仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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龍騎推参 ドラグナイトイージス

「れ~い~!うふふのふ~!」

 

「……何?何の用?」

 

 自分に対して妙に上機嫌な笑みを浮かべている葉月を怪訝な表情で見ながら玲は口を開く、非常に冷ややかな視線を送られていると言うのに葉月は笑顔で玲にこう質問して来た。

 

「玲、最近ソサエティの攻略中にどこか行ってるよね?噂によると謙哉っちと一緒にどこかに消えてるって話ですが、本当の所は!?」

 

「……はぁ」

 

 予想に違わずどうでも良い事を聞いて来たなと玲は溜め息をつく。葉月の横に居るやよいもなんだか嬉しそうな顔で自分を見ているが、なんにせよ若干腹が立つのは変わりない。

 

 確かにこの数日間、玲は謙哉と一緒に彼が保護したドラゴンの子供である『ドラ君』の面倒を見る為に攻略から手を引いていた。貴重なドラゴンのカードが要らないとは言わないが、なんとなくずっとあの山の奥に居るドラゴンに攻撃しても意味が無いような気がするのである。

 只今の日付は5月5日、連休も終盤に入り、今日辺り旅行などに出かけている人たちも帰って来る時期だろう。謙哉にドラ君を紹介されたのが5月に入ってすぐだから、この3、4日間は彼と一緒に行動していたことになる。

 

「……事実よ、最近はあいつと一緒に行動してるわね」

 

 別に隠す必要も無いので正直に答える。余計な嘘などついたら逆に勘繰られるに違いないからだ。だが、その答えを聞いた葉月とやよいの二人は、目を輝かせて玲の肩をぽんぽんと叩いて来た。

 

「やっぱり!なんだよ~、水臭いじゃん!」

 

「うん!とってもお似合いだと思うよ!」

 

「……は?」

 

 玲は思う。この二人は何か勘違いをしている。その勘違いを訂正しないと、とんでもない厄介事が自分に身に起きる、と

 

「……ねぇ、あなた達?もしかして私とあの馬鹿が付き合ってるとでも思ってるの?」

 

「……違うの?」

 

 きょとん、という言葉がぴったりな二人の表情を見ながら頭を抱える。まさかこんな勘違いをされてしまうとは思ってもみなかった。確かにこのところ謙哉と一緒に行動してはいたが、それはあくまで自分のせいで怪我をさせてしまった謙哉への後ろめたさからの行動だ、決して他意は無い。

 だと言うのに、この様な非常に不愉快な噂が立つ始末……溜め息を漏らした玲に対して、やよいは不思議そうに声をかけて来た。

 

「……その反応を見るに、玲ちゃんは謙哉さんと付き合ってはいないんだよね?じゃあ、二人で何をしてるの?」

 

「何って、それは……」

 

 このハードな事実を突きつけられた玲は出来るだけ短く簡潔な言葉で説明して気を落ち着かせたいと思っていた。頭の中で色々と考え、謙哉と共にやっている事を示す一つの単語を思い浮かべるとそれを二人に伝える。

 

「……子育て、かしら?」

 

「……え?」

 

色々と省きすぎた玲の言葉を前に、今度は葉月とやよいが驚く事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~!可愛い~!なにこれ!?おうち持って帰っても良い?」

 

「ダメに決まってるでしょう、普通に考えなさいよ」

 

 数時間後、今日もまたドラゴンワールドへとやって来た玲は、謙哉に許可を取ってやよいと葉月をドラ君を匿っている場所へと連れて来ていた。あまりにも詳細を省いた自分の説明に面食らった二人が『一体何時の間にそこまで深い関係に!?』と慌てて食いついて来たので、口で説明するよりも早いと判断しての行動だった。

 

「こりゃ玲だってここに来ちゃうよね!凄い可愛いもん!」

 

「ぎゅりゅう……!」

 

 葉月に喉をくすぐられたドラ君が満足げな声を漏らす。可愛げのあるその行動に葉月はもうメロメロだ。

 卵から孵った頃から比べてすくすくと成長したドラ君は、今や人間の子供位の大きさになっていた。最初が人の顔位の大きさだったことを考えるととんでもない成長だろう。

 

 たった一週間足らずでここまで大きくなるのかと感心しながら、玲は謙哉に付き合わされて日に日に増えていくドラ君の餌を集めたものだとここ数日間の事を思い返していた。

 

「ごめんね新田さん、長い間水無月さんを借りちゃって……」

 

「良いの良いの!チームと言えどもアタシたちは個人主義でもあるから行動は自由だしね!」

 

 ドラ君に餌を上げながらそう話した謙哉に対して軽く手を振って答える葉月、お互いをそこまで束縛しないと言うのが自分たちのやり方だ、そうでなければクエストの最中に謙哉の手伝いなんてやってられないだろう。

 ちひろに受けた治療が適切だったのか、はたまた狩りを玲に手伝ってもらったおかげで楽が出来たからかは知らないが、謙哉の左腕ももう完治し、普段通りの実力を発揮できる様になっていた。

 

「良いですなぁ……こう、二人の愛の結晶って感じがしてさぁ!」

 

「ちょっと葉月、気持ち悪い事言わないでよ」

 

「だってそうじゃん!謙哉っちがお父さんで玲がお母さん!ドラ君を息子にして仲良く家族団欒を……」

 

「……葉月、ちょっとこっちに来なさい」

 

「わー!玲が怒った!助けて~!」

 

 笑いながら走る葉月を追いかける玲、彼女の表情は葉月とは打って変わって真剣そのものだ。

 相当怒っているのだろうと推察した謙哉は黙って心の中で葉月に黙祷する。というより、彼女は相当怖い物無しなんだなと感心してしまった。

 

「……あの、謙哉さん」

 

「ん?なあに?」

 

 なにもそこまで嫌がらなくってもいいじゃないかと落胆していた謙哉に対して話しかけて来たのは、ドラ君の頭を撫でているやよいであった。玲に捕まり折檻を受けている葉月、やよいはその様子を見ながら謙哉に対して笑いかける。

 

「……ありがとうございます。私たち、謙哉さんのお陰で玲ちゃんの事が分かって来た様な気がするんです」

 

「僕のお陰?そんな、僕は何も……」

 

「ふふふ……そんな事無いですよ。玲ちゃん、謙哉さんと出会ってから変わりました。前よりずっと明るくなって、私たちと話してくれるようになったんです」

 

 嬉しそうにそう言うやよいに対して謙哉は頬を搔きながら玲の方を見る。確かに、初めて会った時よりかは雰囲気が丸くなったかもしれない。でも、それが自分のお陰だとは思えないのだ

 

「……ちょっと前の玲ちゃんは、私たちと一本ラインを引いた感じで付き合ってたんです。そのラインより先には誰も進ませないって感じで、近寄りがたかったんですけど……でも、謙哉さんはそのラインを超えて、玲ちゃんの凄い近くに行っちゃうんですもん、本当にすごいですよ」

 

「そうかなぁ……?僕、誰よりも水無月さんに嫌われてると思うけどな……」

 

「……多分、それは玲ちゃんも戸惑ってるんですよ。今まで凄い近い距離感で人と接した事が無いから、謙哉さんに対してどう接して良いか分からないんです。でも、本心では謙哉さんに構って貰って嬉しいと思ってますよ」

 

「……そうかなぁ?」

 

「そうですよ!チームメイトの事ですもん、私はよく分かってるんです!」

 

 えっへん、と胸を張ってそう答えたやよいは、一瞬後に笑い始めた。その様子がなんだかおかしくて、謙哉も一緒に笑いだす。ドラ君も含めた和やかな雰囲気が流れていく一方で、葉月は相当必死なようで……

 

「ちょっと謙哉っち、やよい!笑って無いで助けてよ!結構シャレにならないってこれ!…………ほら、玲も旦那が浮気しそうになってるんだから何か一言……」

 

「……まだ余裕があるみたいね。もっとえぐいの行きましょうか」

 

「ちょっと待って、アタシがわる………あだだだだだだ!?」

 

 コントの様な二人のやり取りを見ながら、謙哉とやよいはさらに大きな声で笑い続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一時間ほど経った頃、玲は自分の膝に頭をのせて眠るドラ君の頭をそっと撫でていた。もう既にやよいと葉月はドラゴンと戦うために山頂へと向かっており、ここには自分と謙哉の二人しか残っていない。なんとなく乗り気になれないドラゴン退治はもう諦める事にした玲は、このままここに残っていた。

 

(……子供、か)

 

 心の中でぽつりと呟きながら玲は先ほどの葉月の言葉を思い返す。経った数日とは言え面倒を見れば多少は情が湧くと言うものだ、それがこんなに愛らしい姿をした生き物だったらなおさらだろう。

 特に子供というのは無条件で愛らしいものだろう。誰だって愛したくなるし、大切にしたくなる……そこまで考えた所で、玲の心の中に暗いものがよぎった。

 

 なぜ、自分は愛されなかったのだろうか?……いや、愛された過去はある。なぜ、愛されなくなったのか?という疑問の方が正しいのかと思い直しながら玲は考える。

 きっとそれは、『玲なんか大切じゃ無かった』からだ。玲よりも大切な物があったと言った方が分かりやすいだろう。自分に無償の愛を送るはずの両親は、玲よりも大切な物があったのだ。

 

 葉月の言葉を借りるならば、玲は両親の愛の結晶のはずだ。互いに大事に思いあうパートナーと慈しみ、育てる我が娘……しかし、二人が何よりも大切にしたのは『自分』だった。

 

 父も母も、玲を一番に愛してはくれなかった。他でも無い自分自身の為に玲を傷つけ、その声を無視した。

 だから玲には分からない。どうやって人を愛せば良いのか、どうすれば人から愛されるのかが……そんな自分がアイドルだなんてやっている事はお笑いなのだが

 それでも玲は知っていた。アイドルなんていつかは廃れるもの……他の女に目が向いて、ファンもいつかは玲の事を忘れてしまうのだろう。だから、ちょっと夢を見せる位の感覚で良いのだ、それならば分かりやすくて良い。

 

(……私は、誰かの一番になれるのだろうか?)

 

 時々そう考える事がある。自分は誰かにとって一番大切な、愛する存在になれるのだろうか?そしてもしそうなった時に、自分はその相手の愛に応えられるのだろうか?

 

(……何を考えてるのかしら、馬鹿馬鹿しい)

 

 そして毎回自己嫌悪で終わる。誰かに愛される事なんて自分には必要無い……だって自分は一人で生きていくと決めたのだから

 愛とか言う不安定な物で繋がるよりも、打算とか思惑の絡んだ関係の方が楽だ。それ全部を踏み越えて、自分が生きて行けるだけの強さを持てばいい話なのだから

 

 だと言うのに何故だろうか?途方も無く人が恋しくなるのは……丁度最近そう思う事が多くなってきた。それもこれも全部あの男のせいだ。

 玲がそう考えた時だった。

 

「……んぅ」

 

 自分の肩に何かがもたれ掛かって来る感触に驚いて顔を上げれば、謙哉がドラ君同様寝息を立てて自分の肩に頭を乗せているでは無いか

 きっと疲れているのだろう。考えてみれば、謙哉はドラ君の食料調達の他にも地形データの収集も行っていた。それも勇たちドラゴン退治グループのメンバーが帰って来る時間よりも遅くまでソサエティに残って作業を続けていたのだ、疲れもたまるだろう。

 しかし、そんなことは自分には関係ない。嫌いな男に貸すほど自分の肩は安いものではないのだ。玲は手を挙げて謙哉の頭を叩こうとする。「起きなさい、迷惑よ」……そんな一言があれば謙哉も目を覚ますだろう。しかし……

 

 「………」

 

 上げた手をそのまま地面に下ろす。沸き上がって来た感情にほんの少しだけ身を委ねる。

 嫌では無い……嫌いなはずの男に触れられていると言うのに嫌悪感は無く、逆に不思議な安心感を感じる。

 

『玲ちゃんって、本当に謙哉さんの事が嫌いなの?』

 

 ここ数日で何度も思い返していたやよいからの言葉がリフレインする。頭の中では答えが決まっている。

 嫌いなはずだ。争う事を良しとせず、誰に対しても甘く、優しさがあれば人は分かり合えると顔に書いてあるような性善説が服を着て歩いている様なこの男の事など

 だが、ざわつく心がその答えを認めてくれない。彼に優しくされ、気にかけて貰える度に柔らかくなる心が、その答えに対して疑問を投げかけて来るのだ。

  

 (……なんなのよ、これ)

 

 やっぱり嫌いだ、こんな戸惑いを自分に与えて来るこんな男の事など……頭ではそう思いながらも、玲は謙哉に向かって手を伸ばす。徐々に高鳴る心臓の音を耳にしながら、謙哉に触れようとしたその時

 

『ビーッ!ビーッ!』

 

「うひゃいっ!?」

 

「……ん、んん?」

 

 急にゲームギアから流れた警告音に驚き情けない悲鳴を上げる玲、謙哉はその音で目を覚ましたのか目を擦りながら何が起きているのかを探り始める。

 

「……あぁ、天空橋さんからの通信かぁ」

 

 間の抜けた声で警告音の理由を察した謙哉はゲームギアのボタンを押してその通信に応える。画面に映し出された天空橋の顔を見ながら、謙哉は用件を尋ねた。

 

「天空橋さん?どうかしたんですか?」

 

『その様子だと何が起きているかは分かっていないようですね』

 

「……何かあったの?」

 

天空橋の真剣な表情と含みのある言い方に違和感を覚えた玲は、謙哉のゲームギアを覗き込みながら天空橋に尋ねる。その言葉に頷いた天空橋は、つい先ほど入って来た報告を二人に話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天空橋の連絡からさかのぼる事十分前、山頂では勇たちドラゴン退治グループが熾烈な戦いを繰り広げていた。

 約一週間もの間勇たちを苦しめ扉の先へと進ませようとしなかったドラゴン、しかし、今日はその様子がいつもとは違った。

 攻撃も防御も素早さも、すべてがいつもより数ランクダウンしたものになっていたのだ。今までよりも格段に戦いやすくなった相手に対して、虹彩、薔薇園、戦国の三校の生徒たちは今がチャンスと言わんばかりに攻撃を叩きこみ続けた。

 

 すべては自分がドラゴンのカードを手に入れる為……誰もが勝利の先の栄光を望み、ドラゴンに攻撃を続ける。そして……

 

「ギャオォォォォォォォォッ……!」

 

 最後に大きな雄叫びを残したかと思うと、ドラゴンは地に伏して動かなくなったのだ。そのまま消滅していくその巨体を前に、生徒たちはゲームギアを見る。

 普段ならばここでリザルトが入るはずだ。もしかしたらそこでドラゴンのカードが手に入るかもしれない。そう期待を持つ彼らだったが、残念ながらリザルト画面は現れなかった。

 

「って、事は……あの扉の先か!?」

 

 櫂のその叫びと同時に誰もがドラゴンの先にあった赤い扉を見る。あの扉の先に求めているドラゴンのカードがある……そう信じている生徒たちが、我先にと扉へと駆け出そうとしたその時だった。

 

「……ウギャギッ、ギャギャッ!」

 

 扉の奥から何か獣が鳴く様な声がしたと思った瞬間、赤い扉がひとりでに開いたのだ。その光景に誰もが言葉を失っていたが、本当の驚きはここからであった。

 

「ギャーオ!ギャーオ!ウギャーーオッ!」

 

「な、何だ何だっ!?」

 

 叫び声と共に扉の奥から次々と猿型エネミー……『ウォーモンキー』が姿を現したのである。その数は十や二十では無く、数百と数えても良いほどであった。

 わらわらと扉から溢れ出て来るウォーモンキーは各学園の生徒たちを見ると次々に襲い掛かって来る。まだ戦いが続いている事を悟った面々は必死になって応戦するが……

 

「き、きゃーっ!」

 

「だ、駄目だ!数が多すぎる!」

 

 一体のエネミーを倒す間に十体のエネミーが姿を現す。倒すよりも増える方が早い敵の猛攻に戦線は次々と崩壊していく

 

「何がどうなってるんだ!?ドラゴンを倒せばこのクエストは終わりじゃないのか!?」

 

「分かったで!きっとこの猿どもを一番ぶちのめした奴がドラゴンのカードを貰えるんや!」

 

「そうか!そうと分かれば早速……」

 

「……いいえ、そうじゃないみたいよ」

 

 光圀の予想を聞いて飛び出そうとした櫂を静かに抑えた真美は自分のゲームギアを勇たちに見せつけた。そこには一通の通知が来ており、その内容を見てみると……

 

「『ドラゴンカード入手クエスト……失敗』!?どういう事だよ!?」

 

「わからないわ……でも、私たちはクエストに失敗した。もうドラゴンのカードは手に入らないみたいね……」

 

「そんな……!?何が駄目だったの…?」

 

 その事実に打ちのめされたライダーたちは呆然とした表情で画面を見続ける。それは他の生徒たちも同様で、それぞれ自分たちの努力が水の泡になってしまった事にショックを受けていた。

 

「何でだ!?俺たちはドラゴンを倒した、扉を開ける所まで行ったんだ!なのに、なんで……っ!?」

 

「……制限時間」

 

「え……?」

 

「そうだよ、制限時間だ!これが期間限定クエストだってことを忘れてた!」

 

「ど、どういうこっちゃ勇ちゃん?」

 

「時間が来たんだよ!俺たちがドラゴンを倒したからあの扉は開いたんじゃない!もともとこの時間にはドアが開く事になってたんだ!」

 

「え……?じゃ、じゃあ、アタシたちのやってた事って、丸々無駄だったって事!?」

 

「……そうなるな。実際、俺たちはクエストを失敗してるんだから」

 

「そんな……せっかく、新しい力を手に入れられると思ってたのに……!」

 

「……どうやら、嘆いている暇はないらしいぞ」

 

 今回のクエストの失敗について話していた勇たちは、大文字のその言葉に顔を上げると彼が指し示す方向を見て……絶句した。そこには、今まで見た事の無い大きさのゲートが光り輝いていたのだ。

 

「おい……あれ、もしかして戸熊町に続いてんのか!?」

 

「この数が現実世界に行ったら、大惨事になります!」

 

「何とかして止めないと!」

 

 武器とカードを構え、ウォーモンキーの集団に挑みかかるライダーたち、しかし、あまりにも多い敵は数名の猛者だけでは止められず、ウォーモンキーたちはゲートを通り、戸熊町へと繰り出して行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、そんなことが……!?」

 

『謙哉さんと水無月さんも急いで援護に向かってください!最優先で住民の避難を進めていますが敵の数が多すぎて対処しきれないんです!』

 

「分かりました、急ぎます!」

 

 通信を終えた二人は顔を見合わせるとドライバーを構えて変身する。そして、謙哉の取り出したバイクのカードを使い、専用バイク『コバルトホース』を呼び出してそれに飛び乗ると山道を下り始める。

 今までで最大の規模の戦いに緊張が走るが躊躇ってはいられない、急いで戸熊町の住民たちを救わなくては……焦る謙哉と玲は急いで現場に向かう。

 

 だが、この時点で二人が気が付いていないことが二つあった。一つは、謙哉のゲームギアに他の生徒たちとは違う文面が書かれたメッセージが届いていた事。そしてもう一つは……

 

「グ……オォ……ッ!」

 

 今しがた、隠れ家に置いて来たドラ君の体が光り輝き始めていたと言う事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらっ!しゃあっ!」

 

「ぐっ!たぁっ!」

 

 勇がディスティニーソードを振るい敵を両断していく、光牙がエクスカリバーで敵を刺し貫き、櫂が放り投げ、やよいが撃ち抜き、葉月が切り裂き、光圀が切り刻み、仁科が叩き潰す。

 ウォーモンキーは一体一体の戦闘能力は低いため倒すのにそう苦労はしない。だが……

 

「あ、あと何体だ!?」

 

「櫂!無駄口を叩いて無いで戦いなさい!」

 

 櫂のその叫びが全てを表していた。倒しても倒しても、ウォーモンキーの集団はその数を減らしているようには見えない。どんなに戦っても終わりが見えない。その事が、生徒たちの精神を摩耗させていた。

 

「い、何時になったら終わるんだ……?」

 

「もう戦えないわ……」

 

「他の学校の応援は来ないのか!?」

 

 戦う生徒たちの口から弱音が吐き出され、膝を付く者たちが増えていく。今までドラゴンと言う強敵と戦い、肉体的に疲弊していた彼らにとってこれ以上の戦いは無理というものであった。

 仲間は減って行くと言うのに敵の数は増え続けている……その事が皆の心を軋ませ、容赦なくへし折ろうとしてくる。

 

「……も、もしかして……私たち、ここでゲームオーバーなんでしょうか?」

 

「何言ってんだマリア!諦めんじゃねぇ!」

 

「で、でも……こんな数、どうしろって言うんですか?勝ち目なんてあるんですか?」

 

「……何か方法があるはずだ、クリアできないゲームなんて無い!」

 

 自分を叱咤する様に言った勇は考えを巡らせる。このウォーモンキーに弱点は無いのか?そう考えていた勇の耳に、謙哉の声が聞こえて来た。

 

「おーい!皆ーっ!」

 

「謙哉!来てくれたのか!」

 

「ごめんなさい、遅くなったわ!」

 

「玲、やばいよ!どうすれば良いの!?」

 

「皆、落ち着くんだ!まずはあいつらの弱点を探そう、それさえ分かれば……」

 

「……ウォーモンキー、天敵はドラゴン……そうだ!ドラゴンだよ!」

 

 光牙の言葉にかつて自分がウォーモンキーをスキャンした時の記憶を思い出す謙哉、しかし、それを聞いた光牙の声が曇る。

 

「ドラゴン……済まない虎牙君、俺たちは、ドラゴンのカードを手に入れる事に失敗したんだ……」

 

「……弱点は突けない、って事ね」

 

 玲のその言葉に雰囲気がもう一段静まり返る。しかし、そんな中でも考察を続けていた真美が、とあることに気が付いた。

 

「……待って、あいつらの進む道、一方的じゃない?」

 

「は?どういう事だよ?」

 

「こんなに数が居るって言うのにこいつらは全くばらけずに進んでる。まるで誰かが戦闘で道を指し示しているみたいに……」

 

「……リーダーが居るって事か?」

 

「そう。多分、先頭にこいつらの長が居るのよ。こいつらはその長に従って行動してる。そいつを倒せば指揮系統が混乱して、こいつらを倒す隙が出来るかもしれないわ」

 

「でも、どうやって先頭に行くの?勇っちと謙哉っちのバイクでもこの数を斬り抜けて行くのは無理だよ!」

 

 葉月のその指摘にまたも全員が黙り込む。せっかく見えた希望も意味が無く、状況は絶望的だ。しかもそんな中、ウォーモンキーたちが勇たちを取り囲んできたではないか

 

「ウギャギィッ!」

 

「くそっ!どうすりゃ良いんだよ…!?」

 

 ウォーモンキーたちは学園の生徒たちを包囲する輪を徐々に狭めていく、傷つき、疲弊した生徒たちにはこの数を凌ぎ切る余裕はないだろう。

 そして、十分に接近したウォーモンキーたちが勇たちに飛び掛かろうとしたその時だった。

 

「グオォォォォォォォォォッ!!!」

 

 巨大な咆哮を耳にしたウォーモンキーたちは一堂に動きを止めて天を仰ぎ見る。心なしか震えている様に見えるその姿に勇たちが異変を感じた次の瞬間、天空から稲光が走った。

 

「ギャッ!」

 

 雷を受けたウォーモンキーが光の粒へと変わっていく、雷は次々と天から降り注ぎ、その都度ウォーモンキーたちを撃ち倒して行った。

 

「……な、何が起こってるんや?」

 

「味方の増援か?」

 

 突然の出来事に全員が状況を理解できない中、勇たちの上空に何か巨大な物体が姿を現す。翼をはためかせ、ゆっくりと地面に降り立ったそれを見た勇は驚きの声を上げた。

 

「ど、ドラゴン…!?」

 

「グオォォッ!」

 

 勇たちの前に降り立ったそれは間違いなくドラゴンであった。山頂で戦っていたものよりは小さいが、それでも車一台分くらいの大きさはある。

 一体何故ドラゴンが味方をしてくれているのか?その理由が分からない勇たちだったが、謙哉と玲はそのドラゴンの姿を見た瞬間にとある可能性に行きついていた。

 

 蒼い体、大きな翼、鋭い牙、そして何より、自分たちを見る瞳の感覚に既視感を覚えていた謙哉は、まさかと言った様子でそのドラゴンに話しかける。

 

「君……もしかして、ドラ君?」

 

「グオアッ!!」

 

「嘘でしょ…?」

 

 自分の名前を呼ぶ声に元気に反応した青いドラゴンことドラ君は、まだ信じられていない玲の顔をぺろぺろと舐める。その人懐っこい性格が紛れもなく自分たちが育てていたドラゴンのそれと理解した玲は再び彼の姿を見てみた。

 

 人間の子供ほどの大きさしかなかった体は自分たちを遥かに超える巨体に成長した。鋭い牙も大きな翼も、戦いに十分に役に立つだろう。そして何より体に生えている鱗にはバチバチと電撃が流れていた。隙を見て近づいて来るウォーモンキーに対してその電撃で牽制し、時には口から放つ雷撃で敵を灰に変えていくドラ君を呆けた顔で見ていた二人だったが……

 

「グラウッ…!」

 

「え……?」

 

 真っ直ぐに謙哉を見たドラ君は、その口から何か光る物を吐き出した。ふわふわと浮きながら自分の手元にやって来るそれを受け止めた謙哉は、手を開いて手の中に入った物を見て、目を見開いた。

 

「これ…って……!?」

 

 自分が受け取ったもの、『サンダードラゴン』と銘打たれたそのカードを見ながら謙哉は呟く。ドラ君はそんな謙哉に向かって頷いた後で、ウォーモンキーの集団に対して雄叫びを上げた。

 

「グルオォォォォォォォッ!!!」

 

「ギ…ギギッ……」

 

 文字通りの天を震わせるその咆哮にウォーモンキー達は後退る。頼もしく成長したドラ君の横に立った謙哉は、改めて彼に問いかけた。

 

「……僕たちと一緒に戦ってくれるの?」

 

「グルアァッ!」

 

「そっか……ありがとう!それじゃあ!」

 

 肯定するように吠えたドラ君に対して笑いかけた謙哉は、たった今手に入れた『サンダードラゴン』のカードを構える。そして……

 

「一緒に戦おう!ドラ君!」

 

<ドラグナイト! GO!ナイト!GO!ライド!>

 

 そのカードをドライバーへと通した瞬間、青い光が謙哉の身を包む。西洋の甲冑のテイストはそのままに所々に龍の姿を模した刺々しい意匠が鎧に加えられ、その姿が変わっていく。イージス最大の特徴であった左腕の盾、イージスシールドもその形を変え、まるで龍の頭部の様な形の『ドラゴンシールド』へと姿を変えた。

 

「これって、勇さんと同じ…!」

 

 光が消え去り姿が変わった謙哉の姿を見たマリアが呟く、『ナイト』としての特性はそのままに新たに龍の力を手に入れたサガは、『護国の騎士』から『雷竜の騎士』へと姿を変えたのだ。

 これぞ竜騎士ドラグナイトイージス、龍と共に天を駆ける騎士!

 

「水無月さん、乗って!」

 

「え……?」

 

 その言葉と共に玲を抱えた謙哉はジャンプするとドラ君の背中に飛び乗った。自分を育ててくれた恩人を乗せた龍は歓喜の咆哮を上げると同時にその翼をはためかせる。

 

「え?え?ええっ!?」

 

「行くよドラ君!目指すは敵の先頭だ!」

 

「ギャァァァオオッ!」

 

 頼もしく声を返した相棒はすさまじい速度でウォーモンキー達の上空を飛行していく、遮るものの何一つない空を飛びながら、ドラゴンは口から雷のブレスを吐いてウォーモンキー達を倒しながら前進していく

 

「……見えたっ!あれが先頭だ!」

 

 あっと言う間に先頭に辿り着いた謙哉と玲は上空からウォーモンキー達の集団を観察すると、先頭に少し良い装備をしたウォーモンキーの姿がある事に気が付いた。どうやらあれが親玉の様だ、ならば、やる事は決まっている。

 

「水無月さん!ここでドラ君と一緒に援護をお願い!」

 

「あなたはどうするの?」

 

「降りて直接あいつを叩く!」

 

 その言葉と同時にドラゴンの背中から飛び降りた謙哉はサンダードラゴンのカードを手に入れると同時に入手したカードを取り出すとドライバーに読み込ませた。

 

<雷龍牙 ドラゴファングセイバー!>

 

「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 雷の力を纏ったその剣を手に上空から舞い降りる謙哉、彼が着地をした地点に巨大な雷が落ちたのを見た玲は軽くその力を感心した後で、自分を見るドラ君の姿に気が付いた。

 

「……まったく、あなたもあいつも私の予想を軽く超えて来るわね」

 

 愉快そうにそう言った玲はメガホンマグナムを構えるといつも通りドラ君の頭を撫でてやると、マスクの下で笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「さ……ここでママと一緒にパパのお手伝いでもしましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し!初撃は完璧!」

 

 落下と同時に繰り出した一撃で雑魚をほとんど仕留めた謙哉は周りを確認しながら剣を構える。部下のウォーモンキーを盾にしたのか周りの被害に比べて傷の少ないリーダーモンキーを見つけた謙哉に対してリーダーモンキーは再び配下をけしかけて来た。

 

「ウギャッ、ウギャッ、ウギャッ!」

 

 自分目がけて襲い掛かるウォーモンキー、その数3。しかし、謙哉は慌てる事無くカードを掴むとそれをドラゴファングセイバーにリードした。

 

<ドラゴテイル!>

 

 電子音声の掛け声とともに剣の切っ先から蒼い龍の尾を模したエネルギーが伸び出て来た。謙哉はそれを迫りくるウォーモンキー目がけて振り抜くと一気に薙ぎ払う。

 

「ギャオォッ!?」 

 

 予想外のリーチを誇るその攻撃を成す術無く受けたウォーモンキーたちは、全員纏めて剣の切れ味と電撃の餌食になって消滅してしまった。リーダーモンキーはその光景を見て唖然としており、まさかと言った表情で謙哉を見ている。

 

「……どうした?来ないのかい?」

 

「グ…!ギギィィッ!」

 

 怖じ気ついていたリーダーモンキーだったが、謙哉に挑発されていると気が付くや否や一目散に突進して来た。顔を赤くし、武器を振り回しながら突っ込んでくるリーダーモンキーを見た謙哉は再びカードをリードする。

 

(この状況じゃ時間はかけられない、一気に決める!)

 

<ドラゴファング!>

 

「行くぞっ!」

 

 龍の牙の力を秘めたカードを使用した謙哉の背後には、龍の頭部を模した蒼いエネルギーが出現した。それと一体になった謙哉は真っ直ぐに目標を定めて走り出す。

 

「ギ、ギギッ!?」

 

 自分目がけて突っ込んでくる男がただの人間で無い事を理解した時にはもう遅い。リーダーモンキーの目の前には、口を開いて鋭い牙を光らせる龍の姿があった。

 

<必殺技発動! サンダーファングバイト!>

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 繰り出される斬撃、同時に自分を嚙み砕く龍の牙と雷撃のコンボを受けたリーダーモンキーは成す術もなく爆発すると光の粒へと還って行った。炎が消え去り、未だに体から蒼の電撃を走らせる騎士はそのまま取り巻きのエネミーを睨みつけると口を開く

 

「君たちのリーダーは居なくなっちゃったけど……まだやるかい?」

 

「ヒッ!?ギャヒィッ!」

 

 自分たちの天敵である龍の力を得た騎士の恫喝を前にして一目散に逃げだすウォーモンキーたち、自分たちが来た道を必死に駆け戻って行く彼らを追撃しながら謙哉は悠々と歩いて行く、そして……

 

「ただいま勇、リーダー、倒して来たよ!」

 

 勇たちの所に戻ると自分を助けてくれた相棒と一緒に笑いながらそう言ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まさか、クエストの目標が山頂に居るドラゴンが寿命で死ぬまでに新しいドラゴンを育成するだったなんてね……』

 

『あなた、本当にラッキーね』

 

 その日の夜、自室でくつろいでいた玲は謙哉から来たLINEに返信を送りながらドラ君と一緒に空を飛んだ時の事を思い出していた。なかなかに爽快感のあるものだったと思いながら謙哉と話を続けていく

 

『ドラ君、ちゃんと役目を果たせるかな?』

 

『大丈夫でしょうよ、出来るようになってるわよ』

 

 あの後、再び赤い扉の奥にウォーモンキーたちを封印した謙哉たちは、死んだドラゴンに代わって門番となったサンダードラゴンのドラ君に別れを告げてドラゴンワールドを後にした。期間限定で開いていた戸熊町のゲートも消滅したため、ドラゴンワールドでの冒険は幕を下ろしたことになる。

 

『でも、カードを使えばドラ君には会えるんだけどね!』

 

 文字からでも伝わる喜びを見せた謙哉はきっとニコニコ顔で文字を打ち込んでいるのだろう。その様子を想像した後で、玲は謙哉に意地悪く問いただす。

 

『ところで……私にも養育権の半分はあるわよね?私だってあの子を育てたんだから』

 

『え?あ、うん、一応あると思うけど……』

 

『じゃあ何か報酬を頂戴、私だけ手ぶらだなんておかしいでしょ?』

 

『え、ええっ!?』

 

 謙哉が驚いているだろうと想像した玲はクスクスと笑みを浮かべる。こうやって相手のペースを崩すのは非常に楽しい、相手が自分の調子を狂わせる奴なら特にだ

 

『さて、あなたは何をくれるのかしら?』

 

『え、え~っと……』

 

『既読スルーは止めてね、あなたが止めてくれって言ってる事なんだから』

 

 謙哉の逃げ道を奪いながら玲は謙哉は次に何と言って来るかと想像を働かせる。今日は思いっきり振り回してやろう、ここ数日振り回されたお返しだ

 そう考えた玲は送られてきたメッセージを見ると返事を書き始める。非常に珍しい事に、この日のメッセージのやり取りは深夜まで続き、翌日二人はやや寝不足になっていたが、どこか楽し気な表情だったそうな

 

 

 


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