仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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大海戦

 

 

「おらぁっ!」

 

 高い跳躍を終え着地した勇は、同時に手に持ったディスティニーソードを背後へと思い切り振るった。

 繰り出された斬撃はその場に居た骸骨型エネミーにぶち当たり、彼らを光の粒へと変える。

 

「おっしゃあ! いくらでもかかって来い!」

 

 揺れる海賊船の中で剣を振り上げてエネミーを威嚇する勇、隣接する別の船からは彼に続いて沢山の生徒たちが海賊船へと乗り移っていた。

 

「皆、海に落ちるんじゃないぞ!」

 

「混戦になるだろうから流れ弾に気を付けなさいよ!」

 

 生徒たちを率いる光牙と真美の叫びが響く。次々と敵船に乗り込んだ生徒たちは骸骨型エネミー『スカルパイレーツ』と激しい戦闘を繰り広げ始めた。

 

 臨海学校二日目の今日、勇たち虹彩学園と薔薇園学園の生徒たちは近隣の学校に請われて攻略に力を貸していた。

 この付近にあるソサエティは広大な海とそこに点在する島によって構成されるマリンワールドとでも呼ぶべき形態であり、地元の学校はそれぞれソサエティの中を船で移動して攻略を進めているのだ。

 

 しかし、このソサエティにももちろんエネミーはいる。昨日勇たちと戦った海洋生物型エネミーの『マーマン』やその進化形、島の中にはファンタジーワールドにも存在する獣型エネミーが生息しており、攻略を進めるうえでの大きな障害となっていた。

 そんな中でも一番の難敵はボス扱いでもあるエネミー『キャプテン・スカル』を中心に集まった骸骨の海賊団、『幽霊海賊』である。船で移動する彼らは正に神出鬼没で、この海で行動する限りはかなり厄介な敵であった。

 

 一度倒せば消滅する幽霊海賊だが、その一回の勝利が難しい。数が多い上にボス級の戦闘能力を持つエネミーがリーダーであり、その上危なくなるとさっさと逃げてしまうからだ。

 その為、迅速な勝利を求められるこの戦いにおいて、多くの仮面ライダーを擁する両校に援護要請が入ったのである。

 

 まずは幽霊海賊を発見し船で接近、その後仮面ライダーを先頭にして船に乗り込み敵の逃走を防ぐと同時に船内を制圧する。と言うのが今回の作戦の内容であった。 

 

「へっ! 数が多くて退屈しねぇな、これは!」

 

 接近して来た数体のスカルパイレーツを纏めて叩き切る勇、そのまま駆け出すとマスケット銃を構えていた敵の一団の中へと飛び込んでいく。

 

「そらよっ!」

 

 銃の引き金が引かれる前に攻撃を繰り出す。目の前の一体を切り伏せ、その勢いを活かして別の一体に回し蹴りを叩きこむ。反転しながらホルスターからカードを取り出した勇は、それをディスティニーソードへと使って必殺技を繰り出した。

 

<必殺技発動! ディスティニーブレイク!>

 

「これでどうだっ!」

 

 回転斬りの要領で繰り出される一撃、遠心力によって強化された鋭い切れ味の剣がスカルパイレーツにヒットしその体を両断していく。見事遠距離攻撃部隊が倒された事を確認した光牙は、今が好機と見て生徒たちに叫んだ。

 

「今だっ! 敵船を制圧しろっ!」

 

「おーーーーっ!」

 

 意気揚々と攻撃を繰り出す生徒たち、傷ついた者を回収しつつ自軍の船を守るマリアはその姿を見守りながら負傷者の傷を癒していた。

 

「マリア、私も行くわ! ここの守りはお願い!」

 

「はい! お気をつけてください!」

 

 真美もまたこの勝機を逃さぬようにと攻撃部隊に加わる。残された生徒たちと共に防衛に徹しながら、マリアは頼もしく戦う仲間たちの背を見守るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨーソロー! 今日は船上ライブだよっ!」

 

 一方、海賊船の上では陽気な声を上げながらロックビートソードを振るう葉月の姿があった。敵の頭上から剣を振り下ろし、縦に真っ二つに斬り下ろす。背後から近づく敵は柄での突きで不意を突いた後で大振りの一撃を叩きこんだ。 

 

「はい、どーん!」

 

 囲まれている状況だと言うのに葉月は楽し気に戦いを続けている。本当にライブでも行っているかの様な彼女は、自分の周囲にかなりのスカルパイレーツが集まって来たのを見て、仮面の下で笑顔を見せた。

 

「……それじゃ、締めに入りますか!」

 

<エレクトリック! サウンド!>

 

 ロックビートソードを持ち直してその弦を軽く爪弾く。パチリと走る雷撃を見た葉月はギターを一回転させると揚々と叫んだ。

 

「さぁ! アタシのギターソロ、行くよ!」

 

<必殺技発動! エレクトロックフェス!> 

 

 弾かれる弦、響くは音の衝撃波と雷撃。ギタリスト顔負けの葉月の演奏から繰り出されるのは、文字通り聞く者を痺れされる必殺の一撃だ。

 

「ん~~~~っ!!! フィニーーーッシュ!!!」

 

 ジャンプしてポーズを決めた後、着地と同時にギターを大きく掻き鳴らす。最大音量で繰り出された最後の衝撃は、彼女の演奏を聞いていたスカルパイレーツ全員を大きく吹き飛ばして消滅させた。

 

「いやー、やっぱ全力で演奏すると楽しいよねーっ!」

 

 楽しくギターソロを演じられたことにご満悦の葉月、しかし、彼女の後ろから新たな影が忍び寄る。

 

「ウゥゥゥッ!」

 

「げっ、やばっ!」

 

 ぎりぎり生き残っていたスカルパイレーツが不意を突いて襲い掛かって来たのだ、完全に気を抜いていた葉月はその攻撃を避けられないと踏んで痛みに耐えるべく目を瞑ったが……

 

「全く、油断しすぎよ」

 

「ウギャァウッ!?」

 

「玲! ありがとーっ!」

 

 自分を注意する声と共に聞こえた銃声、一拍遅れて吹き飛んだスカルパイレーツの叫びを耳にした葉月は自分の後ろから援護射撃をしてくれた玲に向かって大きく手を振る。

 そんな彼女に対して軽く頭を抱えた玲は、そのまま数発続けて弾丸を発射した。

 

「ウギャオ!?」

 

「ガギャァァッ!」

 

「……だから油断しすぎって言ってるのよ、まだまだ敵は居るんだから用心しなさい」 

 

「は、は~い……」

 

 葉月に襲い掛かろうとしていたエネミーを排除した後、玲は自分の正面に銃を構える。

 銃口の先に居るスカルパイレーツが剣を構えて迫って来るのを見た玲は、ホルスターからカードを取り出してメガホンマグナムへと使用した。

 

<ウェーブ!>

 

「……さ、来てみなさい。一応言っておくけど、アイドルはお触り厳禁よ」

 

 挑発する様な口調で呟いた玲はそのまま一番近くに迫って来ていたエネミーに対して狙いを定めると引き金を引いた。銃口から放たれた音波がスカルパイレーツへと直撃すると共に、相手をバラバラに砕いてしまう。

 

「どうやら衝撃に弱いみたいね。……骨なんだから当然かしら?」

 

 自分の使うカードと敵の相性が良いと判断した玲は続けて引き金を引き続けた。衝撃波を直撃させてスカルパイレーツを次々と粉砕していくと共に、危うい味方へのフォローも忘れずに行う。周りの状況を顧みながら戦う彼女に対して、一直線に敵へと突っ込む者もいる様で……

 

「はっはっは! どうした? そんなもんかよ!?」

 

<チャージ! タックル!>

 

<必殺技発動! パワードタックル!>

 

「よっしゃあ! これでも喰らいやがれ!」

 

 突進能力を強化するカードを連続使用して必殺技を繰り出す櫂。その巨体で何体ものエネミーを跳ね飛ばしつつ前へ前へと進んで行く。

 敵の集団の中心に到達した櫂は得物であるグレートアクスを取り出すと、力いっぱい周りを薙ぎ払った。

 

「がははっ! こりゃあ良いぜ、あっと言う間に敵をぶっ飛ばせる!」

 

 でたらめなパワーでスカルパイレーツを吹き飛ばして行く櫂。楽勝ムードに気を良くしている彼だったが、後ろの方ではそんな櫂の事を真美が鋭い目つきで睨んでいた。

 

「ちょっと櫂! アンタが離れたら誰が救護班の護衛をするのよ!?」

 

 負傷者に肩を貸しながら叫ぶ真美。なんともまぁ考えなしに突っ込んだものだと櫂に呆れた視線を送る彼女だったが、自分に対してカトラスを持ったスカルパイレーツが斬りかかって来たのを見て表情を変えた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟にバックステップをしてその一撃を躱す。しかし、体勢を崩して尻もちをついてしまった彼女に対して、スカルパイレーツは容赦なく二撃目を繰り出そうとしていた。

 

「美又さん、危ないっ!」

 

 もはやこれまでかと真美が覚悟を決めた時、ピンク色の影が敵と自分の間に入り込んだ。武器を手にしたやよいが助けに入ってくれたのである。

 プリティマイクバトンでカトラスの一撃を受け止めたやよいは、そのまま思いっきりバトンを振ってカトラスを弾き飛ばすと勢い良くその先端をエネミーの頭部へと繰り出した。

 

「ガッッ!!」

 

 バキッ、という音と共に骸骨にひびが入って行く。頭部が砕けたスカルパイレーツの全身が光の粒になった後で、やよいはプリティマイクバトンをライフルモードに変形させつつ真美へと声をかけた。

 

「私が援護するから美又さんは船に急いで!」

 

「ありがとう、助かるわ!」

 

 負傷者を支え、やよいと並走しながら自分たちの船を目指す真美。迫りくるエネミーをやよいが銃弾で迎撃しながら、ようやく二隻の船を繋ぐ橋へとたどり着いた。

 

「美又さん、掴まって!」

 

 駆け出したやよいが真美と負傷者を抱えて跳躍する。互いに抱きしめ合いながら着地した二人は、自軍の船に到着すると運んできた負傷者の手当てを依頼した。

 

「お陰で助かったわ、櫂の馬鹿にも見習わせたい気遣いね」

 

「ううん、無事で良かったよ!」

 

 真美からの感謝と称賛の言葉を受けたやよいがはにかむ。だが休憩をしている暇はない、早く戦いに戻らなくては

 そう考えた真美とやよいが動き出そうとした時、足元に大きな揺れが走った。何事かと周りを見渡してみれば、船を連結していた板が外れて海賊船が遠くに離れようとしている所が目に映る。

 

「まさか、あのまま逃げる気!?」

 

 相手が状況不利と見て逃げに走ったかと考えた真美が再び海賊船に接近する様に操舵者に指示を飛ばす。しかし、海賊船の側面を見た彼女は驚きで目を見開いた。

 

「何よあれ!?」

 

 そこにはいくつもの砲門が並んでいたのだ。大型の砲弾を発射できそうな砲台が計7つ、その全てがこちらを向いて火を噴く時を今か今かと待ちわびている。

 

「か、回避ーーーっ!」

 

 危険を察知して避ける様に指示する真美、だが既に遅く砲門が火を噴いて攻撃を開始してしまった。

 

 飛んでくる無数の砲弾、なんとかマリアを始めとする防衛班がバリアのカードを使用してそれを防ぐも、高い攻撃力を前に徐々にひびが入り始めていた。

 

「マリア! 真美っ!」

 

「ヤバいぞ! なんとかあの砲撃を止めないと!」

 

 一転してピンチに陥った自分たちの船を見た勇が叫ぶ。急ぎ船を制圧しようと誰もが必死になる中、何かを思いついた謙哉は駆け出すと玲の元へとやって来た。

 

「水無月さん、ちょっとごめん!」

 

「きゃっ!?」

 

 腰を掴まれる感覚に悲鳴を上げる玲。一瞬驚いた後で謙哉へと抗議の声を上げる。

 

「ちょっと、何してるのよ!?」

 

「ごめん、カード借りるね!」

 

「ひゃんっ!?」

 

 自分の腰を掴みカードホルスターからカードを一枚抜き取って行った謙哉の後ろ姿を見ながら、とりあえず戻ってきたら一発ぶん殴ってやろうと心の中で決心する玲。そんな彼女の決意など露知らず、謙哉は自分のホルスターから『サンダードラゴン』のカードを取り出すとそれをドライバーへとリードした。

 

<サンダードラゴン!>

 

「ドラ君、お願い!」

 

 電子音声と共に召喚されたドラゴンへと飛び乗る謙哉。攻撃を受け続ける仲間たちの船へと近づくと、玲から借りて来たカードを盾に使用する。

 

<ワイド!>

 

「よし、これなら!」 

 

 青いエネルギー波を纏って巨大化したイージスシールドを構えた謙哉は海賊船から放たれる砲弾をドラゴンとの連携で次々に防いでいく。爆発の衝撃波に押されながらも必死にくいしばる謙哉に対して容赦無く砲撃を繰り出す海賊船だったが、装填の為か一瞬だけ砲撃が途絶えてしまった。

 

「今だっ!」

 

<必殺技発動! コバルトリフレクション!>

 

 その隙を見逃さず一番端の砲門に狙いを定めた謙哉は、今までのお返しとばかりに防いだ砲撃分の攻撃力を持つ光線を発射した。

 横一線に薙ぎ払う様にして放たれた蒼の光線は瞬く間に海賊船の側面を焼き払い砲撃を沈黙させ、敵の反撃の機会を摘み取る。

 

「やった、やったぞ!」

 

「へへっ、流石は謙哉だぜ!」

 

 味方の危機を救った謙哉を褒め称えながらも戦いを続ける一同。ようやく雑魚の数も減って来たところで、船の先頭から銃弾が放たれる音がした。

 

「ググゥゥゥゥ……!」

 

 威風堂々と風格を纏いながら姿を表したのは、右手にカトラス、左手にマスケット銃を持った骸骨の親玉にしてこの船のボスエネミーである『キャプテン・スカル』であった。その姿を見止めた光牙はエクスカリバーを構えると一気に斬りかかる。

 

「ググゥッ! グオオッ!」

 

「たぁぁぁぁっ!」

 

 自分に向けられたマスケット銃からの弾丸を時に躱し、時に剣で切り払いながら接近する光牙。攻撃の間合いに入るや否やエクスカリバーを振るって先手を取るも、相手のカトラスに防がれて直撃は叶わなかった。

 

「グオオッ!」

 

「くっ、うわぁっ!」

 

 片手のカトラスでエクスカリバーを防ぎながら、もう片方の手に握られている銃を光牙に向けるキャプテン・スカル。咄嗟に銃口から逃れようとした光牙だったが、腕から力が抜けた事でカトラスに押し切られてしまい、そのまま胴を斬られてしまった。

 

「光牙、大丈夫か!?」

 

「ああ、かすっただけさ、大したダメージは無い」

 

 駆け寄って来た勇に返事をしながら二人で並び立つ。剣を構えてキャプテン・スカルを睨む二人は同じタイミングで駆け出した。

 

「おおぉぉっ!」

 

「やぁぁぁっ!」

 

 舞い乱れる二つの剣、それをカトラスと銃身で何とか防ぐキャプテン・スカル。

 戦いはじりじりと勇たちがエネミーを押す展開へとなって行く。攻撃を防ぐ為に突き出されるカトラスをすり抜けて、勇のディスティニーソードと光牙のエクスカリバーがキャプテン・スカルの体を切り裂く。

 

「ウオォォッ!!!」

 

 何度目かの斬撃に耐えきらなくなったのか、後退したキャプテン・スカルがマスケット銃を構えるとすさまじい速さで連射し始めた。それを何とか躱しながら隙を探る光牙、接近することもままならないが闘志を絶やすこと無く敵を睨み続ける。

 

 ばら撒かれる銃弾をぎりぎりで躱す二人。なおも繰り出される銃撃の単調なタイミングを掴んだ勇は、ディスティニーソードを手から放すとその柄を思い切り蹴り飛ばした。

 

「そこだぁっ!」

 

「ウォォォォッ!!??」

 

 サッカーボールをシュートするようにして蹴りだされたディスティニーソードは真っ直ぐにキャプテン・スカルへと飛んで行き、その肩に突き刺さった。悲鳴を上げ、手からマスケット銃を取りこぼしたエネミーの姿を見た光牙は今こそが勝機と確信しながらカードを取り出す。

 

「これで終わりだぁっ!」

 

<ドロップ! フォトン!>

 

<必殺技発動! メテオドロップ!>

 

 宙高く跳び上がった光牙の両足に強い光が灯る。最高地点まで上昇した後、まるで隕石の様な猛スピードでキャプテン・スカル目がけて降下した光牙は、強烈なドロップキックを敵に見舞った。

 

「ゴォォォォッ……!!!」

 

 キャプテン・スカルに打ち込まれる光、それは点滅を繰り返しながら強さを増していく。

 やがて一際大きな輝きを放った光は、その輝きと共にキャプテン・スカルを焼き尽くす大きな爆発を巻き起こした。

 

「ガオォォォォッ!!!」

 

 海賊船を包む光、その光を浴びたエネミーが次々に浄化されて行く。海賊船に憑りついた怨霊を祓う様なその光が消えた後、船上からは全てのエネミーの姿が消えていた。

 

<ゲームクリア! ゴー、リザルト!>

 

「よっしゃあ! 大・勝・利!」

 

 勇のその声を皮切りに、生徒たちは戦いを勝利したことへの喜びの声を上げた。同時にこの戦いで得た経験値を確認して、自分たちのレベルがどれくらい上がったのかを確認する。

 

<スペシャルプレゼント!>

 

「およ?」

 

「あ! ラッキーボーナスだ! アタシってばツいてるーっ!」  

 

 全員が自分のゲームギアから映し出される映像に目を奪われる中、謙哉と葉月の前には新たなカードが出現していた。

 

 葉月の元に出現したのは、今回のボスエネミーであるキャプテン・スカルが描かれたカードだ。恐らくは必殺技カードであるそれを嬉しそうに見ながら葉月はVサインを作る。

 

 一方、謙哉の元にはミッション達成報酬として出現したカードが現れていた。船の中に並んだ大砲に対して、砲撃指令を出しているキャプテン・スカルの姿が描かれているそのカードはどうやら射撃系の強化カードの様だ。

 

 遠距離武器を持たない自分には無用の長物だと考えた謙哉はこのカードをどうするかを悩み始める。だが、そんな彼の後ろから手が伸びてくると、謙哉の手からカードを奪い取ってしまった。

 

「これ、セクハラの慰謝料としてもらっておくわね」

 

「み、水無月さん!?」

 

「まさか嫌だとは言わないわよね? あなた、自分が何したか分からないわけじゃ無いでしょう?」

 

「うぅ……まぁ、別に良いけどさ……」

 

 元々自分とは相性が悪いカードであったし、渡すなら遠距離戦闘が主体の玲だろうと考えていたので異論は無いもののちょっぴり強引なその態度に謙哉ががっくりと項垂れる。

 玲はそんな謙哉に対してふふんと鼻を鳴らすと、彼から離れて行った。

 

「……あの二人、本当仲良くなって来たなぁ」

 

 そんな二人の様子を眺めてほっこりしていたやよいだったが、自分の肩を叩かれた感触に驚いて振り向くとそこには頬を搔いている真美の姿があった。

 

「……さっきはありがとうね。これ、今出たカードなんだけど、あなたの方が使いこなせそうだしあげるわ」

 

「わぁ……! ありがとう、美又さん!」

 

 輝く様な笑顔を真美に向けるやよい。真美はそっぽをむいたまま、顔を少しだけ赤くして呟いた。

 

「……真美で良いわよ」

 

「え……?」

 

「美又さんじゃなくて、真美で良いから。名前で読んで頂戴」

 

 恥ずかしそうに呟く真美の言葉を聞いたやよいの表情がさらに明るくなる。嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた後で、やよいもまた真美に対して言う。

 

「うん! じゃあ私のこともやよいって呼んでね、真美ちゃん!」

 

「……ええ、分かったわ。やよい」

 

 自分とはタイプの違う良い友達が出来た事を素直に喜ぶ二人。お互いに顔を見合わせて笑った後で、真美は騒めく生徒たちに号令をかけた。

 

「さぁ、帰るわよ! 旅館に帰ったら反省会だからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と言う訳で、今日の戦闘データを纏めてみたわ。これを見て存分に今日の戦いを振り返って頂戴」

 

「毎度の事だけど、真美には頭が下がる思いだよ」 

 

 その日の夜、真美とマリアの部屋に集合した仮面ライダーたちは、真美から昼間の戦闘データを受け取ってそれに目を通していた。

 戦闘を終えてから数時間、その間に色々とすべきことがあっただろうにきっちりと自分の仕事をこなしている真美に対して光牙は感謝の言葉を述べる。

 

「……なら、しっかりとそのデータを活かして頂戴。そうすれば、私のしたことに意味が生まれるから」

 

「あはは、そうだな。真美の為にも頑張らなきゃな」

 

 光牙が何の気なしに言った言葉にドキッとしてしまう真美。深い意味は無く、本当に言葉通りの意味だと分かってはいるものの意識してしまう心を抑えようも無かった。

 

「ねーねー勇っち、このカード、どんなコンボがあると思う?」

 

「おー、そうだな……とりあえず斬撃系のカードであることにはちがいねぇだろうから……」

 

「私にも見せてください、これでもディスティニーカードの種類は全て暗記してるんです!」

 

 部屋の片隅では葉月と勇、そしてマリアが今日手に入れたカードについて話し合っていた。新しい戦力をどう扱うかは非常に重要な事だ、しっかりと話し合って欲しいと思う。

 だが、隣に居る光牙がぼうっとした視線でマリアを見ている事に気が付いた真美は、胸が締め付けられるような痛みを感じた。羨ましい様な、妬ましい様な気持ちが心に生まれる。

 

「真美ちゃん、どうかしたの?」

 

「……いいえ、何も無いわよ。やよいも私が上げたカードの使い道を考えたらどう?」

 

「そうだね! じゃあ、真美ちゃんと光牙さんも一緒に考えてよ!」

  

「ああ、構わないよ」

 

 屈託のない笑顔を浮かべたやよいの言葉を受け、光牙は快く新たなカードの使い方を共に考え始めた。それが真美の心中を察したやよいのアシストだと知り、真美は複雑な気分になる。

 

 決してやよいの行動をありがた迷惑だと感じた訳では無い。光牙と一緒に過ごせる時間は真美にとって楽しい物であることに変わりは無いのだから

 しかし、そうした時間を過ごしている内に諦めがつかなくなるのもまた事実だ。光牙の為に自分のこの思いは封じておいた方が良いのだと真美は思っている。

 

「皆、下の売店で飲み物買って来たよ!」

 

「少し休憩したらどう?」

 

「ありがとう、玲ちゃん!」

 

 買い物を終えた謙哉と真美の元に駆け寄るやよい。それに続いて勇たちも二人の元へ近づく。

 笑顔を浮かべる仲間たちの姿をぼーっと見ていた真美だったが、光牙が少し楽しそうな笑顔を浮かべていたことが気になった。

 

「……なぁ、真美。俺は思うんだ」

 

「……何を?」

 

「前はソサエティの攻略は俺自身がやり遂げるんだって思ってた。A組の皆と、俺自身の手で世界を救うんだって意気込んでた。でも、最近はそうじゃ無くったって良いんじゃないかって考え始めたんだ」

 

「え……?」

 

「転校生のマリアと龍堂くん、別のクラスの虎牙くん、アイドルであるディーヴァの三人……俺達A組の生徒たちとは全然違う、色んな側面を持つ人間たちが集まって、こうしてチームになった。最初は疑問に思ってたけど、今になってやっと一人一人が違う事でいろんな可能性が生まれるんだってことが分かったよ」

 

 そう、嬉々とした表情で光牙が真美に語る。新たな発見をした彼は、本当に嬉しそうな目で仲間たちを見つめていた。

 

「……なぁ、俺は出来るかな?」

 

 不意に不安げになった光牙が真美へと呟く。まっすぐに真美を見つめながら、本当の事を言ってくれと語る瞳をしながら問いかける。

 

「俺は、こうした違う人間たちを纏める事が出来るかな? 皆を纏め上げて、世界を救える勇者になれるだろうか?」

 

「……なれるに決まってるわよ。絶対」

 

 光牙の問いかけに真美は確信を持って力強く答えた。それは本心からの言葉、幼いころからずっと彼を見続けて来たが故に存在する信頼だ。

 

「そっか……真美がそう言うなら、きっとそうだよな!」

 

 お世辞でも何でもない真美の言葉に顔を綻ばせた光牙は嬉しそうに笑った。その笑顔を見ながら真美は思う。

 

 必ずあなたを勇者にしてみせる。たとえどんなことをしようとも、私があなたの夢を叶えてみせる……と

 

「光牙っ、大変だ!」

 

 そんな時だった、息を切らせた櫂が部屋に飛び込んできたのは

 

「どうしたんだ、櫂!?」

 

 ただ事ではない櫂の様子に顔色を変えた光牙が事の詳細を問う。櫂は暫し息を整える為に時間を使うと、やって来た厄介ごとを説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラッ! ここに虹彩学園の奴らが泊まってんだろ!?」

 

「さっさと呼んで来いよボケっ!」

 

「……あの野郎ども、何してやがんだよ!?」

 

 櫂の連絡を受けた勇たちは旅館の入口へとやって来ていた。そこには、声を荒げて従業員たちを責める若い男たちの姿があった。

 それが昨日海で絡んできた潮騒学園の生徒たちだと言う事は、彼らを懲らしめた勇と光牙にはすぐに分かった。そして、彼らの会話から察するに仲間を引き連れて勇たちにお礼参りをしに来たと言う事もだ。

 

「お前たち! 何を馬鹿な事をしているんだ!?」

 

 あまりにも横暴な彼らの行動に我慢が出来なくなった光牙が叫ぶ。その声を聞いた潮騒学園の生徒たちは一斉にこちらを向くと、ぞろぞろと群れを成して近寄って来た。

 

「おー、居た居た! こいつだよこいつ!」

 

「ナンパの邪魔した上に偉そうに説教たれたんだって? かっこいいねー!」

 

「でもさ、この人数相手に同じこと出来る? 今すぐ土下座して、女の子たちを連れて着たら許してあげるけど、どうする~?」

 

 ニタニタと笑いながら光牙に迫る男たち、20名ほどの集団でやって来た彼らは数を頼りに光牙を脅しているのだろう。

 まさに子悪党の所業だとあまりにもテンプレ通りにみみっちい行いをする彼らに対して半ば呆れた思いを抱きながら、勇もまた光牙の後に続いた。

 

「あっ! こいつもそうだぜ!」

 

「ようやっと見つけた! ほら、あの金髪の女の子と葉月ちゃん連れて来いよ! 二人の前で土下座すりゃあ許してやっから!」

 

「……ったく、せっかく良い気分で一日が終わると思ったのに、お前たちのせいで台無しじゃねぇかよ」

 

「あ……?」

 

 言うが早いが勇と光牙はギアドライバーを装着する。早くも戦闘態勢に入った二人を見て怖気づく男子たちだったが、数の多さを思い出して威勢よく啖呵を切った。

 

「はっ! たった二人でこの数に勝つつもりか? お前ら馬鹿だろ!?」

 

「……二人じゃ無いよ。四人さ」

 

 もはや戦いは避けられないと判断した謙哉と元々彼らをとっちめるつもりだった櫂も戦列に加わる。新たな敵の出現を前にしてどよめく潮騒学園の生徒たちを真美たちは憐れんだ目で見ていた。

 

「……流石にアタシたちも加わる訳には行かないよね」

 

「弱い者いじめになっちゃうよ」

 

「ま、あいつらだけで十分でしょ」

 

 口々に感想を言い合いながら成り行きを見守るその口ぶりからは危機感は感じられない。戦力の差は歴然としており、どう考えても勇たちが負けるとは思えないからだ。

 

 だからこの喧嘩もあっという間に片付くと思っていた。後始末をどうするかを考えるのが女子の役目であると判断した真美たちはただ見守るだけで良いと考えていた。

 

 しかし……

 

『……良く無いなぁ、実に良くない。こんなくだらない喧嘩なんか、良くないよ』

 

「え……?」

 

 突如、旅館の館内放送が響いた。そこから聞こえて来たのはまるで子供の様な無邪気な声、だが、どこか冷たさを感じる声だ。

 

『勝負したいんでしょ? それじゃあ、ボクの考えたルールでやろうよ』

 

「誰だ? お前は何者だ!?」

 

 何か異常な事が起きている事を察知した勇が大声で叫ぶ。先ほどまでとは違う緊張感がその場に居る全員を包む。

 間違いなく何か悪い事が起きようとしている……勇たちは何か変わった事が起きないかと警戒しながら、謎の人物の行動を待つ。

 

「う、うわぁぁっ!?」

 

 その時だった。潮騒学園の生徒の一人が大声を出して跳び上がったのは

 何事かと彼を見た勇たちは信じられない光景を目にする。それは、小さなリングが彼を包む光景だった。

 

「た、助けてくれぇっ!」

 

 リングに飲み込まれた男子の体が徐々に消え去って行く。それを見た光牙は、そのリングの正体を看破した。

 

「まさか、あれはゲートなのか!?」

 

「なっ!?」

 

 ゲートに飲み込まれ姿を消した男子を見ていた潮騒学園の生徒たちに狂乱が巻き起こる。この場から逃げようと走る彼らだったが、その頭上から次々とゲートが襲来して彼らを飲み込んでいく。

 

「くっ、来るぞっ!」

 

 潮騒学園の生徒たちを飲み込んだゲートたちは、続いて勇たちにターゲットを変えた。迫りくるそれらを躱しながらなんとか安全地帯に逃げ込もうとした勇たちだったが、ゲートを避けきれなかった真美と櫂が飲み込まれてしまった。

 

「うおっ!?」

 

「きゃぁっ!」

 

「櫂っ! 真美っ!」

 

 二人が消えた事に気を取られる光牙、だが彼にも新たなゲートが迫りくる。

 かろうじてそれを躱した光牙だったが、これ以上の被害を出さない様にするために変身できないマリアの手を掴むとこの場から逃げ出そうとした。

 

「こ、光牙さん……」

 

「マリア、ここから逃げるんだ! これは何か異様だ!」

 

「は、はい……あっ!」

 

 驚きで目を見開いたマリアの表情を見て振り向けば、自分のすぐ後ろにゲートが迫って来ていた。避けきれないと判断した光牙はマリアを突き飛ばして彼女だけでも救おうとする。

 

「光牙さんっ!」

 

 自分を庇い、ゲートに飲み込まれた光牙の名前を呼ぶマリア。気が付けば謙哉や葉月、玲とやよいの姿も無い、皆ゲートに取り込まれてしまったのかと不安になっていたマリアだったが、自分の名を呼ぶ勇の声に立ち上がった。

 

「マリアっ!」

 

「勇さんっ!」

 

 互いに手を伸ばし相手の手を掴もうとする二人、しかし、二人を裂く様に出現した二つのゲートに別々に飲み込まれてしまう。

 

「くそっ! マリアーーっ!」

 

 自分の目の前で消えていくマリアの姿を見ながら、勇もまた異世界へと飛ばされてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、ここ、は……?」

 

 勇が次に目を覚ました時、周囲は闇に包まれていた。元々夜だったので当然の事だとは思うが、それには赤く光る月の様な物以外何も浮かんではいない。

 

 周囲の様子から見ても旅館の傍とは考えられない。間違いなくソサエティへ飛ばされてしまったのだと考えた勇が周囲に誰かいないか探そうとしたその時だった。

 

『やぁ、全員エントリーできたみたいだね』

 

「っっ!? この声はっ!」

 

 先ほど旅館で聞いたその声、自分たちをこの場に招いた存在に対しての警戒心が勇の本能に警鐘を鳴らしていた。

 

『じゃあ、早速ゲームを始めようか。簡単にルールを説明するね……』

 

「ゲーム、だと……?」

 

 何を企んでいるか分からない相手は愉快そうに話を続ける。同じとき、同じ世界のそれぞれの場所でこの声を聞いている仲間たちが黙って彼の次の言葉を待つ中、声の主は楽し気に全員に言い放った。

 

『ルールは簡単、この世界から生きて帰ればいいんだよ。生きて帰れば、ね……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――彼女に不幸が訪れるまで、あと??日

 

 

 

 


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