資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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アンチヘイトタグが機能し始めるかもしれないお話になります。
注意!


皆殺し訓練

 

 

 

 

 

 午前5時12分。分厚い雲がかかったパラオ泊地上空を行く、大型兵員輸送ヘリの中に、アザミと、変身した上で更に軽巡五十鈴に化けた蹴翠提督は居た。

 最低限の荷物だけを持ち込み、ひたすら目的地まで寝ていたアザミの隣にいた艦娘が、窓から外を見ながら仲間と駄弁り始める。

 

「チッ、駄目だ。こう雲が厚くっちゃあ何も見えねぇ」

 

「知ってるか?ここの大気には特殊チャフとスモークがばら蒔かれていて、衛生写真すら撮れねえらしいぜ」

 

「吸血部隊の本拠地らしいや。生きて帰れるか、心配だぜ......」

 

 そんな、仲間内で喋っていたうちの一人が、寝ていたアザミを見つけると、彼女に指を指しながらこんなことを言い出す。

 

「ん......?おいおい、もう死にかけてるやつが居るぜw」

 

「ヘヘッ。こりゃ傑作だw」

 

「...............」

 

 うるさい。黙って乗ってろ。

 ならず者たちの笑い声で目を覚ましたアザミが、内心そんなことを考えていると。会話が始まる切っ掛けになった艦娘に肩を掴まれる。

 

「どうしたぁ?口も聞けないんでちゅかぁ~?」

 

「やめなさいよ」

 

「.........あ゙?」

 

 ......よせばいいのに。別に気にしてないし。

 アザミがそう思っていたこととは知らず、彼女をいびり始めた艦娘へ、対面するように座っていた五十鈴の姿をしたステラが止めに入る。やはりと言うべきか。注意を受けた艦娘は頭に来たらしく、ステラの胸ぐらを掴んで怒鳴り始める。

 

「てめぇもっぺん言ってみろ」

 

「これから仲間になる奴でしょうに。くだらないから止めろって言ったの」

 

「知ったような口きくんじゃねぇ!!」

 

 艦娘がステラに殴りかかったその時。機内に着陸を予告するアナウンスが流れ、舌打ちをしながら艦娘は席に戻る。

 

『シートベルト着用、これより着陸する』

 

「......チッ。覚えとくぜ。そのムカつくツラ」

 

「...............」

 

『着陸後、速やかに艤装格納庫へ向かうように。新人演習を行う、遅れるな』

 

「あぁ...!?マジかよクソッタレ」

 

「めんどくせぇったらありゃしねぇや」

 

 ついた早々に新人演習......。事前の調べからして、絶対に普通のではないのだろう。

 相変わらず紫がかった真っ白な景色が見えるだけで、窓からは何も見えない外を見ながら。アザミはシートベルトを締めているときにそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『急げ!!10分以内に地上に出ろ!!』

 

「...............」

 

 基地の所用施設が地下に埋まっている、まさに秘密基地という例えがしっくりくるパラオ泊地に入ってすぐ。

 館内に響き渡るサイレンに「やかましい」などと感想を抱きながら、アザミとステラはヘリコプターの中で言われた通りに、艤装格納庫へと駆けつけていた。

 

「何が始まるんだろうね」

 

「...............」

 

 少し不安げに声をかけてくるステラへ、無表情の顔面を向けて返事をすると、一言も発さずにアザミは用意されていた弥生の艤装を背負う。

 そしてステラと互いに装備の確認を済ませて、二人は格納庫の奥に設置されていた、恐らくは貨物輸送に使うような粗末なリフトに乗り、地上を目指す。

 

「駆逐、軽巡、重巡......大型艦はあまり居ないんだね」

 

「...............」

 

 自分達と同じくリフトに乗って上に登ってくる艦娘たちを見て、手すりに肘を乗せながらステラが呟く。

 ほどなくしてリフトの上の天井が開き、地上についたため上昇が停止。何となくその場の空気で登ってきた艦娘たちと二列で整列をし、アザミとステラが次の命令を待つ。

 大体数は20ぐらい。装備は...普通か。相手はどうか解らないな。

 味方の数におよその目星をアザミがつけていたとき。演習場の海の底から何本も突き出ていた、スピーカー付きの鉄塔から音声が流れてきた。

 

『右手二キロほどに敵部隊が散開。突破して目標地点に到達したものから帰還するように』

 

『模擬戦闘だからといって、気を緩めるな。発進!!』

 

 スピーカーの男の声に従い、その場にいた全員は鉄板張りの床から水面に降りて、目標地点に向かって海を滑っていく。

 数秒後。集団の先頭にいた、アザミに突っかかってきた一人が、特に意味もないぼやきを口から垂れ流し始める。

 

「ったく、本人確認すらせずにいきなり模擬戦だぁ?どーなってんだよ」

 

「俺が知るかよ。っあぁ、めんでぇな」

 

「それによ、見たか武器の中。実弾だぜ」

 

「整備の連中が間違ったんだろうよ。まっ、関係ねぇがな」

 

「はははは!!いいなそりゃ!!」

 

 ......本当だ。少し下がるか......。

 問題児たちの発言に、アザミも一度砲の中身を開けて覗いてみる。先頭集団の狂言ではなく、本当に実弾が込めてあるのを見て、アザミはとてつもなく嫌な予感を感じ、ステラと後方に移動した。

 数分後、今度は相手を務める艦娘たちの姿を確認し、またならず者の一人が楽しげに話始める。

 

「来やがったぜぇ......」

 

「いっちょ脅かしてやるかぁ?」

 

「へへっ、乗ったぜ」

 

 そして、アザミの肩を掴んできた艦娘が、砲を構えて撃とうとしたその時。

 

 

「どうせ空砲だ、目一杯ブチこんでやろうぜ!」

 

 

 横並びに展開していた相手の艦娘の武装から

 

 

 一斉に実弾が飛んできた。

 

 

「.........何?」

 

 艦娘の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ......」

 

「ぎゃあっ...!?」

 

「なっ、何だ!?何が起きて!?」

 

 やっぱり......そう来たか。

 最悪の予想が当たってしまったな。アザミが相手の放ってくる攻撃を回避しながら、考える。

 先頭に居たことが最大の不幸となり、およそ40を越える敵の集中攻撃で、見るも無惨な姿になって死亡した艦娘の生首が飛んできたことに、配属された艦娘たちは一気にパニックに陥った。

 あるものは状況が理解できないまま蜂の巣にされ、またあるものは悪友の死に錯乱して足を止めたところを狙撃され......。先程までは軽口が飛び交っていた演習場が、叫び声と悲鳴が木霊する地獄へと変貌していた。

 

「うぅっ!?うわっ、うゎぁぁぁぁぁ!!」

 

「助けてくれ!!ぎゃあああぁぁぁ!!??」

 

『ナンバー4、大破。ナンバー8、機能停止』

 

『ナンバー3、大破。ナンバー10、大破』

 

「...............っ!」

 

 なるほど。物扱いして殺しているのか。

 スピーカーから淡々と流れてくる声に苛立ちながら、凄まじい精度でこちらを狙い撃ちしてくる敵に、アザミが顔をしかめていたとき。同じく、「能力」があるとはいえ、実戦に慣れていないことが祟って、あからさまにやつれた顔をしているステラが話しかけてくる。

 

「ねぇ、ちょっと......うわっ...!...これ模擬戦なんかじゃない!!あいつら皆殺しにする気だ!!」

 

「......逃げる......狙われる.........突破すル...!」

 

「へっ!?で、でも」

 

「着いて来イ!!」

 

「えっ!?ちょっと!!きゃあっ......!」

 

 その場に転がっていた駆逐艦用の装備を引っ掴み、身を低くして突撃を始めるアザミを、汗で顔を濡らしながらステラが必死で追う。

 両手の砲を交互に撃つことで、なるべくリロードの隙を無くしながら、ジグザグに海上を滑って敵に向かってアザミが接近していた時。胸に付けていた無線機が、相手の通信の声を拾ったらしく、こんな会話が流れてきた。

 

『5番やけに動きがいいぜ~......』

 

『13号も付いてきやがる』

 

『ふふっ、ぶっ殺せ!!』

 

「...............!」

 

 そう簡単に死んでたまるか.........。

 対艦用ロケットバズーカ、ミサイル、駆逐艦の砲撃に、大型艦の副砲の弾といったものが雨あられと降り注ぐキルゾーンを縦横無尽に動きながら。外道の仕打ちに流石に頭に来たアザミは、陣形の中央に居た艦娘の顔目掛けて砲の引き金を引く。

 

「うぅおわっ!?こっ、こいつ!」

 

「...............!!」

 

 そして、自分の顔に飛んできた砲弾に相手が怯んだ一瞬の隙をついて、そのすぐ隣にいた艦娘をタックルで突き飛ばし、いままでのお返しとばかりに振り向き様に何発かの砲弾を相手に見舞ってから、アザミはステラと一緒に目的地まで一目散に逃走する。

 

「......や、やれた...?.........怖かった...」

 

「.........っ!まだ......気......抜くナ......」

 

「え?」

 

『おい、何してる!逃げたぞ!!』

 

『あの野郎!!フザけやがってぇ!!』

 

『ハンバーグよかひでぇミンチにしてやる!!』

 

 ルール無用に、命令無視か。ならず者らしい行いだな。

 赤い旗の立っていた目標地点を通過したにも関わらず、怒りに任せてこちらに何人かが向かっていることを、無線からの音声で把握して。アザミが心中で悪態をつく。

 

「ここで戻る......危なイ......もう少し」

 

 

「こんなとこに居やがった!!ぶっ殺せぇ!!」

 

 

「先回りされた...!?」

 

「引き付ける......隠れてロ......」

 

 鉄塔や防弾パネルといった海上にある障害物をうまく利用し、進んでいた先に回り込んできた三人の艦娘を見て、アザミは素早くステラに指示を出すと、また相手と平行に移動しながら、砲撃を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ......なんだこいつは。こんなに動きのいいやつが来るなんて聞いていないぞ。

 命令違反をして、アザミとステラを追いかけてきた艦娘の一人......駆逐艦の「磯風」が、比較的連射のきく自分の砲をアザミ目掛けて乱射しながら、そんな事を考える。

 

「っいぃ、クソ、当たんねぇ!」

 

「もっとよく狙うんだ!」

 

 自分と意気投合して、八つ当たり気味に相手を殺そうとついてきた、同じく駆逐艦の「嵐」と重巡の「加古」に指示を飛ばし。磯風と嵐の二人は砲と合わせて、背負っていた艤装に改造で取り付けたロケットランチャーを発射し、加古は持ち前の大口径砲をアザミに向けて砲弾を発射する。

 

「............!?」

 

「ッハン、死んじまいなぁ!!」

 

「終わった!」

 

 ロケットが足元で爆発し、よろけた相手の隙を見逃さず、磯風がアザミの持っていた単装砲を撃ち抜き、装備の爆発でアザミがたまらず前のめりに転倒しそうになる。

 これでおしまいだ。まぁ頑張ったほうか。こいつは。

 笑いながら、転ぶアザミに三人が止めを刺そうとしたそのとき。

 

 

アザミは倒れ込む瞬間に、壊されなかった方の武器で水面を撃ち、体制を立て直した。

 

 

 下を撃った反動で立て直しただと......ォ!?

 とても普通の艦娘が咄嗟に真似できるモノではない芸当をこなし、危機を脱出したアザミに驚き、動きを止めてしまった磯風が、今度は逆にアザミに武器を撃ち抜かれ、爆発でその場に倒れこむ。

 

「うっぐっ......見たか?」

 

「何てヤロウだ......」

 

「クソッ!!」

 

 自分と同じく、ロケットと魚雷を撃たれ、爆風で転倒した嵐が悪態をつき、まだ攻撃を続行できる加古のみが砲撃を続ける。しかし......

 

「............」

 

「なっ、あいつ逃げ」

 

 

「こっちも忘れてもらっちゃ困る!!」

 

 

「っ!?」

 

 片腕を怪我で動けなくさせたとはいえ、まだ元気に逃げ回るアザミにすっかり気をとられていた加古は、背後に回っていたステラの接近に気付かず。武器類と背中の艤装にしこたま砲弾を叩き込まれてしまう。

 

「うぅぅぅおぉぉわっ!?」

 

「加古!」

 

 武器が破損して飛び散った炎が燃料に引火し、大爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んだ艤装を、急いで外して放り投げて。なんとか爆死せずにすんだ加古は、受け身を取りながら海面を転がる。

 

「ハァ......ハァ.........」

 

「夢でも見てんのか......俺ら」

 

「...............」

 

 何者だ。あいつは......。

 装備類を余すことなく全てめちゃめちゃに壊された三人は、ただ目の前を悠々と逃げていく二人を睨み付けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

辛くも、必死の奮戦で「共食い」に生き残った二人。

そして晴れてブルー・ショルダー構成員として、

アザミ、ステラは富川に認められる。

そんな二人に近づく三つの黒い影が......

 

 次回「札付き」。 アザミ、牙城を崩せ。

 

 




はい、と言うわけでお気に入り件数がごっそり持っていかれそうなお話でした。
ブラ鎮だし多少はね?(白目

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