「何なんだよここは……?」
関所を潜り抜けた先に広がる近未来都市に仰天する勇、謙哉もまたこの異様な光景に目を丸くしていた。
「ここも同じソサエティなの……?」
「分かんねぇよ。でも、空飛ぶ車もあんなにでかいビルも見たことがねぇ、ここもゲームの中の世界だって考える方が妥当だろ」
「そりゃそうだけどさ……」
納得できないのは勇も同じだ、しかし、そう考えなければさらに納得できない事が増える。
とりあえずこの場所の事を知る為に行動を開始しようとした二人だったが、その周囲を多数の女子生徒が取り囲んだ。
「追って来たんだ、しつこい男は嫌われるよ」
「……でも、丁度良い。あなたとしっかり決着をつけておきたかったから」
「……ま、居るよな。普通に考えて」
女子たちを代表して前に出て来た葉月と玲の姿を見た勇が呟く、何を隠そう彼女たちを追ってここに来たのだから姿を現さない方がおかしいと言うものだろう
「んじゃ、第二ラウンドだ!」
「そうこなくっちゃ!今度は負けないよ!」
「ま、待ってよ!ここは落ち着いて話し合いで……」
「構えなさい。さっきの言葉通り、あなたは私が倒してあげる」
四者四様それぞれの反応を見せる中、何かを話していた女子生徒の一人が慌てた様子で集団から抜け出してくる。そして、手に持っていた機械を上に向けた。すると、そこから光が伸びて一人の女性の姿が映し出されたではないか
『……双方、そこまでだ。矛を収めよ』
「な、なんだぁ?」
女性は勇たちに戦いを止める様に告げる。急展開に困惑する勇だったが、葉月と玲は慌てた様子でその女性の姿を見ていた。
「が、学園長!?」
「全部見ていたのですか!?」
『……途中からな。葉月、玲、お前たちに他校との戦闘を許可した覚えは無いが?』
「すいません!しかし、戦力の補強を図る良い機会だと思ったので……」
「……どうやら、あの人は薔薇園学園の学園長らしいね」
謙哉の言葉に黙ってうなずく勇、葉月たちの様子を見るに先ほどの戦闘は学校側の指示では無いようだ。
勝手な行動を諫められ、詰問されている葉月と玲はかなり狼狽している。薔薇園の学園長はそれほどまでに怖い人物らしいなと勇は思いながら事の成り行きを見守っていた。
『……言い訳は結構だ、まずは帰還しろ。客人も連れてな』
「は、はい!」
その言葉を最後に女性の姿は消える。ややあって、照れた様な顔でこちらを見た葉月は頭を掻きながら勇と謙哉に告げた。
「……と言う訳でさ、悪いんだけど一緒に来てくれる?やだって言っても引っ張ってくからね!」
「拒否権無いじゃねぇか!」
「だってそうしないとアタシたちが叱られるんだもん!お願いだから来てよー!」
「はぁ……何だよお前、さっきまでと態度が違うだろうがよ……」
「まぁまぁ、良いじゃない。戦いになるよりかはましでしょ?」
呆れて溜め息をついた勇を嗜めながら謙哉は葉月の提案を承諾した。その言葉を聞いた葉月が満面の笑みを浮かべて手を取る。
「あーりーがーとー!じゃあ、後ろに付いてきて!すぐそこに私たちのゲートがあるからさ!」
叱られる心配がなくなった事に喜びながら葉月は歩き出す。勇は苦笑を浮かべながらその後ろに着いて行き、謙哉もそれに続こうとしたが……
「……まだ、諦めたわけじゃ無いから」
「え……?」
後ろからやって来た玲の一言に立ち止まり彼女を見る。玲は謙哉の事など見向きもせずに先に行ってしまった。
「なんでそんなに僕の事を毛嫌いするんだよ……」
冷たい態度に困惑しながら、謙哉もまた薔薇園学園の生徒たちの後を追って行ったのであった。
「うっわー……なんつーか、サイバーな街だな」
「ここはトリエアって言う都市、私たちの活動拠点だよ」
高くそびえ立つ摩天楼、街を闊歩するロボットたち……近未来の都市をそのまま表したかの様なトリエアの街は勇の度肝を抜いた。
「ここ、同じソサエティの中なんだよね?僕たちの知ってる景色とはだいぶ違うけれど……」
「アタシたちも驚いたよ、なんてったって関所を通ったらただっぴろい草原に出ちゃったんだもん」
「一体どういう事なんだ?天空橋のオッサンなら何か知ってんだろうけどよ……」
どうやら景色の差については薔薇園学園側も把握していないらしい。ゲーム制作者である天空橋に帰ったら話を聞こうと思いつつ、勇たちは薔薇園学園に繋がるゲートの前までやって来た。
「着いた着いた!ここを通ればアタシらの学校、薔薇園学園だよ!」
「んじゃ、お邪魔させて貰いますかね」
ゲートをくぐり現実世界へと戻る勇、薔薇園学園に辿り着いた勇が目にしたのは見渡す限りの女性たちだった。
「うお!流石にびっくりするな、これ」
「ははは!名前の通り美女揃いでしょ~?眼福、眼福!」
確かに葉月の言う通りだが数十名の女性が自分の事を注目していると言う状況は心臓によろしくない。後からやって来た謙哉もその光景を見るなりビクッとした態度で固まってしまった。
「……邪魔」
「わっ!?」
その背中を蹴り飛ばしながら玲が出て来る。多少よろめいた後で謙哉は背中をさすりながら勇に話しかけて来た。
「……凄いよね、流石県下一の女学校『薔薇園学園』だよ」
「確かにな。女の花園、って感じがすげぇする」
「……戻ってきたようだな」
話していた二人だったが、先ほど聞いたあの女性の声が聞こえたと同時にそちらの方向を見る。一緒に居た女子生徒たちは皆姿勢を正して女性を見ていた。
「学園長、ただいま戻りました!」
「勝手な行動の叱責は後でしよう。今は客人と話をするのが先だ」
そう言って二人の前にやって来た女性は勇たちを前にして堂々と立つ。勇は、その女性をしげしげと観察した。
歳は命とそう変わらなそうだ、ややこの女性の方が高く見える。30代位だろうか?しかしながら、この女性もかなり美しい。凛と立つその姿は正に高貴な薔薇だろう。
「……うちの生徒が無礼を働いたな。私はこの薔薇園学園の学園長を務めている園田百合子(そのだゆりこ)だ」
「ほんと大変だったんすよ?ドライバーをよこせって言ってきて戦いになるわ、訳の分からないとこに出るわ……」
「後できつく絞めておこう。その前に、君たちの疑問に答えるのが先だな」
絞めておこう。の言葉の所で葉月と女子生徒たちが顔を青ざめて震えるのが見えた。相当に恐ろしいおしおきが待っているのだろう。玲は軽くため息をついていただけだったが、それでも十分に反応をしているだけその恐怖が分かる気がした。
「……君たちの知っているソサエティとここでは大分様子が違うらしいな」
「はい。僕たちの知るソサエティは中世の高原と言う感じでしたが、ここはまるで……」
「SF世界の近未来都市……とでも言うべきかな。趣も、都市構成も何もかもが違う。しかし、ここもまたソサエティの中なのだよ」
「一体何でこうなってるんすか?」
「君たちは天空橋と言う男からディスティニークエストと言うゲームの事を聞いているか?」
「ええ、確かこのソサエティの元となったゲームの事ですよね?」
「そうか、なら話が早い。こんなところで立ち話もなんだ、場所を移そう……おい、葉月」
「は、はい!」
急に園田に呼ばれた葉月が敬礼のポーズを取って答える。その様子がおかしくてつい勇は噴き出してしまった。
「……私は客人を連れて学園長室に行く。お前と玲もやよいを医務室に連れて行ったら来い。丁度良い機会だ、色々と話しておこう」
「わ、分かりました!」
そそくさとやよいを連れてこの場から去って行く女子生徒を見送った後、勇と謙哉もまた園田に連れられてその場を後にした。
「……さて、まずはこのソサエティについて私の知っている事を話そう。と言っても、さほど詳しい訳でもないがな」
数分後、勇と謙哉、そしてやよいを医務室へとおいて来た葉月と玲の4人は薔薇園学園の学園長室で園田の話を聞いていた。
彼女はまず虹彩学園側と薔薇園学園側のソサエティの違いについて説明を始めた。
「さっきも話したが、元々このソサエティが一つのゲームを基にした世界であると言う事は知っているな?」
「はい。それは僕らも聞いています」
「私たちも前に学園長から聞きました」
「うむ……ディスティニークエスト、そのゲーム内容は主人公ディスとなって数々の世界を回ると言うものだったのだ」
「ディス……?世界を回る…?」
自分の持つカードの名と同じ名前を聞いた勇はその言葉を復唱する。園田は頷いた後で詳しい説明を始めた。
「RPGゲームと言ってもその舞台は様々だ。最もポピュラーな幻想的世界、SFの未来都市、戦国時代、魔術世界……他にも上げればきりがない位だ」
「……ディスティニークエストはそう言った世界を主人公が辿る物語だったって事すか?」
「その通りだ、故にこのような差が生まれた。全く別の空間に見えても同じソサエティの中だと言う訳だ」
「……あの関所は、別々の世界を繋ぐ門だったのか」
「そうらしいな、なにせ我々も初めて門をくぐった訳だから手探りの状況だったわけだ」
「んで、俺らに喧嘩を売って来たってわけか」
「その点に関しては申し訳ないと思っている。こちらの監督不足だ」
「だってアタシたちも戦力が欲しかったんだもん、機械魔王との戦いに備えなきゃならないしさ」
「機械魔王?」
聞きなれない物騒な言葉を耳にした謙哉がその言葉を繰り返す。それに静かに反応したのは玲だった。
「機械魔王……私たちの知るソサエティを支配するエネミー、要はこの世界のラスボスよ」
「ま、マジか!?そんなのと戦ってるのか!?」
「正確に言えば名前しか聞いたことは無い。しかし、前に倒したエネミーがその名前を言っていた事から存在は間違いないだろう」
園田の言葉に勇と謙哉はごくりと唾を飲み込む。名前だけとは言えついに明かされたボスの存在、この近未来都市風の世界にボスがいると言う事は、恐らく自分たちの方のソサエティにも同様のボスが居るのだろう。
その存在をひしひしと感じると共に緊張感が増す。強敵と戦うのはドライバ所持者である自分たちなのだから当然だろう。
「……名前だけって事は、どこに居るのかもどんな奴なのかも分かってないって事ですよね?」
「その通りだ。しかし、ソサエティ攻略の為には避けては通れない敵だろう」
「……へっ、面白いじゃねぇか!ボスがいてこそのゲームだもんな!」
「そんな風に簡単に言っちゃってるけど、そう簡単な相手じゃ無いよ」
「私たちも今詰まってるしね……」
「……どういう事?」
勇の言葉に反応した二人に対して謙哉が?マークを浮かべて尋ねる。園田は一度咳ばらいをした後、話を再開した。
「先ほども話した通り、我々は機械魔王の手下の一人を倒した。しかし、その先で更なる強敵に出会い苦戦を強いられていると言う訳だ」
「だからまず先に関所の先を見に行こうって話になったの。そこで戦力の補強が出来れば、攻略の手助けになると思ったんだけど……」
「……なるほどな。その敵が強くて攻略できねぇと」
「そう言う事だ。さて、ここからは私の提案だが、君たちにその敵の攻略の手助けをお願いしたい」
「「「「はぁっ!?」」」」
園田のいきなりの提案に4人は素っ頓狂な悲鳴を上げる。しかし園田はそんな事もお構いなしに話を続けた。
「今までディーヴァの3人と我が校の生徒が協力しても倒せなかった敵だが、君たち二人の仮面ライダーの力を借りれればもしかしたらと言う事もある。戦闘データを見るに君たち二人は虹彩学園側の切り札の様だしな」
「……んなもん、俺たちにメリットが無いじゃないっすか」
「ふふふ……不敵だな。この状況でも自分たちの利益をしっかりと考えるその気骨には敬意を示そう。君の言うメリットだが……私に貸しを作れるのはそう呼べるのではないかね?」
愉快そうに笑った園田は勇に対してそう告げる。そのまま微笑を絶やさずに話し続ける。
「私はこの学園のトップだ。政府関係者とも関わりがある。その証拠に試作量産型のドライバーとカードを真っ先に入手できた。そんな私に貸しを作れたら、それは君たちにも虹彩学園にも大きなメリットになるのではないかね?」
「……あんた、大分強かだな」
「そうでも無いとこの役職など務まらんよ。さて、この提案を飲んでくれるかね?」
「学園長!こいつらの力なんて必要ありません!私たちがレベルを上げればあの敵も……」
「玲、お前の意見は聞いていない。これは私と彼らの交渉だ」
「……っっ!」
我慢できないと言う様に立ち上がった玲を諫め、園田は勇と謙哉に回答を求める。ややあって、二人はほぼ同時に口を開いた。
「……構わねぇよ。そっちの敵がどんなもんなのか知る良い機会だ。協力する」
「僕は同じ目的を持った仲間同士助け合うものだと思っています。だから、助力を請われたらそれに応えるのが筋でしょう。協力します」
「結構!ならばすぐに出立だ、葉月、生徒たちを編成しろ」
「はいっ!」
園田の指示を受けた葉月はすぐさま部屋から出て準備を開始する。
勇と謙哉もまたゲートのある施設へと向かおうとしたが、俯いたままの玲に気が付き、なんと声をかければ良いかと思案を巡らせていると……
「……私は、あなたたちと協力するつもりなんて無い!」
そう言って玲は部屋から駆け出して行ってしまった。やや不穏な空気を感じながらも、二人は強敵との戦いに備え準備をしていったのであった。
「やっほ~~い!凄いねこれ!気持ちいい~~っ!」
数十分後、先に出発した女子生徒たちの後を追って勇たち4人は暗いソサエティの道をバイクで駆けていた。それぞれのバイクに2人ずつ乗ると全速力で突っ走る。その風を感じている葉月は楽しそうに叫び声を上げていた。
「あんま暴れんなよ!こちとら二人乗りは初めてなんだから」
「やー、ごめんごめん!でもアタシもバイクに乗るの初めてでさぁ……って、ん?二人乗り初めてなの?」
「あ?」
ヘルメット越しに楽しそうな笑みを浮かべた葉月が勇の方を見る。疑問を浮かべる勇に対してややおどけた様に葉月は切り出した。
「って事は、初めてこのバイクの後ろの乗せた女の子は現役アイドル美少女のアタシって事だよね!?どうよ?嬉しいんじゃない?」
「……ま、役得だとは思うけどよ」
「でしょ~!もっと感謝しても良いんだよ~!」
バイクの上だと言うのに身振り手振りも大きく話す葉月に苦笑を浮かべながらも良好なコミュニケーションを取る勇、少し前に戦っていた相手だとは思えないほどだ
「まぁ、さっきは色々あったけどさ、今は協力する仲間としてよろしくね!え~っと……」
「勇、龍堂勇だ。よろしくな」
「おう!よろしくね勇っち!」
「うおっ!?」
急に背中に抱き着いて来た葉月に驚き少しバランスを崩すも勇はそれを立て直してバイクを走らせる。しかし、今現在も少しばかり困った事が起きていた
(……む、胸が…!)
背中に感じる柔らかな二つの感触、平静を装っておきながらも勇は内心ドキマギしていた。
えへへと笑いながら背中に張り付いている葉月はその事に気が付いてる様子も無い。指摘して気まずい思いをするのも何なので、勇は黙っておく事にした。
(ま、これも役得って事だな)
多少のスケベ心と共に納得した勇はそのまま目的地へと向かう。なかなか良い関係を築けている二人に対して謙哉と玲はというと……
「………」
「………」
(……凄く気まずい!)
ここまでの数分間、まったくもって会話が無い。むしろ背中からはひしひしと殺気にも似た感覚が伝わってくる。
「あ、あのさ……その、今は協力する者同士として仲良くしようよ……ね?」
「嫌」
「あ、そう……」
口を開いてもこの調子、取りつく島が無いとはこの事だろう。ヘルメットの下で涙に暮れながら、謙哉は早く目的地に付いてほしいと切に願ったのであった。
「着いたよ!ここが目的地!」
「……意外と近かったな。もう少し距離が離れてると思ったんだが」
「やっと着いたぁ……(涙)」
それからさらに数分後、目的地に到着した4人はバイクから降りて先に到着していた薔薇園学園の生徒たちと合流する。生徒たちが隊列を組む先に見える二つの塔、あれが目的地なのだろう。
「あれに乗り込むんだな?よっし、まずは部隊を二つに分けないとな」
「そうだね。あの塔の中で合流出来ればいいんだけど……」
「あ~……そうじゃないんだよねぇ~」
「は?そうじゃない?」
「どういう意味?」
「……まぁ、近づいてみれば分かる」
何やら意味深な事を言いながら先へ進む葉月と玲、勇と謙哉も疑問を覚えながらも二人の後に着いて行く
「……来るよ!全員戦闘準備!」
「は!?もう来るのか?まだ外だぞ?」
「良いから準備して勇っち!マジでやばいの来るから!」
焦る葉月に急かされドライバーを装着する二人、次の瞬間、大きな地鳴りと共に何処からか声が響いて来た。
『ま~た~来~た~の~か~!この小娘どもめ~!』
「何だ!?何が起きてんだ!?」
「こ、この声は!?」
困惑しまくりの二人の疑問に答える様に声の主が姿を現した。先ほど見た二つの塔の中心で、その塔を握りしめながら
「で、ででででで!でっけぇ~~っ!?」
巨大、あまりにも巨大なそのエネミーは小さなビル一つ分くらいの大きさはある。両肩には人一人分の大きさはあるのではないかと言うほどの直径の砲台が取り付けてあり、いかにもな巨大ロボの姿をした敵はこちらを見ていた。
「何、あの巨大ロボーーっ!?」
「お前らあんなのと戦ってんのか!?」
『何度追い払ってもやって来る小娘どもめ!この機鋼兵ガンゼルが今日こそ叩き潰してくれるわ!』
「く、来るよっ!」
機鋼兵ガンゼルと名乗ったそのエネミーの目が光ると同時に全員がパッとその場から飛び退く、勇と謙哉もまたそれに倣いその場から飛び退くと……
『てやぁっ!』
ガンゼルの目から放たれるビーム、それは火柱を作り上げながら真っ直ぐに地を払った。
地面もまた機械で出来ている為に被害はそれほどでもなかったが、あんなものが直撃したらただでは済まないだろう。
『行け、我が機械兵たちよ!あの小娘どもをスクラップにしてしまうのだ!』
「カウントダウン、開始します!」
「良し、全軍攻撃開始っ!」
機械の地面からロボット兵たちが続々と現れ攻撃を開始してくる。それに対抗する様に薔薇園学園の生徒たちもカードを使って戦闘を開始する。
「何!?あれが今回のエネミーなのか!?」
「そうだよ勇っち!気を付けて、あいつと戦える時間は10分しかないの!」
「どういう事!?」
「あいつの肩に付いている砲台は戦いの開始と共にチャージされて10分後には発射される。それを出されたらジ・エンドってこと」
「そう言う大事な事は先に言ってよ!」
「ごめん!謝る!でも今はあいつを倒さなきゃ!」
「お、おし!やってやろうじゃねぇか巨大ロボ戦!」
「これ、もう30分前の番組のヒーローがやる事じゃないの!?」
ガンゼル戦の注意を聞いた二人はややヤケクソになりながらもカードを構える。ディーヴァの2人もカードを構え、同時にドライバーに通した。
「変身!」
<ディスティニー! チェンジ ザ ディスティニー!>
<ナイト! GO!ファイト!GO!ナイト!>
<ディーヴァ! ステージオン!ライブスタート!>
それぞれ変身した勇たちはまずは目の前のロボット兵たちに攻撃を仕掛ける。武器を手に次々と相手を倒す4人だがロボット兵たちの数は減ってこない。さらにガンゼルの援護射撃が火を噴いた。
『くらえぇぇいっ!』
手首から放たれるミサイルの雨、悲鳴を上げながら逃げ惑う薔薇園学園の生徒たちは爆発に飲まれながらも必死に戦っている。
「わー、わー、わー!そりゃねぇだろ!」
勇もまた必死にミサイルの雨を躱してロボット兵たちを切り倒す。しかし、徐々にその動きが鈍って来た。
(な、なんだ?思う様に体が……)
そう思った瞬間、放たれたミサイルの雨に飲み込まれしこたま直撃を喰らう勇、思ったよりもダメージは少ないが痛いものは痛い。地面に倒れピクピクしている勇を放って、ガンゼルは次の得物に目を付けた。
『次は貴様だ!』
「ぼ、僕ぅ!?」
驚く謙哉に対してもミサイルの雨を繰り出すガンゼル、必死に盾を構えてもすべてを防げそうにない。謙哉が覚悟を決めたその時……
「これを使いなさい」
「えっ!?」
玲が近づいてくると一枚のカードを手渡して来た。早速謙哉はそれをイージスシールドに読み取らせる。
<ワイド!>
「お、おおっ!」
すると、イージスシールドの周囲から青いエネルギー波が現れ、大きな盾の形を取った。自分の周囲を十分にカバーできる盾を形成したそのカードのおかげでダメージを負う事無く攻撃を防ぐことが出来た事に謙哉は感動した。
(……ああいう風に言ってもあの子もしっかり連携を取ってくれるんだな)
このカードを使わせてくれた玲に感謝をしようと振り向いて見ると……
「……何?しっかり防いでよ」
玲もまた、きっちり自分の後ろに張り付いて謙哉にミサイルをガードして貰っている。時たま銃でガンゼル目がけて攻撃しながらも、謙哉を盾として利用してその後ろから離れる気配は見えない。
「君、僕の事を利用する気満々であのカードを渡したの!?」
「それ以外に何があるってのよ。気張りなさいよ肉壁!」
「何で君は僕に対してそこまで辛辣なのさ!?」
ダメージは無いとは言え盾を構える左腕が痺れる事には変わりない。それを無視してまるで雨を防ぐ傘の様に謙哉を利用する玲に対して謙哉の悲痛な叫びが木霊する。
しかし、攻撃が謙哉に集中しているおかげで他の生徒たちが助かっているのも確かだ、特に何故か動きが鈍くなった勇はその隙に体勢を立て直す。
「どうしたの勇っち、どっか怪我した!?」
「いや、なんか体が上手く動かないっつーか……」
ギクシャクとした動きでロボット兵と戦う勇、そのフォローをしながらも葉月は必死にガンゼル攻略の手立てを探す。
「うー、やっぱ駄目だぁ!どうしてもあいつに近づけないよ!」
「近づけない……?」
「ロボット兵が多すぎるんだよ!なにか手は無いかなぁ…?」
「動かない……近づけない……?」
今の自分の体と葉月の言葉を組み合わせて思考の海へと潜る勇、今の自分に出来る事は無いだろうか?
(確かにあいつに近づくことは絶望的だ、じゃあ、どうすればあいつを倒せる……?)
その答えを探す勇の目に玲の姿が映る。そうだ、近づけないとすれば、近づかないで攻撃する方法があればいい。つまり、ガンゼル攻略の為に必要な物は……
「強力な遠距離攻撃!」
そう叫んだ瞬間、勇の中で歯車ががっちりと噛みあった様な感覚が生まれる。それと同時に目の前が光りだした。
「な、何!?何が起きてるの!?」
突然の事態に困惑する葉月の言葉を耳にしながら勇はその光の中に手を伸ばした。そして、その中にあった物を掴み取る。
ゆっくりと光が消えた後に残った物、それは2枚のカードだった。
「運命の銃士 ディス」、そして「ディスティニーブラスター」と書かれた二枚のカードを手にした勇はそのカードをドライバーに読み取らせる。何故か、使い方は分かっていた。
<ディスティニー! シューティング ザ ディスティニー!>
流れる電子音声、再び展開される装甲。その全てが終わった時、勇の姿は大きく変わっていた。
RPGの騎士を思わせていた鎧は消え去り、代わりにサイバー風味のパワードスーツが現れる。右目の前にはバイザーがあり、敵との距離を正確に示してくれている。
ディーヴァの3人に近い未来的な装備に身を包んだ勇はすぐさま次のカードを使うとその姿に似合った武器を呼び出した。
<刻命銃 ディスティニーブラスター!>
現れた巨大な両手銃を掴む勇、カラーリングはディスティニーソードと同じ黒を基調にして赤を散りばめた銃、いかにも威力がありそうなその銃を構えると引き金を引く。
『ぬおっ!?』
放たれた赤い光弾は真っ直ぐにガンゼルに向かうとその顔面にぶち当たり爆発する。攻撃を喰らったガンゼルにこの戦いが始まって初めてダメージを受けた姿が見られた。
「……勇っち、だよね?何、その姿…?」
戸惑う葉月の声を耳にしながらゆっくりと前に出る。そして、再び銃の狙いをガンゼルに合わせると、勇はかの敵に向かって高らかに宣言した。
「さぁ、デカブツ……ゲームスタートだ!本気で行くぜ!」
『何を言うか小童が!』
いきり立ったガンゼルは再びミサイルの雨を繰り出す。しかし、勇はたじろぎもせずにディスティニーブラスターのボタンを押した。
<マシンガンモード!>
「行くぜぇっ!」
銃から繰り出される細かな光弾、すさまじい勢いで繰り出されるそれは迫りくるミサイルを次々に撃ち落としていく。
最期の一発が空中で爆発したのを確認した勇は、再びディスティニーブラスターのボタンを押した。
<ブラスターモード!>
「おらおらっ!」
駆け出すと同時にガンゼルに一発、そして迫るロボット兵にもう一発と引き金を引いて光弾を繰り出す勇。その攻撃を受けたロボット兵は一撃で粉砕され、ガンゼルはよろめいた。
「なんていう威力、これなら!」
それを見ていた葉月たちに希望が生まれる。あの威力で攻撃し続ければガンゼルを倒せるかもしれない。そう思った彼女たちだったが、カウントダウン役をしていた生徒の悲痛な叫びを耳にしてその考えは吹き飛んだ。
「残り1分です!もう撤退を!」
「えっ!?も、もう!?」
折角突破口が見えたと思ったのに時間が迫っていたのだ、その事に悔しそうに歯ぎしりしながら葉月はガンゼルを見る。
確かにガンゼルの両肩に設置された砲門は光り、今にも弾丸が発射されそうだ。悔しいが、ここは撤退するしかない。
「皆、撤退するよ!惜しいけど攻略はまた次回に……」
「何言ってんだよ、ここであいつをぶっ飛ばすに決まってんだろ?」
「ええっ!?で、でももう時間が……」
「10秒ありゃあ十分さ!おい、謙哉!」
「えっ!?な、何!?」
ロボット兵を相手にしていた謙哉は急に声をかけられて驚きながらも勇に応える。勇は、仮面の下で二カッと笑いながらこう聞いた。
「もう十分『溜まった』よな?」
「は…?あ、ああ!そうか!」
その言葉の真意を理解した謙哉は光り輝く青の宝石が埋め込まれた盾をガンゼルへと向ける。同じく、勇も銃口の先をガンゼルへと向けた。
『ふはははは!もう遅い、我が一撃を受けて滅ぶが良い!』
ガンゼルの砲門の光が一層強くなる。今にも飛んできそうな砲弾の気配を感じても勇と謙哉は怯まない。それどころか、二人は大声で叫びながらガンゼルへと狙いを定める。
「狙うのはもちろん……!」
「あのバカでかいカノン砲!」
<必殺技発動! コバルトリフレクション!>
<必殺技発動! クライシスエンド!>
「「行っけぇぇぇぇぇっ!!!」」
叫び声と共に発射される赤と青の光線は真っ直ぐにガンゼルの両肩の砲門へと伸びて行く、そして吸い込まれる様にその中へと入り込むと、カノン砲は大爆発を起こした
『な、なんだとぉぉぉっ!?』
「謙哉、決めるぞ!」
「分かった!行くよ勇!」
爆発と轟音が起きる中、二人は掛け声と共にガンゼル目がけて跳び上がる。ガンゼルを超えるほどの跳躍を見せた二人は、最大の武器を失いダメージから回復し切れていないガンゼル目がけて再び必殺技を繰り出す
<クラッシュキック!フレイム!>
<スマッシュキック!サンダー!>
<合体必殺技発動! Wライダーキック!>
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
炎と雷を纏った跳び蹴りは凄まじい勢いで巨大なガンゼルの顔面へと直撃する。起きる爆発、衝撃……その一撃をうけたガンゼルは断末魔の悲鳴を上げた。
『こ、このガンゼルが敗れるとは……機械魔王様、申し訳ありませぬぅっ!!!』
とどめの一撃を受けたガンゼルはその叫びと共に大爆発を起こして光の粒へと還って行った。残された塔もまた崩れ落ち、その場には何も残らない。
「……勝った?勝ったの?」
「嘘……でしょ?」
徐々に勝利を理解した薔薇園学園の生徒たちから喜びの声が上がる。リザルト画面も現れ、この強敵との戦いが自分たちの勝利で終わった事に嬉しさを隠せない様だ。
葉月と玲もまた喜ぶと同時に今回の勝利の立役者の姿を探していた。すると……
「お~い……た、助けてくれぇ~…」
何とも情けない声と共によろよろとした足取りで二人が戻って来た。よぼよぼのおじいさんの様な動きでへたり込んだ二人は心底疲れ切った様子で口を開く。
「あ、あそこまでジャンプするとか流石に予想外だったわ……」
「おかげで脚が痛くて痛くて……」
「くっ……あははははは!」
折角のヒーローの帰還なのに全くカッコよくない事をうけた葉月が大声で笑いだす。そして、二人の頭をくしゃくしゃと撫で始めた。
「ありがとねー!二人のおかげで勝てたよ!」
「そ、そりゃあ良かった…」
「ちょ、ちょっと休ませて……」
「あはははは!何それ!?だっさーい!」
葉月の笑いは次々と周りの生徒たちに伝染する。気がつけば、その場に居たほとんどの生徒が笑っていた。
「もうちょいかっこよく決めれば私たち惚れてたかもなのにねー!」
「ほんと!でも、逆にそこが良いかも!」
きゃいきゃいと騒ぐ女子生徒たちにつられて勇と謙哉も笑みを浮かべる。そして、どちらともなく片手を上げると、相手の手に合わせハイタッチをし、互いの健闘を称え合ったであった。
「……そうか、勝利したか」
『はい。彼らの戦力は予想以上です』
そこから少し離れた場所で玲は園田に対して報告をしていた。その勝利の報告に満足げに笑みを浮かべた後、園田は傍らの資料を見つめる。
「やはり、彼らとは手を組んだ方が良さそうだな。利用こそすれ敵に回すのは惜しい」
『……同意します。しかし、協力できるかと言われれば別問題です』
「お前はそういう人間だからな、仕方があるまい。しかし覚えておけ、彼らは敵ではない」
『……了解しました』
不服そうな声を最後に通信を切った玲に対して溜め息を漏らすと、園田は傍らの資料を見ながら呟く
「さて、これからどうなるかな……?」
彼女の持つ資料には、『虹彩学園及び薔薇園学園、同盟計画』と言う文字が刻まれていた。