資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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投下します。 ちょっと賛否両論入りそうな描写があります。ご注意ください。


化け物

 

 

 

 

 

『ほらリコ公、知ってること話すクマ』

 

『はい。では......』

 

『戦艦棲姫......あいつはなぜか「戦艦棲鬼」を自称していますが......作戦の立案、陣頭指揮、捕虜を活用した海軍への圧力。色々こなしてたやつですが、実は奴一人ならそこまで驚異ではない...です』

 

『問題は連れている部下。最低でも姫級が三人以上居ることを考慮する必要がある...ます。用心深い奴で常に誰か侍らせているが、特に護衛役の「重巡棲姫」、こいつが一番危険だ...です。戦艦棲姫に見つかるような事があっても、絶対にこいつに見つかってはいけません』

 

『「いじめと人殺しが大好き」。重巡棲姫はそう平然と広言するような性格だったし、これまで数々の艦娘や人間を手にかけてきたそうです。それも、「効率がいいから」なんて抜かして味方ごと撃ったり。ね.........挙げ句の果てには戦艦棲鬼に殺した人間の頭皮を持ち帰って、奴を閉口させたこともあるらしい...です』

 

『驚異ではない、とはいえ、もちろん戦艦棲鬼を警戒しないなんて下策はナシです。奴の策士っぷりは、部下にも伺うことができない程で、立てた作戦の全貌を把握するのは部下からのタレコミだけじゃ困難を極める。直接聞かないと......です』

 

『おまえたち......んん、RDのポクタル島電撃戦、田中恵の本土強襲作戦、そして深海棲艦傭兵たちによる北海道突撃......これらもあいつが独自に作った「兵法用法」なる作戦マニュアルに乗っ取って行われました。これは我々の作戦立案のバイブルにもなっています。目を通せば、馬鹿でも指揮官になれる、とね』

 

『件の基地占拠についても、ブルーショルダー隊の解散を機に、電撃作戦で強奪したらしい。武闘派でもないあいつが前に出てくるのはかなり珍しいが、停戦や和平で兵隊が減って人員不足なんだろうな。とは言えまったく、どこから部隊解体の情報を手に入れたのか。そのネットワークには謎が多い奴だ...です』

 

『とりあえず......知っているのはこれぐらいでしょうか』

 

『リコッちお疲れッス。はいお茶』

 

『ウッちゃん達の武運を祈ってるクマ~』

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 瀬川との作戦会議をやった日から数えて一週間。

 既に周辺は敵の勢力圏ということで、万一にも敵に悟られないようにと夜の海中を、RDの友人だと言う姫級の潜水棲姫に牽引されながら。ウツギは携帯の電源を入れ、リコリス棲姫が編集した敵についての情報が纏められた動画を見終わった所だった。

 策士・戦艦棲鬼。説明を聞く限りだと、今まで戦ったことがないタイプの敵になる。が、しかし、今回は表だってやりあう必要はない。適度に緊張感を保ちながら、いつも通りやろうか。

 

「もう少しで着くよー」

 

「承知した」

 

 考え事の最中に声をかけてきた潜水棲姫へ、軽い返事をして、ウツギは顔を前に向ける。

 目を向けた方向には、薄暗くてはっきりとは見えなかったが、事前に野営する予定を立てていた廃棄された海上基地跡地があり、ウツギは持っていた携帯を羽織っていたマントの中にしまう。

 数秒としないうちに、ウツギは潜水棲姫の艤装から延びていたワイヤーを服から切り離して基地に上陸し、続けて同じように春雨、若葉、加賀の順番で、作戦に参加する面々が基地に到達。

 全員居ることを確認したウツギは、ここまで自分達を引っ張ってきた潜水艦の艦娘達へ礼を述べた。

 

「ありがとう潜水棲姫。案内助かった」

 

「いいよいいよ。RDの頼みだし......気を付けてね」

 

「ご迷惑をおかけしましタ」

 

「礼はいらんでち。さっさと行けでち」

 

 夜の海へ体を沈め、闇に溶け込んで消えていった艦娘達を見送り、ウツギは泊まるのに使えそうな建物がないか周囲を確認する。

 放置されて数年がたった基地の建物はかなり老朽化が進んだものばかりで、びっしりと赤錆にまみれたガレージが多い中、コンクリート造りで比較的まだ基礎がしっかりしていそうな小屋をウツギが見付ける。ここにするか。そう決めた彼女は三人に口を開く。

 

「ここにしよう......何か問題は?」

 

「特に無いわ。早く食事を済ませて寝ましょう」

 

「そうか。......仕切りで中が別れているな。2・2で入ろう。加賀は誰と一緒がいいんだ?」

 

「若葉となら」

 

「若葉と......? ......解った」

 

 若葉と一緒がいい、か。普通に考えれば変なやつとなるけど、元深海棲艦同士、親近感でも沸いたのかな。

 艤装にくくりつけていた袋から取り出した寝袋二つと、春雨が背負っていたバッグから出した畳まれたエアーベッドを二人に渡しながら、ウツギはそんなことを考える。

 まあいいか。今日は早めに寝よう。

 春雨と建物の中に入ってすぐ。ウツギは栄養ゼリーの封を切り、中味を口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「奇特なやつだ......若葉を選ぶなんて......ね。うふふ......♪」

 

「同じ生まれのよしみよ。仲良くしましょう」

 

「ふふ......てっきりウツギのやつを選ぶと思っていたからなァ......少し驚いている......」

 

「最初にあったときはごめんなさい......あなたとはお話がしたかったの」

 

 ウツギと春雨はもう眠っていた時刻。二人は向かい合った状態で、ランタンの灯りに照らされながら、マグカップでコーヒーを飲んで談笑(?)をしていた。

 次はどういう言葉が出てくるかナ。若葉が思っていたとき、加賀が口を開いた。

 

「聞きたい事があるのだれけど。いいかしら」

 

「どーぞ。ご自由、に......」

 

「じゃあ......艦娘になって良かった、って思う事とか、有るかしら」

 

「ん~......? ......難しいね」

 

「......存外無かったりするの?」

 

「逆さ。沢山あるとも――」

 

 「例えばこれだ」。持っていたマグカップを指差して話す若葉へ、加賀は怪訝そうに顔を覗き込んできた。それを見た若葉は薄ら笑いを浮かべる。

 

「コップがどうかしたの。家具集めが好きなのかしら」

 

「んふふ......中味の事を言った............こういった物を楽しめること。それは人間の特権だしな」

 

「............」

 

 口許に手を置いて、何かを考えているような仕草をとる加賀へ、若葉は続ける。

 

「嗜好品の類いもそう。そして娯楽の類を楽しめること。......そして大っぴらに深海棲艦を殺せることか」

 

「......最後のは余計ね.........元は仲間なのに、抵抗ないのね」

 

「くふふ......刃物で肉を断つあの感触は何物にも代えがたい......それに仲間と思ったことなぞ、無いからねぇ.........」

 

「...............?」

 

「どいつもこいつもみな一様に敵を殺せ敵を殺せ......それ以外に言えないのかと、周囲の馬鹿共に煩わしさを感じてねぇ......敵対するのは特に苦にならなかった」

 

 「ウツギみたいな面白いやつにも会えたしな。そこは艦娘になれて良かったと思うよ」。穏やかな表情でそう締めくくる若葉を見ながら。加賀はコップの飲み物をすべて口に入れる。

 .........噂通りのただの戦闘狂かと思っていたが。案外、根は優しい性格の子なのかもしれない。そんな評価を加賀が若葉に下していたとき、今度は相手からこんな質問が飛んできた。

 

「若葉からも一ついいか」

 

「ええ勿論」

 

「お前の悩みごとを一つ聞かせてくれ」

 

「.........そう、ね......」

 

 

「人を殺した事があるのに、今のうのうと寝返って艦娘として生きていることかしら」

 

 

「ほう......?」

 

「あの人は......瀬川は私を受け入れてくれたわ。でもこの両手は人間と深海棲艦の両方の血液で濡れている......時折、私はどうして今生きているのかが解らなくなるの」

 

「............ふふふふ♪」

 

「......何がおかしいのかしら」

 

 自分の出した問いに対する加賀の独白を聞き、それを若葉は鼻で笑う。この対応に当たり前と言うべきか、少し頭に来た加賀が凄む。

 

「いや、なに......妙に哲学的に考えるやつだと、思ってね............」

 

「............」

 

「若葉だって殺したことはあるさ......艦娘をな。そして殺してくれてありがとうと言われた」

 

「............殺したのに感謝された......?」

 

「あぁそうとも。なにやら後から聞けば、そいつは身分の高さを鼻にかけた暴れ女だったらしい。死んで清々したと言っていたよ」

 

「......良かったわね。運が良くて。普通はそんなこと言われないでしょう」

 

「だろうねぇ......神のご加護に感謝だ.........。お前もそこまで悩む必要はないと思う」

 

「どうして。そんな楽観的にはなれないわ」

 

「非難する奴が居ればこう言ってやればいいんだよ......「元は敵同士だったんだ......そしてこれは戦争。隣のお友だちがいつ死んだっておかしくはないぐらいの心構えでいないお前が悪い」とかね......」

 

「......とんでもない。そんなこと言ったら刺し殺されるわ」

 

「うふふ、半分冗談だ......瀬川とか言ったか。あの男。お前を気にかけている......」

 

「............」

 

 

「そういう、一緒に悩んでくれる人間がいるならば......どうすればいいのか、時間が答えをくれそうな気がするがナ......まぁ若葉の人生じゃない。お前の人生だ。勝手に悩んでろ」

 

 

 若葉の「答え」を聞いて。加賀は下半身を寝袋に入れながら、呟いた。

 

「......投げたわね」

 

「正直答えかねたんでね......」

 

 着けていた電気を消して、二人は膨らませたベッドの上に横になる。南方方面ということもあってか、夜でも気温が高かったため、上は薄着だった。

 

「明日の仕事は頼むよ......元化物同士、仲良くやろう......」

 

 「じゃあおやすみ」。若葉の声を聞いてから、加賀は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高度に築かれたハイテクノロジー要塞。

そんな要害に潜入を試みるウツギ達「ゴースト隊」は

全員が集中力を研ぎ澄ませて作戦に当たる。

しかし。これが戦艦棲鬼との戦いの序章に過ぎないことは、まだ彼女たちは知らない。

 

 次回「エイミング・ダンス」。 加賀の瞳に映るものは、何。

 




次回、また挿絵をぶちこみます。

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