「第一横須賀鎮守府所属、
「どうも」
「ウツギです。よろしくお願いします」
謎の極秘任務から夜が明けた日の昼過ぎ。
鎮守府に戻ってきた四人と、拘束されたままの着物の艦娘とネ級、今回の騒動の調査に大本営からやって来た男......金髪で、すらりとした体格に、顔立ちの整った男、佐伯 渉についでに調査に付き添う形で、鎮守府に滞在することになった秋津洲と夕張、そして鎮守府に所属する全員の人間が、鎮守府で一番広い場所である食堂に集まる。
髪の毛の色から見てチャラついたやつかと思ったが、そう言う訳でもないのか。全く着崩さずに紺色のスーツを着て真面目そうに敬語で喋る佐伯に、そんな事をウツギが考えていると、佐伯が続けて口を開く。
「焼け跡から見つかった第一呉鎮守府の通信ログと、貴方のパソコンの履歴を少し調べさせて貰いましたが、照合したところ、確かに田中
「ログでは、二日前の深夜に田中はメールを送信。深尾さんは送信された翌日の朝にそれを確認した。間違いありませんね?」
「ええ、あっていると思いますが......」
「では、ウツギさんに質問をします。護衛の依頼を頼まれた船の積み荷の中身は把握していましたか?」
「いえ、事前に提督から聞いて、覗くな、と言われていたので、火気厳禁の爆発物と言うことしか知りませんでした」
「深尾さん、覗くな、と言ったのは?」
「メールの内容からですよ。極秘任務で、更に積み荷も内容は教えられないから見るな、と言うことが書かれていたので」
「成程。なぜウツギさんは爆発物だと解ったのですか?」
「積み荷のコンテナに大きく火気厳禁、とか、
ウツギの言葉に佐伯が何かを考えているような仕草をとり、会話が途切れる。
数秒ほどたってから、佐伯が気を取り直してウツギに質問してくる。
「ウツギさん、報告書には突然コンテナが爆発した、とありますが、間違いありませんか?見間違いや誤射によるトラブルの可能性は?」
「ないと思います。暗かったですがしっかり見ていましたから。でも」
佐伯の質問に、ウツギが縛られたままうつむいている着物の艦娘に視線を移してから続ける。
「彼女のほうが、知っていると思いますよ。目の前で見ていましたから」
「彼女、ですか」
佐伯は少し渋い顔をするがすぐにポーカーフェイスに表情を戻して、少し離れた場所にいた着物の艦娘の前に座ると、彼女から話を聞くために質問を投げ掛ける。
「駆逐艦の......「
「............」
「無言は肯定とみなしますが」
「......解りました。コンテナは勝手に爆発した、と」
黙ったままの「神風」への質問を終え、佐伯がウツギと深尾の前に戻ってくる。そして溜め息をつきながら、
「......?これは?」
「破損した呉鎮守府のコンピュータからサルベージした田中の通信履歴です。あなた達への依頼の後に田中は突如行方をくらましていまして、今我々が奴の足取りを調べている途中なのですが、その時に見つかった物が」
「この、ナカヤマインダストリィから大量の時限式の爆薬を取り寄せたっていうデータ、ですか」
「はい。目的は不明ですが、ウツギさん達が行っていた護衛任務ですが」
「初めから仕組まれていた「罠」と見て間違いないかと。そして田中は海軍への明確な敵意も
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「結局、さ。何がしたかったんだろね?田中なんとかって?顔すら解んないからちっともイメージ沸かなくない?」
「田中 恵だ、漣。それに逃げられたんなら流石にお偉いさんにもわからんだろうさ。そして上がわからないなら尚更下っぱ兵士の自分達に解るわけがない」
一通りの情報交換が終わり、佐伯が秋津洲と拘束した二人を引き連れて、彼女たちから何かを聞き出すため、と、尋問のために鎮守府の空いている部屋に行ってから、それなりに時間を置いて質問してきた漣にウツギが返す。
「考えても解らないなら考えないほうが良いクマ。そんな事しても疲れるだけクマ~」
「そんなに適当でいいのだろうか......」
「ウっちゃんは真面目すぎだクマ。も少し肩の力抜けクマ。それに......」
「お久し振りクマァァァ!!夕張ぃぃ!!」
「わあっ!?あ、危ないですよ球磨さん!」
問題は一先ず置いといて、と言った球磨は、久しぶりの親友との再会がよほど嬉しかったのか、他の艦娘が見ている前で躊躇なく夕張に飛び付く。その夕張もウツギには、困っていながらどこか嬉しそうに見えた。
「いやぁ、親友が大本営勤務だなんて。球磨も自慢できる事が増えたクマ!」
「いえ、まだまだ未熟者ですよ私は。整備のウデもぜんぜんですし」
「あっ、そう言えば」
夕張がちらりと時雨を見て、思い出したように切り出す。
「時雨さん、艤装の調子はどうでしょうか?」
「問題ないです!!むしろ今までで一番絶好調です!!!!」
「ひゃうっ...!?」
「っ......。時雨、声がデカすぎだ」
「えっ、あっ!すいません......」
全く必要性のない大声で返されたせいで少しショックを受けていた夕張を見てウツギが時雨に注意する。
......そう言えば、秋津洲は佐伯に付いていったが夕張はなんで残っているのだろうか、と今さら気づいたウツギが夕張に質問する......前に天龍がその事について夕張に聞く。
「なあ、さっきの四人に付いてかなくて良かったのかお前?」
「え?えぇ、私の仕事じゃないですし」
「......?じゃあ何のために来たんだ?」
「えーと、上層部の伝言を伝えに......」
夕張が前と同じ「マシンオブインフェルノ」とロゴが入った白い作業着のポケットから一枚のメモ用紙を取り出して、上層部の伝言なるものを喋る。
どうでもいいことかも知れないがその変なロゴ入りの作業着は何なのだろうか。ウツギがそう思っていたことは勿論夕張は知らない。
「上の失態で面倒な事に巻き込んでしまった。謀反を見抜けなかった我々からの償いとして、良い機会なので本鎮守府の設備の強化と整備員の増員をさせてもらう、と」
「ほぇ~大盤振る舞いッスね」
「助かります。私と他の子のお手伝いだけじゃちょっとキツかったんで......」
なんだ、結構こちらの心配もしてくれるのか。......良い仕事場に就いていたんだな自分は。
ウツギが今一度上層部への認識を改めた時、開きっぱなしになっていた食堂の入り口から、やけに顔がげっそりした秋津洲が入ってくる。あまりにも具合が悪そうな酷い表情の秋津洲に集まっていた艦娘たちは驚き、夕張が慌てて彼女の傍に駆け付ける。
「ど、どうしたんですか秋津洲さん!?どこか調子悪いんですか?」
「いや、......夕張、心配ないかも......」
「それよか......」
「ウツギちゃん、これ結構マズいことになってるかも......」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「マズいとは具体的になにがだ」
「まず、あの二人について説明するかも」
佐伯が食堂に居たときとは似ても似つかない、残業続きのサラリーマンのように疲れきった顔になった秋津洲が食堂に集まった艦娘に向け口を開く。
「まずネ級の子は元重巡洋艦「高雄」だって解ったかも。そしてあの神風と高雄が元の所属が旧舞鶴鎮守府ってこともね」
「「旧」舞鶴鎮守府?どこだそこ?」
秋津洲の口から知らない場所の名前が出てきたことに、木曾が首を傾げる。その、木曾の隣では、時雨が目を見開き唖然として体を震わしている。
変に思った木曾が時雨に聞くと......
「どした、知ってるのかお前さん?」
「......僕の記憶が正しければ」
「深海棲艦の攻撃で壊滅、所属していた人間は艦娘含めて全員死んだって......」
「えぇ!?ま、マジッスか......」
「時雨ちゃん当たりかも。私も戦死した艦娘や提督さんは全員
「......ならどうしてあの二人は生きてる」
佐伯から渡されたタブレットの中身を確認しながら、頭を抱えていた深尾が秋津洲に聞く。その深尾も秋津洲に負けず劣らずの不機嫌かつ疲れきったような表情だ。
「いやぁ、その......それが田中のお陰で自分達は生きているって」
「ハァ?また田中なんとかッスか?本当にそいつナニモンなんスかね」
海軍に敵対しているらしい田中に、軍属の二人が命を救われた?漣じゃないが田中は何がしたいんだ?
変な人間だ。顔が見てみたい、と、顔も見たことがない一人の女への不信感と疑念を
「質問いいか秋津洲」
「うん?どうしたかも、ウツギちゃん?」
「あの二人が船を襲った理由は聴いたのか?春雨にネ級が言ったらしい言葉が気になるんだ」
「勿論聴いたかも。あの二人.........って言うか、神風が教えてくれたかも」
......食堂でだんまりだった奴等なのに、四人になった途端にべらべら喋ったのか。......聞かないでおくが自白剤でも使ったのだろうか、とウツギが思っていると秋津洲は予想外の答えを出してきた。
「田中をぶっ殺すために船を襲ったって。言ってたかも」
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行方不明の騒動の仕掛人、田中 恵。
そして佐伯の頼みから、ネ級、高雄を引き連れてFS隊は二人が拠点にしていたという
隠れ家へと向かう。
その隠れ家のある場所はFS隊が初めて球磨と木曾に会った場所、アウトエリア27だった。
次回「汚濁再び」 素晴らしいと思えるように。醜さに気付いてみよう。
台詞まみれ回でした。