仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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ゲーム×現実 ようこそ虹彩学園!

 

「おはよう光牙くん!」

 

「おはよ~う! 土曜日は大活躍だったらしいじゃん!」

 

「ん……まぁね…」

 

 件の事件から二日後の月曜日の朝、虹彩学園に登校した光牙はクラスメイトから質問攻めにあっていた。

 皆こぞって自分が巻き込まれたゲートの出現事件について聞きたがる。怪我人は出たが規模の割には甚大な被害が出なかったこの事件の陰に自分の活躍があると皆は思い込んでいるのだ。

 

「流石ね光牙、初の実戦でエネミーを倒すなんて…」

 

「俺はボスにやられちまったからな……あの状況を一人で覆すなんてさすがは光牙だぜ!」

 

「いや、違うんだ。俺は……」

 

 何もしていない。あのエネミーを倒したのは他の奴なのだと告げようとした光牙だったが、タイミング悪く入って来た担任の教師の姿を見て皆一斉に自分の席へと戻ってしまう。

 重要な事を言いそびれた光牙はなんとも言えない気持ちになりながらも皆と同じ様に自分の席に座った。

 

「あ~……早速で悪いが今日は皆にお知らせがある。この時期にだが、転入生が入ってくることになった」

 

 担任のその言葉にクラス中がざわめく、新学期からまだ2週間余り、転入生がやってくるにはあまりにも変な時期だ。

 何かいわくつきの生徒なのかもしれないと噂する教室の中で苦々し気な担任の表情に気が付いたのは人を観察するのが得意なマリアぐらいのものであった。

 

「……おい、入って来い」

 

「……うす」

 

 短い返事の後にドアがガラリと開き、噂の転入生が姿を現す。その顔を見た光牙は驚いて声を上げた。

 

「き、君は!?」

 

「あん…? あぁ、お前か」

 

 光牙の顔を見た転入生……勇は、うんざりとした様子で首を振ると気怠い様子で自己紹介を始める。

 

「え~……龍堂勇です。何の因果か分かりませんがこの学校に通う事になってしまいました。どうぞよろしく」

 

 非常に不機嫌そうに挨拶を済ませた勇はその表情のまま担任の顔を見る。ややあって、担任は勇を教室の一番後ろの席(隣り合う生徒が誰も居ないボッチ席だ)に座るように指示してからいつも通り朝のHRを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えろ。なんでお前がここに居る?どんな卑怯な手を使いやがった!?」

 

「知るか、俺だって知りたいわ」

 

 HRが終わった後、教室内では転校してきた勇に対して櫂が敵対心をむき出しにして絡んでいた。

 数日前に顔見知りになった勇にあまり良い印象を抱いていない櫂は今にも勇に掴みかかりそうな勢いだ、その櫂を抑えながら光牙は同じような質問を勇にぶつける。

 

「俺も驚いたよ。でも何で君がこの虹彩学園に? ここはそう簡単に入学できる学校じゃないはずなんだけど……」

 

 光牙の言う通りこの虹彩学園はソサエティ攻略の最前線とも言える場所であり、日本の明日を担う若者を育成する教育機関だ。当然、偏差値も高く試験も難しい。

 その虹彩学園にあっさりと転入してきた勇に対して疑問を持ってしまうのは至極当然の事であった。

 

「はぁ……一応言っておくけど、俺は本当の事を話してるからな」

 

 そう前置きをした勇は、土曜日の夜にあった出来事を光牙たちに話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日の夜、勇は何とか施設に帰るといつも通りの週末を過ごし始めた。

 幸いにして子供たちに怪我は無く、一番被害が大きかったのは勇自身だと言うオチがついたが、何にせよみんな無事で良かったと結論づけた勇は昼の出来事を忘れる事にしたのであった。

 

「勇兄ちゃん! やっぱり兄ちゃんの当てたカード、シークレットレアだよ!」

 

「シー……なに?」

 

「シークレットレア! ディスティニーカードのホームページでも公開されて無い激レアカードなんだって!」

 

 夜ご飯を食べた後、ゆっくりしていた勇は子供たちによってそのひと時を終わらせることになる。

 興奮した様子で自分に話す子供たちを見た後、勇は自分が手に入れたカード『運命の戦士 ディス』を床に置く

 

「へ~……これがねぇ…」

 

「あと、あの黒い剣もセットでシークレットレアなんだって!」

 

「ふ~ん……ま、ラッキーだったって事だな」

 

 そう言って立ち上がった勇はそろそろ寝るかと思いつつ部屋を出て行こうとする。しかし、ふと思い浮かんだ疑問がその足を止めた。

 

「……なぁ、ちょっとそのサイトを見せてくれないか?」

 

「うん、いいよ」

 

 子供たちの手からスマートフォンを受け取った勇は、そのサイトにあった「ディスティニーカード第一弾カードリスト」のページを見る。そこに映る数々のカードを見て行った勇だったが、目的のカードが見当たらない事を確かめると深くため息を吐いた。

 

(……やっぱ無いか)

 

 そう言って勇がポケットから取り出したのは、あのバッタの怪物を倒した時に出て来たカード『クラッシュキック』だった。

 普通じゃない入手の仕方をしたこのカード、やはりと言うべきか市販されているものでは無いようだ。

 

 これもシークレットレアという奴なのかもしれないと考えたが、そんな激レアカードがバンバン自分の元に集まる可能性は天文学的だろう。どちらかと言えば、このカードは普通ではないと考えた方がしっくりと来た。

 

「これ、一体何なんだ……?」

 

 分からないのはこのカードだけではない。昼間に戦ったあの怪物は恐らく「リアリティ」によって誕生した「ソサエティ」のゲームキャラだろう。

 だが、自分を変身させたドライバーとカードを読み取る事ですさまじい力を発揮した機械の事に関しては疑問が残る。出来れば、それに対する答えが欲しい所だ。

 

(世界を救うために必要な物、か……)

 

 ふと、勇の脳裏に光牙の言葉が浮かび上がった。確かにあんな力を使えるのであったらこのカードを入手することは世界を救うために必要な事なのだろう。

 なんで市販されている様なカードにこんな力があるのかは不明だし疑問も残るが、あの男が言っていた事に嘘は無かったのだと今更ながら勇は納得していた。

 

「勇君、ちょっと良いかしら?」

 

「あん?」

 

 考え事をしていた勇に声をかけて来たのは施設の職員である中年の女性であった。少し困った顔で勇を呼ぶと、用件を話し始める。

 

「実は今、勇君に用があるって言う人が来てるんだけど……」

 

「俺に? 誰が?」

 

「分からないわ、すごく大事な用だから勇君に会わせて欲しいって言って聞かないのよ」

 

「う~ん……」

 

 勇は何か嫌な予感がしたがこのまま放っておくわけにもいかない。覚悟を決めて会う事に決めるとその人物が待っていると言われた部屋に向う。

 応接室に入った勇を迎えたのは、サングラスにアロハシャツと言った完全に怪しい恰好をしたオッサンだった。

 

「お~! やっと会えましたねぇ! あなたが龍堂勇くん、ですよね?」

 

「は、はぁ……そうっすけど、あなたは?」

 

「私? 私は天空橋渡(てんくうばしわたる)、まぁそんな事はどうでも良いんですよ」

 

 そう言うと天空橋は勇に近寄ってぐるぐるとその周りを回り始めた。全方向からくまなく自分を見る天空橋に対してこいつは危ない奴だと判断した勇は、さっさと会話を終えるべく話を促す。

 

「で、俺に用って何なんですかね?」

 

「あ、そうだそうだ! 君に大事な用があったんですよ!」

 

 笑いながらそう言った天空橋は自身の鞄からファイルを取り出すと勇に手渡す。訝しがりながらもその中身を見た勇は、プリントに書かれたその文字を声に出して読んだ。

 

「虹彩学園……入学許可証!?」

 

「そうです! 君は明後日からあの虹彩学園に通って貰います!」

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て! 俺はもうすでに公立の学校に通っててだなぁ…!」

 

「あ、それ退学してきましたよ」

 

「なっにぃ~~~~っ!?」

 

 連続して投げられる爆弾発言の数々、勇は再び頭に?マークを浮かばせながら天空橋に詰め寄る。

 

「何勝手な事してくれてんだ!?てか、何でこんなことをするんだよ!?」

 

「そりゃあ、君だって多少は心当たりはあるでしょう? 私、昼間の戦いを見てたんですよ」

 

「えっ……!?」

 

 あのバッタ怪人との戦いを見ていたと言う事に驚いて天空橋の顔を見る勇、天空橋はそんな勇の様子を満足げに見ると口を開く。

 

「君の戦闘技術は見せて貰いました。初の実戦、しかも新兵器のギアドライバーをあそこまで使いこなす事が出来るその才能をスカウトしたいんですよ」

 

「スカウト? 俺を?」

 

「そう! 君の力はソサエティ攻略の大きな助けになる! 私は君に期待してるんですよ! 龍堂勇くん!」

 

「いや……つっても話が急すぎんだろうよ…!」

 

 多少は事情を理解した勇だが話があまりにも性急過ぎてついていけない。まさか今まで通っていた学校を勝手に退学されているなどとは思ってもいなかった。

 

「勿論私のスカウトなんですから入学金、授業料は0! その他諸々の費用も学校側が負担しますよ!」

 

「いや、だからそうじゃなくってな……」

 

「……悪い話じゃないでしょう? 虹彩学園は間違いなくこの国の教育機関としてはトップクラスだ、そんな場所でタダで授業が受けられて設備も利用したい放題だなんて夢の様でしょう?」

 

「……でも、俺は普通の高校生だ。いきなりそんなエリート様の通う学校になんて行けねぇよ」

 

「いや、違いますね。君は普通の高校生なんかじゃない」

 

「え……?」

 

 今までの雰囲気とは違った一面を見せた天空橋は勇の目を真っ直ぐに見ながら話し続ける。その声には一種の確信が籠っていた。

 

「……君は、ソサエティ攻略と言う点に関して非凡な才能を持っている。ただ、それを君が理解していないだけです。その才能を腐らせるのはあまりにも勿体ない。だから私は君をスカウトしたんですよ」

 

「や、そんな大したもんじゃ無いっすよ。俺なんて……」

 

「それは結果を見てみれば分かる事です。大丈夫、もし君が結果を残せなくってもそれは君を見込んだ私の責任……君に非はありませんよ。それに、君に才能が無いだなんて私は思ってませんからねぇ」

 

「……何でそこまで俺に期待するんだ? さっきも言った通り、俺は普通の高校生だぜ?」

 

「……誰だって、普通の人間だったんですよ。その才能を開花させるのも大人の役目だ」

 

 ゆっくりと応接室のソファに腰かけた天空橋は鞄から次々と虹彩学園に関する資料を取り出していく。

 

「ソサエティ攻略、人類の救済……それには君の力が必要になると私は考えてるんです。まだ自分でも気が付いていないその才能を開花させるのに虹彩学園は最適な場所だ、それに……君だって知りたいことがあるんじゃないですかね?」

 

「っっ!」

 

「あの機械は何なのか?どうして市販されているカードゲームに化け物と戦う力が秘められているのか? そもそもこの世界が直面している危機がどういったものなのか?……知りたいと思いませんか?」

 

「それは……」

 

 正直、知りたいと思った。例え危険な道であろうと自分が納得できたのなら進む事に後悔はしない。

 そして、その危険な道を進まなければ自分の知りたい事の答えは見つからないのであろう。少なくとも、このままでは停滞しているだけだ。

 

「……分かったよ。あんたの口車に乗ってやる。入学するよ、虹彩学園に」

 

「よっし! スカウト成功ですね! いや~良かった良かった!」

 

「そもそも通わねぇと最終学歴が中学校卒業になっちまうからな。いや、高校中退か…?」

 

「そんな事どうでも良いですよ。それじゃあ、来週の月曜日からよろしくお願いしますよ~! あ、制服とか必要なもんは明日届きますからね!」

 

 先ほどまでの張りつめた雰囲気は何処へやら、天空橋はからからと笑うと勇の肩をバンバンと叩く。

 そして、鞄を持って応接室を出ようとしていた。

 

「あ、最後に一つ……テーブルの上に入学祝いを置いておきますから、好きに使ってくださいね。それじゃ…!」

 

 そう言い残すとすたこらさっさと希望の里を出ていく天空橋。まさに嵐の様なその行動に若干疲れながらも、勇は天空橋の残した入学祝いを確認すべくテーブルの上を見る。

 

「これか…?」

 

 そこにあったのは銀色に輝くアタッシュケースだった。鋭く輝くそのケースの留め具に手をかけた勇はゆっくりとそれを外す。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んで、中に入ってたのがこれって訳だ」

 

 そう言って勇は光牙たちにゲームギアとギアドライバーを見せる。光牙と櫂が持っているそれと全く同じの物を見た真美からは驚きの声が上がった。

 

「嘘でしょう!? 私たちというエリートを差し置いてあんたみたいなぼんくらがギアドライバーを持ってるなんて……!」

 

「ひでぇ言われようだな。おい」

 

「真美の言う通りだ、それは国が開発した最新兵器なんだぞ? 一年間厳しい訓練を続けて来た俺達でも手に入れられたのが奇跡的な代物だ。それをぽっと出のお前なんかが……!」

 

 櫂の言葉に反応するかのようにクラス中の勇を見る視線が厳しくなる。それは嫉妬と憎しみが混じり合った嫌な物であった。

 

「構いやしねぇ、こいつからドライバーを奪っちまおうぜ! こんな奴に使われるより俺たちが使った方が有意義なはずだ!」

 

「……そうだな。櫂の言う通りだよ」

 

「こんな素性も分からない奴に今まで訓練を重ねて来た私たちが負けてる訳無いじゃない!」

 

 徐々に勇を見るクラスメイト達の視線は厳しいものになり、勇を取り囲んでいく。

 エリート故のプライドがある彼らは、何の努力もしていないのに自分たちと同じかそれ以上に上の地位まで上り詰めた勇に対して憎しみを抱いていた。

 

「渡せ! そのギアドライバーを! 今すぐにだ!」

 

 声を荒げて厳つい顔で勇に迫る櫂、普通の人間なら恐怖に竦んで震えているだろう。しかし、勇は小さく鼻で笑うと櫂に対して冷ややかに吐き捨てた。

 

「そんなに欲しいのか? これ」

 

「当然だ! てめぇみたいな奴が持ってていい代物じゃ…!」

 

「じゃあやるよ。ほら」

 

 そう言った勇は櫂に対してドライバーを差し出す。事も無げに言い切った勇をクラスの誰もが意外そうな目で見ている。

 

「確かにお前たちの言う通りだ。誰が使うのかは分からねぇが、なんも知らねぇ俺よりもお前らが使った方が良いと思うぜ」

 

「……意外と素直じゃねぇか」

 

「止せよ。こんなもん、周りを敵だらけにしてまで執着するようなもんじゃないってだけさ」

 

「……へっ、まぁいい。じゃあ、ありがたく頂戴するぜ」

 

 そう言って勇の手からギアドライバーを取ろうと手を伸ばす櫂、しかし、その大きな手を小さく白い手が抑える。

 

「駄目ですよ櫂さん、それはやってはいけない事です」

 

「ま、マリア……?」

 

 櫂を止めたのは金髪蒼目の美少女、マリアであった。静かに、だがはっきりとした口調で彼女はクラスメイトに語り掛ける。

 

「確かに彼は私たちと違い厳しい訓練もしていません。学力も劣るでしょう。しかし、彼は認められてここに居るのです。認められてドライバーを手にしたのですよ」

 

 凛とした鈴のような彼女の声は教室に良く響く、まっすぐに背を伸ばして力強く主張する彼女の姿を誰もが黙ってみていた。

 

「それを数の暴力で奪おうとするなど、人としてやってはいけない事です。それをすると言うのは、我々が実力で彼に負けていると認めている様なものです。ドライバーが欲しければ彼以上の活躍をすればいい。それだけの事をせずにここで彼の手から奪い取ろうとするのなら、私はその方を心底軽蔑します」

 

「……マリアの言う通りだ。ここで彼からドライバーを奪うなど、決してやってはならない行為だよ」

 

 マリアの言葉を受けた光牙がその意見に賛成する。クラスの代表格と言っても良い二人にこう言われてしまっては、誰も言い返す事は出来なかった。

 

「……んじゃ、これは俺のもので良いって事か?」

 

「はい。是非ともそうして下さい」

 

「OK、あんたの言う事に従うよ。えーっと……」

 

「マリア、マリア・ルーデンスです。これからよろしくお願いしますね。龍堂さん」

 

「おう、よろしくな」

 

 ニコリと笑って勇に挨拶をするマリア、この学校に来てから初めて好意的な反応をされたことに感動しつつ、勇は笑顔を返した。

 

「龍堂くん、気を悪くしただろう。すまなかったね」

 

「気にすんなよ。予想してた事だ」

 

 クラスを代表して頭を下げる光牙に手を振りながら答えると、顔を上げた光牙は勇の手を取って真摯な表情で語り掛けて来た。

 

「ありがとう! 色々あったが、今日から俺たちは共に切磋琢磨する仲間だ。よろしく頼むよ!一緒に世界を救おう!」

 

「お、おう……」

 

 その勢いに軽く押されながらも返事をする勇、そんな彼の様子をマリア以外のクラスメイトは憎々し気な目で見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~……マジでしんどい」

 

 午前中の授業を終えた勇は食堂で一人大きく溜め息をつきながら愚痴をこぼす。和気あいあいとした雰囲気の食堂の中で本当に心底疲れ果てているのは勇くらいの様だ。

 

 朝から続くハイレベルな授業は勇が初めて受けるものであり、当然の如く内容はちんぷんかんぷんだ。

 必死になって理解しようとしたがあまりにも次元が違うその授業内容に白旗を上げた勇は、とりあえず目標として授業内容を理解すると言う事から始める事にした。

 

(てか、クラスの奴ら性格が悪すぎるんだよ!)

 

 授業に着いて行けず困惑する勇を嘲笑うクラスメイト達、光牙やマリアの様な例外もいるがどうやら自分は大分嫌われてしまった様だ。

 特に何もしていないと言うのにここまで嫌われるというのは流石に予想外だったなと思いながら、勇は頼んだ食事を口に運ぶ。

 

「……美味っ!」

 

 さすが超一流高校、学食の料理の味も超一流だ

 とりあえずこれだけでもこの学校に来た意味があると思った勇は、がつがつと料理を食べていく。

 

「ふふふ……お気に召したようで何よりですね!」

 

「もが?」

 

 そんな勇に笑いながら声をかけて来たのは、数少ない好意的なクラスメイトのマリアであった。

 口に昼ご飯を含んだまま自分に向かって手を振る勇を見たマリアは愉快そうに笑ってその隣に座り、勇と会話を始めた。

 

「ここの授業はハイレベルでしょう? 私も留学して来た時はついて行けなくて苦労しました」

 

「マリアも途中参加なのか?」

 

「はい! 私は、イギリスの学校から留学と言う形でこの虹彩学園にやって来たんです」

 

「……すげぇな、日本語の勉強もあっただろうに」

 

「いえ、大したことないですよ。きっと勇さんもそのうち慣れますよ」

 

「だといいけどなぁ……」

 

 自分はマリアの様に優秀な頭脳を持っている訳ではないからと自嘲気味に笑った勇に対して、変わらぬ笑顔を浮かべるマリアは勇を励ます様に話を続ける。

 

「でも、午後からは勇さんの得意分野に入ると思いますよ」

 

「得意分野?」

 

「はい! 実戦、ソサエティの攻略です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか学校の敷地内にこんなもんがあるなんてな」

 

「ふっふっふ……驚いたでしょう!?」

 

 何故か得意げなマリアの顔を見て噴き出した後、勇はもう一度前を見る。『虹彩学園ソサエティゲート』と書かれた看板の後ろに、巨大な建物がそびえ立っていた。

 

「中に入りましょう。もっと驚くと思いますから」

 

 マリアに促され中に入った勇は、その後ろをついて行きながら建物の内部を観察する。

 虹彩学園では2年に進級してから週に数回、午後の授業の代わりにこの世を騒がせる「リアリティ」が巣食うゲーム「ソサエティ」を攻略するために実際にソサエティ内に侵入すると言う実戦作戦が行われている。

 そうマリアから聞いたときには驚き、同時に興味も持った。ゲームの中に入るっていうのはどうやって行うものなのか? そもそも攻略ってどう行うのか? などの疑問を解消すべくマリアに質問すると、百聞は一見にしかず、と言われてここに連れてこられた訳である。

 

「この後はここで活動しますし、丁度良い機会ですしね」

 

「サンキュな」

 

「いえ、先生からも昼休みの間に勇さんを見つけて午後にはここに連れて来るように言われてましたので」

 

 そう言いながらドアの横にある機械に自分の持つカードキーを通すマリア、プシュウ、と言う音と共にドアが開き、その先の景色が露わになる。

 

「え…!? あれはっ!?」

 

 ドアの先にあったとある物を見た勇はつい叫んでしまった。そこにあったのは土曜日に見たあの赤いリングに酷似した青いリングだったのだ。

 色こそ違えど形は前に見たものそっくりだ、反射的に懐にしまってあるドライバーに手を伸ばした勇だったが、マリアが慌てて勇を止める。

 

「い、勇さん! 落ち着いてください! あれは安全な物ですから!」

 

「え……?」

 

 マリアのその一言に勇は動きを止める。考えてみれば学園の施設内にあんな危険な物を置いておくとは考えられない。

 と言う事は、あれは自分の知っている物とは別物だと考える方が妥当だ、そこまで考えた勇は軽く咳払いをするとマリアに向き直った。

 

「悪い、あれを見るとつい嫌な思い出がだな……」

 

「いえ、大丈夫ですよ。むしろその反応を見るにあれがどう言ったものかは分かっているようで、説明の手間が省けました」

 

 そう言ったマリアは勇を伴ってその青いリングに近づいていく。触れられるまでの距離にたどり着いた二人はそれを見ながら話を始めた。

 

「これの名前は『ゲート』……ソサエティと現実世界を繋げる門です」

 

「ゲート……」

 

「これを潜り抜ける事によって我々、もしくはソサエティの敵『エネミー』は互いの世界を通り抜けて他の世界へと行くことが出来るのです」

 

「エネミー……世界……」

 

 初耳の単語が多いが、勇は大体の話の内容を理解していた。

 要は、このゲートは文字通り現実世界からソサエティへと行くための門であり、通り道なのだ。これを使ってソサエティに行くことが攻略作戦の第一歩となる。

 そして、自分が前に遭遇したあのバッタ怪人たちを総称してエネミーと呼ぶらしい。敵、と言う意味があるその言葉は実際ゲームの敵キャラとして設定されている奴らにはぴったりの呼び名だろう。

 

「でも何でこのゲートは青色なんだ? 前に見たのは赤色だったんだけどな…」

 

「それは、このゲートの先が安全地帯へとつながっているからです。赤は危険、青は安全……信号機もそうでしょう?」

 

「安全地帯……?」

 

「それは向こうに行ってみてのお楽しみです。そろそろ授業も始まりますし、自分の目で確かめて下さいね!」

 

 良い所で答えを隠すマリアは悪戯っぽく笑って勇をからかう。可愛らしいその笑顔を見て少しドキッとしながら、勇はその答えを確かめられる時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員揃ったな? では、2-Aから順にソサエティに突入だ」

 

 教師の一人がゲートの前に集まった2年生たちに告げる。合計5クラス分の生徒たちが揃う建物の中で、皆一堂に指示に従って動いていく。

 

「勇さん、私たちからですよ」

 

 マリアの言葉にはっとした勇は前を進むクラスメイト達の後に続いてゲートの前に向かう。青く発行するゲートの中に次々と身を投じていくクラスメイト達の姿が自分の視界から消えていくのを見て、勇は多少の恐怖感を覚えた。

 

「では、また向こうでお会いしましょう」

 

 マリアもまた慣れた様子でゲートの中に入ると、その姿が見えなくなった。気がつけば残っているのは自分一人だけと言う状況になった勇は深呼吸してゲートの前に立つ。

 

「……何をしている? 早く行け!」

 

(教師まで性格悪いのかよ……)

 

 イライラした様子の教師を横目で見た後、勇は意を決してゲートの中に身を投じる。一歩、踏み入れた足が見えなくなったことを驚きながらもそのままゲートの中に体を通した。

 

「………お?」

 

 特に感じた感覚は無かった。てっきり、某国民的猫型ロボットが出てくるアニメのタイムマシンの通り道の様なところを通ると思ったのだが、足を踏み入れた先には見た事も無い景色が広がっていた。

 暖簾をくぐって店の中に入る様な感覚で別世界に入っていいものかと勇は多少疑問を感じたが、目の前に広がる光景にその思いは一瞬で吹き飛んだ。

 

 まず目に映ったのは巨大な城だった。石造りのその城の前には大きな門とそれを守る番兵が居る。さながらRPGゲームのお城そのものだと思いながら、その城を中心に栄える町の方へと勇は視線を移した。

 

 城下町にはたくさんの人間がいる。中世ヨーロッパの様な服を着た人々が煉瓦で出来た店を巡って買い物をしているのが分かる。

 手を叩き客寄せをする店員、店の中を覗く女性、走り回る子供……その全てが、まるで本物の人間の様にしか見えない。

 

 ここがゲームの中の世界だと知らなければ、自分はタイムスリップでもしてしまったのではないかと思えるほどの光景だ。

 予想以上のその景色に勇が度肝を抜かれているとマリアが近づいてきて感想を求めてきた。

 

「どうですか? 驚いたでしょう?」

 

「……あぁ、ゲームの世界だって言ってたからドット絵みたいなのを想像してたけど、これはまるで現実そのものだ」

 

「ソサエティは現実世界から情報を得て日々進化しています。このように、現実世界と見分けがつかないほどの空間を作る程に……」

 

「考えてみりゃあ恐ろしい事だな。ほんの数年で人間が築いてきた文明をコピーしちまうなんて……」

 

 時代風景こそ多少古いもののそこに住む人間たちの様子は正に本物の人間そのものだ。これを作り出したのがコンピュータウイルスだとは到底信じられない。

 人間の手で作り出されたゲーム空間に閉じ込められたウイルスが、自分たち独自の文明を築いて侵略戦争を開始する……その恐ろしさを改めて感じた勇はぶるっと身震いをした。

 

「……考えてても仕方がねぇ。とにかくやれることをしなくちゃな!……んで、俺たちは何をすればいいんだ?ゲームクリアってどうやるんだよ?」

 

「えーっと……それが、私たちもいまいち分かっていないんですよ」

 

「はぁっ!?」

 

 困り顔のマリアの言葉を聞いた勇はつい叫んでしまう。自分に集まった視線に軽く赤面しながら、勇はマリアに事の説明を頼んだ。

 

「ま、待て! 分からないってどういう事だよ?」

 

「それが……これまでの2週間ほどの間に、私たちはこのソサエティの世界を色々と探索したんですけど……その、一定の場所から先に進めないと言うか……」

 

「はぁ?」

 

 歯切れが悪いマリアの説明を聞いた勇はさらに状況が分からなくなる。マリアもどう説明したら良いのか分からない様子だ。

 情報が無いと動きようが無い。この事に困ってしまった勇の前に、光牙たちが姿を現した。

 

「マリア、こんな奴に構ってないでさっさと行くぞ!今日こそはあの関所を破ってやるんだ!」

 

「あっ、櫂さん!」

 

「マリア、あんたの人が良いのは知ってるけどこんなぼんくらに構う事は無いでしょうに……」

 

「止せよ二人とも、龍堂くんも一緒に戦う仲間だ、それにドライバー所持者でもある。攻略の大きな手助けとなってくれる人にそんな言い方は駄目だろ」

 

「はっ! どうだか?こんな奴が役に立つとは思えないけどなぁ!」

 

「……あっさりエネミーにやられて気絶した奴よりかは役に立つんじゃねぇの?」

 

「んだと、てめぇ!」

 

「わーわー! 落ち着いてください櫂さん!」

 

 今にも勇に殴りかかりそうな櫂を抑えたマリアが光牙を見る。彼もまた少し困った様に笑うと、勇を見て話を切り出した。

 

「龍堂くん、君に頼みがあるんだ。俺たちは今、とある場所で足止めを喰らっていてその先に進めないという状況に陥っている。今日、俺たちはその場所に攻撃を仕掛けて突破するつもりだ、その攻撃作戦にドライバーを持つ君の力を借りたい」

 

「……質問なんだけどよ、その足止めを喰らってる場所って何処なんだよ?」

 

「ここから北に行った所にある関所だ、警備兵たちが守っていて扉を開けてくれないんだよ」

 

「その警備兵ってよ、ああいう感じの普通の人間か?」

 

「……? あ、ああ、その通りだが」

 

「ふ~ん……あ、なるほどなぁ、そう言う事かぁ……」

 

「りゅ、龍堂くん?」

 

 何やら一人で納得して頷き始めた勇を怪訝そうに見ながら光牙は声をかける。くるりと振り向いた勇は非常に残念そうな顔をしながら4人に質問した。

 

「……お前たち、ゲームやったことあるか?RPGの冒険系のゲーム」

 

「え……? い、いや、俺はやったことないな」

 

「私も、娯楽とはかけ離れた生活を送っていたもので……」

 

「私もパズルゲームとかなら頭の体操がてらやるけど……」

 

 勇の質問に光牙、マリア、真美は素直に答える。それを予想通りと言う様に頷いて聞いていた勇は、最後の一人である櫂に視線を向けた。

 

「んで、お前もやった事無いのか?」

 

「ああ、ねぇよ! ……おい、この質問に何の意味があるって言うんだ?俺たちはさっさとこのソサエティを攻略するためにだな……!」

 

「落ち着け、んで、俺の話を聞けよ筋肉ダルマ」

 

「んなっ……!?」

 

 ポンポンと肩を叩きながらさらっと櫂を馬鹿にする勇、櫂がその厳つい顔を真っ赤にして勇に飛び掛かろうとしたその時、勇は得意げに笑って一行にこう言った。

 

「別にお前たちが俺の話を聞くか聞かないかは自由だが、聞かなかったら後で絶対後悔するぞ」

 

「な、なんだよその自信は? 一体何の根拠があって……」

 

「そりゃお前、ゲームのお約束だよ」

 

 そう言って再び笑った勇を、4人はポカンと見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲームのお約束…?」

 

「そう、分かりやすく言うとゲームシナリオって奴だな」

 

 数分後、一行はこの城下町にある広場で適当な椅子を見つけ出すとそこに座って話し始めた。

 勇を囲む様にして彼の話を聞く4人、そんな彼らの顔を見ながら勇は説明を続ける。

 

「良いか? こう言ったRPG風味のゲームってのには絶対にシナリオがあるんだよ。それにそって行かないとゲームはクリアできないの!」

 

「ま、待ってください勇さん。そのげーむしなりお?と言うのは何なんですか?なんとなくは意味は分かりますけど……」

 

 困惑したようなマリアに対して分かりやすく説明をするために勇はとある例を出す事にした。

 

「マリア、お前昔話の桃太郎は知ってるか?」

 

「ええ、あの犬、猿、キジをお供に鬼が島に乗り込んだ方のお話でしょう?」

 

「そうそう。桃太郎で例えるとお前たちがやろうとしてるのは、お伴一匹も引き連れずに鬼ヶ島に乗り込もうとしてるって感じだな」

 

「え、ええっ!? それは絶望的じゃないですか! 桃太郎さん、負けちゃいますよ!」

 

 オーバーに驚くマリアを見た勇は苦笑するも、彼女に対して詳しい説明をしようとする。しかし、そんな空気をぶち破って櫂が机を叩いて立ち上がった。

 

「何わけの分からない事言ってんだ! 桃太郎? ゲームシナリオ? やめだやめ! こんな奴の話を聞く価値は無いぜ!」

 

「か、櫂!」

 

「俺は行くぜ光牙! ドライバーは持ってなくてもゲームギア使って援護してくれる奴らの頭数は十分だ。そいつらと俺だけで関所をぶっ壊してやるよ!」

 

 そう言うと櫂は他のメンバーを置いてその場を去ってしまった。櫂の後姿を見ながら、勇は呆れた様に呟く。

 

「あいつ、本当に頭悪いな。なんでこの学校に入れたんだ?」

 

「……それをあんたに言われるのはどうかと思うけど、確かにその通りね。さぁ、さっさと続きを話して頂戴」

 

 真美の上から目線の一言に若干カチンときた勇だったが、その事は口に出さず説明を再開する。

 

「いいか? 俺が言いたいのは物事には順序があるって事だ。特にRPGのゲームなんてその傾向が強いんだよ」

 

「……ごめんなさい。もっと詳しくお話ししてください」

 

「ああ、さっき言った桃太郎を例に挙げるとだな。鬼を倒すために旅に出た桃太郎がするべき事は、3匹のお供を見つける事だろ? それをしないと鬼は倒せない」

 

「……ちょっと分かって来たかも。つまりあんたは、あの関所を開く為には然るべき手順を踏まないといけないって言いたいのね?」

 

「正解だ。流石エリート様、理解が早くて助かるよ」

 

「ちょ、ちょっとごめん。俺はまだ良く分からないよ。もっと詳しく説明を頼む」

 

「恥ずかしながら私もわかりません……」

 

「あ~……本当に簡潔に言っちゃうとね。あの関所はちゃんとした手順を踏めば開いて先に進める様になっているって事。逆に言えば、手順を踏まないと絶対に開かないって事ね」

 

「???」

 

 まだ理解できていない光牙とマリアの二人に向かって勇と真美はさらに詳しい説明を始めた。

 

「良いか? RPGのゲームってのは、ストーリー性を重視するんだ。だから、物語に沿ってゲームを進めて行かなきゃならない。例を挙げるなら、勇者として魔王を倒しに行く前に、魔王の手下を倒す……とかだな」

 

「つまり、あの関所を通るためには条件があって、その条件を満たせば力づくで通る必要も無く先に進める様になるってこいつは言いたいらしいわよ」

 

「な、なるほど…! ゲームとはそういうものなのか…!?」

 

「私たち全く知りませんでした……」

 

 やっとこさ勇の言いたいことを理解した二人は感心したように勇を見る。しかしながら、真っ先に話を理解した真美は疑惑の視線を勇に向けていた。

 

「でも、こいつの言っている事が正しいなんて保証は何処にも無いわ。それどころか全くの見当違いだって可能性もあるわね」

 

「おいおい……話は理解できても自分の意見以外は無価値だって考えの持ち主かよ? そんなんじゃおつむが進歩しねぇぞ」

 

「結構よ、今でも十分私は天才的だから」

 

「……可愛くねぇ女だこと」

 

 正直な意見を誰にも聞こえない様に小さな声で呟く勇。だがしかし、真美の言っている事も確かだ。

 

 今の自分の考えに確かな証拠など一切ない。思い付きと言われてしまえばそれまでの話だ。

 もしも櫂が関所を突破してしまえば自分は赤っ恥だろう。あの脳筋ゴリラがどうか作戦に失敗してますようにと勇が心の中で祈った時であった。

 

「た、大変だーーっ!」

 

 広場に息を切らした男が走ってくる。恰好から見てソサエティの人物だと思われるその男は、恐怖に引きつった顔で周りの人々に叫び始めた。

 

「北門から魔物の大群が襲って来たぞ! 今すぐ避難するんだ!」

 

「え、ええっ!? そんな!?」

 

「警備兵は何をしてるんだ!?」

 

「それが、北の関所が襲われているって報告が来たからそっちの援護に行っちまったんだ! おかげで今は完全に魔物が好き勝手してやがるんだ!」

 

 その話を聞いた光牙と真美は顔を見合わせて櫂の事を思い浮かべる。先ほどの関所襲撃は彼が行ったものに違いない。だとすればこれはその結果として起きた事件と言う事だ。

 ゲーム空間であるソサエティでこんな回りくどい事が起きたのは何故なのか?その理由に心当たりがある勇は3人を集めると自分の意見を話し始めた。

 

「……こりゃ多分ペナルティだな」

 

「ペナルティ? どういう事?」

 

「ゲームを進めずに関所を通ろうとしたからゲーム側から警告が来たって事だ。そんな事をすると俺たちの拠点をぶっ壊すぞって言ってんだよ」

 

「……確かにここには私たちのゲートがあります。ここが崩壊したら大きな痛手になりますね」

 

「でも、まさかそんな事が……?」

 

「それじゃあ、他になんて説明する気だ? わざわざ北の関所が襲撃されたせいだって話まで出てるんだぞ?」

 

「………今はその話はよそう。まずはゲートを守るためにもやって来たエネミーを倒さないと!」

 

 光牙のその一言にマリアと真美は頷くとエネミーが来ていると言う北門へと駆けて行く。勇もまた、その後を追って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァァァァッ!」

 

「くっ! こいつら意外と強いぞ!」

 

 4人が辿り着いた北門では、すでに他の生徒たちが城下町を襲撃して来たエネミーと戦闘を開始していた。

 前に見たのとは違う小鬼の様な敵の姿を見た勇はその数は数え始める。総勢6体と数はそう多くない。しかし、前回戦った雑魚怪人よりかは強そうだ。

 

「まずは敵の情報を調べます!」

 

<スキャン!>

 

 マリアが腕に装着されたゲームギアにカードを通すと、暴れているエネミーに関しての情報が彼女の前に浮かび上がる。

 ゲーム画面そのものであるその光景に暫し勇が目を奪われていると、マリアが小鬼の情報を伝えてくれた。

 

「分かりました! 敵の名は『山賊ゴブリン』、種別は鬼系のエネミーです! 狡猾な知能と武器を使える器用さを兼ね備えた強敵ですよ!」

 

「いわゆる序盤の強敵モンスターってやつか!」

 

 勇が小さいころに多少やった事のあるゲームの中でも、ゴブリンと言うのは雑魚ながらも色々な役割を持って何度も主人公たちの前に立ちはだかる敵キャラとして描かれていた。徒党を組み、武器を持って主人公たちに襲い掛かるその姿はモンスターとしてはぴったりだ。

 今目の前にいる山賊ゴブリンもナイフの様な短刀を手に生徒たちに襲い掛かっている。見事なチームワークを見せるゴブリンたちに生徒たちは苦戦を強いられていた。

 

「どうやら、俺の出番らしいな!」

 

 そう言いながら前に出た勇はギアドライバーを構えながら駆け出す。ホルスターから『運命の戦士 ディス』のカードを取り出すとそれをドライバーに読み取らせながら叫んだ

 

「変身っ!」

 

<ディスティニー! チェンジ ザ ディスティニー!>

 

 瞬間、勇の体を黒い鎧が包む。数歩走る間に仮面の騎士へと変身した勇は、今まさに生徒に剣を振り遅そうと言うゴブリンに向かって飛び蹴りを放った。

 

「おっらっ!」

 

「グエッ!?」

 

 その一撃を受けて吹き飛ぶゴブリン、倒れていた生徒を助け起こした勇は自分にターゲットを絞った山賊ゴブリンたちに向き直る。

 

「へっ! ゲームスタートだ、かかって来いよ雑魚ども!」

 

 威勢よく啖呵を切った勇はディスティニーソードを呼び出すとそれを手にゴブリンたちの中へと切り込んでいく。

 6対1と数の上では不利なはずの勇、しかし、そんな事も意に介さない見事な戦いでゴブリンたちに一撃、また一撃と斬撃を浴びせていく。

 

「っしゃぁぁぁっ!」

 

 正面に剣を構えたまま走り出した勇は、ゴブリンの一体を突き刺すとそのまま真っ直ぐ集団を抜けけながら走り続ける。

 バチバチと剣に貫かれているゴブリンの体から火花が跳ね、光の粒が零れ落ちていく。

 

「ゴガァァァァァァッ!!!」

 

「よっし! 残りは5体!」

 

 断末魔の悲鳴を上げたゴブリンは大きな爆発を起こして光の粒へと変わって行く。まずは一体のエネミーを片付けた勇は、残る敵を見据えて叫んだ。

 

 戦ってみた感想としては、こいつらは前に戦ったバッタ怪人と比べてはるかに弱い。あの色違いの虫怪人よりも弱く、雑魚怪人よりかは少し強いと言った程度の実力だ。

 数こそいるが決して苦戦する様な相手ではない。その事を確信しながら、勇はちらりと光牙たちの様子を伺う。

 

「………」

 

 こちらをしっかりと見つめている真美はドライバーを手にする光牙を抑えながらも勇から目を離す事は無い。どうやら、勇の実力を計るためにあえて光牙を戦いに介入させないつもりのようだ。

 

(……お手並み拝見ってか)

 

 その思惑を理解した勇はゆっくりとベルトの横に付いているカードホルスターに手を伸ばす。それを開くと、中にあるカードを掴んで取り出した。

 

「良いぜ、見せてやるよ。俺の実力って奴をな!」

 

 勇はそう叫ぶと取り出したカードを見る。彼もなんの準備も無く虹彩学園にやってきたわけでは無い。一応、「予習」はしていたのだ。

 その成果を見せる時と意気込んた勇は、まず小さな戦士の体からオーラが発せられている様な絵柄が描かれたカードを選ぶとドライバーに読み取らせた。

 

<パワフル!>

 

 そのカードを使用した勇の体をカードの絵柄に描かれている様なオーラが包み込む。徐々に収束していったそれは勇の体を薄皮一枚包むくらいの大きさになった。

 

「へっへっへ……! こいつは痛いぞ!」

 

 そう言い放った勇は手近な所に居たゴブリン目がけてディスティニーソードを振りかざす。

 ガンッ、と言う音と共にヒットしたその一撃を受けた怪人は今までとは比にならないほどの勢いで吹き飛んでいった。

 

「ウガガガガガッ!?」

 

「お次はこいつだ!」

 

 混乱している残りのゴブリンたちを尻目に勇は2枚目のカードを使用する。電子音声が鳴った後、もくもくと周囲に黒い煙が湧き出してきた。

 

「ガッ!? ガガッ!?」

 

 自分たちを包む黒煙に困惑するゴブリンたち、ほんの少し先に居る仲間の姿さえも見えなくなるほどの煙の凄さに戸惑っていた彼らに対して、勇は不意を打つ様に攻撃を仕掛ける。

 

「はっ! おりゃぁっ!」

 

 ゴブリンたちの四方八方から攻撃を仕掛ける勇、視界の効かない煙の中でゴブリンたちは成すが儘に攻撃を受け続ける。

 暫し後、煙の晴れた戦いの場では数体のゴブリンが地に倒れ伏していた。

 

「……んで最後、実はこっちにも使えるんだよなぁ!」

 

斬撃(スラッシュ)!>

 

 右手に剣のマークが描かれたカードを左手にディスティニーソードを掴んだ勇はそのカードをひっくり返したディスティニーソードの柄へと運ぶ。

 そこにあるスリットにカードを通すと、いつもと変わらぬ電子音声が流れた後で剣に鋭い光が灯った。

 

「フィニッシュホールド、行くぜっ!」

 

 叫びながら目の前に居るゴブリンに一撃。そのまま返す刃で別の一体に一撃。さらに振り向き様にもう一撃……たった一人で5体のゴブリンを次々に切り裂いて行く勇は瞬く間にその場から斬り抜けると地面にディスティニーソードを突き刺す。

 それを待っていたかの様にゴブリンたちは次々に地面に倒れ、そして光の粒へと還っていった。

 

<ゲームクリア! ゴー、リザルト!>

 

「お、ボスはいなかったみたいだな。楽勝、楽勝!」

 

 前回同様に浮かび上がった長方形の画面に目を向けながら笑う勇、そんな彼を光牙たちは驚きの表情で見ていた。

 

「嘘でしょ……? たった一人で6体のエネミーを殲滅するなんて…!」

 

「しかも圧勝……! 並大抵じゃない戦いのセンスです……!」

 

「……前よりも強くなっている。しかも、カードを完全に使いこなしていた…!彼は一体どうやってあの戦闘技術を身に着けたんだ?」

 

 変身を解除した勇は余裕の笑みを浮かべながら3人の元へと近づいていく。そして、得意げに質問をしてきた。

 

「んで、どうだった?俺の腕前は?」

 

「……正直、予想外だったことは認めるわ」

 

「すごい! すごいですよ勇さん! 私、びっくりしました!」

 

「……龍堂くん、君は独学であれだけの戦闘技術を身に着けたのか?」

 

「あ? ちげぇよ。施設のガキどもにちょっとな」

 

「が、ガキ……?」

 

「そうだよ。ちょっくらこのディスティニーカードゲームについて聞いてみたんだよ。ルールとか、各カードの効果とかな。んで、色々試してみたんだ」

 

「そ、そんな事であそこまで強く……!?」

 

「そんな事ってなんだよ。大事なんだぞこういうのは」

 

 まさかの返答に頭を抱えながらも確かに今見た勇の実力は本物である。若干の疑問は残るもののそこは納得しなければならないだろうと光牙は考えを改めた。

 

「俺の事よりもあの脳筋馬鹿だろ。多分あの筋肉ダルマ、今頃関所の攻略が出来なくて地団駄踏んでる頃だぞ」

 

「ありうる。櫂の奴、頭に血が上って引き際を見失ってるわね」

 

「私たち、迎えに行ってきます!」

 

 勇の言葉を受けた真美とマリアは北の関所に向かって歩き出して行った。残された勇と光牙は多少被害を受けた城門を見ながら話し続ける。

 

「それで、先ほどの話の続きだが……もし、この世界が龍堂くんが言った通りのものだとしたら、俺たちはどう行動すればいいんだい? 何か当てがあるのかな?」

 

「ああ、それなら見当はついてる」

 

 そう言いながら勇はある物を指さす、つられてその先を見た光牙はそこにあったものを見て目を丸くした。

 

「どんなゲームだって、最初に行くのは王様のいるお城だって相場が決まってんだよ」

 

 そう言うと、勇は再び不敵に笑ったのであった。

 

 

 


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