資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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なぜか非常に文章が捗るこの一週間。明日俺死ぬのかな(白目


一撃

 

 

 

「......」

 

「今日は喋らないのか」

 

 時刻は夕方。第三回レ級討伐作戦が決行されたこの日、ウツギは海上でたった一人でレ級と向き合っていた。いままで通りならもちろん勝ち目は限りなく薄いだろうが、しかし今日は雰囲気が違っていた。ウツギに対するレ級は、体の部分部分から血を流し、砲が取り付けてある尾からは黒い煙が出ている。いつものように自分に向かっておしゃべりしないのか、と聞いたウツギに対して、レ級が小声で返答する。

 

「.........めだ」

 

「何......?」

 

「遊びはここまでだ。お前の首だけでも貰っていく」

 

 今までの軽口のようなおしゃべりとは違い、明確な殺意を込めたコメントをレ級がウツギに向けて溢す。ウツギは、自身の艤装に取り付けたサブコンピューターに秋津洲がプログラムした動作ディスクを挿入しながら、レ級に向かって喋る。

 

「あいにくこんな場所で殺される予定はない」

 

「そうか。ならばメモ帳にでも書き足しておけ。ここがお前の死に場所だとな!!」

 

 言うが早いか砲撃してきたレ級に対して、冷静にウツギが左腕の盾で砲弾を受け流す。盾で半身を守りながら、ウツギは夕張の改造によって新たに手持ちグリップが追加された三点バーストの連装砲を構えて、CPUで制御される背負った艤装に固定されている砲と右腕の砲でレ級を迎撃する。 攻撃を当てられたレ級は、いつもなら血まみれになろうがなんだろうが楽しそうな笑みを浮かべているところだが、今は砲撃をしながら、これっぽっちも余裕が無いといった苦悶の表情を浮かべている。

 

(効いている......そしてCPUもヤツの動きに付いていけている......秋津洲に夕張め、いい仕事をする...!)

 

 

 

 

 # # # 

 

「はいこれ!ウツギちゃんへ」

 

「......これは何に使うディスクだ」

 

 レ級との戦いからちょうど三時間ほど前。

 秋津洲が突然謎のCDのようなものを自分に手渡してきた。いったいこれをどうしろと言うんだ。そう思ったウツギが秋津洲に聞く。

 

「ふふ~ん、聞いて驚くかも。そ・れ・は......」

 

「この秋津洲自らがプログラムしたCPUの動作ディスクかも!!」

 

「動作ディスク?」

 

 聞きなれない単語にウツギが眉間にシワを寄せて首を傾げる。ますます意味がわからなくなったと思っていると秋津洲が説明する。

 

「正式名称はオペレーションディスク。ウツギちゃんが使ってるサブコンピューターのロジック......うーんと、例えば予測射撃の補正とか、射撃のインターバルの設定なんかを(つかさど)る部品かも」

 

 秋津洲の説明で何となくだがディスクのことがわかったウツギは、しかしなぜわざわざ彼女が新しくディスクを作ってきたのか疑問に思ったので続けて聞いてみる。

 

「やってくれるのはうれしい。だが、なんでわざわざ新しいのを用意したんだ?デフォルト設定で不都合でも起きたのか?」

 

「ん~と、ウツギちゃんの艤装に積んであった艦載カメラの映像を見さして貰ったんだけど、ちょっと純正ディスクの動きじゃ相手に追従できてないと思ったかも。だから、秋津洲が夜なべして作ったかも!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ!そんな豆鉄砲ごとき!!」

 

「.........っ!!」

 

 中破状態のレ級の苛烈な攻撃をいなしながら少しずつ......本当に少しずつウツギが砲撃をレ級に当ててダメージを蓄積させる。勝てる......しかし気を抜くな。ほんの少しでも気を抜けばすべてが台無しになる......!

 ウツギは極限の緊張感の中でレ級と砲撃戦を繰り広げながら、作戦行動前に緒方から言い渡された命令を思い出していた。

 「これまでの傾向から、レ級はウツギに執着している事がわかる。そこを付くため、ウツギ(自分)が単独でレ級を(おび)きだし、そこを複数の艦娘で叩く」。いままで二回行われた作戦結果から読み取れることをフル活用したいい作戦だ、とウツギは思っていた......が、しかし、討伐部隊はことごとく返り討ちに合い次々と撤退。それが原因でこうしてウツギとレ級の一騎討ちが始まった訳だ。

 

「ぐっ......うぅおわっ!?」

 

「...やった......!」

 

 ウツギの砲撃がレ級の尾に着弾、すると軽い爆発を起こしてレ級がよろけ、さっきまで少ししか出ていなかった黒煙がより多く、濃く出るようになる。

 もう少しだ......もってくれよ「暁」......。ウツギが自分の艤装に呼び掛けるようにそんなことを言ったとき、レ級が激怒しながら、背中のリュックサックから取り出した魚雷......ではなく砲弾を凄まじい勢いで投げつけてくる。

 

「舐めるなぁぁぁ!!」

 

「っ!?しまった!」

 

 一瞬の隙を突いたレ級の攻撃でウツギの背負っていた艤装に取り付けていたサブコンピューターが撃ち抜かれ......部品にテープで貼り付けていた、いつも料理を振る舞っていた駆逐艦の艦娘から貰った花束から花弁が散る。

 

 

 

『花束?こんな時にか?』

 

『いつも美味しいご飯を作ってくれるお礼なのです。』

 

『カランコエか......綺麗だな......』

 

『花言葉は「あなたを守る」。ウツギさん、死なないで......』

 

『当たり前だ。絶対に帰ってくるさ』

 

 

 

「ぐうぅっ!?あっ......!!」

 

「戦闘中に考え事か!?紛い物ぉ!!」

 

 CPUと花束を撃ち抜かれて動揺したウツギは、そのままレ級が続けて投げつけてきた魚雷で右腕を吹き飛ばされる。激しい痛みに一瞬、意識が飛びそうになるがすぐに残った左手の盾で身を守る。

 

「はははは!!終わりだぁ!!」

 

 勝利を確信したレ級がそのまま全速力でウツギの方へと突撃し、必殺のパンチを繰り出そうと、どういうわけか自分の方へと盾の裏側を向けるウツギに思い切り振りかぶって殴りかかる。

 

 終わった。これでこいつは死ぬ。

 

 そう確信したレ級だったが、次の瞬間には

 

 

 

 

 

 彼女の胴には風穴が空いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガフッ......かひゅー...かひゅー...」

 

 

「はあ......はあ......終わった...のか......」

 

 

 吹き飛ばされた右肩を押さえながら、ウツギは目の前で腹から大量に血を流しながら倒れたレ級を見つめる。

 「ハープーン・ガン」。夕張が盾の裏側に取り付けた武器だ。

 特殊な高硬度金属で作られた(もり)を発射する銃で、まともに当たればレ級でもただでは済まないだろう。ただし極端に射程距離が短く、撃てる回数も両手合わせて二回しかないから大事に使え。

 夕張の言っていた事を思い出しながら、最後の最後に辛くも勝利をもぎ取ったことを噛み締めながら、ウツギは瀕死のレ級にある質問をする。

 

 

「どうして艦載機を使わなかった」

 

 

「がっ......ふふふ......どうして...だと思う......?」

 

 

 もう少しで死ぬと言うのに、やけに爽やかな顔でレ級がそう返す。そして、少し間を置いてから話し始めた。

 

 

「俺が求めるのは......楽しい戦いだ......ただただ蹂躙するだけじゃあ面白くない...ゴホッ、ゴホッ!......ふぅ~......」

 

 

 口からとめどなく血を吐きながら、尚もレ級は続ける。

 

 

「楽しい戦い......お前と殺し合うのが一番楽しかった......そんなヤツをすぐに殺しちゃ......つまらないだろう?......ふふふ......楽しかったよ......お前とは......」

 

 

 そう言ったあと......レ級は満足そうな顔のまま目を瞑る。

 死んでも海上に浮き続けるレ級の死体を見ながら、ウツギは無線を入れる。

 

「......アルファリーダーから各艦へ。任務を完了した、だがこちらの傷が大きい。医療班を寄越してくれ」

 

『了解かもー!で、ウツギちゃん大丈夫なの?』

 

「平気だ。右手が吹っ飛んだがな」

 

『ええぇぇ!?それ一大事か......』

 

 無線の奥で大騒ぎする秋津洲に構わずウツギは無線を切る。そして、大きい溜め息をつくと、レ級の隣に座り込んで、味方の到着までぼうっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

レ級を撃破するという大金星を挙げたウツギ。

こうしてセレクトEX-1は任務達成と同時に解体が決定される。

しかし...フィフス・シエラの戦いはまだ終わらない。

ウツギに向けて「ヤツ」からの不審な依頼が来る。

 

 次回「錯綜と凶夢」 音を立てて崩れてゆく......

 




二章の終わりまでカウントダウン!

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