仕事にお絵描きにシノアリスに執筆作業が加わって気が狂うほど忙しいんじゃ(白目
.......................。どうしてこうなるんだか。本当、嫌になるな。
重巡棲姫を一人で蹴散らした若葉と合流し、一日掛けてウツギ達ゴースト隊の四人は第五鎮守府に帰投していた。
が、本来なら任務完了と言うこともあって、歓迎会ムードな筈のこの場所に充満した重たい空気に。ウツギは心のなかでため息をついていた。
帰ってきて早々、「仕事」を頼まれたウツギは眉間にシワを寄せながら、深尾と応対する。
「.........なんで私が対応しないといけないんだ」
「向こうが指定してきたんだ」
「なんでまた自分が......」
「知らん。まぁ気を付けて」
自分達のいない間に仕事に追われていたのか、額に冷却シートを貼って目の下に隈を浮かべていた上司へ。ウツギが無言で頷いてから、執務室へと歩みを進める。
「戦艦棲鬼からテレビ電話が来ている。機械越しにウツギと面会させるようにも頼まれ、瀬川特将からも許可が出たから後は頼んだ」............。本当、なぜ特将や加賀でなく、自分なのだろう。
「仕事」の内容を復唱し、尚も疑問と、少々の面倒くささを抱えながら。部屋の前に来たウツギは、巻かれたばかりで少し血が滲んでいる肩の包帯を撫で、心を落ち着けてから扉を開いて部屋に入る。
「......電源入れっぱなし......これか」
どうしてここの場所がわかって、襲撃ではなくメールを飛ばしてきたのか。そしてまたなんで自分宛なのか。色々と気味が悪いな。
ウツギは机に座り、置いてあった、電源が付けっぱなしになっていたノートパソコンを開いて、画面に映った白い顔の女と対面する。
「あ、あー......。聞こえましたか。初めまして、戦艦棲鬼さん」
『.........初めまして。あなたがウツギさんですか?』
「はい」
......さて、ここからどう続けようか。ウツギは、会話の最中も考えながら、慎重に言葉を選んで口にすると同時に、機器のスピーカーの音量を最大に設定し、パソコン内部に装備されているボイスレコーダーのスイッチを入れる。
「話の前に一つ聞いてもよろしいでしょうか」
『.........どうぞ。あと、話し方は丁寧じゃなくてもいい。お互い、その方が話しやすいだろう』
「............わかった。では......どうして話し相手に自分を選んだ。取引でも持ちかけるなら、偉い奴でも呼びつけたほうが揺すりがいが有るんじゃないのか」
ウツギのカマをかけた質問に、液晶画面の奥の女は、若葉や重巡棲姫の物とは違う、優しそうな笑顔を浮かべる。普通なら安心しそうなこの表情は、ウツギにはかえって不気味に見えた。
遠い場所からの電話の影響か、また一定の間を置いてから、戦艦棲鬼が答える。
『.........ふふふ......取引、か............答えよう。単純さ。お堅い話じゃなく、あなたとの一対一の、談笑に近い形の対談がしたかったんだ』
「........................?」
談笑だと? 一体なんのために?
ウツギが少し混乱していることなど露知らず。戦艦棲鬼の口から、こんな言葉が飛び出す。
『ん......しかし場を柔らかくするというのは無理だったか......仕方がないな』
『単刀直入に言わさせて頂く。我々は貴殿方に降伏を申し上げたい。』
「..................!?」
......そんな馬鹿な。意味がわからない。一体どういうことだ。ウツギの驚いた表情から、彼女の脳裏に浮かんだ文字を見透かしたのか、戦艦棲鬼が続ける。
『嘘じゃない。なんなら、こちらからそれを証明する人質でも派遣しよう』
「............待て、詳しく説明しろ」
『.........例えば? 答えられる範囲で返答しよう』
「どうして今になって降伏だ。あの規模の基地を簡単に占拠できるお前の抱えている兵力がまだあるなら、簡単に降伏するなんておかしい」
それに、あんなことをしておいて今さら降伏だなんて。有利な交渉材料もない今なら、部下の立場が悪くなるだけだろうが。
ウツギがそう続けようとするのを遮り、戦艦棲鬼が返答する。
『.........あれは、私が御しきれなかった部下が独断でやった事だ。重巡棲姫という者を知っているだろう? 私があの場に居なかった事が一応の証明だ。これで良いかな?』
「.........わかった。日時はいつだ」
『.........ふふ、受けてくれるのか......嬉しいよ。......人で言う、今週の土曜日の午後七時。待ち合わせ場所の座標はこちらから送る』
「そうか。最後に何個か聞く。何人送ってくる気だ? それによってこちらから出迎えに寄越す人数も変わる」
『一人だ。大丈夫、心配はいらないよ。なんなら百人ぐらいの限界体制でそっちが見張ってたって構わない』
「...............了解した。切るぞ」
『ただし』
『迎えに寄越すのは「第五横須賀鎮守府の艦娘限定」だ。嘘をつけば人質は寄越さない。いいな?』
『.........では、さようなら』
「........................」
電話の終了と共に、自動で録音が終わったボイスレコーダーのタイマーが鳴る。
これからどうしようか。ウツギがそう思ったとき。部屋のドアを開けて、ツユクサが入ってくる。
「いたいた。ウツギ、ご飯ッスよ」
「............食堂に集められるだけみんなを集めてくれないか?」
「............? ッス。」
独断で向こうの願いを聞いてしまったが、さてどう怒られるかな。
そんなことを考えながら、ウツギはノートパソコンを抱えて、ツユクサと部屋を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執務室での戦艦棲鬼とのやりとりの後。ウツギは機械から外して持ってきたボイスレコーダーを食堂の机に置いて再生する。ウツギの予想通り、元々居心地の悪かった空気が更に重くなるのを感じる。
そんな状況を見かねてか、球磨、天龍、春雨が口を開いた。ちなみに深尾は寝不足で仮眠中、若葉は傷の治療でドックに行っていたのでこの場に居なかった。
「で、結局誰が迎えに行くクマ?」
「俺はやだね。罠に決まってら、こんなの。誘き寄せてドカンに違いねぇ」
「球磨もちょっと怖いクマ」
「すまない.........」
「ウツギはなんも悪くねーよ。こんなモン上で椅子にふんぞり返ってる奴等に任せようぜ? どうせ暇してるんだから」
「............「艦娘」限定なのか、「名目上の艦娘」も大丈夫なのカ。そこも気になりますネ」
「だな。本当に艦娘限定ならRDや
抜かった。やってしまったな......もっとしっかりあいつから詳細を聞いておくべきだった。
机に置かれた大皿から小皿に惣菜を取りながら、ウツギが考えていた時。何気なく隣を見てみると、加賀が眉間に深いシワを刻み込んだ表情で貧乏ゆすりをしているのが目に入る。
因縁の相手との決着がうやむやになるのが嫌なのか、はたまた罠を警戒して機嫌が悪いのか。ウツギにはわからなかったが、加賀は表情をそのままに、会話に参加する。
「本当に小賢しい女ね。此方の逃げ道を潰しつつ、必要最低限の事しか教えない......頭に来るわ」
「部下が勝手に暴れたって話だけどさ......それも本当かどうか。どー思うウツギ」
「さあ。これ以上頭を使いたくない......取り合えず飯を食い終わってから考えよう......深尾にも聞いとかないと」
「っと、ゴメンよ」。そう謝ってきた天龍に、流石にドライな反応過ぎたかとウツギが申し訳なく思うと。次は椅子に深く腰掛けて静観を決めていたツユクサがこんな提案をしてきた。
「......暇だし、アタシが行こうか? ウツギ、まだ肩の傷治ってないし、いつも仕事で忙しいッス」
「大丈夫か? 何かあったとき対応できる?」
「バカにゃ無理だ」
「バカは余計ッスよ......」
......意外といい人選かもしれない。昔よりは多少頭も回るし、何より今動けない春雨や若葉にとって変われるだけの腕っぷしもある。
天龍におちょくられて顔をひきつらせるツユクサヘ、決断したウツギは声をかける。
「......ツユクサ、任せる」
「え、いいの?」
「うん。ある程度喋れれば良いし、それにお前は私より強い。なにより信頼できるから。」
ウツギの言葉の後に、加賀もまたツユクサへ応援の言葉を贈る。
「気を付けてね。あなたの噂は知ってるし、期待もしているわ。でも、本当に......気を付けて」
「......ッス。 任されたッス!!」
二人からの激励の言葉を受け取ったツユクサは、目を細めて笑顔になると、全員へ向けてガッツボーズでアピールをした。
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指定された時間、場所へと赴くツユクサ。
現れた深海棲艦と、彼女は緊張した面持ちで対面する。
しかしそこへと忍び寄る黒い影が一つ。
意図せずして、それは新たな戦いのきっかけへと発展する。
次回「目立つ罠」。 女は、悲壮な決意をする。
週一更新が最後の砦(三回目の白目