仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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再会!謎の男、天空橋渡

 

 

「……ここかぁ?」

 

「えーっと……うん、『ロンロン牧場』、ここで間違いないよ」

 

ムーシェン防衛戦の2日後、ソサエティに突入した勇と謙哉はラクドニアにあるとある施設にやってきていた。

 

ロンロン牧場と書かれた看板を前にして頷き合った二人はそのまま牧場内へと足を運ぶ、動物たちの鳴き声を耳にしながら建物のドアを開けるとその先に居た男性が二人の事を歓迎した。

 

「おお!ようこそロンロン牧場へ!ただいま暴れ馬を乗りこなした方には我が牧場で育った立派な馬たちを差し上げると言う企画を行っております。挑戦していきますか?」

 

牧場主の言葉を聞いた勇と謙哉は顔を見合わせて頷く。この牧場に来たのは、この暴れ馬を乗りこなして馬を貰って来るようにととある人物に言われたからだ。

 

では、そのとある人物とは誰なのか?それを語るために時間を今日の朝まで巻き戻すとしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ!てめぇ、嘘つきやがったのか!?」

 

朝のHR前のA組の教室内、怒鳴りかかる櫂の声にうんざりとした表情を見せた勇はその怒りの理由を問いただした。

 

「なんだよ。いきなりうるせぇなぁ」

 

「お前!条件を満たせば関所が開くって言ってただろうが!昨日見に行っても何にも変化が無かったぞ!」

 

「ああ、そういう事ね。んで、そんな事も分かんねぇのかよ…」

 

「何っ!どういう意味だそりゃあっ!?」

 

「わわっ!櫂さん、落ち着いてください!」

 

その言葉を聞いてさらにうんざりとした顔を見せる勇に対して櫂は更に怒気を強めて詰め寄る。しかし、その間に入って行ったマリアに宥められて動きを止めると、咳払いしたマリアの説明を聞き始めた。

 

「良いですか櫂さん、確かに私たちはムーシェン防衛戦をクリアしましたが、それはまだ関所を開く為の行程の第一歩にしかなってないんです。だから関所は開かなかったんですよ」

 

「ま、まだやらなきゃならない事があるって事か?」

 

「そう言うこった。んなことも想像つかないなんてお前実は馬鹿だろ?いや、馬鹿なのは知ってたけどよ」

 

「てめぇっ!もういっぺん言ってみろ!」

 

「馬鹿、大馬鹿、ミスタークレイジー」

 

「許さねぇ!ぶん殴ってやる!」

 

「やめなさい櫂、これ以上恥を上塗りする気?」

 

見事な勇の煽りに顔を真っ赤にした櫂が掴みかかろうとした瞬間、真美が現れると強い口調で櫂を諫める。びくりと動きを止めた櫂に冷たい視線を送りながら真美は更に冷たい言葉で櫂を責め立てた。

 

「龍堂の言う通りよ、アンタは想像力が無さすぎんの。短絡的な思考が色々なところに出てんのよ」

 

「だ、だがよ……!」

 

「そんなんだからドライバ所有者の中で最弱だって言われんのよ」

 

「っっっ!」

 

「……さすがに言いすぎじゃねぇか?友達を傷つけて楽しいのかよ?」

 

「……関係ないわね。これは友人としてでなくA組の攻略班の参謀役として言わせて貰ってるだけだから」

 

悔しそうに俯く櫂を不憫に思った勇が話に割って入るも、真美はそう言い放つと自分の席に座ってしまった。

肩を震わせる櫂に対して、勇は珍しく励ますと言う行為を取る事にした。

 

「気にすんなよ。こっから挽回すりゃ良いだろうが」

 

「……憐れみのつもりかよ?そりゃあ、お前からしてみたら俺は何の成果も出せてない格下だろうからな!」

 

「深読みすんなよ。俺はただクラスメイトとしてだな……」

 

「ふざけんじゃねぇ!俺はお前に同情されるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ!」

 

顔を真っ赤にした櫂はそう叫ぶと真美同様勇から離れて自分の席に向かった。勇は、結果としては発破をかけられたのだから良いかと前向きに考え、自分の席に座りなおす。

すると困り顔をしたマリアが自分の前に立ち、おずおずと口を開いた。

 

「あの、勇さん。ちょっと良いでしょうか?」

 

「ん?何だよ?」

 

「ここではちょっと……HR前ですが、ほんの少しだけお時間を頂いても良いでしょうか?」

 

「別にいいぜ、んじゃ自販機前のベンチでも行くか」

 

どうせ自分は予習復習をする様な真面目な生徒では無い。朝のこの時間もクラスメイトの気まずい視線を背に受けながら過ごしているだけだ。ならば、いつも自分を気にかけてくれるマリアの相談に乗ってやっても良いだろう。

そう思った勇はマリアを伴ってクラスを出る。背中にクラス中の視線を感じながら、勇は軽くため息をついて廊下を歩いて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、なんだよ話って?」

 

「その…最近、A組の皆さんの様子がおかしいんです。皆どこかピリピリしてるような、何かに怯えている様な……」

 

「んあ?そうか?前もあんな感じだった気がするけどなぁ…」

 

「勇さんはまだここに転校してきて一週間も経ってないから分からないかもしれませんけど、何か変なんです。真美さんも、あんな風に他人を責める様な人では無かったのに……」

 

そう言って悲しそうに顔を伏せたマリア、勇は慌てて彼女を励ます言葉を探す。

 

「ほ、ほら!やっぱソサエティ攻略が本格的に始まって皆緊張してんだろ!ちょっとすりゃあ元の皆に戻るって!」

 

「……そうでしょうか、私は逆な気がするんです」

 

「逆?」

 

「はい……むしろここからどんどん皆さんが険悪に変わって行く気がするんです。櫂さんも、粗暴だけど友達思いの良い人でした。でも、今は違う……あんな風に勇さんを責める櫂さん、見たくありませんでした……」

 

「マリア……」

 

マリアの青い瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。そんな彼女を見ながら勇は考えていた。

A組が変わってしまった理由、櫂や真美が神経を張りつめさせている要因、それはきっと……

 

「……俺のせい、かもな」

 

「えっ!?」

 

「……櫂の言う通りだ、俺はマリアたちみたいに今まで努力してきた訳じゃねぇ。なのに、お前たちと同等……いや、それ以上の待遇を受けてここに来ちまった。そりゃあ、面白くねぇわな」

 

懐にしまってあるギアドライバーを渡した男、天空橋の事を思い浮かべながら勇は思う。

あいつはソサエティ攻略に勇の力が必要だと判断して、2機のギアドライバーを託した。今の所、彼の目に狂いは無かったと言えるだろう。

実際、勇は今まで何度も活躍している。最初の戦いもこの前のムーシェン防衛戦の時もそうだ。勇が居なければきっとあの戦いはクリアできなかっただろう。だがそれはある意味で運が味方してくれたからに過ぎない。

 

ほんの少しの運が味方したばっかりに自分たちより活躍する勇の事をA組の面々が敵視するのも無理はない。真美の言っていた事は正しかった。自分があの中に居れば不和を生むどころか勇自身の身だって危なかったかもしれない。

 

もし自分が居なければ……ギアドライバーを他の誰かが持っていれば、こんな風にマリアは悲しまなかったのかもしれない。勇はそう考えてしまったのだ

 

「やっぱ、ここは俺みたいな奴が来る場所じゃなかったんだよ。努力した奴が認められて、このドライバーを受け取るべきだったんだ」

 

勇は初めてこの虹彩学園に来たことを後悔した。自分が責められた時は別に構わなかった。予想はしていたし、僻みみたいなものだと思えば別に苦でも無かったからだ。

だが、こうして悲しむマリアの姿を見ると心が痛む。自分がここに転入して来なければ、A組の皆は今まで通り仲良くやっていたのではないかと思ってしまうからだ。

 

だが、悲しむ勇の手を取ったマリアの顔を見て勇のそんな考えは吹き飛んでしまった。

その綺麗な目からぽろぽろと涙をこぼして首を振るマリアは、心底辛そうな声で必死に勇に話しかける。

 

「違うんです。そんなつもりじゃなかったんです!私……私、勇さんを責めるつもりなんて全く……!」

 

「わ、分かってるって!落ち着け!俺だってマリアから責められてるなんて思った事は無いからよ!」

 

「ご、ごめんなさい……わ、私……ひぐっ…ぐすっ……」

 

自分の目の前で涙するマリアをどうすれば良いのか分からず困惑する勇、美人なマリアは泣いていても絵になるななどと不謹慎な事を考えてしまった自分を心の中でぶん殴りながら急ぎマリアを宥めようとする。

はたから見たら勇がマリアを泣かせてしまっているようにしか見えない。もしもA組の連中に見つかったら自分は血祭りにあげられるだろう。

何とかしてマリアを宥めなければならない。こんなところを誰かに見られたら自分はお終いだ。そう考えた勇は何か喋ろうと口を開いたが……

 

「あ、居た居た!マリア、龍堂くん、先生が俺たちに話があるから至急集まってくれ…って……」

 

(あ、俺、終わった)

 

自分たちを見て固まった光牙を見ながら、勇は脳裏にネオン看板よろしく派手に光る「終了」の二文字を思い浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すいません、本当にすいませんでした」

 

「いや、気にすんなよ。もう済んだことだし……」

 

「そうそう!マリアもあんまり自分を責めないで!」

 

「うぅぅ……でも、やっぱり私が涙なんか流さなければ……」

 

数分後、三人は光牙に連れられて視聴覚室の前に立っていた。申し訳なさそうに何度も頭を下げるマリアの横に立つ勇の顔は妙に疲れ切っている。

無理もない。あの後、完全に固まりきった光牙に事の次第を説明して、二人でマリアを慰めると言う一大ミッションをこなしたのだから

 

(これ、マジでムーシェン防衛戦の方が楽だったんじゃねぇか…?)

 

フランス人形の様に可愛らしいマリアの泣き顔があんなにも強烈なものだとは初めて知った。涙は女性の最大の武器とも言うが納得だ。もう二度とあんなもんは拝みたくない。

 

「さ、さぁ!ここで待ってる人が居るから、早く入ろう!」

 

「お、おう!そうだな!」

 

空元気で無理に明るい声を出した光牙と勇の二人はさっそく視聴覚室の中に入る。中に入った勇がまず目にしたのは、教壇に立つ一人の女性の姿だった。

 

凄く美人だ、お世辞抜きに凛々しくて格好いい女性と言う印象を持てる。しかし、同時にある種の気圧される様な迫力を感じるのも確かだ。

 

「来たか……あと一人だな」

 

「すいません!遅くなりました!」

 

女性が呟くと同時に勇たちの後ろで聞き覚えのある声がした。振り返ってみれば、そこに居たのはこの前勇がドライバーを渡した相手、謙哉であった。

 

「謙哉?なんでお前が…?」

 

「これで全員だな。では、適当に座ってくれ」

 

女性は部屋の入り口に立ったままでいる勇たちにそう告げると椅子を指さして座る様に促す。部屋の中を見てみれば、丁度中間の席には真美と櫂の姿があった。

 

(俺と謙哉にA組の主要攻略メンバー……十中八九ソサエティ絡みの話だな)

 

そう見当をつけた勇は女性に言われた通り適当に後ろの席に座ると女性の方を見る。謙哉は自分の隣に、光牙とマリアはそれぞれ櫂と真美の隣の席に腰かけた。

 

「……さて、初対面の者もいるからまずは自己紹介をさせて貰おう。私は新藤命、政府直属のソサエティに関わる問題を受け持つ組織に所属している者だ」

 

そうして女性……命は勇と謙哉に自己紹介をする。勇は彼女の話を聞いてやはり自分たちがここに集められたのはソサエティ絡みの話をするためだったのだと確信した。

 

「私が今日ここに来たのは、君たちにいくつか伝えなければならない事があるからだ」

 

「……そのお話をする前に、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

命の話を遮って真美が手を挙げる。そんな真美の事を見た命が黙って頷くのを見た後、真美は謙哉の方を向くと口を開いた。

 

「虎牙謙哉……だったわよね?あなたの持つドライバー、私たちに渡してくれないかしら?」

 

「なっ!?」

 

その言葉に勇は驚きの声を上げる。光牙とマリアも信じられないと言った様子で真美の事を見ていた。

対して、ドライバーを渡す様に言われた張本人である謙哉は、いたって冷静に真美に質問を返していた。

 

「……美又さん、何故僕のドライバーを欲しがるのかな?」

 

「答えは単純、私たちの方がドライバーを上手く扱えるからよ」

 

「それは、どういう意味かな?」

 

「私たちA組は既に3人のドライバ所有者を擁しているわ、ここに最後の一つであるあなたのドライバーも加わればその布陣は完璧な物になると思わない?」

 

自分の事を攻略チームから追い出しておいてよくもまぁそんな事が言えるものだと勇はある意味で感心した思いを真美に抱いていた。

 

「それに、A組は虹彩学園のソサエティ攻略の中心と言っても差し支えないわ、D組のあなたよりも私たちの方がそのドライバーに相応しいとは思わないかしら?」

 

「……それは、僕たちD組を馬鹿にした発言と取っても良いのかな?」

 

「気を悪くしたなら謝るわ、でも、それが事実でしょう?」

 

ゆらり、と隣に座る謙哉から静かな怒りのオーラが発せられるのを勇は感じた。友達思いの謙哉の事だ、自分よりもクラスメイトを馬鹿にされた事が許せなかったのだろう。

見えない火花を散らせる真美と謙哉、そんな二人の間に割って入る様にして命が口を開いた。

 

「その提案に関しては私が返答しよう。不可能だ」

 

「不可能…?何故ですか?」

 

「……私が今日ここに来た理由の一つは、4機の初期生産型ドライバー全てが起動したとの報告を受けたからだ。この4機のドライバーは同時に起動した場合、その時に装着していた人物の生命データを記録してそれ以外の人物が使えない様になる。つまり、今この場にあるドライバーは、今の持ち主しか使用できないと言う訳だ」

 

「じゃあ、僕がA組にドライバーを渡した所で誰もそれを使えないと言う事ですか?」

 

「その通りだ。故にドライバーの譲渡は不可能だと言った」

 

「……分かりました。質問に答えて頂き感謝します」

 

そう言って頭を下げた真美は席に座った。ようやく話の本題に入れると勇は胸を撫で下ろしながら、命が口を開くのを待った。

 

「では、私の話だが……朗報だ、君たちを支援する設備の準備が整った。これで君たちを今まで以上に支援出来るはずだ」

 

「……具体的には何をしてくれるんですか?」

 

「うむ、一つ聞きたいが、君たちの中でエネミーとの戦いの後にカードを入手した者はいないか?」

 

「あ、それなら俺、一番最初に戦った時に手に入れました。確かこれだな」

 

そう言って勇はクラッシュキックのカードを取り出す。命はそれを受け取ると、皆に見える様に高く掲げた。

 

「ゲームギアの能力で、諸君らは戦いの最中未知のカードを手に入れる事がある。なぜそうなるのかは製作者では無い私は知る由もないがそうなると言う事だけは知っておいてくれ」

 

「……そういえば、僕のサガのカードもいきなりこのゲームギアから出て来たっけ」

 

謙哉もまた自分のホルダーからサガのカードを取り出すとしげしげと眺める。その状況に遭遇した時は不思議に思っていたが、時間が経ってその事を忘れていたなと二人は自分たちのカードを見ながら考えていた。

 

「そう言ったカードの中には、組み合わせる事で初めて効果を発揮する物もある様だ。我々は、そのカードを組み合わせる事の出来る部署、『アイテム制作部』を建造し、この虹彩学園内に設置した。これで君たちの武装を作り出す事が出来る」

 

「組み合わせる事で使用可能になるカード……それにはどういったものがあるんですか?」

 

「正直、そのあたりの事は分かっていない。その部門の責任者が言っていたことだからな。しかし、彼の言う事は間違いないのは確かだ。故に、私たちはソサエティに関する数々の情報を集める部署も設立した。君たちの住む寮からほど近い所にあるビルの中に『情報部』の本部を作らせて貰った。これで、数々の情報を知る事が出来るはずだ」

 

「なるほど、それならそこに来る他校の生徒たちからも情報を集められるかもしれませんね」

 

「……RPGで言う道具屋と酒場が出来上がったって訳か、大分手助けしてくれるじゃねぇの」

 

「当然だ、君たちは世界の希望だ。その希望をサポートしなくてなんとするかと言う話だからな」

 

そう言った後で命は軽く咳払いすると最後の話を始めた。

 

「そして……これは君たちにとって良い話ではないかもしれないが、4機のドライバーが稼働したことで戦闘データが多く取れる様になった。おかげでギアドライバーの量産が開始できそうだ。そう容易く作れるものではないが、これからは他校の生徒たちもドライバーを所持する事になるかもしれんな」

 

「協力者兼ライバルが増えるって事か……」

 

「そう言う事だ。メリットもデメリットもあるがある程度君たちが有利である事は違いない。私も出来る限りの支援は約束しよう」

 

命の言葉に勇たちは全員頷く、その様子を見た命は最後に思い出したように付け加えた。

 

「そう言えば、君たちドライバ所有者の通称……コードネームを決めて無かったな」

 

「コードネーム?そんなもの、必要なんですか?」

 

「ソサエティの攻略はゲームの様だが実際は軍の作戦行動に近い。出来る限り分かりやすい通称があると助かる」

 

「……ならよ、カードを読み込んだ時に流れる歌みたいなのあんだろ?あれから取ればいいんじゃね?」

 

「えーっと……勇ならディスティニー、白峰くんならブレイバー、城田くんはウォーリア、かな?」

 

「そういうお前はナイトか?」

 

「う~ん……それでも良いんだけど、単純と言うか、もうすでにそんな名前の人が居る様な気がするんだよね…」

 

勇の言葉に渋い顔をしながら答える謙哉、良く分からないが「もう既にそんな名前の人が居る」と言う気持ちは何故かわかる。具体的には、黒い蝙蝠を連れた騎士みたいな姿の戦士が何故か頭に思い浮かぶのだ

 

「なら、武器から取ってシールダーとかどうだ?」

 

「守る者、でガーディアンとかも良いかもね」

 

「いっそ和風にしてみたら?色から取って蒼月とか、あとざんげ……」

 

「ストップそれ駄目、それも絶対に居る!」

 

若干メタい発言をした謙哉は今までの候補に気に居るものは無かったようだ。意外と難儀なこの命名の儀式をどうしようかと思っていた所、意外な人物が口を開いた。

 

「……なら、イージスはどうだ?」

 

「イージス……ですか?」

 

「『無敵』、と言う意味だ。砕けぬ盾を持つ戦士、なかなかに縁起がいい名前だろう?」

 

「イージス、イージスか……それ、頂きます!」

 

命の案を受け入れた謙哉は嬉しそうに笑う。これで四人全員の名前が決まった訳だが、勇としては思う事があった。

 

「それよりもよ、ドライバ所有者の事をなんて呼ぶかの方が大事じゃねえか?」

 

「……そのままドライバ所有者で良いんじゃない?」

 

「そうじゃなくってよ。あの変身した後の姿あるだろ?あれをなんて呼ぶかも決めといた方が良いんじゃねぇの?」

 

「ふむ……一理あるな。これからドライバ所有者が増えるにあたって、その総称を決めておくことは大事な事だしな」

 

「まぁでも、今すぐ決める必要がある訳じゃ無いっすけどね。そのうち決まるんじゃないっすか?」

 

これ以上名前決めで頭を悩ませるのは御免だ、勇はその総称を付けるのを別の誰かに任せて考える事を放棄する。

命も名前を決める事の優先性は低いと判断したのか、それ以上は何も言ってこなかった。

 

「……私からの話は以上だ。これから先、君たちには大きな責任が課せられるが、我々と協力してソサエティの攻略を果たそう」

 

「はいっ!よろしくお願いします!」

 

流石優等生の光牙、命の言葉に率先して声を張り上げると真っ直ぐな瞳で命を見つめ返す。

何と言うか、純粋な子供の様なその視線に命も面食らってしまいそうになったが、そこは大人の風格で押さえつけて勇たちに解散を指示した。

 

「では、俺たちは授業に戻らせて頂きます!」

 

そう言ってクラスに戻る光牙たちの後ろに続いて視聴覚室から出ようとした勇だったが、命に呼び止められて彼女からとある物を渡された。

 

「……なんすか、これ?」

 

「手紙だ。君にドライバーを与えた男、天空橋渡からのな」

 

「あのオッサンから!?」

 

「ちなみにあの男はさっき話したアイテム製造部門の責任者であり、このゲームギアとギアドライバーを作り出した張本人だぞ」

 

「ま、マジすか!?あのオッサンが……?」

 

ただの怪しいオッサンだと思っていた天空橋がこのドライバーを作り上げた人物だとは夢にも思わなかった勇は息を飲んで渡された手紙を読む。そこには、意外と綺麗な字でこう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拝啓、龍堂勇さま 学園生活楽しんでますか?色々と大変そうですが、ご活躍も耳にしています。私の目に狂いは無かったと思う一方で、大きな負担をあなたにかけてしまったことに申し訳なさも感じております。ついては、私にあなたを支援させて下さい。ラクドニアにあるロンロン牧場で発生しているサイドクエスト、『名馬を手に入れろ!』をクリアした際に貰える報酬を手にアイテム製造部門に持ってきて頂ければ、あっと驚く様な物を作って差し上げましょう!一応、件のクエストにはクリア人数に限りがありますのでお早めに尾根配しますね。では……」

「追伸、もしも気になる女の子が出来たらご報告を!人生の先輩としてアドバイスさせて頂きますよ!」

 

「……って、書いてあったけどよ。本当に頼りになんのか?あのオッサン」

 

「まぁ、信じてみようよ。部署を一つ任せられるくらいなんだから優秀な人なんでしょ?」

 

「そうは見えないけどなぁ……」

 

ロンロン牧場でのサイドクエストをクリアすべく暴れ馬と格闘中の二人はそんな事を話しながら馬との距離を詰める。

不用意に近づけば蹴り飛ばされそうになる緊張感の中、まるでカバディでもやっているかのように勇と謙哉はステップを踏んでいた。

 

「あー!もう、これすげぇ面倒じゃねぇか!あのオッサン、これで大した物を作らなかったらマジでボコすかんな!」

 

地味にしんどいこのクエスト、勇は我慢できずに苛立ちを声に出して叫んだ。対して謙哉はふと下を向いて何やら考え始めた。勇が謙哉にどうしたのかを聞こうとすると……

 

「……ねぇ勇、もしかしてなんだけどこのクエスト、変身すれば楽勝なんじゃないの?」

 

「あ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……楽勝、だったな」

 

「楽勝だったね……」

 

10分後、勇たちは『ロンロン牧場産の名馬』と書かれたカードを手に牧場の前に立っていた。

謙哉の言う通り、変身してしまえば暴れ馬の相手なんて楽な物だったのだ。

防御力も力も上がるのだから多少強引に行っても問題なくクリアできる。変身してからものの数分でカードを手にした二人は何故もっと早く気が付かなかったのだろうと深くため息を吐いた。

 

「……ま、これで言われたカードは手に入れたんだ。早速アイテム製造部門とやらに行ってみようぜ」

 

「うん、そうだね」

 

何にせよ問題なくカードを手に入れられた事を喜びながらゲートへと歩いて行く二人、その途中で、勇がふと気が付いた様に口を開いた。

 

「……すげぇよな。このドライバー」

 

「うん、僕も思ってた。普通じゃ出来ない事をあんなに簡単に出来るようにするなんて、すごいを通り越してちょっと怖いよね……」

 

勇も謙哉の言葉に同意する。エネミーと戦うために生み出されたこのゲームギアは、見た目はどうであれ立派な兵器なのだ。

今までは兵器を兵器として扱っていたからその力に関してあまり感想を抱かなかったが、今回戦い以外の場で使ったことでその力を改めて実感したからこそ抱いた感想である。

謙哉が自分と同じ思いを抱いている事を確認した勇はそのまま話を続けた。

 

「朝の話が本当ならもうこのドライバーは俺たちにしか使えねぇ、俺たちは、ものすごい力を手に入れたって事になる」

 

「でも、それと同時に大きな責任も背負い込んだ。この力を正しく使うって言う責任を……」

 

それを口にした途端、勇は今まで感じた事の無かった重圧を背中に感じた。重く、何とも言えない雰囲気のそのプレッシャーは、ずっしりと見えない重みを勇に与えて来る。

偶然にも手にした巨大な力、望まずして身に着けた驚異の力。それは幸運なと呼ぶべきなのか?それとも不幸と言うべきなのか?まだ、今の二人には答えが出せない。

 

ゲートを出て現実世界に戻ってもその重みが消える事は無い。勇と謙哉は押し黙ったまま学園内に新設されたアイテム制作部へと足を運んだ。

 

「すんません。アイテムの制作をお願いしたいんすけど……」

 

「いらっしゃい。じゃあ、このレシピから作りたいものを選んで、必要な素材を渡して頂戴ね」

 

窓口に居た女性に声をかけた勇はその女性から一枚の紙を渡された。それを読んでみればそこに書かれていたのは様々なカード合成のレシピであった。

 

「……初日なのにこんなにあんのかよ」

 

「全部基礎的な物なんだろうけど、すごい量だよね……」

 

紙に書かれている素材の中には実際のディスティニーカードゲームに存在している物もある。どうやら素材とはすべてソサエティで手に入れる物と言う訳では無いようだ。

レシピの多さに感心しながら、二人は自分たちの手に入れた『ロンロン牧場産の名馬』を使ったレシピを探す。しかし、何回見てもレシピの中に探しているカードの名前は無い。二人は再び窓口の女性に声をかけた。

 

「すいません、今分かってる中でロンロン牧場産の名馬を使ったレシピって無いんですか?」

 

「う~んと……ごめんなさい、今のところそのカードを使ったレシピは発見されて無いわね」

 

「えっ!?」

 

その答えに驚きの声を上げる二人、では何のために天空橋はこのカードを取って来るようにと告げたのだろうか?まさか一杯食わされたのではないかと二人が不安になっていると……

 

「おやおや、思ったよりも早い到着ですねぇ、私ももう少し早く来れば良かった」

 

「あ、オッサン!」

 

聞き覚えのある声に勇が振り返ると、そこには初めて出会った時と同じ格好をした天空橋の姿があった。

ニカニカと笑いながら勇たちに近づいて来た天空橋は二人が持つカードを見ると満足そうに頷く

 

「ふむ、頼んだカードは持ってきたみたいですね。ちなみに、そちらの方は?」

 

「あ、僕は虎牙謙哉です。一応、勇と同じドライバ所有者で……」

 

「そうですか!やぁ、二人で行動するなんて勇さんと謙哉さんは仲がよろしいみたいですねぇ!転校してさっそく友達が出来た様で良かった良かった!」

 

そう言った天空橋は満足そうに声を出して笑う。と言うより、この男が笑い以外の表情を見せた事が無い事に気が付いた勇は、この怪しげな男の事を目を細くして見やった。

 

「さ~て、こんなところで立ち話もなんですし、私の研究室に行きましょうかね。そこで持ってきたカードを預かって、すんごい物を作って見せるとしましょうか!」

 

ひとしきり笑った後、天空橋は自身の研究室へと向かって部署の奥へと歩き出した。勇と謙哉もその後に着いて行く。

 

唐突だったが、天空橋との再会に勇の心が揺れたのは確かだ。この男にはいろいろと聞きたい事がある。

天空橋の背中を見ながら、勇はこの男の考えを少しでも知る為の行動を起こす事を決意したのであった。

 

 

 




一話が長いとのご指摘を受けましたので今までより短めにしてみました。
こちらの方が良さそうでしたら、今までの一話を二話分に分割して投稿していきたいと思います。お手数ですが、ご意見をお願いいたします!

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