「............」
「.........囲まれた。な」
「あぁ。......確かに、抜けるのは少々難儀しそうだねぇ......うふふ......」
敵の戦闘機を撃ち落としながら、この妙な形状の非行物体の発信源である空母の深海棲艦を探して約三分ほどたった時だったか。
時折フラつく若葉と、それを追う形で行軍してきたウツギとアザミの三人は、水平線に太陽が沈みかけ、夕焼けの朱色からすっかり青黒い夜の景色へと変わって行く海上にて、大小様々な大きさの駆逐艦級に周りを囲まれてしまっていた。しかも撃ち漏らした敵艦載機のオマケ付きだ。
ウツギが深呼吸をする。
覚悟を決めるか。運が良いのか悪いのか。周りは全て駆逐艦、そして僚艦は自分達の中でも最強レベルの二人。これならなんとかなる。
ウツギがなるべく平静を保って状況を判断したとき、若葉が刀を握り直して口を開いた。
「まぁ、いいや。これを使うときが来た......こいつらはなます切りにしようか。......背中は任せた......うふふ.........♪」
「当たり前だ。一人で捌ける量の敵じゃない。......ごめん、アザミ」
「別に......気にする......なイ.........」
「
敵の十字砲火を致命傷は避けるように、時にはわざと回避せずに両腕の盾で弾いたりして防御しながらウツギが温存していた魚雷と砲弾を惜しみ無く敵に向けて振る舞う。
「¥|"){6}¥0¥?")|!!?」
「giiiiiiyaaaaaaaa a a a!!」
「......行ける、このまま強行突破する!!」
自分の攻撃が当たり、炸薬に引火でもしたのか、大爆発を起こし獣の
「取った......!」
「.\"[)"\.*6=}^%.!)[.:@!!」
「@¢%*#&℃£!?」
「悪いな。
『ターゲット、残り6』
「アザミの方は......終わったのか。よし......」
残りの敵の数を報告するCPUアナウンスを聞き流し、ウツギはアザミが敵の戦闘機を全て撃墜した事を確認すると、そのまま敵の囲みを抜けて味方が居る場所まで戻ろうとする。
そんなとき、ウツギが着けていたヘッドセットから、後方で味方の援護をしていた球磨からの通信が届く。
『ウッちゃーん、味方が帰ったクマ~。そっちはどークマ?』
「任務完了か。ならすぐに撤退する」
『了解だクマ』
「アザミ、若葉!!逃げるぞ!!」
「まだ斬るべき物質が残っている」
「知るか。早く来い」
すっかり暗くなった景色に、きらきら赤く光る方向から発された若葉の言葉に激を飛ばして強引に命令に従わせる。「残念。良い使い心地だったのに」と愚痴る若葉を無視して、ウツギが青い景色の中、球磨たちを探す。
ふと、ウツギが視界に一匹の深海棲艦を捉える。同時に彼女は特大の溜め息をついた。
「球磨、聞こえるか」
『クマ~、どうしたクマ?』
「もう少しかかる。こっちに来れるか?」
『......?解ったクマ』
「.........」
通信を終えたウツギが、自分達へと向かってきた深海棲艦へと目を向ける。
「話は終わったか。白い艦娘」
「あぁ。何か用か」
「お前らを殺しに来た」
「それはそれは......くっふフ......」
その一匹......一人の深海棲艦は、ポクタル島で会ったスーツの装甲空母姫だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なるほど、な。あの変な飛行物体の本体はこいつだったわけだ。装甲「空母」姫、だものな。何もおかしくない。
夜の暗さによく映える彼女の赤い目の光を見ていたウツギに向けて。装甲空母姫が口を開く。
「また会えるとは思わなかったぞ艦娘。部下の
「そうか。帰ってくれると嬉しい」
「そう易々と逃がすと思うなぁッ!!」
率直な一言を述べたウツギに、真っ直ぐに装甲空母姫がエペ剣と細身のサーベルを構えて突進してくる。咄嗟に盾で身を守るウツギだったが、その一撃は隣から割り込んできた若葉によって防がれた。
「ん~。お前とは一度やり合ってみたかッたんだ......フふっ......」
「邪魔立てするなら容赦せんッ!!」
ギャリギャリと耳障りな音をたててサーベルと刀が擦れ合い、
―――いつもいつも、私の邪魔をする目障りな艦娘ッ!!―――
「豆鉄砲が......」
「効くとおもうなァッ!!!!」
「何っ......!?」
以前ウツギの砲撃を受けて砕けた右目の
『背部砲門破損、スリープモードに移行します』
「...............!」
「まだまだァ!!」
「どこに行くんだ?」
武装が一つ破壊されたウツギにとどめを刺そうとする装甲空母姫を、絶妙なタイミングで若葉が割り込んで止めに入る。
「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!ジャマだぁぁぁ!!」
「......ははひゃはは!そうだもっと来いよ!」
「死ねええええええェェェ!!!!」
「殺ってみろよぉ殺れるものならぁ!!」
何度も自分の行動を阻害された装甲空母姫は、我を忘れて力任せに滅茶苦茶に剣を振り回して若葉を殺そうとする。対する若葉は冷静に狂っているとでも言うべきか。目が血走った状態でありながら、的確に相手の剣撃を赤い残像を描く夕霧で弾き返す。
危なかったがなんとかなった。また砲撃を......
そう思い、暗闇でよく目立つ赤い光へ目掛けて砲を構えたウツギに通信が入る。相手は正確な場所は解らないが近くにいるアザミからだった。
『ウツギ......弾......切れタ......』
「っ......そうか。球磨たちと合流するといい」
『ごめン』
「謝るな。こっちも隙を見て逃げる。早く!」
『了......』
通信を終えたウツギは、自分の服の腰にキャンプ用のナイフが仕舞ってあることを確認して深呼吸をする。
「すうぅぅぅ、はぁぁぁ......」
「やるしかないのか。アレを、たった二人で......」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「しゃあっっッ!」
「おぉっ......!?」
「殺す......殺す殺す殺す殺すッ」
「そればかりだなッ......っ、......ん~腕がシビれるね............」
重い......ただの突きや切り上げが岩みたいだ。神風が「技」ならこいつは「力」か。良いよ良いよ若葉を楽しませておくれよ.........。
爛々と目が輝く目の前の女との斬り合いを若葉が楽しむ。
そうだ。良いことを思い付いた。アレを真似してみるか......ンッふふふ......♪
「そこだァッ!!」
「しまっ.........!?」
若葉が何かを思い付いたと同時に、装甲空母姫の、その細い腕のどこから出ているんだと言いたくなる馬鹿力による切り上げを押さえ込もうとして、右手を振り上げて大きく後ろに仰け反る。
「まずは一つ」
「串刺しだぁぁぁぁ!!」
満面の笑みを浮かべて、こちらへ向かってくる装甲空母姫の姿が、若葉にはコマ送りのビデオ映像のように感じられた。
か か っ た
若葉は
振り上げた刀を自分の頭越しに背中へと回し
刀を手から離す。
そして自由落下する刀を事前に背中に回していた左手で掴むと、
そこからぐるりと刀を一振り。
その一連の行動は、神風がやった、若葉の両腕を切り飛ばしたあの斬撃である。
「なっ.........あ.........」
「ちっ......まだ練習がいるか」
完全に油断しきっていたこの女の腕一本ぐらいなら取れたかな。
そう思った若葉だったが、流石に見よう見まねでは無理があったのか。「背廻し斬り」は装甲空母姫の胸元を傷つける程度に終わる。
まぁいいか。楽しかったよ。あの小豆色よりは弱かったが......これ以上は贅沢になってしまう......フふふ♪
若葉は胸を押さえて
彼女の脳髄に、またあの形容しがたい頭痛と、全身の血が逆流するようなおぞましい吐き気がやって来る。たまらず若葉は口を抑えてその場に踞る。
「お゙ぶっ.........うっぐ............?」
そして勿論、そんな絶好の機会を逃すわけもなく。装甲空母姫は体中から殺気を放って、無言で若葉に斬りかかる。
「足を止めるなと言っただろ。若葉」
「どけ」
「嫌だと言ったら?」
「お前ごとそこの艦娘をたたっ斬る!!」
誰だ?......あぁ。ウツギか。......視界が霞んできた。
ずっと割り込むタイミングを探していたウツギの乱入によって、若葉は助けられたが、当の彼女は尋常ではない頭痛と吐き気でそれどころでは無かった。
そんな若葉の頭に、「声が響く」。
―――軽率に私に触れた愚かな人の子よ―――
―――その体を献上せよ―――
「.........この刀から゙......か?」
―――さあ、私の新たな
その、頭痛に響く声と共に、刀からミミズのような触手が這い出てくる。そして若葉の左手首を覆うと、頭痛が更に酷くなる。
「ぐっ゙......あぁっがっ.........!?」
若葉は激痛に
「はぁ......はひ......んっふふフフふふははは」
突然笑いだした後
「はははははははは!!従うものかよ!!!!」
「左手で触手に絡まれた右手を抉った」。
―――貴様、何を?―――
「はぁ、はぁ。ふううぅぅぅぅゥゥゥ......」
「残念。若葉は人の言いなりになるのは大ッ嫌いなんだ」
「お前は「道具」なんだ......「道具は大人しく使われろ」」
―――...............。―――
その言葉を口にした途端、若葉の頭痛と吐き気が消えていく。
そうだ。それでいい。......ふううぅぅぅ、無駄な時間を過ごした。ウツギを追い掛けなければ。
彼女の血だらけの右手に握られた「夕霧」は、静かに赤く輝いていた。
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復讐の念に取り付かれた装甲空母姫を相手に、
ウツギは圧されながら座礁した船の残骸に辿り着く。
一か八か。彼女はこれを利用し
装甲空母姫に奇襲を仕掛ける。
次回「
車のプラモデルを作って認識する、ガンプラのスゴさを噛み締める今日この頃。