仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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激突ライダーバトル!そして……

「うっらぁっ!」

 

叫び声と共に櫂がグレートアクスを振り下ろす。間一髪でそれを避けた葉月は、ホルスターからカードを取り出すとそれをリードする。

 

<ロックビートソード!>

 

電子音声が流れると同時に現れたのは、エレキギターを模した剣であった。黄色く、刺々しいそれを手に取ると葉月は櫂に挑みかかる。

 

「さぁ、ライブスタートだ!」

 

ギュオン!と言うギターの鳴る音と共に繰り出された斬撃はグレートアクスによって押しとどめられた。鍔迫り合いで拮抗する両者の姿を見た光牙が好機とみて剣を手に背後から葉月を襲おうとするが……

 

「……ふんっ!」

 

「なっ!?」

 

「ぐわっ!?」

 

葉月がロックビートソードの弦を爪弾くと、周囲に音の衝撃波が広がった。その一撃を受け、櫂と光牙は大きく吹き飛ぶ。

 

「女の子を後ろから襲おうだなんて良い根性してるじゃない、勇・者・さ・ま!」

 

「くっ……!」

 

「光牙!あの女の口車に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

すぐさま体勢を立て直した櫂が再び挑みかかるも、葉月はそれを容易く受け流すとギターを演奏するようにしながら戦いを続ける。

斬撃と衝撃波のコンビネーションに翻弄される櫂は、たまらず後退ると膝を付いてしまった。

 

「威勢の良い事言ってた割には弱いんだねぇ!これなら楽勝かな?」

 

「畜生!調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

無謀な突撃を繰り返す櫂を上手く操りながら有利に戦いを展開する葉月、その後ろではハンドマイク型の銃を手にした玲がその引き金を引いていた。

 

「ぐっ…!」

 

発射される青の銃弾、それらすべてを盾で防ぎながら接近する謙哉。相手の懐に飛び込むと銃を持つ右手を掴み、上に押し上げる。

 

「もう止めようよ!こんな事する意味なんてないだろう!?」

 

「……意味?そんなものを求めてどうするの?」

 

「え……?」

 

困惑した謙哉の隙を突き、玲は右脚で謙哉の腹部を蹴り上げた。

 

「がはっ…!」

 

「甘い、わね」

 

痛みで手を離した謙哉に対して容赦のない銃撃を喰らわせる玲、体に銃弾を受けながらも謙哉は必死に説得を試みていた。

 

「僕らは同じ目的を持った仲間だろう!?こんなところで戦ってないで一緒にソサエティの攻略をした方が良いじゃないか!」

 

「……あなた、理解能力が無いのね。さっきも言ったでしょう?私たちは目的は一緒でも仲間じゃない。敵同士ってこと!」

 

「わっ!?」

 

否定の言葉と共に繰り出された銃弾を盾で防ぎながら退く謙哉、そんな彼に対して玲は苛立った様子で言葉を投げかける。

 

「あなたみたいな人を見てるとイライラするのよ。世の中、誰もがお人よしだなんて思わない事ね!」

 

「そんな…僕は、ただ……」

 

口にする言葉もすべて銃撃の音で掻き消される。防戦一方でありながら、謙哉は玲の説得を諦めた訳では無かった。

 

「せいっ!やぁっ!」

 

「よっ、ほいっと!」

 

その頃、やよいと戦う勇は悠々と繰り出される拳を躱していた。何と言うか、戦いに慣れていない感が凄い。

よく訓練はされているのだろう。狙いは的確だし、当たると痛そうだ。だが、その攻撃には相手を思いやる気持ちがありありと現れていた。

 

(ったく、やりにくいったらありゃしねぇ……)

 

こういう相手ならば謙哉の説得にも耳を貸してくれたのではないかと思った勇だったが、少し考えてそれは無理かと考えを改める。

これだけ迷いを見せる人物が戦いに出たと言う事はその覚悟は相当なものだろう。ならば、半端な説得では意味が無いはずだ。

 

(なら、さっさと倒してやった方がこいつの為か!)

 

ディスティニーソードを取り出し、勇はやよいに斬撃を見舞う。ディーヴァの装甲から火花が散り、やよいは悲鳴を上げて吹き飛んだ

 

「ああっ…!っく…う…!」

 

その声に申し訳なさを感じながらも戦いを続けようとする勇、対するやよいもカードを取り出すとそれを使って武器を呼び出した。

 

<プリティマイクバトン!>

 

スタンドマイク型のロッドでディスティニーソードを防ぐやよい、だが、力の差は歴然としている。

 

「ぐっ…うっ……!」

 

泣きそうな声を出しながら必死に剣を防ごうとするやよい、勇は力を籠めると一気にその防御を突破した。

 

「たあぁっ!」

 

「きゃぁぁっ!」

 

再び吹き飛ぶやよい。勇は倒れ込んだ彼女を心配するように声をかける。

 

「おい、もう諦めろって、お前じゃ俺には勝てねぇよ」

 

少しやりすぎたとも思いながらやよいにそう告げると、勇はその場で棒立ちになる。もう戦う意思はないと告げるための行動だったのだが……

 

「……ふざけないで下さいっ!」

 

<ライフルモード!>

 

「あん?」

 

怒りの声と共に立ち上がったやよいは、その手に持つロッドの持ち手を変える。台座の部分をこちらに向ける様にしてロッドを手にすると、そのまま形を変えて銃の様な形態に変化させた。そして……

 

「バーン!」

 

「ちょ、おわっっ!?」

 

繰り出されるピンクの光弾、完全に油断していた勇はその攻撃をもろに受けてしまった。さっきとは対照的に倒れた勇に対してやよいは声をかける。

 

「私だって戦う覚悟はしてきたんです!それを舐める様な真似、しないで下さいっ!」

 

「あいたたた……くそっ、油断した…!」

 

やよいの怒りはもっとも、立ち上がった勇は自分の慢心を反省してから剣を構える。

 

彼女もまた覚悟を決めて戦いの舞台に立っているのだ、それを見下すのは良くない。なれば、全力で迎え撃つだけだろう。

 

「……悪かったな。こっからは手加減抜きで行くぜ!」

 

剣を振り上げ駆け出す。襲い来る光弾を躱しながら、勇はやよいへと真っ直ぐに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬうんっ!」

 

「おっと!危ない危ない!」

 

グレートアクスをひらりと躱し無防備な背中に蹴りを叩きこむ。よろめく櫂に挑発するように声をかけた葉月は、残りの二人の様子を伺うとホルスターから2枚のカードを取り出した。

 

「それじゃ、そろそろ決めちゃおうかね!」

 

その言葉を合図にしたかの様にディーヴァの3人は武器を構える。そして、互いに必殺の一撃を繰り出してきた。

 

<エレクトリック!サウンド!>

 

「まずはアタシのギターソロ、行くよっ!」

 

<必殺技発動! エレクトロックフェス!>

 

「に、2枚のカードだとっ!?」

 

葉月がロックビートソードをかき鳴らすと周囲に電撃が走った。全方向に無差別に繰り出されるその電撃をとっさに躱す4人、しかし、謙哉の背後から銃を構えた玲が姿を現す。

 

「はっ!?」

 

「……私のソロパート、聞き惚れなさい」

 

<ウェイブ!バレット!>

 

<必殺技発動! サウンドウェーブシュート!>

 

「くっ!」

 

向けられた銃から放たれたのは音波による攻撃、謙哉はとっさに構えた盾でそれをガードするも、完全に殺し切れなかった衝撃で吹き飛んでしまう。

 

「謙哉っ!」

 

「大丈夫、少しダメージは喰らったけどね……」

 

「カードを組み合わせる事でさらに強力な攻撃を繰り出せるのか…!?」

 

「あはは!コンボの事も知らないなんて本当にエリート校の生徒?駄目だなぁ!」

 

複数枚のカードを組み合わせての攻撃『コンボ』の威力に驚愕する光牙、そんな彼を嘲笑う葉月を無視して櫂が駆け出す。狙うはまだ攻撃を繰り出していないやよいだ。

 

「櫂っ!?何をする気だ!?」

 

「あの女も必殺技で攻撃してくる気だろう?その前にぶっ潰してやんのさ!」

 

「ふ~ん……狙いは良いけど、やっぱ馬鹿だね!」

 

「ぐわっ!?」

 

真っ直ぐ突っ込んでいく櫂に対して、両側から葉月と玲が挟み込む様にして電撃と音撃を叩きこむ。その威力に櫂は立ち止まり動けなくなってしまった。

 

「フィナーレです!盛り上がって下さい!」

 

<フラッシュ!ボイス!>

 

<必殺技発動! ファイナルソングディーヴァ!>

 

「し、しまっ…!」

 

身動きできない櫂に襲い掛かる光の奔流、まるでいくつものスポットライトが当てられたかの様に明るくなったその場所にピンクの音符が降り注ぐ

轟音、爆発、衝撃……その攻撃を喰らった櫂は大きく吹き飛び変身を解除させられると動かなくなった。

 

<GAME OVER>

 

「か、櫂っ!」

 

「まずは一人、案外ちょろいね」

 

「これなら楽勝ね」

 

「これで3対3……数は互角っ!」

 

櫂を仕留めて意気揚々と戦いを続けようとするディーヴァの3人、それぞれに武器を構えてやる気は十分だ。

 

光牙は彼女たちに押される様にして立ち上がる。味方を一人失った上に強力なコンボ攻撃まである彼女たちにどう対応すればいいのか分からなくなっていた光牙だったが、隣に居る勇が含み笑いをしながら立ち上がったのを見て困惑した表情を浮かべる。

 

「くくく……なるほど、そういうのもありなのな!」

 

「……何?おかしくなったのアンタ?」

 

「ありがとよ!お前たちのおかげでカードの使い方がまた分かったぜ!」

 

言うが早いが勇はホルスターからカードを取り出す。斬撃強化のスラッシュのカードと、休日に子供たちと交換して手に入れた火属性付加のフレイムの2枚のカードを手に取ると、ディスティニーソードにリードした。

 

<スラッシュ!フレイム!>

 

<必殺技発動! バーニングスラッシュ!>

 

「おっしゃ喰らえっ!」

 

剣が燃え上がり、炎に包まれる。勇は大きく腕を振ると、ディスティニーソードから炎の斬撃が飛び、ディーヴァの3人へと向かって行った。

 

「くっ!」

 

3人はそれぞれ別方向に飛び退き、迫りくる炎を回避する。葉月が反撃をしようと立ち上がったが、その目の前にはいつの間にか距離を詰めていた勇の姿があった。

 

 

「あっ!」

 

「もう一発!」

 

下から切り上げる様にして繰り出された一撃は葉月の体に見事に直撃し、彼女は悲鳴と共に吹き飛んだ。

 

「ああぁっ!」

 

「葉月ちゃんっ!」

 

「はっ!今だっ!」

 

葉月の危機にライフルモードに変化させた武器を手に持ったやよいが援護しようとするも、その瞬間を好機と見た光牙が勇同様二枚のカードをエクスカリバーに読み取らせながら接近する。やよいがその事に気が付いた時にはすでに遅く、光牙は必殺の一撃を繰り出そうとしている所だった。

 

<フォトン!スラッシュ!>

 

<必殺技発動! プリズムセイバー!>

 

「せやぁぁぁっ!」

 

やよいに迫る光の刃、とっさに武器を前に出して防ごうとするも勢いは止まらず、光牙の一撃はやよいの体に吸い込まれる様にしてぶち当たった

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

<GAME OVER>

 

「やよいっ!葉月っ!」

 

光牙の攻撃を受けて変身を解除したやよいを目にした玲が叫ぶ、同時に二人を援護すべく勇と光牙に銃口を向けた時、ある事に気が付いた

 

(……あの青いのは何処!?)

 

自分と戦っていた謙哉の姿が見当たらない。その事に気が付いた玲の後ろから電子音声が響くのを彼女の耳は聞き逃さなかった。

 

<パイル!サンダー!>

 

<必殺技発動! サンダーパイルナックル!>

 

「っっ!?後ろっ!」

 

振り向いた玲の目に映ったのは、空中に跳び上がった謙哉が自分目がけて拳を振り上げている姿だった。右の拳には電撃と共に青いエネルギーが凝縮されている。あんなものを喰らえば装甲が薄い自分はただでは済まないだろう。

 

躱そうとしても遅い、防ぐ手立ても無い。挙句の果てに足がもつれ尻もちをついてしまった玲は腕を自分の顔の前で交差させて目をつぶる。そして、やって来る衝撃に備えてぐっと歯を食いしばった。

 

「………?」

 

だが、いくら待っても予想していた痛みは来ない。恐る恐る目を開けた彼女は自分の目の前で止まっている謙哉の拳に気が付く。

あとほんの数センチの距離で止められたその拳にはまだ電撃が籠っている。今からでも振り抜けば自分に大ダメージが与えられるだろう。

しかし、謙哉はその拳を引くと、改めて玲を説得した。

 

「……もう止めよう。こんなの間違ってるよ」

 

「……何?私が可哀そうだから攻撃をやめたってこと?馬鹿にしないで!」

 

怒りに震え銃を向けようとした玲だったが、そのまま謙哉に押し倒され腕を抑えられる。ドライバーを剥ぎ取られ変身を解除された彼女に対し、同じく変身を解除した謙哉は必死に言葉を投げかけた。

 

「おかしいよ!僕らは同じ人間じゃないか!相手がエネミーならまだしも、同じ人間同士で戦うなんて間違ってる!」

 

「うるさい!離せ!それでちゃんと私と戦え!」

 

「断る!君が納得するまで離さないし、君と戦うつもりも無い!」

 

思えばそうだ、謙哉は一回も自分を攻撃しようとはしなかった。まともに戦うつもりなど無かったのだ。

その事に怒りを燃やしながら玲は謙哉に向かって必死に抵抗を続ける。しかし、謙哉も必死に玲を説得しようとしていた。

 

「どけ謙哉!お前がやれないなら俺が相手になってやる!」

 

「勇ももう終わりにしようよ!こんな無益な事したって意味無いだろ!そっちだって怪我人が出てる、先に手当をしないと!」

 

やよいを指差して手当をする様に言う謙哉に対して玲の抵抗が少し緩まる。そして、呆れた様な顔をしながら謙哉の顔を覗き込んだ

 

(こいつ、馬鹿なの?)

 

何故戦いの最中に敵の心配をするのか?みすみす得た好機を自ら放り出す様な事をするのか?

 

この場合、正しい行動をしているのは勇だ。彼の言う通り自分を倒してしまった方が戦いを終わらせると言う事に関しては手っ取り早い。

なのに、目の前のこの男は誰も傷つかない方法で戦いを終わらせようとしている。その事が、玲には不思議でならなかった。

 

「せやぁっ!」

 

「……あっ!」

 

謙哉の言葉に動きを止めた玲と勇だったが、その隙を突いてまだ戦える葉月が謙哉と玲の間に割って入る。

繰り出された一撃を受けて怯んだ謙哉の手を無理やり振りほどくと、玲は自分のドライバーを手に取って再び戦おうとしたが……

 

「玲、一度退却するよ!やよいの手当てをしないと!」

 

「っっ!!」

 

葉月の言葉に動きを止め、迷った様に謙哉を睨んでいた玲は舌打ちと共に反転して味方と合流する。開いていく関所を見るに彼女たちは撤退するつもりなのだろう。

 

「……覚えておきなさい。私は、あなたを絶対に許さない!」

 

「えっ……?」

 

玲の憎悪の籠った言葉を聞いた謙哉はその視線を受けながら奇妙な感覚を覚えていた。

自分を憎む様な、それでいて羨む様なその感覚が玲から発せられているものだと感じた謙哉はとっさに前に二、三歩歩みを進める。しかし、その時には彼女たちは関所の向こう側に消えようとしている所だった。

 

「待てっ!こんだけ好き勝手させといて逃がすかよっ!」

 

「勇!待って!」

 

「龍堂くん!虎牙くん!」

 

薔薇園学園の生徒たちを追って同じく関所の向こう側へと向かう勇、謙哉もその後を追って関所の門をくぐる。光牙の二人を呼ぶ声が引いた後、門は完全に締まり、あたりには静寂が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こらっ!待てって言ってんだろうが!」

 

「勇!一人で追うなんて無茶だよ!」

 

関所の向こう側へと進んだ二人は薔薇園学園の生徒たちの姿を探してあたりを見渡す。だが、その目に飛び込んできた光景を前にして言葉を失った。

 

「……なんだ、ここ?」

 

「そんな、なんで……?」

 

二人の目の前では、暗い空が広がっている。それを照らし出す様にして光る明かりの数々

多くの車が通るハイウェイ、空飛ぶ飛行物体、天まで届く高いビルの数々……

 

「……SFかよ、まじで」

 

そこには、今まで自分たちが見て来たソサエティとはまた違った光景が広がっていたのであった。

 

 

 


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