仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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玲の過去と謙哉の信念

「……一体何をするつもり?」

 

ちひろのその質問に答えないまま歩き続ける玲、興味を持った数名の生徒たちもその後を追って歩いていく。

その生徒の中に居た勇たちは顔を見合わせて玲が何をしようとしているのかを話し合っていた。

 

「葉月、水無月が何を考えてるかわかんねぇのかよ?」

 

「う~ん……正直、玲はよく分かんないところがあるからな~…」

 

「片桐さんも予想はつかないかい?」

 

「ごめんなさい。これっぽっちもわからないです……」

 

勇と光牙は玲とチームを組む葉月たちに質問するも、彼女たちも玲が何をしようとしているかは予想がつかない様だ、彼女たちが分からないというのならこの場に居る誰もが分からないのであろうと、勇は他人に聞くことを諦めて自分なりに考える事にした。

玲はちひろにチャンスを与えると言った。その言葉が本当ならば何かをしてちひろを試すのだろう。やよいから借りたドライバーを使って何をしようとしているのかも気になるが、それと同じくらい気になる事がある。

 

今日一日玲を見て来た謙哉が先ほど言った言葉、玲はかなり怒っているという事……それは本当だろうか?

謙哉曰く、玲はちひろの事を気に入った様だがそれ以上に怒り心頭だと言う。確かに自分を襲った人間に怒らない奴はいないだろうが、それだとしたら気に入ったという部分が気になる。

 

つまり、玲は襲われた事よりも腹の立つ事をちひろにされたという事だ。それは一体何なのか?それを考えようとしていた勇だったが、玲が足を止めたのを見て他の生徒たちと同じタイミングで動きを止めた。

 

「この辺で良いかしらね……じゃあ、これを受け取って」

 

振り返ってちひろの方を向いた玲はその手に持つギアドライバーを彼女へと手渡す。驚いて自分の顔を見つめて来るちひろに対し、玲は冷ややかに説明を始めた。

 

「あなた、私が気に入らないんでしょう?だったら、私を叩きのめすチャンスを上げるわ。ドライバーを使って同じ条件で戦うの、もしもあなたが私に勝ったらこのドライバーはあなたの物……好きに使って貰って構わないわ」

 

「……正気?そんな事してあなたに何の得があるっていうのよ?」

 

「言ったでしょう?私はあなたが気に入ったって……だからチャンスを上げるのよ。嫌がらせの為に犯罪まで出来るその心意気に免じてね」

 

口元だけを歪ませて笑う玲、やよいから借りたドライバーを装着すると自分のカードを掴み取る。

 

「ディーヴァのカードはスペア用に2枚用意してあるの、とりあえずハンデとして私はこれ以上カードを使わないわ。あなたは私のホルスターに入っているカードを好きに使ってちょうだい」

 

「……アンタ、私を舐めてるの?」

 

「舐める?……ちょっと違うわね。私は自分に自信があるの、これだけのハンデを負ってもあなたには負けないって言う自信がね」

 

「このっ……!親の七光りの癖して…!」

 

「……そう思うのならここで私を倒せば良いじゃない。あなたは私と同じステージに立つチャンスを得た。もう二度とないかもしれないチャンスよ?これを逃すことがどれだけ愚かか分からないあなたじゃないでしょう?」

 

「………」

 

玲の言葉にちひろは黙って差し出されたギアドライバーを見つめる。やがて、決意したようにそれを掴み取ると、玲を睨みながら口を開く。

 

「……やってやろうじゃない。アンタのそのすまし顔を滅茶苦茶にしてやるわ!」

 

「ふふ……その気になったみたいね。じゃあ、早速始めましょう」

 

カチャリとちひろはドライバーを装着するとホルスターからカードを取り出す。『蒼色の歌姫 ファラ』……同じ2枚のカードを構えた二人は、同時にそのカードをドライバーに通しながら叫んだ。

 

「「変身!」」

 

<ディーヴァ! ステージオン!ライブスタート!>

 

二重の電子音声が鳴り響いた後、二人は同じ青い歌姫の戦士へと姿を変える。同じ武器を持ち、ポテンシャルも同じになった今、勝敗を分けるのは装着者の技量だけだ。

 

「喰らえっ!」

 

先手を取ったのはちひろだった。ハンドマイク型の銃、『メガホンマグナム』を構えると玲に向けて引き金を引く。繰り出された弾丸は真っ直ぐに標的に向かって行ったが、玲はそれを踊る様な華麗な動きで躱すと余裕の口ぶりでちひろに声をかける。

 

「どうしたの?それで終わり?」

 

「くっそ!」

 

挑発を受けたちひろは続けて引き金を引く。何度も何度も玲目がけて弾丸を発射する彼女だったが、玲はその全てを完全に見切り、躱し続けていた。

 

「ぐぅぅ……!」

 

歯ぎしりと共にちひろは一度銃を下げる。このまま玲に翻弄されては不味い、カードを使った攻撃で状況を打破するのだと考えた彼女はホルスターを開くと、そこから数枚のカードを手に取ったが……

 

「あっ!?」

 

カードを持つ手に痛みが走り、ちひろは手に取ったカードを全て落としてしまった。散らばったカードの向こう側から見えるのは、自分と同じ銃を持ち、銃口を自分に向けている玲の姿だった。

 

「……そんなもたもたしてたら攻撃してくださいって言ってるようなものよ?」

 

「ち、ちくしょうっ!」

 

自分の行動を先読みされ、手痛い一撃を受けた事に激高したちひろは再びメガホンマグナムでの攻撃を仕掛けようとする。しかし、玲はその動きすらも見切っており、彼女の銃を持つ手に狙いを定めていた。

 

「ああっ!?」

 

再び激痛が走り、今度は自分の武器を取りこぼすちひろ。玲はそんな彼女に対して一歩ずつ近寄りながら引き金を引き続ける。

 

「ぎゃっ!わあっ!きゃぁぁっ!」

 

肩に、脚に、腹部に、次々と銃弾が命中していく。その度にちひろの体に衝撃が走り、火花が舞い散る。

それでもちひろは拳を握ると、わずか1mほどまで接近していた玲へと果敢に殴りかかって行く

 

「わぁぁぁぁぁっ!」

 

「……遅い」

 

しかし、玲はその一撃を軽く躱すと、お返しと言わんばかりにちひろの体に蹴りを叩きこむ。体をくの字に曲げて呻くちひろの顔面に、玲は容赦のない追い打ちを見舞った。

 

「あがぁっ!」

 

どさりとその場に倒れるちひろ、玲は彼女の腹部を踏みつけると見下す様にして銃口を向ける。そして、いつもと変わらない平坦な口調でちひろに話しかけた。

 

「……もうお終い?私、全然本気を出してないんだけれど」

 

「ひ、ひぃぃぃ……」

 

ちひろは仮面の下で涙を流していた。体中に走る痛みと銃を突きつけられている恐怖、なにより玲との圧倒的な戦力差に心が折れてしまっていたのだ

最初の威勢の良さは何処へやら、まるで子供の様に怯えるちひろは震える声で玲に降参を告げた。

 

「ま、参りました……もう許してください……」

 

「……そう、降参するのね。それじゃあ……」

 

ちひろの言葉を聞いた玲は軽く足を上げる。誰もが戦いに決着が着き、これでお終いだと思っていたその瞬間、冷ややかな玲の言葉が響いた。

 

「……ここからはお仕置きの時間ね」

 

「え…?がふっ!?」

 

一度上げた足を思いっきり腹部へと振り下ろす玲、短い悲鳴と共に肺の中の空気を吐き出したちひろに向けて銃弾を叩きこむ。

 

「い、いやっ!いやぁぁぁぁっ!」

 

悲鳴を上げ続けるちひろに対して玲は何度も引き金を引き続けた。ちひろがどれだけ足掻こうともびくともしない玲の身体はただただちひろを踏みつけながら引き金を引き続ける。

 

「……誰が親の七光りだって?誰が大したこと無いって?私の事、何も知らない癖に好き勝手言うのはやめてくれないかしら」

 

「ごめ、ごめんなさい……ゆるしてぇ……」

 

「嫌」

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!」

 

謝罪の言葉にも耳を貸さずにちひろを嬲り続ける玲、やがて彼女はその場に散らばっていた自分のカードを拾い集めると、それをメガホンマグナムへと読み取らせた。

 

<ウェイブ!バレット!>

 

電子音声と共にメガホンマグナムへとカードの力が注ぎ込まれていく、コンボを発動した玲は必殺技を発動する準備を完全に整えていた。

 

「う、嘘……冗談よね?そ、そんなの喰らったら死んじゃう……!」

 

「大丈夫、死にはしないわ。死ぬほど痛いけどね」

 

「や、やめ……やめてぇぇぇぇっ!」

 

「お、おい!止めろ!」

 

「玲っ!」

 

ちひろが恐怖に錯乱し叫ぶ、勇と園田の制止の声が響いても玲は銃口をちひろから外すことはしない。

 

<必殺技発動! サウンドウェーブシュート!>

 

「おやすみなさい。もう2度と目覚めないかもしれないけどね」

 

「いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ちひろの叫びが響く中、玲は何の迷いもなく……引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声と轟音、すさまじい衝撃が辺りに響く。生徒たちは惨劇を予期して顔を伏せ、玲たちの方向を見ない様にしていたが、喘ぐ様なちひろの鳴き声を耳にしてゆっくりと顔を上げていく。

 

生徒たちが目にしたのは、変身を解除し地面に倒れてすすり泣くちひろの姿と、腕を上にあげた……いや、上げられた玲の姿であった。

 

「……何をするの?」

 

「もう止めなよ、勝負はついてる」

 

玲はそう言いながら自分の腕を掴むコバルトブルーの手の持ち主を睨む。それに答えたのは、イージスへと変身した謙哉だった。

 

「もう十分だろう?これ以上痛めつける必要は無いはずだ」

 

「それを決めるのはあなたじゃないわ、それにあなただってこいつに嵌められかけたのだから多少は痛めつけても罰は当たらないんじゃなくって?」

 

「必要ない。戦いは君の勝ちだ、それで十分だろ?」

 

そう言いながら謙哉は倒れているちひろを抱きかかえると薔薇園の女子たちに引き渡す。そうした後で変身を解除しようとした謙哉だったが、自分に向けられている銃口に気が付いてその動きを止めた。

 

「……私の邪魔をするって事はそれなりの覚悟は出来ているんでしょう?お互い変身しているんだし、ここで決着をつけましょうよ」

 

「……僕にはそんなことをする理由が」

 

そこまで口を開いた謙哉の顔のすぐ横を弾丸が掠めて通る。真っ直ぐに銃口を向けた玲は軽くため息をつくと肩を震わせて笑い始めた

 

「……ふふふ、あはは…あはははは!」

 

玲が発しているのは確かに笑い声だった。しかし、それは冷たく乾いたぞっとするような笑いであった。愉悦も喜びも感じられないそれを耳にしている生徒たちは誰もが動けないままに二人を見守り続ける。

 

「あはははは……!本当、あなたって私の神経を逆撫でするわね」

 

玲は自分の体からドライバーを取り外すと地面に落ちたもう一つのドライバーを拾い上げる。そして、やよいから借りていたドライバーを彼女に向けて放り投げた。

 

「今日は気分が良いから見逃してあげる。これ以上あなたに関わるとこの気分をぶち壊されそうだしね」

 

そう言うと玲はその場を後にした。ざくざくと土を踏んで遠ざかっていく彼女の後ろ姿を見守りながら誰もが思う。彼女は何処か狂っていると

あれほど他者を痛めつける事も、あの冷たい笑いも普通の人間は出来はしない。玲の心は何処か歪んでいるのだろうと皆は思った。

 

彼女の事をよく知る義母の園田とたった一人の例外を除いては

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

深夜、一連の事件の熱も冷めやらぬままに解散した一同を見送った後で、園田は自室で各ドライバー所持者の資料に目を通していた。

虹彩・薔薇園両学園の抱える7人のドライバー所持者の顔写真を見ていた園田の手がはたと止まる。それは、チーム分けしたメンバーの中で何処にも属せなかった玲の事を見たからであった。

 

今夜の行動で玲はドライバー所持者どころか薔薇園学園の生徒たちからも距離を置かれてしまった。一緒にチームを組む葉月とやよいでさえ今日の彼女を恐れた様な目で見ていた。

このまま行けば玲は一人になってしまうだろう、しかし、それが彼女の目的だと言う事も園田は分かっていた。

 

『私は、一人で生きていける様になりたい…!』

 

初めて二人きりで会った時の事を思い出す。暗い瞳の中で静かに燃える炎を玲の中で見た園田は、彼女を養女として迎え入れた。自分を利用して強くなって見せろと言い、彼女を傍に置いたのは自分の判断だ

そこに親子の情など無かった。園田はただ興味を持った少女を自分の元へ引き入れ、玲は自身の目的を果たすために園田の元へとやって来た。単純な利害関係、それが二人の関係性だ

 

だがしかし、今の危うい玲を見ていると心配になるのは確かだ。伊達に親子の関係を続けていた訳では無い。義理の娘に対して親心が湧くのも当然だろう。しかし、園田にはそれをどう示せばいいのかが分からなかった。

 

この数年の間で分かってしまった。自分ではあの暗闇に生きる少女を救えないという事が

そして分かっていた。誰かが玲を救わなければ永遠に彼女はあの暗闇の中に居続けるという事も

 

ではその誰かはいつ現れるのか?そう考えた園田は首を振って仕事へと戻る。この7年間、玲を救う人物など現れはしなかったではないか、希望を抱くのは止めて、これからの玲を見守るしか自分にはできないのだと言い聞かせながら……

 

「……失礼します」

 

その時、園田の部屋のドアを叩く音と共に一人の人間が中に入って来た。園田はその青年の姿を認めて目を細める。

 

「もうとっくに就寝時間だ、生徒の出歩きは禁止されているが?」

 

「すいません、どうしても聞きたいことがあって……」

 

深夜の訪問者、虎牙謙哉は頭を下げると真っ直ぐ園田を見ながら口を開く。強く明るいその瞳は、しっかりと園田を映していた。

 

「……水無月さんについて聞きたいんです。彼女が何故、あそこまで人を遠ざけるのかが知りたいんです」

 

「……それを知ってどうする?」

 

「わかりません」

 

「……分からない、だと?」

 

一見してふざけているかの様な謙哉の回答に園田は眉をひそめる。もしも単なる興味本位でこの質問をしているというのなら即刻彼を帰すべきだろう。

しかし、謙哉は一切の迷いを見せない真っ直ぐな視線を園田に向けたまま自分の思いを語り始めた。

 

「……僕はただの高校生です。だから、水無月さんが何故あんな風な態度を取っているかを知ったところで何かが出来るとは思えません。でも、もし自分にできる事があるのなら……それなら、僕はそれをやってみたいんです。もしかしたら僕なんかが口を出せる事情じゃないのかもしれない、余計なお世話かもしれない、でも、僕は自分の信念を曲げたくないんです」

 

「信念……か…」

 

その言葉を聞いた園田は目を閉じてそっと息を吐く、再び目を開いた園田は謙哉を見据えると一つの質問をした。

 

「問おう、君の信念とはなんだ?何が君をそこまでさせようと思わせる?」

 

園田の質問に対して、謙哉は自分の中の思いを整理するように時間を取ると、その答えを返した。

 

「……先ほども言った通り、僕はただの高校生です。取柄もなく、大した特技も持ち合わせていない人間です。でも、だからと言って目の前で傷ついている人を見捨てる様な人間にはなりたくない」

 

「弱くっても、それを逃げる理由にはしたく無い。たとえお節介でも僕は困ってる人に対して手を伸ばし続けます。だとえ何度拒まれ、傷つけられたとしても、もしも僕の手を掴み返してくれたなら……僕は、全力でその手を引っ張り上げるでしょう」

 

「『誰かの笑顔を守る為に戦う』……それが僕の信念です」

 

淀みない瞳で言い切った謙哉を園田は見つめる。そして、胸の内に一つの思いを抱く。もしかしたら彼ならば玲を光へと引き上げてくれるかもしれない……と

 

「……良いだろう。君には前に攻略を手助けしてもらった借りがある。それを返すためにも玲の過去を話そう」

 

園田は一つ椅子を引くと謙哉へと差し出す。謙哉がそれに座ったのを見た後、園田は玲と出会った時の事を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

園田が玲と出会ったのは今から7年前、とある子供の歌のコンクールでの事であった。

薔薇園学園の学園長である園田は同時に学園の経営する芸能事務所の社長としての顔も持っており、最終審査の審査員の一人として呼ばれたのである。

 

見どころのある子供には各芸能事務所からスカウトが来るかもしれないという事もあって出場者たちは気合の入った格好で来ており、家族全員で子供の応援に来ている人たちがほとんどであった。

だが、そんな中一人だけ異質な存在の少女が居た。服装は普段着、それもあまり上等ではないぼろけた服を着て、髪も整えられていない。まるでコンクールに出場するとは思えない恰好であった。

なにより、その少女には付き従う家族の姿が無かった。周りの人々の訝しがる視線も気にせずにただ一人でその場に立ち続ける少女……それが、当時10歳の玲であった。

 

当時その会場に居た人間は玲のこの異様な姿に違和感を覚えただろう。しかし、誰も彼女を気に留める者はいなかった。コンクールの出場者や家族は自分たちの事で精いっぱいだったし、審査員たちはこの妙な少女をスカウト候補から速攻で外してしまったからだ

園田もまたそんな人間の一人だった。妙な恰好の少女がいるな、位の記憶で終わると思った彼女との邂逅は、誰もが予想しなかった方向で裏切られる事になる。

 

みすぼらしい恰好の少女がステージに立ち歌い始めた瞬間、会場の誰もが言葉を失った。上手い、などと言う言葉では表し切れないほどの歌声……それは、出場者たちの中でも群を抜いていた。

恰好、前評判、応援の声……何一つとして持たなかった少女は、己の歌声だけで会場中の観客たちを魅了して見せたのだ

 

誰もが愕然とし、玲の素性を知りたがった。何処の音楽家の令嬢なのか?どんな教育を受けて育ったのか?コンクールが終わるまで人々は玲の事を噂し続けた。

 

だが、結局玲の事は誰も知る事は出来なかった。入賞確実だと思われた彼女はその恰好がふさわしくないとして候補から外され、コンクールの終わった後には忽然と姿を消してしまっていたからだ

会場に来ていた審査員たちが応募用紙に書いてあった住所を訪ねてもそこに玲の姿は無かった。彼女は赤の他人の名前を借りてコンクールに出場し、その後行方をくらましてしまったのだ

 

数多くの芸能事務所が玲を欲しがる中、園田も彼女を獲得するために秘密裏に人を使って玲の居場所を探していた。そして、コンクールから2か月後のある日、彼女を見つけ出したのである。

 

玲が住んでいたのはとあるボロアパートの一室だった。大量のごみとその匂いが溢れる部屋の中に埋もれる様にして玲は転がっていた。

ランドセルも筆記用具も来ている服もボロボロ、数日間はシャワーも浴びていないであろう姿の玲は訪ねて来た園田をあの冷たい視線で見つめていた。

 

およそ年頃の少女が送るとは思えない生活をしていた玲、園田は玲が何故こんな生き方をしているのかを調べ始めた。そして、彼女の身に起きた不幸な出来事を知ったのである。

 

かつての玲は何処にでもいる普通の少女だった。優しい父と母に囲まれた一人娘として学校に通い、幸せな日々を過ごしていた。

そのころから歌が上手く、当時の玲を知る者は彼女が将来歌手になるだろうと予想していたという

 

しかし、その幸せな生活は突如として終わりを告げる。

 

玲が7歳になった時、父親が自殺したのだ。理由は、借金の取り立てを苦にしたからであった。

長い付き合いの友人に頼まれその友人を見捨てられなかった玲の父は彼の連帯保証人になった。しかし、友人は玲の父を裏切り、行方をくらましたのだ

 

それからの日々は地獄だった。毎日毎日やって来る借金取りに玲たち家族は消耗し、耐えきれなくなった玲の母はある日玲を連れて家を出て、そのまま離婚へと踏み切った。

両親の離婚が確定したある日、玲が父親に呼び出されてかつて住んでいた家に向かうと、そこには首を括り、息絶えた父親の姿があった。

家族と友人に裏切られたと感じた玲の父は、自ら死を選んだのだ。自分の死を娘に見せつけ、その心を道連れにしながら……

 

その日から、玲の顔から笑顔が消えた。大好きだった父の死を目の当たりにして、彼女の心が死んでしまったのだ

だが、そんな玲を待っていたのは更なる地獄の日々であった

 

玲の母は離婚からほどなくして新たな男と暮らし始めた。新たな生活は家族3人での楽しい日々……とはいかなかった

度重なる心労で疲れ切った玲の母は、どうしようもない男にすがってしまったのである。そして、その男と二人して玲を虐待し始めたのだ

 

暴力、食事を抜くなどは日常茶飯事、気に入らないことがあれば玲を殴りつけ憂さ晴らしし、かつ誰にもバレない様に巧妙に誤魔化しながら二人は玲に対する虐待を続けた

玲が泣こうが喚こうがお構いなしに暴力を振るう二人の行為は日に日にエスカレートし、ある日玲にとって決定的な事件が起こる。

 

新たに父となった男が、10歳になった玲に対して性的な虐待を働こうとしたのだ。ただならぬ雰囲気を感じた玲は必死に抵抗して家から逃げ出した。そして、涙ながらに近くの交番に駆け込んだのである。

しかし、ほどなくしてやって来た両親は笑顔で警官にこう言った。

 

「ただの親子喧嘩です。少しばかり叱りすぎて家出してしまったのだ」と

 

そして、その言葉を警官は信じてしまった。二人に玲を引き渡して、軽い注意だけでこの一件を終わりにしてしまったのだ

このことに幼かった玲は絶望した。自分を守ってくれる人間など何処にもいないと心の底から絶望しきった。

 

その日の夜、両親から普段以上の暴力を受け、外に放り出された玲は家の玄関の前で泣きじゃくった。

自分を愛してくれるはずの両親は自分を傷つけ、友人も教師も自分の異変に気が付かない。世の中の誰も自分を守ってはくれない……

自分は一人ぼっちだ。そう思った時、玲の死んでいた心は跡形も無く砕け散った。

 

そして、その日から玲は決心した。自分を不幸へと追いやったこの世界を見返してやると

世界が自分を一人にするならば、自分はただ一人でも生きていける強さを手に入れると

 

玲はその日から泣くのを止めた。感じる心が無くなったからなのかはわからないが、その他の表情も見せることも少なくなっていった。

だが、ただ一つ……冷たく笑う事だけはこの頃から出来るようになっていた。

 

必死に家族の元から離れようとした玲はあらゆる手を使った。コンクールへの参加もその一つだ。もしも自分がどこかの芸能事務所に入れれば家族から離れられるかもしれないと思ったからだ

結果としてその目論見は成功した。園田が彼女の元にやって来たからだ。

 

「私を利用しろ、君が有用だと思う限りは私が君を支援してやる。その間に君は君の思う強さを手に入れれば良い」

 

園田は自分を冷たく睨む玲に向かってこう言った。その言葉に玲は頷き……その日から玲は園田の養女となった。

自分を金で売った両親から離れ、容姿も運動も勉学も一流になるべく彼女は努力した。それから7年後、玲はアイドルとしてデビューし、時を同じくして戦う力をも手に入れたのだ

 

玲が他者を拒む理由……それは、弱さを嫌っているからだ。

人は誰かと交わると弱さが生まれる。弱点が生まれ、失う事への恐怖が生まれる。

ならば一人で生きて行けば良い、もとより世界は自分を一人にしようとしているのだから

 

両親は弱かった。父は孤独に耐えきれず幼い玲に自分の死というトラウマを植え付けた。母は一人になる事を恐れて安心感を得る為に幼い玲を迫害した。

自分はそんな風にはならない。強くなるのだ、その為には人との関わりなど不要だ

 

そうして玲は孤独を選んだ、そして今も一人で生きる為の強さを追い求めているのだ

 

「……玲が君を嫌うのは、きっと優しさに飢えているからなのだろう。笑顔で優しさを振りまく君を羨みながらも、相容れぬ存在だと思う他無いのさ」

 

園田は自分の話を黙って聞き続けた青年に向かってそう告げると、話の最期をこう締めくくった。

 

「さて、再び質問だ。玲の過去を聞いた今、君はどうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな夜だった。人影は自分以外見えず、夜風も無い。虫も鳴かずにただ月明かりだけが玲を照らしている。

 

皆が眠りに着いた後、玲はコテージを抜け出して山道を歩いていた。何をするわけでも無い。ただ一人になりたかったのだ

 

「……誰?」

 

足音を耳にした玲が振り返る。視線に映ったのは大嫌いな男……虎牙謙哉だった。

 

「……君の過去の話を聞いたよ」

 

「ふ~ん……それで?お優しいあなたは私を慰めに来たってわけ?」

 

「……違うよ。ただ、決めた事があるんだ」

 

謙哉は懐からドライバーを取り出すとそれを身に着ける。そして、カードを手に取り玲を見る。

 

「僕は…君と戦いに来たんだ」

 

「……そう、やっとその気になってくれたのね」

 

謙哉の言葉を聞いた玲はほんの少しだけ意外そうな顔をしたあと、嬉しそうに笑いながら言った。

その笑みは無論いつもの冷たい笑みではあったが、謙哉が見た中では一番まともな笑顔であった。

 

「皆が寝静まった後にこっそり報復に来るだなんて素敵じゃない。私、今のあなたなら好きになれそうよ」

 

「……一つ、頼みがあるんだ」

 

「何かしら?」

 

「もしこの戦いに僕が負けたら、僕は二度と君に近づかない。関わりも持とうとはしない。だから……もしも僕が勝ったら、一つだけ僕の言う事を聞いて欲しい」

 

「あらあらあら!」

 

謙哉の言葉に玲はさらに歓喜の色を強めた。そして、興奮した口調で謙哉を褒めちぎる。

 

「素敵よ!なんでもっと早くそうしてくれなかったの?力ずくで女に言う事を聞かせようとする男、私は大好きよ!だって、そういう奴をぶちのめすのが楽しいじゃない!」

 

「……じゃあ、この条件を飲むって事で良いんだね?」

 

「ええ!私が負けたらあなたの言う事をなんでも聞いてあげる!奴隷でも犬でも、なんでもなってあげるわ!さぁ、あなたの望みは何?」

 

「……僕とチームを組んで欲しい」

 

「……は?」

 

予想外の謙哉の要求に玲は不快感を込めた声を上げる。そんな玲を無視しながら謙哉は彼女に向かって話し続ける。

 

「君は……君は、一人になっちゃいけない人間だ。一人になったら、君は壊れてしまう」

 

「……どういう意味?私を馬鹿にしてるの?」

 

「違うよ。ただ、君は自分で気がついて無いだけなんだ。自分が壊れかかってるって事を……」

 

「……やっぱり私、あなたの事を好きになれそうに無いわ」

 

怒りを込めながらそう吐き捨てた玲はカードを構える。そして、冷たく言い放った。

 

「始めましょう。これであなたとのうざったい付き合いも終わり」

 

「……裏切られても、傷つけられても手を伸ばせ。何百回でも、何千回でも、自分が信じる限り思いを貫け。それが誰かを救う事になると信じて…!」

 

互いにドライバーにカードを通す。電子音声が響く中、二人は同時に叫んだ

 

「「変身っ!」」

 

<ナイト! GO!ファイト!GO!ナイト!>

 

<ディーヴァ! ステージオン!ライブスタート!>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<バレット!>

 

「喰らいなさい!」

 

強化カードをメガホンマグナムに読み込ませた後、玲は引き金を引く。一発、二発、三発……次々に繰り出される弾丸を謙哉は時に盾で防ぎ、時に躱しながら玲との距離を詰めていく

 

「たぁっ!」

 

一定の距離まで接近した謙哉は大地を蹴って宙へ飛ぶ、イージスのジャンプ力ならばこの距離は届くと判断した謙哉は徐々に近づく玲へ向けて腕を伸ばすが……

 

「甘いのよ!」

 

<ウェイブ!>

 

「くっ!わぁっ!」

 

自分へと向けられたメガホンマグナムから発せられる衝撃波、それを盾で防ぐも自分を押し出す勢いを止められずに謙哉は後ろへ吹き飛んでしまう。

 

立ち上がり体勢を立て直そうとした謙哉に向かって逆に一気に接近した玲は、華麗なステップからの跳び蹴りを皮切りに次々と打撃を叩きこんでいった

 

「ぐっ…!っっ!」

 

「接近戦なら自分に分があると思った?残念だったわね、私、格闘技にも自信があるのよ」

 

「ぐわっ!!!」

 

踊る様な動きで謙哉の腹部を蹴り飛ばすと玲は距離を取って銃を構える。そして、ホルスターからカードを取り出すとそれをリードした。

 

<ウェイブ!バレット!>

 

<必殺技発動!サウンドウェーブシュート!>

 

「……ラストナンバーよ。アンコールは無しでお願いするわ」

 

銃口に溜まる青い音の波を謙哉に向けた玲は引き金を引く。繰り出された一撃は真っ直ぐ謙哉に向かって行くと、そのまま直撃し、大爆発を起こした。玲はその事を確認すると銃を下ろす、自分の勝利を確信して……

 

<必殺技発動!コバルトリフレクション!>

 

「えっ!?」

 

しかし、その思いに反して響いた電子音声と共に蒼の光線が自分の足元目がけて伸びて来る。足元を崩されて体勢を崩しながら、玲は自分の失策に唇を噛んだ

 

(防ぎ切られた!?相手は盾持ちだって分かってたはずなのに、どこか油断してたの?)

 

トンッ、という足音に前を向けば、謙哉はもう既に自分の目の前まで迫って来ていた。自分目がけて伸びて来るその手を見た時、玲の中でとある光景が蘇る。

 

(……大人しくしろ、そうすればすぐに済むからな…!)

 

自分に下種な視線を送る男、暴れる自分を押さえつけて服を剥ぎ取ろうとする継父の姿を謙哉に被せた玲は必死にメガホンマグナムの引き金を引く

 

「来るな、来るなぁっ!」

 

何度も何度も、玲は謙哉に向かって弾丸を叩きこんだ。自分に近づかれない様に、触れられない様に……

その甲斐有ってか、自分の目と鼻の先まで接近されたにも関わらず、玲は謙哉から一撃も攻撃を喰らう事無く相手を引き剥がす事に成功した。

 

「がっ……」

 

どさりと地面に倒れる謙哉を見ながら玲は肩で息をする。しかし、まだ戦いが終わっていない事を思い出した玲は今度こそとどめを刺すべく謙哉に近づくが……

 

「え…?」

 

突如、自分を包む装甲が消滅した。武器も消え、変身が解除されたことに困惑する玲。一体何が起こったのか?その答えは謙哉の右手の中にあった。

 

「……僕の、勝ちだ」

 

「あ……!」

 

倒れた謙哉が右腕を上げると、そこには玲のギアドライバーの姿があった。接近した際に、玲の体から奪い取ったのだろう。だから自分の変身が解除されたのだと知った玲は怒りと共に謙哉に詰め寄る。

 

「ふざけないで!こんな無効よ!もう一度戦いなさい!今度は私が勝つわ!」

 

「嫌だ、もう戦う理由は無い」

 

「こんな勝ち方認めないわ!あなたは私に一撃も攻撃を当てられて無いじゃない!もう一度戦ったら負けるからって勝ち逃げは……」

 

そこまで口にした時、玲はとある可能性に思い当たった。同時に体の芯が凍る様な感覚に襲われる。

今、自分は謙哉から一撃も攻撃を受けていないと言った。しかし、それは本当だろうか?

考えてみれば謙哉が油断していた自分に対して必殺技を外したことも、あそこまで接近しながら攻撃をして来なかったこともおかしいではないか

 

「まさか……あなた、私に攻撃をしない様にして戦ってたの…?」

 

その言葉に対して頷いた謙哉を見た玲の頭にハンマーで殴られたかの様な衝撃が走る。自分が手加減され、あまつさえ負けてしまったという事実に玲は打ちのめされていた。

 

「う……うあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ぷつんと自分の中で何かが切れた音がした。玲は叫びながら謙哉を押し倒すと彼の胸を何度も拳で打ち付ける。

 

「ふざけないで!なんで手加減したのよ!?女だから!?可哀そうだから!?ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」

 

悔しさで涙を流しながら謙哉を殴り続ける玲、しかし、振り下ろされた拳を謙哉に掴まれ、そのまま体勢を逆転されてしまう

 

「あ……!?」

 

地面に押し倒され謙哉に見下される格好になる玲、どんなに力を入れてもびくともしない謙哉に対して必死に抵抗をし続ける。

 

「あ……あぁ……!」

 

だが、何をしても動かない謙哉に対して徐々に恐怖の感情が湧いて来た。先ほどまでの怒りと悔しさの涙とは違う恐怖の涙を流しながら玲は抵抗を止めて弱弱しい声を出す。

 

「ごめんなさい……許して……お願い…します…」

 

玲の中では再び謙哉がかつて自分を襲おうとした継父に見えていた。その時の恐怖を思い出しガタガタと震える玲を見た謙哉は、そっと彼女の手を放す。

 

「……大丈夫、何もしないよ」

 

自分の上から退き、横に座っている謙哉の姿を見ていた玲は少しずつ落ち着きを取り戻して行った。と同時にあり得ない位の屈辱を感じる。自分が忌み嫌っている男にこんな情けない姿を見せてしまった事に死にたくなるほどの恥ずかしさを感じた。

 

「……笑いなさいよ。情けない女だって」

 

「………」

 

自分から強がるように口を開いても謙哉はじっと自分を見たまま何も言わないでいる。玲はその事に耐えられなくなって俯くと自分に言い聞かせる様にして言葉を発し続ける。

 

「こんなの……こんなの違う。私は強いんだ、強いんだ……っ!」

 

「……本当にそう思うの?」

 

自分に対してそう言った謙哉に視線だけ向ける玲、何もかもを見透かした様な彼の瞳を見ていると、途端に自分に自信がなくなって来る。

 

「そう思ってる限りは君はあぶなっかしいだけだよ。何時か壊れる機械みたいになってるだけ」

 

「……うるさい、私の事を知った様な口をきくな」

 

「……ごめん、分かったよ。でも一つだけ、約束通りこれで僕と君はチームだ、明日の戦闘訓練、よろしく頼むよ」

 

「………」

 

「無言は肯定と判断するね。それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」

 

ズボンに着いた泥を払うと謙哉は立ち上がってその場を後にしようとする。その後ろ姿を見ていた玲は、急に立ち上がると謙哉の背中に向かって叫んだ

 

「私は負けてない!今度は勝って見せる!それまで……覚えておきなさいよ!」

 

玲のその叫びは夜の闇の中に吸い込まれる様にして消えて行った。謙哉は、なんの反応も見せないままに去って行き、後には泣きじゃくる玲だけが残されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外だな」

 

「まさかだね」

 

翌日の午後、二度目の戦闘訓練を終えた勇は葉月と顔を見合わせて感想を述べる。それは自分たちに対してではなく、今しがた訓練を終えたペアに対してだった。

 

謙哉と玲……昨日あれだけの醜態を見せた二人がなんの気まぐれかペアを組むと、昨日の動きが嘘だったかの様な見事な連携で敵を撃破したのだ、これには生徒たちだけではなく、園田達教師陣も驚きを隠せなかった。

 

「おい謙哉、一体何があったんだ?」

 

「……まぁ、色々とね」

 

自分の質問にちゃんと答えてはくれない親友に対して拗ねた表情をした勇だったが、次は自分の番だと気が付き葉月の元へと駆け出していく。勇を見送った謙哉はそのまま視線を玲に送ると、彼女は興奮気味に話しかけて来るやよいの相手をしている所だった。

 

「玲ちゃん凄いよ!ちゃんと謙哉さんと連携とれたじゃない!」

 

「……話しかけないで、今、最悪の気分だから」

 

「へ……?」

 

ぽかんとした表情のやよいを押しのけて玲は待機者用の椅子に座る。イライラとした顔で飲み物を飲みながら、玲は発散しようの無い怒りを胸の内で爆発させる

 

(何で私があいつと!?一番嫌いなタイプだって言うのに!)

 

自分を見るやよいがハラハラした顔をしているのを見るに、今の自分は相当ひどい顔をしているのだろう。無理も無い、自分を苛立たせる男とチームを組む事になったのだから

玲は思う、とりあえず次は謙哉を徹底的に叩きのめしてやろうと、そして自分の言う事をしこたま聞かせてやるのだ。どんな無茶な命令を下してやろうかと玲は今からそれを考え始める。

 

「……あれ?」

 

考える事に夢中になっていた玲は気が付かなかった、自分を見るやよいの表情が驚きの色を見せた事に

なぜやよいは驚いたのか?それは、玲がほんの少しだけだが楽しそうに笑ったからであった。

 

いつもの様な冷たい笑みではない年相応の女の子の笑顔……初めて見た玲の表情にやよいは驚くと同時に喜んだ

そして、この友人の笑顔がこれから先何回も見れますようにと心の中で祈ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、砕け散った玲の心が誰かの手によって拾い集められ、ひびだらけだが形を成して輝き始めた

彼女が差し出された手を握り返すのは、もう少し先の話である……

 


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