日が傾き、外が朱色に染まる時間帯。鎮守府の空いていた部屋のベッドに男が二人腰かけている。その内の一人、眼鏡の男......
「............ぁぁ......」
「.........元気出してください。聡さん」
「先輩......俺は恥ずかしさで死にそうっす......」
顔中のシワが中央に寄ったような凄まじい表情を浮かべて田代が言う。一般人なら誰もが口を揃えて「怖い」と言いそうな表情だったが、前から職場が同じで彼と行動を共にしていた鎌田は気にせず田代に声をかける。
「大体なんであんな人が集まっている時に言ったんです?しかも『第三鎮守府で見たときから一目惚れしました。俺と付き合ってください!』なんてわざわざ二回目に言い直し」
「やめてくださぃぃ......死にたくなります......」
田代が眼鏡を外し、涙で
「聡さん。今は失恋の悲しみよりも、出撃したウツギさん達の無事を願うほうが良いのでは?」
「せんぱぁいぃ.........」
「それに、断られたとしても。これからゆっくりと交友を深めれば。きっとチャンスは有ります」
「先輩......」
あぁ、テンパりすぎて「先輩」しか言えねえ......俺はなんてゴミみたいな後輩なんだ......。そうは思いつつも、田代は鎌田の優しさに感謝しながら、取り合えず風にでも当たろうと部屋を出るため座っていたベッドから立ち上がる。
「何処に行くんですか?」
「ちょっと、海見てくるっす」
「そうですか。では僕も」
「......?一緒に来るんですか?」
「聡さんは慌てん坊ですから。海に落ちたら僕が引き上げないと」
「俺そんなふうに思われてたんすか.........」
田代は鎌田のコメントに項垂れ猫背になりながら、対照的に鎌田は姿勢よく歩いて部屋を出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こちらシエラリーダー。バードストライク隊、聞こえますか?」
『ウイングワン、敵に囲まれています!援護お願いします!』
「すぐに到着します。それまで持ちこたえられますか」
『なるべく早くお願いします!!』
「了解」
夕陽で目が眩みそうな景色が広がる朱色の海上を、いつも自分達が留守の時に鎮守府の警備を頼んでいた部隊からの救援を聞き付けて出撃してきたシエラ隊が駆けて行く。
いつもの無線機ではなく、砲撃戦の途中でも通信が行えるようにとヘッドセットを着けてきたウツギが、隣でゴーグルで隠れて目元こそ見えないものの、夕日に照らされているのとは明らかに違う色で、顔を紅くして落ち着かない様子のツユクサに声をかける。
「ツユクサ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかも知れないッス......」
.........まあ、配属されてきた田代とかいうあの男にいきなりあんな事を言われては当然か。第三で初めて会ったと言っていた......夕張があの時言っていた増員された整備員の一人だったのか。にしても、自分達のこの見た目を気味悪がるどころか告白してくるなんて随分変わった......と言うよりももはや変人ではないだろうか。
内心ウツギが田代に散々な評価を下していると、後ろに居た球磨と木曾がツユクサに向けて口を開く。
「でもツユちゃんが彼氏持ちになるだなんて予想外だクマ~。うりうり♪」
「やめてぇ......恥ずかしいッス......」
「.........やめてやれよ球磨姉、ツユクサが困ってる。それに断ってたじゃん」
「いやいや、思いっきりのびのびと出来るときに恋愛はやるべきだクマ!!いままで五人はフッた球磨ちゃんが言うんだから間違いないクマ!!」
「......向こうから離れてっただけじゃね」
「あ゙?」
「何でもない聞かなかったことにしてくれ」
もうすぐ戦闘に入るというのに
レーダーに敵反応が合ったと同時に、ウツギの艤装のCPUのアナウンスが流れる。
『大規模な熱源反応を関知。メインシステム、戦闘モード、起動します』
「お喋りは終わりだ。味方に当てないように気を付けて。行くぞ」
「「「了解」」」
「「承知」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「援護します。遅れてすいません。榛名さん、で合ってますか?」
『シエラ隊の皆さん、状況はかなり悪いです。敵の戦闘機を落として貰えますか?』
『あっかーん!!ちょっちピンチすぎやぁ!!』
「了解。アザミ頼んだ」
「承知しタ......」
救援信号が出ていたポイントに着いたウツギ達が、上空を飛び回る敵の艦載機を......主に散弾を持ってきていたアザミが落としていく。
......いったいどういう原理で飛んでいるんだろうか。ウツギがそう思いながら空に浮かびながら銃弾の雨を降らせてくるエイのような形状をした物体と、それよりも奇妙な球体の形をした飛行物体を撃ち落としながら、愚痴を言う。
「っ、堅いな。あの丸いの」
「しかも速いときたクマ。こりゃ時間がかかるかもなクマ~」
「......少し退がって味方と合流しよう」
レーダーに映る反応の設定を敵の熱源から味方の発信器に変更して位置を確認したウツギが、球磨達を先導して榛名達と合流しようと海を滑っていく。
既に見えてはいたが、艤装からもうもうとおびただしい量の黒煙を上げている艦娘達の群れとシエラ隊が遭遇する。
「もうダメよ......オシマイだわ......」
「うち、もう疲れたわ......」
「龍驤気をしっかり!!あぁもうバカばっかり!!」
「味方が来ました!!皆さん、あと少しの辛抱です!!」
疲労の溜まりきった顔で汗だくになりながら砲で艦載機を撃ち落としている艦娘達の前に、ウツギが割り込んで対空砲火を行うと同時に味方に指示を飛ばす。
「......援護します。各艦散開」
「......!?し、深海棲艦!!」
「違うんスけどね......ははは......」
「はぁっ!?何でそんな紛らわしい見た目なのよこのクズっ!!」
「口を動かす暇があるなら手を動かせ」
「うるさいっての!!」
「敵と誤認しても知らないぞ」と
「数が多いな。いったいどこからこんなに沸いてくる......」
「ふん......
「若葉、何をするつもりだ?」
「「親」を殺せばこいつらは黙るんだ。だから斬ってくるとするよ......くふふ......」
親......これを発進させてきた空母の事か。一理あるかも知れないがこの弾幕を一人で潜り抜けていくのか?
心配になったウツギが榛名の護衛を木曾に頼み、アザミを呼んで突撃していった若葉を追い掛ける。若葉はウツギには見えなかったがニヤつき顔で刀を抜く。
瞬間
凄まじい激痛が頭に走り、反射的に頭に手を当てその場にうずくまって動きを止めてしまう。
何だ今のは。
そう若葉が思った時、彼女に向けて機銃を撃ってきた戦闘機を撃ち落としながら駆け寄ってきたウツギに、若葉はそのまま手を引っ張られながら海を進む。
「足を止めるな。それよりどうしたんだ、具合が悪いのか?」
「......なんともない。手を離せ」
不機嫌そうな顔で若葉がウツギの手を振り払う。
.........なんだったんだあの形容しがたい不快感は。全く腹が立つ。まあ良い。さっさとハエどもを切り刻んで帰ろう。
気を取り直した若葉と、それを追い掛けるウツギとアザミの三人は沈む夕日を背景に、朱色の海を駆け抜けて行った。
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明らかに体調が優れない若葉と
彼女を気遣うウツギとアザミが敵に斬り込む。
少しずつ味方が押していき、戦闘終了も時間の問題。
そう思った矢先。アイツがやって来る。
次回「闇に
4~30話で終わるっつってたのに詐欺になったなぁ(白目
あと次回予告が一番書くの楽しい(錯乱