今回から原作を追っかけていくのですが原作と余り変わらない所はダイジェストで行きます。
隣国であるバハルス帝国、スレイン法国との要所になる境界に位置するリ・エスティーゼ王国の都市、エ・ランテルは3重の城壁に囲まれ見た目通りに城塞都市の名を冠している。
そのエ・ランテルの冒険者組合の扉を開く、二人組がいた。その1人は女性だ。彼女はなんの変哲も無い茶色いローブを着ていたが、彼女にかかるとまるで豪華なドレスに変貌したかと見紛う程の絶世の美女だった。
対して彼女の連れの性別は不明だ。というのも性別を示す物が表に出ていないのだ。
彼を見た冒険者の1人が「真紅の戦士…」と呟く。
それは真紅に輝き、金と紫色の紋様が入った絢爛な全身鎧に身を包んだ人物。ヘルムに入ったスリットからではその中を窺う事が出来ない。屈強そうな人物に相応しく漆黒のマントを割って、背中に背負った二本のグレートソードが柄を突き出していた。
彼等は、奥にあるカウンターの受付に向かい真っ直ぐ進んで行く。
「冒険者になりに来た。」
彼は受付の前に付くとそう声を出した。そう彼だ。その声によって初めて彼が男性だと分かった。
「畏まりました。ではお名前を伺って宜しいですか?」
「私の連れはナーベ、そして私は…私はエゥーゴのクワトロ・バジーナだ。…ぅぇっ!?」
アインズは焦っていた。あのアルベドと舌戦を繰り広げ、敗北寸前の所をデミウルゴスに救われ、ようやく冒険者になれるとエ・ランテルまで意気揚々と来てみたらいきなりこれである。
「エゥーゴ?という所から来られたクワトロ・バジーナ様ですね?」
アインズは思う。…誰それ?どこそれ?と。
アインズはチラッとナーベラルの方を見る。ナーベラルは驚愕の目で此方を見ていた。
(そりゃそうだろうなぁ…。あんだけ打ち合わせ、いや練習した名前と違う名前出されたらなぁ…。……ぐあぁぁあ!いきなりかよおおおお!)
あの翌日、ナーベラルを呼び、アインズはモモンと名乗る事、ナーベラルはナーベとして活動する事を伝え、試してみたのだが、…意外とナーベラルがポンコ__…困ったちゃんだった事が判明し猛練習したのだ。…残念ながら効果は今ひとつだったが。
一瞬アインズの頭にルプスレギナ辺りと交換するか?という言葉がチラついたが、そもそもあれはアインズのミスが発端なのだ。結構、いやかなり喜んでいたナーベラルの顔を思い出し、更に練習に付き合ったのだ。残念ながら効果は今ひとつだったが…。
「ゴホン!済まない。いや違う、モモンだ。」
「モモン・クワトロ・バジーナ様ですか?」
「え?……もうそれでいいで…それでいい。だが登録名はモモンで頼む。」
それは今後エ・ランテルの大英雄となるモモン・クワトロ・バジーナという、非常に語呂の悪い名前の大英雄の誕生の瞬間だった。
その後、冒険者組合で色々説明を受け、教えて貰った宿屋に向かっているのだが、さっきからずっとナーベラルがアインズをチラチラ見ている。聞きたい事が有るのだろう。しかし、アインズが黙っているので口を開けないのだ。
(…。せめて宿屋に着くまで待っててね?聞きたい事は分かっているんだよ?…分かっているんだけどまだ思い付かないんだ!何だクワトロって!?助けてデミウルゴス!)
そんな事を考えて、現実逃避している内に教えて貰った宿屋に着いた。着いてしまった。
「どうやらここの様だな。もう何度も言うが、決して軽々しく人を殺すな。そして、もし揉め事に巻き込まれても私の許可無く本気を出すな。良いな?」
「はい!アイン_」
「モモンだ。モ・モ・ンだ!」
「申し訳有りません!モモン、さーーん!」
あの練習の成果がこれである。最後にモモン様と呼ばなくなったという所に効果が現れている。凄い!
……アインズは遠い目をしていた。何時間かけたっけなー。と思いながら。
「それでモモンさーん。一つ聞きたいこ「ナーベよ!まずは宿に入ってからだ!良いな?」
被せるようにナーベの言葉を遮るアインズだったが、ただ単にまだ上手い言い訳が思い付いていないだけだ。
「畏まりました。モモンさん。」
そうしてやっと宿に入り、ガラの悪い主人らしき人物に声をかける。
「一泊お願いしたい。」
「銅のプレートか?相部屋で五銅貨だ。」
主人はぶっきらぼうに答える。
「出来れば二人部屋を希望したいのだが?」
「…なんで相部屋を勧めたのか分かるか?」
「分からないな?教えてくれるか?」
「少しは考えろ!その兜の中はガランドウか!」
(その通りだ!何せ角の生えた赤い骸骨だからな!…やれやれ。しかし、やはりこんな男に凄まれても何も感じないな。…アルベドの怒った顔の方が怖かったな…。)
「ほぅ。中々肝が据わっているようだな。ここには低位の冒険者が泊まる事が多い。同じ程度の実力なら仕事が一緒になることが有る。そうやって皆チームを組んで行くんだ…接点が無ければ仲間は出来んぞ?」
「二人部屋だ。食事は要らない。」
「ちっ、まあいい。1日7銅貨。当然前払いだ。」
アインズは、主人に金を払おうとナーベラルを後ろに従え歩を進めるが、それを邪魔するようにスッと足が差し出された。
アインズは立ち止まりその足の持ち主を観察する。嫌らしい薄笑いを浮かべた男だ。同じテーブルを囲む男たちも同じようにアインズやナーベラルを眺めている。
周りの人間も止める気は無いようだ。
(やれやれ、こんな男たちを相手にするより考えなきゃいけない事が有るってのに…)
アインズはその足を軽くけり払う。
その男が立ち上がりアインズの目の前ににじり寄る。見ると首には鉄のプレートが着いたネックレスが男の動きに合わせて揺れていた。
「おいおい、いてえじゃねえか。」
(男の数は4人か…。ん?4?…!)
「うおっしゃああ!!やったぜ!!」
「なっ!?」
「お前はもういいぞ。…面倒だ、飛べ!」
アインズは取り敢えずその男を掴み、宿屋の反対側に軽く放り投げた。ナーベラルに対する起死回生の返答を思い着いたのだ。こんな男たちを相手にしている暇は無かった。
「おっきゃああああ!」
そんな女の声もアインズには届かなかった。
「良し、ナーベよ!部屋に行くぞ。ん?お前らももう良いだろ?まだやるのなら全員纏めてかかってきてくれないか?時間の無駄だ。」
そのアインズの言葉にその場にいた男たち全員が頭を下げる。
「済まなかった!許してくれ!」
「ああ。勿論だ。そのかわり壊れた物の修理代を主人に払っておいてくれ。」
(もう金が無いからね。俺は払わないよ!)
「ああ!分かった!払わせてくれ!」
「よし。行く「ちょっとちょっとちょっと!」
アインズの言葉を遮り、赤毛の髪の、鳥の巣の様な頭の女がアインズに迫ってきた。
「?どうした?」
「あんたねぇ!あんなクソデカブツ投げてくれちゃって!私が買ったポーションが壊れちゃったじゃないの!」
「ならその男の仲間に弁償して貰えばいい。」
「誰でも良いのよ!金貨一枚と銀貨十枚!早く払ってよ!」
男たちが下を向く。どうやら金が無いようだ。
「やっぱりね。いつも飲んだくれのこいつらが持ってる訳ないわよね!ならあんた!そんな立派な全身鎧着てるんだからお金有るんでしょ!?払ってよ!」
(無えよ!有ったらこんな宿屋泊まらねーんだよ!でも無いなんて言ったらケチだと思われる…。あれ?…げ!?)
「ふん!冒険者は無理難題を仰る。」
(うおい!それじゃ金が無いって言ってるような物だろーが!!)
「はぁ?無理なの?あんたそんな立派な全身鎧着てるのにお金無いの? それともケチなの?」
「…このアメンボがぁ…!」
(げ!?)
いきなり虫の名前をドスの利いた声で呼ぶナーベラルの声が聞こえたので見ると、ナーベラルが凄い顔をしていた。これはヤバい顔だ。何とかしないと…、そう思い、アインズはポーションを取り出す。
「現物でも良いか?回復のポーションで良いんだろ?」
「…別に良いけど。」
そう言い、アインズの差し出したポーションを受け取る女。
「行くぞ。」
そう告げ、宿屋の主人に金を払いナーベラルを連れ部屋に向かっていく。
(やれやれ。たかがポーション一個で凄い騒ぎだな。)
部屋に入り、アインズは窓際に向かう。そうして、外を見ている風を装ってナーベラルの方を見るとまたそわそわしだしていた。よし!とアインズはナーベラルに声をかける。とても堂々と。
「ナーベよ。聞きたい事が有るのだろう?何か分からない事が有るのなら聞くべきだぞ?」
「は!アイン_モモンさーーん。先ほど、冒険者組合で名乗られたクワトロというのは一体誰なのですか?」
「なんだ、そんな事か!それがずっと聞きたかったのだな?なら教えてやろう。」
「は!有り難うございます!」
「クワトロとは、私達の元々いたリアルの世界のとある地で、数字の4を意味する言葉なのだ。」
「おお…!リアルとは至高の御方々が住まわれていた世界ですね!」
「その通りだ。そして私はその世界ではモモンガでも、アインズでも無い名を名乗っていたのだ。それから数えてモモンは四番目。そして飽くまでも仮の名前だという事を忘れぬ為にクワトロと名乗ったのだ。分かったか?」
「なる程!そんな深いお考えが有ったとは!」
「その通り。しかし、お前は気にする事は無く、モモンと呼べば良いからな。分かったか?」
「畏まりました!モモン、さーーん!」
その間抜けな返事を聞きながら、エゥーゴとバジーナの方は訳が分からないから聞かないでね?と心の中でナーベラルにお願いするアインズだった。
ダイジェストにしているのに物語が進んでいない…これが若さか…!