「うぅ......う?」
「ーーーーーー!」
あ、あいつは......クソッタレが......また面倒な敵が増えやがった。俺たちはここで死ぬのか......。
戦艦水鬼の膝蹴りを貰って血を吐きながらえずいていた天龍が、意識が朦朧としているせいで歪む視界に、ウツギ達から話で聞いていた装甲空母姫の姿を捉える。姫級が二匹、それに立つことすらままならない自分はここで死ぬのだろうな、と思い最後の悪あがきとして運よく一つだけ無事だった砲の狙いを定めようとする......しかし誰かに砲身を手で塞がれた。球磨だった。
「て......めぇ...何を」
「怪我人は黙ってろクマ」
黙ってろっつったってよ......このままじゃみんな殺されちまう、と思った天龍が怒鳴る......事が出来ずに咳き込みながら呟く。
「ふざっ...ゴッホッ!......あいつは敵」
「敵じゃない......らしいクマ」
真剣な顔をしてそう言う球磨に圧されて、天龍が視線を装甲空母姫へと向けて口をつぐむ。敵じゃないとはどう言うことだ。そう思ったとき。装甲空母姫と戦艦水鬼が何やら話し出す。
「え~っと。そりゃ私の敵になるってことでおk?」
「............」
「無言は肯定、ってやつだね?気にくわないなぁ」
自分の問いに、自分の顔を睨み付けてくるという返答で返された戦艦水鬼が、へらへらした顔から、遊びに飽きた子供のような不機嫌そうな表情に変わる。
「んじゃ質問を変えよう。理由は?」
「......理由、か」
いつの間にか。気付いたときには戦艦水鬼の周りで砲撃を行う者が艦娘、深海棲艦問わず誰一人居なくなっていた、不自然に静かな空気の中で装甲空母姫が口を開いた。
「研究所、と言う場所......貴女が私を殺そうとした場所だ。そこで見つかった貴女が書いたノートを......人間の彼らから拝見した」
「んんんん?解んない。なんでそんな機密のカタマリを見せてもらえたのかな?」
「......ならばそれも教える」
装甲空母姫が持っていた剣ごと右手を上げて、それを左で持っていた剣でなぞる。
シュイン、と包丁を研ぐときのような音が辺りに響き
彼女の背後の海面から、次々と軽巡から戦艦までの全てが人型をとっている姿の.........何故か全員が音楽隊の格好をしている深海棲艦が表れ、その場に居た艦娘全員が顔を蒼くする。そして
「「「「ーーーーーーー」」」」
浮上してきた深海棲艦たちは艦娘と装甲空母姫に深々と腰を折って礼をする。
「こ、これって...え?」
「何が起きてるのかな......僕の目がおかしくなった?」
「時雨さん、私にも見えていますヨ。」
異様な光景に木曾の他にも、意識があったガーベラ隊の五人が口々に意味がわからないという旨の発言をし、他にも訳のわからない状況だと顔で判る程に艦娘達が
「お分かりいただけたか。前から貴女が私と同じく「産廃」と呼んで差別していた......「素材」にしようとしていた者達だ。彼女らを全て味方に付けると言って実行したら快く「機密事項」というものも海軍の人々は教えてくれた」
「...へぇ、そうなの......」
「「より多くの人間を殺し、そしてより自分が強くなるために最高のコンピュータの素材となる艦娘と深海棲艦を探して殺す」......それが貴女.........貴様の目的だ」
「............私には解らない.........なぜ同胞をこうも
「それに。戦艦水鬼。貴女から教わった事は全て嘘だった。」
「虐殺を楽しみに酒を
「教えろ。戦艦水鬼。貴様のこの戦いの目的は一体」
「........................」
「鼠ってさ。潰すといい声で鳴くよね。知ってる?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「..................何」
「あれ、聞こえなかった?だぁかぁらぁ~」
「鼠ってぇプチっとやるとぉ~なっさけない声だしてぐちゃぐちゃになるのぉ。もぉたまんない♪」
「まぁ何が言いたいって言うとぉ」。女が嫌みったらしくねっとりと、体をくねらせる腹立たしい動作をしながら発言する。
「............」
「だぁかぁらぁ~♪」
「弱いものいじめってさ、
発言に顔をしかめ、そのまま装甲空母姫が突剣を構えて海面を蹴り、突撃しようとしたとき。戦艦水鬼の言葉に横やりが入る。
「いや、わからんなぁ......まったく、そして全然わからん」
「あら?」
「いつのまに」。戦艦水鬼が、ガーベラ隊と合流してきたシエラ隊の、会話に割り込んできた若葉の方を向く。傍らには勿論ウツギ達も居た。
「......どういう状況だこれは。どれを狙えばいい?」
「ウッちゃん。とりあえず白い方とオシャレな方は敵じゃないみたいクマ」
「そうか」
状況がよくわかっていなかったが、天龍と同じく球磨からの言葉で一先ずウツギが照準を装甲空母姫から戦艦水鬼にずらす。
懐から瓶入りの白い顔料を取り出し、それを掌に出してそのままそれを顔に塗ったくりながら、若葉が言う。
「この若葉が望むのは一対一の、互いの生死を賭けた、紙一重でギリギリの殺し
「弱いものいじめして楽しいのか......
「あららら。てっきり戦闘狂らしいサザンカちゃんなら解ってくれると思ってたのになぁ。......じゃ、」
「とりあえずこの子は消すってことで?」
戦艦水鬼が自分の艤装の前に倒れていた漣に、残っていた砲で止めを刺そうとする。......が、漣が見当たらない。「あれっ?」。そう言って視線を装甲空母姫達の軍勢に戻すと、一人の潜水艦の深海棲艦が気絶した漣を抱えて浮上してきたのが見えた。
「回収しました。お連れの方で御座いますね?」
「え......おっ、おう......」
自分の足元から現れた長い髪の毛で顔の半分が隠れている女から、おっかなびっくりといった態度で木曾が漣を抱き抱える。
......とりあえず。装甲空母姫と共同で戦艦棲姫をやればいいのか。その場の空気でなんとなくそうすべきと判断したウツギが、不機嫌そうに貧乏ゆすりをしている戦艦水鬼を見ながらCPUのスイッチを入れる。
「それに、だよ」
若葉が白い顔に笑顔を浮かべながら敵に啖呵を切る。
「艦娘になってから、若葉が必ずやってきたことがある」
「「友達の敵」は「やっつける」って。ね。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん......?」
「目ぇ覚めたか?」
「あ......木曾っち......」
えーと......あんにゃろうに肘入れられて気絶して......そっから記憶がないっすねぇ.........。つかどこですかねここは。
木曾に肩を貸されている状態で海の上を滑っていた漣が目を覚まし、辺りを見回す。そこには自分と同じ格好で春雨に担がれている天龍と、三匹の深海棲艦が仲良く自分達と並走しているのが見えた。
「わっ、深海魚!?」
「深海魚ってなんだよ......。こいつら敵じゃねぇよ。全部味方だ。......俺も訳わかんねぇけどよ」
「んぇ?どゆこと?」
先程まで気絶していたとは思えないような元気な声で、漣は担がれたまま喋った天龍に疑問の声をかける。よく見れば何故か春雨を入れない三匹は、装飾の施された演奏団のような服装なのが気になったが考えを後にする。
「わかんねえっつっただろーよ。敵じゃない。これだけでジューブンだろ」
「んん......ウッチー達は?」
「戦艦水鬼と戦うために残りましタ」
「ええぇ!?すぐ戻って」
「その怪我でよく言う。艦娘とは無鉄砲な生き物なのか?」
「はぁ!?ナニヨ!?」
援護に戻ろう、と口走った漣が、近くで彼女の護衛をしていた黄色い目をした深海棲艦に嗜められてしまう。
「あんな化け物相手じゃウッチー死んじゃ」
「その化け物に突っかかって殺されかけたろ」
「天ちゃん、でも......!」
「違うやり方、というものもあるでしょうに。貴女たちにも出来ることが」
「どうしろと?」
「言わなければ解らないので?............仲間のために祈る。それで充分でしょう?」
......こいつも腹立つなぁ。でも言い返せない!くやしいでもかん(ry
妙な事を考えながらも、漣が、先程発言したのとは違う深海棲艦の......どことなく嫌味を含んだ敬語に耳を傾ける。すると、自分に肩を貸していた木曾が指を組んで目を瞑って。早速祈り始めた。
「......何やってんだ?」
「何って、ウツギとかアザミのために祈ってんだよ。わりーのかよ」
「なんか木曾っちが女の子っぽいとこ初めて見たかも」
「失礼なやつだな......」
.........帰ってきてね。ウッチーにあっちゃんにツユちゃんに......あと気に食わないけど若葉も。
明るくなっている空を見上げながら、漣も目を瞑って祈った。
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ウツギ、アザミ、ツユクサ、若葉、球磨、時雨、装甲空母姫。
相対するは戦艦水鬼。7対1という変則デスマッチ。
常軌を逸した機動と苛烈な一撃を見舞う相手。
これを討ち取ったとき。初めてツユクサの復讐は終わる。
次回「地獄でなぜ悪い」 ただ地獄を進むものが、悲しい記憶に勝つ。
5章 残り2話(予定