赤い骸骨 シャア専用モモンガ   作:なかじめ

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AOG-05S

翌朝、再び冒険者組合を訪れたアインズは、仕事が張り出されているボードの前で途方に暮れていた。朝、宿屋を出た時に有ったワクワクは一気に萎んでしまった。

 

(うん、知ってた。字が読めないのは知ってたんだ!…でも仕方なかったんだ!だって受付さんが全部やってくれると思ってたんだ!)

 

アインズが組合に入ってきてもう30分。銅のプレートのとてもゴツい真紅の鎧の男がボードの前で立ち竦んでいるのだ。他の冒険者達は邪魔者の様に見るもの、昨日の男たちのように舐めたように見るもの、とにかくジロジロ見られていた。

 

「これでは道化だよ。」

(うん、そうだね。俺もそう思うよ。珍しく気が合ったね。…いや、これは最近良く言わされる気がするな、俺は道化なのか…?)

 

アインズはチラッと横を見る。ジロジロ見られている原因の半分は美人過ぎるナーベラルなのだが、当の彼女はアインズの横に立ち、ボケーッとしてボードの一点を見つめている。

…しかし残念ながら彼女の視線の先には羊皮紙は一枚も貼られていなかった。

 

(こいつ、全部俺に任す気だな…。まぁ良いけどさ…。そもそもナーベラルに任すのも恐ろし過ぎるし…。しかし、どうするか?)

 

そんな事を考えていると、横から声をかけられた。

 

「あの、仕事を探してるんですか?」

 

「うん?」

 

見れば銀のプレートを持つ四人組の冒険者が立っていた。

 

「良ければ一緒に仕事をしませんか?」

 

「仕事というのは?一体どんな仕事なのでしょうか?」

 

そのアインズの返事を受け、彼等は受付と話し、会議室のような部屋を用意させた。

 

彼等は『漆黒の剣』という冒険者でリーダーはペテル・モーク、レンジャーのルクルット・ボルブ、魔法詠唱者のニニャ、森司祭、ダイン・ウッドワンダーからなる四人組の冒険者だった。彼等と自己紹介をしあい、途中でタレントなる能力の存在の説明を受ける。それはアインズからしてみても強力な能力だ。特にこの街にいるというンフィーレア・バレアレという者のタレントはかなり脅威になりうる物だと分かった。

 

話し合いはルクルットに言い寄られたナーベラルが何度かルクルットを虫けら呼ばわりしたが概ね友好的に進んで行った。

仕事内容自体はモンスター討伐だという事、現れたモンスターの半分を受け持ち、報酬もチームで分割。

全く問題の無い、銅のプレートではかなり良い仕事だと思いアインズも了承した。

 

「では共に仕事を行うという事ですし、顔をお見せしましょう。」

(厳しい特訓の成果を見せられる時が早速来たぜ!)

 

アインズにはヘルムを脱ぐ時に問題となることが幾つか有ったのだ。

まずは顔。骸骨の、それも赤い角の生えた顔など人間に見せられる筈がない。

自分のアバターに慣れているアインズでさえ、たまに鏡を見ると一瞬ビクッとするぐらいだ。

 

そして次に角。これはヘルムからでは無く、自分の頭から生えてしまっているので、まずはヘルムに幻術の魔法で角が生えているように見せなければならない。つまり人前でヘルムを脱ぐという行動が、幻術の魔法を顔とヘルム2つに掛けなければならないというとても燃費の悪い行動になってしまっていた。

 

そしてヘルムを脱ぐ時に角に引っ掛けないよう、スムーズに脱がなければならない。これが一番大変だった。

何しろ、何も無い空間で何かに引っ掛けてガリガリと音がしたら不審に思われてしまうし、手伝いますよ?などと言われる訳にはいかないのだ。

これは練習有るのみだった。

360°どんな角度から見られても平気なように、全方位を一般メイドに囲ませる、通称オールレンジフォーメーションで美人メイドに全方位から見られながらヘルムをひたすら脱ぎ着するという、相当に苦痛な特訓を、しかもナーベラルの特訓と並行して行ったのだ。

 

(あれはキツかった…。そもそもセバスに空いた時間の有るメイドがいたら部屋に来るように言ったら全員で来るんだもん…。『アインズ様の頼みと有らば、何時でも何人でも時間を空けさせます!』だもんなぁ…。ナーベラルはずっとこの調子だし…。)

 

あの時、何度アインズは「これでは道化だよ。」と言った事か。途中でアインズは数えるのを止めたほどだった。

 

そして最後に幻術で作る顔だ。今まで漆黒の鎧の時に作ろうと思っていた顔はリアルの鈴木悟の顔だった。漆黒の鎧なら東洋人の顔でも違和感は無かったからだ。

しかし、この真紅の鎧はダメだった!

余りにも中二過ぎるのだ。東洋人の顔が全く似合わない。自分の顔が可哀想になるくらいだった。

どうしよう…。とアインズが悩んでいたその時、アインズの頭の中に知らない男の顔が浮かんで来たのだ。

 

(…何だ?この顔は…?でも似合うかもしれない…!いや、…俺の心が光って唸っている!この顔にしろと輝き叫んでいる!)

 

と、アインズはその時、中二病真っ盛り、…いや、中二病も真っ青な事を考え、幻術の魔法で試しにその顔を作って見たのだ。

その顔は金髪をオールバックに固めた、激しくイケメンな男だった。そして真紅の、赤い鎧にピッタリな顔だった。

 

そしてアインズは漆黒の剣のメンバーの前で、特訓の成果を見せるような見事なヘルムの脱ぎっぷりを見せた!

無論、こんな苦労してヘルムを脱いでいるとは知らない面々は普通に見ているだけだが。…多分、ナーベラルも分かっていなさそうだった。

 

「「おぉ…!」」

 

と一同の感嘆の声が漏れる。

 

「すげー、赤い鎧にぴったりな顔じゃねーか!」

 

「本当ですね!」

 

「うむ!とても精悍な顔立ちなのである!」

 

「凄い!」

 

と一同はアインズを褒め称える。アインズとしては自分の顔じゃないのでそこまで嬉しくは無かったが、何故かナーベラルがドヤ顔をしていた。

 

「しかし、訳あって余り顔を晒す訳にはいきません。なので申し訳無いのですがヘルムは被らせて頂きます。」

 

この間30秒程度で有る。このたまに来るかもしれない30秒の為にあの苦痛な特訓をしたのか…。とアインズは一瞬落ち込んだが、顔を隠し続ける英雄等怪し過ぎるのも事実なのだ。

それに一緒に仕事をする人間に顔を見せないというのは社会人、鈴木悟の残滓が許さなかった。

 

「訳ありか…。冒険者なら珍しく無えししょうがねえな。」

 

「ええ、詮索はしないので安心して下さい。モモンさん。」

 

その言葉にアインズは彼等に対し、それなりの好感を持つ。今のアインズはアンデッドだ。人間には余り興味が無い。

だが話をしたり、キチンと対応されると多少なりとも好感を持つ事が有るようだった。

(やはり、ガゼフの時もそうだが、人間で有っても好感を持つものなんだな。…ガゼフの時より早く好感を持ったのはこのリストバンドのせいで精神の安定化が中途半端になっているせいか?…げ!?)

本当にこの、発作は忘れた頃にやって来るようだった。

「私が顔を隠している意味がわかるか?…私は過去を捨てたのだよ。」

(捨ててないよ!ずぅっと引きずってるよ!むしろすがってるよ!っていうかタメ口聞いてんじゃねえよ!なんで上から目線なんだよ!)

 

「なる程、そういう事ですか。分かりました。尚更詮索する訳には行きませんね。」

 

とニニャが言ってくれる。ナイスなフォローだ。この子は良い子だと確信するアインズ。というか言い方がデミウルゴスっぽかったので無条件で確信した。

 

「では、お互い準備が出来ている様ですし、早速出発しますか!」

 

「ええ。了解です。」

 

全員で立ち上がり、部屋をあとにする。

 

部屋から出ると、何やら受付嬢が此方を見ていた。

 

「バジーナ様。御指名の仕事が入っております。バジーナ様?」

 

と受付嬢はさっきからバジーナという冒険者を呼んでいるようだった。

 

(…全く、呼ばれているのに返事をしないなんて社会人失格だな。誰だ?そのバジーナとかいう奴は…。少し注意してやるか。)

 

そう思い受付嬢の視線をたどり自分の後ろを見るが、そこには今自分達が出てきた部屋しか無かった。視線を戻すと組合にいる全員がアインズの方を見ている。

 

「あ。」(俺じゃん!)

アインズはようやく昨日謎の人物クワトロ・バジーナとして名乗りを上げたのを思い出した。

 

横を見ると、ナーベラルも今気付いたのだろう、辺りの空気の変化に対し僅かに動く。それはいざという時の事を考えた戦闘準備だった。

というか、念の為に持たせた剣の柄に手を掛けていた。

 

(不味い、いくらなんでもそりゃ不味いよ!ナーベさん!アルベドもそうだけどなんでこんな子しかいないの!?)

 

アインズはすぐさまナーベラルの頭にチョップを落とす。ゴチンという良い音がした。

涙目のナーベラルがアインズを窺ってくる。アインズは深い罪悪感を感じるが、今回は余りの不味さに仕方なかったと思うしか無い。あと、少しだけ、ほんの少しだけスッキリしたのは弐式炎雷さんには内緒だ。素戔嗚(スサノオ)でぶった斬られてしまう。

 

「申し訳有りません。少しぼうっとしていました。指名とは一体どなたが?」

 

「ンフィーレア・バレアレさんです。」

 

さっき聞いた名前だ。そう思った時にはもう少年が近寄って来ていた。

 

「初めまして。僕が依頼をさせて頂きました。」

 

少年の会釈にあわせてアインズも頭を下げる。

 

「それで実は依頼を」

 

と言いかけた少年をアインズは手で制す。

 

「大変申し訳無いのだが今まさに仕事の契約をしたばかり、日を改めて貰えないか?」

 

「モモンさん!名指しの依頼ですよ!」

 

(名指しの依頼ってそんなに興奮するものなのか?)

 

「しかし、先に依頼を受けた方を優先するのが常識では?」

 

そう言うと、組合にいた他の冒険者達も頷くものがいた。彼等は好意的な表情を浮かべている。

 

「しかし…」

 

 

「であればペテルさん、一緒に話を聞いてみて貰えませんか?我々は経験が無いので判断しかねる部分が有りますので。」

 

「僕はそれでも結構ですよ?早い方が良いですけど今日明日で無くても良いので。」

 

そういう事になりまた部屋に戻る。組合にいる全員の視線を浴びながら。

 

 

「これでは道化だよ。」

(いい加減しつけーよ!)

 

 





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