緋眼の裔   作:雪宮春夏

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どうも雪宮春夏です!

プロット通りに書くのって難しい……っ!
私の中ではプロットって、あるようでないようなものですけど、なかなか思い通りにいきません……!!

今回、見方によっては自爆した感じがするかもしれません。
「綱吉」の葛藤とかで、結構グチャグチャしてそうです。
それでも読んでくれたら嬉しいです。


すいません。いくつか書き足しました。話の流れは変えておりませんので、ご了承ください。
(2016/10/25)



第Ⅴ話 本当の自分

並盛中学にはある武装組織が存在する。

それは「並盛中学風紀委員会」。

元々は単なる不良の集まりだったが、いつからか委員長雲雀恭弥によってまとめられ、並盛中学の、ひいては並盛全体の治安を維持する為に、この学校で唯一武装することを許された戦闘集団である。

「何か言い訳はあるかい?」

その副委員長、草壁哲矢は、風紀委員会の拠点である並盛中学応接室にて、現在委員長たる雲雀恭弥に問いただされていた。

「何もありません」

重々しくも自らの否を認めた草壁に、途端に応接室の温度が下がる。

恐らく雲雀の周りには更に顕著に重苦しい空気が澱んでいることだろう。

そしてそれは雲雀の信頼を裏切った己らの自業自得なのだ。

「分かっているね。副委員長」

草壁が自己嫌悪に浸る時間も満足に与えず、不機嫌を隠しもしない雲雀からは次の言葉が下される。

「僕はしばらく並盛を離れる」

自分の呑んだ息の音が酷く大きく聞こえた。

覚悟はしていたのだ。自分たちが命じられたことを果たせなかったが為に雲雀は一人でそこへ向かう。

「はっ! お帰りをお待ちしております!」

死地へ行く主を見送るかのように、草壁は静かに頭を下げた。

 

 

「うん。頼んだよ」

再度頭を下げる副委員長に、些か大袈裟なとも思わないが、草壁哲矢の気持ちを分からないでもなかった。

彼はこれから雲雀が向かう先の正確な地点を知らない。

ただ雲雀が命じているあることの関係先だと言うだけだ。

事が拗れるようなら、自ら群れの中へ入らなければいけないかもしれないということへの嫌悪から、応接室の扉の前で足を止めた雲雀はついでに草壁に、もう一つ命じておくことにした。

「今の沢田綱吉の周りをあらって。以前との差異は特に厳密に。「暴走」の原因があるとしたら恐らくそこだ」

「了解しました!」

再びの一礼を見ることもせず雲雀は応接室を出る。

「全く……面倒なことになってきたね」

一人呟いた言葉を聞く者はいなかった。

 

 

深夜の並盛中学校庭。そこには先客としてリボーンがいた。

何かが近付いてくる気配に咄嗟に近くの植樹の上に潜むが気にしすぎだったのか、加えて暗闇の影響か相手はリボーンに気付いていないらしく、そちらに見向きもせず校門を潜り、ある方向へと足を進める。

(あれは並盛中学風紀委員会委員長、雲雀恭弥……!!)

「沢田綱吉」の周辺を探るために一応データは浚ったが、実際に目で見るのは初めてだった。

(見回り?……にしちゃあ妙だな)

あの方向には人通りはあまりない。先を進んでもあるのは山ばかりだ。

風紀委員会の言葉で、リボーンは先日報告書でイタリアに頼んでいた綱吉の追加の調査結果を持ってきてくれたボンゴレ外部組織、通称「チェデフ」の一員、バジルというコードネームを持つ少年との密会を思い出していた。

彼はどのような経緯を通ったのか、並盛中学に潜入するだけだったところを、何故か球技大会の会場に堂々と現れ、選手である綱吉らを激励し、会場の特等席にて試合の一部始終を観戦したのだ。変装していたことも有り、リボーンにも文句らしい物はなかったが、彼は綱吉の勇姿を是非とも師である「親方様」にもお目にかけたかったと感無量の様子であった。

そして件の調査結果を手渡した際、バジルは補足として一つの噂を付け加えたのだ。

並盛の中でも裕福な家庭では、沢田綱吉とは関わるなと言われているらしい……と。

耳半分で聞いて下さいとの、前置きの後に言われた言葉とはいえ、どういうことかとリボーンは聞き返した。

確かに沢田綱吉には友達と呼べる存在はいない。

その理由をリボーンは、彼自身の自信の無い様子や言動、周知されている「ダメツナ」というイメージなどが相まって、結果孤立してしまっていたと思い込んでいた。

しかしバジルの掴んだその噂がもしデマでないとしたら、誰かが意図的に沢田綱吉を孤立させている可能性が出てくる。

『その噂の根拠は何だ?』

リボーンの問いかけに、逡巡する素振りを見せながらも、バジルは重い口を開いた。 

『風紀委員会に目を付けられている、と』

改めて目を向けると雲雀の姿はもう影も形もない。

追うか否かで一度思案したのは確かだが、今は真偽の分からぬ噂よりも、こちらの方が重要な案件だった。

(事によっちゃあ教育方針を変える必要もあるしな)

依頼主であるボンゴレ九代目とは古くからのつきあいであるため、リボーンは、今までにも何度か死ぬ気弾を使った経験はある。

死ぬ気の相手に部分的に死ぬ気弾を撃ち強化することも、滅多にないことではあったがまるでないと言うわけでは無い。

それにも関わらず今回沢田綱吉に撃った死ぬ気弾は、今までにない結果を出した。

理由は未だにわからないが、死ぬ気状態が完全に解けた直後沢田綱吉が昏倒したのだ。そして現在もまだ目覚めていない。それだけではない。これはリボーンの見間違いの線も否定できないが、死ぬ気弾を受けた状態から追加の死ぬ気弾が当たった瞬間、沢田綱吉の姿が歪んだように見えたのだ。

錯覚。空気の揺らぎによる幻の類と言ってしまえば確かだがリボーンにはそうは思えなかった。

(この二つは……あいつが隠していることと、何か関係があんのか?)

頭を悩ませてはみるもののいかんせん、まだ情報が少なすぎる。手がかりがないかと来てみたものの、現場であった校庭の方にも、これと言って情報は残っていない。

しかし、この状態に到る理由を解明しない限りは死ぬ気状態での更なる死ぬ気弾の使用は、実質的に不可能と言っても良いだろう。

リボーンの依頼はあくまで沢田綱吉を育てること。

育てる過程で沢田綱吉が死にましたでは目も当てられない。そこのギリギリのラインは、リボーンがしっかりと見定めていかなければならないところだ。

山積する問題に頭を痛めながらも、リボーンは綱吉の様子を見るために家路に向かおうとしていた。

 

 

酷く嫌な気分だった。悪夢と呼ぶにもまだ温い。

右手に残る何かを貫いたような鮮明な感触。ぬれた掌。

頭を撫でる暖かい手。……一人では抱えきれない大人の体が、どんどん冷えて固くなっていく。

「嫌だ……  様っ!!」

泣き出す寸前のような声をもらして、俺は目を覚ました。視界が滲んで酷く不鮮明だ。瞬くと濡れた感触がした。零れる涙を拭って辺りを見渡すと、そこは見慣れた沢田家の自分の部屋で。

「あれ?……俺、いつ」

見慣れた部屋に俺は首を傾げる。

ベットに入った記憶が無かった。

最後の記憶で残っているのは、退学を言い渡され、それを受け入れ諦めるのかと、リボーンに問われたこと。

いつものように、撃たれた死ぬ気弾。

そして……。

「……っ!」

その後に起きたことをようやく思い出し、俺は体を震わせた。今更ながらに、恐怖で体がすくみ上がる。

何が起きたかなど考えるまでもない。

自分の中の力が暴走したのだ。おそらくあの死ぬ気弾の作用によって。

リボーンによると、死ぬ気弾と言うのは元よりその人物の潜在能力を引き出す作用があるらしい。その話を聞いた時にその潜在能力とやらが人に限らず……俺たちのような「人成らざる者」それに働く可能性を考慮して、真剣に突き詰めて考えていなかったのは俺の落ち度と言って良い。

(だけど普通……思わないじゃないか!!)

言い訳でしかないと自覚していても、俺はそう思わずにはいられなかった。人が作ったものの筈の「死ぬ気弾」。

(それが人じゃない俺にあんな形で作用するなんて……!)

遠い昔より人々から「おそれ」をもって語られる、「妖怪」と呼ばれる存在……それが俺の正体だ。

(誤魔化せるか?)

あの赤ん坊、リボーンはかなり聡明だ。

おそらく俺の体に起きた変化が他者に対して撃ったときと異なる事はとうに分かっているだろう。

(大丈夫だ。分かるわけない……!だけど……)

もしこれが「本物」の綱吉だったら、もっと上手くやれていたのかな……?

自らに言い聞かせるように繰り返せばするほど、なぜか急速に悪い方向へ思考が進んでいく。

それは止めようにも瞬く間に膨らんでいき、気がつけば俺は、フラフラとまるで夢遊病者のように部屋を飛び出していた。

「本物」の沢田綱吉は「人間」だった。沢田奈々から生まれた第一子は間違いなく「人」だった。

この問題におけるそもそもの間違いが何かと問われれば、もう否定しようが無い。七年前のあの日、瀕死で虫の息となっていた「沢田綱吉」の懇願を俺が受け入れてしまったことだ。

彼の願いなど切り捨てて、己が独りであることを選んでいればよかったのだ。……この場所へ俺を送り込んだ、彼らの望み通りに。

『成りたきゃ良いさ。おめぇもリクオも。どっちに成ったって、俺は構わねぇぜ?』

嘗て悩んだ俺にそう言ってくれたあの人は、俺のせいで死んでしまったと言っても過言じゃ無い。あの人が死ぬきっかけを作ってしまった俺は、もう誰かと共にいてはいけなかったのに。

(なんで……あの子の頼みを引き受けたんだろう?)

自問しながらも、その応えは俺の中でとうの昔に出ていた。目の前で命を散らそうとする「沢田綱吉」に俺は死んだあの人を……養い親を重ねたのだ。

彼のために何も出来なかったからこそ、この子のために何かしたいと思った。……何かができると思ってしまった。

(その結果は、どうだ?)

知らず知らずに自嘲をもらし、俺は素足のまま外を歩く。

ほんの少しの間のつもりだった。だけど「母さん」の……彼女のその笑顔が眩しくて、傍にいてくれるその温もりが暖かくて、もう少し、もう少しだけとズルズルと時を過ごした結果がこれだ。

ボンゴレという一つの組織が動き、それに伴いより多くの人間が動けばその分、偽りが露呈する可能性は増していく。

「人」と「妖怪」の境界が無くなればどうなるか。纏められる者がいなければ、沸き起こるのは混沌でしかない。そこで誰かが傷つくのが、何かが壊されるのが嫌で、だからこそ、彼らは「百鬼夜行の主」と呼ばれるようになった。それを、俺は知っているのに。

『人は……好きか?』

髪を撫で、笑ったあの人の顔が蘇る。

(俺がやっていることは……何だ!!?)

恩を仇で返しているとしか思えなくて、どうしようも無く嫌気がはしる。

視界に映った公園に吸い込まれるように近づき、誰もいないベンチに座りこんだ。

まだ日も昇っていない時間だけあって、辺りに人気はまるでない。

目覚めた直後にリボーンがいなかったのは、俺にとってはとても幸いだった。今は誰にも会いたくない。「沢田綱吉」として振る舞える気がまるでしない。

あまりの脆弱な精神に思わず笑みを浮かべた俺は自己嫌悪に俯き……そこに映ったいつもとは違う薄金に近い色の髪に、漸く自身の変化が解けていたことに気づいた。

いつからか解けていたのかも分からない。もしや起きたときには既に解けていたのか、よくよく見ると変化が解けたのと同時に服装も戻ったのか、七年前まで見慣れていた白群(びゃくぐん)色の単衣を纏っていた。

(まずい! この姿を誰かに……見られたら……)

……みられたからなんだと言うのだ。

どこかでこちらを嘲う声が響く。

そうだ。この姿を見て、それが「沢田綱吉」だと気づく相手は一人もいないに違いない。

背格好も、見た目の年齢も、髪と目の色さえ違うのだから。

(この町には俺を知る人なんて、一人もいない……)

半ば自棄になった思考は止める者もいない状況の中でどんどん進んでいく。

いっそこの姿のままで雲隠れでもしようか。

そうすれば、沢田綱吉は目撃情報も無いまま行方不明になれる。

「母さん」は悲しむだろうが、そんな物は一時の事でしか無い。……いつかはこうしなければ行けなかったのだ。

(変化で誤魔化し続けるには限界がある。いつかは……別れなきゃ行けなかったんだ。だったら今でも、何が困る?)

グルグルととりとめも無く続く思考が、酷く名案に思えた。

夜のうちにこの町を出て行けば良い。きっと簡単だ。この姿の……「本当の自分」を知っている相手など、ここにはいないんだから。

必死に己への言い訳を探しながら、どうしようもない感情に襲われて、俺の涙腺は壊れたようにポロポロと水滴をこぼしていく。

「誰もいない。……一人がこんなに辛いなんてなぁ」

自然と洩れた、その弱音に答える者は居ないはずだった。

「見ねぇ顔だな。そんなに泣いたら目が溶けちまうぞ」

……居ないと、思っていた。

 

 

 

声をかけてから、黄の虹(アルコバレーノ)のリボーンは遅まきながらに後悔した。まるで女を口説くかのような言葉になってしまったからである。

間違いそうになったが、泣いていたそいつは確かに男だった。年は若い。二十代か、下手をしたら十代後半かもしれない。

薄金色の僅かにクセがあるらしく、短い部分はふわふわと外側に向けて丸みをつくる。その反面、一定の長さがあればまとまるのが、後ろ側の長い部分はまっすぐに下へ向かって落ちていた。

人がいるところに驚いたのか、それとも見た目赤子にしか見えないリボーンが喋ったことに驚いたのかは定かでは無いが、驚愕に見開かれた金茶色の瞳は丸みが大きく、それが全体的に幼い印象を与えていた。

家路に向かっていたリボーンが、公園によったのは、単に公園を迂回するよりも、突っ切った方が沢田家には近いというそれだけの理由だった。

時間が時間であるが故に、誰もいないだろうという予想とは逆に先客がいたことには驚いたが、それ以上に驚いたのは、その人物の顔を確認したときだ。

「誰もいない。……一人がこんなに辛いなんてなぁ」

虚空の中にそうもらして静かに涙を溢すその横顔が、瓜二つだった。

ボンゴレ本部に飾られていた歴代ボスの肖像画。その中にあった、ボンゴレの創設者、ボンゴレ1世(プリーモ)……ジョットに。

ボンゴレ1世の子供は日本に渡ってから生まれた、沢田家の祖先になった男だけと言われている。少なくとも、ボンゴレの公的文書においてはだ。

ボンゴレ1世は、十代半ばの若輩の砌にボンゴレの前身となる自警団を設立。二十代のある時期に2世にボスの座を譲り、日本に渡ったと言われている。

今より百年近く前と言うことも相まって、当時の資料はあまり多くは無いが、守護者やボスの逸話は多く残っていると聞く。

(今のボンゴレの候補者は綱吉しか残っていねぇし……単なる他人の空似か?)

リボーンがそう結論づけている間に、流石に視線を訝しんだか、居心地悪そうに、男が身動いだ。

「……おめぇ素足か?血が滲んでるぞ」

身動いだ瞬間に感じた違和感から男の姿を注視した時、その怪我に気づいたのだ。

まるで雪のように白い足に、赤く滲む血が痛々しい。

しかし本人は今まで気づいていなかったのと同様、さして興味もないのか、ぼんやりと足の様子を検分するリボーンを見つめていた。

そのことにらしくも無い気恥ずかしさを覚え、まるでどこぞの女誑しのような自分の心情に苦々しい思いを感じる。

「……靴はねぇのか。どこに住んでんだ?」

誤魔化すように問う者の、答える声は無い。何事か反応が無いかと耳を澄ましてみると、独り言のような呟きが、ホロリと落ちた。

「なんで、こんなことをする」

耳に拾ったリボーンが、顔を上げると何故か男は苦しげに表情を歪めていた。……その表情は、どこかで見た覚えがある。

(見た?……どこだ?)

僅かに首を傾げると、それを自分に向けた物だと思ったのか、男は目を眇めて見せた。

その動きもまた、誰かと被った。

(何だ……?)

「……何も利益なんか無いはずだ。赤の他人だろう。なのに何故助けようとする」

尚も続ける男の姿に、リボーンはふっと息を溢した。

「確かに、まだ利益はねぇな。けど、近いうちに出るかもしれねぇぞ」

その言葉に、只不可解だと言うように男は表情を顰める。

(まただ……こいつ自身に見た覚えはねぇ筈なのに、こいつの僅かな表情、仕草が、誰かと被る)

「……理想論だな。利益なんか有る訳がない。そんな物を俺に期待するな」

歪めた顔を背ける、動きに。

『期待なんか……させんなよ!!』

未だに目覚めない筈の教え子の姿が、被った。

(………何?)

不可思議な現象に、リボーンは己の記憶を疑った。

姿形、声もまるで違う。しかし、リボーンの勘が、男と「沢田綱吉」の中に、何らかの類似性を見いだした。

固まっていたリボーンを見向きもせず、立ち上がり、足を引きずりながら遠ざかろうとする男に、リボーンはただ声を上げた。

何を言うべきか。言わねば行けないのか、何も分からない。……だからこそ。

「ツナ」

それは彼にしては珍しい。打算も何も無い、当てずっぽうな言葉。鎌かけとも言うかもしれないが。

しかしリボーンの予想通りに男は止まった。僅かに肩も震えたようだ。にんまりと笑うリボーンに男は振り返らない。

「俺の教え子の名前だ。あいつは強くなるぞ」

誤魔化すようにを重ねる言葉。

その意味を男が考えるよりも早く、リボーンは言葉を続けた。

「俺は……俺たちはおめぇのことはまだ知らねぇ。けどな、一人がいやだって泣くんなら、友達ぐらいにはなれると思うぞ?」

 

 

驚きのあまり何も答えられなかった。

リボーンの言葉の真意が分からない。俺が「沢田綱吉」だとバレたのか。それとも、バレずに彼を友達として紹介すると言っているのか。

……どちらにせよ変わらない。

そう俺の中で言うものが居る。

どちらに転ぼうと、俺は今日この町から出て行くのだ。バレようがバレまいが知ったことじゃない。

そう思うのに、同時にどうしようも無く胸が苦しくなった。

知られたのかと思ったら、体中に震えが走った。

バレてしまったらと思ったら、訳も無く泣きたくなった。

(止めろよ! バカじゃないか!? また繰り返すのかよ!!)

頭の中で警鐘が鳴る。同じ間違いを繰り返すことになると俺自身が分かっていた。

(それでも……)

『ツナ』

リボーンの放った一言に、足を止めてしまった。俺じゃなかったはずの名前。……いつの間にか、「俺」になっていた名前。

『ありがとう……お兄ちゃん』

虫の息だった「綱吉」が、息も絶え絶えで囁いた言葉。

あの時の俺はそれに頷くことしか出来なかった。

「……そうだな」

かなりの間を置いて、俺が溢したのは俺としてか、「綱吉」としてか。

「それも良いかもしれない」

それは答えた俺自身もわからなかった。

 

 

 

家に戻ると、満面の笑みを浮かべたママン……沢田奈々が出迎えてくれた。

綱吉の意識が戻ったらしい。

最も、数分もしないうちに、また眠ってしまったようだが。

自分のベットの中で吞気に眠る彼の姿を確認し、ふっと安堵の息をもらす。

顔色は僅かに悪いがしばらく安静にしていれば元気になるだろう。

(そういえば、結局あいつの名前、聞き忘れたな)

今更ながらにその事に気づき、胸を過ぎったのは後悔だった。まぁ、もしもの時は目の前のこの教え子に聞けば良いだろう。話すか否かは定かでは無いが、おそらく知ってはいるはずだ。

そんな妙な確信を抱きながら、リボーンも眠たい目をこすってハンモックに潜り込むのだった。

 

 

(結局……ここへ戻ってきてしまった)

呆れか自己嫌悪か、俺自身も定かでない感情に枕に顔を伏せて項垂れていると、見舞いに訪れていた獄寺隼人がにこにことしながらリンゴをむいていた。

(思えば、俺がこんなになった原因、元を辿ればこいつだっけ?)

ふとその事実を思い出し、顔を上げた俺に、獄寺隼人は喜々として何か要望はあるかと聞いてくる。

それに答えることなく、俺はじっと、獄寺隼人を見つめて頷いた。心なしか、これからやることに対して少しわくわくする。俺はあの人達とは血は繋がっては居ないはずだが、長く暮らしていた影響か、思考回路は十分毒されているのかもしれない。

「まるで、嵐だよね」

「………はい?」

俺の言葉に訳が分からないと言うように獄寺隼人の目は丸くなる。それに構うことなく、俺は悠然と頬笑んだ。

「獄寺君って、厄災が嵐に変わったみたいな人だなぁ……って」

(存在自体が厄災なんだからさっさと俺の前から消えろ)

遠回しな比喩で嫌がらせ宜しく満面の笑みを浮かべてやるが、彼からの反論が出てこなかった。

それどころか、体をブルブルと震わせて……次の瞬間、破顔していた。

「ありがとうございます! 獄寺隼人、誠心誠意十代目の御為に力を尽くしてご覧に入れます!!」

「……へ!? なんで?!」

そのあまりの迫力故に、なんでそんなに喜んでいるのかと、尋ねることは出来なかった。俺としては決して喜ばれることをした覚えはないというのに。

(満面の笑みが怖いと思ったの………初めてかも……!!)

ひっそりとそう考えながら、俺は再び布団を被り直した。

まだ、俺には覚悟を決める気は無い。

それでも、後悔するかもしれないと思っても、俺はまだここにいたいと思ったのだ。

 




いろいろ引っ張って、謎が増えたような減ったような……!!

また、変な終わり方してすいません!!

もう少し精進出来たら良いんだけどなぁ。

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