緋眼の裔   作:雪宮春夏

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こんばんは、雪宮春夏です。
遅くなりましたが、どうにか完成しました、第Ⅷ話お届けします。
最初に言いますが、今回、この題名となったのは、全くの偶然です。……恐ろしいことに。
加えて、またまた構成文字数更新いたしました。
まぁ、無事に治まって良かったと、こちらは安堵しております。
最後に、今回出てくるある妖怪たちは、名前だけ借りた、ほぼ春夏のオリジナルとなっております。
あまり突っ込まないでくれると嬉しいです。


第Ⅷ話 平穏って 何だっけ?

「……さて、どういうことか説明してもらおうじゃねぇかよ」

そう口火を切ったのは、独眼鬼組組長の一つ目入道。

「随分な怠慢ですなぁ……確かあれの勝手にはさせぬという取り決めで、あれの助命を認めたと思いましたが、違いましょうか?」

のんびりとした口調ながらも、チクリとこちらをさしてくるのは妖怪商人連合会長、算盤坊。

ネチネチと言葉を続ける典型的な煩型二人に、きょうやは内心溜息をこぼした。

こちらの合図があるまで口を開くな。奴良組本家の門を潜る前に、そう牛鬼に念を押された。

牛鬼の指示は正解だったと言えるだろう。そうでなければ今頃、この大群を前にして我慢の限界に達した己は、間違いなく獲物を出しているだろうから。

「まぁまぁ落ち着けや。一つ目のぉ。暴走したって言ったって、今は治まってんだろう?」

のんびりとした口調で合いの手を入れるのは、関東大猿会を纏める大妖怪、狒々。

「一度あることは二度あると申しますぞ?治まったからと言って放るのは如何なものか」

「しかり。今のうちに次なる手は打つべきで御座いましょう」

声を合わせて言い合うのは鬼女組の長を務める二人。

相談役であるはずの木魚達磨は無言を貫き、ぬらりひょんの反応も漫ろと言ったところだ。

「しかし、久しぶりに三代目の襲名以外の議題が持ち上がった所に何かと思ったら、まさかこのような騒ぎとは……」

幹部の一人が含み笑いを浮かべると、それに吊られたように笑みを浮かべるものもちらほら見えた。

(……何これ)

つまらない群れの言動による探り合いを眺めながらも、きょうやは僅かに眉を寄せた。

時間の無駄にも程がある。話し合いすら馬鹿らしい。

幹部達の言い合いは実に単純だった。

二代目が可愛がっていたから一度目は見逃した。では次はどうするか。そんな物は……。

「とっくの昔に決まっていたと、思っていたんだけどね」

ざわついていた室内が静まり返る。

思った程声が大きく響いたのか、それともこちらの苛つきが畏れとなって伝わったのか、おそらく後者の方が多いだろう。

「何だ!てめぇは?」

真っ先に目をつけたのか、噛みついてくるのは一つ目入道。

「……数年前より牛鬼組で厄介になっている客分でしたか?……あの「きょうや」の後継とか」

補足のようにこちらを紹介する木魚達磨に、眉を寄せる。彼が引き合いに出したのは件の三代前だろう。

再びざわつく彼らがその人物の持っていた影響の大きさを如実に教えてくる。

「そのきょうやの後継が、なんでこの席にいんだぁ!?牛鬼よ!!」

こちらを気圧させようとするつもりだったのか、耳に劈くような大声を上げてこちらを睨みつける一つ目入道に、馬鹿にするなと知らせるように、きょうやは敢えて微笑で応じた。

ビリリと、固まる空気を和らげたのは、それまで無言を貫いていた牛鬼だった。

「一つ目殿。あれの実際の世話は、これに一任しているのです」

「あぁん?総大将からはお前が名乗り出たと聞いていたが、違うってのかい?」

狙いの矛先を変えたのか、キセルを銜えたまま、牛鬼を睨みつける一つ目に、言外に眼中に無しと判断された形となったきょうやは僅かに眉を顰める。

その様子を横目にしながらも、牛鬼は続けた。

「如何にも。しかし当時のあれにかけられていた疑惑を思えば、二代目との親好を持つ者が多くいた我が屋敷は逆に危険と判じたまで。あれを思うならば離すのもまた吉かと」

「その結果がこれじゃあ、ちょいと雑すぎやしねぇかって、話だよ!こっちが言いてぇのはよう!!」

「ねぇ……何が問題なの?」

牛鬼に得意顔で詰め寄っていた一つ目は、割り込んできたきょうやの声に、邪魔者を見るように目を眇めた。

「そこの坊ちゃん、あいつの後継なのは結構なことだが、今は構っている暇はねぇんだ。……また後で」

「さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ、喧しいこと言ってるけど、何も問題はないよ」

邪険に扱おうとする一つ目入道に言葉を被せ、きょうやは続けた。

「あの子が下手を打った時は、僕が殺すから」

 

 

女性陣の朝は早いと言うが。

奴良組本家に至っては夜と昼、どちらにも動く者がいるから尚更だ。

朝日も出終わらない早朝。井戸で洗顔を済ませた雪女……氷麗(つらら)は台所へ向かい、そこで何かを考え込んでいるこの家の女主人、奴良若菜の姿を見つけた。

「おはようございます。若菜様。どうなさったんですか?」

「おはよう。氷麗ちゃん」

言葉を返した若菜は困ったように手を頬に添え、奥の大広間の方に目を向ける。

「昨日の遅くに始まった会合、まだ続いているみたいなのよ。いつもは日が出る頃には終わるんだけどね。それでまだ続くようなら、朝餉を持っていった方がいいのかしらとも、思うんだけど……」

そこで一度言葉を濁した若菜が、下に目線を向ける。そこには台所へ来てすぐに出したのだろう、いつもと同じ程度の材料となる野菜の数々。

「ちょっと私だけだと判断がつかなくて……。でもせっかくの話し合いの途中に入って、邪魔するのはもっと悪いでしょ?それで分からなくなくなっちゃったのよね……」

困ったように笑う若菜に、ふむと考え込んで氷麗は、パンと胸を張る。

「分かりました!氷麗にお任せ下さい!!」

 

 

そして現在……若菜にそのように言いきった氷麗は、忍び足で大広間へ向かっていた。若干後悔しながら。

「おんやぁ、氷麗の嬢ちゃんじゃねぇか?」

小そんな時に反対側……大広間から歩いてきたのは、大妖怪、狒々様で。

「狒々様!総会の方は?」

「あぁ。どうしても決めとかなきゃいけねぇもんは終わったからな。解散したが……誰かに用かい?」

柔らかい口調で尋ねる狒々に急いで首をふりながら、氷麗は密かに胸を撫で下ろした。

幹部格が全員おそろしいと言うわけでは無いが、やはりその中に入ると言うのは勇気が必要だ。

「い、いえ。結構です!」

慌てて首を横に振ると、狒々もそれ以上は踏み込むことなく、笑って続けた。 

「じゃあ儂も、これで失礼するよ。……他の連中にもよろしく伝えてくれや」

そうして踵を返す狒々様は珍しく疲れているのか、肩を落としている。

「…………?」

陽気な彼にしては珍しい姿に、それほど今回の会議の議題が重かったのかと考えながらも、氷麗は若菜に知らせるために、台所へ戻るのだった。

 

 

「不満そうだね。牛鬼」

「当然だ。……必要以上に喋るなと、言っておいたはずだがな」

朝日の昇った本家の廊下を二つの影が進んでいた。

きょうやと牛鬼である。

「別に構わないでしょう。現にピーピー煩かった奴らはあの一言で一気に静かになったじゃない」

理解できないと首を傾げるきょうやの姿に、牛鬼は溜息交じりで応えた。

「奴らからすれば、あれに関する言質を取ったようなものだ。次に何か起きればその非難はおまえに集中するだろう」

「変わらないよ。君を経由するか、しないかの違いだ」

その違いが大きいのだと、理解できないわけでは無いだろうに。なおも出るであろう問題点を牛鬼は列挙する。

「外部の妖怪達は、否応なく貴様と言う存在を注視し、目障りだと思うはずだ。……そして命を狙ってくる」

「「緋眼」を、手に入れるため?」

言葉に問いで返されて、牛鬼は言葉に詰まった。その反応を見て、きょうやは呆れたように溜息をつく。

「バカだよね。君も、ここの総大将も。罰を与えると言いながら、封を施してその精神を守り、閉じ込めると言いながら、外部の妖怪の手に渡らないように守っている」

「あれに暴走されると厄介だ。……それだけが理由だ」

「だったら、七年前に殺せば済んだ話だ」

言葉を探そうとする牛鬼を横目にきょうやはまだ言葉を紡ぎ続ける。

「君たちが何を考えてあれを放置するかは知らないけど、殺したいと望んでいる訳では無いことは知っているよ。……それは向こうに何一つ伝わってないんだろうけどね」

どころか呆れた話に、きょうやから見たあれは、時々死に急いでいるのではないかという動きをすることがある。

親の心子知らずとは良く言うものだ。好き好んで介入するつもりは無いが、間にいるきょうやからしてみればどちらも苛つくことには変わりない。

(まぁでも最初は、あの元肉食動物からだよね?)

近頃は周りに人間が群がるようになっているが、そんなものはきょうやからすれば関係ない。

妖怪としての力を使わなくても、噛み殺す方法はいくらでもある。

「僕の心配なんかいらないよ」

黙ってしまった牛鬼に、付け加えるようにきょうやは続ける。

「誰が来ようとも好きにはさせない。並盛は僕のだ。何を譲ろうと……それだけは譲るつもりはない」

 

 

「あれ?じいちゃん今日も会議?」

牛鬼ときょうやが立ち去るのと入れ替わりに、廊下の角から現れたリクオは既に身支度を整えているようだった。

「駄目だよ!悪行はほどほどにしないと!何かあったら、僕が皆から白い目で見られるんだからね!!」

いつもとかわりない文句を垂れる孫に、ぬらりひょんは何も言わずにその目を見つめる。

この孫はどこまで彼を覚えているのだろう。

この七年間、本家で彼の話題が出たことは一度もない。

それは無理矢理追い出したことへの後ろめたさからだ。

二代目を守れなかった彼への怒りから、本家の妖怪のほとんどは、彼のことを責めたてた。

己も責めはせずとも、それをおさえることはしなかった。

思い返せばその行為には悔恨しかない。

あの当時のリクオは彼に近付くことさえ許されず、よく泣いていたのを覚えている。

「じ、じいちゃん?」

いつものように、小言をいうことのない己を不審に思ったのか、リクオは不安げな顔でこちらを伺っている。

「…………いや。何でもないわい」

結局言えたのは、いつもの決まり文句だけ。

「早うお前が三代目を継いでくれれば、儂の苦労も減るんじゃがのぅ……」

「もう!いい加減にしてよ!!」

リクオがこう返すのも、いつものことだった。

「僕は人間として生きるんだ!三代目なんかにはならないよ!!」

二代目の死から七年。リクオの初めての覚醒から二年……。

これが今の奴良組本家の日常だった。

現在リクオは十歳。妖怪としての成人まで、あと二年と数か月の所まで迫っていた。

 

 

切迫していた奴良組本家の現状など露知らず、俺はリボーンに半ば振り回されながらも、なんとか平穏な毎日を……。

「死ねっ!リボーン!!」

突然耳に届いた声に驚き窓の外を見ると、窓の傍にある木の枝に、黒光する拳銃を持つ子供が乗っていた。

「……へ?」

「んじゃ、今のをおさらいするぞ」

目を丸くする俺に目も向けず、リボーンは教科書を開いた。

確かに日が近い期末テストに向けて、俺は勉強をしたいと言ったが、拳銃を向ける存在を気にしないで勉強に精を出せるほど、俺は自分の命を軽視していない。

「ちょ、ちょっと待て、リボーン!子供が拳銃で狙って……!」

「死ねっ!」

俺の訴えも空しく、木の枝の上にいる子供の拳銃は引き金を引かれた。

 

カチッ

 

しかし出てきたのは予想に反して空砲だったが。

「……?」

「まずターゲットとなるのはこの数字だ」

何も反応を示さない拳銃に思わず俺も共に首を傾げるも、俺の感情と子供の動作に目もくれず、リボーンは問題の解説を続ける。

「…………あ」

空砲である理由に思い至ったのか、なんとも間抜けな一言をもらした子供だったが、その悲劇はそれだけでは終わらなかった。

ミシ……メキ……

子供の重量を支えきれなくなったのか、木の枝から悲鳴が洩れる。

そうなれば行き着く先は一つだった。

バキリと聞こえた音は、思ったよりも大きい。

「くぴゃあ!?」

聞こえた悲鳴と、地面との衝突音は、ほぼ同時だった。

「ツナ。てめぇ……ちゃんと聞いてやがんのか?!」

不機嫌丸出しなリボーンの声に、ようやく俺は一言返した。

「ねぇ……リボーン……」

なんとか俺は……平穏な毎日を……。

「平穏って、何だっけ?」

過ごしていたのだと、思いたい。

 

 

「久しぶりだなリボーン!おれっちだよ!ランボだよ!!」

ランボと名乗ったのは、先刻木の枝の上で拳銃を放とうとしていた子供だった。

真っ黒な髪がもじゃもじゃと固まり、アフロの形となっている。

「この公式は覚えておけよ」

しかし名指しされているリボーンは、その子供に見向きもしない。普通ならまずないその態度に、俺は声をなくした。

「こらー!無視すんじゃねー!!」

子供……ランボからしてみれば、俺以上にショックだったのだろうか。叫び声と、共に取り出した何かを手に、こちらに向かってくる。キラリと光が当たったことで、辛うじて刃物だということを知った。

「おい!お前……!!」

咄嗟に止めようと声を上げるが間に合わない。しかし、最悪の光景を思い浮かべかけた俺を嘲うかのように、リボーンは無造作に手を振り上げ……子供を壁に叩きつけた。

「……なぁっ!?」

ここで俺は、リボーンを怒るべきか子供を怒るべきかで悩んだ。

リボーンのとった行動は当然ながら褒められたものではない。

木の枝の上からいきなり発砲しようとしてきた最初はともかく、この部屋に入ってからは彼は平和的にリボーンへ語りかけていたのだ。たった一回の無視で激昂して刃物を振り上げる子供の方も全く褒められたものではないが、それほどショックだったと思えば、せめて目線ぐらいは合わせるべきだったのである。

「お、お前どうすんだよ!あんなに小さな子供に、下手したら大怪我……」

近づいていないために怪我の程度は分からないがかなりの音がしたことから軽くてもたんこぶの一つは出来ているだろう。

急いで手当てしようと腰を浮かしかけた所をコンと机を叩いたリボーンの行動によってとめられる。

「…………!!」

無言ではあったが、リボーンの目はかなり鋭い。

「集中して勉強しやがれ」

その言葉は暗に子供を放っておけと言っているのと同じだった。

「お前……!!」

いきなりの暴挙に、声を荒くした俺はその声に気付くのに時間がかかった。

「おーいて!何かに躓いちまったみてぇだ!!」

「……へ?」

そして次に……彼が無傷であるという、まるで信じがたい事実を受け入れることに、時間がかかった。

「イタリアから来たボヴィーノファミリーのヒットマン!ランボさん五歳は躓いちまった!! 大好物は葡萄と飴玉で、リボーンとバーで会ったことのあるランボさんは躓いちまったぁぁぁぁぁ!!!」

しかし一生懸命自己紹介らしきものはしているものの、痛みには耐えきれなかったのか、途中で泣き出してしまった。どう考えてもこれらはリボーンの責任である。

「……ってことで。よう!リボーン!!おれっちだよ!ランボだよ!!」

リボーンを止められなかった悔恨に喘ぎかけた俺に次に届いたのは何とも陽気な声で。

(え?……何?あれ……嘘泣き?)

最早どう思えば良いのか分からなくなった俺は放心状態である。それと同時進行で、改めて自己紹介を繰り返すランボにまたしてもリボーンは見向きもしない。

今し方の放心状態と、厄介ごとの匂いしかしない子供。それに対するリボーンの態度。

積み重なったそれらは、あっという間に俺の理性を振り切れさせていた。

 

 

「貴様ら……いい加減にしろよ……!!」

 

 

言葉を放った本人が、驚きに身を見開いていた。

その行為で、今のが沢田綱吉自身も無意識での行為だったとわかる。今までの沢田綱吉とは違う、低い声。

そこに込められていた感情に、体中の毛が逆立ち、肌が粟立った。

(まさか……こりゃあ……今のが本気だったってことか?)

リボーンの中には沢田綱吉に合ってからずっと言い知れぬ違和感を感じていた。

薄っぺらい微笑みの下に何を隠しているのか、分からないながらも気にはしていたが。

「……なるほど、な」

真相を知ったリボーンの口元に浮かんだのは、歓喜の笑みだった。

「それがおめぇの隠してるもんの一つ、か」

 

「……っ、あ……!」

見慣れているはずの、リボーンの目。

それがいつもと全く違うものに見えた。

目の内に宿るものは、どこか禍禍しさをも感じさせ、強い欲望とも錯覚させた。引っ切りなしに体を震わせる悪寒に、これ以上この状況に身を置くのはまずいということだけは分かった。

(……でも!)

分かることと実行できることは違う。

分かるはずのそれが今度ばかりは酷く歯がゆい。

すっと音をたてずに近付くリボーンが、酷くオソロシイものに見える。

(どうしてだ…?こいつに、畏れなんてあるはずない!!)

だってこの男は、間違いなく「人間」の筈だ。間違いないと、断言してもいい筈なのに。

(でも、それならこれは……?)

この悪寒は……そこから感じる「何か」は……。

(あれ?これと同じ感じ、前にも……)

沈みかけた思考の中で、すぐにそれは探し出せた。リボーンと初めて会ったあの日。彼に初めて死ぬ気弾を打たれた、その直前。

(……赤ん坊であるはずのリボーンが、長身の男に見えたときと、同じ感覚……!!)

「………今日は良いもの持ってきたもんねぇ!!」

二人の中の張りつめた空気を貫くように、突然ランボの声が聞こえた。

明らかに空気が弛緩したのを肌で感じ、俺はへたりと体から力を抜いていた。

あのままの状態が続けば俺は間違いなく意識を失っていただろう。

(いくら何でも、それは危険すぎる……!)

漸く息が出来ると言うことを実感するように、俺は大きく息を吐き出した。リボーンの様子を見るよりも早く、ランボの陽気な声に目を向けていた。

その内容は……全く吞気ではなかったが。

「あららのら。何かしら?」

その手に持っていたのは、手榴弾。

「は…………えっ?!」

今し方までの畏れに似た空気で、俺は咄嗟に反応できず、その手榴弾を見つめることしか出来なかった。

「死に曝せ!リボーン!!」

ピンを外して、高速で加えられた、超回転速度。その早さに避けられないと思った。

「……うるせぇぞ」

しかし、内心怒り狂っていたリボーンは最初から避ける気は無かったのかもしれない。

僅かに眉間にしわを寄せ、回転を加えられたまま投げられた手榴弾を、逆回転によって引き止める。そのまま更に回転を加え……はじめと真逆な回転でまっすぐ手榴弾を放った相手……ランボの元へ……戻された。

 

ポーンと、まるで宙へ浮いた音が聞こえるかのような光景に、俺は目を丸くして言葉を失った。

「……興がそがれたぞ。一回休憩だ」

堂々とそう宣うリボーンの背後で、ランボもろとも手榴弾は爆発した。

 

 

綱吉を残して一階へ降りたリボーンは、自身を落ち着かせるように静かに息をついた。

今し方の綱吉の顔を思い出す。

そこにあったのは明確な恐怖だ。間違っても、教え子に向けられて良い類の代物ではない。

教師と教え子の関係を築くために必要なものの一つに、信頼関係がある。それがリボーンの考えだ。

だが、己と沢田綱吉の間にはそれはまだ築けていない。

沢田綱吉が隠し事をしているから、と言う部分もないわけではないが、リボーンはこれをはっきりと糾弾できる立場にはなかった。 

リボーンも、自分のことはほとんど話さないことを信条としているからだ。

その理由は、リボーンが常に教え子と契約関係ありきの一時的な関係しか築かないからだ。今まで契約が終わればリボーンは滅多に教え子には関わることはなかった。

フリーの殺し屋という立場から、一つの勢力に肩入れしているように見られたくないという意地。虹(アルコバレーノ)という極めて特殊な事情を抱える故に、交友関係をおいそれと知られるのは得策ではないという知略。

理由をあげれば枚挙に暇がないが……。

(いや。単に信用できねぇって、だけなのかもしれないな)

その証拠に、旧知でである九代目とは私的な関係もずっと続いている。

己が虹になる前から、殺し屋として有名になる以前からだから、もう相応な年月だろう。

その九代目が……選んだ次代なのだ。あの子供は。

(すべてを明かすことは出来なくても、ほんの……砂粒一つ分位は情報を明かしても良いのかもしれないな)

譲歩するのは癪に触るが、この状態を長い時間持続させることの方が怖い。もしもの時の懸念をリボーンは抱いていたのだ。

相手との信頼は緊急時には、安全の基準にも繋がる。

(今のうちにファミリー候補まで探すとなれば尚更だ)

獄寺をはじめめぼしいものは何人かあたりをつけているが、彼等ともリボーンと同じように信頼を築けないとなるのなら問題だった。そして……頭が痛くなることに、現状のままではその危険性が高い。

(せめてもう少しあいつが人に気安い性格だったらまだ違っていたかもしれないが……)

頭を悩ますが、生来の性格までは直しようがないだろう。……それが、偽りでない場合は。

(信頼の構築と守秘思考の改善は同時にやるしかねぇか)

これからの計画を雑であれども組み立てながら、リボーンは次の話の糸口を探していた。

命令や指図はよくするが、考えてみれば必要以上の会話など、教え子とやった記憶はまるでないと言って良い。

(全く……手間のかける)

遠い道のりを思い、リボーンは静にため息をこぼした。

 

 

リボーンに、底知れぬ畏れにも似た何かを感じた俺は、そのままリボーンの出て行った部屋に座り込んでいた。普通なら、ここを出て行かなければならないところだろう。

それが最善だと、俺の中の何かが笑う。

「うるさい……!」

何かは続けた。

お前の秘密をあの赤子は根こそぎ掘り起こす気だ。

その前に息の根を止めるべきだと。

「…………!!」

本当は既に知っている。この声が何なのか。

これは幻聴ではなく、存在する。しかし……実在はしない……もう一人の俺の声。

最初にこれが聞こえたのは、数日前、初めて変化が解けかけた日のことだ。

あの時もこちらの不安を煽ることばかり並べて、それに操られるように俺は公園まで放浪していた。

もしあそこでリボーンが現れていなければ、俺はその言葉の言うままに、この町を出て、行方を眩ませていたのかもしれない。

(でも、今思えばその方が平和だったかも……)

リボーンはこれから「綱吉」を強制的にマフィアの事情とやらに巻き込んでくるだろう。

マフィアを完全悪とは言うつもりは俺にはないが、それでも良いものとは思えないというのが本音だ。

「自分で自分を良い奴って言う奴なんか、信用できる訳ないだろう……」

思わず口に出してから、俺は周囲の気配を探る。

今の言葉は沢田綱吉が言ってもさして不自然ではないはずだが、さっきの今では警戒心が違うだろう。

『貴様ら……いい加減にしろよ……!!』

ふと、今し方の感覚を思い出した。

明らかに今までのものと違う。

一瞬にして、ぼやけた意識。

はっきりと耳元で囁かれるように聞こえた声。

あれは、間違いなく「妖怪」の俺の言葉だった。 

(どういうことだよ……!!)

無意識に俺は唇をかみしめていた。痛みは感じない。寧ろ、不安を感じないためには、多少の痛みがあった方がまだよかったかもしれないとさえ、思う。

七年前に覚醒して以来、俺は一度も妖怪の力を振るったことはない。綱吉を看取り、彼に成り代わることを決めてからは、変化さえ解いたことがないという徹底ぶりだ。

その状態を維持していく中で、今回のようなことは一度も起きなかった。

明確な意識を持ったまま、もう一人の意志が出てくるなどと。

(まさか……山本を助けようとしたとき、あいつの力を借りたから……?)

思い至ったそれが、明確な原因のような気がした。

(そんな……どうしたら……)

無論彼を助けたことに後悔はない。

あの時は周囲を気にする余裕はなかったし、己でなければ間に合わなかっただろう。

(だけど……)

後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

他の方法などないとわかりきっているのに、それでもまだ諦め悪く考え込む己に嫌悪感さえ覚えるのに。

どん詰まりにあたり、頭を抱え込んだ俺の耳に届いたのは、困惑したような母さんの声だった。

 

 

「喧嘩しちゃったのかしら。ダメよ。つっくんは二人よりも年上なんだから、ちゃんと仲を取り持ってあげないと」

柔らかい口調で、そんな無理難題を仰る母さん……沢田奈々の傍らでベソを掻いているのは、ついさっき窓から手榴弾諸共放り投げられていた、謎の少年……ランボ。

(この二人の仲を取り持つって……それどんな無理ゲー?)

思わずそう思った俺は多分悪くないと思う。かといって、本気で二人を只の子供と思い込んでいる(その上でリボーンを家庭教師として雇っていることには疑問を感じるが……)彼女に、正直に現状を話すことは出来ない。

余計な心配はさせたくないし、下手に一つのことについて、考え込んで欲しくはなかった。

(何がきっかけになるかなんて、分からないものな……)

結果的には力なく頷くしか、俺には選択肢は残されていなかった。

 

 

「ラ、ランボさんの夢は……ボヴィーノファミリーのボスになって、全人類を跪かせること……」

しゃくり上げながら、物騒なことを宣言するランボに、俺は気のない返事で返しかけ……言葉に詰まる。

(この夢は……本気なんだろうか?)

バカにするつもりはないが、あまりにも現実味がなさ過ぎる。

ボヴィーノファミリーのボスになること、迄ならばまだ分かる。

そのファミリーの一員ならば、ボスに後継者に指名されるということも、ないわけではないだろう。

(だけど、それで全人類が跪くって、どんな状況?)

それほど強い畏れを抱かせる、と言うことなんだろうか。

リボーンは何も言っていなかったが、もしやイタリアの方では、かなり有名な所なのかもしれない。

「……まぁ、頑張れ」

さんざん迷った挙げ句に、かなりありふれた言葉をこぼした俺を気にすることなく、ランボは続けた。

「だけどそのためには、超一流のヒットマン、リボーンを倒せって、ボスに言われた」

「一流?あいつが?」

思い浮かべたのは、これまでのリボーンの奇行の数々。

確かに奇行ではあるが、どれも利に適っていた。

そういう意味では確かに一流ではある。性格は決して良くはないが。 

「ん? 倒せ? 殺せじゃなくて?」

ランボのボスの言葉の中で、殺し屋としては不釣り合いなそれに、俺は問い直していた。

コクンと頷くランボは、先刻の恐怖を思い起こしたのが、ジワリと涙を滲ませる。

自ら殺し屋を名乗っていても、やはり中身は五歳の子供なのだ。その姿にそんな当たり前のことを実感して俺は思わず手を伸ばす。

撫でた頭は昔撫でていた義弟とは違い、妙にブワン、ブワンと、浮き上がる。

その髪質に妙なおかしさを感じて、俺は笑っていた。

 

 

初めて見るその笑顔は、今まで見たあいつの表情とはまるで違っていた。

リボーンの知る中で、元々沢田綱吉はあまり表情に変化が出ない子供だった。

読心術に長けたリボーンだからこそ、些細な変化も拾えたが、そうでなければ常時無表情と感じてもおかしくはないだろう。

もしかしたらそれも、周囲から孤立した原因だったのかもしれない。

(考えてみれば、あの表情に出にくい所は、ママン……沢田奈々にも、「あいつ」にもねぇな)

ふと当たり障りのないことを考えてみるも、それでもこの苛立ちはおさまらなかった。

自分も自分の近づけた人間も、まだ彼の信頼を得ているとは言い難い。

そんな状態で何故ぽっと出の弱小マフィアの子供が、ああも容易く彼の信頼を得られるのかと。

よくよく考えてみれば分かっただろうが、ランボは別に綱吉に信頼されて、あのような行為をされているわけではない。あまりの幼さ故に、綱吉が全く警戒を抱く必要がなかったために、信頼されているように見えただけである。

しかし現在のリボーンに、その言葉は届きそうになかった。それが嫉妬と呼ばれる感ものであることに気づかぬまま、狭まった思考回路で二人の前に姿を現した。

 

 

「単なる息抜きにしちゃあかなり長い休憩だな?」

背後から聞こえた鬼も逃げ出すほどの静かな怒声に、俺はびくりと背筋を震わせた。

「リ……リボーン?」

(え?……と言うか、なんでそんなに怒ってるの!?)

怒声の理由がわからず、そして部屋から出る前のやりとりを思い出し、咄嗟に俺は顔を俯けた。

素の自分の一端を知られてしまった彼に、どんな反応をされるのか、みたくないと言うところもある。

俺は自分のことで精一杯で、その反応にリボーンが、悲しげに眉をしかめたことさえ気づかなかった。

 

 

ふたりから、完全に眼中の外にされていたランボは、再び標的であるリボーンを目の前にしたものの、恐怖で汗をダラダラと流していた。

ボスに言われて決意した暗殺。そもそも、ランボはリボーンに会ったことは一度しかない。

ボスに初めてバーに連れて行ってもらった日、カウンターに腰掛けたランボの隣に既に座っていたのがリボーンだった。

無言ながらも鼻でガムを膨らませながら、流れる音楽に合わせて、ユラリフラリと体を揺らす彼の姿は一枚の絵のように格好良かったのだ。

あの時のランボは夜の遊びなど何も知らなかったが、いつかこんな場所であっても気後れすることのない、一人前の大人になろうと思ったのも、これが最初だった。

(きっかけが、あいつだった……だからこそ!)

隠し持っていたそれをぐっと握りしめ、ランボは覚悟を決めた。

(だからこそ、おれっちは、リボーンを倒す!!)

「……っしゃあ!!」

ビユッと、鋭い音と共に風を切るように飛ぶナイフ。

ファミリーの中で投げたそれはいつも、途中で失速し地面に落ちるが、今回はその様子は無い。

決まったと確信した。

 

 

カァンと澄んだ音と共に、地面に落とされるナイフ。リボーンはランボに見向きもしない。

「休憩は終わりだ。さっさと帰るぞ」

俺を促すリボーンに頷きながらも、ちらりとランボを見た。ナイフを落とされ見向きもされなかったランボは、さっきとは真逆で、完全に泣き出す一歩手前と言ったところだ。

そんなランボを見捨てるように帰って良いのかと躊躇うが、リボーンの睨みに抗ってまで、疑心を深めさせる気は今の俺にはない。

そんな我が身可愛さを優先する俺自身に溜息をこぼして、踵を返そうとした俺が足を止めたのは、次いで大きな爆発が聞こえたからだ。

「な、何事!?」

背後という、丁度ランボがいた場所だったために、俺は気が気ではなかった。

リボーンの拳銃にしては音が大きなそれは、大砲のようにも考えられる。

「……バズーカだな」

冷静に分析するリボーンとは逆に、俺は驚愕に目を見開いた。

「一体、どこから?」

ランボは自ら殺し屋を名乗っていたし、もしくは裏社会同士の戦いでも勃発したのかと、ランボが狙撃されたと思い込んでいた俺は、せわしなく辺りを見回した。

しかし、どこにも怪しげなものは存在しない。

「……やれやれ」

ランボのいたはずの場所から俺の耳に届いた声は僅かに低い男のもの。少なくとも、ランボの声ではなかった。

「どうやら久しぶりに、十年バズーカで、過去に来てしまったらしい」

煙から出てきたのは、長身の伊達男。

カールした黒髪に、垂れ目の瞳には、確かにあの幼いランボの面影はあるが。

「嘘……だろ」

妖怪の世界でもなかった現象に、俺は言葉を失った。

一方伊達男の方は声でこちらに気づいたのか、ちらりと目を向け……驚いたように目を瞬く。

「……あぁ」

次いで自らが納得したかのように頷くと、ふっと、美形に似合う笑みを溢す。

「お久しぶりです。幼き“コロウリ“」

「………は?」

サラリとランボが言った言葉の中にあった聞き慣れない単語に、咄嗟に聞き返そうとしたが、その前に耳に届いた言葉に、思考は停止する。

「泣き虫だったランボです」

「え?……ランボって」

頭にすぐさま浮かんだのはさっきまでいた幼い子供。薄々感づいてはいたが確かに面影はある。

十年で大層変わる物である。

「お懐かしい……また、あなたのその姿を見られるとは」

小さく呟いたランボの言葉の不可解さに顔を上げると、懐かしいものを見る目でランボは俺を見つめていた。

「……?」

その目線の意味が分からずに首を傾げると、ランボはうすい笑みを浮かべ俺の髪を撫でた。

「………は?!」

予想外過ぎる行動にランボは笑う。

「さっきのお礼です」

さっきと言いつつ実際にそれをしたのは五歳のランボにだ。・

また己が五歳にやるのと、十数歳の男の人にやってもらうのとでは、たとえお礼だとしても釣り合っていない。 

そのことを指摘しようとしたところで

肩に不自然な重さがあることに気付いた。

目線だけを向けるとそこには見慣れた赤ん坊の姿が。

(あれ?……なんか不機嫌そう)

考えてみれば、ここに来た当初から怒っていたがその理由も聞いてはいない。

「てめぇ……一体何なんだ?」

しかし、さっきの怒りと今の不機嫌はどこか種類が違う気がした。

「……流石はリボーン。一応隠そうとは頑張ってみたんだが。俺の違和感に気付くとはな。」

サラリととんでもないことを口にしたのはランボで。

二人の会話の意味についていけない俺を尻目にしたまま、彼らの間で不可視の火花が散る。

「答えてやるよ。同時に俺とお前の間に出来た、圧倒的な差を知るが良い」

薄く笑みを浮かべるランボの周囲から、僅かにあるはずのないそれを感じた。

(え?……嘘。これって……)

周囲から立ち上る薄ら寒い感覚。これは。

「雷獣の畏れー鬼發(はつ)」

雲一つなかったはずの空に雲がかかり、たちまちの内に雷雲となる。その本来ならあり得ない光景が何なのか、俺は嫌になるほど知っていた……が。

(まさか……そんな……よりにもよって、こいつの目の前で……!!!)

止めたいが止められない。今俺を襲っているジレンマはそれにつきる。

本来の俺の心情としては、この行為は止めなければいけないものだ。

たとえどんなに規格外に見えても、リボーンは人間で有り、この力を奮って良い相手ではない。

だがここで下手な制止をすれば、俺がこれが何なのかを知っていると、自白することに近い。

それだけは避けなければならなかった。

(どうすれば良いんだよ!?この状況……!!)

彼の光景を見ながらも、あくまでポーカーフェイスを崩さない彼も、見ようによっては恐ろしい。

何を考えているのか分からない分、厄介だった。

「その移動……鬼憑(ひょうい)」

俺の感情など知りもせず、十年後から来たというランボの暴露は続く。

雷雲から降り注ぐ雷は地面を伝い、一直線にランボの元へと集まっていく。

(な……なにが始まるんだ?)

“鬼發“と、“鬼憑“……俺自身も話でしか聞いたことのない単語だ。当然使うことは出来ない。

「畏れ」とはその妖怪としての本質そのものをあらわすと言っても良い。

“鬼發“とは、「畏れ」の発動。古くから人間に対して使われてきた、「人」を「おそれさせる」ための力の使い方。

それに対して、“鬼憑“とは「畏れ」そのものを技として昇華したものを指す。時代の流れと共に妖怪の数が増し、結果として、妖怪同士が互いの畏れを持って争うことによって、この戦闘技法は生まれた、らしい。

己の「畏れ」をもって相手の「畏れ」を破る、妖怪に対しての力の使い方。

間近で見るのは初めてな為、俺も現状の危険性を忘れて魅入っていたが。

「電撃角(エレットゥリコ・コルナータ)!!」

地表からランボに集まった雷は、ランボ自身の「畏れ」と合わさり、頭に装着されている角へ集中していく。

「………っ!!」

ビリビリと肌を突き刺す感覚に、俺は気圧されないように歯を食いしばった。

リボーンの表情は窺えないが、肌に突き刺す感覚はわかるのか、紅葉のように小さな手でシルクハットをおさえている。

「無駄だ、リボーン。……これは人で言えば百万ボルトの電流に相当する……!」

そう言いきるランボの顔に浮かんだのは、勝者の笑み。

「これで、終わりだぁ!!!」

バチバチッと、かける瞬間に、電撃が弾け飛ぶ。地面が焦げる匂いにかなりの電圧が集中していることは容易に想像できた。

「リボーン……!!」

咄嗟に叫んだ俺の声に構わず、ランボの攻撃はリボーンを貫き……。

ズドン

その直後に起きた出来事に、叫んだ俺はポカンと口を開けていた。

ついでに、目もこぼれ落ちんばかりに見開かれている。

「が…ま……ん………!!」

なにが起きたのか。それは明確に今のランボが教えてくれた。

バチバチと未だ電撃をためたままのランボは、しかし寸での所でリボーンを貫くことは出来なかなかった。

その原因はリボーンの持つナイフ。

十年前のランボが投げ、リボーンに弾かれたそれで、リボーンは、ランボの突進を受け止め、剰え突進したランボの額に一撃加えたのである。

「嘘………」

俺が力なく呟くのと、ランボの我慢の糸が切れるのは同時だった。

「う………うわぁぁぁぁ!!!」

そのまま、全力でどこかへ駆けだしていくランボを俺はただ見つめることしか出来なかった。

妖怪だからといって、必ずしも人間に勝てるとは限らない。

この日俺はそれを学んだのである。

「おい、ツナ」

衝撃な事実を知ったショックが抜けきらない俺は、この時、かなり無防備にリボーンの問いに対峙していた。

「“コロウリ“……何のことかわかるか?」

「小物売りか、なんか?」

後に思い返してみると、とてつもなく後悔する、そんな応えで。

「わからないなら、いいぞ」

その言葉が、俺にとって、どれほどの意味を持つのか、この時リボーンはおろか、俺でさえ、知る由も無かったのである。

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
まずはお礼を言わせて頂きます。
注意事項に関しては前書きで言ったので、こちらでは短めにしたいと思います。
次ももしかしたら時間が空くかもしれません。
また見て頂ければ嬉しいです。

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