資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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戦闘開始よ~


強襲

 

 

 

 

 

 

 深夜。よく晴れたおかげで、月明かりに照らされ、時間の割には視界がきく状態の海上を、一隻の無人自動操縦のコンテナ船と、それを挟むように時雨と春雨の二人が航行している。残りの二人、ウツギと若葉は船の上、一番大きなコンテナの上に陣取って周囲を警戒していた。

 ......それにしても。何時も思うが、生まれ持った物とはいえ不便な目だ。これじゃあ隠密行動の意味がない。ツユクサからゴーグルでも借りてくるべきだったか。

 目元に手を持ってきて、自分の瞳が薄く紫色に光っていることを確認したウツギが、こればかりはどうしようもない自分の体質に心の中で愚痴を垂れる。

 そう言えば春雨も同じように目が光るんだった。彼女はこの事についてどう思っているのだろうか。周囲を警戒しながら、そんなどうでもいいような事を考えていたウツギに無線が入ってくる。ちょうど今頭に思い浮かべていた艦娘、春雨からだ。

 

『目的地の補給所まであと五分でス。問題なく終わりそうですが、気は緩めないデ』

 

「わかってる。こちらも敵反応は今のところ無し。引き続き警戒を続ける」

 

「まあ誰が来ようが若葉が殺すがな......ははは......♪」

 

『時雨、索敵終わりました。敵反応はないです』

 

「わかった。ここまで敵襲はないが気は抜くなよ」

 

『勿論です』

 

 二十分おきの定期連絡を済ませたあと、ウツギが何気なく前を向いたときに視線の先に、控え目な明るさのサーチライトで照らされた薄暗い海上基地が真夜中の海に、ぽつん、と佇んでいるのを見つける。どうやら予定より早く着くようだ。

 何事も無く終わりそうだ。良かった。

 そう、内心安堵していたウツギに、横で刀の手入れをやっていた若葉が話し掛けてきた。

 

「つまらんな......この若葉を超える強者は現れず。か。なぁウツギ。其処らを荒らし回ろうか?」

 

「......それは冗談で言っているのか?目的地も近いんだ。変な真似は寄せよ。あそこに着いたら他の鎮守府の艦娘に護衛を引き継いで大人しく帰還だ」

 

「ふフフ......つれないなぁ。ただの「じょうく」だよ。んフふふ......」

 

 顔に施した道化師のような化粧で、何時ものケタケタ笑いが相乗効果で何倍も不気味になっている若葉に、ウツギが少し呆れたような顔になる。

 そしてそうこうしているうちに、いつのまにか船は補給基地に到着。右舷を港に着けたために左舷側に居た春雨の隣に来た時雨をコンテナの上からウツギが確認すると、若葉と二人で梯子をつたってコンテナから降りる。

 さっさと引き継ぎを済ませて帰ろう。こんな寂れた基地に長居する理由もない。ウツギは他の鎮守府の部隊が来るまでぼんやりしながら積み上げられたコンテナの一つを眺めていた。

 

 

 

 

 

 が、どういうことだろうか。既に補給が終わった船は依然として基地から動かず、三十分ほどたっても他の艦娘の姿や反応が無い。

 明らかな異常事態にウツギが下の二人に無線を入れようとしたときだった。

 

 

 ウツギの持ち込んだリ級の艤装のCPUから警報が鳴る。

 

 

 それと同時に時雨から無線が来た。彼女も敵襲に気付いたようだ。

 

『ウツギさん敵反応だ!!』

 

「こちらも確認した。数は............なんだ?......たったの2?」

 

『こっちの一匹は任せて!ウツギさんとサザンカさんは基地側のヤツを!』

 

 時雨たちが向いていた方向から一つ、そして基地側の方向から一つ。合計二つ......襲撃部隊と言うにはあまりにも数が少ないことにウツギが困惑する。しかしそんな事はお構いなしに、敵が猛スピードで近づいてくる警告アナウンスが鳴り、四人はいやがおうにも戦闘態勢をとらざるを得なくなる。

 ......こんなにも面倒ごとに巻き込まれるなんて、自分には呪いでも掛かっているんじゃないのか?そんな、しかめっ面でリ級の艤装とスナイパーライフルを構えたウツギに、若葉が敵が向かってきている方向を見つめながら、口を開いた。

 

「下に降りる。お前は後ろで適当に援護しろ」

 

「......一人で大丈夫なのか?」

 

 

 

 

「誰に向かって言ってる?若葉を嘗めるなよ......クフふふはははは!!」

 

 

 

 

 完全に狂人のそれと言って差し支えない笑顔で顔を飾り付けた若葉が、そう言って、船から基地へと単身降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「来まス。船に近づかせないようにしましょウ」

 

「了解、積み荷に被弾なんてしたら......」

 

 事前に船の積載物は火気厳禁と聞いていた春雨と時雨が、船から距離をとろうと前進。こちらへ一直線に向かってきた敵......重巡ネ級へと砲撃を行う。

 重巡相手ですか......火力が足りないですね。

 そう思った春雨が一人で敵に向かって行く。

 

「敵に取り付きまス。援護射撃お願いしますネ」

 

「わかりました。僕に任せてください!」

 

 時雨から承諾を経て、春雨が両手で顔を庇いながら突撃する。

 

 

 ......?撃ってこない......?

 

 

 自分達の砲撃で既に相手に自分の存在がばれている筈なのに、全く砲弾が飛んでこない事が春雨は気になったが、直後に暗闇でも黙視できる距離に相手が迫る。どうやら考え事をする暇は無さそうだ。

 暗いせいでよく見えないが、自分の身長を超える長さの「何か」を構えていたネ級に春雨が取っ組み合いに持ち込もうとそのまま突っ込んで行く。そして砲を持った左手の裏拳で相手を怯ませようとするが

 

 砲の砲身部分を「何か」で切断され、裏拳の勢いを殺された。

 

 刃物の類いですか。大きさから見て野太刀とかいうやつでしょうか?

 春雨は破損した砲を放り投げて、今度は反対の腕で相手を殴るが、こちらは相手が蹴りで相殺してきた。どうも接近戦がお得意な深海棲艦のようだ。

 このまま手刀だけで終われば楽なのですが......。そう思った春雨に、目の前のネ級が話し掛けてきた。

 

「深海棲艦が船の護衛ですか。妙な事をしますね」

 

「今は艦娘ですヨ......!」

 

「......!?......そういう事ですか......哀れです」

 

「哀レ.........?それはどういう意味でしょうカ?」

 

「貴女は利用されているんですよ。アイツに......!!」

 

 何の話を......?それに、妙に饒舌な深海棲艦ですね?

 こちらの攻撃を受け流した後に距離をとり、背中から生えている尾の部分から取り出したグレネードランチャーを撃ってくるネ級に、春雨が違和感を感じていた。

 さっきから一度も砲の類いを撃ってこないこともそうだが、艦娘相手に効かないとわかっていて歩兵用の武器を撃ってくる事や、先程の発言のせいだ。

 

 

 ......違う。この「人」はただの深海棲艦なんかじゃない。

 

 

 特に苦もなく相手の攻撃をかわしながら春雨が考える。そんな考え事で注意力が散漫になっていた春雨にネ級が近づいて、正眼の構えから太刀を降り下ろしてきた。

 

「ごめんなさい......!!」

 

「.........おっト」

 

 春雨が咄嗟に相手が狙ってきた自分の首もとに力を入れる。すると、

 

 

 

 激しい金属音とともに火花が散り、相手の刀が弾かれる。

 

「なっ......!?」

 

「あれ、斬れそうなのは見た目だけですカ?」

 

 にちゃり。そんな擬音が似合う妖しい笑顔を、春雨が浮かべて挑発する。

 

「......っ、それで勝ったつも...きゃあっ!?」

 

 大きく後ろに仰け反った姿勢を立て直そうとしたネ級の顔に砲弾が当たる。春雨が頼んでおいた時雨の砲撃が当たったのだ。

 時雨さん、ありがとうございます。今なら!

 隙が出来たネ級の懐に春雨が潜り込み、上半身を後ろに倒しその体勢から思い切りバネのように勢いをつけて両手で相手の肩を殴り付ける。

 

 

 ごぎり、と。鈍い音が静かに鳴り、ネ級の両肩が砕ける。

 

「がっ...あっ......!?しまっ......!!」

 

 

「大人しくしてくださイ。殺すつもりはありませン」

 

 

 激痛と同時に動かなくなった腕を後ろに垂らしてネ級が海上に倒れ込む。もちろんこの隙を逃さず、春雨は馬乗りになりネ級の首もとに魚雷を突きつけて、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「縛り終わりました。いいんですか?」

 

「何か訳ありげな相手だったのデ」

 

 両肩の外れたネ級を、春雨の後に駆けつけた時雨が春雨に言われて、自分の装備であるワイヤーガンの交換用の予備のワイヤーを縄の代わりにしてネ級が身動きできないよう縛り上げる。

 

「......なんで沈めないのかしら?」

 

「単刀直入に言いまス。あなた」

 

 

 

「「被験者」ですよネ?」

 

 

 

 春雨の一言にネ級がびくり、と一瞬反応したのを春雨は見逃さない。

 

「被験者......?何ですかそれ?」

 

「深海棲艦化実験の被験者ですヨ。この人は」

 

「えっ......その、わかるものなんですか?」

 

「すぐにわかりまス。実験に失敗して出来た深海棲艦の人は、海に浮くための装備は使えまス。が、砲撃に使う武器が原因不明の動作不良を起こス......。だから彼女は砲を持ってないんでス」

 

「......ちょっとごめんね。......本当だ......刀と歩兵用の武器ばかり......」

 

 春雨の言葉を聞いた時雨が寝っ転がっていたネ級の尾を観る。彼女の言う通りこの深海棲艦はおよそ艦娘や深海棲艦に歯が立たない、サブマシンガンやライフルと言った武器ばかりを、尾の部分にベルトで固定していた。

 ずっと黙ったまま、水面を見つめているネ級に春雨が続ける。

 

「............」

 

「どうしてあの船を狙ったんですカ?」

 

「......その様子だと。知らないのね。あの船の積み荷が......」

 

「積み荷......?僕らが聞いた話じゃただの艦娘用の装備......」

 

 

 

「そんな生易しいものじゃありません!!アレに積まれているのはッ............!!」

 

 

 時雨の発言に、ネ級が凄まじい剣幕で喋り始めた次の瞬間。

 

 

 

 

 ドオオォォォン!!と、三人の後方から戦艦の砲撃のような激しい爆発音が響いてきた。

 

 

「な、なんだい今の!?」

 

「っ......!?船が......!!」

 

 

 ふと、急に後ろが明るくなっていることに気付いた二人が後ろを向くと、コンテナ船が激しく炎上しているのを確認する。

 

「一体何が!?」

 

「様子を見てきまス!!」

 

「えっ、ちょっと!?」

 

 時雨の呼び掛けを無視して、春雨が船の方向に向かって海を駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 自分達の知らないところで何かが起きている。そんな事は、まだ彼女たちは知るよしも無かったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

謎の大爆発により炎上する輸送船。

駆けつけた春雨の目の前には......。

ウツギとサザンカの前に現れた敵。

凄まじい力量でサザンカすら煙に巻く相手の正体とは。

 

 次回「辻斬りと道化師」 夜の(とばり)が、汚れを包み隠す。

 




最近PS2のドラクエ8を始めたんですが......すげぇ面白い(小並感

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