緋眼の裔   作:雪宮春夏

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 本編進むの、何年ぶりでしょう……。
 さすがにこれ以上放置は良くないと思い立ち、少々半端な所ですが、区切りが良い所なので投稿したいと思います。

 まだ読んで下さっている方がいらっしゃいましたら、とても嬉しい限りです。

 遅くなってしまったこと大変申し訳なく思います。

 それでは緋眼の裔、本編どうぞご覧下さい。


第ⅩⅩⅣ話 混乱

 キャバッローネファミリーのボス、ディーノの初めて出来た弟弟子、沢田綱吉はつかみ所の無い……どこか陰のある少年だった。

 師であるリボーンの話によれば、あるファミリーの謀略により、一般人を殺害した経験があるらしい。

 本人がその当時の事を覚えているかどうかは、今の所は聞けていないままだが。

 だが、それだけでは無いのではないかと、この山に入ってから、ディーノは考え始めていた。

 確信が有る訳では無い。しいて言うのなら、ディーノの持つ、ボスとしての勘だろうか。

 確かに、死ぬ気弾を打たれた人間は、当人でさえ思いもよらないような行動を起こすことがある。

 しかし沢田綱吉の力量はそれだけで測るにはどうも逸脱しすぎているような気がした。

(リボーンを信用してねぇ訳じゃねぇが……何か腑に落ちねぇ)

 頭の中に広がるモヤモヤとした何かに、自然とディーノの機嫌も下降していく。師であるリボーンを疑いたくはないが、隠し事が有るのでは無いかと勘ぐってしまう程度には、「沢田綱吉」と言う少年は異質だった。

()()()の子供だからって、あそこまで圧倒的な強さになんのか?死ぬ気弾を使っているからって言えばそれまでなんだろうが……)

 そんな思考だったせいか、グルグルと考え込んでいたディーノの耳に入った舌打ちはやけにはっきりと彼の耳に届いた。

「……ったく、何でこんな山奥でテメェと二人っきりにならなきゃいけねぇんだよ。跳ね馬」

 苛立ちを隠しもしない獄寺は、一応は先刻の失態を省みているのか、煙草に火をつける様子は無い。

 本来ならばそれだけで褒めるべき事なのだろうが、今のディーノは何故かそんな言葉一つにも苛立ちを覚えていた。

「結構な言い種だなぁ? 「スモーキン」……」

 「スモーキング・ボム」。獄寺隼人の有名な通り名を縮めて、揶揄れば、面白いぐらいに食いついてくる。

 少年としては低めな声音で威嚇しながら睨みつける獄寺に、自然と顔を歪ませた。

「うっせぇな。その名で呼ぶんじゃねぇよ」

 己よりも年下の小さな憎まれ口。いつものディーノならば苦笑だけで笑って許していたことだろう。

 だが、今のディーノには、それは酷く難しいこととなっていた。

 それが何故か、と問われれば、ディーノには即答できなかっただろう。

 ただそれは随分前から……あの弟弟子と初めて会った頃からあったのかも知れない、僅かな違和感。

 一つのファミリーを束ねるものとして過ごしてきた年月、そこから積み重なった経験が知らせる何か。

 漠然としか知らせないそれを抱きながら、どこか感じるよそよそしさ。

 常のディーノならば踏み込まないだろう、「同盟」と言う同一の組織ではないからこそ存在する不可侵の境界線を、ディーノは躊躇いも無く飛び越えた。

 何故そうしたのか、冷静に考えるだけの思考は、この時のディーノには既に存在しなかった。

 

「……跳ね馬?」

 獄寺は震える声で呟いていた。

 突然周囲の空気が変わったように感じて取った警戒態勢。その中でも、いざその瞬間に至るまで彼が、その男に対する警戒を必要最低限にまでしていたのは、無意識にでも一定の信頼を寄せていたからだ。

 十代目の兄弟子であり、リボーンの元教え子と言う肩書きに対してだけであっても。

 それは、己を十代目に引き合わせたリボーンが、己が主と定めた唯一のお方である十代目が信じる人だからに他ならなかった。

 己の今までの価値観から言えば敵対関係に有り、己の一存では未だに信じ切れないと断言できる「年上」でも、少しは譲ろうと思っていたのに。

「……なんの冗談だ? てめぇは「ボンゴレ」の同盟ファミリーのボスじゃねぇのか……!?」

 歯噛みせんばかりの形相で睨みつけた獄寺に対して、いつもは飄々とした様子でからかう跳ね馬は、顔を俯けているだけ。

 その事に違和感は覚えるものの、今し方向けられた明確な鞭による打撃に、獄寺は警戒を強めていた。

 油断もあったとは言え、ギリギリの所まで感知させなかったのは、流石はボスを名乗る存在と言った所だ。

(普段はへなちょこでも、流石はボンゴレ同盟ファミリーの中では第三位の勢力って訳か……!!)

 己の中にあった僅かな油断を引き締め、獄寺は慎重にディーノの行動を探る。

 この場には己と敵対しようとしているディーノのみ。

 十代目も山本も、他の女子どもも存在しない。

 後者は足手まといがいないという意味では好都合だが、前者、特に十代目に至っては、あまり歓迎できない事態と言えた。

(跳ね馬の様子は明らかにおかしい……ここへ連れてきた時点で裏切りの画策があったのか、それとも誰かに操られてんのか……操られているとしたら誰にだ? ダメだ……情報がなさ過ぎる……!)

 思考を続けながらも観察を続けるが、ディーノに動く気配は無い。ここでディーノを倒す、若しくは行動が出来ないように動きを封じるか。それとも別れた十代目……次点で山本と合流するべきか。

(大体並盛山は普通の山じゃ無かったのか? ……町の奴らも普通に出入りしている様だったから、危険地帯とは考えてなかったが)

 いつの間にか己の中の危機管理能力も随分と鈍っていたらしい。

 一般人の言葉を鵜呑みにして、裏付けもせずにのうのうとこんな所に入っていたのだから。

「……やるしかねぇか」

 十代目のファミリーの一員であるとはいえ、候補でしかない自分が同盟ファミリーのボスに手を出すなど、端から見れば己の命だけでは償えないほどの大罪だろう。

 だからといって、黙ってやられてやる道理は無い。

 ひゅんと、まるでこちらの覚悟が定まることを悟ったように鞭が唸る。

 来るかと、更に腰を落とし、迎撃態勢に入ろうとした獄寺は。

「……は?」

 次の瞬間、予想外の事態に目を点に変えることとなる。

 

 

 沢田綱吉は焦りを隠しもしないまま、共にここに来た者達を探して、山の中を駆け回っていた。

 その肩の上には、無言のリボーンが鎮座したまま、表情を変える様子も無い。

「リボーン……これも……牛鬼組の畏れの発露もお前の計画の内とかじゃ無いよな?」

 内心で、そうであってくれたらと思っていたことは、リボーンによって簡潔なまでに否定される。

「ちげーぞ。今日、並盛山に入るとは牛頭丸経由で知らせはしたが、それだけだ。それに、ここまで深いところに入ることも想定外だぞ」

 チラリと覗き込んでみるもその瞳に偽りは見えない。

 その事に更に不安は増していく。

(せめて気配で大凡の位置が分かれば良いのに……入り混じる畏れのせいで、みんなの気配が混ざっていてあてに出来ない……騙すことに関しては、牛鬼組の得意分野だし……騙されないようにするには、目視に頼るしか方法は無いのか……っ!)

 七年もの間人としてしか生きてこなかった弊害か、直ぐさま上がってしまう呼吸に、苛つきを覚えながら、俺は空を……太陽の位置を確かめる。

(日が暮れる……! そうなれば更に不利になるのに……っ!!)

 ここを訪れた時はまだ朝早い時間だったが、それからのゴタゴタや遭難によって、かなりの時間が過ぎてしまった。

 妖怪の活動領域は夜。そうでなくても森深い山は日中と夜間では大きくその表情を変えるものだ。

(どうする……? どうすれば良い……!)

 懸命に思考を巡らせても、解決策などまるで出てこない。

(無事で居てくれ……っ!)

 誰に願えば良いのかも分からないまま唇をかみ締めていると、突如前方の森の中で爆発音が響き渡った。

「……この音!?」

「……獄寺のボムだな」

 淡々と告げるリボーンの言葉に、最悪の想像が頭を過ぎる。

 彼の唯一にして絶対の攻撃手段である爆弾を使わなければならない状況……即ち、会敵。

 それが妖怪の領域である捩眼山で起きている時点で、その相手は間違いなく妖怪。しかも奴良組でも武闘派と呼ばれる牛鬼組の組員であることは間違いない。

(いくら何でも無茶だ……! 妖怪……牛鬼組相手に爆弾なんて……っ!)

 近代に入り、人間が高威力な爆弾などを使い始めたのは先代総大将である奴良鯉伴の時代。

 そう考えれば確かに、先々代の時に一盛を築いた牛鬼には、若い妖怪に比べて爆弾などの近代的な武器に対する慣れはないと思われるかもしれない。

 しかし、それは大きな間違いである。

 確かに近頃の牛鬼は基本的に根城である捩眼山から動くことはないが、それは即ち隠居をしているというわけではない。

 寧ろ今も尚奴良組と敵対勢力との境界を防衛できる程の戦力を少数精鋭で維持できていると言う点では、他の組よりも余程衰えていないと言うべきだろうか。

「これで次代もまともに育ってりゃあ完璧だろうになぁ」

「……ってお前は! 勝手に人の心読むなよっ!!」

 息を切らしているこちらとはまるで異なる、常と変わらない平然としたものに、地味に体力差を覚えさせられる。

(こいつ、見た目は赤子なのに、体内構造どうなってるの?)

 最早人間かどうかも疑わしい。

 そんな綱吉の内心も構わずに、赤子は容赦なく息を切らすこちらに活を入れる。

 それと同時に前方から連続した爆発音が届いた。

「……っ!」

「急ぐゾ」

 息を呑むこちらの心情を知りつつも、先刻までと何一つ変わらない言葉。

 それに黙って頷いて、俺は走り始めた。

 




 次回、戦闘シーンがんばります。

 それでは今日はここら辺で。

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