資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

95 / 102
大変お待たせして申し訳ありませんでしたァ!!
なんか日曜日が定期更新日みたいになってるのは気のせいです(白目


太陽

 

 

 

 うだるような暑い空気の漂う、南方海域の基地の中で。ウツギは今、体中を汗で濡らして全速力で敵から逃げている最中だった。

 コンクリート壁やトタン板が吹き飛び、ひしゃげる轟音を背景音楽にして逃げ回るウツギへ。加賀から連絡が入る。が、当たり前ながら彼女は焦りと緊張でそれどころではなかった。

 

『ウツギ、聞こえる?』

 

「加賀、後にしてくれ!」

 

『いいえ、今言わせてもらうわ、敵があなたの方に向かってる。心当たりは?』

 

 

「へへひははははは!! 鬼ごっこか! 逃がさんぞォ!!」

 

 

「......一つ思い当たるフシなら」

 

 艤装の高速移動が出来ない以上、陸地で戦うのは危険すぎる。とにかく水辺に出なければ。

 そう考えている最中も背後から聞こえてくる爆発音と奇声に顔をしかめながら。ウツギは一瞬後ろを見、CPUのスイッチに手をかける。

 

『データ照合......敵性反応を確認しました。重巡棲姫です』

 

『敵は、各距離対応の武器を装備。間合いによって攻撃が変化する戦闘スタイルと予測されます』

 

『特に高威力の近接武器に注意してください』

 

 近接武器......? そんな物どこに積んで?

 腹部から伸びている大砲付きの生体ユニット以外に、これといった武器を持っているようには見えなかった相手に疑問を持ちながら。しかし警戒は怠らずにウツギは前を向いて走り続ける。

 

 何分ほど走り続けたか。ウツギにはわからなくなっていたが、目の前に水の張った大きなプールのような設備を見つけ。これ幸いと彼女は水面に立ち、艤装を稼働させ、両手に砲とスナイパーライフルを持って、追っ手の来た方向に向き直る。

 

「お? おぉぉぉ?? やる気になったのか?」

 

「............」

 

 両手で砲の付いた部位を担ぎながら発言した相手の不意をつく形で、ウツギは武器の引き金を引き、砲弾を相手に見舞う。

 これで終われば楽なんだけど。絶対にこれだけでは終わらないだろうな。そんなことを考えていると、やはり予想通りに、爆煙の中から笑顔の重巡棲姫が出てくる。

 重巡棲姫は、今日、春雨が見せてきたような目を見開いた笑顔でウツギに砲を乱射しながら突っ込む。

 

「留守中に来てくれて嬉しいぜぇ!! 暇潰しに惨たらしく殺してやる!!」

 

「...嫌だね............!」

 

「......ん?」

 

「死にたくないと言った......!」

 

 ストラップで腕から外れないように固定していたライフルを手離し、咄嗟に構えた手斧の柄で殴りかかってきた相手の拳の勢いを殺してから、ウツギは急いで砲で弾幕を張りながら後退する。

 そんな近付かれては離れてのやり取りを三回ほど繰り返した頃。ウツギは、相手の凄まじい馬鹿力をいなした事が原因で引き起こされる、腕の痺れに顔をしかめた。

 なんて力だ......たった三回でこれか。いつもの事だけど、長引くとまずい。

 インパクトの余韻が残る腕を振りながら、ウツギが砲を構え直す......すると運の悪いことに。遠方から走ってくるのが見えた、この戦闘の音を聞き付けてやって来た増援に、彼女は軽く舌打ちをする。

 

「......背面、オート」

 

『認証。背部砲門、自動射撃スタンバイ』

 

 少しでも手数を増やすため、とウツギはCPUの音声認証で背中の砲を自動制御に設定すると、斧を腰に戻し、先程と同じくライフルを担いで二丁拳銃の体勢を取る。

 目の前の重巡棲姫に、その後ろのネ級と思われる深海棲艦の射撃を、角度をつけた両手の盾でいなしながら、ウツギが後退していたとき。砲弾の一発が足を掠め、ウツギが転倒しそうになり、それを見た重巡棲姫が全速力で駆け寄ってくる。

 

「ヒェェェハハハハ!!」

 

「............!」

 

 が、ウツギも勿論死ぬわけにはいかず。以前、ブルーショルダー隊を相手取った時のアザミのように、ウツギは海面にむけて砲を撃ち、反動で強引に体勢を引き起こし、その勢いに乗って重巡棲姫に砲弾を叩き込む。

 今しかない。逃げねば。

 火薬が炸裂した煙で姿を消した重巡棲姫から、これを機に逃げよう、と考えたウツギが体の向きを変える......が

 

 

「居たぞ!! 一斉射撃!!」

 

「賊を撃ち殺せ!!」

 

 

「............冗談じゃない......」

 

 ウツギは、振り返った先に居た、両手で数える程の数の敵を見て、軽い目眩を覚える。そしてすぐ砲弾の雨を掻い潜り、また両手の武器を構え直し、艤装を操作して背中から盾を展開したその時だった。

 

 何度も死亡寸前まで追い詰められた経験がある彼女のカンが成せる技か。非常に不快に感じる何かを背後から感じ、ウツギは咄嗟に体を横にひねる。すると

 

 後方からロケットのように飛んできた「何か」が着弾し。ウツギにはよく見えなかったが、一番自分に近い位置にいた敵の、軽巡と思われる深海棲艦の一人がバラバラ死体となって吹き飛んでいくのが見えた。

 「何か」......重巡棲姫は、頭に血でも昇っていたのか、見境なしに味方を殴りながら叫ぶ。

 

 

「じゃまなやつらわァァ」

 

 

「皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「じゅっ、重巡棲っ!? ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!??」

 

「..................!!」

 

 見境なく腕を振り回している女の腹部から伸びている武装の部分に付いていた、回転しているドリル状のパーツで肉を抉られている敵から目を背けながら、ウツギは戦慄する。

 ドリルだと......!? あんなもの当てられたら......!

 標的は違うものの、宣言通りに惨たらしく殺害され、恐怖に歪んだ顔のまま水没していくネ級の死体を見て、ウツギの頬に冷や汗が流れる。

 

「..................!」

 

「フゥゥゥゥゥゥ......スッキリしたぜぇぇぇ.........」

 

 

「最高だ人殺し!! この世にこれ以上の遊戯があるのか!?」

 

 

「ッ......気狂いめ......」

 

「気狂いィィ...? 誉め言葉だねぇ!!」

 

 ......今まで何度も基地外相手に戦ってきたけど......ここまで大っぴらに味方を殺す奴なんてのは、田中以来久し振りだな。

 目の前の女に、妙な懐かしさを感じる暇も無く。またばか正直に......しかしウツギには充分驚異となる突撃を敢行する敵へ、ウツギは砲口を向けて引き金を引く。

 しかし、ひらひらと掴めない動作で、滅茶苦茶に動くように見せかけて、的確にこちらの攻撃を交わし続ける重巡棲姫に、全くといって射撃で牽制すらできないことにウツギが危機感を覚えたとき。

 砲の弾が切れ、マガジンが自動で外れたのを見た相手に強引に距離を詰められると、そのままウツギは相手に組み伏せられてしまう。

 

「しまッ.........!?」

 

「あははははははっ!!! 小娘!! 自分の骨が砕ける音を堪能しながら、死んでいけ!!」

 

「ぐっぅ......!?」

 

 顔中を様々な要因でかいた汗で濡らしたウツギへ、何の躊躇いもなく重巡棲姫はドリルを駆動させて彼女に降り下ろす。

 顔めがけて降り下ろしたドリルは、なんとかウツギが身をよじったため、肩に目測がズレたものの。独特の駆動音を響かせて回転するドリルで艤装ごと肩を削られ、余りの苦痛にウツギは叫び声を挙げてのたうち回る。

 

「がっ...!? うわああぁぁぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」

 

「アハハハハ!! そうだ!! 叫べ! 泣け! そして......」

 

 

 

「「死ね」とでも言うつもりか?」

 

 

「なんだと!?」

 

「...............!!!!」

 

 泣き叫んでいたウツギは突然平時と同じような声で呟くと、弾切れを装っていたスナイパーライフルで重巡棲姫の顔を撃ち、相手が怯んだ瞬間を見逃さず急いで相手の体ごと上体を引き起こして立ち上がる。

 そしてそのまま重巡棲姫を押してプールサイドの建物の壁に叩きつけ、相手の服の袖をハープーンガンで壁に縫い付けてまた射撃を行う。ウツギが狙ったのは

 

 壁に取り付けられた、施設破壊用の爆弾だった。

 

 ある程度の距離を保っていたウツギすら、爆風の余波で吹き飛ばされる程の猛烈な大爆発に巻き込まれた重巡棲姫の叫び声が、爆炎からこだまする。

 

 

「ウゥゥボォオォオアアァアァアアァァ!!??」

 

 

 

 一風変わった悲鳴が飛んでくる、赤々と燃え盛る施設を眺めながら。ため息をつきながら、ウツギは何時のまにやら、背中に立っていた若葉に愚痴をこぼす。

 ウツギが敵を引き連れて戦闘を行っていた頃、守備が手薄になった基地に着々と施設破壊用の爆弾を設置して回っていた若葉は、春雨より先に爆弾のストックが最後の一つを残して切れたため、音を便りにウツギの元に駆けつけていたのだ。

 

「はぁ......はぁ......いつまで黙って見ているつもりだ。若葉」

 

「黙って、だってかい? 爆薬を設置して援護したのは誰だ?」

 

「はいはい......ありがとうさん。 まだ多分生きてる。頼んだ」

 

「んフッ、任せな♪」

 

 戦垉がまさか役に立つなんて。これがなかったらまた腕が千切れる所だった。

 数分に渡る逃走劇と敵の猛攻で、疲労の蓄積したウツギがその場を若葉に任せて。先程のドリルが、羽織っていたマントが巻き込まれて回転が鈍くなったお陰で、軽傷で済んだ事を思い出しながら、ウツギはプールから上がり、爆弾を設置するためにまた駆け足になる。

 

 一人残された若葉はと言うと。まるで悪霊の類いのような、凄まじい形相で、体のあちこちが焦げた重巡棲姫と対峙していた。

 退路の確保のためにも。こいつはここで殺しておくか。そんなことを若葉が考えていたとき。重巡棲姫は白目を剥きながら口を開いた。

 

「貴様ら......影も形も無くしてやる............」

 

「おやまぁ......お怒りかい...?」

 

 低い声で唸る相手を見て、若葉は空いていた片手に薙刀を構える。その顔には、逆への字を越え、V字に近い程に口の両端を吊り上げた笑顔が浮かんでいた。

 

「ただでは殺さん......じわじわと殺す......まるで蛇の生殺しのようになぁ!!」

 

「ほぉう? じゃあ若葉は君をいちょう切りにしてあげよう♪」

 

 方や鬼の形相。方や笑顔。表情こそ違えど、今、気狂い同士の一騎討ちが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

以前、神風から稽古をつけられた若葉の神風心刀流。

対する重巡棲姫は我流の突撃術で猛攻をかける。

焦る相手に対し、時間の経過と共に動きが洗練されていく若葉。

勝利の女神はどちらに微笑むのか。

 

 次回「(わだち)の通り魔」。 炸裂。丙式・朧月。

 




重巡棲姫にはまだ頑張ってもらいます。
加賀さん無双はもう少しお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。