時系列的に本編より未来です。
原作8巻のアインズ様の練習風景をシャア専用アインズ様にやってもらいました。
「騒々しい。静かにせよ。」
アインズは手を振るう。そしてそのポーズで動きを止めた。
一拍置いて、元の姿勢に戻る。
「騒々しい。静かにせよ。」
再び、左手を振るうと同じように動きを止めた。
「…せよ。…この位置か?いや…こうか?この方がカッコいいか?」
「騒々しい。静かにせよ。」
自分のポーズに納得したアインズは机の上にあるメモ帳を手に取る。
「これでこのポーズも完成と。…次はアレか…。」
今までは支配者たるポーズを練習していたのだ。自分には圧倒的に支配者としての経験が足りない。当たり前だ。
リアルでは普通の社会人だったのだから。
しかしそのままで良いなんて事は有り得ない。経験が足りないなら努力しかないのだ。
これまでずっとポーズを練習して、既に1時間が経過したが、アインズには休憩の二文字は一切無かった。
ここからは新たな試みだ。そしてこれは今までやって来た事以上に誰にも見られる訳にはいかない。
アインズは椅子から立ち上がり、ドアの鍵が掛かっているか、天井にエイトエッジアサシンが張り付いていないか、ドアの向こうで誰か聞き耳を立てていないか念入りに確信した。
「よし。…やるか。」
アインズは手帳とポケットに忍ばせていた小さい箱の様な物を取り出す。こらはボイスレコーダーの機能を持つマジックアイテムだ。アインズが頭のなかで合図を送り、録音と再生が出来る優れものだった。
アインズは自身の左手に装着してある赤いリストバンドに目をやる。
「…このアイテムにはいきなり変な事言わされて振り回されっぱなしだったが、中には良いセリフも有った。ならそれを有効活用してやる!」
それは外せないし、破壊も出来ないこのアイテムへの、ささやかな抵抗だった。
「まずは一つ目。これは一つ目だから覚えている。シャルティアが昨夜部屋に来た時だったな。」
アインズは昨夜からナザリックに帰還し久々にそのまま丸1日ナザリックにいたのだ。
アインズはボイスレコーダー型マジックアイテムを起動した。
『シャルティアよ、お前が性欲を持て余しているのは良く分かった。だがな…、性欲。それは若さが生む一過性の欲だ。 永続はしないし、絶対に満たさなければならない欲では無い。すなわち、若気の至り!』
「これは…ヒドいな。確かシャルティアがまた角の先っちょだのなんだの言いだした時のだ…。活用出来そうも無い。却下だな…。」
因みにこれに対するシャルティアの返事は
「性欲を真面目に語るアインズ様も素敵でありんす!ふひひ。」
という残念な物だった。
「…気を取り直して次だ。次は何だ?」
『ええい!守護者統括は化け物か!』
「…思い出した…。シャルティアの後に部屋に来たアルベドが腕に絡み付いて放さなかった時のだ…。」
あの時は結構本気で抵抗したのだが
『流石アルベドだ!何とも無いぜ!』
とでも言うようにビクともしなかったのだ。
「これは…ピンチの時に…いや、却下だな。ピンチの時などこんな事かんがえていられない。次だ次。」
『まだだ!まだ終わらんよ!』
「…。これもアルベドじゃないか…。」
朝早くから部屋に来て、また腕に絡みついてきて余りの怪力に腕がもげるかと思った時だ。
アインズはかなりやる気の炎が小さく萎んで来たのを感じた。
「…次。」
『更に出来るようになったな!アルベド!』
「…。」
そこからは酷かった。三割シャルティア、残りはアルベドといった具合だ。
「次で最後か…。これは覚えている。さっきのじゃないか…。」
『私の精神が保たん時が来ているのだ、そんな事では!』
『いつか私に対し贖罪せねばならん!アルベド!何でこれが分からん!』
先程やりたい事が有るから1人にしてね、とお願いしたのに部屋から全く出ていこうとしないアルベドに放った言葉だった。
「…まあ、その後『申し訳有りません!アインズ様と一緒にいられる事が余り無く浮かれてしまいました!』なんて言われたら怒れないよなぁ。…しかし、今回は使えそうな物が無かった…いや、最後のは何かに使えそうだな。流石は守護者統括殿。やるな、アルベド。」
先程のアルベドに放った言葉をメモ帳に書き記し、これを後で何に使えるか考えることにした。
そこでセットしていたアラームが鳴る。アインズは手帳とボイスレコーダーを神経質過ぎる程、まるで旅行に出掛ける前の戸締まりのように念入りにしまい、椅子から立ち上がる。
そして何時も執務室として使っている部屋のドアを開けた。
(よし。やるか!)
アインズはその時思いもしなかった。
先程、自分の中で評価を少し上げたアルベドを、僅か数分後に謹慎処分にする事など。
そしてその後ハタと気付く、これ考えてても、勝手に言われちゃうんじゃね?と。