資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

16 / 102
怒濤の三日連続投稿。あといつもより分量少なめです。


次の準備

 

 

 

 

 

 レ級との三度目の戦闘から三日ほどたった日の昼頃。セレクトEX-1の艦娘たちは、また次の作戦の決行まで待機を命じられていた。他の艦娘たちが今日から三日後に設定されたレ級討伐作戦に備えて訓練などに打ち込んでいる頃、ウツギは港の堤防に座り、ぼうっとしながら海を眺めていた。

 

「............」

 

「何やってんだ?ウツギ」

 

「......?......摩耶か」

 

 死人のような目をしながら、ウツギが振り返って声をかけてきた人物を確認すると、また海の方に向き直る。すると摩耶はウツギの隣に座ると、ウツギと同じように海を眺めながら口を開いた。

 

「なぁ、どうしたんだよ?そんな精気の抜けきったような顔して」

 

「一人にしてくれ......私は自分に自信がなくなった」

 

 摩耶の質問に掠れた声でウツギがそう返事をする。何やらただ事じゃないな、と思った摩耶が、しつこく食い下がる。

 

「元気ねぇなぁ、一体何があったんだよ?」

 

「......自分は弱いな、と思ったんだ」

 

「は?」

 

 ウツギの返答に摩耶が面食らう。海を眺めながら、ぽかんとした顔の摩耶を無視してウツギが続ける。

 

「レ級と戦ったとき......アザミと摩耶は、うまくいけばあいつを倒せるぐらい追い詰めていたじゃないか。」

 

「でも自分は......一回目は不意打ちでやられて、二回目は防戦一方、そして前はただがむしゃらに撃ってただけで、何もできなかった。」

 

「今だってそうだ。ワタリに貰ったCPUが無ければ満足に敵に砲撃を当てることすら出来ない。」

 

「雑魚なんだ、自分は。所詮はリサイクル品だ。摩耶たちみたいな強いやつと並んで戦うなんて無理だったんだ......。」

 

「逃げようとした時だって、駆逐棲姫が来なければ、自分なんて簡単にレ級に殺されていた。忘れられない......この敗北感......」

 

「なんだよ、心配して損したわ。元気じゃねぇか」

 

「何?」

 

 摩耶の言葉の意味が理解できなかったウツギが横を向いて摩耶の顔を見る。摩耶は横を向いたウツギの顔を見て、微笑みながら続ける。

 

「いつもそんなにしゃべんねぇじゃんか、お前。そんなにべらべら口が動くんならまだ元気な証拠だ」

 

「......全然元気なんかじゃ」

 

「それに」

 

 摩耶が喋ろうとしたウツギの言葉を(さえぎ)って続ける。

 

「だれもお前さんを弱いなんて思っちゃいねぇよ。むしろアタシは何度も助けられたし」

 

「そんな...ただの偶然さ」

 

 どうにか摩耶がウツギを励まそうと話しかけるが、ウツギはまともに取り合おうとしない。さすがに少し頭にきた摩耶が少し声を荒げて、ウツギに言う。

 

「だあ~っもう、なんでそんな卑屈になってんだぁ?もっとドンと構えろよ!?」

 

「さっきも言っただろ。ほっといてくれ」

 

「ぐうぅっ......。あっそうだ!!」

 

 急に何かを思い付いた摩耶がウツギの腕を掴んで強引に立ち上がらせる。そしてそのまま嫌がる彼女を何処かへ連れていこうとする。

 

「な、なんだ、何をする気だ」

 

「黙ってろっての。どーせ暇なんだろ?ちょっと気分転換させてやろうかなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「油温、110まで上昇。ブースト圧、1.5。次は?」

 

『オッケー、そのまま続けて』

 

「わかった。このまま行くぞ」

 

 同日の昼頃。ウツギは、もう何度も使用して使い慣れている暁の艤装に、大量の計測メーターと新型のエンジンを載せて、鎮守府近海をクルーズしていた。

 「今デルタ隊に居る艦娘、「島風」用の彼女自身が発注した新装備のテスト。それの手伝いをやってくれる艦娘をツ級が探していたから付き合ってやれ。」ウツギを無理矢理引っ張ってきた摩耶の言っていた「気分転換」の内容である。

 

「油温、尚も上昇中。もう少しで130だ」

 

『は~い、じゃ、ラジエーターのスイッチ入れてクーリング航行に入って』

 

「了解した......。油温90、ブースト0.3まで下がったぞ」

 

『わかった......はい、好きな速度で行って!』

 

「承知したッ......!!?」

 

 ツ級に好きな速度で行け、と言われたウツギが全速力で海を駆ける。一瞬、圧倒的な加速で後ろに仰け反りそうになった体を前に倒して、全身にかかる風とGに抵抗する。

 三分ほど全開航行をやって、油温計の数字が上昇し始めるのを確認したウツギがまた航行速度を落とす。そして、何となくウツギが無線機越しにツ級に声をかける。

 

「......ツ級、聞こえるか」

 

『え?何かあったの、ウツギちゃん?』

 

「......スゴいな......お前たちは。こんなに凄い物を作れるなんて。自分にはとても真似できない」

 

『それは違うよ、ウツギちゃん。』

 

 ツ級を褒めたウツギにきっぱりと、ツ級......夕張が言い返す。

 

『どんなに私たち技術屋が良いものを作っても......結局は使う人次第だよ。スゴいのは、ウツギちゃんたちみたいな、前線で戦う人だよ。』

 

「そうか...ありがとう」

 

 ツ級の言葉を聞いて、礼を言ったあと、ウツギが無線を切る。......そしてウツギは、このテストクルーズの中で、いままで自身が感じたことのないような、ある高揚感に囚われていた。

 

(カタログスペック上はこのエンジンの方が、馬力が普段のエンジンの半分も無い。だから、何時もの自分のような重装備はこのエンジンでは不可能。だが......)

 

(この圧倒的な加速力......そして今まで感じたことのないこの高揚感は何だ......?)

 

(ツ級は......夕張は、普段の自分が使っているエンジンに少し手を加えた程度の違いと言っていたが......。それだけでここまで変わるものなのか......)

 

(楽しい。ただ海を駆けていくだけでこんなに楽しいのは初めてだ)

 

 ウツギは、レ級に負けてから下がり続けていた自分のモチベーションが、確かに、少しずつだが復活していくのを自覚していた。

 

(誘ってくれた摩耶にも礼を言わないとな......)

 

 ウツギははにかみ笑いを浮かべながら、鎮守府へ向かって海を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん。どーだった?」

 

「楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」

 

「こっちも良いデータが取れました!ご協力ありがとうございます!!」

 

 鎮守府に戻ってきたウツギを摩耶とツ級が出迎える。とても有意義な時間を過ごせたな......とウツギが思っていると、いつの間にか摩耶はどこかへ行ったのか、艤装保管室は自分とツ級の二人きりになっていた。ちょうどいい機会だ、少し話してみるか、とウツギがツ級に話しかける。

 

「おい、夕張」

 

「はいは......!?なんでそれを!?」

 

 すごく驚いた顔で振り向いた夕張を見てウツギが軽く吹き出しそうになる、が、そのまま続ける。

 

「そう警戒しなくていい。球磨から聞いたんだ。」

 

「球磨さんから!!??球磨さん生きてたんですか!!??」

 

「勝手に殺すな。今は自分の鎮守府で......多分元気にやっている」

 

 前のめりに顔を近づけながら大声で聞いてくる夕張に気圧されながら、ウツギが返答する。すると「ふえぇぇ......」などとのたまいながら、夕張が泣きはじめてしまった。

 

「どうしたんだ?いきな......」

 

「うぅっぐすっ、よがっだぁぁぁ!!ぐまざんがいぎでるぅぅ!!びえぇぇぇぇええん!!」

 

 ウツギの声を遮り、夕張が(せき)をきったように大声で泣き出した。......これは色々と聞くのは後になりそうだな。号泣する夕張の背中をさすりながら、ウツギはそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

摩耶や夕張との交流により、ウツギは本来の調子を取り戻して行く。

そして迎える第三回レ級討伐作戦。

ウツギは仲間たちと組み上げた艤装と

「とびきりの秘策」を持ってレ級に挑む。

 

 次回「とっておきの一手」 自分の役割。それを果たすだけ。




ツ級かわいいよツ級(白目

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。