仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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大罪の魔人柱 出現

「良し、今日はこんなところにするか」

 

「う~い、おつかれ~」

 

 軽く剣を振った後で勇は変身を解除する。同じ様にして次々と変身を解除していく仲間たちを見ながら、勇は今日の訓練を振り返っていた。

 

「お疲れ様です!皆さんの戦闘データの解析、真美さんがやってくれましたよ!」

 

「サンキューマリア!良い評価材料になる」

 

 マリアが手渡してくれた個人個人の戦闘データを見て、勇は自分の戦いぶりを見つめなおす。合計3つの違う形態を持っている自分がその全ての力を存分に使いこなせているかを判断するために一つ一つの戦い方を見つめなおしていた勇だったが、しばらくした後で溜め息をついた。

 

「……まだまだだな。まだ中途半端だ」

 

「うへぇ、勇っちってばそんなに強いのにまだ上を目指そうって言うの?真面目だねぇ」

 

「そりゃあな、何時戦国学園とやり合う事になってもおかしくねぇ。次こそは光圀との決着をつける為にも強くならなきゃな」

 

「……そうだね。僕も新しく手に入れたドラ君のカードを使いこなせるようにしなきゃ」

 

 汗をぬぐいながらそう答えた謙哉は自分の手に握られた「サンダードラゴン」のカードを見つめる。勇同様に新たな姿へと変身できるようになった謙哉はその力を十分に引き出して戦えてはいるが満足は出来ていない様だ。何度も試行錯誤しながら自分にとっての戦い方を模索している。

 

「余力があるんなら模擬戦でもするか?実戦形式の方が掴めるもんもあるだろ」

 

「あぁ……残念だけどそれは無理かな」

 

「ん?無理ってどういう……?」

 

「ちょっと、何時まで話してるのよ」

 

 勇の親友に対しての質問を遮って謙哉に声をかけて来たのは玲であった。腕を組み、少し苛ついた目で謙哉を睨んでいる。

 

「ご、ごめん!すぐ行くから!」

 

「あんまりぐずぐずしないでよね。明日も仕事が入ってるんだから」

 

そう言って玲は謙哉が呼び出したバイク「ブルーホース」の後部シートに腰かける。謙哉はそれを確認した後でアクセルをふかせると、二人でソサエティの地平を駆けて行った。

 

「……なんだあれ?どういう風の吹き回しだ?」

 

「ああ、この間のドラゴンワールドのクエストで、玲ちゃんも謙哉さんに協力してドラゴンを育ててたんですよ。でも、自分には何も報酬が無かったから、謙哉さんに詰め寄って報酬をせびったみたいなんです」

 

「で、謙哉っちは玲の言う事聞いてサイドクエストの攻略に手を貸してるみたい。経験値も貰えるし、場合によってはカードも貰えるから謙哉っちにとっても悪い話ではないしね」

 

「へぇ~……あの二人がねぇ……」

 

 勇はそう言って二人が去って行った方向を見る。初めて会った時から合宿までのぎこちなかった関係性がそこまで改善されるとは、流石に勇も想像はしていなかった。

 

「そのおかげか最近玲の機嫌が良いんだよ。時々鼻歌を歌ってたりするし!」

 

「はは、意外と分かりやすい奴なんだな」

 

 勇は玲が上機嫌で鼻歌を口ずさんでいる姿を想像して噴き出した。とっつきにくいイメージを持っていたが、案外接してみれば気の良い奴なのかもしれない。

 

「謙哉っちってすごいね。あの玲をあそこまで懐かせちゃうんだもん」

 

「だな。俺達にはまだツンケンしてるけど、その内普通に接してくれる様になるかもな」

 

 そうなったら思いっきり弄ってやろうと考えた勇は同じことを考えたであろう葉月と顔を見合わせてニシシと笑った。非常に悪い顔で笑う二人に対してやよいはまったく邪念の無い顔で笑っている。純粋に友達の幸せを喜んでいるその笑顔を見た二人は、自分たちの心の醜さに少しばかり苦しさを覚えた。

 

「……龍堂くん、ちょっと良いかい?」

 

「あ?何だよ?」

 

 そんな中、話に割って入って来た光牙が勇に声をかける。その声に反応した勇に対して一枚のポスターを手渡した光牙はそれを勇に見せながら話を続けた。

 

「……命さんから連絡があった。来月の頭にはディスティニーカードの第二弾が発売されるらしい。新たなカードが増えれば当然戦略も増える、時間があるならその事について話をしたいと思っていたんだが」

 

「ああ、構わねぇぜ。どうせ暇だし、情報のフラゲも興味あるからな」

 

「ありがとう、龍堂くんの戦略眼は確かだから頼りになるよ。新田さんと片桐さんはどうする?」

 

「私たちも参加します!学園長が言ってたんですけど、第二弾にはディーヴァ関連のサポートカードも豊富に収録されてるって聞いたので、少しでも予習しておきたいんです!」

 

「わかった。俺も命さんから聞いている情報はすべて伝えるよ。一緒に有効な戦術を見つけ出そう」

 

「はい!」

 

 にこやかに笑うやよいに対して笑みを見せた光牙は、振り返るときりりと引き締まった表情を見せて他の生徒たちに撤収の指示を出した。それに従って帰り支度を始める生徒たちを見ながら勇は考える。

 

 今現在、自分たちのレベルは大体20ほどだ。多少のばらつきはあるものの平均的にはそのあたりだろう。最初は1レベルから始めたこの戦いにもだいぶ慣れて来た。

 戦いの経験を積み、戦術の幅を広げ、仲間との絆を深めている。ソサエティ攻略の為の準備は着々と整っており、青春も謳歌できている。まさに順風満帆だ。

 

「勇っち、早く行こうよ!みんな待ってるよ!」

 

「おう、今行く!」

 

 何も問題は無い様に思えた。何もかもが順調に思えていた。

 しかし、水面下では様々な思惑が絡み合っている事を、このときの勇は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……親愛なる政府の諸君、初めまして……私の名はマキシマ、君たちから機械魔王と呼ばれている者だ』

 

 暗い会議室の中、深刻そうな表情をした何人もの人間が黙ってそのボイスメッセージを聞いている。中には額に汗を流している者が居る程の緊張感の中、声は話を続ける。

 

『私が諸君らにメッセージを届けたのは他でもない君たちの為だ……もし、君たちが私を敵に回したくないと言うのなら、今すぐ私のソサエティに対する無粋な侵略は止めたまえ、次々と私の発明が壊されては流石にいい気分はしないのでね』

 

『無論、君たちがどうするかは君たちの判断に任せる。だがしかし、その先にある結果を考えてから行動した方が良いと忠告しておくよ』

 

 マキシマのその言葉に誰もが唾を飲み込んだ。丁寧な口調の中にもギラリと光る殺意を感じさせるその声は、この場に声を出す本人が居ないと言うのに空気を制圧するほどの重みをもっている。

『最期に……忠告ついでにもう一つだけおせっかいを焼いておこう。私よりも厄介な男がそちらの世界を狙っている。あの男の欲望は底無しだ、対処を間違えればその欲に飲み込まれるぞ……では、さらばだ』

 

 最後に一つ忠告とも恫喝とも取れる様な言葉を残してマキシマからのメッセージは途切れた。徐々に静けさを破って行く会議室の中で、一つの質問が飛ぶ

 

「こ、この事は、彼らに話すべきでしょうか……?」

 

「……必要無い。どの道ソサエティを完全にクリアしなければ結局は戦いは終わらないのだからな」

 

 それに対して答えた男の声も少なからず震えている。姿の見えぬ相手からのメッセージは、ここに居る全員を震え上がらせることには十分な結果を残したが……残念ながら、それ以上は何の成果を上げる事も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー5月17日、ジャパンTV局

 

 その日、このテレビ局ではディーヴァの三人の歌番組の収録が行われていた。午前中に仕事を終え、その後で勇たちと合流して薔薇園学園にて定例会議を行う予定であった。

 その前にマリアの提案で皆で食事でも……という事になり、勇たちは収録終わりの時間に合わせて待ち合わせをしていたのだが……

 

「……遅い!あの三人は何をやってるのよ!?」

 

 お怒りの真美、理由は単純で、勇、謙哉、櫂の三人がまだ待ち合わせ場所に来ていないからだ。そんな真美を宥める為に光牙が口を開く。

 

「まぁまぁ、三人とも道に迷ってたみたいだし、悪気は無いんだよ」

 

「ったく、確かに入り口が幾つもあるから迷うかもしれないけど、それならそうと早めに家を出なさいよね!」

 

 お怒りはごもっとも、と言った様子で光牙が肩をすくめる。マリアも困った様に笑ってその場をごまかしていた所にディーヴァの三人が姿を現した。

 

「やっほー!おまた~!」

 

「あれ?三人だけですか?」

 

「龍堂たちはまだ来てないのよ。罰としてあいつらに今日のランチを奢らせてやるわ!」

 

「あはは!そりゃ三人のお財布がピンチになりそうだね!」

 

 葉月がそう言って笑った時だった。小さなコール音と共に誰かの携帯電話が鳴る。ややあってそのコール音に応えたのは、玲であった。

 

「……えぇ、そう。分かったわ」

 

 手短に返事をして電話を切った玲がポケットに携帯電話をしまって顔を上げると、何故か全員が微笑んでいる。その異様な光景に少しだけ怯んだ玲に対して言葉を投げかけたのは葉月であった。

 

「で、謙哉っちは何だって?」

 

「……私、まだ誰からの電話かは話して無いんだけれど?」

 

「だって、玲の携帯に登録されてる人の中でそんなフランクに話せるのって謙哉っち位じゃん!」

 

「……ちっ」

 

 小さく舌打ちをした玲は苦々し気な表情をした後で全員から顔を背けると、そのまま誰の顔も見ないで謙哉からの話の内容を伝えた。

 

「……今テレビ局に着いたそうよ。2番入り口に居るって」

 

「そっかそっか!迷っちゃうと大変だから誰か迎えに……」

 

「私は行かないわよ」

 

葉月の言葉の途中でそう言い切った玲は近くのベンチに座ると自前の音楽プレーヤーを聞いて自分の世界に入ってしまった。もう完全に動かないと主張するその態度に対してあらら、と言った表情を向ける一行の中で、やよいが手を挙げる。

 

「あ、じゃあ私が行ってくるよ!謙哉さんをここに連れてくればいいんだよね?」

 

「ん、じゃあやよいにお願いしようかな」

 

「うん!じゃあ行ってくるよ!」

 

 とてとてと走り始めたやよいを見送る葉月、そうした後で玲に目を向けると小さく呟く

 

「……玲ももうちょっと素直になれば良いのにな~」

 

 その小さな呟きに対して苦笑する面々、葉月もまた小さく笑うが玲がこちらをぎろりと睨んでいる事に気が付いてビクッと震える。

 葉月は玲のまるで聞こえているぞとでも言っているかの様なその表情にガタブルしながらも、努めて明るい口調で声を出した。

 

「さ、さ~て!今日は何食べよっかな~!?楽しみだな~!」

 

「……それにしても勇さんと櫂さん、遅いですね」

 

「ああ、何をやってるんだろう?」

 

 マリアの言葉に対してそう答えた光牙はまだ連絡も無い二人の事を心配しながら首を傾げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~!もうここどこだよ!?」

 

 その頃、テレビ局の地下駐車場では勇が大声で怒鳴っていた。案内に従って歩いてきたはずなのだが、何故かこんな暗い所に迷い込んでしまったのだ。

 謙哉たちに連絡を取ろうとしてもここは地下、当然の様に圏外になっており電話も出来ない。イライラしながらも今来た道を戻るべきか適当なエレベーターに乗ってとりあえずテレビ局内に入るかを悩んでいると……

 

「だっはっは!龍堂、まさかお前迷ったのか?」

 

「あぁん……?」

 

 自分を嘲笑う声に振り向いて見れば大笑いする櫂の姿が目に映った。苛ついているこの状況でそう言われるとムカつきも倍増する。未だに笑い続ける櫂に対して勇は冷ややかに言い放った。

 

「……てか、お前もここに居るって事は迷ったんじゃねぇのか?お前、馬鹿な上に方向音痴かよ」

 

「んなっ!?てめぇも同じ穴の狢だろうが!それに俺は馬鹿じゃねぇ!お前より成績は良いぞ!」

 

「はっはっは!やっぱお前も迷ったのか!おい、頭にとんでもなくでかいブーメラン突き刺さってんぞ!」

 

「てめぇ!馬鹿にしてんじゃねぇぞ!」

 

「先に仕掛けたのはお前だろうがよ!」

 

「「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」」

 

 二人して睨み合いバチバチと火花を散らせる勇と櫂、今日はストッパーとなる人物が誰もいない為、今にも取っ組み合いが始まってもおかしくない状況になっている。

 とりあえず相手から視線を逸らすまいと睨み合いを続けていた二人だったが、自分たちの周囲に気配を感じて振り返った。すると……

 

「ギ…ギギッ……!」

 

「んなっ……!?」

 

 自分たちを取り囲むようにして鳴いているのはエネミーではないか、種類は様々だが徐々に包囲を狭めるようにして距離を詰めて来る。

 睨み合いから一転、この急展開を呑み込めない二人は背中をあわせて状況を確認し始めた。

 

「お、おい!これってエネミーだよな!?」

 

「ど、どう見てもそうだろ!?一体どこから湧いて来やがった!?」

 

「テレビ局にゲートが出たのか!?もう発見されてんのか!?光牙たちも戦ってるのかよ!?」

 

「んなもん俺に聞かれても知るか!」

 

 櫂の叫びに対して怒鳴り返す様にして返事した勇は懐からギアドライバーを取り出す。遅れて櫂も自分のドライバーを取り出し、二人で変身しようとしたその時だった

 

『……わしの声は、聞こえているか?』

 

 突如館内放送が響き渡り、低い男性の声が聞こえて来たのだ。その声に反応したかの様に動きを止めたエネミーの大群を見た勇と櫂は驚いてその放送に注目する。

 

『ジャパンTVの職員の諸君、および本日収録にやって来たタレントの諸君、そして……仮面ライダーよ。初めましてだ、わしの名前は「強欲魔王 ガグマ」……君たちと敵対する者だ』

 

「なん……だと……?」

 

 低い男性の声は自らを『強欲魔王 ガグマ』と名乗ると話を続けた。まさかの事態の連発に驚きを隠せない勇たちも黙ってその話を聞き続ける。

 

『既に状況は分かっているだろう、わしはこのジャパンTVを占拠した。大量のエネミーをばら撒き、この建物の最上階に陣取ってその惨状を眺めさせてもらっているよ』

 

「魔王が……ここに、居るだと?」

 

『だが安心して欲しい、今日は君たちとゲームをしに来ただけだ。非常に簡単なゲームさ』

 

『今から一時間以内に最上階に居るわしの元に誰か一人でも辿り着けたなら、わしは素直に引き上げよう。無論、我が軍勢も退かせる。しかし、もしも出来なかったら……その時は、このテレビ局がデータに変わり、ここを拠点として大量のエネミーが人間界に進出することになるな』

 

「なんだと!?」

 

 勇のその声など聞こえているはずもないガグマはたっぷりと愉快そうに笑った後で静かな、そして狂気を込めた声で言った。

 

『さぁ……今から一時間だ、急げよ勇者たち、手遅れになっても知らんぞ?』

 

 その言葉を最後に放送は途切れる。同時に地下駐車場に居たエネミーたちも勇たち目がけて襲い掛かって来た。

 

「くそっ!マジで魔王が来てんのかよ!?」

 

「話を聞く限りはそうだろうが、今はそれどころじゃねぇ!」

 

 迫るエネミーを上手く捌き、一度距離を取った二人はカードを構えると敵を睨む。

 

「今は一時休戦だ、こいつら片付けて謙哉たちと合流しねぇと!」

 

「ちっ!お前と組むのは嫌な気分だが、仕方がねぇ!」

 

 嫌々ながらも協力することを決めた二人は手に持ったカードをドライバーに通して変身する。勇はディスティニーソードを、櫂はグレートアクスを召喚すると、そのままエネミーの大群へと挑みかかって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんなんだ今の放送は!?強欲魔王がここに居るのか!?」

 

「嘘でしょ…?」

 

「……ドッキリ番組、って訳じゃ無さそうね」

 

「こんな……こんなのって、ありなの?」

 

 正面玄関前に居た光牙たちはガグマの放送にそれぞれ驚きの反応を示していた。突如現れた大ボスに対して状況を受け止め切れない彼らだが、マリアがとある一点を指さして叫んだのを機に正気を取り戻す。

 

「あ、あれを見てください!」

 

「ギァーォ!ギャーオッ!」

 

 マリアの指さした方向を見れば、そこには大量のエネミーに襲われている人々の姿があった。皆成す術無く逃げ惑い、恐怖に叫んでいる。

 

「……今は状況の確認は後回しだ!」

 

「うん!あの人たちを助けないと!」

 

 光牙、葉月、玲は駆け出すとエネミーたちの前に立ちはだかる。襲い来るエネミーたちを撃ち倒し、テレビ局の職員たちを避難させた三人は、ドライバーを取り出すと叫んだ。

 

「変身!」

 

<ブレイバー! ユーアー主人公!>

 

<ディーヴァ! ステージオン!ライブスタート!>

 

「真美とマリアは避難の誘導を頼む!」

 

「わかったわ!」

 

 真美たちに後ろを任せると光牙は敵の中へと切り込んでいく、エクスカリバーで並み居る敵を切り倒し、一体一体を光の粒へと還していくもまだまだ敵の数は減らないでいる。

 

「この間のドラゴンの時に比べれば少ないけど!」

 

「どの道、こうも数が多くちゃきりが無いわね」

 

 葉月と玲も次々とエネミーを倒してはいる。しかし、それ以上に存在する敵に対して辟易していた。

 数体居るエネミーを纏めてロックビートソードで切り倒した葉月は、同様にエネミーを倒している光牙に向かって叫ぶ

 

「白峯!ここはアタシたちに任せて、アンタは最上階に向かって!」

 

「し、しかし……」

 

「一時間以内にガグマの元に誰もたどり着けなかったらこれ以上の被害が出るわ、この程度の敵なら私たち二人でも十分に対処できる、だから先に行きなさい」

 

「……わかった!ここは任せたよ!」

 

 光牙はそう言うと玲の援護射撃を受けながらエネミーの群れを掻き分けて先に進んで行く。後を追おうとするエネミーを葉月が切り倒して引き受けると、ギターの弦を弾きながら楽しそうに笑って言った。

 

「さぁ、アタシたちのライブに付き合って貰おうじゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁん!」

 

「ギョイゥッ!ギャガッ!」

 

 テレビ局内Dスタジオ、ここでは子供向け番組の収録の為にたくさんの子役たちが集まっていた。入り口から離れた場所にあったこのスタジオ内に居たために避難が遅れた撮影メンバーにも、エネミーたちの魔の手が迫る。

 泣き叫ぶ子供たちを庇いながら後ろに退いて行くスタッフたちだったがなにしろここは室内スタジオ、あまり広くないが故にあっという間に追い詰められてしまう。子供たちの数よりも多いエネミーが手を振り上げたその時、ピンク色の光弾が放たれエネミーたちの背中にぶち当たった。

 

「助けに来ました!もう大丈夫です!」

 

 スタッフたちが驚いて入り口を見てみれば、そこには変身したやよいの姿があった。プリティマイクバトンをライフルモードに変形させて構えるやよいは次々と引き金をひいてエネミーを倒していく。

 

「ギッ!ギャギッ!」

 

 仲間が倒されている事に危機感を持ったエネミーたちは狙いを抵抗する力のないスタッフたちからやよいへと変える。この邪魔者を倒してから無抵抗の人々を襲えば良いと判断した彼らがやよいに向けて一歩を踏み出した時、彼らの背後にコバルトブルーの影が飛び込んできた。

 

<サンダー!>

 

「片桐さん、避けて!」

 

 左手に雷を纏った謙哉が叫ぶと同時に拳を地面へと振り下ろす。そこから伝った電撃がエネミーたちを捉え、全員を硬直させた。

 

「謙哉さん、ナイスです!あとは任せてください!」

 

<フラッシュ!ボイス!>

 

<必殺技発動!ファイナルソングディーヴァ!>

 

 謙哉の一撃で動きの止まったエネミーたちにやよいの発動した強力な必殺技が直撃する。ピンク色の音符やレーザービーム、その全てが敵へと襲い掛かり光の粒へと還していく。

 そんな中、一体のエネミーが周りの仲間を盾にしてその攻撃を必死に防いでいた。骸骨騎士の様な姿をしたそのエネミーは、飛び交う攻撃を防ぎ切り得物である長い剣を手にしてやよいに襲い掛かって来る。

 やよいは斬りかかって来る一撃をまず防ぎ、骸骨騎士へと反撃する。プリティマイクバトンをロッドモードに変形させて接近戦を試みるも繰り出した攻撃は骸骨騎士の剣によって弾かれてしまった。

 

「あっ!?」

 

「ウウゥゥッッ!」

 

 がら空きになったやよいのボディに再び剣を振るう骸骨騎士、しかし、二人の間に入って来た謙哉がその攻撃を盾で防ぐ。そのまま手にしていた「サンダードラゴン」のカードをリードした謙哉はドラグナイトイージスへとフォームチェンジした。

 

<ドラグナイト! GO!ナイト!GO!ライド!>

 

 「雷竜牙 ドラゴファングセイバー」を召喚した謙哉はやよいから骸骨騎士の相手を引き継ぐと息もつかせぬ猛攻を仕掛ける。雷属性を持つ剣はたとえ防御したとしても痺れる電撃を相手に与えていく、剣を持つ手から感じる痛みと痺れに骸骨騎士は堪らず謙哉との打ち合いを拒否した。

 

「良し、これならっ!」

 

<ドラゴウイング!>

 

 自分が押している今の状況を好機と見た謙哉が新たなカードをリードすると謙哉の背中から蒼い翼が生えてきた。膝を曲げ、大きく跳躍した謙哉は背中に生えた翼のを羽ばたかせそのまま空中で静止し、ホルスターから二枚のカードを掴む。

 

<キック!サンダー!>

 

<必殺技発動! ライジングダイブ!>

 

 電子音声と共に謙哉の左足に収束する蒼の雷、翼をはためかせてさらに空中高くまで舞い上がった謙哉は、一気に骸骨騎士目がけて降下して来た。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「グッ!?グオォォォッ!!!」

 

 天空から落ちる雷の様なその一撃を避ける事も躱す事も出来なかった骸骨騎士は胸部に謙哉の左足を受けて大きく後ろに吹き飛ぶ。電撃が体を焦がしキックの衝撃が自身を貫く中で、骸骨騎士は断末魔の悲鳴を上げて爆発した。

 

「……終わり、かな」

 

「スタッフと出演者の皆さんの避難は終わりました、次に行きましょう謙哉さん!」

 

「うん!分かった!」

 

 強敵を撃破した謙哉はやよいに促されるままに次の撮影現場へと向かう。出来る限りの人命を救助してから最上階に向かおうと決めた優しい心の二人は、助けを求める人々を救うべくテレビ局内を駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<パワフル!スロー!>

 

「これでも喰らいやがれっ!」

 

<必殺技発動! ブーメランアクス!>

 

 カードを使った櫂の一撃が飛ぶ、数体の雑魚エネミーを蹴散らして飛ぶ斧は真っ直ぐにその先に居る標的へと向かって行った。

 謙哉とやよいが相対した骸骨騎士とよく似た姿をしているそのエネミーは、騎士と言うよりかは戦士と呼んだ方がしっくりくる姿をしていた。身に纏っている鎧は大きく武骨で、手に持っている武器も手斧と技巧よりも力という印象を受ける。

 

「グウゥオォォッ!」

 

 突如叫んだその骸骨戦士は武器である手斧を振るい迫り来る櫂のグレートアクスに斬りかかった。金属と金属のぶつかる音と火花が舞い、空気を震わせる衝突があった後に力負けしたグレートアクスは櫂の元へと戻って行く。

 

「くっ……あの野郎、なかなかやるじゃねぇか」

 

「……おい、あいつの後ろにあるものが見えるか?」

 

 勇のその言葉に櫂が骸骨戦士の後ろを見てみると、そこには巨大なエレベーターの扉があった。上に『機材搬入用』と書かれている事から見るに、ジャパンTVの内部へと繋がっているのだろう。

 

「あれに乗れば、一気にテレビ局の上階までたどり着けるってわけか……!」

 

「そう言うこった、その為にもまずはあのお邪魔虫を片付けんぞ!」

 

 言うが早いが勇がディスティニーソードを構えて斬りかかる。櫂もその後に続いて攻撃を仕掛けるも、骸骨戦士は予想外のパワーで二人に応戦して来た。

 

「グオォッ!ガァァァッ!」

 

「ぬおっ!?」

 

「なっ!?」

 

 二人の同時攻撃を斧で防ぎ、そのまま押し返す。桁外れのパワーに驚く二人の体に向けて大きく斧を振るう骸骨騎士の動きはスローだが、身体に当たった攻撃の威力もまた桁外れだと判断した勇は戦い方を変更した。

 

「それならこれでどうだ!」

 

<ディスティニー! スラッシュ ザ ディスティニー!>

 

「おおっしゃっ!」

 

 サムライフォームへと変身し、二刀流モードへと変形させた刀を構えた勇が再び骸骨騎士へと挑む。最初の一撃は斧で防がれてしまうも、それを受けて繰り出した二本目の刀の斬撃が相手の胴を捉え、確かなダメージを与えていく。

 相手の防御を掻い潜る様に二本の刀で攻撃を仕掛ける勇の前に旗色が悪くなっていく骸骨戦士、それに追い打ちをかける様にして参戦した櫂がグレートアクスを振るえば、その一撃に大きなダメージを受けてその場に膝を付いてしまう。

 

「おっし!決め時だな!」

 

「同時に行くぜ!」

 

 押し込まれ、動きを止めた骸骨戦士に向けて二人は必殺技発動の構えを取る。櫂は再びグレートアクスを投擲する構えを見せ、勇もまたブーメランモードへと変形させたディスティニーエッジを手にしていた。

 

<合体必殺技発動! ダブルブーメランストライク!>

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

「でりゃぁぁぁっ!」

 

 放たれた二人の必殺技は二つの竜巻となり骸骨戦士を飲み込む。斬撃の嵐に巻き込まれた骸骨騎士は成す術もなく切り刻まれるとその竜巻の中で爆発した。

 

「グギャァァァァァッ!!!」

 

「よっしゃ!これで先に進めるぜ!」

 

 地下駐車場の敵を一掃した勇と櫂は機材搬入用のエレベータへと乗り込むと一番上の階のボタンを押す。扉が閉まった後でゆっくりと昇って行くエレベーターの中で、二人は黙って上へと昇って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、一人最上階を目指す光牙の前にも強敵が立ち塞がっていた。少し距離を取って自分を見つめるその相手は弓を携えた骸骨武者、狙いを定めて的確に自分を射抜こうとしてくるこの敵に光牙は苦戦を強いられていた。

 

(くっ……!俺には龍堂くんや水無月さんの様な遠距離攻撃は出来ない……この敵をどう攻略すれば良いんだ…!?)

 

 自分目がけて射られる矢を躱し物陰に隠れながら接近しようとしても骸骨武者は光牙から離れた位置へと移動してしまう。壁際に追い詰めようとしてもそれをさせるまいと射られる矢が自分を誘導し、逆に追い詰められる始末だ。

 

(こうなれば一か八かだ!)

 

 覚悟を決めた光牙は隠れていたカウンターから飛び出すと骸骨武者目がけて一気に飛び掛かる。飛んでくる矢をエクスカリバーで切り払い、着地と同時に再び敵目がけて跳躍する。

 迎撃するのならその全てを切り払って剣の届く距離まで接近する。逃げようとするのなら追い縋って叩き切る……強い覚悟と共に距離を詰めた光牙は、ついに間合いに骸骨武者を捉えた。

 

「そこだぁっ!」

 

<フォトン!スラッシュ!>

 

<必殺技発動! プリズムセイバー!>

 

 光属性付加と斬撃強化の効果を得たエクスカリバーが唸る。飛び掛かる勢いのままに繰り出された必殺の一撃は骸骨武者を捉え、そのまま両断した。

 

「ギィィィィィッッ!?」

 

 上半身と下半身が泣き別れした骸骨武者が唸り声をあげて爆発する。その横を斬り抜けた光牙は振り返ると、倒したエネミーの後ろにあった大きなドアを見据えた。

 

「ここが最上階、会長室……!」

 

 強欲魔王ガグマが待つ部屋を前にした光牙が呟く、震える脚を抑えて一歩踏み出そうとした時、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「光牙ッ!」

 

「櫂!龍堂くん!無事だったんだね!」

 

 振り向けば櫂と勇がこちらに駆けて来ていた。二人の無事を喜びぶ光牙の目に次々と仲間たちの姿が飛び込んでくる。

 

「正面玄関のエネミーの掃除、終わったよ!」

 

「避難誘導は美又とルーデンスに任せたわ」

 

 自分の昇って来た道からは葉月と玲が駆けつける。大量のエネミーを倒してきたと言うのに二人の口調は微塵も疲れを感じさせない物だ。

 

「ごめんなさい、遅くなりました!」

 

「ここに来るまでにあったスタジオの中に居た人たちは全員助けたよ!」

 

 別の入り口からは謙哉とやよいが姿を現す。自分がここまでたどり着くまでの間に救助活動を済ませて来た二人の手腕に光牙は内心舌を巻いていた。

 

「なんとか全員揃ったみたいだな。あとは……」

 

「……時間は放送から50分、間に合ったみたいだね」

 

 時計を見て呟いた謙哉の言葉に頷くと光牙は会長室のドアに手を伸ばす。自分を見つめる仲間たちの視線を背中に感じながら、光牙は一気にそのドアを開いた。

 

「……て、敵は…!?」

 

「……なるほど、一時間以内に辿り着いたか……これは予想以上の実力を持っていると推察するよ」

 

 部屋の中から聞こえる低い男の声に一同は身構える。会長室の中は別段異常は見受けられないが、たった一つだけ確認できていないことがあった。

 それは、部屋の奥にある椅子に座る何者かの姿だった。背もたれをこちら側に向けている為に座っている者の姿が確認できないが、声を聞いた勇たちはそこに居るのがガグマである事を理解していた。

 

「……どうした?姿を見せたらどうだ?」

 

「そう緊張するなよ、ご対面と行こうじゃないか」

 

 敵を目の前にして緊張している光牙の声に反して非常に穏やかな口調で話しかけるガグマ、ゆっくりと回転する椅子から視線を離せずにいた勇たちは、とうとう正面に向いたそれに座る者の姿を見る。

 

 灰色の大きな体、頭に生えた二本の禍々しい角、赤く光る瞳……悪しき姿を持ちながらも、その体を包むようにして黄金の鎧と貴金属を纏っているその姿は、まさに『魔王』と呼ぶに相応しいだろう。

 口を開くとそこからは黒く思い空気が溢れて来る。その姿に気圧される勇たちを見たガグマは、赤い目を細めて笑う様な表情を見せながら挨拶をした。

 

「どうも、虹彩、薔薇園の仮面ライダー諸君……わしの名は『強欲魔王 ガグマ』、こうして顔をあわせて話すのは初めてだね」

 

 ただ話しかけられただけで体に何か重いものがのしかかって来た様な錯覚に襲われる。ガグマの圧倒的な覇気に押されながらも、光牙は鋭く相手を睨んで叫んだ。

 

「答えろ!何故こんな事をした!?何が目的でジャパンTVを占拠したんだ!?」

 

「何と言われてもな……最初に言っただろう?ゲームをしようと……」

 

「なっ…!?じゃ、じゃあ、貴様はただそれだけの為にこんな大掛かりな事を仕掛けて来たのか!?」

 

 その質問に対してさも当然と言う様に答えたガグマに対して目を見開きながら光牙は問いかける。それに対してゆっくりと頷いたガグマは、何でもない様な口調で話を続けた。

 

「その通りだよ。わしのソサエティを荒らす者どもがどれだけの実力を持っているか知りたくてね、ちょっと現実世界に出向いて見たと言う訳さ」

 

「それだけの為にこんなにたくさんの人を巻き込んだのか!?」

 

「何も驚く必要はないだろう?君たちだって国中を挙げてわしたちの住処を荒らしているじゃないか、それに比べたら大した規模でもあるまいに」

 

 くっくっ、と喉を鳴らして笑うガグマに対して底知れぬ恐怖を抱く光牙、しかし、その思いを振り払うと手に持つエクスカリバーを構える。

 

「……だが、それだけの為に俺たちの前に姿を現したのは失敗だったな!ここでお前を倒せばゲームクリアだ!」

 

「ほぅ……?」

 

 光牙は叫ぶと同時にガグマに向かって飛び掛かる。状況は圧倒的にこちらが有利だ、この好機を逃してはならない。そう判断した光牙はガグマを打ち取るべく攻撃を仕掛けたのだ。

 

「その首貰ったぁっ!!!」

 

<必殺技発動! プリズムセイバー!>

 

 エクスカリバーがガグマに迫る。すでに発動していた必殺技によって強大な攻撃力を持った攻撃がガグマに放たれ、光牙は勝利を確信した。 …………だが

 

「……温いな。手加減など不要なのだが」

 

「な……?」

 

 自分の持つ剣を片手で受け止めたガグマはそう言って笑った。渾身の一撃を容易く受け止められた光牙は呆然として立ち尽くしている。

 

「ふんっ!」

 

 ガグマは光牙のその無防備な体に掌底を叩きこむ。たった一発の攻撃、だが、それに秘められていたのは今までの戦いの中でも受けた事の無いほどの威力であった。

 

「がっ、はっ!?」

 

「こ、光牙っ!」

 

 吹き飛ばされ、部屋の壁に叩きつけられた光牙に櫂が駆け寄る。自分の攻撃を受けて立ち上がれない光牙を見たガグマは、つまらなそうに呟いた。

 

「……この程度か、つまらん相手だな」

 

「なん……だと……っ!?」

 

「攻撃も防御もなっていない。わしのゲームを突破して来た時は多少期待したが……やはり羽虫程度の存在か」

 

「俺たちが……虫…だと……っ!?」

 

 その言葉に激高して立ち上がろうとする光牙、しかし、ダメージが大きいのか立つ事もままならない。光牙が悔しさに歯を食いしばっていると、どこからか彼を嘲笑う様な声が聞こえて来た。

 

「駄目よ~、そんな無理しちゃあ!弱いんだから這いつくばって無いと!」

 

 何処からか聞こえてくる女性の声、しかし、それを発した人物の姿は見えない。

 その事に困惑していた光牙たちの前に突然4つの影が飛び出してくると、それは実体を持って姿を現した。

 

「うふふ……頑張るのは良いけど、自分の力量を考えないと駄目よ坊や」

 

 そう言って笑うのは女性であろう異形の化け物であった。血の濁った様な赤色の体をしており、口元には微笑を浮かべている。しかし、その微笑みと柔らかい口調に対して彼女から発せられる雰囲気にはぞっとするほど冷たい何かがあった。

 

「……ずいぶんと傲慢だな。いや、彼我の実力差が分からぬ愚か者であるか」

 

 腕組みをした黄色の魔人がそう呟く、冷たい視線で光牙を見るその目には、ありありと侮蔑の色が籠っていた。

 

「まぁ、目の前に敵の親玉が居たらそうするよね……強ければの話だけどさ」

 

 緑色の体をした子供っぽい口調の魔人は光牙の行動に対しての評価を送った。勿論と言うべきか、そこには足りない実力に対しての皮肉も混じっている。

 

「ひ、ひひ……羨ましいなぁ、が、ガグマ様に触れてもらえるなんてさ……し、嫉妬しちゃうなぁ、僕……っ!」

 

 最後に口を開いた紫色の魔人は狂気の入り混じった声でぶつぶつと呟いた。彼だけは光牙を見ずに視線は空へと向けられている。出現した化け物の中で、彼は特有の雰囲気を放っていた。

 

「な、何者だ……?」

 

「我らはガグマ様に使える大罪の魔人柱、我が名は『傲慢のクジカ』」

 

「同じく『怠惰のパルマ』」

 

「し、『嫉妬のミギー』……」

 

「『色欲のマリアン』よ、よろしくねぇ~」

 

「……とまぁ、ここに居るのがわしの配下の中でも選りすぐりの者たちだ。君たちに倒された『暴食のドーマ』ともう一人『憤怒の魔人』が欠席だが……まぁ、気にしないでくれ給えよ」

 

 魔人柱たちはガグマの言葉を受けて思い思いに威圧感を飛ばす。押し潰す様に、飲み込む様に、そして壁を作る様にと向けられたプレッシャーに光牙たちは息をするのも忘れて動きを止めていた。

 

「うふふ……可愛いじゃない。ねぇガグマ様、この子たちを可愛がってあげても良いかしら?」

 

「構わんよ、ほんの少し挨拶をしてやれ」

 

「ありがとうございますわ、それじゃあ……うふふ………!」

 

 微笑みながら一歩踏み出した色欲の魔人、マリアンの動きを見逃さぬよう全員が彼女に注目していた。しかし、マリアンはその場から一歩も動かずにただ笑い続けているだけだ

 

「な、なんだ……?攻撃をしてくるんじゃないのか……?」

 

「うふふ……そんなに怯えないでよ、とっても楽しい事、しましょ?」

 

 妖絶に笑うマリアンからは敵意の様なものは感じられない。それでも油断することなく彼女に注目していた光牙たちだったが、突如やよいが床に膝を付くとガタガタと震え始めた。

 

「さ、寒い……」

 

 やよいの口からは白い息が漏れている。春である今の時期にそんなことが起きるはずが無いと困惑する光牙だったが、とあることに気が付いて目を見開いた。

 吐く息が白いのはやよいだけでは無い。自分の傍に居る櫂も、やよいの近くに居る勇たち4人も、そして他ならぬ自分の息もまるで冬に吐く息の様に白く染まっているのだ。

 そして、それは明らかな異常となって光牙たちに襲い掛かった。極寒の大気が光牙たちを凍てつかせようと吹きすさぶのだ、変身していると言うのにこれほどの異変を感じるとは、まさに驚異的と言う他無い。

 

「ほら、早く何とかしないと凍り付いちゃうわよ?」

 

「あ……ぐ……あ……」

 

 マリアンの挑発を耳にした光牙は抵抗を試みるも寒波に負けた体は思う様に動かない。徐々に足から凍り付いて行く自分の体を見て恐怖に引きつるも何も出来ないでいる。

 

「あら?まさかこれでお終いなの?がっかりねぇ……」

 

 斧を投げようとした櫂だったが、その手は完全に凍り付き斧を放す事が出来なかった。銃を向けようとした玲も寒さで頭が上手く回らないのか狙いを定められないでいる。

 結局何も出来ないまま倒れ伏した光牙が諦めかけた時、ギアドライバーの電子音声が部屋に響いた。

 

<フレイム!>

 

「う……おおぉぉぉぉぉっ!」

 

 炎属性付加のカードを使用した勇が叫び声と共にマリアンに突っ込んだのだ、急接近した勇はマリアンに肉薄しディスティニーソードを振るおうとするが……

 

「ふふ……頑張ったけど、それじゃ駄目よ」

 

 嘲る様な笑いと共にマリアンが勇に手を向ければ、その手から放たれた吹雪が勇を包む。あっという間に勇の体に纏っていた炎は消え去り、光牙たちを超えるスピードで凍り付いて行く勇に対して葉月の悲痛な叫びが飛んだ。

 

「い、勇っ!」

 

「く……そ……やっぱ、無理か……」 

 

「うふふ……でも、あなたは頑張った方よ。ご褒美に凍らせた後で私の城に飾ってあげるわ、喜びなさい」

 

「だ、だめっ!やめてぇっ!勇を殺さないでっ!」

 

 勢いを増す吹雪によって凍り付いて行く勇を見た葉月の叫びが木霊する。マリアンは嗜虐的な笑い声を上げながら勇を氷像にしようと冷気を浴びせ続けた。

 そんな中、絶体絶命の状況に置かれた勇は震える唇を動かして、小さな声で呟いた。

 

「あとは……まかせた……けん…や……!」

 

<フレイム!ドラゴブレス!>

 

「……は?」

 

 再び鳴り響いた電子音声に驚くマリアンは勇のすぐ後ろに居た男……謙哉を初めて視界に捉えた。勇の陰に隠れて見えなかった謙哉は、すでに自分の左腕に装備されているドラゴンシールドにカードを読み取らせてそれを構えている。

 

<必殺技発動! ブレスオブファイア!>

 

「いっけぇぇぇっ!」

 

「なっ!?」

 

 龍を模した盾の口部分が開き、そこから真っ赤な炎が吐き出される。マリアンの放つ冷気を掻き消すほどの炎が部屋中を包むと共に、魔人柱たちも龍の息吹に巻かれる事になった。

 

(まさかあの男、最初からこれを狙って!?)

 

 マリアンはここに来て初めて勇の思惑を理解した。勇は最初からこれを狙っていたのだ。

 炎属性のカードを使用した自分が囮になり注意を引く、そして敵に特攻すると見せかけて謙哉に自分の持つカードを渡したのだ。後は謙哉の行動を悟られない様に自分が視界を遮る壁となって時間を稼ぎ、最後に広範囲属性攻撃の出来る謙哉が勇のフレイムのカードを使って攻撃をしつつマリアンの与えて来た氷によるダメージを回復する。

 

 自分の危険を顧みずに行動するその勇気、そして見事な仲間との連携によって危機的状況を打破した勇に対してマリアンだけでなく他の魔人柱たちも警戒を露わにした。炎の中から脱すると先ほどまでの余裕のある態度を崩して構えを取る。

 

(……今は炎で姿は見えない、だが)

 

(この炎が消えた瞬間、貴様が行動する前に先んじてそれを潰す!)

 

(逃げていたとしても同様、その背中を追いかけて確実に殺す)

 

(お前の命は、この炎が消えた瞬間に潰えると思え!)

 

 魔人柱たちは殺気を放ちながら炎を睨む。その中に居るであろう勇に対しての明確な殺意を募らせながら彼が姿を現す瞬間を狙い攻撃の準備を整えていく。

 

 ………だが!

 

<必殺技発動! ディスティニーブレイク!>

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

「なにぃぃっっ!?」

 

 ただやられるのを待つ勇ではない。魔人柱たちが炎が消えた瞬間に総攻撃を仕掛ける事を予想した勇は、それに先んじて攻撃を仕掛けたのだ。

 炎で視界が遮られているこの状況で完全に不意を打つ形で仕掛けられた攻撃は見事に魔人柱たちを欺くことに成功した。紅と黒に輝くディスティニーソードを振りかざしてガグマに迫る勇、それを止めようと魔人柱たちが動き出そうとした瞬間……

 

<必殺技発動! エレクトロックフェス!>

 

「皆まとめて、痺れちゃえっ!」

 

 炎の中から現れた二人目の人物、葉月が必殺技を発動する。全方位に発せられる電撃と音の衝撃、狭い部屋の中でそれを躱す術はなく、致命的なダメージとはならずともその攻撃は十分に相手の動きを止める事に成功していた。

 

「喰らいっ、やがれっ!」

 

 葉月の電撃を受けながらもガグマ目がけて迫る勇、邪魔する者は誰もいないこの状況で自身の最高の一撃を叩きこむべくディスティニーソードを振るう。ガグマに迫る剣はその輝きを増して繰り出され、そして……

 

「ガグマ様っ!」

 

 弾ける黒の光、鮮烈なその輝きに目を焼かれそうになるも魔人柱たちは主の名を叫びその安否を問う。やがてその光が消えた時その場に居た全員が目にしたのは、先ほどまで居た位置より一歩下がったガグマと、剣を振り切った勇の姿であった。

 

「くそっ!しくったか!」

 

 攻撃を当てられなかったことを悟った勇は急ぎ後退して大勢を立て直す。葉月も同じく距離を取り、再び剣を構えた。

 やよいは倒れている光牙を櫂と共に守り、謙哉と玲も再び攻撃を仕掛けられるように準備を終えている。一触即発の空気の中で、それを破ったのはガグマの大きな笑い声であった。

 

「クハハハハハ!愉快、実に愉快だ!まさかお前たちを一杯食わせる男がおったとはな!」

 

「ガ、ガグマ様……!?」

 

 魔人柱の声を無視したガグマが手をかざすと、彼の後ろには黒い渦が出現した。それがゲートである事を直感で理解した勇に対してガグマは自分の鎧から黄金の装飾を引き千切るとそれを投げる。

 

「褒美だ、取っておくと良い。このわしの心を躍らせた事は誇って良いぞ」

 

「どうせならお前を倒した事を誇りたいけどな!」

 

「貴様…っ!言わせておけば……!」

 

「良い、その覇気も中々……ふむ、なかなかどうして気概がある者もいるではないか、わしはお前が欲しくなったぞ」

 

 じっくりと勇を見た後でガグマは謙哉、葉月、やよい、玲へと視線を移していく。最後に光牙と櫂を見た後で、ガグマは再び口を開いた。

 

「お前と……そこの青い奴だな。お前たちは我が兵として召し抱えたいものだ。娘たちは侍らかしたい。美しく強い女子は魅力的なものだ……お前たちはいらんがな」

 

 勇たちをそう評したガグマは静かに笑い続ける。敵であろうと何であろうと欲しい物を欲しいと思うその欲望は正に強欲魔王の名に相応しいだろう。まるで新しい玩具を見つけた子供の様な目を勇たちに向けながらガグマは撤退を始める。

 

「……そうだ、言い忘れていたがわしもこの人間界に攻撃を仕掛ける事にした。お前たちが我が世界に攻撃を仕掛けている以上、これで五分だろうな」

 

 一人、また一人と黒いゲートの中に入って行く魔人柱を見送った後で自分もまたその中に足を踏み入れたガグマは、思い出したように付け加えると全身を渦の中に入れる。徐々に閉じていくゲートの中で、ガグマは最後に勇たちへこう言った。

 

「わしはこの人間界のすべてを手に入れるつもりだ。それを止めたくば必死になってかかって来い。無駄だと思うがな……では、また会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行った、か?」

 

「ああ、立ち去ったみたいだよ」

 

「そうか……っぁ、くっ…!」

 

 危機が去った事を理解した勇は小さく呻くと変身を解除して床に倒れ伏した。マリアンから受けた凍傷、それを溶かす為に受けた炎で負った火傷、そして何より強敵から与えられた心理的重圧によって勇はぼろぼろになっていたのだ。

 

「勇っ!」

 

「大丈夫だ……そんな大したことはねぇ……」

 

「何言ってんの!そんなボロボロの体して!」

 

 葉月の自分を見る目が涙を浮かべている事に気が付いた勇は若干の罪悪感を覚える。止むを得ない状況だったとは言え、あまりにも皆に心配をかけてしまったと反省した勇の肩を抱えた謙哉は、そのまま勇を支えながら歩き出す。

 

「とにかく病院に行こう。手当を受けないと」

 

「城田、白峯の事はあなたが運びなさい。私たちは被害状況の確認をするわ」

 

「あ、ああ……」

 

 玲からの指示を受けた櫂もまた謙哉同様に光牙を抱えると歩き出す。総じて彼らの中に無傷な者は居なかったが、ソサエティ最大の敵である『強欲魔王ガグマ』との接触を経て無事に生還した事は十分な結果だと言えるだろう。

 

 こうして後に「グリードショック」と呼ばれる事になるこの事件は収束した。怪我人は多数、しかし犠牲者0で無事に終わりを迎えたこの事件について、仮面ライダーたちの迅速な対応がクローズアップされ、世論は彼らを称賛する事となる。

 しかし、この日から始める本格的なガグマの侵攻と新たなる驚異の出現に人々は苦しめられることとなり、さらにはこの事件を機に勇の身に大いなる悲劇と試練が待ち受ける事となるのだが……彼らはまだ何も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……彼女に悲劇が舞い降りるまで、あと??日

 

 

 

 


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