『さて、今日は素敵なゲストをスタジオに呼んでいます!ディーヴァの3人です!どうぞ~!』
テレビではお昼のトーク番組が放送されている。勇は、施設の子供たちと共にその番組でゲストとして迎えられた少女たちの事を見ていた。
『や~!どうもこんにちわ!来てくれて嬉しいよ!』
『いやいや!アタシたちも最近引っ張りだこで忙しいけど、やっぱり呼ばれたからにはちゃんと応えたいじゃ~ん?』
『ありがたい限りです!では、今日はディーヴァの3人に色々とお話を伺ってみましょう!』
そこで映像が切り替わり、画面には今回のゲストである『ディーヴァ』に関する情報が纏められたVTRが流される。
歌と踊りの正統派アイドルグループ、ディーヴァ……今、日本で最も注目されている少女たちだ。
『いや~、いつ見てもカッコよくまとめてくれてるねぇ!アタシは嬉しいよ!』
そう言ってスタジオの笑いを誘うのはリーダーの新田葉月(にったはづき)、茶髪に染めた髪と弾ける様な笑顔が向日葵の様に眩しく光っている。
清楚と呼ぶには派手でギャルと言うにはおとなしめの彼女は、格好いい女子高生ランキングの上位にランクインし続ける男子系女子だ。
『いやでも、もう少し可愛くアイドル風にまとめても良いんですよ?ほら、アタシの可愛いシーンとか集めてさぁ!』
その一言にスタジオ中が笑いに包まれる。可愛らしくこつんと自分の頭を叩いた葉月の姿をカメラが捉える。お茶の間にも笑顔を届けたこの少女のスマイルをばっちり撮ったこのカメラマンは後でいろんな人に褒められるだろう。
『気にする事無いのに、葉月ちゃんは何時でも可愛いよ!』
『も~!弥生はそうやっていつも可愛い事言って~!これじゃアタシの可愛さが薄まっちゃうじゃ~ん!』
『わわわ!葉月ちゃん、やめて~っ!』
そんな中、フォローを入れたメンバーの一人片桐(かたぎり)やよいの髪をわしゃわしゃとかきむしる葉月、ふわふわとした栗色の髪が膨らむ度に、画面越しだと言うのに良い匂いが伝わってきそうである。
3人のメンバーの中でも一番正統派のアイドルに近いやよいは、その可愛らしい仕草と実直な性格で着実にファンを増やしている。こうやって葉月に弄られる姿もとても可愛らしく、小動物を見ている気分になるのが彼女を応援したくなる理由だろう。
『……二人とも、トークが始まらないからおふざけはその辺にして』
『『は~い!』』
クールに二人を嗜めたのはメンバーの最後の一人、水無月玲(みなづきれい)だ。圧倒的歌唱力とビジュアルを持ち、クールな振る舞いをする彼女に対しては男性よりも女性のファンの方が多い。
半面、歌の仕事以外には精力的では無く。カメラを向けられている時も笑顔を見せない事から「笑わない女神」とまで呼ばれる彼女だったが、メンバーとの仲は良好な様だ。
少し前にデビューしてからそこそこの注目度を持って今まで活動を続けて来たディーヴァの3人、しかし、最近彼女たちが注目されてきたのには理由がある。
そのその一件を目前で見た勇は、二日前の事を思い出していた。
「……一体どうなってるんだ?」
目の前で喝采を浴びる三人の戦士に視線を向ける勇、その後ろから追いついて来た謙哉が声をかける。
「勇!これは、一体……?」
「分からねぇ、でも、あいつらがエネミーを倒したのは間違いなさそうだな」
そう言いながら勇は三人組の観察を続ける。赤、青、黄色の三色の装備を身に纏った三人だが、勇はその姿に違和感を感じていた。
「……なんか、僕たちのとは違う気がするね」
「お前もそう思ったか?」
謙哉のその言葉に勇も同意する。そして再び、観衆に囲まれる三人の姿を見た。
勇たちが違和感を覚えた三人の姿、それは、一言で言えば近代的なのだ。
勇や謙哉達が変身した姿は、分かりやすく言えば中世の騎士の様だ。鎧に身を包み、剣を振るって戦うRPGのキャラクターとも言える。
しかし、今目にしている三人組は違う。メカの様な装備に身を包み、鎧と言うよりかはパワードスーツの様だ。そして何より、そのカラフルさに目を奪われる。
先ほど赤、青、黄色と記した三人の装備の色だが、正確に言えば、ピンク、シアン、イエローだろう。派手、と言うよりかは可愛らしい。何と言うか、そう、あれではまるで……
「あぁ……?」
そこまで考えたところで勇はあるとんでもない事実に気が付いた。急ぎ謙哉の肩を叩き、その事を伝える。
「謙哉!胸、胸だ!」
「胸?いきなりどうしたのさ?」
「胸だよ!あいつら、胸があるんだ!」
「はぁ……?」
謙哉は勇の言葉の意味をいまいち理解しきれていない様だった。胸なんて人間だれしもある物だろう。そう考えながらも謙哉もまた指さされた三人組の胸を見る。
至って普通だ。膨らみのある丸い胸部があって、それだけ、謙哉は勇に言葉の意味を問い質そうとしてとある事に気が付く。
(……膨らみ?)
もしや、と言う可能性が頭の中に広がる。勇も何かに気が付いた謙哉の顔を見ながらがくがくと首を縦に振っている。謙哉もまた再び三人組の方を見ると、思い浮かんだ可能性を自然と口にしていた。
「もしかして、あの子たちって……」
「女、だろうな」
言葉の後を継ぐようにして口にした勇もまた彼女たちの方を見る。可愛らしい近代的な装備、カラフルな意匠、膨らんだ胸……その事から考えられる可能性はたった一つだ。
あの三人組は女性だ、しかも、ドライバーを持っている。もしかしたらどこかの学校の生徒なのかもしれない。その場合、自分たちと歳は変わらないだろう。
一年生がソサエティの攻略に挑めない事を考えると2年生か3年生、可能性が高いのは2年生だ。来年卒業してしまう学生にドライバーを渡してしまうのはもったいない気がする。
そんな予想を立てていた勇の前で3人の戦士たちはドライバーを外すと、その正体を惜しげも無く公開したのであった。
「みなさ~ん!エネミーは倒しました!もう安心で~す!」
「周りの安全点検の為に今しばらく動かないでくれよ!」
「……協力に感謝します」
3人が3人とも可愛い。アイドル並みだという感想を持った勇の周りで、集まっていた観衆たちが騒ぎ始めた。
「あ、あれって……もしかしてディーヴァの3人!?」
「マジで!?じゃあ、あの化け物をやっつけたのってアイドルなの!?」
「ディーヴァ?アイドル……?」
「もしかして勇、あの3人の事を知らないの?」
聞きなれない単語に眉をひそめた勇に対して、謙哉が驚いた顔で尋ねて来る。その反応にやや驚きながらも、勇は正直に答えた。
「……知らねぇ、そんなに有名なのか?あいつら」
「有名だよ。アイドルグループ、『ディーヴァ』……少し前にデビューして、ルックスと歌のセンスでそれなりに人気も出てるし、テレビのCMにも起用されてるはずだよ」
「あんまりテレビ見ねぇからな、俺……」
自分が流行に後れている事に軽くショックを受けながらも勇は事の次第を見守る。簡単に世間に正体をあかしてしまった彼女たちの目的は何なのか?その事を疑問に思いながら、勇は目の前のアイドルグループから視線を逸らせないでいたのであった。
そこから先は簡単な話だった。
すぐさまやって来たテレビの取材に慣れた様子で応えた彼女たちは、自分たちが正義の味方である事をアピールしたのだ。
周りに居た観衆のインタビューもあり、この2日間で世間は彼女たち『ディーヴァ』がソサエティの侵略に立ち向かう正義の味方の代表であると認知したのである。
現役アイドルがスーパーヒロインだなんて話題性抜群の話を誰もが放っておく訳が無い。取材に次ぐ取材、テレビでの報道、etc……あっという間に、世間はディーヴァの話で持ち切りになった。
(多分、俺たちの方が早くソサエティと戦ってたんだけどなぁ……)
多少納得いかない思いを抱えながらも、勇は相手の作戦を素直に認める。世間に自分たちの存在をアピールすると言うハイリスクハイリターンな行為を選択した彼女たちは度胸があるのだろう。もしくは、メリットの方が大きいと判断した冷静な思考の持ち主だ。
テレビで司会に対して笑顔で応対する彼女たちを見ながら、勇はその会話の内容に注目する。
『……ところで、3人はこの人たちの事を知ってる?』
司会の言葉と同時に後ろのスクリーンに映像が流れだす。そこには、変身した勇と謙哉がバイクを駆ってエネミーに突撃するシーンが映っていた。
「あ!勇兄ちゃんだ!」
「すげー!兄ちゃん有名人じゃん!」
子供たちの騒ぐ声をさておき、勇はこれに対して3人がどう答えるかに注目する。彼女たちと自分は面識が無い。つまりは自分の事など知る由も無いのだが……
『う~ん……知りませんねぇ、この人たちは?』
『3人が来る少し前に戦ってた人たちなんだけどね。世間じゃこの人たちの事を「仮面ライダー」って呼んでるらしいよ』
『仮面ライダー…?確かに、仮面をつけたライダーだけど、安直すぎじゃない?』
『この場合、私たちは仮面ライダーディーヴァ、って事になるのかしら?』
『う~ん、なかなかカッコいいんじゃない?さてさて、話を戻すと、3人はこの人たちの事は知らないんだね?』
『残念ながらね。多分、他の学校の人じゃないかな?』
『おお!つまりはライバルって事だ!?』
『そうでもあるし、味方でもあるね。ま、戦ったとしても負ける気はしないけどさ!』
葉月のその強気な発言にスタジオが大きくどよめく、勇も眉をひそめながら自信満々の葉月の事をテレビ越しに見る。
彼女たちはどうやってドライバーを手に入れたのか?正体を明かす様に指示したのは誰なのか?色々と疑問はある。しかし、今はそれを解明する手立てがないのも事実だ。
「……ま、明日学校に行けば何かわかんだろ」
若干お気楽にそう考えた勇は昼食を片付けると、明日の学校の準備をすべく自分の部屋に戻って行った。
「どういう事よ、これは!?」
翌朝、教室に入った勇が目にしたのは怒り狂う真美とホワイトボードに貼られたいくつかの新聞であった。
『正義のヒロイン、現る!』『ソサエティの事はディーヴァにお任せ!』『歌って踊れるヒーロー!?』などの見出しが書かれたその新聞に記されている内容は間違いなくディーヴァ絡みだろう。あまりに恐ろしい真美の剣幕に押されながらもマリアがそれを宥める。
「あ、あの……どういう事と申されましても何が何だか…?」
「な・ん・で!このチャラチャラした女どもが私たちソサエティ攻略班の代表みたいに扱われてんのよって話!」
「ひぃっ!」
小動物の様に震えるマリア、対して大怪獣の様に吠えまくる真美は教室中に届く声で演説を続ける。
「良い!?今まで私たちが必死になってやって来た事をこのメスどもはたった一回の戦いで掻っ攫って行ったのよ!?おかしいと思わない!?」
「いや、確かにその通りだけどこれは相手が上手だったと考えるべきじゃ……」
「そこで納得してんじゃないわよ!馬鹿光牙!」
「……ご、ごめん」
光牙ですら真美を止められないとしたらもはやこの教室に真美をどうにかできる人間は居はしないだろう。勇以外のクラス全員が震えながら真美の怒りが収まるのを待っていた。
「あんた等!今日は全員でソサエティの攻略に行くわよ!調子乗ったこのアイドルどもをぶっ潰す成果を上げてやるんだからね!」
「………」
「返事は!?」
「お、おーーーっ!」
(……まるで暴君だな、おい)
恐怖の女帝と化した真美の横暴を黙って見ていた勇だったが、自分には関係の無い事と割り切って席に着く。こういう時に限ってだが攻略班から追放されて良かったと思っていたその時……
「龍堂、あんたも協力しなさい」
「はぁ!?何で俺が!?」
まさかの指名、驚きの声を上げながら抗議する勇だったが、真美はそれを無視してさらに詰め寄る。
「聞いたわよ。アンタ、あの場所に居たそうじゃない。アンタがもう少しまともに立ち回っていればこんな事にはならなかったわよね?」
「いや、それは流石に無理だって……」
「良いから責任とって手伝いなさい!ついでに虎牙の奴も呼んでおきなさいよね!」
「……俺の意見は無視かよ」
もはや誰も止められない暴君と化した真美に対してがっくりと項垂れながら、勇は今日の午後の予定が決まってしまった事を悲しんだのであった。
「かーなーしーみーをー、くりかえーしー、ぼくらはー何処へ行くのだろー……♪」
ラクドニアのど真ん中、人々で賑わう広場で悲しみの表情を浮かべながら歌う勇。その背中には哀愁が漂っている。
「……同情するけどさ、色々と情報を集められるチャンスだと思って割り切ろうよ」
「じーれーんーまはおわらなーい……♪」
謙哉の慰めの言葉も虚しく勇の独唱は続く、聞いているこっちまで悲しくなってくる歌声に近くを歩いている誰もが怪訝な表情で勇の事を見ていた。
「……なぁ、俺って攻略班から追放されたんだよな?何でこんな時に限って良いように使われなくちゃならねぇんだ?」
「信用されてるって事でしょ、こうやって一緒に行動していけば追放も無かった事になるかもよ?」
「別に構わねぇから俺を自由にしてくれ……」
泣きそうな声で呟く勇は遠く空を見上げる。別に今朝の話を無視しても良かったのだがそうすると明日が怖いのでなんだかんだで付いてきてしまったのだ。
もう少し強い心を持ちたいと思いながらも勇はがっくりと項垂れて今度は地面を見る。そして、ホルスターから数枚のカードを取り出した。
「あれ?なんだか種類が変わってない?」
「ああ、昨日施設のガキどもと交換したんだよ。使いやすそうな奴を貰って来た」
今まで勇が使っていたカードはディスティニーソードのカードとクラッシュキック、そして斬撃強化のスラッシュのカードだ。言い換えればそれ以外のカードの使用頻度は低い。
そこで、丁度「希望の里」に帰った事を良い事に、勇は施設の子供たちから使えそうなカードと自分のカードを交換して来たのだ。枚数は変わらないが、これで戦略の幅は広がるだろう。
「謙哉も気になったカードがあったら持ってって良いぞ、施設にゃダブってるカードが結構あるみたいだしな」
「ありがとう、でも、それには及ばないよ」
そう言いながら自身のホルスターを開くと謙哉はそこから2枚のカードを取り出す。今まで見た事の無いそのカードに勇は目を丸くした。
「おいおい、どうしたんだよそのカードは?」
「この土日にちょっとね。運よく新しいカードも手に入ったよ」
「へぇ、お互いに戦力の補強は十分ってわけか」
にんまりと笑う勇につられて謙哉も笑みを浮かべる。機動力を確保するためのバイクカードも手に入れた二人は徐々にその力を蓄えてきている様だ。
新しい脅威に対しても準備は万全に整えられている事を確認して、二人は椅子から立ち上がる。とりあえず情報収集でもと考えていた二人の前に慌てた様子のマリアが姿を現した。
「い、勇さん!虎牙さん!大変です!」
「どうしたんだマリア?そんなに慌てて…」
「ひ、開いたんです!」
「開いたって、何が?」
「関所が、開いたんですよ!それで、ディーヴァの3人が来たんです!」
「「はぁっ!?」」
「……何?あんたたちは何の用でここに来たわけ?」
「その制服、虹彩学園かぁ……丁度良いね!」
急ぎ北の関所に駆けつけた3人が目にしたのは、テレビで見たあのディーヴァの3人と10数名の女子が開いた関所を背にして真美と向かい合っている姿であった。
ディーヴァの3人と後ろの女子たちは皆同じ制服を身に着けている。どうやら彼女たちは同じ学校の生徒の様だ
「……私立薔薇園(ばらぞの)学園の生徒たちが何の用でここに来たのかって聞いてんのよ、こっちの質問に答えなさい!」
「別に~、門を通った先がここだったってだけだし、特に用事があって来た訳じゃ無いんだけどさ……」
真美の質問にディーヴァのリーダー、新田葉月が答える。一度言葉を切った後、懐からドライバーを取り出した彼女はそれを見せつける様にしながら再度口を開く
「これ、持ってる人って居るよね?そしたら、アタシたちに渡して欲しいんだけど」
「はぁ!?」
大胆不敵と言うか、傍若無人と言うべきか……その恐れを知らない言葉に真美だけでなく周りの虹彩学園の生徒たちからも驚きの声が上がる。その様子を楽しみながら、葉月は話を続けた。
「1か月近くかかって関所の一つも開けられてないんでしょ?そんな奴らにこのドライバーは過ぎた物だよ。アタシたちが有効に使ってあげるから差し出せって言ってんの」
「……それはちょっと言いすぎじゃないかな」
流石に葉月の口ぶりに腹が立ったのか、光牙が彼女の前に姿を現し抗議する。品定めする様に光牙を見た後で、葉月は口を開いた。
「アンタがドライバ所持者?ああ、今は仮面ライダーって言った方が良いのかな?」
「その通りだ、確かに俺たちは君たちに比べて攻略が遅れているかもしれない。でも、それを君たちに馬鹿にされる筋合いはないはずだ」
「ははっ!エリート面して周りを見下してる虹彩学園の奴らにそんな事言われるなんて思いもしなかったよ!」
「……そもそも、エリートのくせして女子校の私たちの遅れを取ってるって時点で大分情けないと思うのだけれど」
「んだと、このアマッ!」
せせら笑う様にして口を開いた玲に対して櫂が怒りを見せながら集団の前に立つ、簡単に挑発に乗った櫂の様子を見て、玲はさらに馬鹿にした様子の笑みを浮かべた。
「二人目も簡単に見つかった。この様子じゃ、大した相手じゃ無いかもね」
「てめぇ……!その澄ました面を泣き顔に変えてやらぁっ!」
「落ち着けよ櫂!俺たちは争うためにここに居る訳じゃ無いはずだ!」
「俺たちはな!でも向こうはやる気満々らしいぜ!」
櫂を嗜めようとする光牙だったが、櫂の怒りは収まりそうにない。対して、薔薇園学園側も戦いの準備を始めた様だ。
「向こうは二人、なら、アタシと玲で十分か」
「……速攻、終わらせる」
「で、でも、こんなことして良いんでしょうか?同じソサエティ攻略班だって言うのに……」
ディーヴァの最後のメンバー、やよいはこの戦いにあまり乗り気では無いようだ。しかし、周りの女子生徒も含めてここで戦う事に異存のある者は少ない。
「噂の仮面ライダーがどの程度のもんか知るにはいい機会だろう?まさか、アタシたちに負けるレベルじゃないよね?」
「ちょっと待った!お前らの会いたい相手はそいつらじゃねぇよ」
今にも戦いが始まろうとするその時、その場に居た全員に聞こえる様にして声を上げた勇が輪の中に入って来る。その後に続いて謙哉も姿を現し、全員が二人に注目した。
「へぇ……4人居たんだ、仮面ライダー」
「お前たちの探してるのは俺とこいつの事だと思うぜ、正真正銘、バイクに乗った仮面の騎士さ」
「……そう、でも私たちには関係ないわね」
「せいぜい貰って帰るドライバーが2つ増えたって事くらいさね!」
「ま、待ってよ!ドライバーは今現在使ってる人にしか使えない様になってるんじゃないの!?」
「はっ!なんだそれ?嘘をつくならもっとましな嘘をつきなよ!」
謙哉の言葉を軽く一蹴すると葉月と玲は懐からドライバーを取り出す。その様子を見た櫂も自分のドライバーを取り出した
「やる気なんだろ!?俺が相手してやるよ!」
「アンタ一人じゃ物足りないって!他の3人はかかってこないのかい?」
「……仕方が無い!」
「ったく、血の気が多い連中だな!」
「勇!光牙くんまで!」
「む、向こうが3人で来るなら私もっ!」
葉月たちに続いて光牙、勇、そしてやよいがドライバーを構える。何とか事を荒立てない様にと謙哉は双方を止めようとするが、それは無駄な努力で終わりそうだ。
「謙哉、こうなったらやるしか無いぜ」
「でも!僕たちは同じ目的を持った仲間じゃないか!」
「ふふふ……面白い事を言うのね、あなた」
「え……?」
謙哉の叫びに対して、玲が静かに笑いながら口を開く。ぞっとするほど冷たいその笑みに、謙哉の背中に嫌な汗が流れた。
「……所詮、このソサエティ攻略は学校同士の戦争みたいな物よ。互いに利権を喰いあって、出し抜こうとする……目的は一緒でも、私たちは仲間でも何でもないって訳」
「そ、そんな……!」
「あなたが戦わないなら別に良いわよ?そしたら、私があなたを倒してドライバーを貰うだけ……それでいいのなら、そのままぼさっと立ってなさい」
「くっ……!」
そこまで言われた謙哉もまた懐からドライバーを取り出す。まだ迷いはあるものの、戦う意思を見せなければただやられるだけだと判断した様だ
「……これで全員やる気になったって事だよね?それじゃ、始めるとしようか!」
葉月の言葉を合図に全員がカードを取り出す。そして、同時に叫ぶ
「変身っ!」
<ディスティニー! チェンジ ザ ディスティニー!>
<ナイト! GO!ファイト!GO!ナイト!>
<ブレイバー! ユー アー 主人公!>
<ウォーリア! 脳筋!脳筋!NO KING!>
<ディーヴァ! ステージオン!ライブスタート!>
ギアドライバーから展開された装甲に身を包む7人、互いに睨み合い、相手を見据える。
「……あの青い奴は私に頂戴、ああいう奴、見ててむかつくのよ」
「んじゃ、私が二人を受け持とうか!やよいは無理しないで、一人を相手してくれれば良いからね」
「う、うんっ!頑張るよ!」
それぞれの得物を手にしながら自分の戦う相手を決めるディーヴァの3人、対して、勇たちも拳を構える。
「良いかい?喧嘩を売って来たのは向こうとは言え、ここで大きな問題を起こすのはまずい。極力慎重に戦うんだ」
「分かってるよ!さっさとぶちのめしてやろうぜ!」
「……お前、何にも分かってねぇだろ?」
「どうしてこんなことに……!?」
それぞれの思いを抱えながら、7人の仮面ライダーたちは戦いの場に立つ、そして……
「さぁ……ゲームスタートと行こうぜ!」
勇の声を皮切りに、全員が駆け出した。