資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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御待たせしました。次でコラボ回は終わる予定です。


血染めの青い肩(挿絵有り)

 

 

 

 磯風が逃走中に立ち寄った部屋の電源設備を滅茶苦茶に破壊したせいで停電を起こし、電気や監視カメラの機能が落ちた廊下を、ならず者三人、スパイ二人、ついでに巻き込まれた一人の計六人が駆けていく。

 最短距離で格納庫に着いた六人は、たまたま訓練終わりでその場に居合わせた艦娘達をなぎ倒して、各々の艤装を見つけて装備する。

 

『アザミ、磯風らの艤装装着を許すな!!』

 

『射殺しろォォォ!!』

 

「......ふん、もう着けちまったぜ?」

 

 予備電源を使用しての館内放送に、相手にはもちろん聞こえないが、嵐が返事をする。

 「弾と武器は持てるだけ持ってけ」という磯風の忠告に従い、アザミが格納庫に置いてあった火気類を艤装の積載量の許す限りの数を分取り、ステラと山風の三人でリフトに乗って地上を目指す。

 なるべく楽に脱出できたらいいな。アザミがそんな事を考えていると、リフトの上昇が止まり、全員が地上に到達する。

 

「ついたか。どこから出る?」

 

「............!」

 

「えっ?アザミ?」

 

 外に出るや否や、誰よりも早くその場から海に降りてどこかへ行くアザミを、ステラが呼び止める。五人が何事かと海を滑っていく彼女を見守るなか。

 

「............」

 

 アザミは艦娘用のバズーカ砲を担いで管制塔に狙いを定め、遠慮なく引き金を引いた。

 

『ん...?しっ、司令官!!』

 

『何だ?...なっ!?』

 

 発射された弾頭は煙を巻き上げて飛んでいき、そのまま吸い込まれるように司令室に着弾。轟音を響かせて、塔に取り付けてあったアンテナやスピーカーといった設備が海面に落下していく。

 

「............」

 

 そしてそこから流れるような動きで他の監視塔に向かって次々とロケットをぶっ放すアザミを見て、あまりの手際の良さに気持ち悪さを感じながら、山風が口を開く。

 

「な、なに、やってるの......あれ」

 

「気でも狂ったのか?」

 

「いやそうじゃない。奴等の目をツブして回っているんだ。これでもう何やったって知ったこっちゃ無いって事さ!」

 

 よほど泊地での生活に不満があったのか。嬉しそうに喋りながら磯風が逃走の算段などすっかり後回しに、基地の設備に向かって砲を向け弾をばら蒔く。

 訓練から基地に戻る途中の艦娘に容赦なく砲弾の雨をお見舞いする味方へ、若干軽蔑の眼差しを送りながら、ステラが山風を引き連れてアザミの後を追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「手伝うよアザミ」

 

「いイ。早く......逃げル」

 

「でも、あの人たち」

 

 演習場内から見える監視塔を全て潰したあと、アザミが持っていた武器を投げ捨て、加勢に来た二人に言う。しかし山風が指を指した方向を見て、アザミとステラは頭を抱えたくなった。

 

「はーはっはっはっ!!」

 

「やっちまぇぇ!!」

 

「ブッ飛ばす!!」

 

「「............」」

 

 あんのトリガーハッピーどもめ......。

 増援やその他の危険を見越し、さっさと逃走することを優先しての行動が無駄にならないか、と、アザミが、騒ぎを聞いてやってきた艦娘たちに砲撃を行う三人に向かって叫ぶ。

 

「何してル!!」

 

「全部ぶっ殺したほうが逃げやすいだろ?」

 

「黙って来イ...!」

 

「チッ...うるせーな」

 

 「ベチャベチャ言うならテメェらだけで逃げろよ」。そう言ってきた嵐に舌打ちし、アザミが二人を連れて逃げようと反転したとき。破壊した塔の一つがまだ生きていたらしく、スピーカーから、これもどうやら殺すまでには至っていなかった富川の怒号が聞こえてきた。

 

『暴動になる。自動防衛機構を使え』

 

『え?いや、しかし味方が......』

 

『構わん!一軍以外は替えが利く!動くものは全て敵だ!!』

 

 .........言わんこっちゃない。

 抹殺命令の放送を聞いて青くなるどころか、ますます嬉しそうに「楽しくなってきやがった」、「殺りがいあるねぇ」などとのたまって水中や壁から出てきたトーチカを撃っている三人から、アザミ達が距離を取る。

 

「みっ、味方です!」

 

「な、なんだ!?無差別にやる気か!?」

 

「あああぁぁぁぁ!!!!」

 

 本当に味方ごと殺す気なのか......?......正気の沙汰じゃない......。

 増援として出てきたところを無人操縦の砲台に撃たれて倒れる艦娘たちを見て、思わず助けに向かいそうになるステラを、アザミが肩を掴んで強引に連れていく。......が、二人が頭で考えていることは同じだった。

 

「放して!助けに」

 

「......駄目」

 

「どうして!」

 

「逃げなきゃ......犠牲......増えル」

 

 アザミの発言の意図を察して、ステラが歯軋りをしながら、爆発音と悲鳴が聞こえてくる後方を睨む。

 そんなやり取りや考え事を逃走者達がやっている最中も、絶え間なく増援やトーチカから放たれる砲弾が飛び交い。ついさっきまでは静かだった演習場が、共食いの時を思い起こさせるような、艦娘達の阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる状態になっていく。

 

 

 何分経ったのか。

 血のように赤黒い夕焼けの光で見た目も血の池のような色になっている水面を、ただひたすら敵を無視してジグザクに三人が滑っていると、後方から砲声とは明らかに違う人間の声が聞こえてきた。

 

「やっと追い付いた。着いてこい」

 

「従う必要が?」

 

「ここは外壁に囲まれててな。一ヶ所だけ脆い部分があるからそこを壊して出ていこう」

 

「............」

 

 先頭を進む磯風の背中を真顔で見つめ、アザミが不機嫌そうなステラと震える山風を宥めながら、その後を着いていく。

 ふと、何かを感じたアザミが頭を右に傾けた。すると頬を砲弾が掠め、目線の先で大爆発を起こす。一瞬だけ振り向いて後ろに目を向けると、何人かの艦娘が綺麗に隊列を組みながら追い掛けてきていた。どうやら、ならず者三人が振りきれなかった追っ手も一緒になって追い付いてきたようだ。

 

 .........本当に、こいつらはちゃんと逃げるつもりはあるのか?

 

 ニタニタと気持ちの悪い笑顔を浮かべて、両肩にロケットランチャーを持って後ろを向く嵐を見て。アザミは舌打ちをしそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「とんでもねーことんなっちまったナァ.........」

 

「これも運さ」

 

「.....................」

 

 包囲網を突破し、何とか六人が壁を越えて脱出に成功した頃には、完全に日が落ちて周囲は暗闇に包まれていた。

 基地から数十キロ離れた地点で人数確認や武器の交換のためにと一先ず停止し、まるで他人事のように呟く三人に苛々しながら、アザミは持ち込んだ予備弾倉を砲に装着していると。加古が眠そうな顔をしながら質問をしてきた。

 

「で。どーすんだいこっから。逃げる算段はできてんだろ?」

 

「味方......呼んダ」

 

「準備万端かい。こりゃ命の心配は無さそーだナ」

 

「どの口が言うのかしら。あんたらが暴れたせいでしょ」

 

「..................そっくり返すぜ」

 

「なんですって」

 

「やめとけ。こんなところで仲間割れしてる場合か」

 

 口論を始める加古とステラの間に磯風が仲裁に入った時だった。

 

 

いきなり周囲が真っ昼間のように明るくなり、六人が眩しさに目を細める。

 

 

 何だ?アザミが腕で影を作りながら前を向くと、そこには横一列に並んでこちらを威圧する、ブルーショルダー達が立っていた。

 この光景を目の当たりにした瞬間。山風はかつてないほどに青ざめ、他の五人は全身から冷や汗が吹き出た。

 いったいどこからこんなに湧いて出てきた......。明らかに120人以上の数がいる相手を見て、前の第五鎮守府防衛戦よりも遥かに兵力差がある状態に立たされ、動悸が激しくなるのが自分でもわかるほどに狼狽するアザミに配慮する訳もなく。前方にいた艦娘たちの声を拾った無線から、艦娘と富川のやり取りが聞こえてきた。

 

『アザミ、五十鈴、山風、磯風、嵐、加古の六人を発見しました。逮捕しますか?』

 

『殺せ!欠片も残すな!』

 

『『『了解!!』』』

 

 

「......へへっ、潮時かねぇこりゃ」

 

「運命かな。どうしようもない」

 

「そう言っとけばなんとかなると思ってんのか?」

 

「来ル」

 

「わかってんよ」

 

 覚悟を決めねば。全員がそう思って、所持していた武装全てのセイフティーを外し、適度な距離を保っての連携攻撃をしようと編隊を組もうとする。が、同時に全員が相手から違和感を感じ取った。

 

(......撃ってこない?)

 

 こちらが捕捉されてから一分が経過しようとしているのに、副砲の弾一発すら敵部隊が飛ばしてこないことに、六人が不思議な気持ちになっていたとき。

 傍受した無線から、若い女の声が聞こえてきた。

 

 

『パラオ泊地の部隊に告ぐ。直ちに武装を解除しろ』

 

『繰り返す。直ちに武装を解除し、事情を.........』

 

 

「......誰の声だ?」

 

「知らないな。上の人間か?」

 

 あいつか。声の主が誰なのかを知っていたアザミが、ほんの少しだけ口角を上げたのを見た磯風が相手の事について聞く。

 

「..................♪」

 

「......お前、知ってるのか」

 

「味方......行ク......!!」

 

「は?」

 

 味方だ、と発言すると同時に、動きが止まっていた相手目掛けて、艤装に取り付けるタイプのロケット砲を一斉発射しながらアザミが艦娘の壁に突進。慌てて五人が半ば自棄を起こしながら、同じように弾の許す限りに火気類を乱射しながら敵陣に突っ込んだ。

 

「.....................!」

 

「うわぁっ!?なっ、正気かあいつ!!」

 

「っ!弾幕で狙いが!」

 

 全弾を撃ちきる勢いで発射された弾があちこちで爆発し、猛烈な爆煙が巻き起こる夜の海上を、煙にむせながら六人が突破。振り向き様に煙幕をありったけ振り撒いて、全速力で逃げる。

 

 ......後は頼んだ。

 暗い海の中で、一点だけ赤く光っている場所を見ながら。アザミが敬礼をした。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら逃げれたみたいだ。あとはこいつらをどうするか、か。

 アザミ達が蒔いた煙が段々と晴れていき、先程と同じくこちらをライトで照らすブルーショルダー隊の艦娘達と相対しながら、女が考える。

 全員が、自分へ凄まじい剣幕で視線を向けてくることに、少し不快感を女が感じていたとき。相手の艦娘の一人が持っていたスピーカーから、富川の震えた声が聞こえてきた。

 

『......なんのつもりですかな?RD代表殿?』

 

「これはこれは富川大佐。いや、少し貴方の泊地に忘れ物をしてしまったもので。取りに来たのです」

 

『忘れ物、ですか』

 

 富川のこの発言が出た途端に。並んでいた艦娘達が一斉にRDへと砲を向け狙いを定める。

 

「......これは、どういう事ですか?お出迎えは必要ありませんよ。すぐに帰りますから」

 

『シラを切ろうというのか。この期に及んで。このクソアマめ。諜報屋の始末は止めだ。貴様だけでも海の藻屑にしてくれる』

 

「とうとう正体を見せたな。それが素か?富川謙太郎。それに残念だがこんな場所で死ぬ予定は組んでいない」

 

『どうせ貴様のせいで私はもう失脚が確定した。最初に見たときから気にくわなかった。今日は私にとっての記念日となるのだよ。刑務所に入る前の最後の、「いけすかない女を殺して心置きなく快眠できる」というな』

 

「.....................」

 

『どうした。死ぬ覚悟を決めているところか?可哀想だがあと数秒も待っていられんぞ』

 

「二度目を言わせないでくれ。私は死ぬつもりも無いし、自殺しに来た訳でもない」

 

 RDは腰に差した二本の剣を抜き、体の力を抜いた楽な姿勢をとる。それを艦娘の持っていたカメラ越しに見ていた富川は、あからさまに余裕そうな態度の相手に苛立ちを隠せない様子で喋る。

 

『おめでたい脳みその女だ。この状況で勝って逃げおおせるとでも思っているのか』

 

「.....................死ねるか。戦いで死ぬのは結構だが、下衆の人形相手に命を落としたくはないな」

 

『.........やれ。肉片ひとつ残らない灰にしてしまえ』

 

 

 艦娘達の砲が一斉に火を噴いて、自分のもとへと砲弾の雨が殺到する。

 それを、特に苦もなく回避か切り払うかでやり過ごし。RDは呟いた。

 

「......言ったはずだ。死なんよ」

 

『ばっ.........』

 

「あと、この状況で逃げれると思っているのか、だったか。......思っているとも」

 

 

 

 

「進退(きわま)まろうと、気概があれば活路は開ける。......殺せるものならやってみろ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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次回、「解体」。 死神が死ぬときがやって来た。

 




キャラ投票で一番だったRDの挿絵を入れました。
どうでしょうか......?(心配

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