仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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登場!戦国学園!

 

 

「とりあえず今の状況を整理するわね……」

 

虹彩学園の会議室、暗い室内の前方にあるプロジェクターとモニターの前に立つ真美がその場に集まっている面々に向けて話をする。

今ここに居るのは虹彩、薔薇園両校のドライバ所有者とマリア、真美を合わせた9名だ。全員で顔をあわせるのは合宿以来で久々となる。

 

ソサエティの攻略において、先日虹彩学園側も暴食魔人と呼ばれたボスを撃破したことでついに関所を開くことが出来るようになった。今日は、その報告と他にもいろいろ分かった事に関しての情報交換をする場としてこのメンバーが集まったのである。

 

生徒たちの代表として集まった9人は、今までの情報をまとめた真美の話に耳を傾けていた。

 

「……関所を潜った先にある薔薇園学園側のソサエティのボス、機械魔王に対応する私たちの側のボスの名前が明らかになったわ、その名は強欲魔王……そして、私たちが攻略したダンジョンの中にあった碑文から、その魔王の手下の名前もわかったの」

 

「強欲の魔王の部下、暴食、憤怒、色欲、怠惰、傲慢、嫉妬の魔人たち……これって、七つの大罪の事ですよね?」

 

「罪に対応する魔人か……なんか、それっぽいな」

 

「既に倒した暴食の魔人を除いて残りは5人、そいつらを全員倒せば、きっと強欲魔王への道も開けるはずよ!」

 

真美の言葉に全員が大きく頷く、明確な目的が出来た事でモチベーションも上がったメンバーは、次に薔薇園学園の攻略の進展を尋ねた。

 

「あ~……アタシたちの方はそこまで報告できることが無いんだよね~…あれから少し敵を倒したくらいかな~?」

 

「すいません、次にすべきこともいまいち分かっていないんです…」

 

「攻略自体に問題はないけど、今は何をすべきかを模索中というところかしら」

 

ディーヴァの3人はそれぞれ現在の状況をそう評した。その言葉を聞いた真美は嬉しそうに笑う

 

「そう、という事は今あなたたちは特に優先してすることは無いと言う事ね?」

 

「まぁ、そうなるけど……」

 

「それじゃあ、手伝って欲しい事があるのよ」

 

そう言った真美はモニターに映像を映し出す。そこには、自分たちが見た事の無い場所が映っていた。

 

「ここは……?」

 

「先日発見された新たな関所がある場所よ、ここも開く様になっている事も確認できたわ」

 

その言葉を聞いた全員の間に緊張感が走る。全員の注目を浴びながら、真美は今回の作戦を告げた。

 

「今日、その先の探索に行こうと思ってるの。出来たらあなたたちにも協力してほしいんだけど、構わないかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーム分けはこれで良いの?」

 

「ええ、今回は何が起きるか分からない以上冒険はしないわ。最大に連携がとれるメンバーで組んで頂戴」

 

数十分後、両学園の生徒たちを引き連れた先ほどのメンバーは新たに発見された関所の前にやって来ていた。ここには門番はいない様だ、難なく扉の前までたどり着ける。

 

「確認するわ、あくまで今回は様子見。出来る限り戦闘は避けて、関所の向こうがどんな風になっているかを見て来るのが今回の目的よ」

 

「真美、もしも向こう側のソサエティに他校の生徒が居たらどうするんだ?」

 

「戦闘は避けるわ、その上で出来れば同盟を、最低でも不可侵条約を結んでおきたいわね」

 

「わかった。まずは話し合いという事だね」

 

光牙の答えに真美は頷く、そして、集まっている面々を見ながら声を上げた。

 

「さぁ、未開の土地への冒険よ!あんた達、気合入れなさいよ!」

 

「お~っ!」

 

ずんがずんがと歩き始める生徒たちを横目にしながら、勇もまた彼らと一緒に関所を潜って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず最初に目に映ったのは荒れ果てた土地だった。続いて地面に突き刺さる刀や槍……所々に散乱する和風の武器たちは、既に命を失った主たちが持っていた物だろう。空は黒く曇り、遠くの方には火の手が見える。

 

「ここは……?」

 

「やっぱ全く違う世界に来たね」

 

関所を通った先はやはり自分たちのソサエティとは違う様相を呈していた。薔薇園学園のSF雰囲気な世界とも違うこの場所は、一体何をモチーフにしているのだろうか?そう考えた勇たちの耳に、何やら野太い男たちの声が聞こえてくる。

 

「み、見て!あれ!」

 

そう言った葉月の指し示す方向を見てみれば、土煙に紛れて幾人もの鎧を着た人たちが戦っているではないか。日本の足軽の様なその人々は、2つの陣営に分かれて戦いを繰り広げているように見える。

本当に人間たちが戦っている訳では無いのだろう。あの兵たちはすべてソサエティの生み出したキャラクターたちだ。しかし、ここではあの様な戦いが普通に繰り広げられているの様だ。

 

「和風の鎧と武器、常に行われる戦争……もしかしてここって……」

 

「……日本の戦国時代、だな」

 

この世界のモチーフを理解した勇と謙哉は、しばらくの間自分たちの前で繰り広げられるその戦いを眺めていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三のソサエティ、モチーフは日本の戦国時代。出現エネミーたちは妖怪をモチーフにしたものと獣の様なものの2種類に分けられる。

エネミーたちの身体能力は高く武器を使う知能もある為非常に厄介ではあるが、魔法に対する適正が低く、かつ遠距離用の武装を持たないので遠くからの射撃が効果的である。

 

またこの世界では各国が戦争を常に起こしている状態であり、エネミーたちが居るとはいえ国自体は平和であった今までの2つの国と比べて治安が悪い。

故に遠くへの遠征も非常に困難であり、攻略は難しい世界であると考えられる。

 

「……大体こんなもんかしらね」

 

自信のレポートをまとめた後で真美が呟く。この場所で数体のエネミーと戦闘をした後で近くの村へと足を運んだ攻略メンバーたちは、一息つきながらこの世界の状況を口々に語りあっていた。

 

「ファンタジー、SFと来て次は戦国時代か、まぁ、和風ゲームではよくある設定だけどよ」

 

「『鬼武者』とかが該当するよね。他にも戦国時代を舞台にしたシュミレーションゲームも多くあるし、順当なセレクションなのかもね」

 

「……龍堂くん、ちょっといいかな?」

 

「あん?」

 

謙哉と話していた自分に近づいて来た光牙の方を向く勇、光牙はそんな勇に対して一つの質問をする。

 

「龍堂くんは天空橋さんと親しかったよね?このゲームの元となった『ディスティニークエスト』を開発した天空橋さんなら、こんな世界があと幾つあるか分かるんじゃないかと思ったんだけど……」

 

「ああ、その事なら聞いてみたよ」

 

「本当かい!?で、彼はなんと?」

 

「……わかんねぇ、だってさ」

 

「……は?」

 

自分を期待して見て来る光牙に対して申し訳なく思いながら、勇はその時の天空橋の言葉をそのまま伝えるとポカンとした顔をしている光牙に詳しい説明を始める。

 

「確かにディスティニークエストは主人公がいくつもの世界をめぐるストーリーだったらしい。天空橋のオッサンもその候補として沢山の世界のデータを構成してプログラミングしてたらしいんだが、それが全部このソサエティに反映されてるかもわかんねぇし、もしかしたらもっと別の世界すらも作り上げられているかもしれないんだと」

 

「……そうか、確かにリアリティの侵食についての考えを忘れていたな。開発者の想像すらも軽く超える可能性だってある訳だ」

 

「そう言う事、だから断定は出来ないけど、オッサンは自分が考えたワールドは10個はあるって言ってたぜ」

 

「10……こんな世界が、あと7つもあるのか……」

 

顔を伏せ、考えに浸る光牙。そんな彼らの話を黙って聞いていた謙哉がおもむろに口を開く。

 

「……不思議だよね。こんな風にゲームを現実めいたものに変える『リアリティ』って、一体何なんだろうね?」

 

「……言われてみりゃあ考えたことなかったな。新種のコンピュータウイルスだって事しか知らねぇや」

 

「それすらも正しいか分からないさ、政府が本当の情報を秘匿している可能性だってある」

 

「……それに、気になる事がもう一つあるんだ」

 

「それってなんだい?」

 

「ちょっとこれ見てくれ」

 

そう言った勇は自身のスマートフォンを二人に見せる。画面に映っているのはディスティニーカード第一弾のカードリストだ。

それを見ていた二人だったが、勇が指さしたカードに見覚えがある事に気が付いて顔を上げる。

 

「……『暴食の魔王 ドーマ』、このカードもディスティニーカードに収録されてるカードなんだ」

 

「……それがどうかしたのかい?確かに俺たちが戦った相手がカードとして収録されているのは驚いたが、元々ドーマもディスティニークエストの登場キャラだとすれば何の問題も無いだろう?」

 

「そうなんだけどよ……」

 

勇が言いたいのはそこでは無い。確かに妙な既視感が生まれるが、天空橋が作り出したディスティニークエストのキャラとしてドーマが設定されているなら、それを基に作り出したディスティニーカードにも彼が登場してもおかしくないはずだ

気になるのはそこだ、もし、本当に天空橋がドーマの事を知っていたのなら、なぜ彼はこの見るからにボスキャラになりそうな敵の事を教えてくれなかったのだろうか?

 

「……やっぱり、本当に出て来るか確証がなかったからとかじゃないかな?いくら自分が作ったものとはいえ、天空橋さんも全部を把握してるわけじゃ無いしさ」

 

謙哉のその説明なら一応納得ができる。しかし、勇の中にはこれ以外にも不思議に思う事はあった。

 

ドーマのいたダンジョンで発見した碑文、そこにはこう書かれていた。

 

『一人の男の欲望が作り出した悪しき偶像』……これはどういう事であろうか?

普通に考えれば6人の魔人は魔王が作り出した部下だと言う事を示しているのだろう。しかし、なぜ一人の男と書かれているのだろうか?

その一人の男とは誰なのだろうか?どんな欲望を持ったことで魔人たちは生まれたのか?疑問は尽きない。だが、これはゲーム内の仕様だと言われればそれで解決は出来る。

 

しかし、勇が何故、あの碑文を読むことが出来たのかはそれでは説明できないのだ。

ゲーム内にしか使われていない文字、しかも、自分はあんな文字は初めて見た。それなのに、何一つとして訳を間違える事無く読むことが出来た。一体何故なのか?ここには何か重大な秘密が隠されている様な気がしてならない。

 

勇がこのことを二人に説明しようとした時だった。息を切らせた生徒の一人が、自分たちの待機していた小屋の中に駆け込んできたのだ。

それは周囲の状況を確認させるために使いに出した生徒たちの一人であった。彼の体はぼろぼろになっており、怪我もしている。何かただ事ではない事が起きた雰囲気を察した真美がその生徒に駆け寄ると、彼を問い詰め始めた。

 

「一体何があったの?グループの他のメンバーは?」

 

「お、襲われたんです。急に……」

 

「襲われた?エネミーにやられたの?」

 

「ち、違います……た、他校の生徒が、急に俺たちを……!」

 

「何ですって……!?」

 

襲われた生徒のその言葉を聞いたドライバ所有者たちは顔を見合わせる。可能性として他校の生徒たちと接触することがある事は分かっていた。しかし、まさか攻撃を受けるとは思ってもいなかったのだ

 

「おい!ならそいつらの所に行ってお返ししてやろうぜ!」

 

「待てよ櫂!真美が言った事を忘れたのか?俺たちは他校と争うつもりは無い!むやみに関係を悪化させてどうするんだ!」

 

「……でも、一目見れば人間だとわかるこちら側の生徒たちに攻撃を仕掛けて来たんだから、向こうはやる気になってるんじゃないの?」

 

「そうかもしれないけど、違うかもしれないよ。水無月さん」

 

「……どういう事?」

 

自分の言葉に対して含みのある言い方をした謙哉を玲が睨む、その視線に怯むことも無く、謙哉は自分の考えを述べた。

 

「もしかしたら向こうの生徒は他校の生徒と接触するのが初めてなのかもしれない。だから、自分たちの領土にやって来て何かを調べてる僕たちを見て怪しく思ったのかも。とりあえず何人か捕まえて目的を聞き出すために襲って来たって可能性も無くも無いよ」

 

「……一理あるわね。向こうは自衛の為に私たちを攻撃して来たって事も十分あり得るわ」

 

「私もそう思います!ちゃんとお話すれば、向こうも分かってくれますよ!」

 

意外にも謙哉の言葉を素直に肯定した玲を見たやよいも謙哉の言葉に賛成する。

とりあえずいきなりの戦闘にはならないと判断した勇もまたまずは話し合いから始めると言う選択に賛同した。

 

「こっちは無理に事を構える気はねぇんだ。最悪の場合ここから退いたって良いだろ。ちょっと話し合って脈ありと判断したら、同盟でも不可侵条約でも結べば良い」

 

「うんうん!勇っちとやよいの言う通り、まずは仲良くすることから始めよーっ!」

 

「……方向性は決まったわね。和平策で相手の刺激させない様にして話し合う。これに異存はない?」

 

真美の言葉に櫂以外の全員が頷く。ちなみに多数決で決定したことをしぶしぶ受け入れた櫂は、自分がどんなに主張しても他のメンバーの頭には敵わないのだろうなと思い早々に考える事を放棄することにしていた。

 

「わかったわ、じゃあまずはあなたが襲われたところまで案内して頂戴。そこでその学校の生徒たちと接触して話し合いましょう」

 

真美の決定に従い。全員が立ち上がると移動しようとする。その時だった。

 

「……お~~い!誰も出て来ねぇのかよ?わざわざこっちから出向いてやったのによ!」

 

聞き覚えの無い男の声が聞こえてきた。それと同時に何かが争うような物音もだ。

何かが起きている事を察した勇たちは、急ぎ小屋を出ると物音が聞こえてくる方向へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何だってんだこれは……!?」

 

騒動の中心へたどり着いた勇たちは、そこに広がっていた光景に言葉を失った。なんと、そこには虹彩学園と薔薇園学園の生徒たちが何人も倒れていたのである。

中立地帯である村の中にはエネミーは現れない。という事は、これを行ったのは間違いなく勇たちと同じ人間だ。

 

「おい!しっかりしろ!」

 

急ぎ近くに倒れている生徒を抱えて安否を確かめる。負傷はしているが命に別状は無いようだ。その事に安心した勇の耳に、先ほど聞こえた男の声が聞こえて来た。

 

「お!やっと頭のお出ましかよ」

 

「…お前がこれをやったのか!?」

 

「ああ、ちょっと挨拶にきたら雑魚どもがうようよしてたからな、掃除しといてやったぜ」

 

獰猛な笑みを見せながらそう言った男は黒の学ランに身を包んでいた。金髪に染め上げた髪をツンツンに立てて、見るからに不良という感じだ。男は自分が掴んでいる気絶した男子生徒をゆすりながら話を続ける。

 

「つってもまるで面白みが無かったけどな!もっとちゃんと鍛えとけよ!」

 

その言葉と共に男は自分が襟首を掴んでいた男子生徒を放り投げた。間一髪でそれを謙哉が受け止めると、男は口笛を吹いてそれを茶化した

 

「カッコいいねぇ~……ヒーローのつもりかぁ?」

 

「なんでこんなことをするんだ!?僕たちが君らに何をしたっていうんだ!?」

 

「はっ!理由なんざねぇよ、ただそこに邪魔者が居たからぶっ潰したまで!」

 

「……真美、こいつと組むなんざ不可能だろうが!さっさとやっちまおうぜ!」

 

「待ちなさい、櫂!……こいつが責任者って決まった訳では無いわ、頭の人間と話を出来ればまだ可能性はあるわよ」

 

頭に血が上った櫂を抑えて真美が言う。しかし、彼女も相手側のこの非道な行動に怒りを隠せないでいた。

 

「……お前ら、虹彩学園と薔薇園学園だろ?ディーヴァの3人が居るんだからすぐに分かったぜ」

 

「分かっているなら話が早いわ。あなたたちのトップと話をさせて、私たちはあなたたちと争うつもりは無い。むしろ協力したいのよ」

 

「あ~、そらアカンでお嬢ちゃん!アカンなぁ!」

 

敵意が無い事を示し、トップとの会談を求めた真美に対してまた別の男の声が響いた。学ランの生徒たちを掻き分けて姿を現したのは、サングラスをかけ、革ジャンに身を包んだ黒髪の男だった。

 

「悪いが俺らは誰とも組まへん!それが弱い奴なら尚更や!」

 

「……俺たちが弱いと?」

 

「そやで、今戦ってみた感じ、あんたらの兵隊さんには楽しめる所が何一つあらへんかった。俺らに一方的にやられてお終いや、これが弱いと言わんで何と言うんや?」

 

「面白れぇ!俺が相手になってやるぜ!」

 

「だから落ち着け筋肉ダルマ!相手の挑発にほいほい乗ってんじゃねぇよ!」

 

顔を真っ赤にした櫂が前に出ようとするのを勇が呆れた様に諫める。その様子をケタケタと笑いながら見ていたサングラスの男は、ふと真面目な顔をするとこう言った。

 

「ま、俺が頭って訳やないからそれで決まりって訳やないけどな……で、どないするん?大将!」

 

「……答えは決まっておる。我らに協力の二文字無し!」

 

辺りの空気が震える程の声が響き渡った瞬間、学ランの生徒たちが二手に分かれて道を作った。そうして出来た道を真っ直ぐに歩いてくる男が一人

 

「……男として、己が力のみで天下を掴む!それが我ら『戦国学園』の信条よ!」

 

「戦国学園だって…!?」

 

「知ってるのか、光牙?」

 

相手の学校名を聞いた光牙の顔が険しく変わったのを見た勇が彼に尋ねる。その答え代わりに頷いた光牙は、戦国学園について自分が知る事を語り始めた。

 

「戦国学園……日本最大の武術系学校で、空手や剣道、柔道などの全国大会で何回も優勝しているエリート校。しかしその実態は、常識離れした厳しい教育で生徒たちを鍛える超スパルタ校さ」

 

「厳しい教育って、どんなだよ?」

 

「俺も噂でしか知らないが……体罰なんか当たり前、規律を乱した生徒は即刻教師陣から暴行を受けて矯正される。中学時代からの札付きの悪が戦国学園のトップを取ろうと入学してくるけど、あまりにも厳しい教育に音を上げてすぐに退学してしまうから生徒数は非常に少ないって話だ」

 

「はっ、なるほどな。んじゃ、大将って呼ばれたあいつがその不良校のてっぺんって訳か」

 

勇はそう言って現れた人物に目を向ける。櫂と同じかそれよりも大きい体、堂々とした態度、王者の風格……本当に高校生なのかと疑問を持つくらいだ

 

「……あなたが戦国学園のリーダー?」

 

「左様。我は戦国学園3年の大文字武臣(だいもんじたけおみ)、左の金髪が仁科努(にしなつとむ)、右の中途半端な関西弁の男は真殿光圀(まどのみつくに)だ」

 

「……私たちとの同盟を受ける気が無いって言うのは、あなたの意思だと考えてもよろしいのかしら?」

 

「それに関しては私から話しましょう」

 

真美の質問に答えたのは、大文字の傍らに控えていた小柄な男だった。ネズミの様な顔をしている男は、手に持った扇子を閉じながら真美に自己紹介をする。

 

「申し遅れました。私、根津信八(ねづしんぱち)と申します。戦国学園で軍師の真似事をしている者です」

 

「前置きは結構よ。それで、何故私たちと協力関係になるつもりが無いのかしら?悪い話ではないと思うのだけれど」

 

「簡単ですよ。我々には協力の言葉は無い。あるのは支配の二文字だけです。事実この戦国時代を模したソサエティに存在する他の学校は、すでに我々に帰順の意を示しました」

 

「なっ……!?」

 

「彼らは実によく働いてくれています。戦略拠点の製作から情報収集、私たちの戦いのサポートまで……良い奴隷として扱わせていただいてますよ」

 

根津はそう言いながら愉快そうにクックッと笑った。その笑みは、見ていて気分が悪くなる様な醜いものだ。

 

「……そう、分かったわ。じゃあ、私たちは帰らせて貰います。お時間を頂いて悪かったわね」

 

「おい!まさかこのまま帰るつもりかよ!?こっちは仲間が何人もやられてんだぜ!?」

 

「……櫂、黙るんだ。今は相手を刺激したら駄目だ」

 

意外にもあっさりと退いた真美に対して詰め寄ろうとする櫂を再び光牙が抑える。しかし、根津はギロリと目を光らせると真美に向かって低い声で言い放った。

 

「……誰があなたたちを素直に帰すと言いましたか?」

 

根津のその言葉が合図であったかのように戦国学園の生徒たちが勇たちを囲む。ものの見事に包囲された勇たちに対して、根津は扇子で口元を隠した状態で話しかけて来た。

 

「知ってますよ。あなたたちの中にドライバ所有者が7人いる事も、その内薔薇園のディーヴァの3人が使うドライバーが量産型である事もね……それを奪取できれば、私たちの戦力はさらに増える」

 

「……強奪するつもり?」

 

「まさか、そんな手ぬるい真似はしませんよ……私たちはあなた方を支配するつもりです。ドライバーを頂いた後は男性には攻略を手伝う労働力に、女性には攻略で疲れた我が生徒たちを癒す役目について頂きます。そちらにはよく働きそうな男子生徒も、美しい女子生徒もたくさんいるようですしね」

 

「うへぇ……な~んかヤな人たちだと思ってたけど、ここまでとはねぇ……」

 

「全くだ、呆れて声も出ねぇよ」

 

根津のその言葉に葉月と勇が嫌悪感を示す。それに対して反応したのは、金髪の男こと仁科だった。

 

「そんなもん弱い奴の意見だろうが!強いもんが全てを支配する。それがこの世の真理だろ?」

 

「……私たちをそんな風に扱ったら間違いなく学校側から抗議が行くわよ。そうしたら、3校だけの問題じゃなくなるわ」

 

「関係あらへんな。言ったやろ?強いもんが全てやって……俺たちは教師より強い。せやから、学校は俺たちを止められんのや」

 

「そんなの暴論だ!まさか君たちは、今まで争った学校の生徒たちにもそんな扱いをしているのか!?」

 

「当然やろ、だって俺らは勝者……敗者は、勝者にすべて差し出すほかないんやからな」

 

「負けりゃ全部を奪われる。そんなもんガキだって分かる論理だ、そうだろ?」

 

「そ、そんなのおかしいですよ!無茶苦茶すぎます!」

 

「な~んにもおかしくないぜ、ディーヴァの片桐やよいちゃん!テレビで見るより可愛いね~!……後でやよいちゃんを好きに出来るかと思うと楽しみでしょうがないぜ!」

 

「ひっ……!」

 

自分に下種な視線を送る仁科に対して怯えた表情を見せるやよい。そんなやよいを庇う様に立った葉月と玲は、強気な姿勢で仁科を睨む。

 

「……なに勝ったつもりになってんの?アタシたち、アンタに好きにされるつもりなんてこれっぽっちも無いんだけど?」

 

「あんまり調子に乗らない事ね、アンタなんてお呼びじゃないのよ」

 

「良いね良いね!その強気な表情、堪らねぇなぁ…っ!後で俺に土下座させて侍らせんのが楽しみだぜ…!」

 

「……仁科、お前ホンマにええ女に目が無いなぁ。さっきもお人形さんみたいな可愛らしい女の子とっ捕まえてたやないけ」

 

「英雄色を好むって言うだろ?今日は最高だぜ、アイドル3人組に外国のお姫様みたいな女の子までモノに出来るんだからな!」

 

「外国のお姫様だって……?まさかお前、マリアに何かしたのか!?」

 

「へぇ、あの子マリアちゃんって言うのか。安心しろよ、可愛いからとっ捕まえただけでなにもしてねぇよ……今はな」

 

そう言った仁科が手を挙げると、学ランの生徒の一人が拘束されたマリアを連れて来た。後ろ手に縛られて抵抗を封じられたマリアは、勇たちを見ると怯えた声で助けを求める。

 

「い、勇さん……光牙さん……!」

 

「マリアっ!貴様っ!マリアを離すんだ!」

 

「貴様っ!マリアを離すんだ!……カッコいいカッコいい!俺びびっちゃうなぁ~!」

 

光牙のものまねをして彼を馬鹿にした仁科はにやけた面でマリアを引き寄せると彼女を後ろから抱きかかえる。怯えた表情のマリアの体をいやらしい手で撫でながら、仁科は後ろに控える生徒たちを煽る様にして声を上げた。

 

「お前ら!美味い飯が食いてぇか?良い女が抱きてぇか?なら、どうすれば良いか分かってるな?」

 

「奪えっ!奪えっ!奪えっ!」

 

「女を奪われて惨めに奴隷に成り下がる敗者とすべてを奪ってその上に君臨する勝者、俺たちはどっちだ!?」

 

「勝者!勝者!勝者!」

 

「そうさ!勝者こそすべて!俺たちは常に勝ち続ける!そして、この世のすべてを手に入れる!それが俺達、戦国学園だぁっ!」

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

大地を揺らすほどの戦国学園の生徒たちの雄叫びに虹彩と薔薇園学園の生徒たちは完全に呑まれてしまっていた。ピリピリとしたプレッシャーを感じた光牙の背中には汗が噴き出している。

 

「……つー訳だ。負け犬になるのが嫌なら勝てば良い。じゃなきゃ、奪われるだけだ」

 

「ぐあ…っ!」

 

仁科はそうニヤつきながら言うと、マリアの首を絞める。苦しさに涙を浮かべながら呻くマリアを見ながら、仁科は高笑いしながら叫んだ。

 

「勝つのは良い!勝利の征服感と戦利品が一緒に手に入るんだからな!安心しろよ、お前らが無様に負けたとしても、マリアちゃんは俺がた~っぷり可愛がってやるからよ!あ~っはっは!」

 

「げほっ…ごほっ…うぅ…っ!」

 

絞められていた首を離されて息苦しさから解放されたマリアは咳き込むと失われた酸素を求めて口を開こうとする。しかし、その細い首筋に仁科の手が触れられると同時に、怯えた表情を見せて震えだしてしまった。

何時また受けるやも分からない暴力に怯え、震えるマリアを愉快そうに撫でながら仁科は笑い続ける。虹彩、薔薇園学園の誰もが怒りに燃えた目で仁科を見るも、戦国学園の生徒たちの剣幕に押されて何も出来ずにいた。

 

「あ~っはっは!あ~っはっはっはっは!」

 

それを良い事にマリアを弄びながら高笑いを続ける仁科、時々マリアの首筋に回した手を動かせば、その度にマリアの体がびくっと震える。その反応に良い気になりながら笑い続ける仁科だったが……

 

「あ~っはっはっは!あ~……がべっ!?」

 

「良い加減その口閉じろ。耳障りなんだよ、お前の笑い声」

 

突如、頬に強い衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされる。自分が殴られたのだと理解した仁科は、自分に無礼な真似をしたその相手を睨みつけた。

 

「てめぇ……良い度胸してんじゃねぇか」

 

「女を脅して高笑いする野郎には負けるさ、で、俺のパンチはちったぁ効いたか?」

 

挑発するようにしてせせら笑うその男……勇は、マリアを仁科の手から奪い返し戦国学園の生徒たちを睨みつける。大胆不敵なその行動に対して怒りを募らせた何名かの生徒が、勇目がけて襲い掛かって来た。

 

「貴様っ!舐めた真似をしやがって!」

 

前から迫りくる大男、しかし勇は顔色一つ変えないままにその男を睨むと、鋭い前蹴りを繰り出した。

 

「ぐふっ!」

 

「おっ…らぁっ!」

 

勇の蹴りを受けた男は腹を抑えて動きを止める。その隙を逃さない勇は、高く上げた踵を男の頭目がけて振り下ろした。

 

「ぎゃっ!?」

 

勇渾身の踵落としを受けた男は情けない声を出して地面に倒れ伏した。気を失い伸びてしまった男を見た戦国学園の生徒たちは、勇に襲い掛かろうとする動きを止めて彼を見る。

 

「……どうした?かかって来いよ。全員纏めてぶっ潰してやるからよ」

 

低く、唸る様にして戦国学園を威嚇する勇。その声には煮えたぎる様な怒りが籠っていた。

鋭い目つきで相手を睨めば、その視線を受けた生徒たちは知らず知らずのうちにその場から一歩下がっていた。勇の出す威圧感に負けて後退る生徒たちを見た大文字は感嘆の声を上げる。

 

「……あの男、かなりの剛の者と見た」

 

戦国学園の頭を張る男として、大文字は生徒たちの力量や度胸をしっかりと把握している。厳しい教育や強さを競う戦いの中で磨き上げられた戦国学園の生徒たちのそれは、決してそんじょそこらの男に気圧される様な代物では無い。

つまり、そんな戦国学園の生徒たちを睨みだけでたじろがせている勇は相当な覇気の持ち主だ。大文字は勇のその姿に、自分と同じ覇王の器を感じていた。

 

しかし、自分の仲間たちもそれだけで終わってしまう様な男たちではない。その証拠に、勇の放つプレッシャーを気にも留めずに彼に近づく男が一人いた。

 

「……お前ら下がれや。あんま情けない姿見せるもんや無いで」

 

そう言いながら真剣な表情で勇との距離を詰めるのは自分の片腕にして戦国学園のNo2こと真殿光圀だ。先ほどまでの浮ついた笑みは消え失せ、勇同様鋭い視線を見せている。

 

「い、勇さん……」

 

「……マリア、俺の後ろに下がってろ」

 

勇もまた光圀の鋭い視線に一歩も引かない。マリアを自分の背中に隠す様に立つと、真っ直ぐに光圀の視線を受け止める。

視線のぶつかり合いだけで火花が散りそうな二人の睨み合い。やがて自分の手が届くまで近づいた光圀は、鋭い視線を勇に向けたまま口を開く。

 

「お前……」

 

正に一触即発、二人を見守る全員に緊張感が走る。いつ戦いが始まってもおかしくないその雰囲気に、誰もが目を離せないでいた。

一体光圀は勇に何をしようと言うのか?挑発か、それとも先制攻撃か……?固唾を飲んで見守る生徒たちの前で、光圀は大きく口を開いた。

 

「お前……むっちゃカッコええやん!」

 

「……はぁ?」

 

先ほどまでの真剣な表情は何処へやら、子供の様な無邪気な笑顔を浮かべて勇を褒めた光圀に対して勇は怪訝な顔を向ける。そんな勇の肩をばしばしと叩きながら、光圀はマシンガントークを続けた。

 

「あんなかんっぜんにアウェーな状況で女の子を助ける為にここまで来るなんてめっちゃカッコいい!しかもその子虐めとったウチの馬鹿たれをぶん殴って助け出すなんて二倍、いや、三倍はカッコよさが増しとる!その上で襲って来た奴をあっさり片付けてあんな決め台詞なんて……アカン、決まりすぎやろ!俺がそんなんやられたら完璧に惚れてまうわ!マリアちゃんもそう思うやろ?」

 

「え、ええ…まぁ……」

 

「それに比べておい仁科!お前ダサすぎやろ!完璧に主人公にやられる小悪党のテンプレやん!序盤の北斗の雑魚キャラかお前は!?完璧にこいつの引き立て役になっとったやないけ!」

 

「真殿ぉ…っ!てめぇ、どっちの味方だ!?」

 

「別にどっちの味方したわけでもあらへん。俺はお前がダサくて、こっちの……あ~、君、名前なんやったっけ?」

 

「え…?龍堂勇だけど……」

 

「勇…勇ちゃんかぁ!よっしゃ、ほなこれから勇ちゃんて呼ばせてもらうわ!俺、勇ちゃんの事気に入ってもうたわ!」

 

「は、はぁ……」

 

上機嫌で笑い続ける光圀に対して勇だけでなく後ろのマリアや他の生徒たちもポカンとした表情で彼を見ている。

そんな中でほんの少しだけ笑みを浮かべた大文字は、笑い続ける光圀に対して声をかけた。

 

「光圀、どうやらお前もその男が気に入った様だな」

 

「せや!最近骨のある奴が見つからなくて退屈しとったが、勇ちゃんと出会えて俺は嬉しいわぁ!」

 

「ふふ……龍堂勇だったか、お前、大分面倒な男に好かれたな」

 

「はぁ?」

 

もはや何が何だかわからなくなっている勇は大文字のその言葉にも疑問の声を出すだけだ。しかし、そんな勇に対して満面の笑みを浮かべた光圀は、懐からギアドライバーを取り出すと嬉々とした表情で告げる。

 

「さぁ勇ちゃん!俺とやり合おうや!」

 

「は、はぁ!?」

 

大喜びしながら戦いを始めようとする光圀、勇はこの理解不能な男に対してどう接すれば良いのかが分からずに困惑していたが……

 

「……なんも困る事あらへんで勇ちゃん、これが俺の性なだけや」

 

「しょう…?」

 

「そや、仁科のあほが可愛い女に目が無いのと同じで、俺は強い奴に目が無いんや!そいつと戦う事が俺の最高の喜び、勝ち負けやない、戦いの過程を楽しむんが俺の流儀なんや!」

 

「……つまり、根っからの喧嘩好きってことか?」

 

「そや!勇ちゃんは理解が早くて助かるわ!」

 

嬉しそうに笑う光圀に対して勇は確かに厄介な男に好かれたと思った。バトルマニアに喧嘩の相手として好かれたからには間違いなく戦わなければならなくなるだろう。勇のその心配を悟ったかのように大文字は一言忠告して来た。

 

「一応言っておくが、光圀は我が戦国学園において不動のNo2だ。我と互角に戦える数少ない男でもある」

 

「おかげで喧嘩の相手が少のうてまいってたとこや!勇ちゃんは、たっぷり楽しませてくれるよなぁ?」

 

「は、ははは……大分無茶苦茶だな、お前……」

 

呆れた様に乾いた笑いを口にした勇だったが、自分が殴り飛ばした仁科もまた手にドライバーを持っていると気が付いて認識を改める。

もう戦いは避けられないのであろう。彼らの様子を見るに負けたら本気でドライバーを取り上げられたうえで戦国学園の為に働かなければならなくなるかもしれない。

そんなのは真っ平御免だ、ならば、彼らの言う通り勝つしか無いのだろう。

 

勇は決意を固めると懐からドライバーを取り出す。それを見た光圀は喜びの色を強めた口調で歓喜の声を出した。

 

「やっとその気になってくれたんやな!仁科、大将、勇ちゃんは俺のもんやで!絶対に邪魔すんなや!」

 

「……けっ、しゃあねぇ。借りを返してやろうと思ったがお前にそう言われちゃあ仕方がねぇ……だがま、運が悪かったな。光圀の相手をする以上、お前は終わりだよ」

 

「……一騎打ちでの勝負、という訳でもなさそうだな」

 

自分の後ろを見つめる大文字の視線に気が付いた勇が振り返ると、そこには光牙をはじめとした虹彩、薔薇園学園側のライダーたちがこぞってドライバーを手にして並び立っていた。

 

「見てるだけなんてつまらねぇだろ?俺たちが相手をしてやるよ!」

 

「ほう……面白い!」

 

櫂の言葉に反応した大文字と仁科もまた自分の腰にドライバーをあてがう。緊迫した雰囲気の中、真っ先に動いたのは光圀だった。

 

「ほな、一足先に……変身!」

 

<キラー! 切る!斬る!KILL・KILL・KILL!>

 

般若のお面を被った着物姿の武士を模した姿へと変身する光圀、そこから居合斬りをする様にして刀を振るい、何事も無かったかの様にそれを納刀する。

威嚇のつもりだろうか?そう考え訝しがる勇たちだったが、キィン、という耳鳴りが聞こえた事に気が付くと同時に背後で轟音が響いた。何事かと思い振り返った勇たちが見たのは、後ろにそびえ立つ崖の岩場に刻まれた鋭い太刀筋だった。

 

「ほんのご挨拶や、あんまビビらんといてな」

 

くっくと愉快そうに喉を鳴らした光圀が呟く。その威圧感に押されそうになっていると、今度はニタニタと笑う仁科がカードをドライバーにリードした。

 

「へんし~ん!」

 

<メイジ! 暴れ壊して好き放題!>

 

黒と白の対比が美しい僧兵の姿を現した鎧に身を包む仁科、もう一枚のカードを使用して己の武器を呼びだす。

地面から生えて来るように出現したそれは巨大な大槌だった。巨大な武器を軽々と振り回した後で地面に叩きつけて仁科は言う。

 

「……光圀、お前があの野郎を貰うってんなら俺はディーヴァの3人を貰うぜ。さっさと終わらせてお楽しみタイムと行きたいからな!」

 

「好きにせぇ、俺は勇ちゃん以外どうだってええ」

 

「よしよし……んじゃ、3人は俺と遊ぼうか!たっぷり可愛がってあげるよ……!」

 

「わ、私たち、あなたの好きになんかなりませんもん!」

 

「あー……なんか背中がぞくっと来た……」

 

「……いい加減不愉快ね。黙って貰えないかしら?」

 

仁科に対して三者三様の反応を見せるディーヴァ、しかし、そんな彼女らを見向きもしないまま、光牙は大文字を睨んでいた。

 

「……我の相手はお前か、まさか一人で戦う気ではあるまいな?」

 

「俺が一人で戦うつもりだ。何か不服かい?」

 

「笑止、お前一人ごときに敗れる我では無い。遠慮なく戦力をかき集めよ」

 

「何だと……っ!?」

 

「……待てよ光牙」

 

大文字の自分を舐めた物言いに目を鋭くする光牙の肩を櫂が抑える。いつもと逆の立ち位置になった二人は、目を見合わせた後に同じ意見に達した。

 

「……向こうがそう言うのなら遠慮なしにぶつかってやろうじゃねぇか、その上でぶっ飛ばしてやればいい!」

 

「確かにな、俺たちは負けられない身だ。ならば確実に勝つ方法を取るのが定石!」

 

「ふふ……それで良い。これで二対一、他に加勢する者は居るか?」

 

「……やよい、あなたも白峰に加勢なさい」

 

「えっ!?で、でも……」

 

「装備を見るに、向こうは完全に近接線型のファイター、なら遠距離攻撃が出来る人間が一チームに一人は居た方が良いじゃん?」

 

「白峰と城田にはそれが無い。だから、あなたが援護してあげなさい」

 

「……うん!わかった!」

 

余裕綽々と言った様子で光牙たちを見据える大文字に脅威を感じたのか、玲と葉月はやよいを光牙チームへと派遣することを決めた。その会話を聞いていた仁科が腹立たし気に舌打ちをする。

 

「ちっ……大将、言っても無駄かもしんねぇけどやよいちゃんを壊すなよ。ぶっ壊れた女には興味ねぇからな」

 

「それは向こうしだいだ。我の力に耐えられる女か、はたまた早めに心折れて降伏すればお前の望みは叶えられよう」

 

「けっ!結局手加減するつもりは無いって事かよ……あ~あ、残念だけどやよいちゃんは諦めて残りの二人でその分を埋めるとするか!」

 

残念そうに言いながらも笑顔は崩さない仁科、しかし、とあることに気が付いた彼は謙哉を指さして尋ねる。

 

「おいお前……そう、そこのお前だよ。お前、誰と戦う気だ?」

 

「え……?僕は勇と一緒に……」

 

「なんやお前!?俺と勇ちゃんの戦いを邪魔する気かいな!?ほんま無粋なやっちゃの~!」

 

「え?じゃ、じゃあ白峰君の所に……」

 

「来るんじゃねぇ!これ以上味方が増えたらあいつに勝っても誇れねぇだろうが!」

 

「……みなづ」

 

「来たら殺す」

 

「まだ何も言って無いじゃないか!」

 

哀れ謙哉、どの組からも除け者にされてしまいがっくりと項垂れている。そんな謙哉に向かって口を開いたのは大文字だった。

 

「安心しろ、お前の相手は我がしよう。三人程度ならすぐに片付く」

 

「……言ってくれるじゃないか、その言葉、すぐに撤回させてあげるよ!」

 

大文字の自分を蔑ろにする発言に珍しく怒りの炎を燃やした光牙は「ライト」のカードをドライバーに通す。それに倣って他のメンバーもカードを使い、変身していった。

 

<ブレイバー! ユー アー 主人公!>

 

<ウォーリア! 脳筋!脳筋!NO KING!>

 

<ディーヴァ! ステージオン!ライブスタート!>

 

<ディスティニー! チェンジ ザ ディスティニー!>

 

「どうせ僕なんか……僕なんか…ぐすん」

 

一人膝を抱える謙哉を放っておきながら身構える6人、相手の姿を見据えて戦いの始まりを待っている。

 

「……お前たちは何を思い、何を成そうとして生きている?」

 

そんな彼らに向かって大文字は問いかける。まるで勇たちを試しているかの様に

そのままゆっくりとカードを取り出した大文字は、目を見開き、大声を出して叫んだ。

 

「お前たちにも成すべきことがあるのだろう!果たしたい目的があるのだろう!なれば、我らを倒し、その思いの強さを証明して見せよ!」

 

<ロード! 天・下・無・双!!!>

 

大文字が変身したのは赤揃えの鎧武者だった。兜、具足、鎧、腰に差す大太刀の鞘、そのすべてが血の様な赤色で統一されている。

ぶん、と大太刀を振るえばその場の空気が震える。それだけの強大な覇気を見せながら、大文字は叫んだ。

 

「さぁ、雌雄を決しようではないか!我らとお主ら、どちらが天に手を伸ばすに相応しいかを決めようぞ!」

 

大文字のその言葉を皮切りに左右に控えていた仁科と光圀が走り出す。すさまじい速度で接近してきた二人は、それぞれ葉月と勇に攻撃を仕掛けて戦う相手以外のメンバーとの距離を取らせる。

 

「ちっ!あいつら俺たちを分断しやがったか!」

 

「根津!」

 

「お任せを!」

 

それぞれの相手に集中して戦える状況をつくった事を確認した大文字は軍師である根津に合図を送る。それを待っていたかのようにカードを取りだした根津は、それを腕のゲームギアに読み取らせた。

 

<落石の計!>

 

「うおぉぉぉっ!?」

 

根津がそのカードを使用した途端、上空から巨大な岩がいくつも降って来た。勇たちを分断するようにして積み上がったそれを見た真美は軽く舌打ちをする。

 

「……逃げ場を潰されたって事ね」

 

「ふふ……左様、これで我々の命運はこの岩の牢獄の中で戦う者たちに委ねられました」

 

「……ずいぶんと余裕があるじゃない。人数ではこっちが圧倒的に有利なのよ?」

 

「これはこれはご冗談を……我々がほんの数名の人数差でどうにかなる相手だと本気で思っているのですか?」

 

真美を嘲るようにして笑った根津は扇子を広げながら目の前の岩の壁を見る。そして、自分を睨みつける真美を愉快そうな目で見るとこう言った。

 

「勝てませんよ、あの三人には誰にもね……ここで我々と出会ってしまった時、あなた方の運命は決まってしまったのですよ。私もこれから忙しくなります、なにせ新たな奴隷と戦力を有意義に使わないといけないのですからね…!」

 

根津のその強気な発言に真美は半歩だけ後退る。根津は脅しや揺さぶりでこんなことを言っている訳では無い。心の底から本気で負けるはずがないと思っているのだ。

日本屈指の武闘派高校のトップ3……その戦闘能力は予想がつかない。確かに人数ではこっちが有利だ、しかし、それだけで安心できる相手ではない事は重々に承知している。

 

「真美さん……」

 

「大丈夫、大丈夫よ……」

 

不安そうなマリアを抱きしめ、同じく言いようの無い不安に押しつぶされそうになりながらも、真美には自分たちの仲間を信じる以外の選択肢は残っていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっらぁっ!」

 

「ひゃっはぁっ!」

 

ディスティニーソードと『妖刀・血濡れ』がぶつかり合う。金属音が響き、火花が散るたびに、勇の中の確信が強まって行く。

 

「ほらほらっ!もっと行くでぇっ!」

 

光圀の振るう刀の速度がさらに早くなる。その太刀筋には強さは無い。軽く、剣で防げば難なく受け止められるものだ。

しかし、その一撃一撃すべてが必殺の鋭さを持っていた。蛇が獲物を飲み込む時の様な静かさ、一瞬でも気を抜けばその時点で致命的な攻撃を貰う事への緊張感が勇の体を強張らせる。

それでも繰り出される光圀の攻撃を受け止め切れているのは勇がその攻撃に対して対応できている証だろう。戦国学園の生徒でさえ10合と持たない自分との剣のやり取りを続ける勇を光圀は口笛交じりに褒め称える。

 

「予想以上やで勇ちゃん!こりゃ久々に楽しめそやわ!」

 

「そりゃこっちの台詞だっての!」

 

一歩踏み込み剣を振るう。鼻先を掠めて躱された一撃の行く末を想像しながら、勇はもう既に次の行動へと移っていた。

光圀はぎりぎりで攻撃を躱した今を好機とみて反撃に出るだろう。ならばそれを防ぐ為に動かなければならない……と、考えていてはこの戦いには勝てないだろう。

 

人には誰しも戦いのスタイルというものがある。勇の攻めを重視した攻撃的スタイルに対して謙哉は防御に重点を置いた堅実なスタイルと言った様に戦う人間によってそれは様々だ。

今、自分と相対している男、真殿光昭という人間の戦闘スタイルは『攻め全振り』、攻撃にすべての力を振るい、防御を考えない戦い方だ。

 

一見するとそれは愚かな戦い方だと見えるかもしれない。しかし、光圀ほど振り切っているなら話は別だ。相手に攻撃の隙を与えずに攻め続ける。そして相手が苦し紛れに繰り出した攻撃を躱して、その隙に手痛い一撃を喰らわせていく。そうでなくても下手に受ければ大ダメージの攻撃が雨あられの様に繰り出されるのだ、受けきれなければもちろん負ける。

 

戦いの定石も訓練もへったくれも無いその戦い方、それは完全に自分が楽しむ為の我流の喧嘩スタイルと言っても差し支えないだろう。弱者と戦えばすぐに決着がつき、強者との戦いに際しては相手がどんな戦い方で自分の攻めを掻い潜るかを楽しめる。

防御を考えていないと言う事はまともに攻撃を喰らえば自分だってただでは済まない。だが、そんなことは無視して光圀は戦いに臨んでいる。文字通り戦いを全力で楽しもうとするその姿勢を勇は気に入った。

 

「きえぇぇぇぇっ!」

 

光圀の手が刀の柄を掴むのが見える。一瞬後には鞘から刀が引き抜かれ、必殺の居合い斬りが繰り出されるだろう。

だがそれでも、勇の選択肢の中に「避ける」の文字は無かった。

 

「うっっしゃぁぁぁっ!」

 

「なんやとっ!?」

 

勇の予想通り光圀の居合い斬りは繰り出された。そして、光圀の予想を裏切って勇の斬撃も繰り出された。

躱しながら斬る訳でも、防御の為に斬る訳でも無い。光圀同様に攻撃に全意識を傾けての一撃は上段から下段にかけて真っ直ぐに繰り出される。

 

迫る二本の刀は、互いに相手の装甲を掠めて振り抜かれる。決着はつかなかったが、どう転んでもおかしくなかった今の一瞬の攻防に勇と光圀は仮面の下で笑みを浮かべた

 

「……勇ちゃん馬鹿やろ?今のを防がんとか相当クレイジーやで?」

 

「そう言うお前こそ躊躇わないで思いっきり振り抜いてたろうが、ちったぁビビれよ」

 

攻撃を出したままの姿勢で動かない二人、だが、突然笑い出したかと思うと同時に剣を重ね合わさる。

 

「良いで!こんなゾクゾクする戦いは久しぶりや!斬り合って、殴り合って、ぶつかり合って……お互いに満足いくまでやり合おか!」

 

「ああ!今まで気が乗らねぇ戦いが続いてたが、この戦いはなかなかどうして楽しいじゃねぇかよ!」

 

鍔迫り合いを続けながら二人は笑顔でぶつかり合う。戦いが終わった後の事など考えない、この戦いにすべてを賭けて臨み、そして勝つ。全てを出し切るに相応しい相手が、今目の前に居るのだから

 

「負けんでぇ、勇ちゃん!」

 

「そりゃあこっちの台詞だ!」

 

学校同士の険悪な雰囲気など忘れ去った二人はもはや嵐と呼べるほどの剣劇の中で楽し気に笑いあっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらよっと!」

 

「あっ!ぐぅっ!!!」

 

「葉月っ!」

 

仁科の繰り出した大槌の一撃が葉月の腹部にめり込む。もろにその攻撃を喰らった葉月の口から苦し気な呻き声と共には居の中の空気が意図せずして漏れ出して行った。

 

「がっ、はぁっ……!」

 

「くっ…!食らいなさい!」

 

玲が反対側から銃弾の雨を仁科に撃ち出す。しかし、それを悠々と受けた仁科は必死の攻撃を繰り出して来た玲を嘲笑うかの様にして言った。

 

「どうしたのさ玲ちゃん?そんな豆粒みたいな攻撃じゃあ俺を倒す事なんて出来ないぜ?」

 

「くっ…!」

 

その挑発を受けてもなおヤケにならずに玲はメガホンマグナムの引き金を引き続ける。それを厚い装甲で受け続けていた仁科だったが、地面に下ろしたままの大槌を握りなおすと思い切り振り回した。

 

「あぁっ!?」

 

「……クカカ!見え見えだっての!後ろから攻撃すれば何とかなると思ったのかよ!?」

 

その攻撃を受けて後ろから不意打ちを仕掛けようとしていた葉月が吹き飛ばされる。ロックビートソードを取りこぼし、膝を付いた葉月に向かって高らかに笑った仁科はホルスターからカードを取り出した。

 

「さ~て、まずは葉月ちゃんにご退場願おうかな?」

 

<翔打!旋!>

 

<必殺技発動!大槌大旋風!>

 

「あ…ぐ…っ!」

 

ふらふらと立ち上がった葉月の腹に再び大槌が繰り出される。今度は下から上へと押し上げる様にして繰り出されたその一撃を受け、葉月はなすすべ無く空中へと打ち上げられた。

 

「葉月っ!」

 

「これでまず……一人っ!」

 

空中に打ち上げられた葉月の下で仁科は大槌を構えて独楽の様に回り始める。凄まじい勢いで回る彼に向かって落下して来た葉月は、再び大槌を喰らって大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「がっ…ふっ……」

 

<GAME OVER>

 

岩壁に叩きつけられた葉月の体からギアドライバーが転げ落ち、彼女の変身が解除される。ずるずるとその場に崩れ落ちた葉月は完全に気を失っており、立ち上がる事は出来そうに無かった。

 

「…さ~て、お次は玲ちゃんの番な訳だがその前に……俺は優しいから、今すぐ土下座して降参すれば痛い目に遭わせないよ。どうする?」

 

人を舐めたその発言に対して玲は返事の代わりに銃弾をお見舞いする。見事に顔面に当たったその一撃は多少なりともダメージを与えたようだが、仁科はその攻撃を待ってたいたかの様に嬉しそうに笑いだした。

 

「そうだよなぁ!そうこなくっちゃな!お前みたいな気の強い女が泣き崩れて『もう許して』って言うまで痛めつけんのが楽しいんだもんなぁ!」

 

「……良い趣味してるじゃない。最悪ね」

 

「ははっ!褒めて貰えてうれしいねぇ!お礼にた~っぷり痛ぶってやるよ!」

 

大槌を構えて仁科が近寄って来る。玲は引き金を引き続けるがその足が止まる気配は無い。

 

「どうした?もう少しで届いちゃうよ~っ?」

 

「くぅっ…!」

 

ゆっくりと距離を詰める仁科を見ていた玲の脳裏には別の人物の姿が浮かんでいた。自分を襲い、ものにしようとした最低な男……玲の継父の姿だ。

 

『怖がるなよ…こっちにおいでぇ…!』

 

かつての思い出が、思い出したくも無い過去が、玲の頭の中に思い浮かぶ。対して引き金を引く指が固まり、息が荒くなっていく。

 

(来るな…来るなっ!)

 

玲の目に映っていたのは仁科では無くトラウマの対象となっていた継父の姿であった。自分に迫る父親の幻影目がけて銃口を突きつける玲、しかし、その腕が掴まれ、捻り上げられる。

 

「あっ!?」

 

「つ~かま~えた~!」

 

そのまま突き飛ばされた玲が次に見たのは自分目がけて大槌を振り上げる仁科の姿だった。動かない体で必死に抵抗しようとしても、仁科はそれすらも楽しむかのように声を上げる。

 

「良い声で泣き喚いてくれよ、それが楽しみでお前を残したんだからさぁ!」

 

「ぐっっ…!」

 

もうどうしようも無い事を悟った玲は歯を食いしばって痛みを耐えようとする。この男の望む通りになんかなるものかという覚悟を持って痛みに耐えようとした彼女は、震えながらも気丈に振る舞おうと必死であった。

目を閉じ、覚悟を決める。次の瞬間、鳴り響いた金属音と同時に激痛がやって……来なかった。

 

「………?」

 

少しこの状況にデジャヴを感じながら薄目を開ける玲、目の前には大槌を構えている仁科の白と黒の姿があるはずなのだが、視界に映ったのはコバルトブルーの色であった。

 

「……ごめん、やっぱ見ていられなかった」

 

左腕の盾で攻撃を受け止めながら振り向いたその男……謙哉は一言だけそう呟く。そして、目の前に居る相手を思いっきり蹴り飛ばした。

 

「うおおぉっ!?」

 

予想外の乱入者の攻撃に不意を突かれる形となった仁科はあっけなく蹴り飛ばされると体勢を崩す、その隙に振り返った謙哉が玲の安否を気遣おうとすると……

 

「あだっ!?」

 

「……何余計な真似をしてるの?私、来たら殺すって言ったわよね?」

 

「うん、言われた。でも、水無月さんがやられるところを黙って見てる訳にはいかなかったから……」

 

「私からしてみればあなたに助けられるよりもあそこでやられてた方がましだったわね」

 

「そうだね。でも、僕も自分が後で何をされようとも水無月さんを見捨てる方が嫌だったから助けに来たんだ」

 

「…~~~っ!」

 

そう言われると玲は自分を真っ直ぐに見る謙哉に対して何を言えばいいのかわからなくなってしまった。変身しているので表情は分からないが、きっとまたあの真面目で見てると不愉快なのにどこか落ち着く目で自分を見ているのだろうと想像すると怒る気が失せて来るのだ

 

「水無月さんは下がってて、新田さんをお願い」

 

「私を足手まとい扱いするってことかしら?」

 

「違うよ。ただ、水無月さんとあいつは相性が悪すぎる。逃げ場のないこの状況じゃ距離を取って戦う事も難しいから、水無月さんには新田さんの護衛を頼みたいんだ」

 

「………」

 

分かっている。今の状況では自分がまるで役に立たない事など、だが、それを玲のプライドが傷つかぬ様に伝えられると腹立たしくなる。

玲を不機嫌にさせたくないからそう言っている訳では無く純粋な気遣いでそれを言われると自分がとても弱く思えて仕方が無いのだ。しかも、それを自分に二度も勝った男にやられるとひどく惨めに思えた。

 

「……分かったわよ。でも、後で覚えておきなさいよ」

 

「ふふ……うん、わかったよ!」

 

「……何で嬉しそうなのよ?あなたってMなの?」

 

脅しの意味で言った言葉になぜか謙哉は喜びを見せた。その事を不思議に思った玲は素直にその事を質問したが、直後に彼女はそんなことをしなければ良かったと後悔することになる。

 

「だって、後でってことは僕が戦いに勝つって信じてくれてるって事でしょ?ここで僕が負けたら後でなんか無いんだから」

 

「~~~~~っっ!」

 

本当に自分の機嫌を悪くする男だと思いながらも玲の心の中では静かな波紋が出来上がっていた。

確かに信じているのかもしれない、この大嫌いなはずの男の事を。そして、彼に気遣われることをほんの少しだけでも喜ばしく思っているのかもしれないと……

 

「おいおいお二人さん、俺の事を忘れて貰っちゃ困るんだがねぇ!」

 

その言葉と共に勢いよく繰り出された大槌を謙哉が左手の盾で受け止める。結構な威力があったはずのその一撃を簡単に受け止めた謙哉は、玲を一度だけ見るとすぐさま仁科との戦いに集中し始めた。

 

「せいっ!」

 

「がっっ!?」

 

大槌を受け止めていた腕をずらして一気に接近する。仁科の懐までもぐりこんだ謙哉はそのまま彼の顎に掌底を打ち込んだ。

がくん、と歯がぶつかり合う音がして仁科の顔が上を向く、そのまま距離を離さずにいた謙哉は今度は肘を彼の鳩尾に打ち込んだ。

 

「ぐっふっ!?」

 

「これで、ラストっ!」

 

肘内を入れた左腕をそのままに半回転、盾が供えられた左の裏拳が仁科の横っ面を叩き、よろめいた彼は数歩謙哉から距離を取った。

 

「…ちっ、なかなかやるじゃねぇか。お前らの大将はあの銀色の奴だが、一番強いのはお前みたいだな」

 

「残念だけどそれは違うよ。一番強いのは僕じゃない」

 

自分を強敵として認めた仁科の言葉を軽く否定すると謙哉は親指で自分の後ろ側を指し示す。そして、マスクの下で笑うとこう言った。

 

「一番強いのは、僕の親友さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇぇぇっすっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

お互いに防御なんて考えないままに斬り合っていた勇と光圀は体中傷だらけになりながらもその戦い方を止めようとはしなかった。この戦い、退いた方が負けるとどこかで理解しているからだ。

全力で攻めて気合で相手を圧倒しなければ勝てない。そう判断した二人は守る気ゼロの斬り合いを続ける。

 

そんな中、光圀の良い一撃がようやく勇にヒットした。胸を抑えて苦しそうにする勇に対して光圀が嬉しそうに問いかける。

 

「どや!今のは効いたやろ?そろそろキツいんちゃうか?勇ちゃん!」

 

「……へへ、そうだな。そろそろだな」

 

ディスティニーソードを地面に突き刺してそれを杖代わりにしながら立ち上がった勇はそう呟く、それは文字にすれば諦めの言葉に見えるだろう。しかし、その言葉を耳にした者には到底その様な意味には思えなかった。

 

傷だらけで体力も限界が近い。なのに、勇の声は楽しそうだ。自分も人の事を言えた義理ではないが、心底楽しそうである。

 

(……これは、何かあるな)

 

狂い、熱狂した様に見せかけて内面は非常にクールなのがこの真殿光圀という男だ。幾つもの修羅場を潜り抜けて来た彼の勘が言っている、「勇はまだ何かを隠している」と……

 

「……光圀、あんたには礼を言わなきゃいけねぇな。この戦いはすげー楽しいよ。お互いにガツガツぶつかり合う本気の戦い、しかも、あんたはそれから逃げないで俺とぶつかり合ってくれた」

 

「当然やろ、こんな楽しい戦いからなんで逃げなきゃいかんねん!さ、もっとやろうで勇ちゃん!この楽しい戦い、そう簡単に終わらせたくはないやろ!?」

 

勇が自分と同じ考えを持っている事を喜びながら光圀は答える。そして、再び愛刀の「妖刀・血濡れ」を構えた。

 

「あぁ、アンタの言う通りさ。その思いと強さに敬意を表して新しい俺を見せてやるよ!」

 

勇は確信めいた予感を持って自分の腕を上に伸ばす。この戦国世界のソサエティに来てから感じていた何かが、光圀との戦いの中で徐々に激しさを増して行った。

そして、今の勇はかつて薔薇園学園との共闘の際に『運命の銃士 ディス』のカードを手に入れた時と同じ感覚を覚えている。

 

「うっしゃあ!来いっ!」

 

勇のその叫びに応えるかの様に光が溢れ、手の中には二枚のカードが出現していた。内一枚は武器のカード、そしてもう一枚は……

 

「……さぁ、こっからが本当のゲームスタートだ!お互いに楽しもうぜ!」

 

出現した新たなカード、『運命の剣士 ディス』のカードをギアドライバーに読み込ませる勇。体の中から溢れ出るような新たな力を感じて目を閉じる。

 

<ディスティニー! スラッシュ ザ ディスティニー!>

 

「……マジかいな」

 

勇の姿が徐々に変わっていく。西洋の甲冑の様な姿でも、サイバーなパワードスーツの姿でもない新たな姿。黒と赤の具足、重厚さに磨きがかかった和風の鎧に身を包み、手に持つ武器は二本の刀が組み合わさって出来たブーメラン型の武器『斬命飛刃刀 ディスティニーエッジ』

 

仮面ライダーディスティニー サムライフォーム ここに見参!

 

「何なんやその姿?っていうか、そんなのありかいな!?」

 

「ありだからこうなってんだろ?……んで、そんなもん今の俺たちには関係ない、そうだろ?」

 

「はっ……!そやそや、そうやったな!」

 

<二刀流モード!>

 

ディスティニーエッジの中央部分を折る様にして二本の刀へと分離させる勇、両手に一本ずつ持ったそれを構えながら光圀と向かい合う。

 

「今の俺達には相手の姿なんざ関係ない、ただ全力でぶつかり合うだけだ!」

 

「おう!本気で来いや!勇ちゃん!」

 

「あったりめぇだ!」

 

瞬間、間合いを詰めた二人の刀が交錯する。火花を散らしてぶつかり合った二本の刀をよそに、勇が持つもう一本の刀が光圀を狙う。

 

「おっと!そうはいかへんで!」

 

それを瞬時に刀を振るう事で弾く光圀、そのまま攻撃に出ようとしたが反応の早い勇に防がれてダメージを負わせるまでには届かない。

再び鍔迫り合い、からのもう一本の刀の攻撃、防ぎ、鍔迫り合い……これがループしている事に気が付いた光圀は自分が劣勢に追い込まれている事に気が付き冷や汗を流した。

 

二刀流の最大の武器、それは二本の刀による堅牢な防御と、守りに入らずして攻撃も出来る万能さだ。

一本の刀で防御を、もう一本で攻撃をと役割を決めればその一刀流では必ず生まれてしまう攻めと守りの切り替えのわずかな時間を消すことが出来る。

しかも、本気で防御したならば二本の刀による防御はそう簡単に崩せるものでは無い。純粋な数の差が明確な戦力差として現れている……その事に光圀は内心で舌打ちをした。

 

(アカン、俺も二刀流を勉強しとくんやった!)

 

そうすればカッコよく勇に対抗できたのにと思いながら刀を振るっていた光圀だったが、二本の刀を同時に振るわれその勢いに負けてしまった彼は後ろに押し流される。生まれた一瞬の隙を見逃さず、勇は刀の柄を組み合わせるとディスティニーエッジを元の形に戻した。

 

<ブーメランモード!>

 

「おっしゃ、喰らいやがれっ!」

 

そのまま一回転した勇は勢いをつけてディスティニーエッジを振りかぶる、赤と黒の光を纏ったそれが手を離れる瞬間、電子音声が鳴り響いた。

 

<必殺技発動! ブレードハリケーン!>

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

正に「刃の竜巻」の名に相応しい威力と見た目を持って光圀に迫るディスティニーエッジ、妖刀・血濡れでそれを防ぐ光圀だったが、流石に必殺技を完全に防ぐことは出来ずに体中に斬撃を受けて吹き飛ばされてしまった。

 

「うっし!どうだ!?」

 

戻って来たディスティニーエッジをキャッチすると勇は意気揚々叫ぶ、しかし、まだ戦いの決着はついていなかった。

 

「まだ、まだやでぇ……!勇ちゃん!」

 

よろよろと砕けた岩の中から這い出て来た光圀は再び刀を構えると戦う意思を見せたのだ。体はぼろぼろの癖に非常に楽しそうにしている。

 

「さっきも言ったやろ?こんなおもろい戦いを終わらせてたまるかって話や、さぁ、もっとやり合おうで!」

 

「……ああ!あんたの気が済むまで戦ってやるよ!」

 

勇もまた、この憎めない強敵の申し出に心躍らせながら刀を構える。勇と光圀は仮面の下で笑みを浮かべると、同時に大地を蹴って好敵手と刃を交えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁっ!」

 

一方その頃、謙哉と交戦し始めた仁科はほぼ一方的に攻撃を受け続けていた。

ほぼ、というのは理由がある。謙哉に自分の攻撃は当たってはいる。しかし、その全ては盾によって防がれて体に直撃する事は無いか、大槌の先端の重しの部分では無く柄の部分で受けられたりして満足なダメージを与えられないでいたのだ。

 

「……どうしたのさ?強いんだろう?僕を倒してみなよ」

 

「くっ!くそがっ!」

 

挑発の言葉に冷静さを失った仁科は「旋」のカードを大槌にリードすると回転を始める。徐々に上がっていく速度と比例して上昇する破壊力は、周りにある岩を簡単に砕くほどだ

 

「これでもうお前は俺には近づけない!どうする?大怪我覚悟で突っ込んでみるか!?」

 

勝ち誇った仁科の声、しかし、謙哉はホルスターから二枚のカードを取り出すと冷静な声で仁科に告げた。

 

「……そんなことをする必要は無いよ。少なくとも、大怪我をするのはあなただけだ」

 

「なに…?」

 

<パイル!サンダー!>

 

<必殺技発動! サンダーパイルナックル!>

 

「てやぁぁぁぁっ!」

 

蒼い雷とエネルギーを纏った拳を掲げて謙哉は跳躍する。高く、もっと高く……崖を駆け上がり遥か高くまで跳び上がった謙哉は、上空から仁科目がけて落下する。

 

確かに今の仁科に普通に近づけば大怪我は避けられないだろう。しかし、一か所だけ仁科の攻撃の手が及ばない場所がある。

独楽は横からぶつかって来たものを弾くが、上から落下してきたものには成す術が無い様に、今の仁科には上空からの攻撃に対抗する手段が無い。謙哉が狙っているのはそこだった。

 

「し、しまっ…!」

 

その事に気が付いた仁科は回転を止めて攻撃を避けようとする。しかし、時すでに遅し、自分の脳天に雷撃とすさまじい衝撃を受けて吹き飛んだ仁科は、それでも痛みに耐えて立ち上がろうとする。

 

「こ、これしきの事で、俺は…!俺はっ…!」

 

それは勝利への渇望だった。もしくは、敗北への恐れかもしれない。なんにせよ立ち上がった彼だったが、もはや勝敗は目に見えて明らかだった。

 

<キック!サンダー!>

 

「……終わりにしよう」

 

<必殺技発動! サンダースマッシュ!>

 

雷撃を纏った謙哉の跳び蹴りが繰り出される。武器も戦う力も無かった仁科はその一撃を受けると、変身を解除して今度こそ動かなくなった。

 

<GAME OVER>

 

「がっ…くそ…がぁ…っ!」

 

倒れながら憎々し気に呟いた仁科を見つめた後で、玲は謙哉を見る。相性の問題こそあれど自分が全く歯が立たなかった相手をこうも簡単に倒した謙哉に嫉妬してしまったのは確かだ。だが……

 

「水無月さん!大丈夫だった!?」

 

自分を嘲る訳でも無く、手柄を誇る訳でも無い謙哉の姿を見ているとどこかそんな感情を持つ自分の事が馬鹿馬鹿しくなる。嫌悪感を抱くのではない、馬鹿馬鹿しくなるのだ。

手柄なんてどうでも良い、君が無事でよかった。………そう言われている様な気がして、やっぱりほんの少しだけ嬉しくなってしまう自分が居る事の方が嫌になる位だ。

 

「……大丈夫に決まってるでしょう。勝ったのならさっさと他の所の援護に行くわよ」

 

「あ、うん!」

 

頷く謙哉と共に銃を構える。謙哉は盾を岩の壁に向けていた。

先ほどから聞こえてくる戦いの音から、皆の位置は大体予想が付いていた。あとは邪魔な壁をぶち壊すだけだ。

 

<必殺技発動! コバルトリフレクション!>

 

<必殺技発動! サウンドウェーブシュート!>

 

「はぁぁぁっ!」

 

「……シュート!」

 

互いの攻撃が狙った位置にヒットする。ややあって、同時に砕け散った岩を前にして謙哉が嬉しそうに玲に言った。

 

「ねぇ、僕たちって意外と息が合って来たんじゃない?」

 

「ふざけた事言わないで、さっさと援護を……」

 

玲はそこまで言いかけて気が付く、目の前で繰り広げられている戦いはすでに決着がついている事を……

 

「あ…うぅ……」

 

仰向けになって倒れているのはやよいだ、意識はあるのだろうがダメージが大きく立ち上がる事もままならない様だ。

 

「ぐ……っ」

 

櫂は仰向けに倒れている為表情は見えない。しかし、彼もまたすでに戦える状態では無いのだろう。その事だけは良く分かる。

 

「この程度か……まったく話にならんな」

 

「う……ぐぅ…っ」

 

そして光牙は今まさに大文字の大太刀によって切り伏せられている所であった。必殺技を発動して斬りかかったのであろう、手に持つ剣は光り輝いている。しかし、それは残念ながら大文字には届かなかった様だ。

 

「これがかの有名な虹彩学園の大将か……正直、期待外れだな」

 

「く…そぉ……」

 

悔しそうに呻いた光牙はそのまま気を失ってしまった。その光景をただ見つめる事しか出来なかった謙哉と玲は、そこで初めて大文字に認識された様だ。大文字は意外そうに二人に話しかけて来る。

 

「お前たちは……そうか、仁科を倒したか。なるほど、お前たちに関しては地位と実力は比例しないと考えた方が良いようだな」

 

その言葉と共に大太刀を構えた大文字に対して、謙哉が玲を庇う様にして前に出る。盾を構え、繰り出される攻撃を防ぐつもりなのだろう。しかし、玲は底知れぬ恐怖を感じていた。

 

先ほど仁科と戦った時には見えなかった謙哉が負けるビジョンが大文字を前にするとありありと浮かんでくる。盾ごと謙哉を切り裂くのではないかと思えるほどの威圧感が大文字にはある。

 

「……そう構えるな。お前たちと我で一勝一敗ずつ、あとは……」

 

そう言いながら繰り出された斬撃が次々と周囲の岩を砕いていく。すべての岩を壊した後で、勇と光圀が戦っているであろう場所を見た大文字は、感心した様に呟いた。

 

「……まさか光圀と互角に戦える男が虹彩学園に居るとはな、奴が虹彩の要か」

 

「なんや大将!こっちは今、良いとこなんや!邪魔せんといてや!」

 

「そうだぜ、まだ決着がついて無いんだ!あと少し待てよ!」

 

「いや、撤退だ。この戦いは引き分けとする」

 

駄々をこねる子供たちの様に戦いを続けようとする光圀に対してそう告げた大文字は、倒れている仁科を担ぎ上げると戦国学園の生徒たちに引き上げの合図を出す。

 

「なんや、仁科のアホンダラ負けよったんか?倒したんは……」

 

「その話は後だ、我が勝ち、仁科が敗れた。あとはお前たちの戦いで勝敗を決めようと思ったが……まさか、お前が勝利できていないとはな」

 

「言っとくが手は抜いて無いで!勇ちゃんがマジつよなだけや!」

 

「分かっている。お前は戦で手を抜く事などしないだろう」

 

互いに変身を解除した後で話す大文字と光圀を勇たちはただ見つめている。やがて引き上げに入った戦国学園は、最後に大文字の言葉を残して去って行った。

 

「虹彩、薔薇園学園の生徒たちよ、此度の戦いは痛み分けとする。互いに得る物は無いが、失う物も無いと言う結果で手を打とうではないか!諸君らとはまた争うかもしれん、その時こそ雌雄を決しようぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勇、水無月さん、どう思う?」

 

「完敗、だな」

 

「……そうね。その通りよ」

 

帰り道、動けるドライバ所有者である三人は今日の事を話しあいながら歩いていた。大文字の言う通り、局地的で見れば一勝一敗一分けとなるのだろう。しかし、人員的に見ればこちらが仁科を謙哉が倒したのに対して、向こう側は大文字が光牙、櫂、やよいを、仁科が葉月を倒している。

もしもあのまま戦っていたらどうなっていたか?確実な予想は出来ないが、恐らくは……

 

「……負けてたな」

 

「うん、僕も勝てるイメージが湧かなかった」

 

勇の言葉に謙哉が同調する。玲も何も言わないと言う事は肯定なのだろう。三人の間には重苦しい雰囲気が漂っている。

 

「……強くならなきゃな」

 

ぽつり、と勇が吐き出すようにして口に出したその一言は、3人だけでなくこの戦いを経験した誰もが思った事であった。

まだ世界には自分たち以上の強者が大勢居る。その事を知った勇たちは、新たな決意を胸に今日を終えようとしているのであった。

 

 

 

 


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