資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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お待たせしました。書き溜めてきたので今週こそは連投できます。


轍の通り魔

 

 

「全爆薬の設置完了ね......若葉の姿が見当たらないのだけれど?」

 

「私は存じませんが......何かあったんですカ。ウツギさン」

 

「..................。」

 

 どう、弁解したものか。慎重に言葉を選ぶか......いや、いっそ思いきって言うか。

 若葉と持ち場を後退して数分後。ウツギは、エマージェンシーの鳴り響く基地へ、持ち込んだ爆薬を全て設置したあと、加賀と春雨の二人に合流して基地を脱出していたところだった。

 二人から、なぜ若葉がここに来ていないのか、と疑問を投げられたウツギは、思いきって本当のことを言ってみる。

 

「......自分達を逃がすために殿をやるらしい」

 

「っ!? たった一人で!? 正気の沙汰じゃないわ......!」

 

 何度か同じ所属で戦闘に参加し、普段からの若葉の事を知っている春雨は置いておき。「いつもの彼女」をよく知らない加賀が、目を見開き、言葉と同じ信じられないといった表情になる。

 

「戻りましょう。今すぐに。見殺しになんて......」

 

「ダメだ。再侵入は許さん。ここか前の野営地で待機だ」

 

「......あなた正気? 駆逐艦一人が、あの場所から逃げられるわけがないわ」

 

 普通に考えればもっともな加賀の発言に。ほんの少しだけ笑顔になりながら、ウツギが切り返す。

 

「違うな」

 

「..................何がです?」

 

「若葉を嘗めないほうがいい。あいつは絶対生きて帰ってくる。絶対だ」

 

「...............」

 

「一応聞きますが援護ハ...?」

 

「いらない。野営地のあの場所で今日一日待っても帰らなかったらそのまま逃げる。いい?」

 

「了解」

 

 あいつならきっと大丈夫。たぶん。

 「本当に大丈夫なのかしら」。加賀の言葉を流しながら、ウツギはゆっくりと後退を開始した。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「ぐッ.........!」

 

「ふひっ、ひひひひひっ!!」

 

 おいおい。なんだこいつ。ケタケタ笑ってるだけの阿呆かと思ったが、案外なかなか強いじゃないか。

 先程重巡棲姫ごと爆破し、大きな炎をあげて炎上中の建物をフラッシュバックにして襲いかかってくる敵に。若葉は苦戦していた。

 得物の薙刀の長さを生かしての遠心力を使っての凪ぎが相手の硬い表皮に弾かれ、突きは交わされ、おまけに時折発射する砲弾の射線も予測されて避けられてしまう。さてどう攻略したものか、などと考えていた若葉へ、重巡棲姫は余裕そうに、とびきりの笑顔を浮かべて話しかけてくる。

 

「ちょこまか逃げてるだけかァ?? 」

 

「............ふん」

 

「おっと、同じ手はくわん」

 

 会話の最中なら通るか......なんて安直な考えはやはり読まれるか。

 

 面 白 い。

 

 それでこそ殺しがいがある強敵だね。

 周囲から見れば、重巡棲姫とは対照的な不機嫌そうな顔だったものの。若葉は内心では笑い声を抑えきれないような愉悦を感じながら、体に染み付いた経験で機械的に刃物を振るう。

 

「そんな棒切れで深海棲艦が殺せるかぁ?」

 

「........................」

 

「へへへっ、動きは悪かねぇ。さっきより上等だ」

 

 早くも弾が切れた武装を適当に放り投げ、若葉は殴りかかってきた相手の腕に薙刀の刃を噛ませて勢いを殺す。そこに更に延びてくるドリル付きのアームを、若葉は瞬時に片手で刀を逆手で抜いて弾き、相手から一定の距離を保つ。

 そしてこうした命のやりとりの一連の動作を繰り返すうち、彼女は同時に相手の観察も行っていた。

 

(砲を撃たない。距離も離さないし、ウツギの奴とやりあって切らしたか、トッテオキ代わりにとっといてるか)

 

「はははは! どこまで持つんだかなぁ?」

 

(それにさっき、あぁまで簡単に燃やせたなら、こいつは周囲にあまり気を配って闘ってないのかナ?)

 

 何度も強引に距離を詰めてくるやり方と、言動から大体の相手の性格を察して。若葉は脳を酷使して目の前の女をどう殺すか模索する。

 もう何度目かわからないほどに相手の攻撃を弾いた時。とりあえず考えがまとまった若葉は、両手で握っていた薙刀を片手で持ち直し、先程盾代わりに使った黒い軍刀を鞘から抜くと、RDを真似して、相手に自分の体の側面を見せて対峙する二刀流の構えを取る。

 

「一度やってみたかったんだ~二刀流♪」

 

「ヒャァアアアア!!」

 

「おっと。んん、相変わらずシビれるねぇ......」

 

 手数が増えるのは便利かもしれない。が、腕一本だからその分力が入らなくなるのが考えものだな。

 話の最中に飛びかかってきた相手を両手の刃物で受けた途端に、想像以上に腕に衝撃の負担がかかるのを感じながら、若葉は思わず冷や汗をかく。

 

 長引かせるのは賢いやり方じゃあないねぇ。若葉としてもそのほうが好都合か。

 

 そう思った若葉は、行動を開始した。

 まず彼女はこの戦闘中初めて自分から相手へと距離を詰めると、今までと同じように薙刀を振って相手を切りつけ、先程と同じく弾かれてしまう。が、彼女は火花を散らして跳ねた得物を力ずくで強引に反動を抑え込んでまた女に叩きつけ、相手が怯んだ所にすかさず持っていた刀を振り上げ、皮膚に突き刺す。が......

 

「無駄ァ!!」

 

「ンふっ、おいおい......刃こぼれしたら責任とれるのか?」

 

「知ったことかぁ!!」

 

 「線」で攻撃する切りつけは試したが弾かれ、「点」の攻撃の突きで突破口を開こうとしたものの、これもまた刀の切っ先が激しく火花を散らし、バネのような反動を発生させて弾かれてしまったことに。若葉は改めて相手の体の硬さに舌を巻く。

 

「ヒャヒヒヒヒヒハハヒハァアアアア?!?!」

 

「おっ......とォ...」

 

 ......力みすぎなのが原因なのか。あえて、いっそ撫で斬りでも試してみるか。

 瞬間的な判断で腰から取り外した、発射する弾頭が無くなった魚雷発射装置を敵のドリルに噛ませて。それが甲高い金属音を響かせて粉々に削れていく様子を眺めながら、若葉は次の策を考える。

 

「ギッヒ......」

 

「よいしょッ」

 

 数秒ほどドリルで装備が削られる様を眺め、一瞬だけ相手に隙を見つけた若葉は、今度は相手の体に刀を近付けた瞬間にわざとその勢いを無くして、刃の部分を重巡棲姫に当てる。そして腕や腹部の輪郭をなぞるように刃物を引き始めた。

 .........なるほど。火花こそ散るが少しはキズがつくか。よし、これでいこう。

 一体何をしたいんだこいつは? そう言いたげな顔をしている重巡棲姫をよそに、若葉はこの女を殺すための知略を巡らせる。

 

「何のつもりだぁ?」

 

「ふふ、お遊びお遊び♪」

 

「遊びだとぉ? の割にはつまらんがぁ!!?」

 

「ンッヒヒ♪ 娯楽って言うのは、自分さえ楽しめればそれでいいんだぜ? まさかおたく知らない?」

 

「死ねえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ッッ!? ち。 今のはちょいとイタいナ。 品の無いやつは話してて面白いくない......やっぱりウツギが一番♪」

 

 何度も交差する重巡棲姫の腕と、若葉の二刀が激しく火花と金属音を響かせ、その音で掻き消されてしまう会話の最中。若葉は女から距離を離し、敵にドリルで突かれた右肩をにやけ面で撫でたかと思うと、また懲りずに薙刀で突きを敢行する。

 が、怪我をしたせいで勢いに欠ける剣撃は容易く相手にいなされ、すぐに相手の拳が飛んでくることを予測した若葉は咄嗟に薙刀を投げ捨て、刀を片手から両手に持ち替える。

 予想通りに飛んできた左ストレートとドリルの付いた艤装を、血液の滴る利き腕に左手を添えて構えた刀で若葉が受け止める。しかしその薄ら笑いを浮かべた表情は、苦痛で少し曇っていた。

 

「はははは! そんな棒切れでここまで持ったやつは初めてだ!!」

 

「お褒めいただき、ありがとう」

 

「もうお前なぞ用済みだ!! だから死ね!!」

 

「ぐッ...............でぇいっ!」

 

 つばぜり合いの状態に持ち込まれ、行動に制限がかけられた若葉へ、重巡棲姫は彼女の右肩に張り手を見舞う。傷を叩かれた若葉は激痛で一瞬顔をしかめたものの、根性で持ちこたえて相手を突き飛ばし、敵から間合いを取る。

 いままでの余裕そうな笑顔から一転、荒い息を上げ、顔を脂汗で濡らして傷口を抑える若葉へ、重巡棲姫は、張り手をした手に付いた血を見ながら、口を開く。

 

「はぁ......はぁ.........」

 

「どうしたぁ!? 血が出てるぞぉぉぉ!!」

 

 勝ち誇ったように、重巡棲姫は掌の血を舐めとった。その時だった。

 

 

突然重巡棲姫の掌が真っ二つに裂け、青い血液が流れる。

 

「!!??」

 

「.........フフッ...♪」

 

 

 

 

 

「どうした? 血が出てるゼ。」

 

 

 

 

 

「ははっ、はははははははははははッハァーー!!!! 」

 

「フフン♪ 来いよ。何時間でも相手になってやる。」

 

 いいこいいこ。そのままこっちにおびき寄せて......。

 若葉は無我夢中でこちらに走ってくる重巡棲姫を、刀を正眼に構えて迎え撃つ。かと思われた。が、

 

 今まさに女の一撃が若葉の顔を捉える瞬間、若葉は体を捻って回避し、重巡棲姫は勢い余って彼女の背後にあったプールサイドの縁に引っ掛かりそうになり、寸前で体を仰け反らせてその場に停止する。若葉は、そのまま素早く相手の後ろに回り込んだ。

 

 

「うぅおっ」

 

「あっさりかかったなァ」

 

 

 

 

 

「この瞬間を」

 

 

「待っていた。」

 

 

 

 

 若葉は、刀を鞘に収めると、両手でプールの底に刺さっていた薙刀を引き抜いて構える。

 

 そして、持った武器を、ゆっくりと弧を描くような動きで頭上に振り上げる。

 なんの真似だろうか。重巡棲姫がそう思った時、ふと彼女は左手に鈍い痛みが奔るのを感じ、視線を移す。すると

 

 彼女は自分の左手の肘から先が無いことに気づく。

 

 

「......壱に腕を斬る」

 

 

若葉は、狼狽する女を無視して、続けて流れるような動作で薙刀を振るう。それに連動するように、重巡棲姫の全身から血が噴出する。

 

 

「弐に足を削ぐ」

 

 

「参に首を撫で」

 

 

「終いに心をひと突き」

 

 

 

 

はい、おしまい♪

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「 」

 

「ン~......結構疲れたな。まったく」

 

 神風から教わったこの技......丙式朧月(へいしきおぼろづき)とか言ったか。なんだ、結構使えるじゃあないか。剣道とやらもやってみるもんだ。

 

 始めにわざとらしく遅い動きで相手の視線を誘導し、そこから間髪入れずに剣を振ることで相手の認識にズレを生じさせた所を刀剣で斬る。

 一種の視線誘導術や目の錯覚を応用するらしいこの技が、綺麗に相手に決まったことに。若葉は少し驚いている所だった。

 

「にしても、まさか薄皮剥けた傷をなぞっただけで削げ落ちるとはねぇ.........」

 

「 」

 

「............もう息がないか。ふふふ、楽しかったよ。じゃぁ、」

 

 

 

「バイバイ♪」

 

 

 

 両手と両足、そして首と胴部に深く刻まれた傷口から血を流して死亡した重巡棲姫へ。若葉はそう言うと、駆け足で基地から逃走を始めた。

 

 

 

 数分後、基地は若葉と合流したウツギが起爆した爆薬で壊滅。深海棲艦たちは海域からの撤退を余儀なくされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ゴースト・チームの活躍により、基地が陥落する。

そんな帰投した四人のもとへ、更なる仕事が舞い込む。

仕事の案件。それは、

基地に不在だった深海棲艦、戦艦棲鬼からのメールだった。

 

 次回「ウィーク・エンド」。 誰かに声をかけて、無茶な口説きかたをして。

 

 




急いで次回を仕上げねば......(使命感

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