資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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お待たせしました。

あるお方からリクエストがあったので、今回は「ヤツ」の挿し絵があります。


桜の森(挿し絵有り)

 

 

 

 海中での加賀との顔合わせの後。三人は濡れた服を着替えて、人を待たせているからと、少し駆け足で来客用の部屋へと向かっていた。

 一番最初に部屋に着いたウツギは、扉を三回ノックして中に入り、両手でドアを閉めてから、中で待っていた瀬川特将へ、口を開いた。

 

「ただいま戻りました」

 

「早いな。もう少し、ゆっくりしていても良かったんだが」

 

「性分でして。」

 

 机を挟んで深尾と対面するようにソファーに腰かけていた男と、その護衛の艦娘へ、ウツギが軽く会釈をする。

 加賀は一目で加賀と解った。が、こいつはなんという艦娘なのだろうか。

 目付きの鋭い、軽く見た容姿は駆逐艦吹雪に似ているが、体格が明らかに大人のそれである女の方を見てウツギが考えていると。深尾に席に着くように勧められたので、ウツギは上司の隣に座った。

 数分後、遅れて春雨と加賀が部屋に入り、全員集まったと言うことで、瀬川が「要件」を話し始めた。

 

「まず非礼を詫びさせてほしい。仕事とはいえ、粗探しのような事をしてすまなかった」

 

「いえ、仕方がないことですから。大丈夫です」

 

「そうか。......仕事の話に入ろうか。君がウツギ、そっちが春雨。間違いなかったかな?」

 

「合っています」

 

「良かった......。君たち二人には、加賀と共に敵基地に侵入する作戦に参加してほしい」

 

「......たった三人で? 流石に自信がありません」

 

「何も敵を殲滅してきてほしいわけじゃない。隠密作戦さ。それをこなす潜入部隊に、ぜひ二人が欲しいんだ」

 

 三人だけでの作戦参加。それに拒否反応を示したウツギと、口にはしなかったものの、少し嫌そうに眉を潜めた春雨へ、瀬川は噛んで含めるように説明を続ける。

 

「隠密部隊......便宜的に俺たちは「ゴースト・チーム」と呼んでいるんだが。作戦の概要は、要約すると「拠点爆破」だ。所定の位置に爆薬を設置して起爆させてほしい」

 

「爆破って......取られた基地を取り返しに行くのではないのですか? 設備被害は?」

 

「問題ない。好きなように破壊活動をしてくれ」

 

「..................設備にこだわって撃退に手間取るよりも、基地ごと吹き飛ばす。そういうお考えで」

 

「ふふ、頭がいいな君は。当たりだ。下手に気を使って作戦が長引けば、使う金も馬鹿にならないからな。早めに終わらせたいのさ」

 

「......人件費、高いですからね。私はまだ安いほうですが」

 

「漬け込む形になったのは謝ろう......だがこれだけは言わせてほしい。君たちの卓越した戦術眼と生存技能を見越しての頼みだ......資料を見て驚いたよ。君と組んだ艦娘に死者が一人も出ていないということに。加賀も安心すると思うんだ。幸運の女神が居てくれれば」

 

「.........買い被りすぎです。自分はそんな、ありがたい生き物じゃ無いですよ。ただただしぶとく生き残っただけで......」

 

「いや、違うな。出撃回数200以上で作戦成功率80%超え、そして何よりも生存率100%。誇っていいことだ」

 

「......ありがとうございます」

 

 なんだか、やけに自分を誉めてくる人だ。......だからといって、死ににいけとか言われても頷くつもりは無いが。

 目上の人間に称賛されたことは何度かあれど、度が過ぎていると感じたウツギが相手の言葉にうっとおしさを感じる。と、同時に言いたいこともあったので、瀬川にこんなことを言ってみる。

 

「一つ、いいでしょうか」

 

「なんだ」

 

「もう一人だけ、参加させては駄目でしょうか」

 

「.........それぐらいなら呑める。今、呼べるかな?」

 

「ええ勿論です。......では」

 

 良かった。駄目と言われたらどうしようかと思っていたところだ。

 承諾を得たウツギは、スマートフォンを操作して、「もう一人」を部屋に呼びつけた。

 

 ほどなくして、礼儀など知ったものかとばかりに、ノックすらせず、ウツギの呼んだ「もう一人」が部屋の扉を開けた。

 

「何の用だ」

 

「ノックぐらいしたらどうなんだ若......」

 

「......ほう、サザンカか。噂通りだ、すぐにわかった」

 

 部屋に来た若葉の無礼な振る舞いに、ウツギが苦言を呈するのを遮り、瀬川が興味津々と言った様子で若葉に声をかける。

 当の若葉は、一切の感情を削ぎ落としたような無表情で切り返した。

 

「誰だ貴様は」

 

「初めましてだ。瀬川範政と言う。噂は聞いているよ。君に作戦に参加してもらいたいんだ。この、加賀とな」

 

 瀬川の側に、扉のある方に背を向けて立っていた加賀が、若葉の方へと向き直る。が......

 

 

「.....................!!??」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「...............♪」

 

 今度は真顔とも笑顔ともつかない微妙な表情を浮かべていた若葉に。握手を求めようと振り向いて、その顔を覗き込んだ加賀は、背筋に電流のように流れた悪寒に思わず手を引っ込めた。

 

 ......何故だろうか。こいつの回りだけ、空気の温度が低い気がする。それに、この、頭に目一杯鳴り響く警報は......?

 

 説明の難しい気味悪さを目の前の小柄な駆逐艦から感じとり、加賀が自分の動悸が激しくなる感覚に戸惑っていると。若葉が先に口を開いた。

 

「どうか......しました......? 傷つきますねぇ......若葉が何か、しましたか?」

 

「......ッ、なんでもないわ。これからよろしく頼むわね」

 

「若葉でよければ......うふふ.........♪」

 

 恐る恐るといった様子の加賀とは対照的に、飄々とした、どこかふてぶてしいとも取れる態度で、若葉は相手と握手をする。

 

 瀬川、加賀、そしてウツギには名前のわからない艦娘の三人が部屋を出ていった後。ウツギは若葉に説教染みた声をかける。

 

「客に向かって殺気をぶつけるとはな。何様だ」

 

「......腹が立ったのさ」

 

「...何?」

 

 「暇潰しだ」。てっきりそんなような言葉が出てくるのだろう、と踏んでいたのに、予想外な言葉が出てきて、ウツギは怪しい顔になる。

 

「気持ちが良いものではなかろうさ......あんなにギラギラ自分の上司を睨んでくるなら」

 

「......深尾の事を思ってだったのか?」

 

「勿論」

 

「若葉.........」

 

 目を細くして笑顔になる若葉へ、深尾がまんざらでも無さそうな表情になる。どうやら護衛に数十分睨み付けられていたのが堪えたらしい。

 たまには良いことするんだな......いや良くはないか。ウツギが思っていたとき。

 

 

「嘘に決まってまス」

 

「バレたか」

 

 

 春雨の突っ込みに、すぐに本心を白状した若葉へ。一転してウツギは軽蔑の眼差しを向けた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「.........ありがとう。セガワ」

 

「どうした急に」

 

「気を、使ってくれたんでしょう......私のために」

 

 第五鎮守府から、自分達の家代わりである呉鎮守府へと車を走らせる瀬川へ、助手席の窓に肘を乗せて頬杖をついていた加賀が声をかける。

 どういう意味だろうか。瀬川が考えているうちにも、加賀は続ける。

 

「出自のせいで孤立しがちな私のために......あの人たちを選んだんでしょう。それぐらいはわかるわ」

 

「......どうしてそう思った」

 

「例の部隊......ゴーストだったかしら。戦歴や腕前だけで選ぶなら、他にも候補はあったはずよ......それこそ、あの子達よりも手練れで度胸もある大本営勤務から何人か引っ張ってくる、とかね」

 

「......鋭いな」

 

「姫級をなめないで頂戴......この黒い腕のせいで、散々言われたもの。それを気にしていたのは自分だけじゃなかったのは、意外だったけど」

 

「気にするさ。お前だって俺の部下だからな。心配しない訳がない」

 

「..................本当に、人間とは不思議な生き物なのね」

 

 そっぽを向いて、窓の外に広がる、満開の桜並木が流れていく様子を見ている加賀へ。彼女には見えていなかったが、瀬川は楽しそうな笑顔になる。

 

「でも、良かったの。本当にあの子達で。言ったら悪いけど、あの子には荷が重いと思うのだけれど」

 

「問題はないと思うがね。吹雪はどう思った?」

 

 加賀の質問に、瀬川は返事をしたあと。後部座席に座っていた、普通の吹雪とは明らかに違う容姿をした、戦艦の艦娘に近い体格の、薄手のコート姿の艦娘へ投げ掛ける。

 

「少し心配ですけど......大丈夫じゃないでしょうか」

 

「例えば?」

 

「失礼ながら、ずっと殺気をぶつけてみたんです......動揺はしてましたけど、同時に堂々としていました」

 

「......あの子、あなたに睨まれたのに、あんなに平然としていたの!?」

 

「はい......ちょっと驚きましたよ。目で殺すのは慣れていたのに......」

 

「そんなことしてたのか吹雪......」

 

「すいません。でも、度胸も肝も据わってましたよ。あの人」

 

 笑いながら言う吹雪に、加賀がひきつった笑顔になる。

 吹雪に睨み付けられて動じない艦娘か。でも、ただ単に鈍感だっただけではないのか。そう思った加賀は、更に瀬川に聞いてみる。

 

「......度胸は丸。でも気概だけでこなせるほど、今度の作戦は甘くないと思うわ。特に個人の強さが試される今回は......」

 

「逆だ。弱いからこそ、強いんだ」

 

「......?? 意味がわからないわ。どういうことかしら」

 

 何をいっているんだこいつは。そう言いたげに視線を向けてきた加賀へ、得意気な顔で瀬川が説明する。

 

「強い奴ってのは、どれだけ注意していようが、心のどこかで敵を侮る......ウツギはそれが無いと思うんだ」

 

「基本的に自分より強い敵を相手しないといけない状況に立たされ続けた彼女だ。だから絶対に敵を舐めて真正面からいくような真似をしない......「(から)め手を使って勝つ」手段をいくつも考えて行動に移さないといけないわけだ」

 

「そしてそれは結構キツい事だ。安全策から博打に近い行動まで一通り作って、最適解に近いものを選び行動する......咄嗟に頭を使わなければいけないし、なにより失敗すれば、場合によっては死ぬことになるし、それで自分だけが不利益を被るならまだしも、他人を巻き込みかねなかったりな」

 

「そしてもう1つ、彼女には強い武器がある」

 

「......どんな?」

 

「それはな。「評判の割には、一人だと対して強いやつじゃあない」って噂がでてしまっていることさ」

 

「万が一今回の人事が敵に漏れてもいいわけだ。むしろ、情報を手に入れた敵が馬鹿なら、こっちを侮ってかえって作戦が楽になる」

 

「そんなところまで考えて......呆れた。利用する気満々ね」

 

「保険だよ。相手にも賢いのがいれば警戒されるしな......まぁ、とりあえずは素の実力もある三人だ。繰り返すが、組んで良かった、と思える相手を選んだつもりだがね。」

 

 .........それなりに長い付き合いだけど。心が読めない人間だな。この人は。

 半分ほど開いた車の窓から入ってくる桜吹雪を眺めながら、加賀はシートに深く体を預けて、仮眠でも取ろうかとまぶたを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

水中を潜航しての進軍を行う四人。

道中で野営を行いながら、彼女たちは親睦を深める。

元深海棲艦の若葉と加賀。

出自の同じ二人は何を話し、感じるのか。

 

 次回「化け物」。 誰も知らない。風が知っている。

 




サザンカ、どーでしょうか。不気味な感じが出ていれば、と思います。

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