ですが意外と筆が進んだりします。
容赦なく照りつけてくる太陽、白い砂浜、そして南国を思い起こさせるようなヤシに似た木々。......に、不釣り合いな妙に適温に保たれた気温に、それを快適に感じて受け入れながらも言い様のない気持ち悪さを感じながら。今シエラ隊の六人は氷川鎮守府があるという幻島に到着し、その土を踏みしめながら目的地へと歩いていた。
そんなとき、ウツギのすぐ後ろをついて歩いていた漣が、なんとなく意識がここに無いような変な顔をしながら、前をいくウツギに話し掛けた。
「......ウッチー、さっきの見たよね?」
「見てない」
「ウッソー!?」
「いや信じたくないの間違いかな」
まさかあんな超常現象を見ることになるなんて......。
忘れようとしていた事を、漣の質問で呼び起こされてしまったウツギが、眉間にシワを寄せて渋い顔をしながら考える。
彼女たちに何があったかと言えば。それは数分前、シエラ隊が島に上陸する前まで遡る。
乗ってきた船の操縦を任されていた艦娘によれば、この幻島は特殊な「膜」に被われ、それの効能のせいで「そこにあるはずなのに、道を行く者には感知されない」という特性があると言われて全員で笑い飛ばしていたところ。
いきなり海上で船が急停止。そして船を操縦していた赤い服の小柄な艦娘が、何かの呪文らしき言葉を呟くと、突然目の前に島が現れるという腰が抜けるようなアハ体験を受けていたのだ。
「でもさ、ウツギ」
「天龍か。どうした?」
「資料を見た俺の記憶が正しければさ、その、蹴翠さんだかって島ごと召喚されたわけじゃん?」
「ヤバイッスよね」
「たかが一人にそこまでするか普通?」
「それだけ期待されてるって事じゃないのか」
後ろを振り向かずに、そのまま道に転がっていた石や枝を蹴飛ばして歩き続けながら、ウツギが天龍に返事を飛ばす。
確かに天龍の言う通り。元帥クラスの特務免許に、こんな天然の要害まで貰って、向こうはこの幸運に感謝すべきだな。なんて事を、歩きながらウツギが思う。
そうして考えているうちに結構歩いたようで、ウツギ他残りの五人も視線の先に目的地と思われる建物を見つける。
「うっわ......でっけーな」
「くくく...若葉が来たばかりのお前たちのより大きいんじゃないのか.........?」
「小さいほうが良いこともあるんだぞ」
「例えば」
「掃除がラク」
「ぶっほw」
「.....................」
大規模な和風の旅館を思わせる建物の前で、どうでもいいようなやり取りをウツギと若葉がやっていると。
突如として、全員がその場から動けなくなる。
「「「...............ッ!?」」」
なんだ.........何がおきたんだ。金縛りってやつか?こんな突然に?
いきなり自分の体がその場に「固定されたように」動かなくなり、ウツギが冷や汗をかきながら思考を巡らせていた時だった。
「おい、誰だあんたら」
全員の耳に若い男の声が聞こえてくる。是非とも体の向きを変え、声の聞こえてきた方向に目線を向けたかったシエラ隊だったが、体どころかまばたきすらできない状態だったので、その行動を起こせなかった。
「で、
「ボディチェックでもしましょうか?」
「あぁ、そうしてくれ」
「了解ネー」
男の声に続いて、今度は艦娘だと思われる女の声が聞こえてくる。そして次には、ぴくりとも動けなくなったウツギの目の前に、事前に資料で確認していた駆逐艦「叢雲」がずかずかと歩いてきて、自分の体をまさぐり始めた。また通りすぎていった他の艦娘......「金剛」、「飛鷹」、「筑摩」といった面々も確認する。
そしてウツギの目の前にいたツリ目の女は、彼女の胸元から一枚の書類を引っ張り出して、それを自分の提督に見せながら声を張って発言する。
「この深海棲艦、何か持ってたけど?」
「見せてくれ」
「はい」
それは......確か本部から受け取った、査察に来たことを証明するための自分の血判を押した紙だったような......。
ウツギが考えていると、これまた突然金縛りが切れ、あまりにそれが唐突だったので、前につんのめって転んでしまう。
「............っ」
そしてやっと動かせるようになった体を動かし、立ち上がると同時に男の姿を確認してみる。
目線の先には、容貌からかなり若いと推察できる男が、青い顔をしながら立っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「「「本当にすいませんでした!!」」」」
「ホントよ!これだからゆとりは......」
「.........ふン!」
「あ゙っだ!?」
「島にやってきた侵略者なのでは?」などという相手の誤解が解け、やっと鎮守府に入れたシエラ隊を待っていたのは。ウツギの予想通り、相手の謝罪だった。調子にのって暴言を吐いた漣は足をアザミにかかとで踏まれた。
涙目で爪先を抱えながら右往左往する漣と、それを心配そうに見つめるツユクサを無視して、羽織っていたマントを脱いで畳みながら、無表情でウツギが言う。
「頭を上げてください。仕事ができません」
「えっ?あっ、はい、すんません!」
「あの、どうして敬語なのでしょうか......貴方のほうが階級は上ですよ?」
「おっと......ん、いや本当にごめん。こっちの早とちりでさ」
「構いませんよ。馴れていますので」
ウツギの返答に「え?」と言ってきた
「こちらが私達の情報についての書類になります。申し遅れましたが、私、資源再利用艦一番艦、第五横須賀鎮守府・第一艦隊・資源再利用艦混成万能攻撃部隊・フィフス シエラ隊の旗艦を務めております、ウツギと申します。また彼女らは左からアザミ、ツユクサ、漣、天龍、若葉です。期間中は出きるだけ仲良くしてやってくださると私の胃へのダメージが軽減されます」
「ちょっ」
「業務についてですが、我々は査察という名目で本日氷川鎮守府まで足を運んだ次第ですが、上層部からは蹴翠特務元帥及びその指揮下にある艦娘の方々へのデスクワーク業務の指導についても面倒を見るようにと通達を受けてきました」
「あの」
「また何か御不明な点がございましたら、私か隣の天龍、アザミに聞いていただければ解消できると思います。その時は親切に、念入りに、時間をかけて、理解を深め、かつ迅速に、効率的に指導にあたるつもりですので、解らないことがあれば、遠慮なく、どーぞ遠慮なく聞いてください理解して頂けたでしょうか?」
「......うっす」
ふう。疲れた。
内心、地味に苛立っていたウツギは、早口言葉の練習をするニュースキャスターのような平坦かつ明瞭な声での説明をこなして、こちらを見るや否や有無を言わさず奇襲(?)を仕掛けてきた相手への報復を完了する。
流石にこの口撃でウツギの内心を察知したのか。すこし元気が無くなった顔で、蹴翠提督が話題を変更しようと、鎮守府を案内することを提案してくる。
「仕事は把握した。じゃ、建物の構造案内するからさ。ついてきてくれ」
「はい...。......ッ♪」
「...............www」
提督に付き従う四人の艦娘の後を、シエラ隊の六人がついていく。自分達の背後で、ウツギが仲間へと得意気な顔をしながらピースサインをし、それを見た漣達が笑いを堪えていた事は、蹴翠提督たちは勿論把握していなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
書類をめくって内容を確認・的確な返事を記入・必要事項をもう一度確認・最後に終わった書類をカゴに入れて秘書の確認を待つ。この一連の動作を完了するのに僅か1分......いや、恐ろしいことに30秒もかかっていないだと......?
「......早いですね」
机に座り、眼鏡を掛けて、白い部分がほとんどないほど文字だらけの回りくどい説明が書かれた書類と格闘する叢雲を他所に。召喚された人間が持つと言う「能力」とやらの恩恵なのか、完全に人間に不可能な早さで書類を捌いている蹴翠提督へ、ウツギが声をかける。
「あの、もう少しゆっくりでも良いんですが......」
「いや、失礼な事したのこっちだしさ。へーきへーき」
............一応、悪かったとは思ってくれてるのか。......会ったばかりの時の漣やあの連中とは大違いだな。
どんどんカゴに放り込まれていく書類を、相手ほどではないにせよ慣れた様子で手早く確認しながら、北海道での熊野達やシエラ隊結成前の漣の事をウツギが思い出す。
そんな折、蹴翠提督が声をかけてきたので、ウツギが手を止めて相手の声に耳を傾けた。
「あの、聞いていいか」
「何でしょう?」
「答えたくなかったら別にいいんだけど。なんでそんな肌白いの? 君と、あとあのツユクサって子」
早速来たか。絶対に聞いてくると思った。
待っていました、と。こちらの情報がちゃんと相手に届いていなかったことから、絶対にこれは聞かれると思って事前に準備していた答えを、ウツギが話す。
「話すと長くなりますが。簡潔にまとめたほうがよろしいでしょうか?それとも全部を?」
「好きな方で」
「では............。なんと言うべきか......そうですね、持病です。生活に支障......は多少ありますが」
「見た目で差別されたり、ですかね。今はほとんどですが」。そう言うと、「ん、ありがとう」と返ってくる。てっきり根掘り葉掘り質問されることを想定していたウツギは、男と艦娘が引いてきたことに、「空気を読むやつらなんだな」などと感想を抱く。
数分後。
それほど多い量でもなかった為か、すぐに書類仕事が全て終了し、大体のことも二人に教え終わったウツギは席を立って部屋を出ようと行動する......前に、一つ気になった事を二人に聞いてみる。
「お疲れ様でした。......いきなりで申し訳ありませんが、夕食の準備はどなたが行っているのでしょうか」
「俺がやってる」
「そうですか。あの、今日は私が担当してもよろしいでしょうか」
「おっ、やってくれんの?」
「自炊についても指導を頼まれたもので」
「へぇ~楽しみだわ。雛兎のご飯は味が薄くて......」
「うっせっての。これでも頑張ってんの」
仲が良いんだな。蹴翠提督と叢雲の二人へ、はにかみ笑顔で会釈しながら、ウツギが部屋を出る。
さて、今日の献立は何にしようか......。夕食に頭を悩ませる主婦のような事を考えながら、ウツギはこの旅館のような建物の食堂へと向かって廊下を歩いていった。
この男の艦隊とシエラ隊の合同部隊が、海軍に蔓延る闇に切り込むことになるのをウツギが知るのは、もう少し先の出来事だった。
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敵の血潮で濡れた肩。地獄の部隊と人の言う。
南の海、元は平和だったこの地にその悪名を轟かせる
海軍南方地域防衛特務隊 O-1。
またの名を、「ブルー・ショルダー」。
次回「情報収集」。 そいつらは、狂暴で、残酷で、制御不能。
この調子でガンガン投稿できたらええな......