。紫色をしたそれは一目散にやよいに向かって飛んでくると、その背中にぶち当たる。

 

「うっ!?」

 

 呻き声をあげて立ち止まるやよい、一連の様子を見ていた葉月は何が何やら分からないがやよいの身を案じて彼女に駆け寄った。

 

「や、やよい!? 大丈夫!?」

 

「ん~……あ~……」

 

 なんだか朦朧としているやよいの肩を掴んで揺さぶる葉月、今日は妙な事が良く起きるなと考えていると目の前のやよいが目を見開いた。

 

「やよい! 大丈夫だった? 今の光は……?」

 

「……その手、離してくれるよね? 答えは聞かないけど」

 

「え……?」

 

 普段とは違う口調のやよいに驚いた葉月は、彼女が指を鳴らす音と共に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どういうつもり? あなた、そんな事をする男だったわけ?」

 

 女子たちの集団から謙哉を連れ出した玲は、人気の無い体育館裏へと彼を連れ込んで事情聴取をしていた。

 怒りを隠す事もせずに謙哉を睨む玲、しかし、謙哉はそんな彼女に対して値踏みをする様な視線を送るばかりだ。

 

 いつもの彼とはまったくもって違うその視線に嫌な感じを覚えながら玲はさらに怒気を強めて謙哉に詰め寄る。自分自身にこれは嫉妬では無く校内の風紀を乱したが故の怒りであると言い聞かせながら

 

「答えなさい、何であんな真似を……」

 

「……言わなきゃわからないかな?」

 

「え……っ?」

 

 困惑する玲の真横に謙哉の腕が伸びる。同時に背後の壁に叩きつけられた謙哉の手が鳴らした音が耳に届き、玲は謙哉が『壁ドン』と言う奴を行った事を理解した。

 

「謙哉……?」

 

「……嫉妬して欲しかったんだよ、君に」

 

 そう言いながら顔を近づける謙哉、青い彼の瞳に吸い込まれるような感覚を覚えながらも玲は彼の話を聞き続ける。

 

「……君が僕の事をどう思ってるか知りたくってさ、だからあんな真似をしたんだ。でも、確かに悪趣味だったね、それは謝るよ」

 

「あ、あなた、何言って……?」

 

「ここまで言えばもう分かるでしょ? それに、君だってこんな人気の無い場所で二人きりになるなんて、期待してたんじゃないの?」

 

 そう言いながら謙哉は玲の顎に手を添えて顔を上へと傾かせる。高い位置にある謙哉の顔が徐々に自分の方へと降りて来るのを見た玲の胸が高鳴る。

 

「……分からないのなら教えてあげるよ。目、瞑って……すぐに答えを教えてあげるから」

 

「けん……や……?」

 

 自分の口から甘い息が漏れるのが分かる。こんな女の子らしい声が自分から出るなんて驚きだと思いながら玲は目を瞑る。

 

 女慣れした手つきで玲を抱き寄せると、謙哉は彼女の綺麗な顔の桃色の唇へと自分の唇を向かわせ、そして……

 

「……んな訳無いでしょうが!」

 

「あがっ!?」

 

 玲から繰り出されたアッパーカットを見事に喰らい、そのまま軽く宙へと舞った。

 

「はぁ、はぁ……あ、危うく流されるところだったわ……!」

 

 色んな意味で顔を赤くした玲は首を振って平常心を取り戻そうとしていた。先ほどの自分は何かの間違いでああなったのだ、雰囲気に流されただけなのだ。

 

「み、水無月さん……」

 

「っっ……! まだ何か言おうっての!?」

 

「ま、って……僕、だよ。正真正銘、本物の僕……!」

 

 まだ何か言おうとしている謙哉に対してマウントポジションを取りもう数発きつい一撃を喰らわせてやろうかと思った玲だったが、その弱々しい声がいつもの謙哉のものであると気が付くとそっと拳を下ろした。それを見た謙哉はほっと溜息をつくと玲に言う。

 

「助かったよ、今までなんか良く分からないのが僕の体に入ってて……」

 

「なんか良く分からないもの……? 何よ、それ?」

 

『ああ、僕の事だね。良いパンチだったよ、お嬢さん』

 

 顔を上げた玲の目の前には砂で出来た謎の化け物が居た。そいつに間髪入れずに拳をぶち込んだ後で謙哉に問いかける。

 

「で? 何なのよあれは?」

 

「知らないよ! 僕だって知りたいよ!」

 

『……ちょっと殴るのを止めてくれないかな? ついでにそっちの彼の体からも可愛いお尻をどかしてあげた方が良いと思うよ』

 

「アンタ、いい加減にその口閉じなさい!」

 

「酷いなぁ、君たちの知りたい事を話してあげるつもりなのにさ」

 

 そう言った化け物は再び謙哉の体の中に入った。一度ぐったりとした謙哉が再び目を開くと、その瞳は青く染まっていた。

 

「……僕の名前はウラタロス。訳あってこの体を少し借りたいんだ。詳しい説明をするから、今からお茶でもどう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『亀! 小僧! お前らどこに行ってやがった!?』

 

「どっかに言ってたのは先輩の方でしょう? 僕とリュウタは一緒に居たって」

 

「クマちゃんもどっか行っちゃったけどね~!」

 

『って言うかお前ら何で体を手に入れてんだよ!?』

 

「丁度良い所に良い体があったんでね、借りる事にしたんだ」

 

「ボクもこのお姉ちゃんを気に入ったんだ! だから少しの間だけ借りることにしたよ!」

 

「……何がどうなってんだ?」

 

「さ、さぁ……?」

 

 数十分後、希望の里では砂の化け物と普段とは全く違う様子の謙哉とやよいが会話をしていた。話の中身から察するにこいつらは顔見知りらしいが、どういう仲なのかまでは想像がつかない。

 

「龍堂、こいつらは『イマジン』って言う生き物らしいわよ」

 

「い、イマジン……?」

 

「人の想像の産物、誰かにイメージしてもらわなきゃ体が作れない化け物らしいわ。今は二人の体を乗っ取って行動してるみたいね」

 

「そ、それって大丈夫なのかよ!?」

 

「……そうじゃ無かったら私が二人に憑りつくことを許してると思う?」

 

「た、確かにそうですけど……」

 

「心配しないでよ綺麗なお嬢さん方、君たちの友人に危害を加えるつもりは無いからさ」

 

 三人の会話に割り込んできた謙哉……もとい、ウラタロスはそう言うと椅子へと腰を下ろした。子供の様に体を動かしているやよいを横目に見ながら、勇は残った鬼の化け物へと問いかける。

 

「で? お前らの目的は何なんだよモモタロス?」

 

『……俺たちの目的? そりゃあ、あれだ、そのあれだよ!』

 

「……お前、人にあれだのどれだの言うんじゃねぇって言っておきながら自分は使うのな」

 

「あぁ、悪いね。先輩悪い人では無いんだけど頭が悪すぎるんだ。許してあげて」

 

『んだと亀公!?』

 

「良いからさっさとあなたたちの目的を話しなさい! そうしないと二人の体も戻ってこないし、葉月も眠ったままなんだから!」

 

 玲の剣幕に押された三人(三体?)はその動きを止めた。そして、顔を見合わせた後で代表者として謙哉の体を借りているウラタロスが話を始める。

 

「僕たちはね、この時代に来たイマジンを倒しに来たんだ」

 

「は? イマジンってお前たちの事だろ? それに、この時代ってどういうことだよ?」

 

「……簡単に説明すると僕らは良いイマジンで、時間を守る役目を持っているんだ。この時代に来た悪いイマジンは過去を変えてその時間の流れをおかしくしようとしてるんだよ」

 

「はぁ……? もっと詳しく説明しろよ」

 

「……同感だね。俺達にももっと詳しく説明してくれ」

 

 部屋の入り口から聞こえて来た声に全員が顔を向けると、そこには異様に疲れた顔をした光牙と真美、そして……

 

「Zzz……Zzz……」

 

 眠りこけている櫂が居たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電王……時の列車に乗って時間を守る仮面ライダー……」

 

「そんな戦士が存在していただなんて……」

 

『普段は一緒に戦う人間が居るんだかよ、何故だか今日はデンライナー無しでこの時代に来ちまったから俺達だけだ』

 

「お陰で体は維持できないし、変身も出来ないんだよね」

 

「八方塞がり~!」

 

「Zzz……」

 

 イマジンたちから話を聞いた勇たちは揃って顔を見合わせた。そして、彼らの話に信ぴょう性があるかを確認し合う。

 

「……正直、怪しいわよね」

 

「でも一応筋は通っているよ」

 

「悪い人では無さそうですし……」

 

「まぁ、人でないのは確かよね」

 

「……お話の所悪いんだけどさ、僕からも一つ質問良いかな?」

 

 ひそひそ話を続ける一行だったがウラタロスからの声を聞いて話を中断して顔をそちらに向ける。それを確認したウラタロスは、ポケットからクウガのカードを取り出すと勇たちに尋ねた。

 

「何でクウガの事を知ってるの? 君たち、もしかして仮面ライダーなんじゃない?」

 

「お前、その仮面ライダーの事知ってるのか!?」

 

「何度か一緒に戦った事があるよ。でも、君たちは知らないみたいだね。僕らみたいに他の仮面ライダーが居るって事も知らなかったんじゃないかな」

 

「じゃあこいつは知ってるか!? ブレイドって言うらしいんだけど……」

 

「知ってるね。じゃあやっぱり君たちも仮面ライダーで、カードを使って戦うタイプって事かな?」

 

『……ははぁ、読めて来たぜ。俺たちは時間を超えて来たんじゃねぇ、世界を超えて来ちまったんだな』

 

「せ、世界を?」

 

『そう言う事が出来る知り合いが一人いるんだよ。……あれ? 二人だったっけな?』

 

「大事なのはそこじゃねぇだろ! 世界を超えるってどういうことだよ!?」

 

「……僕たち仮面ライダーは一つの世界を基準に戦っている訳じゃ無いんだ。パラレルワールドって言えば良いのかな? 色んな歴史をたどった色んな世界に仮面ライダーは居る。僕たちは電王の世界から、君たちの世界へ飛んできちゃった訳だ」

 

「そっか~! だから特異点の良太郎も関係なかったんだね~!」

 

 納得しているイマジンたちの会話を耳にした勇たちも徐々に話を理解していく。どうやら無数にある世界から自分たちの世界に侵略者が来ていると言う事の様だ。

 

「待てよ! そんなにのんびりしてる場合か!? お前たちの話が正しけりゃイマジンってのは過去へ飛んで歴史を滅茶苦茶にしちまうんだろ!?急いで見つけねぇと!」

 

『……その必要はねぇぜ、勇』

 

「え……?」

 

 モモタロスの言葉の意味を問い質そうとした勇だったが、突如悲鳴が聞こえて来た事に驚き急いで外に出る。すると、そこには子供たちに詰め寄る緑色の鰐の様な怪物がいるでは無いか

 

「くそっ! 子供たちに手を出すんじゃねぇ!」

 

「勇兄ちゃん!」

 

 子供たちを庇う様に前に出る勇、遅れて到着したモモタロスたちが鰐の化け物を見ると威嚇するように大声を上げた。

 

『ワニ野郎! てめぇ、何が目的だ!』

 

「ここは僕たちの世界じゃない、過去を変えたって何の意味も無いけどねぇ」

 

「ククク……なるほど、他にもイマジンが居たのか」

 

「あん……?」

 

 思わせぶりな言葉を発したワニのイマジン……アリゲーターイマジンが顔を覆う。すると、体が徐々に崩れていくではないか。

 そうして変わっていくイマジンの体を見守っていた勇たちだが、変化が終わった後に姿を現した敵の姿を見て目を見開いた。

 

「お前はっ!?」

 

「ククク……私はイマジンなどでは無い。イマジンの力を得た、より優れた存在さ」

 

 そこに居たのはかつて勇、そして謙哉がレジェンドライダーの力を借りて倒した白いエネミーであった。三度現れた敵に対してその場に居た全員が鋭い視線を送る。

 

「答えろ! お前の目的はなんだ!?」

 

「目的……? そうだな、お前たちの願いを叶える事かな?」

 

「何だとっ!?」

 

 ふざけた事を言うエネミーに対して光牙が叫ぶ。しかし、エネミーはそんな叫びを無視すると子供たちに問いかけた。

 

「お前たち、叶えて欲しい願いは無いか? 変えて欲しい過去は無いか?」

 

「な、なに……?」

 

「お前たちには親が居ない。事故か、病気か、あるいは捨てられたか……理由は様々だが、私は過去に行ってお前たちの未来を変えられるんだぞ」

 

「え……!?」

 

「誰だってそうだ。変えたい過去の一つや二つあるだろう? 私がそれを変えてやろうと言うのだ! 親を失った子供も、親に愛されなかった子供もいない未来に変えてやろうと言っているんだよ!」

 

 甘い言葉で誘惑を続けるエネミー、大声で叫びながら勇たちにも聞こえる様な声で誘惑を続ける。

 その言葉を聞いた子供たちの心に迷いが生まれた。もしかしたら親に会えるかもしれない……そんな願いが生まれ、エネミーの言葉に耳を傾け始める。

 

「お父さんやお母さんに会えるぞ、こんな施設じゃない、普通の暮らしが送れるんだ。家族に包まれた普通の幸せがな……!」

 

「お、お父さんや、お母さんに……?」

 

「普通の、暮らしが……!」

 

 子供たちの目に黒い光が灯り始める。エネミーのその言葉に光牙と玲の心も揺さぶられていた。 

 

 あの日を無かったことにすれば、もう一度父に会える……尊敬し、愛した父との暮らしが戻って来る。

 

 過去を変えれば苦しみ、悲しんだ自分が居なくなるかもしれない……父と母に囲まれた、幸せな少女時代が戻って来るかもしれない。

 

 それは魅力的な提案であった。子供の心をくすぐるその言葉に誰もが期待の思いを抱く。しかし、それを受け入れてしまえば未来が変わってしまうのだ。

 

「幸せが欲しいだろう? 温かい団欒に包まれたいだろう? さぁ、私の元に来るが良い。君たちの願いを叶えてやろう……!」

 

 甘い毒を持って子供たちをそそのかすエネミー、ふらふらとその言葉に惑わされた子供たちが歩み寄ろうとした時、勇が大声で叫んだ。

 

「ふざけんな! 誰がそんな事を望むかよ!」

 

「……龍堂勇、お前も変えたい過去があるだろう? 親と幸せに暮らす未来が欲しいはずだ」

 

「ああ、そうかもな。でも、俺は今になんの不満も持っちゃいねぇ!」

 

「……何だと?」

 

「確かに辛い思いもしたさ、苦しい出来事だって数えきれないほどあったさ! でもな、そんな過去をひっくるめて俺なんだ! 辛い思いをしたから誰かの痛みが分かる、苦しい出来事があったから誰かに優しく出来る……俺の過去は、今の俺の為に希望をくれるものなんだよ!」

 

「お前の言う通り、こいつらには血の繋がった家族は居ねぇ。でも、心の繋がった家族ならここに居るんだ! その家族と一緒に過ごした今が、いつかこいつらにとってかけがえのない思い出に変わって、希望をくれる過去に変わるんだよ!」

 

「辛い思いを、苦しい過去を、お前は肯定するのか」

 

「違う! 苦しい事や辛い事を無かったことにして逃げようとするお前を否定するんだ! どんなに苦しんだって、最後には胸を張って自分の人生を誇れる道を歩むために、逃げちゃいけないんだよ!」

 

『……へっ、カッコいいじゃねぇかよ』

 

「くさい台詞だけど、悪くないね」

 

「泣けること言うやないか!」

 

「ボク、良く分かんないけどあいつの事嫌いじゃないよ!」

 

 勇の言葉を受けた子供たちの目に光が戻って行く。その様子を見ていたイマジンたちは勇を見て自分たちのパートナーである人間の事を思い出していた。

 

『『過去が希望をくれる』か……ったく、あいつと同じこと言うんだな』

 

「それが人の総意なのかもね、先輩」

 

「誰かの過去を、未来を守る為に、力を貸してやるとしようやないか!」

 

「行くよ? 良い? 答えは聞かないけど!」

 

 謙哉、やよい、櫂の体から光が飛び出すと、モモタロスと一緒になって勇の体へと飛んで行く。自分の体を貫く衝撃と確かな力を感じた勇の手には新たなカードが握られていた。

 

『使え勇! んで、あの大ボケ野郎をぶっ飛ばしちまえ!』

 

「……あぁ、お前たちの力、ありがたく使わせてもらうぜ!」

 

「この……愚か者がぁっ!」

 

<イマジン……!>

 

 イマジンのカードを使ったエネミーが再びその姿をアリゲーターイマジンへと変貌させる。恐怖に怯える子供たちの声を聞きながら、勇もまたモモタロスたちから受け取ったカードをドライバーへと通した。

 

「変身っっ!」

 

<電王! オールウェイズ、クライマックス!>

 

 カードを使った瞬間、勇の周りに赤い半透明のガラスの様な物体が舞った。それは勇の体に収束していき、銀色のスーツへと変貌する。 そして顔と体、各部関節部分に赤いアーマーが展開された。

 

「……俺、参上!」

 

 びしっ! と腕を大きく広げて決めポーズをとる勇。その様子を怪訝な様子で見ていたマリアが尋ねる。

 

「勇さん、それ、何の意味があるんですか?」

 

「……わからん、なんかやらなきゃいけない気がした」

 

「電王……っ!」

 

 怒りに燃えるアリゲーターイマジンはそんな二人の漫才を苦々しく見ながら武器を構える。鰐の牙の様な剣を構える敵に向かって、勇は大声で叫んだ。

 

「ガキどもの思い出を壊す奴は許さねぇ! さぁ、行くぜ! 今日の俺は最初から最後までクライマックスだ!」

 

<デンガッシャー!>

 

 勇は電王の固有武器であるデンガッシャーを手に取る。連結パーツを変える事によって様々な武器に変化するそれをソードモードに組み合わせると勢いよく振り回しながら突進した。

 

「行くぜ、行くぜ、行くぜ!」 

 

「ぐうっ!?」

 

 型破りな勢いだけの喧嘩殺法で攻撃を仕掛ける勇、繰り出される斬撃の嵐に怯みながらも反撃の糸口を探していたイマジンは、勇の攻撃が途切れた一瞬を付いて剣を振りかぶった。

 

「もらったぁっ!」

 

「……ふふっ!」

 

 アリゲーターイマジンが剣を振り下ろすと同時に背後に吹き飛んだ。一瞬自分の身に何が起きているか理解できなかったイマジンに対して、勇が煽る様な口調で言う。

 

「見事に釣られたな、慌てる乞食は貰いが少ないって言葉しらねぇのかよ?」

 

「きさまっ……!」

 

 見事なハイキックの構えを見せていた勇は軽く足を払うとデンガッシャーを竿状の武器であるロッドモードへと変形させた。そして、それを掴むとイマジンに向けて振る。

 

「お前、俺に釣られてみる?」

 

「ぬおぉぉっ!?」

 

 デンガッシャーから繰り出されたエネルギーの糸がアリゲーターイマジンに引っかかり、その体を浮き上がらせる。そのままぐるぐると引っかかった得物を振り回した後で、勇は思い切り上へ敵を放り投げた。

 

「俺の強さは、泣けるぜ!」

 

 デンガッシャーを三度変形、リーチは短いが威力は抜群のアックスモードへと変形させると落ちて来たアリゲーターイマジンを打ち上げる様にして振り上げた。

 

「よいっしょぉっ!」

 

「ぐわぁぁぁっ!?」

 

 舞い散る火花、確かな手ごたえ。先ほどよりも高く打ち上げられたアリゲーターイマジンには目もくれず、そのまま踊る様にくるくると回転していた勇の手には、すでに変形されたデンガッシャーが握られていた。

 

「撃つけど良いよな? 答えは聞かないけど!」

 

 銃の引き金を引いて弾丸を連射する勇、アリゲーターイマジンが地面に落ちて来るまでの数秒の間たっぷりと銃弾を喰らわせると、イマジンの横っ面に華麗なステップからの裏拳を叩きこんで大きく吹き飛ばした。

 

「ぬ、ぐぅ……っ! お前は、愚かだ……!」

 

「ああ、そうかい! けどな、馬鹿でも愚かでも未来に進む事を止めたくはないんでな!」

 

<必殺技発動! エクストリームスラッシュ!>

 

 必殺技を発動させた途端、再度ソードモードへと変形されたデンガッシャーの刃部分がひとりでに飛び立った。遠隔操作が可能になったそれを見ながら、勇は思い切り腕を振り回してとどめの一撃を繰り出す。

 

「必殺! 俺の必殺技、パート2!」

 

「ぬおぉぉぉぉぉっ!?」

 

 左、右、そして上空……三連続で繰り出された必殺の斬撃は赤い閃光をアリゲーターイマジンの体に残しながら炸裂した。

 

 敗北が決定的になったアリゲーターイマジン、だが、死の間際に憎しみと哀れさを持った目で勇を見ると、絞り出すような声で最後の一言を残した。

 

「……お前の過去が変われば、すべてが、変わると言うのに……!」

 

「……何? それはどういう……?」

 

 苦し紛れのハッタリかもしれない。しかし、あまりにも確信めいたその一言に気を取られた勇だったが、その質問を言い切る前にアリゲーターイマジンは爆発四散してしまった。

  

「さっきの言葉、どういう意味なんだ……?」

 

 勝利の喜びよりも大きい疑問に身を包みながら、勇は燃え上がる炎を見て一人呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『色々世話になったな、俺たちの力は好きに使ってくれ!』

 

『名残惜しいけどサヨナラだね、玲ちゃん』

 

『いや~、ほんま疲れたなぁ!』

 

『クマちゃん寝てただけじゃ~ん!』

 

 賑やかに騒ぐモモタロスたちを見ながら勇たちが笑う。ようやく体の自由を取り戻した謙哉たちとリュウタロスの暗示が解けて目を覚ました葉月も合流して、イマジンたちの見送りに出ていた。

 

「このオーロラの向こう側がお前たちの世界なのか?」

 

『ああ、多分な。さて、俺たちは行くぜ』

 

「短い付き合いだったが、楽しかった。元気でな!」

 

『おう! ……勇、忘れんじゃねぇぞ? この先どんな未来が待っていたとしても、その全てはお前自身の手で変えられるんだって事をな』

 

「ああ、ありがとな!」

 

『じゃあ僕も一つアドバイス。謙哉、君はもう少し女心を分かった方が良いと思うよ。ま、僕ほどになれとは言わないけどさ』

 

「いや、僕はナンパしないからそんな必要は無いって」

 

『Zzz……Zzz……』

 

『あ~、クマちゃん寝ちゃってるよ! もう行こうよ!』

 

『ったく、しょうがねぇなぁ……んじゃ、あばよ! いつかまた会おうぜ!』

 

 そう言うと光の玉となった4体はオーロラの向こう側へと消えて行った。それを見送った後で勇が呟く。

 

「まったく、騒がしい奴らだったな」

 

「ええ、でも、他の世界にも仮面ライダーが居るだなんて驚きでしたね!」

 

「確かにな……もしかしたら、いつか俺たちも別の仮面ライダーの世界に行くことになるかもな」

 

 にこやかに話し終えた後で空を見る。もうすっかり夕焼けで染まった空を見ながら、勇はマリアに笑いかけた。

 

「ま、とりあえず俺たちはこの世界で今を生きようぜ! んで、これから先の未来を掴もう!」

 

「はい!」

 

 大分遅くなってしまったが今日の本来の目的であるライブを子供たちと見る為に、二人は並んで家の中へ入って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――NEXT RIDER……

 

「本当は戦いなんかしない方が良いんだよ。誰かを傷つけて人に憧れられるようなヒーローにはなりたくないな」

 

「……迷ってる間に誰かが傷つくなら、命が消えていくって言うなら……僕はもう迷わない! 全部の罪を背負って戦ってやる!」

 

次回『夢の護り手』

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。