資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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大ッ変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。超長くなりました(文が)


銃師卯の花

 雪が酷くなってきたな......こんな事なら、ツユクサの真似をしてゴーグルを着けてきたほうが良かったかもしれない。

 降りしきる雪が目に入ったり、入らなかったり。それを非常に煩わしく感じながら、ウツギが前を行く響や熊野の後に付いていく。

 

 昼から始まった泊地の防衛戦が、敵が減るにつれて殲滅戦へと移行し、また時間の経過で日も傾いて周囲が薄暗くなる時間帯。準備で出遅れたシエラ隊、ガングリフォン隊、そして響の部隊からの人員が均等に混ざりあった混成部隊が、海上に展開して作戦行動を取っていた。

 時間がないので集まった者から順に出撃しろ、と言われた結果に出来上がった、ウツギ、アザミ、響、ポーラ、熊野、長門という、なんともちぐはぐなメンバーで構成された艦隊が敵の残党を処理する。

 

「¥'>"['[}"!!!!」

 

「敵、撃破。次だ」

 

「次はあっちだ。みんな着いてきて」

 

「承知.........」

 

 一匹一匹は大したことがないが......田中の時ほどではないにせよ、数が多いな......。

 RDから全艦娘に通達された、「敵の指揮官と思われる深海棲艦を撃沈した」という通信で、てっきりすぐに終わる戦闘かと思いきや、時間が経つ度に何処からともなく沸いて出てくる敵を。すっかり慣れた様子で、ウツギが牽制をしながら、アザミが精密砲撃を叩き込むという戦法で二人が容赦なく水底に突き落とす。

 

「はぁ、はぁ......轟沈を確認しましたわ...!」

 

「下がって~。前に出すぎですよ~」

 

「あっ、は、はいですの!!」

 

 シエラ隊とは練度の差がありすぎて勝負にならなかったものの、何の策もなく突撃してくる深海棲艦相手には、熊野も戦力として充分に機能していた。が、しかし。流石に三時間ぶっ続けの戦闘などは経験したことがないのか、息が上がっているのを見かねたポーラが彼女を心配して隊列を入れ換える。

 

「ラチがあきませんねぇ」

 

「どうしたんだいポーラ。今日はやけにはっきり喋ったりなんか」

 

「こんなに賑やかだと、酔いも覚めちゃいますよ~」

 

『こちらRD。残党の総数を把握した。残り30だ』

 

「っと...あと少しだね。頑張って」

 

 RDからの無線を聞き、響が新人二人をそう励ます。その様子を見ていたウツギが、艤装に付けていたレーダーの感知した情報を伝える。

 

「教官。このまま進むと敵反応が少数しか居ない方向に進みます。一度補給に戻るか、方向転換すべきかと」

 

「ん、そう。なら戻ろうか」

 

 まだまだ長丁場になりそうだしな。方向転換をしながら、残りの敵の数を把握しても尚、そうウツギが考えていたとき。

 

何故かとてつもなく嫌な空気を感じて、咄嗟に後ろにいた長門を体当たりで突き飛ばす。

 

「......!!」

 

「うわぁっ!!貴様何をォ!?」

 

長門を体当たりで突き飛ばした途端、その場に大きな水柱が上がった。

 

 

 

「チッ。外したか。艦娘風情が、鋭いじゃないか」

 

 

 

 間一髪、か。山勘も馬鹿に出来ないな。

 先程まで長門が居た場所で首を捻って、どこかで見た覚えのある粘ついた笑顔を浮かべる、金色の目をしたル級を見て。ウツギはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「............」

 

「ほうほうほうほう......なるほどォ」

 

「こんな奴等が......戦艦水鬼様を。許せんなぁ」

 

 音もなく......またどういうわけか、ウツギとアザミが装備していた、多機能レーダーのソナーシステムにも引っ掛からずに、水中から不意討ちを仕掛けてきたル級が、そう呟く。

 

「たった一人で勝てるとでも」

 

「...............」

 

「誰が一人と言った」

 

 仕草や言動から、恐らくは手練れと思われる相手に、ハッタリでウツギがなんともなさそうに砲を構えてそう言ったとき。今度は突然自分の艤装から警報が鳴り、ウツギが盾を構えて敵の攻撃に備える。

 ウツギの予感通り、ル級と同じく水中から浮上して飛びかかって来たレ級の右ストレートを、何とか盾で弾き返す。が、酷くひしゃげた装備を見て。ウツギは軽く舌打ちをした。

 

「キァーッハッハッハァッ!!......カラスの王が相手してヤる...!」

 

「!!」

 

「逃げるかァ?逃がさねぇよ......キハヒヒッ!!」

 

 高笑いをしながらの奇妙な自己紹介とともに、続けてジャブで自分を殴り殺そうと近付いて来たレ級から、冷や汗を掻きながら急いでウツギが距離を離す。

 ル級、レ級......あとタ級か。これは非常に不味いことになっているのでは無いだろうか。

 ル級、レ級の攻撃をどうにか凌いで後退し、同じく一度下がっていた味方と合流したウツギが、助けはしたものの、続けて現れたタ級にぶちのめされて気絶した長門を抱えたポーラを見て、自分達の旗色が悪くなったことに焦る。

 

「キヒャヒャッ.........水面(みなも)を這うケモノが、天を舞うカラスに勝てるものか......」

 

「はっ。終わりだよ。艦娘どもよ」

 

「艦載機......本格的に追い詰められたか」

 

「ッ、迎撃ですわ!!」

 

 レ級が、ウツギ達を逃がすまいと放ってきた艦載機を、身動きが取れる五人が必死で迎撃する。しかしわらわらと殺到してくる飛行物体は、かなり良い動きをするばかりか数も多く、まともな攻撃ができる人員が少なかったのもあり、少しずつウツギ達が押されていく。

 どうすればいい......持ちこたえられるのは、このままならあと数秒が限界だ。

 増援を要請しようにも、無線の電源に手を伸ばす暇などなく、また荷物を抱えて満足に攻撃に移れないポーラを流し見し、ウツギが懸命に考える。

 

「当たらない......もっと近くに」

 

「!!......熊野何をしている!!近づくんじゃあない!!っ、アザミ!」

 

「援護する.........行け......早ク......」

 

 こんなときに......若葉かツユクサが居てくれれば......!

 敵を倒すことに執着したか、疲れで頭が回らないのか。砲撃の射程に敵を入れようと無謀な突撃を敢行し始めた熊野を、アザミに空を飛び回る戦闘機を任せて、雪と砲弾が降る中ウツギが追い掛ける。

 想像通り。もともと砲撃が得意ではないことに加え、焦りと疲労で録に照準がさだまらないせいで、熊野の砲撃がほとんど敵に当たらないのを後方から見て、急いでウツギが追い掛ける......が、非常に嫌らしいタイミングで爆弾や弾丸をばら蒔いては去っていく艦載機のせいで、熊野になかなか追い付けない。

 そんな、全滅への最悪な道を隊が辿ろうとしているなか、運の悪いことに、熊野のレール砲が整備不良で自壊する。

 

「バレルが!?」

 

「熊野!!下がれ!!聞こえないのか!!」

 

 思いもよらないハプニングで軽い錯乱状態に陥って動きが止まったのを見逃さず。遠くで様子見程度に砲弾を垂れ流していたル級が、基地外染みた笑みを引っ提げ、艤装を放り投げて熊野目掛けて走ってくる。

 

「に、にげっ......きゃあっ!!」

 

「おいおい、雑魚は前に出張るもんじゃない」

 

「はっ、放しなさい!!」

 

「出来ない相談だ」

 

 壊れた武装を捨てて逃げようとする熊野が、タ級の砲撃で釘付けにされ、そこをル級に首を捕まれて身動きが取れなくなってしまう。

 言わんこっちゃ無い......くそ、あんなに距離が近いと狙いが.........!

 狙撃でル級を引き離そうか。ウツギが考えるが、別に自分は狙撃の名手ではない、と、砲の引き金を引く指が強張る。そのときだった。

 

白い髪をたなびかせながら、響がウツギの横を通って熊野のもとへと海を滑って行く。

 

 

 

『あんな、自殺しに行きそうな雰囲気のあの子は見ていられないから―――――』

 

 

 

まさかあいつッ―――!!

 

 

 考え事なぞ全て放り投げ、機関部の出力を最大にしてウツギが響を猛追する。

 

 

「命乞いなぞ無駄だ。じわじわといたぶってから殺してやる」

 

「ひっ......あっ...がっ......」

 

 熊野の首を掴む手の力を強めながら。ル級が、彼女の腹部に蹴りを見舞おうと足を上げる。

 

「まずは一回!!」

 

 

「どいて」

 

 

 熊野を、ウツギがやったように体当たりで突き飛ばし。響がル級に腹を蹴られて、血を吐きながら後方に吹き飛ばされる。

 

 

「ぐぅっ......ぅぅっ!?」

 

「ちっ、また外した。見上げた自己犠牲精神だな?」

 

「ひっ......」

 

「ん......お前はいつでも殺せそうだな。よし、あいつを先に沈めるか」

 

 焦点の定まらない目で響を見ながら。彼女にとどめを刺そうとル級が歩く。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「教官......響!!」

 

「おっと~。ここは通さない」

 

「...............!!」

 

 取っておきたかったが......仕方がないか。早くしないと...!

 先を急ぐウツギが、盾に装備されたハープーンガンで立ち塞がってきたタ級を狙撃。数秒で相手を撃ち殺して、熊野を無視してル級が殺しにいった響を追おうとする。

 しかしタ級の次には、今度はレ級が的確な砲撃をしながら邪魔をしてきた。それも、距離を詰めながらというおまけ付きでだ。

 

「キヒヒヒ......タ級をヤっちまうたぁ...強いなぁてめぇ」

 

「............ッ」

 

 これじゃあ進めない......かといって、引き撃ちをやめれば自分は挽き肉だ......。.........5対3から実質2対2か。しかも相手は格上。一旦逃げるか?いやダメだ、確実に響が殺される......。

 考え事で注意力が散漫としていたウツギが、左腕の盾をレ級に砲撃で引き剥がされる。

 

「ヒャアアアァァァ!!」

 

「ふぅおッ!?」

 

「ホラホラ、集中しねぇと死んじまうぞ~?」

 

 どうする......どうすれば......。

 若葉の上をいく狂人の表情を浮かべて追い掛けてくるレ級を相手に、ウツギが引き撃ちで注意する障害物などがないかを確認するため、一瞬後ろを向く。彼女の思考が停止する。

 

後方から、おびただしい量の深海棲艦の艦載機が飛来してくるのを見つけたのだ。

 

............。運命か。すまない、暁。約束は果たせそうもない。

 今度ばかりは死んだな。戦意を喪失したウツギがそう思った。しかし何故か飛んできた艦載機は自分に攻撃をしてこなかった。

 何が?意味がわからなかったウツギの無線から通信の音声が流れる。

 

『RDの部下の者です。ウツギ様、お下がりください』

 

 味方が来てくれたのか!安堵しながら、ウツギが盾で顔を庇いながら増援と連絡を取る。

 

「強いぞ......頼めるか?」

 

『お任せください』

 

「.........ありがとう!」

 

 よく見ると黒一色ではなく、航空迷彩が施してある戦闘機の攻撃で怯んだレ級の横を素早く迂回して、ウツギが響のもとへと急ぐ。

 獲物を逃がしたと、笑顔は変えずに内心不機嫌になったレ級の前に、顔に「AM」と刺青のようなものが入ったヲ級が現れる。

 

「ヒヒッ、てめぇか。邪魔しやがってよ。すぐに土下座でもすればスッキリ楽に殺してヤるぜ?」

 

「あの艦娘には恩がありますから。貴女を足止めさせて頂きます」

 

「キヒッ、まぁイい。貴様の血肉。俺たちが食い散らかしてやろう......」

 

 レ級が右手を上げ、大小様々な大きさの駆逐艦級の深海棲艦が現れる。それを見たヲ級はというと、持っていた杖を水面に置き、背中から一本の剣を取り出した。

 

「そんな棒切れでカラスを殺せるか?」

 

「カラス......?......まぁ、やってみるさ。姫様の技を受けることを光栄に思え」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『要心しろ。生き残りは全員、各地を転戦して艦娘を殺してきたプロ......人間で言う、傭兵とか言う奴等だ』

 

「情報が......遅いよ。全く...」

 

「しぶといな白い艦娘。まぁ虫の息だろうが」

 

 ヲ級がウツギに道を作る手伝いをしていた頃。響は、熊野を庇って鳩尾に強烈な蹴りを貰ってから、続けてル級から殴る蹴るの暴行を加えられ、死なない程度に痛め付けられていた。

 自分が死なないのはお前のせいだろう、と思った響が、ル級にこんなことを言ってみる。

 

「......しぶといなんて......。あんたが嘗め腐って手を抜いているヴぅッ......!?」

 

「ああそうだよ」

 

 恐ろしく無表情な顔をしながら、ル級が響を手加減しながら殴る。それでもやはり痛いことに変わりはなく、響が顔を苦痛で歪める。そしてひとしきり殴ったあと。ル級がどこかへ行った。

 逃げようにも艤装を壊された。もう無理だ。死ぬしかない。そんな事を響が考えていると、暴力でもって彼女を痛め付けるのに飽きたのか。ル級が捨ててきた艤装を持って戻ってくる。

 

「悲鳴の一つもあげないからな。飽きてしまった」

 

「............」

 

 

 姉さんの真似事であんな事をやったけど。痛いなぁ。死ぬのも......怖いな......。

 

 全身くまなく殴る蹴るの暴力を受けて意識が朦朧として水面に倒れていた響に、ル級が艤装の大口径砲の照準を合わせる。

 

 

 

遂に......私の番か。姉さん。今行くよ。

 

 

 

 ル級の艤装から、爆煙と共に砲弾が発射される。しかしこれが響の首を撥ね飛ばす事はなかった。

 

 

 

「姉.........さん...........?」

 

「...間に......合った...!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 全身全霊で響を追いかけて。響を撃ち殺さんとするル級を見て、悟られないようにと水中に潜り。砲撃の瞬間にウツギが水から飛び出し、自分の左手を犠牲にして砲弾を弾いて軌道を逸らしたのだ。

 

 姉さんだ。姉さんが。助けに来てくれた......。

 

 目の前でル級に立ち塞がるウツギに、姉の姿を重ねながら。そのまま響は気を失った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「うぅぅぅぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「おぉぉっ、何をォ!?」

 

 砲弾を弾いた無茶で左腕を無くしたウツギが、間髪入れずにル級を体で後方へと押しやる。

 返さずに持っていて良かったな。止血剤と鎮痛剤......まさかこんなことで役に立つとは。

 怪我の痛みで普通なら立つことすらままならない状態を、薬品を事前に投与していたことで克服したウツギが、響から距離を離すためと押し出したル級から一先ず距離をとる。

 左に持っていた武器は全部弾が切れていた。そう言う点でも好都合だ、等と、綺麗に縫合した後から先を吹き飛ばされた腕を見てウツギが考えていたとき。相手がこちらを睨み付けながら口を開いた。

 

「チッ、チッ、チッ......また外した。こんなことはあってはならないことだ」

 

「殺せなかったことが不服か」

 

「その通りだ!」

 

 鬼のような形相でル級が突っ込んでくるので、ウツギが身構える。主砲の威力に防御は、一発で盾が駄目になるから、と判断して副砲のみを防御してウツギがひたすら相手を引き付ける。

 そろそろ来てくれるかな......。ウツギが思ったときに、ル級にどこからか飛んできた砲弾が着弾する。その様子を見たウツギが微笑を浮かべながら横を向く。期待通り。アザミが立っていた。

 

「ウツギ......手伝ウ......」

 

「ちいっ!!ちまちまちまちまとぉ!!邪魔だ貴様らぁ!!」

 

 ありがとうアザミ。これで距離を取れる。

 追い掛けてきたル級の注意がアザミに向いた瞬間、急いでウツギが後退。そして熊野に無線で連絡を飛ばす。

 

「熊野聞こえるか、響を連れて逃げろ!!」

 

『えっ?へぁ!?』

 

 一度死にかけたことで呆けていたのか。へんな応対をしてきた熊野を、ウツギが怒鳴り付ける。

 

「早く!!今すぐにだ!!」

 

『りょ、了解ですわ!』

 

 よし。これで後は......。ウツギがその場から動かず、アザミにちょっかいを出していたル級へと口を開いた。

 

「撃ち殺して」

 

「よく聞け、ル級!!」

 

「ッ!」

 

 

「お前の愛する戦艦水鬼を殺したのはこの自分だ!!」

 

 

 ウツギがそう宣言すると。ル級が、呆けたような顔をしたかと思うと、次の瞬間には顔中に殺気を漲らせてこちらへ向かってくる。そしてさらにウツギがこう挑発した。

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

「素手でも殺せるだろう!?見ろ!!私は片腕が無いんだぞ!!」

 

「お望み通りに殴り殺してやる!!!!」

 

 狙い通り、乗ってきた......。あとは耐え忍ぶ......!

 熊野を殴りに行ったことから、ル級は格下と見た相手に手を抜く悪癖があると見抜いたウツギの予想通り。凄まじい剣幕でル級が砲を捨て、肩の副砲を乱射しながら走ってくる。

 これに耐えきれれば。ウツギが盾で顔を庇っていると、CPUから警告のアナウンスが流れる。

 

『損傷50% 艤装ダメージが増大しています』

 

「何を......ッ!!まだまだっ!!」

 

 額から流れ落ちる血と空からの吹雪。さらに飛んでくる砲弾で渋い顔をしながらも、ウツギが虎視眈々と......ル級が近付いてくるのを見計らって。

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「......!」

 

 

 ウツギが、左足を前に出して背中から水面に倒れ込む。そして、殴りかかってきたル級の腹に足がめり込み、相手が突っ込んできてくれたおかげで足に乗った慣性で倒れずに済んだウツギが、ル級を足と右手で挟んで動きを封じる。

 

「うっぐっ......!!」

 

「なぁっ!?放せぇ!!」

 

「アザミ来てくれ!!」

 

「よシ......」

 

 ウツギだけならまだ脱出できたかもしれなかったル級が。ウツギよりも遥かに力が強いアザミに羽交い締めにされ、今度こそ完璧に身動きが取れなくなる。

 

「こっ、殺してやる!!殺してやるぅぅぅ!!」

 

「.........うるさイ.....」

 

 暴れようにも、どうにも出来なくなったル級へ、至近距離からアザミが砲を撃ち込み、ル級の右手が消失する。そして痛みで錯乱するル級に。ウツギがハープーンの残り一発が込められた砲の口を彼女の顔に向ける。

 

「うわっ!?うわあああぁぁ!!??」

 

「...............」

 

 アザミがル級を放した瞬間。ウツギが引き金を引き、ル級の胴体と首が別れた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『敵反応の全消滅を確認しました。皆様お疲れ様でした』

 

「はぁ、はぁ......はああぁぁぁ......」

 

 やっと終わった。......疲れた。

 アザミの協力もあり。どうにかル級を葬ったあと。作戦完了の無線を聞き、戦闘の疲れがどっとやってきたため、ウツギが海面に横になる。

 ......あのヲ級に礼を言わなければ。彼女がいなければ響を助けられなかった。ウツギが思ったとき。いきなりアザミが自分を担ぎはじめる。

 

「休む......後......早く帰ル......」

 

「済まない」

 

「なんで謝ル...。.........それよリ」

 

 

妹......元気......見せロ......(妹に元気なとこを見せてやれ)

 

 

「!」

 

 ......アザミにも言っておくか。お礼を。

 アザミの背中に担がれながら、ウツギが呟く。

 

「いつもありがとう。アザミ」

 

「......どうしたしましテ」

 

 アザミがほんの少しだけ口角を上げて笑顔でいることは、ウツギには見えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

友情、信頼、情緒、愛。

人間的な......あまりにも人間的な、

そんなものは自分に要らない。でも、あいつは

私ににじり寄っては言葉を投げ掛ける。

 

 次回「六等星」。 いつからだろう。(あなた)を追い掛ける私がいた。


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