資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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超展開です。お気を付けて。


目立つ罠

 

 

 

 

 春から夏に移り変わる季節と言う事もあり、時間帯の割には明るい、某日の午後七時頃の海上。予定よりも早い時間のその場所に、ツユクサは天龍と木曾、磯風に嵐という、なんとも変わった艦娘たちを引き連れて立っていた。

 何かがあったときのための重武装に、全員が戦闘経験豊富という、シエラ隊に変わるグッドスタッフと言うことで組まれたこの五人が相手の到着を待つこと数分。時間を指定してきた相手が姿を見せないことに、元から気性が激しい性分の嵐は苛立ちを募らせていた。

 

「チッ......ムカッ腹が立つぜ。上から目線で指図しておいて遅れるなんてな」

 

「まだ五分かそこらだろ。気長に待とうぜ」

 

「フン......本当にちゃんと一人で来んのか。罠だったらズタズタにしてやるってェ、言いたいとこだがな。姫級四人以上でも来られたらシャレになんねぇぞ。」

 

「その時はその時ッス。ケツまくって逃げるだけッスよ」

 

「......なったとき、簡単に逃げられりゃ苦労しねぇんだがな......」

 

 嵐が不安そうにそう溢したとき。ようやく五人の視線の先にひとつの人影が現れ、会話を切り上げた五人はツユクサを除き、改めて気を引き締めて、人影へ向けて各々の持ち込んだ武装の砲口を向ける。

 悠々と歩いて来た深海棲艦......五人が初めて見る容姿の、一瞬見ただけでは雷巡チ級に似たような、そうでもないような女へ。ツユクサは挨拶をした。

 

「こんばんは。ツユクサッス。人質さん......スか?」

 

「当たり。ごめん、待った?」

 

「.........まぁ、そこそこ......」

 

 なんだか妙に馴れ馴れしい奴だな。女の謝罪を聞いてそう思ったのはツユクサだけでは無かったらしく。相手の態度を見た磯風と嵐の二人がわざとらしく大きな舌打ちをするのを聞き流し、ツユクサは続ける。

 

「まぁ、あの......とりあえず基地戻るから着いてきて。変な事したら承知しないッスよ」

 

「しないしない。何のために丸腰で来たと思って......」

 

「非力アピールはいらねぇんだよ。名を名乗んな」

 

「っと。戦艦棲鬼の元護衛役、雷巡棲鬼。道案内をヨロシク」

 

「そんな名前の奴は聞いたことねぇな」

 

「この格好で人前に出るのは初めてだからな。ちょっと前まではお前たちで言う雷巡チ級って奴......であってたかナ? ......これでよろしい?」

 

 流石は単独かつ非武装で人質として来ただけあってか、武器を突きつけて凄む嵐に全く怯えずに飄々とした態度を崩さない女へ。嵐は相手の服を引っ掴んで、無理矢理女の体を引き寄せると、丸腰というのが嘘ではないかのボディチェックを始める。

 体中をくまなくまさぐって、本当に相手が何も持っていない事を確認した嵐は。何を思ったか、雷巡棲鬼と名乗ったこの女へ、自分の持っていたバタフライナイフを手渡し、こう言い聞かせる。

 

「.........チッ。いちいちイラつく奴だぜ......護衛はやってやるが最低限だ。自分の身は自分で守りな」

 

「いいのかい? 武器なんて持たせて」

 

「ドスなんざ持ってても海戦で何の役にもたたねぇ。気休めさ......あとはテメーがそれを俺たちに使えば、テメーをぶっ殺す口実が作れる」

 

「......なるほど、ね。じゃ、死にたくないから返しとく......」

 

 遠回しに、「罠にでも嵌めようものなら命は無いものと思え」と言ってくる嵐へ、雷巡棲鬼が渡された刃物を大人しく相手に返そうとしたその時。

 

 雷巡棲鬼の後方から一発の砲弾が飛んでくる。そしてそれは、完全に油断していた彼女の左腕をもぎ取った。

 

 !! 事情を知らない鎮守府所属の艦娘か?

 目の前で痛みに悶絶し、傷口を抑えてしゃがみこむ雷巡棲鬼を他所に、ツユクサは川内の艤装の砲を構えて臨戦態勢になる。六人の前に現れたのは.........

 

 

 

「ひゃはははは!! 力入れすぎちまったァハハハハ! 潰れたかなぁ!?」

 

 

 

 若葉の刀を受けて死亡した筈の、重巡棲姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「重巡......棲姫!? どうして生きて.........!?」

 

「生きてる? 生きてる、かぁ!? ハハハハ!! この体のどこからどこまでが生きてるんだかなぁ......!!」

 

 ......ウツギと若葉は殺したって、言ってた筈だけど。それにこいつのこの狼狽え様......まさかこいつごと罠に嵌められたということなのかな。

 目の前で気が狂ったような笑い声をあげ、上機嫌な、腹部の裂け目から機械の部品のようなものが覗いている重巡棲姫に、ツユクサがそんな事を考える。

 

「どうしてお前がここに......」

 

「はははは! もうじき死ぬお前らにまとめて教えてやる!! 捨てられたのさお前は!!」

 

「...............!?」

 

「なんでかってかぁ!? 簡単だよ......お前のような雑魚は戦艦棲鬼はいらないってぇ事だよォ......」

 

「嘘だ......そん...な.........」

 

 .........状況はよくわからないけど......この人を連れて早く逃げないと。

 先程の飄々とした態度はどこえやら、激しく狼狽する雷巡棲鬼の肩からの出血が止まる気配が無いのを見て。ツユクサはすぐに彼女を連れて全員で逃走する準備に入る。が

 待っていましたとばかりに、重巡棲姫が手を挙げて何かの合図を出すと、今までツユクサと天龍が幾度も見た、水中からの伏兵が現れる。数の暴力で押し潰してやる。そう言いたそうな顔で此方を見てくる重巡棲姫だったのだが......

 

 相手の仕草で逆にこの状況を予測できた五人は、海中から駆逐艦級の深海棲艦が出てきた瞬間に、相手の口に当たる部分に砲弾を撃ち込む。結果、数の有利はあっという間に崩れ去り、それどころか流れ弾が重巡棲姫に着弾。女は爆煙に包まれた。

 

 

「ウゥゥボォオォオアアァアァアアァァ!!??」

 

 

 先手必勝。同じ手が何度も効くかってんだ。変な悲鳴をあげて煙の中に消えた重巡棲姫にそんな事を考えながら。ツユクサは木曾、磯風、嵐に雷巡棲鬼を逃がすための指示を出す。

 

「さ、今のうちに。あいつはアタシと天ちゃんで釘付けッス」

 

「了解、ボス。ほら立てるか?」

 

「...っぐ......ごめん......」

 

「何謝ってんだよ。早く行くぞ。手当てしてもらえ」

 

「すまない......何から何まで......」

 

 火薬を増やしたタイプの弾がまともに相手に直撃したせいで、いまだに登り続ける煙と対峙する二人を後に、磯風は雷巡棲鬼の片手を自分の肩に掛けて、急いでその場から離脱する。

 

 

 四人が逃走すること数分。砲戦に参加できない磯風に代わり、護衛役をやっていた木曾と嵐は、女の傷から血が止まらず、ただでさえ悪い顔色が更に蒼くなっていくのを見かねて。応急処置として焼灼止血法で血を止めようとする。

 

「ぅぅ............ぐっ.........」

 

「......どうしよう」

 

「傷口焼くしかねぇな。磯風、燃料ちと寄越せ」

 

「はいよ」

 

 嵐は磯風から貰った予備の燃料タンクの中身を、持っていた砲の砲身にかけ始める。そしてそれにライターで火をつけると、数秒後に海水につけて火を消し、高熱をもった砲身を雷巡棲鬼の傷口に当てた。

 

「.........血、止めるぞ。かなりイテェが我慢しろ」

 

「うぐっ......ぁぁぁぁぁ.........」

 

「おーしいい子だ。我慢できたじゃねーか」

 

 血は止まったが、衰弱してやがる。時間がねーな。急がねぇと。

 そう思った三人は、艤装の出力を上げ、帰路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ......どいつもこいつも重巡棲姫様の顔に傷をつけやがってぇぇぇ!!」

 

「お似合いだぜ? バケモンみたいな面のほうがよ」

 

「くそがぁぁあああああああ!!!!」

 

「来るぜ」

 

「うっス!」

 

 三人が雷巡棲姫を連れて逃げている頃。二人は、晴れた煙の中から出てきた、鬼のような形相で頭に血を昇らせた重巡棲姫との戦闘に入っていた。

 ツユクサと天龍が砲撃を行い、相手がそれを避けながら負けじと同じく砲撃でもって返事を返す。そんなやりとりが数分続く。形勢は二人のほうが有利だった。

 どういうわけか、ツユクサが聞いていたウツギや若葉の話とはうってかわって、動きに精細さを欠く重巡棲姫の攻撃はどれも当てずっぽうで、全く二人に当たらなかったのだ。

 明らかなこちらの油断誘いだな。二人がそう考えたとき。

 

「逃げてんじゃねぇよぉぉぉ!! クソ共がぁぁあああ!!」

 

「.........変ッスね」

 

「あぁ......俺もそう思ったとこ......!?」

 

 重巡棲姫はツユクサを放って、いきなり加速して天龍の元へと飛び込むと、腹部から延びている艤装を引きちぎり、中から何かを取り出す。

 

 

「こいつでズタズタにしてやらぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「!!」

 

 取り出したもの......装備の中に隠していた、異常な速度で駆動するチェーンソーで切りかかってくる相手に、天龍は冷や汗を流しながら、持っていた刀で応戦する。

 弾き返せばどうにかなるだろう。そんな天龍の甘い考えは、相手の武器であっという間に砕け散った刀を見て、すぐに雲散した。

 

「なっ............」

 

「ひひっ、ヒヒハナナハハハハ!!」

 

「雷巡棲鬼の後を追わせてやろうか? えぇ!? たまらないな人殺しというのは!!」

 

「............!!」

 

 チェーンソーとドリルという、身震いするような武器二つの二刀流で襲い掛かってくる相手に、天龍は持っていた武器を盾にして逃げの体勢に入ったとき。重巡棲姫は、背後に居た、すっかり忘れていたツユクサの砲撃をまた直撃で受け、体勢を崩す。

 

「アタシを忘れてんぞォ!!」

 

「サンキュー、ツユクサ!」

 

「ガアッ、く、いつもいつもいつもいつも邪魔なんだぁぁぁぁ!!」

 

「邪魔しに来たッスからね」

 

「クソォォオオオオオ!!!!」

 

 逆上した重巡棲姫は、今度はその場から跳躍したかと思うと、器用にツユクサの肩に飛び乗ると、持っていたチェーンソーを放り投げ、ツユクサの脳天目掛けてドリルを駆動させて降り下ろす。

 

「艤装もろとも、ぶっ殺してやる!!」

 

「うわっ!?」

 

「てめっ............」

 

「おおっと近付くんじゃねぇ!! こいつが死ぬぜぇぇ!?」

 

「卑怯者が......!!」

 

「殺し合いに卑怯もクソもねえぜ!!」

 

 アームカバーに取り付けられたレールで必死にドリルを食い止めるツユクサを、天龍が歯を食い縛りながら見つめる。

 一か八か......あいつの顔を目掛けて撃ち落としてやろうか。天龍が必死に頭を回転させて考える、そんなとき。

 

 

 

「後を着けてきた甲斐があったぜ.........」

 

 

「重巡棲姫、その艦娘とテメェも一緒に地獄に送ってやる!!」

 

 

「何?」

 

 ツユクサと重巡棲姫の前に、何処からか、恨みのこもった声と共に現れた一人の重巡ネ級が、二人めがけて砲を乱射し始める。

 よく見ればそのネ級は片腕が無い......、以前に基地で重巡棲姫の攻撃の巻き添えで重傷を負ったネ級と言うことは、ツユクサの知らないことだったが。彼女の思いがけない登場と行動で、一瞬攻撃が揺るんだ重巡棲姫に、これ幸いとツユクサは逆襲を開始する。

 

「あの野郎、これじゃあ自分までやられちま......」

 

「おい」

 

「!!??」

 

「何逃げよーとしてんスか」

 

 飛んでくる弾幕に、たまらずツユクサの肩から降りようとした重巡棲姫の足を、ツユクサは固く両手で掴んで降りられないようにすると

 

ツユクサは相手の攻撃を回避するどころか、逆に猛然とネ級に向かって突っ込んで行く。

 

「オォォラァァアアアア!!!!」

 

「な、何をするてめぇぇ!!??」

 

 それほど距離が離れていなかったというのもあり。多少は被弾したものの、軽傷で済んだツユクサは、重巡棲姫の体を相手目掛けて降り下ろす。この行動で、ツユクサごと重巡棲姫を始末しようとしたネ級は、受け身を取ろうとした重巡棲姫のドリルが当たり、体を砕かれてしまう。

 

「うわあああ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!?」

 

「ぐっうっ...ぅぅ.........う!?」

 

 

「「..................」」

 

 

 重巡ネ級が死亡した後。よろける重巡棲姫の腹の裂け目に、天龍は魚雷発射管から取り出した弾頭を二本差し込む。そして自分から距離を取り始める二人に、これから自分が何をされるのかを察してしまった重巡棲姫は叫び始める。

 

「まっ、待てお前ら! 降参だ! 降参す」

 

 

「グッドラック!」

 

 

 重巡棲姫の命乞いに耳など貸すはずもなく。ツユクサと天龍は差し込んだ魚雷目掛けて狙撃を行う。

 哀れなことに......二人は全くそうは思わなかったが。重巡棲姫は火薬の誘爆で、大爆発を起こして散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

騙されていたと知り、心を病む雷巡棲鬼。

罠を張った戦艦棲鬼の真意とは。

しかしてそれは、彼女の衝撃の行動と共に、

シエラ隊は知ることになる。

 

 次回「蒼き深海棲艦」。 深海棲艦へ、黄金の時代を。

 




ハチャメチャカオス回でした。

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