仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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休日、謙哉が何をしていたか?と言うところに焦点を当てたお話です。


サイドクエスト 蜂の軍勢との戦い

 

息を吸い、吐く。そして、ゆっくりと目の前に居る敵を見据える。

数日前、ムーシェンの村で遭遇した強敵『ジェネラルワスプ』、そいつがただ一体で森の中に立っている。

 

「……やっぱあいつを倒さなきゃ駄目か」

 

そう呟くと同時に一歩踏み出す。ガサリと音を立てて草むらを踏み分けながら先へ進む。

音に気が付いたジェネラルワスプが僕の方を見る。そして、ゆっくりとその拳を構えた。

 

「さぁ、始めようか」

 

そう言いながら僕はドライバーを取り出すとそれを腰に構える。両端からベルトが飛び出て、僕の体に装着された。

 

「……ギギッ」

 

静かな鳴き声が聞こえると共に風が吹く、今、この場に居るのは僕とジェネラルワスプの二人だけだ。

 

(エネミーを一人と数えるのはどうかと思うけどね)

 

自分の思考に自分でツッコミを入れながら、僕はここまでの道のりを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金曜日の夜、僕の頭の中は新たに現れた3人の戦士の事で一杯だった。

可憐な女の子が変身したその姿、今までの戦士とはまた違う格好に僕と勇は違和感を覚えたものだ。

 

同時に僕の脳裏にはある事が思い浮かんだ。それは、これから先もこうやって新たな戦士が増え続けるのではないかと言う事だ。

 

ドライバーの量産が開始されると命さんは言っていた。ならば、僕のこの考えも決して間違いでは無いはずだ

戦いは激化する。それは間違いないだろう。戦う者の数が増えれば戦火は大きくなる物なのだから。

 

だとすれば、僕も強くならなければこの先戦い抜く事は難しくなるだろう。元々、僕は何かに秀でた人間ではない。このドライバーを手に入れたのも運が良かったとしか言いようの無い物なのだから

 

僕は強くならなければならない。自分の為では無く、このドライバーを託してくれた親友の為に、彼の隣で一緒に戦えるように、僕は強くならなければならないのだ。

 

だから、僕は自分を鍛え上げる事にした。その方法として選んだのがこのサイドクエストだ

 

蜂の軍勢との戦い……ムーシェン防衛戦をクリアした際に解放されたこのクエストは、名前の通りムーシェンに現れた蜂型エネミーと戦いを繰り広げるものであった。

 

クエストはムーシェンに住む一人の昆虫学者を訪ねる所から始まる。年老いた男性である彼に頼まれ、僕はまず村の近隣にある大樹に巣をつくった数体のアーミーワスプを退治する事になった。目的を終えて帰還した僕に向かって、年老いた昆虫学者はこう告げた。

 

「最近、ムーシェンで起こるエネミー絡みの事件を解決するために、この蜂型エネミーを退治して欲しい。無論、協力と報酬は惜しまない」

 

僕はこの頼みを快諾した。元々、自分を鍛える為にこなそうと思っていた試練だ、それに報酬まで受け取れるとなったら断る理由が無い。そしてこの休日の2日間を使って、次々にエネミーを討伐していった。

 

最初は数体のアーミーワスプを倒すものだったのが、最後の方にはソルジャーワスプとアーミーワスプの混成部隊を相手にすることになっていた。正直厳しい戦いだったが、何とかこれを潜り抜けた僕に向かって先ほど会った昆虫学者はこう言ったのだ。

 

「このまま雑魚を倒しても意味が無い。軍勢を指揮する将軍を倒すしかない」と……

 

その言葉を聞いたときに真っ先に思い浮かんだのが、今目の前に居るジェネラルワスプの事だった。

同じ仮面ライダーの光牙くんと櫂くんを相手取り、優勢に戦いを運んでいた強敵……そいつをたった一人で倒さなければならない。

 

確かにこの敵は強い、だが、僕だってあの日よりもレベルは上がった。戦いの経験も積んだはずだ。

 

倒せない敵ではないはず。そう考えた僕は、指定されたポイントに向かい、そこで出会ったジェネラルワスプに戦いを挑むために一歩踏み出して……今に至る、と言う訳だ。

 

「……頼むよ、サガ」

 

そっと自分の相棒である騎士の名前を呼ぶ。数日前、ギアドライバーを手に入れると同時に僕の元にやって来たこのカードは、今や僕にとってなくてはならない物だ。

盾を構えた守る為に戦う騎士……何かを壊す事よりも、守る事の方が性に合っている僕にとっては最高の相性と言えるカードだろう。

そのカードを右手に持ち、顔の横に構えると同時に僕は叫んだ

 

「……変身っ!」

 

ギアドライバーにカードを通し、その力を開放する。僕の身体を包む青い鎧の力強さを感じながら、左手を前に構える。

 

「ギギッ…!」

 

ジェネラルワスプもまた、自分の腕に生えている巨大な針をむき出しにして戦いの構えを取る。一対一の邪魔が入らない決闘が始まろうとしている中で、僕は必死に頭を働かせていた。

 

まず、純粋な一対一の戦いなら僕が有利だ。僕には左手の盾……イージスシールドがある。

身を守ることにも攻撃にも使えるこの盾があれば、相手の攻撃を防ぎながら戦う事が出来るだろう。真っ向勝負なら盾と言う武器は相当に強いはずだ。

 

反面、僕には戦いを決めるための必殺技が無い。正確には、受けた衝撃を蓄積させ、それを反射する技『コバルトリフレクション』があるが、それを使うためには相手の攻撃を防がなくてはならないのだ。

 

僕が選べる戦い方は二つ、一つは一気に攻め切り反撃の隙も与えないままに相手を倒してしまう事、しかしこれは無理だろう。相手との力量差は分からないがそう圧倒的な物では無い。と言う事は、一方的な戦いは出来そうに無いからだ

 

(……って事は、これになるんだろうなぁ)

 

選択肢その二、相手の攻撃を防ぎつつ着実にダメージを与えて行く。これが今回の僕の戦法だ。

カウンター気味になる分危険も大きい。だが、これしか戦い方が無い以上仕方が無い。

 

「……来いっ!」

 

「ギギギャァッ!」

 

僕の言葉に反応したジェネラルワスプが一気に距離を詰めて来る。繰り出される突きを防ぎ、そのまま盾を払う様にして胴に裏拳を叩きこむ。ぐっ、と鈍い感触と共に確かな手ごたえを拳に感じた。

 

「グワウッ!?」

 

「…しっっ!」

 

そのまま右の拳を相手の胸に叩きこむ。ドスッと言う音が鳴ると同時に、ジェネラルワスプが後ろに二歩、後退った。

 

(よしっ、行けるっ!)

 

緒戦は制した、このまま攻めきれれば一気にペースをこっちのものに出来るだろう。しかし、そう簡単に勝たせてくれる相手では無い。

 

「ガギガギガッッ!」

 

「うわぁっ!」

 

再び距離を詰めたジェネラルワスプは、両方の拳でのコンビネーションを繰り出してきた。

右、左、また左……それを何とか盾で防ぎながら反撃の機会を待つ僕、しかし……

 

(……駄目だ、隙が無さすぎる!)

 

拳での攻撃は武器での攻撃と違って軽く、そして速い。武器ならば一度防いでしまえば隙が出来るが、拳での攻撃では防いだところでまた次の攻撃がやって来るのだ。

右手を払っても左手で攻撃される。それを防げばまた右が……と言う様に、反撃に移る隙が見当たらないのだ。

 

唯一、この状況で僕に有利に働いている事と言えば、イージスシールドに衝撃が蓄積されている事だろう。しかし、先ほども言った通り拳での攻撃は軽い、数発防いだところで大した衝撃にはならないはずだ。

 

(どうする…?どうすれば良い!?)

 

このまま防ぎ続けた所でジリ貧だ、だが、無理に攻めれば手痛い攻撃を喰らうだろう。打開の手立てを打たなければ敗戦は免れない。僕は必死になって考える。

 

こんな時、勇ならどうするだろうか?たった一人の親友はどんな逆境だろうが諦めない。むしろ燃えて来るタイプだろう。

痺れる左腕の感触を感じながら、僕はその先を考える。勇なら、何も思いつかなくてもふてぶてしく笑うのだろう。そして、何事も無かったかの様に勝利をもぎ取る。そういう男だ。

 

まだ出会って一週間も経っていない。だが、彼の発する強烈な人を惹きつける何かは十分に感じられる。

 

そんな彼だからこそ僕は一緒に戦っていたいのだ、彼の隣で、背中を守れる位に強くなりたいのだ

 

(……そういえば、確か)

 

そこまで考えたところで僕はある事を思い出した。同時にこの状況を打開できる可能性のある策を思いつく。

正直博打だ、だが、何もしないよりかは何倍も良い。そう思った僕は覚悟を決めるべく大きく息を吸う。

 

(……僕は仮面ライダーイージス、無敵の騎士だ!恐れるな!前を向け!)

 

ゆっくりと繰り出される右腕を見る、もっと早く気が付くべきだった。さっきから攻撃のリズムが単調になっている。

繰り出される拳に合わせて僕は盾を前に突き出す。そして、そのままジェネラルワスプの体に盾を密着させる。

 

「グググッ!?」

 

僕のその行動に驚いたジェネラルワスプは一瞬動きを止める。僕にとってはそれで十分だった。

 

<必殺技発動! コバルトリフレクション!>

 

「ガァァァァッ!!!」

 

ズンッ、と言う衝撃が左腕に走る。イージスシールドから放たれた光線がジェネラルワスプを吹き飛ばし、背後の巨大な木に叩きつけた。

 

十分に威力が溜まっていた訳では無いから決着をつけるには足りないだろう。しかし、十分すぎる隙は作った。僕は駆け出しながらドライバーのカードホルスターを開くと、そこから一枚のカードを取り出す。

 

『スマッシュキック』……ついこの間、勇から受け取ったカード。強力なキックを繰り出す事の出来るこのカードなら、決着をつける事が出来るはずだ。

 

「グ……ガ……」

 

まだグロッキー状態のジェネラルワスプを尻目にカードをリードする。力強い波動を感じながら数歩助走をつけた僕は、勢いをつけて跳び上がるとそのまま空中で前方に一回転し、エネルギーの集まる左足を前に構えた。

 

<必殺技発動! スマッシュキック!>

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

鳴り響く電子音声、弾ける蒼の光、繰り出された跳び蹴りは見事ジェネラルワスプの胸部にヒットすると、そのまま突き抜ける様にして衝撃を残す。

 

「ギャァァァッ!!!」

 

断末魔の悲鳴、空中で反転した僕が地面に着地すると同時に爆発四散したジェネラルワスプは、その両腕に付いた針を残して光の粒へと還って行った。

 

「……勝った、のか…?」

 

地面に落ちた針を拾いながら呟く僕、息も荒く、倒れてしまいそうだ。

手の中にある二本の針をしげしげと眺めながら息を整えていると、針の内一本が光り輝き、その形を変えて行く。光が収まると同時に長方形のカードへと変貌したそれを掴み取ると、そこに書かれていた文字を読んだ。

 

「『パイルバンカー・ナックル』か……」

 

必殺技と書かれたカードを見るに、このカードを使えばジェネラルワスプのあの鋭い突きが繰り出せるのだろう。大きな収穫を手にした僕はガッツポーズをすると、昆虫学者に報告をすべくムーシェンの村に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。これでムーシェンの村にも平和が訪れる……何とお礼を言って良いか…」

 

涙交じりにそう言った昆虫学者は何度も僕にお礼を言った。彼もまたソサエティが生み出したNPCにすぎないのだろう。しかし、ここまでお礼を言われると恐縮してしまうのは確かだ

 

「……そうだ、話は変わるが君の持っているその針を研究用に私にくれないだろうか?」

 

そう聞かれた僕は迷いなく針を差し出す。僕が持っていても仕方が無いものだ、これもイベントの一部である可能性もあるし、彼に渡しておこう

 

「ありがとう!代わりと言っては何だが、この研究施設の動力の一部を君にあげよう。好きな物を選んでくれ!」

 

動力をあげるってどういう事だ?と疑問に思った僕の目の前に数枚のカードが浮かび上がった。なるほど、この中から好きなカードを選べって事らしい。

 

少し考えた後、僕は『雷(サンダー)』と書かれていたカードを手に取った。僕の蒼い鎧にはこの色が映える。そんな事を考えながら僕を見送る昆虫学者に別れを告げて家を出る。

 

「……もう夕方か」

 

休日のソサエティ探索の時間ももう終わりだ、明日からは休日が終わりまた学校が始まる。

もう寮に帰って休むべきだろう。新たに手に入れた2枚のカードをホルスターにしまうと、僕はゲートに向かって歩き始めた。

 

「待ってろよ勇、絶対に君に追いついて見せるからな……!」

 

君の背を守って、君の隣で戦えるくらいに強くなって見せる。覚悟を新たに歩く僕の休日は、静かに幕を下ろそうとしていたのであった。

 

 




本編の裏側でキャラクターがどう動いていたかを描くサイドクエスト、第一話は仮面ライダーイージスこと虎牙謙哉に主役を張って貰いました。

これから先も少しずつ書いていく予定ですので、気になるキャラが居たらご一報ください!

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