赤い骸骨 シャア専用モモンガ   作:なかじめ

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AOG-07S

 

「あと少しでカルネ村です。」

 

アインズも来たことは有るが全メンバー中で建前上は唯一来たことになっているンフィーレアの声に一同は頷いた。

 

アインズは昨日の事を他のメンバーにも謝罪し、一行の中に流れる雰囲気は

一部(ナーベさんとルクルット)以外、前日よりも良くなっていた。

 

「しっかし、こんだけ見晴らし良かったら隊列組む必要無かったかもな~。なー、ナーベちゃん?」

 

「黙りなさい、ゲジゲジ。髪の毛を全て引き抜きますよ?」

 

アインズはもう面倒なので何も言わない。というか、ルクルットも嫌がっていないので被害者は0だ。

 

「…。警戒は必要だ。ルクルット、気をぬくなよ。」

 

「何事にも絶対は無いのである!」

 

「そうですよ。もしかしたら超遠距離からドラゴンのブレスが飛んでくるかもしれませんよ?」

 

というニニャ。前日より、幾分笑顔が明るい気がするのは気のせいでは無いだろう。

アインズはそのニニャの顔を見る。

 

(うーん、こうして見るとニニャは顔が整ってるよな。中世的な顔ってこういう事なんだろうな。…なんというか、ナザリックにいると美的感覚が狂うんだよ…。本当にアンデッドで良かった。人間で転移してきてたら絶対に間違いを起こしてるよ…。)

 

「私もよくよく運の無い男だな…。」

(…何でこのタイミングでその言葉なの?こんな事聞かれたら奴らが…!)

 

アインズは一瞬、満面の笑みのアルベドとシャルティアの顔を幻視する。

…満面の笑みというより邪悪な笑みだった。

アインズは気を取り直して他のメンバーの話に耳を傾ける。

 

「おいおい、ニニャ。そりゃ無いだろ!どこの糞みてえな物語だよ!…いや、というかモモンさんが居れば怖く無えんじゃね?」

 

「…確かに。」

 

アインズからしても余程強大なドラゴンで無ければ怖くない。しかも、ドラゴンからは良い素材が沢山取れる。今のアインズからしたらドラゴンは敵では無く宝箱だ。なので一応聞いてみる。

 

「ニニャさん?この辺りにドラゴンなんているのですか?」

 

「うーん。エ・ランテル近郊のドラゴンの話だと、確か大昔に天変地異を自在に操るドラゴンが居たという話は有りますが、眉唾ですね。後はアゼルリシア山脈にはフロストドラゴンが生息していると言う話が有るくらいですね。かなり北の方らしいですけど。」

 

「なる程。」

(大昔は居たのか。ドラゴンが大陸最強の種族だというのは陽光聖典の者達から聞いたが…アゼルリシア山脈というのはアレか?)

 

アインズはアゼルリシア山脈の方を見る。

(あの山の北の方ならかなり寒そうだな…。もしかして、脂肪を多く蓄えたデブなドラゴン、デブゴンとか居たりして…。後は寒くて部屋に引きこもって本ばかり読んでるデブゴンとか。…デブゴンはレアなのか?うーん…。)

 

などと微妙に未来を予知していたアインズだったが、ニニャに声を掛けられたので視線を戻す。

 

「モモンさん。もしかして、興味がお有りですか?」

 

「そうですね。会ってみたいものです。」

(素材にね!)

 

その言葉に他のメンバーからは驚愕の声が漏れる。

 

「やっぱり凄いですね!ドラゴンに会いたいなど普通はいえませんよ。」

 

「ホントホント。ナーベちゃんを連れ回してるだけ有るわ!」

 

「英雄になる男は違うのである!」

 

「当然です!!」

 

「…もしよければ街に帰ったら調べておきましょうか?」

 

と最後に言ってくれたのはニニャだ。

 

「ええ。でももし時間が空いていたらで良いですよ。無理のない程度にで。」

 

「分かりました!お任せ下さい!」

 

全員が満足したようにうんうんと頷いた姿に、アインズは微笑ましいものを見るように少し笑顔になる。勿論顔は動かないが。

(けっこう良い雰囲気だよな。昔のアインズ・ウール・ゴウンもこうだったよ

なぁ。懐かしい。)

 

などと考えていると自然とアインズの口が開く。もしかしたら感傷的な時に言えるカッコいいセリフが聞けるかと思ったアインズだったが…。

 

「サボテンが、花を付けている…。……うむ。……うん?…いや、全く意味が分からんのだが…。どういう意味だ?」

 

「ど、どうしました?モモンさん?」

 

「…い、いえ、何でも無いです…。」

 

「さて、そろそろカルネ村…あれ?」

 

ンフィーレアは明るい口調で言っていたが急に口を閉ざした。

 

何が有ったのか聞くとカルネ村が頑丈そうな柵に囲まれているのだという。

それとニニャが言うにはこの時間なら畑に人が出てきていないとおかしいらしい。不安そうな一行にアインズが声をかける。

 

「私に任せて下さい。ナーベ、不可視化して飛行の魔法で村の様子を眺めてきてくれ。」

 

了承の意を告げるとナーベラルの姿が消え、飛行の魔法の詠唱だけが聞こえその場からナーベラルの気配が薄れる。

そのまま待ち続けると再びナーベラルが姿を現す。話を聞くと別段村に異常は無いようだった。

 

だが、そのまま進むとゴブリンに囲まれてしまった。既にペテルは武器を突きつけられている。

 

「おっと、武器を捨ててくだせぇ。」

 

「…命の保証は有るのか?」

 

「降参してくれるなら、ですがね。」

 

そんなやり取りをペテル達がやっている中、掃討を開始しようとするナーベラルをアインズが手で制する。

 

「『ゴブリン将軍の角笛』で召還されるゴブリンとゴブリン・アーチャーだな。」

 

恐らく、カルネ村を助けた時にエンリという少女に与えた物だろう。出来れば敵対行動は避けたい。

 

「そこの赤い人、あんただけは頼むから動かないでくれ。敵に回したらバリバリ不味い雰囲気を感じるぜ」

 

「安心してくれ。旅の仲間に危害を加え無ければこれ以上動かないとも。…今の言葉の意味は分かるな?」

 

ゴブリンはアインズの多少の脅しを含んだ言葉に少し怯えながらも首を縦に振った。

 

「あっと、すいやせん、姐さんが来るまで待っていて欲しいんですが…」

 

それを聞いた途端

 

「姐さんというのは誰だ!!そいつがカルネ村を占拠してるのか!?」

 

と突然ンフィーレアが大声を上げる。

その剣幕にゴブリンの顔に訝しげなものがはっきり浮かんだ。

 

ニニャが声をかけているが、ンフィーレアは苛立ちを隠さない。

 

(…キレる10代か。何だろう、嫌な予感が…。)

 

そんな事をアインズが考えていると村の入り口に1人の少女が姿を見せた。

 

「エンリ!」

 

「ンフィー!」

 

2人は仲良さげに名前を呼び合う。そこでアインズは前に聞いた話を思い出す。

 

「ああ、薬師の友人とは…女じゃなくて男と言うことか。」

(…まさか、この異世界で言うことになるとはな…。…リア充爆発しろ!)

 

ナザリックを知っている人がいたら、お前が言うな!と言われるような事をアインズは考えていた。

 

 

 

 

アインズはその後、村の中で誰かと話す訳にも行かず、村の外れにナーベラルと居た。

そこで、戦闘訓練を行っている村人を眺めていたのだが、こちらに走ってくるンフィーレアに気づいた。

 

「なんだ?また面倒事か?全くこの村は…。」

 

アインズは余りの全力疾走にそうボヤいた。

ンフィーレアは到着すると、少しもじもじして、言うまいか言うべきかなやんでいるような素振りを少しすると口を開く。

 

「モモンさんが…アインズ・ウール・ゴウン様なのでしょうか?」

 

それは当然違うと答えるべきだが、アインズは悩む。仲間達と共に作り上げたギルドの名前を今は自分の名前として名乗っているというのに否定して良いのだろうかと。

だが悩んでいる内に勝手に口が開いた。

 

「ンフィーレア、今の私は…モモン!!…クワトロ・バジーナだ。それ以上でもそれ以下でも無い。」

 

モモンの名前は強靭な意志で強引にねじ込んだ。どうせ言ってくれないと思ったのだ。

 

そして言い終わると同時に、アインズはバッと音を立て体勢を整える。

それはンフィーレアから

 

「そんな大人!修正してやるぅーーっ!!」

 

とパンチが飛んでくると思ったからだ。何故そう思ったかは分からないが。

体勢を整えるのも防御や回避する為ではなく、殴られた後に吹っ飛びながら

 

「これが若さか…」

 

と呟く為だ。

 

だが、そんなパンチは飛んで来ない。当たり前だった。

アインズは、

(俺は…何をやってるんだろう…。)

と、少し…いや、かなり落ち込んだ。

 

「モ、モモン…さん?」

 

ンフィーレアは困惑を通り越し、本気で心配している様な声を出した。

 

「…済まない、大丈夫だ。ぐぅう…。」

 

アインズは流れる筈のない涙を流していた。

 

「本当に、本当に有り難うございます!僕の大事な人を助けてくれて!」

 

「違うとも。私は…」

 

「はい。名前を隠されているのには何か理由が有るのだと言うことは分かっています。それでも僕の好きな人を救ってくれて有り難うございます。」

 

「はぁ…もう頭を上げたまえ。」

 

それは暗に認めたと同じだ。だがここで何と言い訳した所でンフィーレアの考えを否定する事は不可能だろう。アインズの完全敗北だ。

 

それからンフィーレアはアインズに隠している事があると言うので、ナーベラルをその場に待機させ、ンフィーレアと2人で話をする事にした。

 

ンフィーレアはアインズが宿屋で女の冒険者に渡したポーションから伝ってアインズに依頼を出したのだという。あのポーションはこの世界ではかなり希少なポーションだったのだ。

 

(失敗だったな…。だが大丈夫だ。まだ挽回出来る!頑張れ俺!!)

 

申し訳有りませんでした、と頭を下げるンフィーレアに優しく声をかける。

 

「別に悪い事ではないだろ?コネクション作りの一環なんだから。何が問題なんだ?」

 

「ゴウンさんは心が広いんですね…。」

 

その後はアインズの事を誰にも言わない事を向こうから言ってきてくれた。これで何とかなるだろう。そして、もう一度この村を救ってくれた礼を言い、ンフィーレアはまたあの少女の所に戻って行った。

 

(ここまでは順調だ。…後はナーベさんに何と言い訳するかだ…。どうしよう…。)

 

そんな事を考えてナーベラルの所に戻ると、ナーベラルが勢い良く頭を下げた。

 

「アインズ様!申し訳有りません!」

 

「…ぇ?」

アインズは考えた。何でやねんと。

…そして気付いた。こいつがアルベドの名前を出した事を謝っているんだと。

 

アインズは、これはチャンスなんじゃ無いか?と考えた。ナーベラルもこれを機にあのような失敗をしないように注意してくれれば一石二鳥だ。

少しナーベラルが可哀想だがあれは本来絶対やってはいけない失敗だ。

そんな事を考えているとまたも口が勝手に開く。

 

「チャンスは最大限に活かす!それが私の主義だ!」

(だから何で言っちゃうの!?馬鹿なの!?)

 

「ア、アインズ様?」

 

「…そうだな。お前がアルベドの名前を出したからだな。」

(済まないナーベラル。お前の為でも有るんだ。)

 

「この命で謝罪を!」

 

と持たせた剣を首に突きつけるナーベラル。その目は本気だった。

 

(うおい!何でそーなるの!?…いや、こいつらならそうなるよな。俺の配慮不足だったな…。)

 

「バカを…お前のような若者が命を落として、世界が救われると思っているのか!?」

 

アインズは「バカを言うな!」と言おうとしたが途中から割り込まれる。

 

アインズは(何を言うつもりなの!?)と心の中で悲鳴を上げる。

 

「アインズ様!?」

 

「新しい時代は老人が作るのでは無いのだぞ!!ナーベラル!!」

(アレ?普通に良いこと言ってね?)

 

カチャリと音がしたのでそちらを見ると、ナーベラルが剣を取り落としていた。その目は驚愕に見開かれている。

 

「ナ、ナーベラル?」

 

「ア、アインズ様!」

 

「はい、何で…何だ?」

 

「わ、私に…、そこまでのご期待を!?」

 

「ぃぃ!?…う、うむ!当たり前だ!お前は、いやおまえ達はナザリックが誇る戦闘メイド、プレアデスだぞ!当然じゃないか。」

 

「新しい時代を…私達が…。畏まりました!今後は身命を賭して、仕事に当たりたいと思います!!そして、姉妹にもこの話をする許可を願います!」

 

「…わかった。許可しよう。だが…、余り気負いすぎるなよ?な?な?」

 

「畏まりました!!」

 

アインズは嫌な予感しかしなかった。何故ならナーベラルはどうやら、やる気が空回りするタイプの困ったちゃんだとこの旅の中で気付いたからだ。

 

(頼むから…このまま何も無くこの仕事が終わってくれますよーに!)

 

とアインズは心の中で神に祈った。

 


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