《準備かんりょーまでええぇぇ!!十分待ちまああぁぁす!!》
《作戦会議どぉぉぉぞおおぉぉ!!!!》
「.........本城提督、聞こえますか」
流石にこんなときはどうすればいいのか解らない。......本当に待ってくれるのかあいつは。
明らかにふざけている様子で勧告してくる戦艦棲姫へ、対処に困ったウツギが本城に無線を入れる。
『 』
「応答なし......ちっ......」
「さっさと突撃してぶっ殺そう......」
「......!いや少し待て」
相手の、こちらを惑わすような発言で本陣でパニックでも起きたか。応答がない相手に舌打ちをし、ウツギの近くに居た若葉が舌を出しながら刀を引き抜いた時。ほんの少しだが時間を置いて相手から返信が来た。
『------------------.........。』
「......了解」
「何て来たんだい?」
「......受けてやれ、と。本部に「部外者が乱入した場合本陣を、島ひとつ吹き飛ばせる爆弾を仕掛けておいた地下施設ごと爆破する」と脅しが来たらしい......」
震えた声でヘッドセット越しに説明してきた本城の言葉を、ウツギが五人に伝える。
それにしてもだ。なんでわざわざ自分達を指名してきた。他にも艦娘の部隊はたくさんあるだろうに。
疑問に思ったウツギが、艤装に最初から取り付けてある、無線が故障した時に使う拡声器のスイッチを入れ、戦艦棲姫に質問を飛ばした。
「「戦艦棲姫、十分待つと言ったな」」
《なああぁぁにいぃぃ?》
「「なぜ自分達と戦いたいんだ」」
《ええぇぇっとねええぇぇ、楽しそおおぉぉだからあぁ》
......すごく腹の立つしゃべり方だ。人を苛立たせる天才かあいつは。
それに答えになっていない。と、やけにわざとらしく間延びした女の声を聞いてウツギが思っていたとき。時雨と春雨がある提案をしてきた。
「ウツギさん、あの......缶詰工場のこととか聞いてみたらどうかな?......正直僕はもう行きたくないんだ、聞いて終わる話なら終わらせたいな、なんて......」
「私も賛成でス。アレに関わっていたなら何か知っているかも知れませン」
「......解った。やってみよう」
「いつまで待てばいいんだ」と、貧乏ゆすりをしながら苛立っている若葉を尻目に、時雨の言うことには同感だ、と思ったウツギが提案を受け入れて女に二度目の質問をする。
「「女、まだ聞きたいことがある」」
《あと三分だよおおぉぉ、なああにいいぃぃ?》
「「地下施設は何のために作った。缶詰のためだけなのか?」」
《ああぁぁぁんとねええぇぇ》
《今いくからちょっとまっててええぇぇ》
そう言ってきた相手が、夕闇の中から自分達へと近づいてくるのがライフルから取り外したスコープ越しにウツギに見えた。
数秒後。全メンバーの肉眼でも見える距離まで戦艦棲姫が近づいたとき。彼女が何かを隣に居た艤装から取り出しながら口を開く。
「お待たせ~。約束の十分越えて説明して良いなら言うけど?」
「......それを設定したのはアンタだろう。こっちは二十分でも一時間でも待ってやる」
「おい何を勝手に」
「黙ってろ」
そんなに待っていられるか、と視線で訴えてきた若葉を押さえつけ、ウツギが女に喋らせる。
「あ、そうなの?じゃ、遠慮なく......これ何か解るぅ?」
親しみやすい笑顔で話しかけてくる敵に言い様のない不快感と不気味さを感じながら、ウツギ他シエラ隊の面々は女が手に持った白い箱を見つめる。
......アレは......なんでこいつが。何に使うんだ?
ウツギは自分の艤装の拡張部位にも取り付けてある、見慣れたその機械について言及する。
「サブコンピューター......なんでお前が?」
「あ、ごめ~ん。サブコンじゃないんだな~これが」
相変わらずのおちゃらけ口調に、連日の激務でストレスが溜まっていたウツギが顔に薄く青筋を浮かべながら言う。
「そんなに人を苛立たせて楽しいか」
「ウツギさん......!」
「ん......。それがあの趣味の悪い施設と何が関係しているんだ」
「まぁそう慌てないで......ちょっと喉乾いたからまってて~な~♪」
「んちゃ、カフェオレで一服」と、目の前で余裕たっぷりに水筒......おそらくカフェオレが入っているものを口に付ける女に、流石に腹が立ったのか。
若葉がノーモーションで素早く女に照準を合わせると同時に砲の引き金を引いた。
金属が破裂する鋭い音が辺りに響く。
「ちょっと~あぁもったいない...」
「さっさと言うことを言え殺すぞ」
「待ってていったのになぁ~。まぁいいや。あそこねぇ、まぁ缶詰の為だけじゃないよね」
予備動作がなく繰り出された若葉の一撃を、苦もなく持っていた魔法瓶をぶつけて弾き返した戦艦棲姫が続ける。
「コンベアの部屋って通ったんでしょ?プールまで来たってことはさぁ」
「あの悪趣味な工場レーンもどきか。お前のせいで当分肉が食べれないよ」
「悪趣味だなんてヒドいなあ~私考案のアレほど合理的て効率いいスバラな実験施設は他にないと思うケド?......でさ、な~んか可笑しいところ無かった?あそこ」
「とんでもないものだらけでわからんよ」
「......「頭」が生物レーンに流れていなかった、かな。......んふフ......」
「あっ!サザンカちゃん正解!!いや、すごいねぇ花丸あげちゃう」
「............!?まさかッ......!!」
「う~んと、ウツギちゃんの予想は多分外れだぁね。これ、中身はさ」
「島風ちゃんの脳ミソ♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「は......?」
「ツユクサちゃんだったっけアナタ~。想像通り、「その」島風ちゃんね♪」
飄々とした態度を取り続ける女の口から出た言葉に、......ウツギが横を向くと、そこではツユクサが眼を見開き、口を半開きにして唖然としていた。
「しーちゃん......?」
「天龍が逃げた時可笑しいとか思わなかったの?だぁってあの島風ちゃんの首から先がまだ見つかってない何て変だと思わないの?あの天龍がさぁ......わざわざ首もって海に捨てるなんて考えられないって結論にたどり着くと思ってたけど」
「テメェ............な...んで島風の脳を.........」
「あっとまだ説明してなかったか」
「変なことはするなよツユクサ.........」
......怒っている。確実に。薄暗い中で爛々と赤く光っているツユクサの瞳を見て、それが彼女の機嫌が悪いことのシグナルであることを知っているウツギが思う。
「まずあの施設だけど......私が作っていたのは」
「「バイオマシンコントロールデバイス」。豊富な戦闘経験がた~っぷり詰まった艦娘ちゃんのおミソで艤装を駆動させる素敵なCPUデバイス♪」
それこそサブコンなんてメにならない性能を発揮する超、超、ちょ~すっごく高性能な......と、ウツギの艤装を見ながら高らかに女が言ったとき。
ツユクサの全身から、赤みを帯びた瘴気のような物が発されるのが、彼女以外の全員の目に、確かに映った。
「てめぇが島風を......」
「そう♪」
「......ねぇ」
「お?」
「許さねええええぇぇぇェェェェ!!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「待てツユクサァ!!」
あのバカ一人でッ!!
目から発される赤い光で残像を描きながら敵に突っ込んでいったツユクサを、急いでウツギが追いかける。
「沈めぇェェ!!」
「やる気ぃ?二人で相手してあげるよ♪」
炎のように立ち昇るツユクサの瘴気に少し驚いたものの、すぐに戦闘に意識を集中させる戦艦棲姫が艤装に跨がり高速移動をしながらツユクサの砲撃を避け......
「どおおおおらぁぁぁッ!!」
「無駄無駄。当たるわけッ......!?」
損ねて被弾する。
「あの動きに追従できるだと.........?」
「す、すごい............」
「見とれてる場合か!追うぞ!」
乱射しているかのようなペースの砲撃でありながら、駆逐艦以上のスピードで動く相手に正確に砲弾を叩き込むツユクサに、若葉と時雨が思わず見とれてしまうが、すぐにウツギの指示に従って、引き撃ちを行う敵を追いかけるツユクサに追従する。
「いや、自分の艤装が頑丈なことに感謝だねぇ......この動きで当ててくるかい?」
「おおおおおォォォ!!」
「ありゃ聞いてないか。じゃあ本気出させて貰おうカナ......」
そう発言した戦艦棲姫の瞳が、妖しく赤く光る。そして、より一層加速しながらツユクサの背後に回り込み、砲撃をかます。
「後ろっ......!?」
「ばいばい。ツユクサちゃん」
ツユクサに向けられた怪物の姿をとる艤装の砲から、レ級を一撃で殺害した「槍」が射出される。が
「させませんヨ......!!」
「......無茶......するな......阿呆」
「ハルちゃん......アザミ......?」
まずい、と、目を覆ったツユクサの前に割り込んだ春雨が、両手で槍型の砲弾を受け止め、その背後でアザミが砲弾を受け止めた衝撃で後ろに飛ばされそうになる春雨を押さえつけ、ツユクサを守る。
海軍軍自部門の開発したばっかの新型砲弾を素手で受け止めた......!?頑丈だとは聞いてたけどちっと予想以上。
そんな事を考え、一瞬だが見逃せない隙が出来た女の艤装の「口」に
若葉に放り投げられたウツギが「入り込む」
「なっ」
「よそ見とは」
「感心しないな。」
艤装の内部に体をねじ込んだウツギが、ライフルと背部艤装の射撃で弾丸と砲弾をありったけ放り込み、最後に魚雷発射管から取り出した魚雷を銃で撃ち抜き、わざと爆風に吹き飛ばされ、そこを時雨のワイヤーで回収される。
「んフふ......流石、度胸がある。......それでこそ若葉の目標に相応しい......」
「ごほっ......!はぁ......ツユクサ、春雨。大丈夫か?」
「問題ありませン」
「平気ッス......」
「そうか。一人で考えナシに突っ込むな。何の為に自分達が居ると思ってる」
「ごめん......」
「わかればいい。後で春雨に謝......!?構えろ!!まだ生きてる!!」
燃え盛る炎と煙により姿は見えないが、CPUの警報で相手の生存を確認したウツギが、すぐに両脇に担いだライフルを構え直し味方に指示を飛ばす。
「ちょっとぉ~酷くない!?せっかく白衣着てきたのにボロボロよ」
「頑丈なやつだ......アレで殆どダメージが通っていないだと......?」
だが......効かないなら効かないなりに頭の悪い戦法でも取ってやろうか。
そう考えたウツギが、とにかくありったけ撃ち込んでやろうと片手のライフルを砲に持ち換え、身を守るために盾の裏側についているボタンを操作して背中からもう二枚の盾を展開した時。体のあちこちが焦げているものの、まだ元気な戦艦棲姫が口を開いた。
「潮時かねぇ......ちょっと調子乗りすぎたか。んじゃ!」
「......!逃がさねェッス」
明らかに逃げようと反転する相手に、砲の照準を合わせてツユクサが追いかけようとする。すると、戦艦棲姫が艤装から何かを撃ってきたため、それをツユクサが手の甲で弾くと、中からはおびただしい量の煙が出てきた。
「ギフトは置いとくから許してぇん!!」
「スモーク......!視界が......」
「ま、待てよ!!このォっ......!!」
視界が全く利かない目の前に、当てずっぽうでツユクサが砲を撃つ。数秒後。煙が晴れた海上には。
既に戦艦棲姫の姿は無く、島風の脳がパック詰めされた狂気の産物だけが残されていた。
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後日。過労を心配され、シエラ隊の代わりに施設に部隊が派遣される。
爆弾を処理し、そこで見つかった資料。
それが第五鎮守府に送られてくる。
そして手元に残った「島風」を手に、ツユクサは何を思う。
次回「愛と哀と」 静かな眠りを妨げ、がなるタイマー。
少し強引ですがシエラ隊vs戦艦棲姫でした。