シエラ隊が、色々と問題だらけな熊野たちと演習をして喧嘩もやった一日の翌日。
窓から見える外が
あくびをしながら、目の下に隈を作ったツユクサが口を開く。
「あ゙ぁ゙......くっそ眠たいッス.........」
「何時間寝れた?」
「三時間ほど、かな」
「よく平気だなウツギ......」
「書類仕事は馴れてるからな」
同じく白い顔をしながら聞いてきた天龍に、ウツギがなんともなさそうに至っていつも通りの真顔で返答する。
喧嘩騒ぎがあったあのあと。なんでこんな騒ぎになったのか、と聞いてきた響に要点をぼかしながら説明していたウツギの横から、ツユクサが「自分達がやられたことの仕返しをやった」と言ってしまい、事情聴取が始まる。結果、長い時間の質問攻めと多少の始末書を処理する時間に追われて。ウツギたちは......正確にはデスクワークで就寝時刻が遅くなりがちだったウツギ以外の五人は寝不足で不調だった。(RDは部外者なので普通に過ごした。)
そんな彼女たちに駆け寄ってくる人物がいる。事情を聞いて響が呼んだ、第五から秋津洲の協力を経てヘリコプターですっとんできた、戦艦水鬼絡みの件以来すっかりツユクサと仲が良くなった男。田代だ。
「おはようございます。みなさん!」
「おっ、おう......おはようさん」
顔の所々が黒く汚れてツユクサ以上に濃い隈を作り、見るからに健康状態が悪そうにも関わらず、田代がニタつきながら挨拶をしてくる。天龍が若干引く。
そんな元気はつらつな男の後ろから遅れてやってきた秋津洲にウツギが挨拶をし、アザミが秋津洲に質問を飛ばす。
「おはよう」
「おはようかも!」
「直っタ.........?艤装......」
「勿論です、前より快調に動くと思いますよ!!」
秋津洲へ質問したはずのアザミに向かって、異様なハイテンションで田代が返答する。
なんでこいつは朝からこんなに元気なのだろうか、と思ったウツギが秋津洲に聞いてみる。聞くと、「彼女のために徹夜して仕事してたかも」と返ってきたので、察するものがあったウツギが、視線の先でツユクサに抱きつかれて顔が赤くなっている男へとひきつった笑顔を向ける。
「タッシーナイスぅ!!大好き!!」
「ひぇあっ!?ツァっ、ツユクサさん、色々当たってます......!!」
「アテてるんスよ♪」
「砂糖吐きそう」
「あれが人間の「相思相愛」と言うものか......」
「いつからだっけ。あいつらがあーなったの」
「マッド女を沈めた後だ」
「あぁ.........なるほど、ね。」
そのうち結婚でもするんじゃないだろうか。目の前で見せ付けるようにいちゃつく二人を見てウツギがそう思っていると、ホールに続々と今日の訓練に参加するための艦娘達が集まってくる。
あいつらは......居た。.........随分辛そうだな。
どこかに熊野たちは居ないかと目を動かしたところ、ウツギは全員が白い顔に隈を作ってげっそりしているガングリフォン隊を見付ける。どうやら夜更かしと説教は慣れていなかったようだ。
数分後。昨日と同じように少し時間を空けてから響がやって来て、点呼をとってから彼女が喋り始めた。
「みんな居るね。体調が悪い人は......居ないのか。じゃあ移動するからついてきてね」
熊野たちは見事に無視されたな。......今日も一日頑張るか。指の関節を鳴らしながらウツギは他の艦娘と同じように彼女の後について行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「随分変わった演習場だな......」
「何するんスかね」
一旦外に出てから、泊地の地下に入ると現れた、綺麗に整備された用水路の迷路のように入り組んだ特別演習場という施設。そこに、響に案内されて他の艦娘たちとシエラ隊は居た。
響の隣に居たもう一人の訓練監督の艦娘から配布された資料によると、元々は使わなくなった下水路を再利用した施設らしく、区間区間で隔壁が設置されている場所とのこと。
こんな変な場所で行う訓練とは何なのだろうか。ウツギ以外にも天龍や漣等も考えていたとき。この演習用水路の入り口あたる少し広い場所で、また同じように点呼を取ってから説明を始める。
「みんな静かに。今日みんなにやってもらうのはちょっと特別ルールの訓練メニューだよ」
「特別ルール?」
「私たちは「スタミナ比べ」とか「持久」って言ってるんだけどね。用は、この狭い用水路をいったり来たりして勝ち負けを競うの。」
「詳しくはね......配った紙見て欲しいんだけど......。ルールは、まず隊から一人ずつ出てきて一対一の状態から始まる。そして先行と後追いを決めて、先行は出口近くの、ここと同じような広場までひたすら逃げて、後追いは二秒だけ待ってからそれを追いかけて轟沈判定を出すように頑張るっていう訓練なんだけど」
なるほど。早い話が鬼ごっこか。しかし持久とはどういう意味だろうか。
ウツギが考えていたとき、天龍が手を挙げて響に質問をする。
「先行は逃げ切れば勝ちなんすか?」
「まだ話は終わってないよ」
「あっ、すんません」
「でもいい質問だ。この訓練の一番大事なところだけど」
「先行の人は逃げ切っただけじゃ勝ちにならないから。」
響の発言でほんの少し集まった艦娘たちがザワつくが、すぐに収まって、皆が彼女の言葉を待つ。熊野たちはそれどころじゃなさそうな位に眠気と格闘しているのがウツギから見えたが。
「簡単に言うと、後追いが勝つまで永遠に続くんだ。正確に言うと、先行が逃げ切ったらお互いが役割を交代して、今度はまたスタート地点を目指して最初に追い掛け役をやった人が逃げる。そしてまた交代して......って続けるんだ。先行が勝つのは後追いが弾か燃料が切れたときだけ」
「......だから「スタミナ比べ」、か。.........」
「いいッスね、体力は自信あるッス!」
指を鳴らし、軽めのストレッチをしながら得意気にツユクサが言う。
「あぁ、あと最後に。」
「一度通った場所は隔壁が降りて通れなくなるから。どんどん通れる場所が制限されていくから覚えておいてね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「大体はこんな所かな。質問ある人」
「はい」
「どうぞ」
あらかたの説明が響の口からもたらされ、取りあえずはこの特別メニューのことを理解したウツギが、気になったことがあったので教官に聞いてみる。
「艦種によって出せるスピードに差があると思うのですが。それはどうするんですか」
「いい質問だ。じゃあ答えるね。彼女が言った通り、ここには戦艦から駆逐艦の子まで沢山いる。いま言った艦種同士の組み合わせになったとしたら、駆逐艦の子が有利すぎるから今回は「ハンデ方式」を取るよ」
「こういった、艦種で速度に差が出る子は、先行になったときに最高で五秒まで後追いに追加で待ち時間を指定することができるよ」
「「指定できる」ってことは、じゃあハンデなしも指定できるってことッスか?」
「え?......いや、出来るけど、やる人はほとんど居ないかな」
ほとんど、と言うことはそんなやつも居たのか。
「他に質問ある人......居ないのか。組み合わせはくじ引きで決めるから、ここから引いてって」
「............」
「あ、君はダメ」
「............は?」
何だと?響が差し出した缶に刺さったくじの棒を引こうとすると、それをさっと引っ込められてそう告げられたウツギが変な顔になる。
「練度が一番高い人は特別扱いでね。デモンストレーションで最初に私とやってもらうことになってるんだ」
「練度89のウツギさん?」
「はちッ......!?」
響の言い放った言葉に、熊野が白い顔から蒼い顔になる。遠征に参加する艦娘のリストは練度の表記が省かれていたとはいえ、どれだけ自分達が無謀な喧嘩を吹っ掛けたのかを今更自覚したのだ。
数分後。人払いを済ませた訓練開始地点にて。後方でギャラリーとして待機中の艦娘達がひしめいている中、ウツギが響とハンデについて話し合う。因みに最初の先行はウツギがやることになった。
「自分が先行か」
「後追いだね。ここになれてるから、初めは四秒待ってあげる。周回するごとに一秒ずつ減らすから。そっちが追うときは基本の二秒だけでいいよ。それでいいかい?」
「問題ない」
「負けんなよウツギー!!」「ウッチー頑張れー!!」と飛んでくる仲間たちの野次に笑顔で返事をしてから。ウツギが前に向き直る。
『カウント始めます』
『5...4......3』
響。一体どれぐらいの強さの艦娘なのだろうか。
『2......1』
ウツギが、田代の徹夜の頑張りで修復された、余計な装備を外して出来るだけ軽くした暁の艤装を駆動させる。
『GO!!』
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遂に始まった「姉妹」対決。
慣れない場所での「鬼ごっこ」に苦戦しながらも、
ウツギは持ち前の対応力で響と互角に渡り合う。
そして耐久バトルは意外な方向へと進むことに。
次回「ガラクタの意地」。 ハートの強さが勝負を征する。
Watch dogsというゲームを知人から借りてやりはじめました。面白いですねコレ。