資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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江風「仕事が終わんねェ......」
山城「不幸だわ......」
山風「時雨姉......ハードワークすぎ......」


瀕死の騎士

 

 

 

「何が目的だ?」

 

「知れたこと。お前たちの首を獲るためよ!!」

 

 穴の空いた天井の真下に横一列に並び、列の真ん中に居た装甲空母姫が余裕そうな笑みを浮かべながら、ウツギ達へ持った剣の切っ先を向けて得意気にそう言う。

 

 話が終わるまではこちらへ突っ込んでくることは無さそうだ。と、彼女のクセを知っているウツギが、べらべらと言葉を垂れ流す女を前に新品のミドルレンジライフル(スナイパーライフルのバレルを取り外し、接近戦に対応できるように予め用意していた)を背中から取り出し、腰から何時も使っていたナイフに代わって受領した手斧を持ちながら発言する。

 

「見逃す気は?」

 

「あるわけがないだろう!!フザけているのか!?」

 

「......やるしかない、か。時雨、ツユクサ、いけるか?」

 

「んッふふフふ......バッチリさ......」

 

「お前には聞いていない」

 

「やるっきゃない、でしょ?ウツギさん、サザンカさん」

 

「ッス。覚悟は出来たッス」

 

 大丈夫、と言ってうなずく二人がそれぞれ砲を持って戦闘態勢をとる。装甲空母姫もどうやらそろそろ痺れを切らしたようで、こう言ってきた。

 

「切り刻まれて魚のエサになる覚悟はできたかな?艦娘どもよ」

 

「行くぞお前たちっ!!」

 

「「「「御意!!!!」」」」

 

「ッ......来るぞ」

 

 

 

 

「はいは~い♪ちょ~っと待ちなさいなぁ」

 

 

 

 

 今、まさに戦闘開始という時。気の抜けた女の声が、プール部屋に響き渡った。その声に装甲空母姫たちは動きを止め、ウツギは目線を動かして声の発信源を探す。

 すぐにウツギは声の主を見つけた。そいつは敵が降りてきた穴の近くの壁にあった、何に使うのかよく解らないハシゴの上に立っていた。

 

「血の気が多すぎよ~装甲ちゃん。楽しみがなくなっちゃう」

 

「せ、戦艦棲姫様!?なぜここに......?」

 

「いやぁね。ちょっと手伝ってあげようかと思って」

 

 白衣に銀縁メガネといった容姿の長身の女は、そう言った後に軽く20mほどはあるハシゴから飛び降りて、黄緑色の水面に着地(着水?)すると装甲空母姫の隣まで歩く。

 

「誰だあいつは」

 

「ん?あぁ初めまして~シエラ隊の子達、だったかしら?」

 

 白衣の女が、呟くようなウツギの声に敏感に反応して応対する。

 聴覚が優れている......それになんでこの女、自分達のことを? ウツギが思ったとき、女は自己紹介をする。

 

「私、こう見えても結構有名人なんだけどね」

 

「知らないな。自分はアンタみたいな人は」

 

「あら、ウツギちゃんだったっけ?あなたのことも知ってるわ。リサイクル艦娘の一番艦、期待されていなかった廃品利用なのに華々しい戦果を挙げてるそうね?」

 

「............」

 

「あらいけない。悪い癖が出ちゃった。じゃあ、改めまして」

 

 

 

 

「私、田中(たなか) (けい)って言うの」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「何だと............!?」

 

 とんでもない悪の親分がお出ましじゃないか......。ウツギが顔を歪ませながら愚痴を言う。

 ウツギの他にもどこか間抜けな驚いた顔をしている春雨、時雨、ツユクサのことは気にせず、田中が隣に居た装甲空母姫と会話をする。

 

「さて、じゃあ早速お仕事といきましょうか」

 

「戦艦棲姫様......手助けなど要りません、この者共は私自らが引導を......」

 

 装甲空母姫の言葉に、田中がとぼけたような顔をして首を傾げながら口を開く。

 

「ん?んん~それはどういう?」

 

「いえ、ですから貴方の手を(わずらわ)わせる必要は無いと」

 

 「あっ、そうなの?」、そう言う田中に背を向けて、改めて装甲空母姫がウツギ達へと向き直る。

 

 

 その時、バチン! と放電現象のような音が辺りに響いた。

 

 

「......え?」

 

 

 謎の音がしたと同時に、自分の右肩から先に激しい痛みを覚えた装甲空母姫が、自分の腕が無くなっていることに気づく。

 

「がっ......!?」

 

「姫様!?」

 

「うふふ♪、いやさ、誰があなたのお手伝いなんてやってあげるって言ったかな?」

 

「な、何を......どうして......?」

 

「いや、だって初めから消すつもりだったんだよね。だからさ」

 

 

「大人しく死んで、ね?」

 

 

 

 

 

 

 なんだ、仲間割れ?......なんにせよ逃げるのは今がいいか。

 様子がおかしい相手から視線を離さないようにしながら、ウツギが部隊員を連れて部屋から出ようとする。

 

「あ、逃げちゃう系?どーぞどーぞご自由に~♪」

 

「......なんなんだ......あいつ」

 

 言い様のない不快感を感じながら、ウツギがもと来た道を戻る。が、何故か若葉が身を翻して装甲空母姫達の場所へと駆けていく。

 慌ててウツギが怒鳴る。

 

「若葉!!何をして......」

 

「ストレス発散ぐらいさせろ。まぁ安心しろ......すぐ戻るよ......それにこわーい敵さんが追っ掛けてこないように足止めするのさ」

 

「っ、勝手にしろ......死ぬんじゃないぞ!!」

 

「誰が死ぬものかよ。......ウフフふ.........」

 

 若葉の言葉を聞いて尚走り続ける他の艦娘に、時雨が聞く。なぜ連れ戻さないか、だ。

 

「ウツギさん、サザンカさんをとめなきゃ......」

 

「大丈夫......」

 

 ウツギに向けられての発言だったが、アザミが返答する。

 

「......っそんな無責任な」

 

「事実......それニ」

 

 

「あいつ......殺す......死ななイ......。だから、心配......なイ......」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ......どうして......?」

 

「なぜぇ~どぉしてぇ~、それは簡単な話。」

 

 困惑し、瞳が震え、酷く動揺する装甲空母姫を相手に、彼女の言葉をフザけながら真似して戦艦棲姫が返答する。

 

「あなた使えないんですもの。そんなのさっさと消し炭にしたほうがいいし」

 

「ッ、言わせておけばァ!!!!」

 

 自分の(あるじ)に危害を加えた女めがけ、その言動にも頭に来たネ級が手持ちの剣を突き刺そうと突進する。

 

「あら、元気あるのね~。若いっていいわ♪」

 

「何!?」

 

 ネ級の突き出した剣は、ガリガリと音と火花を散らしながら女の白衣を切り裂く。が、どう見ても致命傷は与られていなさそうだった。

 そして何故か首の薄皮一枚ほどしか斬っていない剣が、女の首から外れないことにネ級が戸惑う。

 

「っ......!?ぬ、抜けん......?」

 

「駄目じゃないの。こんなことやったら謝らないと」

 

 

「謝罪も出来ない悪い子にはオシオキだね?」

 

 

 ニイッと口角を上げて笑う戦艦棲姫に、ネ級の首筋に悪寒が(はし)る。その、女の妙な言葉と表情で、直感的に何かを察したル級が叫ぶ。

 

「ネ級!!すぐに離れるんだ!!」

 

「で、でも剣が!!」

 

「早くしろォ!!」

 

「ごめん、」

 

 

 

「タイムオーバーだわ」

 

 

 

 戦艦棲姫が指を鳴らしてそう言う。すると彼女の背後で大きな水柱が上がった。

 

 

 

「ばいばい。ネ級♪」

 

 戦艦棲姫の顔が、よりいっそう狂気を(はら)んだ笑顔になっていく。

 

「な」

 

 ネ級は、背後から現れた、

 

謎の巨大な、体の各部に砲台が取り付けられた化け物に「食われた」。

 

 

 

「なんだ......あの化け物は......!」

 

 自分の友人を食らった、戦艦棲姫の「生物のような、機械のようでもある」艤装を見て、ル級他三人が戦慄する。

 ......何を自分は怖がっている。姫を......なんとしても姫様を守るんだ。それが自分の使命だ。ル級が震える手で、鞘から西洋刀を引き抜き、得意の正眼の構えをとる。

 

 その、ル級が一種の覚悟を決めたとき。装甲空母姫達の背後から近づく影がある。

 

 

 

 

「ほォ~~、これはこれは。んっ......」

 

「ふふふふははははは!!殺しがいが有りそうなのが出てきたねぇ!!」

 

 

 

 

 突然背後から響いてきた狂ったような乾いた笑い声に、装甲空母姫、ル級、タ級、レ級の目線が走る。

 

 

 

「この若葉が助けてやろう。雑魚ども」

 

 

「そして久しぶりだ。戦艦。」

 

 

 

始めようか。楽しい楽しい鮮血飛び交う祭りの時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

殿(しんがり)を勤めると言いながら、何故か装甲空母姫の味方をする若葉。

その行動に込められた彼女の真意とは。

命をかけて主君を守り抜こうとする親衛隊。彼女らの未来は。

 

 次回「赤く染まる視界」 いつも夢の中で、痛みから逃げている。 

 




若葉&装甲空母姫隊vs戦艦棲姫

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