仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

25 / 100
カード争奪、ドラゴンワールド大戦!

勇が虹彩学園に転入してきてから約一か月の時が経ち、月日は5月に差し掛かろうとしていた。戦国学園との出会いを経て自分たちの力不足を実感したライダーたちは、GWの学校休暇の際にもソサエティへと足を運んで戦力の強化に努めていた。

 

休みなど無い過酷な日々、その中でもアイドル活動も行っているディーヴァの3人の仕事量は半端では無く、朝からテレビの収録や雑誌の取材、及びレコーディングなどを済ませ、空いた時間にはミーティング、そしてソサエティでの戦闘とそのスケジュールはかなりハードな物となっている。しかし、そんな中でも一言も弱音を吐かない彼女たちは流石プロと褒めるに相応しいだろう。

 

ある日の夜、その日一日の仕事が終わり楽屋でくつろいでいた玲は、自分のスマートフォンにLINEの通知が来ている事に気が付いて電源をオンにする。

大体相手は予想が付いた。というか、自分の携帯に登録している人間など数えるほどしかいない。同じディーヴァの葉月とやよい、そして養母の園田と最近追加されたあと一人しか登録されていないほぼ真っ白な電話帳の中で自分と連絡を取ろうとする人間など一人しかいないだろうと思いながら、玲は送られてきたメッセージに目を通す。

 

『お疲れ様、今日は勇と一緒にサイドクエストをいくつかこなしてレベルを上げました。水無月さんも大変そうだけど、明日の定例会議には来れそうですか?』

 

映し出された文章を読みながら軽く嘆息、そして、返事のメッセージを飛ばす。

 

『理事長がスケジュールを開けてくれてるから出る。あと、それっていちいち連絡する必要ある?』

 

『だって水無月さん、定期的に連絡しないとすぐに既読スルーするんだもん』

 

『じゃあ次からは無視させてもらうわ』

 

『……酷くない?』

 

テンポよく行われるLINEでの会話の最後に送られてきた謙哉のメッセージを見て、玲は彼のしょんぼりとした顔を思い浮かべた。

気持ちが表情にすぐに出る謙哉の事だ、今も画面の向こう側でがくりと肩を落としているに違いない。

 

『でも、確かにお疲れの所に連絡しても迷惑だろうから、その時は遠慮なく無視してよ』

 

『あなたからの連絡がいつも迷惑だと思われてるっていう自覚は無いの?』

 

『……無かった』

 

『連絡は必要事項だけにして……って、言っても無駄でしょうね。もう何回もそう言ってるものね』

 

『一応、僕は必要だと思う事を送ってるんだけどな…』

 

「何やってんの玲?あ、もしかして謙哉っちとお話し中!?」

 

謙哉から送られてきたメッセージになんと返信しようかと考えていると、後ろからやって来た葉月が自分の肩を叩いて話しかけて来た。玲は面倒な事になる前に早々に謙哉との会話を打ち切る事を決めると、携帯を置いて葉月の方を見る。

 

「……いちいちどうでも良い事を連絡してくるから文句を言ってただけよ。それ以上もそれ以下も無いわ」

 

「ふ~ん、へぇ~、ほぉ~……」

 

事実を伝えたと言うのになんだかお節介なおばさんのような視線をよこす葉月を睨みつけると、「いやん、玲ってば怖~い!」などとふざけながら葉月は逃げて行った。

一体なんだと言うのだ。自分だって嫌々連絡を取っているのに何かあると勘ぐる様な真似をする葉月に若干の不快感を持つ玲、葉月が勇に好感を持っているのは薄々気が付いている。だからと言って誰もがそうだとは思わないで欲しい。自分は別にあの男の事は好きでは……

 

「玲ちゃん、最近すごく謙哉さんと仲が良いよね!」

 

「……やよい、あなた私に喧嘩売ってるの?」

 

やよいのその一言に対して今度はやよいを睨むようにして視線を移す玲。「ひっ!」という悲鳴が聞こえた事に軽くショックを受けたが、やよいの口ごもりながらの意見を聞いてみる。

 

「だ、だって、最近よく謙哉さんと連絡取ってるから仲良くなったんだなぁ~って思ってたんだけど……」

 

「さっきも言った通り、私はあいつに無駄な連絡を受けている事に関して文句を言っているだけ」

 

「でも、最近仕事終わりによく携帯確認してるし……」

 

「毎回連絡が来てるのよ。暇人よね」

 

「……でも、最近玲ちゃん謙哉さんとちゃんとお話ししてるしさ」

 

「だから!それはあいつに文句を……」

 

「そうじゃなくって、前の玲ちゃんだったら絶対既読スルーしてたよね?でも、最近ちゃんと返信してお話してるじゃない」

 

「あ……」

 

 やよいにそう言われて始めて気が付いた。確かにそうだ、初めての連絡の時なんて死ねの一言で済ませていたはずなのに、最近は普通に会話をする様になってしまっている。

 まだ連絡先を好感して一週間ほどしか経ってないと言うのにこんな変化が現れれば二人が疑うのも仕方が無いだろう。納得した玲は頷くと同時にやよいに感謝した。

 

「……なるほどね。確かにあいつのペースに流されてたわ。気付かせてくれてありがとうね」

 

やよいに言われなければこのままずるずると引きずられ、なぁなぁな関係になっていたかもしれない。そんなのは真っ平御免だ

 

(……明日からは既読スルーしよう。そのうち諦めて連絡もしなくなるでしょう)

 

そう決心した玲を見ながらやよいはニコニコしている。非常に不愉快だが、今はこの事実を気付かせてくれた感謝の気持ちに免じて何も言わない事にしておこう。

 

「玲ちゃん、本当に謙哉さんの事が大好きなんだね~!」

 

「……やよい?あなた死にたいの?」

 

「へ?ひゃうぅ!?」

 

だがしかし、恐れを知らないやよいの一言に目を鋭くした玲は彼女のほっぺたをつまむと横に引っ張る。そこまで痛くしない様にしているが、やよいは涙目でじたばたしていた。

 

「ひゃめへほ~!」(やめてよ~!)

 

「良い、やよい?言っておくけど、私はあいつの事を好きではない。むしろ大嫌いの部類に入るわ。OK?」

 

「……ひょんほうに?」(本当に?)

 

やよいのその言葉と向けられた視線に一瞬だけ玲は怯んだ。疑惑でそう聞いているのではなく、純粋な質問の意味で尋ねられると嘘が付けなくなるからだ。やよいの純粋なこの眼差しが玲は苦手だった。

 

「本当に謙哉さんのことが嫌いなの?私、とてもそうだとは思えないんだけどな……」

 

「……この話は止めにしましょう。ペースが崩れて仕方が無いわ」

 

玲はそうして会話を打ち切ると荷物を纏め始める。明日はソサエティ攻略に関する定例会議があり、その後にはきっとソサエティに乗り込むのだろう。

 さっさと帰って休養するに限る。そう考えて謙哉の事を頭から追い出した玲の事をやよいは不安げな瞳で見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、虹彩学園の会議室に集合したメンバーを出迎えたのは意外な人物であった。

 傍らに命を控えさせながらモニターを指し示すその男は、このソサエティの製作者である天空橋渡、彼は驚く勇たちの前に出ると困った様な笑みを浮かべた。

 

「どうも、お久しぶりですね皆さん」

 

「オッサン!?今まで何やってたんだよ?」

 

「私の方も色々と研究をしていましてね、なかなか皆さんとお話しできずに申し訳ないです」

 

「天空橋、今は急ぎの話があるだろう。世間話は後にして会議を進めさせてくれ」

 

勇と話す天空橋を止めた命はモニターの電源を付けると、そこにはどこかの街に出現したゲートが映っていた。

 

「ゲート!?一体どこに出現したのですか!?」

 

「都内の戸熊町だ、ここからそう離れた位置では無い」

 

「すぐに向かわないと!いつエネミーが出て来るか……」

 

「いや、その心配はない。このゲートは少々特殊な物の様だ」

 

「特殊…?それってどんな…?」

 

「ここからは私が説明しましょう。こちらをご覧ください」

命から話を引き継いだ天空橋が持っていたノートPCを立ち上げるとモニターの映像が切り替わった。『society』と書かれていたファイルを開きその中にあった画像を表示する天空橋、映し出された画像を見た光牙から質問が飛ぶ。

 

「これは……?」

 

「これは私が開発していた『ディスティニークエスト』のゲーム画面の一つです。これはゲーム内のとあるワールドの風景を描いています」

 

その画像には高くそびえる山脈や広い荒野が描かれている。今まで見たワールドの中で言うならば勇たちのソサエティと戦国学園のソサエティを足して二で割った様なその見た目をしたその世界がどんな場所なのかはいまいち想像がつかない。

そんな勇たちの思いを悟ったのか、天空橋はこのワールドについての説明を始めた。

 

「この世界の名は『ドラゴンワールド』、ゲームで大人気のドラゴンたちが住まう世界です」

 

「ど、ドラゴンだって!?」

 

天空橋のその言葉に勇が興奮した様子で叫ぶ、目が輝いている勇の脳内にはいくつものゲームで見たドラゴンの姿が浮かび上がっていた。

 

RPG、アクション、シューティング、シュミレーション……数多くのゲームの中でダントツの登場数を誇るドラゴンと言えば、男のロマンの一つであろう。大きく雄大なその体に乗って天空を飛び回るなんて夢の様だ。

 

「いいなぁドラゴン!ワクワクするなぁ!」

 

「……今はどうでも良い妄想を止めて話を聞きなさい。変なところで興奮してんじゃないわよ」

 

「はは、と言う訳で勇さん。申し訳ないっすけどドラゴンの話はまた後でにしましょう。今は急ぎの話があるんでね」

 

真美のツッコミを受けた勇に対して笑いかけた天空橋は話に戻る。モニターに再び先ほど命が映し出した画像を表示すると、そこに映ったゲートを指し示す。

 

「ゲートが出現したと言う報告を受けた政府はすぐにこの一帯を封鎖、ゲートの内部に調査員を派遣しました。すると、このゲートの先がドラゴンワールドに繋がっていると事が分かったのです」

 

「マジか!?」

 

「龍堂!」

 

真美の鋭い視線を受けた勇はその口を閉じるが、目は爛々と輝いたままだ。どうしてまぁ男と言う奴はこんなにどうでも良い事で喜べるのかと疑問に思いながら、真美は一つの疑問を天空橋にぶつけた。

 

「……そのゲートの行き先がドラゴンワールドと言う事は分かりましたが、何故それがソサエティからエネミーが出てこないと言う事になるのですか?ゲートがちゃんと繋がっている以上、向こうからの攻撃があってもおかしくないのでは?」

 

「良い質問ですね。実は、このゲートが開いたのは少々特殊な事情があっての事だと推察される要因が見つかったのです。故に、向こう側からの攻撃は無いと判断したのですよ」

 

「その特殊な事情とは?」

 

真美のその質問を受けた天空橋は再びPCのキーを叩く。今まで移しされていた映像に代わってモニターに浮かび上がって来たのは、ゲームギアの画面と思われる画像であった。

 

「……これは調査に出向いた人物のゲームギアに届いたメッセージです。これには、このワールドでクエストが開始されたことを通知するメッセージが送られてきています」

 

「クエスト?それって?」

 

その質問に対して天空橋はたっぷり間をあけると、自分に集中する視線を確かめた後で笑顔で言った。

 

「『期間限定クエスト』……詳細は不明ですが、クリア報酬は『ドラゴン』のカードです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンのカード……ディスティニーカード第一弾にも収録されているカードで種類はモンスターカード、レアリティは最高レアのディスティニーレアとなっている。

 

高い能力値と強力な効果を持ちどんなデッキにも無理なく入る性能の為、ディスティニーカードをプレイしている人間からしてみれば喉から手が出るほど欲しいカードでもあり、高いレアリティから持っている人が非常に少ないカードでもある。

 

そんなドラゴンのカードはソサエティ攻略に使用した際も大きな戦力になる事は間違いないと言う。戦闘能力は非常に高く、天空橋によればライダーと互角に戦えるだけの性能を持っているらしい。

 つまり、入手すればどんな人間でもソサエティ攻略の即戦力となれるカードと言う事だ。その情報に生徒たちは色めき立った。当然だ、今までサポートに回るしかなかった自分たちが主力メンバーになれる可能性がやって来たのだ、このチャンスを逃す手はない。

しかし、そんなドラゴンのカード入手に関しても一つだけ問題があった。それは、クリア報酬であるドラゴンのカードは、『1枚』だけしかないと言う事だ。

 超強力なカード『ドラゴン』を手に入れられるのは一人だけ……その事を聞いた全員が緊張感をもって周りの生徒たちを見る。普段は協力する仲間だが、この一件に関しては全員がライバルとなるのだ、その事を察した勇は会議室に集まっているメンバーに対して質問を投げかける。

 

「で、どうする?誰がドラゴンを手に入れるのか話し合うか?」

 

「……それは難しいわね。というより無駄な事だと思うわ」

 

「……だよな。俺もそう思う」

 

真美の返答に関して勇は軽い口調でそう言ったが、内心は穏やかでは無かった。

 

誰もが欲する強力なカード、しかし、手に入れられるのは一人だけ……その事が、生徒たちの足並みを揃わせ無くするのは間違いないだろう。

これがライダーである自分たちにしか扱えないカードならば諦めもつくだろう。しかし、それとは真逆の『手に入れればライダーにも匹敵する戦力』となるカードなのだ、誰だって欲しくなる。

 そして、その誰だってには自分たちドライバ所有者も含まれているのだ。その証拠に光牙が立ち上がると強い口調で宣言する。

 

「……皆、普段ならば協力しなければならないのだろうが今回は別だ。俺は、ドラゴンのカードを手に入れて見せる!」

 

ぐっと握りしめた拳を見つめながら光牙は話を続ける。その目には、焦りとも決意ともとれる色が浮かび上がっていた。

 

「今までずっと感じていたんだ、俺は弱いって……そしてこの前の戦国学園との戦いで確信したんだ。このままじゃ、俺は自分の目指す場所に辿り着けやしないって、だから俺はもっと強くなりたい。このタイミングでやって来たこのチャンスを他の誰かに譲り渡す気は無い!」

 

「それは俺だって同じだぜ光牙!俺もいつまでも負けっぱなしだなんて言わせないからな!」

 

「……戦力的に見て、私たちギアドライバーを所有してない生徒がドラゴンのカードを入手した方が有効的よ。でも、誰も譲る気は無いんでしょう?」

 

真美の問いかけに誰もがぎらついた視線を返す。光牙に櫂、ディーヴァの3人もドラゴンのカードを手に入れようとしている様だ。そしてその思いは勇も同じだった。だがしかし、そう思っていない人物もいた様で……

 

「あの~…ちょっと良いですか?」

 

この場に居る全員がカードを狙い視線をぶつけ合う中、たった一人困った様な顔をしていた謙哉は頬を軽く搔いた後で手を挙げる。

 一体何を発言しようとしているのかと全員が謙哉に注目する中、おずおずと彼は口を開いた。

 

「……僕、そのクエスト辞退します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謙哉、本当に良いのか?」

 

「うん。敵と争うならまだしも、仲間同士でカードの奪い合いだなんて僕はしたくないから」

 

「でもよ……」

 

「良いじゃねぇかよ龍堂!ライバルが一人減るんだ、俺たちにとってもありがたい事だろ?」

 

都内戸熊町、観測されたゲートの前に立つ勇たち虹彩学園とディーヴァたち薔薇園学園の立候補者たちの中で勇は謙哉に再確認していた。

 このクエストを辞退すると言った謙哉に対して、まずはその場に居た全員が驚いた。そして、その上でライバルが減って喜ぶ者と何故そんなことをするのかと疑問に思う者とで半々に分かれたのであった。

 

その後者であった勇は謙哉に思い直す様に説得を試みたが彼の決意は固いようだ。本人がそう言うならばと天空橋も命も無理強いはしなかったため、謙哉はドラゴンのカード争奪戦には加わらない事に決まった。

 

「でも、何か手伝えるかもしれないから一応着いて行くよ。ドラゴンワールドにも興味はあるしね」

 

「……おう」

 

ほんの少し残念に思いながら勇はゲートを見る。この先に広がるソサエティに対して興味を持っているのは確かだが、出来ればそこで謙哉と戦ってみたかったと言うのが本心だ。

 戦国学園の真殿との戦いは心躍るものとなった。新しい力も手に入れた勇にとってはこれ以上なく楽しい戦いだったと言えるだろう。しかし、勇には真殿以外にも戦ってみたい人物が二人いた。

 

一人は戦国学園の首領、大文字武臣。今まで戦ったどの相手よりも強いであろう彼と戦えば負ける可能性が高い事は十分承知している。しかし、自分の中に眠っている何かを目覚めさせてくれるのではないかという期待もあるのだ。

 

そしてもう一人は何を隠そう親友の虎牙謙哉であった。背中を預け、共に戦える数少ない相手である謙哉とは良い関係を築けている。しかし、勇は心の中で謙哉の実力をはっきりと確かめておきたいと思っていた。

 実際に戦ってみて謙哉の力を感じてみたい。自分の覚醒などでは無く、純粋に友として拳を交わしてみたい……親友ではあるがそれ以上に近い実力を持つこの最も近いライバルと本気でぶつかり合ってみたくもあった。

 

このクエストは良い機会になるかもしれないと思っていたのだが、謙哉が乗り気でないならば仕方が無い。勇はその願いを心の奥に押し込むと再びゲートを見る。

 

「……櫂、遠慮はいらない。本気でぶつかり合おう!」

 

「ああ!ドラゴンのカードは俺が貰うぜ!」

 

光牙と櫂はそう言いながらお互いに闘志を燃やしている。

 

「……私、何時までも玲ちゃんと葉月ちゃんの足を引っ張りたくない!だから、このクエストをクリアして強くなって見せる!」

 

「意気込むのは結構だけど、そう思っているのはあなただけじゃないって事を忘れないでね」

 

気合を入れるやよいに対して真美が冷ややかに、だが確かなライバル意識を持って声をかける。一歩引いた所で誰かを見守って歯痒い思いをしている二人だ、強くなりたいと言う明確な思いがある。

 

「良し、行くか!」

 

それぞれの思いを抱えた仲間……いや、今はライバルだった。

 ライバルたちを見つめた後で勇はゲートを潜る。その先にある世界へと足を踏み出して、初の戦いの舞台へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

「……宣戦布告、させていただきます」

 

「へ?」

 

勇がゲートを潜ったその後ろで、マリアは葉月に対して強い意志をもって宣誓する。何事かと疑問の表情を向ける葉月に対して、マリアは自分の思いを打ち明けた。

 

「私も、何時までも勇さんの後ろに居るのは嫌なんです。新田さんと同じ様に勇さんの隣で戦えるようになりたい。だから、このカードは誰にも渡しません」

 

「……ふ~ん、確かに宣戦布告だ!」

 

その言葉を受けた葉月も笑いながらマリアを見る。しかし、すぐに真顔に戻るとお返しと言わんばかりに彼女も本心を語った。

 

「……正直さ、アタシも勇っちとは距離を感じてんだよね。隣で戦ってるはずなのに、そのレベルが桁違いなんだもん。これじゃあ、一緒に戦ってるって言えないよね」

 

何処かふざけている様な態度を取る彼女も前回の戦国学園との戦いで思う事があったのだろう。普段は見せない真剣な表情でマリアを見つめ返している。

 

「……同じだよ。アタシもマリアっちも憧れの人との距離を縮めたい、それだけの為にこの戦いに挑んでる。白峯とかから言わせれば不純な目的なんだろうけど、そんなの関係ない。アタシたちは、アタシたちの望むものの為に戦ってるんだから」

 

「はい。だから他の誰にも負けるつもりはありませんが、絶対にあなただけには負けるわけにはいかないんです」

 

「アタシもだよ。マリアっちには負けないし他の誰にも負けない。絶対にね!」

 

互いに真剣な眼差しで睨み合った二人は同時に笑みを浮かべる。色んな意味でライバルなこの相手は決して侮れない相手だ。だけど、同じ男の人に憧れるとっても素敵な女の子だと言う事も分かっていた。

 

「さ、アタシたちも行こうか!」

 

「はい!負けませんよ!」

 

先に行った勇の背中を追いかけるようにして二人はゲートを潜る。憧れの人に追い付く為に、少女たちもまたそれぞれの戦いを始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがドラゴンワールド……!」

 

ゲートを潜った一行が見たのは、遥か遠くまで続く山の数々と広い空だった。雄大な自然は生き物のすべてを受け入れてくれるように見えて彼らに厳しい試練を課すこともある。全く人の手が加えられていないこの環境は、まさに優しくも厳しい自然のすべてを現しているのだろう。

 

「……ともかく、まずは情報収集だね。もう既に戦いは始まっているんだ」

 

その広大な大地に心を奪われていた両校の生徒たちだったが、光牙のその一言で我に返ると周りの仲間たちを見回す。いつもは協力する仲間でも今日は同じ標的を狙うライバル……彼らを出し抜き、自分が目標であるドラゴンのカードを手に入れなければならないのだ。

 

「……予想以上に広いわね。これじゃあ、当てずっぽうに動くのは危険ね」

 

だがしかし、真美の言う事は彼らの今の状況は的確に表していた。期間限定で解放されているワールドだと思い高を括っていたが、ここは予想以上広い。そして目印となる様な街すらも無いのだ。

 この状況では何をすべきかを探る事が第一歩だが、下手に動いて時間をかけてしまえばその時点でクエストの攻略に遅れが生じてしまう事になる。この人数でそんなことをしてしまえば致命的なミスとなりかねない、故に誰もが周りの人間の様子を伺っていたが……

 

「よ~う!待ってたで、勇ちゃん!」

 

聞き覚えのあるその声に顔を上げれば、自分たちのやや上の崖の上に戦国学園の光圀が立っているではないか。驚いて彼を見つめる生徒たちを尻目に、獰猛な笑みを浮かべた光圀はその崖から飛び降りて勇の前に着地すると楽しそうにその肩を叩いた。

 

「ここで待っとったら会えると思ってたんや!いや~、こないだはえらい楽しかったの~!」

 

「ま、待て!なんで戦国学園の奴がここに居るんだ!?」

 

「あぁ?何でってそんなもん、大半がドラゴンのカードを手に入れに来たに決まっとるやろが」

 

「戦国学園も情報を掴んでいたの!?」

 

「そやで、なんも不思議やないやろ。俺はともかく根津の奴が耳を澄ましとんねん、こういう手合いの情報はすぐに入るんやで」

 

真美の驚く声に対してそう答えた光圀は勇と対峙すると、懐からドライバーを取り出した。

 

「さ~て勇ちゃん、こないだの続きをしよか!」

 

「げっ!?お前、やる気なのかよ!?」

 

「当たり前やろ、俺はそのためにここで勇ちゃんを待っとったんやからな!」

 

「いやいや!今はドラゴンのカードが優先だっつーの!」

 

 光圀の申し出に対して慌てて頭を振る勇、今光圀と戦えば間違いなく他のメンバーに先を越されるのは分かる。だから彼の相手をするわけにはいかないのだ。

 だが、果たして光圀が自分の話を聞いてくれるだろうか?そう心配した勇だったが、光圀は意外な事にドライバーをしまうと勇に質問をしてきた。

 

「なんや、勇ちゃんもドラゴンのカードを取りに来たんか。なら、俺との戦いは後回しでええわ」

 

「え?まじで?」

 

「ああ、それならそうとはよ言ってくれれば良かったんや。ほら、こっちきぃ」

 

 不気味なくらいに物わかりの良い光圀に怪訝な表情を向ければ、光圀は一行をどこかに案内しようとしている様だ。一体どこに連れて行こうと言うのか?罠を警戒する真美たちに対して、光圀がそんな姑息な手を使うような相手には思えない勇は素直にその後に着いて行く。

 

「で?どこに連れて行く気なんだよ?」

 

「あ?決まっとるやろ、ドラゴンがいる場所や」

 

「はぁっ!?」

 

 光圀はただ一言だけそう言うと再び歩き始める。その言葉を聞いた勇以外の面々も半信半疑ながらも光圀の後を着いて行くことに決めた様だ、こぞって歩き出した仲間たちを謙哉だけが見守っていたが、ほどなくして彼らの背中が見えなくなったのを機に、謙哉も周りの調査へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ~ら、着いたで!ここがドラゴンの住処や!」

 

「お、おおっ!!!」

 

 光圀について歩いて行ってから数十分、ようやくたどり着いた目的地にはこの間見た学ラン姿の男子生徒たちが山ほどいる。彼らもまたドラゴンのカードを狙ってここにやって来たのだろう。しかし、勇にとって重要なのは彼らが戦っている相手だった。

 巨大な躰、輝く鱗、広がる翼……戦国学園の生徒たちを大きく吹き飛ばしながら咆哮するそのモンスターこそ、勇が思い描いていた通りの姿をしていた『ドラゴン』だった。

 

「本当に居た!ドラゴン居たーっ!」

 

「おい光圀!てめぇ何でこいつらをここに連れて来たんだよ!?」

 

 その声に視線をドラゴンから戻してみれば、すでに変身している仁科が光圀に対して詰め寄って来ていた。無論、その口調は光圀を責めるものであるが、当の本人はあっけらかんとした態度で仁科に言葉を返している。

 

「んなもん、勇ちゃんたちもドラゴンのカードを狙っとる言うたからやないか、困ってる人は助けろてお母ちゃんから教わってないんか?」

 

「だからだっつの!なんでわざわざライバルを増やすんだよ!?」

 

「そりゃお前、皆でわいわい盛り上がるからやろ。独りぼっちじゃつまらんやないか」

 

「あ~…お前って奴は……!」

 

 頭を抱える仁科に少しだけ同情した後で再びドラゴンを見る。いかにもなその姿は正に伝説級のモンスターの名に相応しいだろう。

 勇たちがドラゴンの雄姿に目を奪われる中、巨大な人影が近づいてくるとそのまま勇たちに向かって声をかけて来た。

 

「この間の者どもか、やはりお前たちもここに来たか」

 

「…っ!?大文字武臣…!」

 

「そう構えるな、今回の目的はお前たちではなくあの龍だ。お前たちもそうなのだろう?」

 

 大文字のその質問に対しては誰も何も答えなかったが、沈黙は肯定と判断した大文字はドラゴンの後ろのある一点を指さすと話を続けた。

 

「……あの赤い扉が見えるか?どうやらあの龍はあの扉を守っている様だ。我らが望むものはあそこにあるらしい」

 

「じゃあ、今回のクエストはあのドラゴンの攻撃を搔い潜ってあの扉に辿り着くことなのか?」

 

「恐らくはな、しかし、あの龍は生半可な相手ではない。既に我らが2日間もの間休まずに攻撃を続けていると言うのにあの様子、まだまだ力は有り余っておろう」

 

「マジかよ……」

 

 勇にとっては2日間も戦国学園が休まずに戦っている事の方が驚きだが、他の学校を撃破してその生徒たちを配下に加えている彼らの事だ、奴隷扱いしている生徒たちを使ったのだろうと思い当たり納得した。

 それよりも今はあのドラゴンだ、何とかして倒すか気を引かないとあの扉にはたどり着けそうも無い。何か方法を考えなくては……

 

「グオォォォォォォッ!」

 

 そう勇が考えた時だった。突如咆哮したドラゴンが天を仰ぐと、口の中に炎を溜めてこちらの方を向いたのである。

 

「……まずいな、お前たちに気が付いた様だ」

 

大文字も少しばかり顔を青くして状況を推察していた。再びドラゴンの口が開き、その中にあった炎が勇たちの方向へ飛んでくるのを見て、虹彩学園及び薔薇園学園の生徒たちは大いに驚き……炎に飲み込まれて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……思ったより広いな。これは地形データの収集は大変そうだぞ」

 

 一方その頃、単独行動を取っていた謙哉は勇たちの入って行った山の中腹辺りの場所で今まで歩いて来た道のデータを整理していた。

 このデータを情報支援本部に送れば、彼らがより精巧なマップにして色んな学園の生徒たちに送り届けてくれるだろう。自分のやっている事が誰かの役に立っていると思えばやる気も出ると言うものだ

 

「さて、もうひと頑張りしますかね!」

 

 データの整理が終わった謙哉は再び山を登り始める。勇たちが上って行ったルートとはまた違う道を歩いていた彼の前に、気になるものが現れた。

 

「ギャッ、ギャギャッ!」

 

「ギャイィッ!」

 

 謎の唸り声を上げる猿の様なエネミーが3体何かを探している様だ、謙哉はとっさに物陰に隠れると敵の情報を解析できるカードである『スキャン』を使う。

 

<……ウォーモンキー ドラゴンワールドに生息する獣人型エネミー、人間同様の知性を持つが言語は喋れず、かつ好戦的である。ドラゴンが天敵>

 

「……なるほど、ドラゴン以外にもエネミーは居るんだね」

 

 そう呟いた謙哉はウォーモンキーの集団を観察しながらその情報を天空橋へと送る。彼はこの世界の主なエネミーであるドラゴンは住処からそう離れる事は無いからゲートを潜って人間界に来ることは無いと推察していた様だが、ドラゴン以外のモンスターが生息していたとなれば話は別だ。このウォーモンキーがうっかり人間界にやってこないとは限らない。

 幸いにもエネミーは謙哉に気が付いていない様だ。このままやり過ごす事を考えていた謙哉だったが、ふと彼らが手に入れたものを見て眉をひそめる。

 

「ウギャギャッ!ギャギッ!」

 

「あれは……?」

 

 集団の一匹が掲げた手に持っていたのは何かの卵だった。人の顔程もあるサイズのそれを高く掲げたそのウォーモンキーはそれをそのまま地面に叩きつける

 

「あっ!」

 

 地面に叩きつけられたその卵はパカリと割れるとそのまま消滅してしまった。ウォーモンキーはその後も次々と卵を見つけ出すと地面に叩きつけてそれを割っていく

 

「おい、お前たち!なんてことをしているんだ!」

 

 その光景に我慢が出来なくなった謙哉は物陰から飛び出すとウォーモンキー達に対して近くにあった石を投げつけた。ここはゲームの世界と言えど彼らのやっていることは間違いなく命を奪う行為だ、見過ごすわけにはいかない。

 

「ギャッ!?ギュギィィッ!」

 

「やる気かい?良いよ、相手になってあげるよ!」

 

 3体のウォーモンキーは謙哉に対して威嚇する様な叫びを上げるとその周りを取り囲む。しかし、謙哉は落ち着き払った様子で懐からドライバーを取り出して腰に付けると、『護国の騎士 サガ』のカードを持って叫んだ

 

「変身!」

 

<ナイト! GO!ファイト!GO!ナイト!>

 

「ギュギィッ!?」

 

 イージスへと変身した謙哉を驚いた様子で見つめるウォーモンキー達、謙哉はその隙を見逃さずに一番近くに居たエネミーに接近すると右の拳を突き入れる。

 

「せやっ!」

 

「ギョワオッ!?」

 

 まず腹にストレートを一発、そのまま続けて左のジャブを敵の横っ面に連続して叩きこむ。一度だけ短い悲鳴を上げたウォーモンキーは成すがままに謙哉に殴られ続けている。

 慌てて仲間を助けようと他の2体が謙哉目がけて飛び掛かって来るが、謙哉は慌てずにホルスターからカードを取り出すとそれをリードした。

 

<サンダー!>

 

「はぁぁっ…たぁっ!」

 

 電子音声と共に電撃の溜まった拳を地面目がけて振り下ろす。すると、電撃は地面を伝って周囲へ流れて行き、3体のウォーモンキーへダメージを与えた。

 

「ウギャォッ!?」

 

 飛び掛かって来た2体のウォーモンキーは電撃を受けてそのまま地面へと叩きつけられた。謙哉は目の前に居る攻撃を仕掛け続けていたウォーモンキーをその2体の元へと投げつけると、新たにカードを取り出した。

 

「これで終わりだっ!」

 

<必殺技発動!スマッシュキック!>

 

 グロッキー状態のウォーモンキーたちに対して数歩助走を付けた謙哉は空中へと飛び上がるとその勢いのまま跳び蹴りを繰り出した。蒼いエネルギーを纏ったその一撃はウォーモンキーたちにぶち当たり致命的なダメージを与える。

 

「ギャァァァァッ!」

 

 謙哉の着地と共に爆発したウォーモンキーは光の粒になって空へと還って行く、すべての敵が消滅したことを確認した謙哉は変身を解除すると周囲を探索しようとしたが、その耳にゲームギアからの電子音声が届いた。

 

<ギブ・ユー・アイテム>

 

「へ?なにこれ?」

 

 その音声と共に謙哉の前に出現したのは、ゲームやアニメなんかでよく見る骨付き肉の描かれたカードであった。絵柄的に生肉ではあるが、とても美味しそうである。

 

「……非常食にしろって事かなぁ?」

 

 どう考えても戦いに使えそうではないそのカードを一応ホルスターにしまうと、謙哉は今度こそ辺りの探索を始める。ウォーモンキーの仲間がいないとは限らないが、戦う余裕ならまだまだある。周囲に気を付けながら謙哉は戦う前にウォーモンキーが卵をあさっていた場所を見てみた。

 

「……酷いな」

 

 その地点の地面には叩きつけられた卵の欠片がいくつも落ちている。この一つ一つが生まれるはずの命であったことに謙哉は心を痛めた。

 どうしてウォーモンキーたちはこんなことをしていたのか?食べる為だと言うのなら割りはしないだろうし、やはり悪戯だったのだろうか?そんな想像をしていた謙哉の目に、青く大きな塊が目に映った。

 

「おや、これは……!」

 

 それは最後に一つだけ残っていた卵であった。他の仲間たちが壊されて行った中で、謙哉が駆けつけた事によって難を逃れた唯一の卵……謙哉はそれをそっと抱え上げる。

 

「無事だったのは良かったけど、このままここに置いておいたらあいつらに割られちゃうよね……」

 

 そう呟いた後で謙哉は自分のゲームギアを起動すると今まで自分が調べて来た地形データを呼びだす。何処かこの卵を隠すのにちょうどいい場所は無いかとデータを漁っていた所、一枚の画像が目に映った。

 鳥の巣の様な形で藁が敷かれており、周りにはエネミーの姿も無い。水場も近いし、山の下の方に位置するその地形はよく探さないとたどり着けない場所にある。

 

「うん!ここにしよう!」

 

 卵を隠す丁度いい場所が見つけた謙哉は今まで来た道を戻り始める。今日は十分データを取った。地形データ取集は強制された事ではないし、少しくらいサボっても問題ないだろう。

 そう考えた謙哉は卵を落とさぬ様に慎重に抱えたまま山を下り始めた。頂上からは凄まじい轟音と聞き覚えのある声の叫びが聞こえた気がするが、そんなことも気に留めずに謙哉は歩いて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夕暮れ時、ゲートの前には虹彩、薔薇園、戦国の三校の生徒たちが集まっていた。本日の活動を終えた彼らは一人残らず疲労困憊している。

 

「……どうするよ、あのドラゴン」

 

「単独でどうにかなる相手じゃ無いよね……やっぱり、目くらまし様にカードを用意するべきなんだろうか?」

 

「徹底的に攻撃してるけど倒せそうな感じないもんね……」

 

 それぞれ勇、光牙、葉月の言葉。3人も例外なく疲れ切った表情をしており、髪の毛が若干焦げている。

 

「あ~ん、スタイリストさんに怒られる~!」

 

 その後ろでは泣き顔のやよいがチリチリになってしまった髪の毛をわしわしと掴みながら嘆いていた。そんな彼女の後ろから真美が声をかける。

 

「……あなたはまだ良いじゃない。私なんてこれよ?」

 

「ぶっ!」

 

 真美の髪の毛は完全に爆発しており、アフロヘアーの様になっていた。真美のお笑い芸人の様なその髪型を見た櫂がつい噴き出した瞬間、彼女の目が鋭くなる。

 

「櫂?あんた死にたいのね?」

 

「や、やべっ!」

 

 慌てて逃げようとした櫂の背中に跳び蹴りを喰らわせると馬乗りになった真美がその後頭部を殴打する。とうとうドライバーを持っていない相手にも負けるようになったかと櫂に対して憐れみの目を向けた勇は、ドラゴン攻略の方法を思案し始めた。

 

(……あいつを倒す必要はねぇんだ。あの向こう側のドアに行けば良いだけ…なら、どうする?)

 

 方法が思いつかなくもない。例えば自分だけが持っているバイクのカードを使って、専用バイクの『マシンディスティニー』を呼び出してドラゴンの横を突破すると言う方法がある。

 しかし、周りの生徒たちがそれを黙って見ているだろうか?皆ドラゴンのカードを欲しがっているのだから間違いなく妨害してくるだろう。それならまだしもバイクを強奪される可能性もある。

 

 となればやはり隠密行動に限る。なにか姿を隠すようなカードがあればそれを使ってこっそりと扉の前に行けるかもしれない。もしかしたら施設の子供たちがそんなカードを持っているかもしれないと考えた勇は今日は希望の里に帰って子供たちにカードの交換を申し込んでみようと思い早速その場を後にすることにした。

 

「わりぃ、今日は俺帰るわ!」

 

「ああ、また明日!」

 

 謙哉はまだ帰ってきていないのかと思いながら勇はゲートの前から去って行く。その後、次々と他の生徒たちも帰って行き、ゲート前にほとんど人が居なくなったところでようやく謙哉が帰って来た。

 

「良し帰還っと!……あれ?皆まだ帰って来てないのかな?」

 

「逆よ、あなたが遅すぎて皆家に帰ったのよ」

 

「うわっ!?」

 

 急に話しかけられた謙哉が驚いて振り返ると、そこに居たのは不機嫌そうな顔をした玲であった。彼女は謙哉を見て溜め息をつくと左腕に付けられたゲームギアを指さす。

 

「……あなたの今日得たデータが欲しくて待ってたのに、こんなに遅くなるなんて何してたのよ?」

 

「いや~、そのそれは……」

 

「……まぁ良いわ、さっさとゲームギアを渡して、情報をコピーするから」

 

 そう言った玲は強引に謙哉の左腕からゲームギアを剥ぎ取る。そして、自分のゲームギアと謙哉のゲームギアを結合させて情報のコピーを開始した。

 

「勝手な事するななんて言わないでね。別にあなたはカードの争奪戦に参加しては……」

 

 やや強引な自分の行動に謙哉の抗議が来ると思い、先んじて放たれた玲の言葉はそこで途切れた。それは、謙哉が自分の左腕を抑えてうずくまっているのが見えたからだ。

 そんなに強い力で掴み取った訳でも無い。そこまで痛がるようなことをした覚えは無いがそれでも無理にゲームギアを奪った事への負い目がある玲だったが、こういう時にどうすれば良いのかが分からなかった。

 ただじっと謙哉を見ているだけの玲、その時、後ろから女性の声がした。

 

「あんた、ちょっとどこ退いて!」

 

 腕を抑えてうずくまる謙哉を黙って見ていた玲を押しのけて誰かが謙哉の前に立つとその左腕を手に取り、制服の袖をまくり上げる。女性が腕の中ほどまで服をまくり上げた時、それを見ていた玲が息をはっと飲み込んだ。

 謙哉の腕は赤黒く腫れ上がっていた。今までずっとそんな素振りを見せなかったというのに、その腕ではまともに物を取る事さえ困難だろう。

 

 一体何があったのかを聞く前に、謙哉の腕を取った女性は腰のポーチからスプレーを取り出すと中身を吹きかける。コールドスプレーらしきそれを謙哉の腕に吹きかけながら、女性は謙哉に問いかけた。

 

「……これ、腫れてすぐって感じじゃないな。何日か前にはこうなってただろ?」

 

 そう言いながら謙哉の腕をテーピングすると服の袖を戻す。そして、最後に軽く肩を叩くと女性は処置を完了させた。

 

「はい、これで終わり!……ったく、何でこんな怪我してんだよアンタは…?」

 

「あ、ありがとう……君は?」

 

「……わかんない?だよね、そりゃそうだ」

 

 薔薇園学園の制服に身を包んだその少女はそう呟く。短めに切り揃えられた髪、利発そうな口調、そして薔薇園学園の女子全員に共通する事だが、とても可愛い。

 一度見たら忘れないであろうその少女は謙哉と知り合いの様だ。だが、謙哉にはこの少女と会った記憶が無い。一体誰なのだろうかと考えていた時、とあることに気が付いた。

 

(この子の声、聞いたことがある…)

 

 確かにこの少女には見覚えは無かった。しかし、その声には聞き覚えがある。そこまで考えた時、謙哉の頭の中で一人の少女の事が浮かび上がった。今見ているこの娘と姿は似ても似つかない様でいて面影がある。その事に気が付いた謙哉は驚いた表情で彼女に声をかけた。

 

 「もしかして君、合宿の時の…!」

 

 「……そ、合同合宿の時、アンタを嵌めて罪をかぶせようとした女、橘ちひろだよ」

 

 そう言ってほんの少しだけ照れくさそうにしながら、ちひろは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……合宿の時、悪かったね。ずっと謝ろうと思ってたんだ」

 

「い、いや、気にしてないよ!それよりも、その……」

 

「ははっ、前見た時と全然雰囲気が違うって?ちょっとイメチェンしてね」

 

 謙哉とちひろは戸熊町にある公園で話していた。ゲームギアを返しそびれた玲もついて来ている。居心地の悪さを感じながら玲は二人の話を聞き続けた。

 

「……ま、そのさ……自業自得と言うか、あんなことしでかした私には学校内での風当たりが強くってね。一時は退学しようと思ってたんだけど……合宿の時、一緒に班組んでた二人覚えてる?」

 

「えっと……夏目さんと宮下さん、だっけ?」

 

 謙哉は一度挨拶しただけのその二人の事を思い出してちひろに聞く。元気一杯の少女夏目茜とどこか不思議な雰囲気をもっていた宮下里香……彼女たちがどうかしたのだろうか?

 

「……あの二人、小学校のころからの付き合いなんだけどさ。今までずっと猫被って来た私に対して今まで通り接してくれてさ……そんで、色々と支えてくれたんだ。ちゃんとあんたに謝って、そんでやり直そうって」

 

 顔を伏せ、少し涙ぐみながらちひろは話し続ける。謙哉は黙って彼女の話を聞き続けた。

 

「おかしいだろ?こんな私に優しくしてくれるなんてさ……でも、ほんとありがたかった。友達がいるって事にあそこまで感謝したのは初めてだったよ」

 

「……いい友達なんだね」

 

「ああ、それで、二人の言う通りアンタに謝らないで退学なんてしたら、それは逃げてる事だって思ってさ……その、ちゃんと謝ってけじめを付けなきゃって思ったんだ。そう簡単に許してもらえるとは思わないけどさ……」

 

「……そうかもしれない、でも、僕は君からそうやって謝って貰えただけで十分だよ」

 

 しょんぼりとした様子のちひろに向かって笑いながらそう言った謙哉は、ちひろに手当して貰った腕を上げて話を続ける。

 

「こうやって手当もしてもらったし、その事に関してはもう気にしないで行こうよ。今度は友達として付き合おう、ね?」

 

「……アンタ馬鹿だな。でも、良い奴だ」

 

 涙を拭いながらそう言ったちひろは立ち上がるとポーチから一つの缶を取り出して謙哉に渡した。

 

「それ、万能傷薬。今日の夜塗ってから寝な。少しは腫れが引くと思うよ」

 

「え?良いの?」

 

「……そりゃこっちの台詞だよ。まさかこんな簡単に許してくれるだなんて思ってもみなかった。アンタって聞いてた以上のお人好しだね」

 

 そう言った後で公園の出口まで歩いて行こうとしたちひろだったが、途中で立ち止まると振り返り、謙哉の方を向く。そして、少し大きな声で叫んだ。

 

「さっきから謝ってばっかりだけどもう一つ……そこのクソ女に虐められた時に助けてくれてありがとな!じゃあ、また!」

 

 そう言って駆け出して行ったちひろ、軽く玲に攻撃を仕掛けた事を恐れての行動かもしれないが、その横顔に笑みが浮かんでいる事に気が付いた謙哉の顔にも笑顔が浮かぶ

 きっとこれからは偽り無い自分を晒しながらちひろは生きていくだろう。彼女の良き友人と一緒に、いろんな思い出を作っていくはずだ……そう考えていた謙哉だったが、いきなり後頭部を叩かれて前につんのめってしまった。

 

「……何ニヤついてんのよ、気色悪い」

 

 非常に不機嫌そうにそう言った玲は謙哉の胸倉を掴むと顔を近づける。玲のとても綺麗な、だが非常に怒っているその顔が目の前に来て、謙哉は二つの意味でドキマギしていた。

 

「……正直に答えなさい。あなたのその怪我、この間の戦国学園との戦いのときに負ったものね?」

 

 玲のその質問に謙哉は少し悩んだ後で頷いた。それを見た玲の表情が苦々し気に曇る。

 絶対にこうなると思っていたので伝えなかったのだが、ばれた今では最悪の状況だ。そう考える謙哉に向かって玲はさらに質問をしてきた。

 

「ドラゴンのカードの争奪戦に参加しなかったのもその怪我のせい?」

 

「……半分はそうかな。もう半分は言った通り仲間内で争うのが嫌だったから」

 

「じゃあなんで怪我の事を言わなかったの?私を気遣ってのこと?」

 

「違うよ。戦国学園にあれだけの損害を与えられて、唯一勝った僕ですらこんな怪我を負っていたなんてわかったら学園全体の士気に関わると思ったから言わなかったんだ」

 

「……そう」

 

 その答えを聞いた玲は謙哉を放すと、その胸にギアドライバーを押し付けた。そして、少し悩んだようにして周囲をぐるぐると回りながら歩き始める。

 

「み、水無月さん?」

 

「今話しかけないで、考え事をしてるから」

 

「は、はい……」

 

 不機嫌そうに、本当に不機嫌そうにそう言い捨てた玲はややあって謙哉の前で立ち止まると、非常に不本意だけどと前置きをしたうえで考えた事を謙哉に伝えた。

 

「……借りを返すためにあなたの言う事をまた一つ聞いてあげるわ。今すぐ望みを言いなさい」

 

「でえっ!?い、今っ!?」

 

「そう、早くなさい。私はすぐにでも帰りたいんだから」

 

「い、いや、そんな事言われても……」

 

「はやくして、さもなきゃぶん殴るわ」

 

「酷くない!?」

 

 何と言う暴君だと思いながら謙哉は考えを巡らせる。玲の様な可愛い女の子から自分の望みを聞いてくれると言われたら普通は舞い上がるものだが、今の謙哉にはそんな余裕はない。

 変な事を言えば間違いなくぶん殴られる。かと言って当たり障りのないどうでも良い事を言ってもぶん殴られる……腕が痛いと言うのにこれ以上怪我をしてなるものかと考えていた謙哉は、ふとある事を思いついて玲に告げた。

 

「じゃあさ、明日、僕に付き合ってくれない?」

 

「は……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何?どこに連れて行くつもり?」

 

「えっと、もう少し先かな」

 

 翌日、謙哉に連れられた玲はドラゴンワールドの中を歩いていた。もともと今日は葉月はグラビアの撮影、やよいは雑誌のインタビューで時間が取れないのでディーヴァが揃わない事が分かっていたのでドラゴンとの戦いは放棄しても問題無かったのだが、やはりこの男と二人と言うのはすこし拒否したい思いがある。

 

(……一体、何をするつもりなのかしら?)

 

 正直に言ってしまうとまるで予想が付かない。謙哉が自分の想像なんか軽く超えて来ることはよく良く分かっている事だが、それでも何もわからないと言うのは腹立たしい物がある。

 それでもその気持ちを悟られない様に務めて冷静にしていた玲に対して、謙哉は振り向くと笑いながら言う。

 

「ここ、ここ!ここに用があるんだよね~!」

 

 そう言いながら謙哉が指し示した先には、よく見ないと分からない狭い道があった。人一人通るのが精いっぱいなその道を謙哉はずんずん進んで行く。

 

「……もう、何なのよ一体?」

 

 その後ろを着いて行きながら玲は考える。この人の居なさそうな道の先で謙哉は何をしようと言うのか?

 自分に何か良からぬことをしようと思っているのでは……と思った玲はすぐにその思いを打ち消す。この男に限ってそれは無いだろうという思いが浮かんできたからだ。

 何と言うか、自分に対して息を荒げて襲い掛かる謙哉の姿など想像できない。してもお笑い番組のコントの様で滑稽に思えてしまうのだ。そう考える事は一種の信頼である様な気がしたが、玲はその感情を無視した。

 

「着いたよ!ここ!」

 

 狭い道の先を抜けた謙哉がその場所を玲に見せる。思ったよりも広く綺麗なその場所は水もあり、ここで生きて行こうと思えば出来る様な場所であった。

 ふわふわとした藁の集まった場所もあり、寝る場所にも困らなそうだ。もしかして、謙哉はこの場所を仲間たちの休憩場所にしようと思って改造していたのだろうか?そう考えていた玲の目に気になる物が映った。

 

「……キュピ?」

 

 青く小さなその塊……いや、生き物は玲たちに気が付くとこちらを向く。人の顔程の大きさをしたそれは謙哉を見ると嬉しそうな鳴き声をしてこちらへと飛び掛かって来た

 

「キャイ!キュイ!」

 

「わわ!ドラ君、落ち着いてってば!」

 

「……どら、くん?」

 

「キャイィ!」

 

 名前を言われたその生き物、ドラ君は嬉しそうな表情(と言ってもわからないが)を玲に向ける。しかし、その姿はどこからどう見ても人間では無い。

 小さいが鋭い牙が生え揃っているし、背中にはこれまた小さくとも立派な翼が生えているし、体は青いうろこでびっしりだ。これではまるで、そう、まるで……

 

「あ、紹介するね。この子、ドラゴンの赤ちゃんのドラ君。名前は僕がつけたんだ」

 

「キャピィ!」

 

 同じような表情をしてこちらを見る一人と一匹を見て、玲は頭を痛くしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って事があってね。その後でここに卵を持ってきたら、そのまま卵が孵ってさ」

 

「で、この子を育て始めたと?」

 

「そういうこと!」

 

 もしゃもしゃと謙哉が与える骨付き肉を食べるドラ君を見ながら玲は謙哉の話を聞いていた。昨日、ドラゴン退治をサボって何をしていたかと思えば、こんなところでもボランティア活動とは恐れ入ったものだ。

 

「可愛いでしょ!?いや~、まさかこんなことになるとは思いもしなかったよ!」

 

「……あなたね、敵を育ててどうするのよ?この子もエネミーであることには変わりないのよ?」

 

「いや、それはそうだけどさ……」

 

 そうは言いつつも玲は謙哉がこの子供ドラゴンを始末できる訳が無いとは分かっていた。何を隠そうこのドラゴン可愛いのだ。

 昨日戦った巨大ドラゴンとは似ても似つかないその姿、謙哉から与えられている餌を食べている姿は愛くるしいの一言に尽きる。

 

(……可愛い)

 

「……どうしたの?水無月さん」

 

 その愛らしさに目と心を奪われかけていた玲は謙哉の一言で我に返ると誤魔化す様に咳払いをした。そして、謙哉の持つ骨付き肉を指さして質問をする。

 

「その肉、どこで手に入れたの?まさか家から持ってきたわけじゃ無いでしょうに」

 

「ああ、これはさっき言ったウォーモンキーってエネミーを倒したら時々出るんだ。昨日はこれを探してずっとそいつらと戦っててね、大分レベルアップしたよ」

 

「呆れた、あの怪我でよくもまぁそんなことが出来るわね」

 

「キュプゥ…」

 

 食事を終えたドラ君は満足そうに鳴くとそのままぴょこぴょこと翼を動かして飛び始めた。食後の運動という奴なのだろう、小さい体で器用に飛ぶドラ君の様子を玲は謙哉と一緒に二人で見守る。

 

「昨日は動くので精一杯だったのにもう飛べるんだ!成長が早いなぁ……」

 

「はぁ……なんていうか、あなたって人は……」

 

 本当、変な人ね。そう言おうとした玲だったが、慌てて口を噤む。それは、自分の中に何か明るい感情が芽生えていたのが分かったからだった。

 嫌いな男と二人きりだなんて普通ならさっさと終わらせたいし避けたい事だろう、しかし、自分はこの状況に何か温かい物を感じ始めている……その事が、少し不愉快だった。

 

『玲ちゃんって、本当に謙哉さんの事が嫌いなの?』

 

 やよいの言葉が頭の中で反芻される。否定しきれなかったあの言葉が、何故かうるさい位に自分の中で響いている。

 

「……水無月さん?」

 

「きゃっ!?」

 

 自分の顔を覗き込む様にして顔を近づけて来た謙哉に対して悲鳴を上げて距離を取る玲、その際、うっかり後ろにひっくり返って藁の塊の中に突っ込んでしまったが、柔らかい藁がクッションになってくれたおかげで痛みは無かった。

 

「だ、大丈夫?!」

 

「キャキュィキュイィ?」

 

「……何でも無いわよ、急に近づかれたから驚いただけ」

 

 心配して自分に駆け寄って来た謙哉と、自分の胸元に着地したドラ君の瞳を見た玲は少しだけ落ち着くとぶっきらぼうに吐き捨て、顔をそむける。申し訳なさそうに自分を見る謙哉の表情を横目にしながら、玲は胸を抑えていた。

 

(……何よ、この感覚は…?)

 

 胸の中に広がる柔らかな温もりに困惑する玲、少し不愉快で、だけど心地よいその感情が波打って自分の心を揺らしている。

 別になんてことの無い事のはずなのだ、この男の事は嫌いなはずなのだ、なのに何故かこの男の傍に居ると心が安らいでいく。一度自分の弱り切った姿を見られていると言う安心感だろうか?何故こんな思いを抱くのか分からない玲は胸元のドラ君を抱えて自分の顔の横に置くと、急いで立ち上がった。

 

「……この子の食事、取りに行くんでしょ?どうせ戦うんだったら私も手伝ってあげるわよ」

 

「え?良いの!?」

 

「私のせいで怪我したあなたにもしもの事があったら目覚めが悪いじゃない。だから今回は特別よ」

 

「わぁ……ありがとう!」

 

「……っ…さ、先に行くわよ」

 

 感謝の言葉と共に自分に笑いかける謙哉を見ていると顔が熱くなる感覚に襲われる。その気持ちを悟られない様にそっぽを向いた玲は、珍しく口ごもりながら来た道を戻って行った。

 

(……なんて事無いわ、あいつが私のペースを崩す達人なだけ、それだけよ!)

 

 良い訳の様な言葉を頭の中で繰り返しながら玲は走る。まるで迷路のようなこの細い道は今の自分の心の様だ、何がどうしてこうなっていて、この先が何処に続いているのかもわからない。

 なのになぜか心地良い感覚を覚えながら、玲は後を追って来る謙哉から距離を取る様にして走り続けたのであった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。