赤い骸骨 シャア専用モモンガ   作:なかじめ

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リザードマン編、ザリュース君の主人公パートは通常の三倍です。 長さではなく速さが…つまり超ダイジェストです。 私の文才では恐らくこの内容普通に書いたら2話か3話になりかねない=無理…
というか正直リザードマン達マジメ過ぎてフザケられ…ゲフンゲフン…ネタを挟め無い為ダイジェストになりました。




AOG-28S

リザードマン存亡の危機、湖の水位が下がっていき、どんどん魚が居なくなっていく。 

 

それを受け、そんなリザードマン達の一人、ザリュース・シャシャは、"グリーン・クロー"族の族長で有り兄でも有るシャースーリューへ、戦争になり、最悪のシナリオで有る違う部族や、同じ部族内での共食いを始める前に各部族を集め、意見を聞き、また何かしらの策を講じるべきだと進言し、そして、各部族を回り、族長を説得し、最悪ねじ伏せ、集めて回るという事をやるべきは自分、フロスト・ペインの持ち主で有り、リザードマン最強とも言われ、尚且つ旅人でも有り疎まれているが故に自由に動けるザリュース自身が集めに各部族を回る事も進言したのだ。 その時の兄の悲しそうな、それでも、弟を頼もしく見る顔を、ザリュースは申し訳なく、そしてこの上なく嬉しく思った。

族長集めは、こんな時なので困難を極めるかと思ったが、予測も付かないほどあっさりと全員が承諾してくれた。 恐らく皆困窮し、他の部族がどう動くかが知りたかったのだろう。 周りの部族で結託し、襲いかかられればただではすまない。 それ故のあっさりとした承諾であるとザリュースは確信していた。

だが…ただ一人、"竜牙"族の族長、ゼンベル・ググーだけは、手合わせして勝ったら付いて行ってやる、との申し出が有り、仕方なく手合わせをしたが…

 

そうして始まった族長達の会議では、この異変の、一つの結論が出た。 魚がどこに行ってしまったのか…それは恐らく、北の水深の深い所に魚が逃げて行ってしまったのだろう…今のリザードマン達の住んでいる湖では、魚が住んでいくには浅すぎる…それはどうやら、各部族でも分かっていたようで異論などは出なかった。 ではどうするか…その話になった時に、真っ先に声を上げた者が居た。 

それは、"レッド・アイ"族の族長で有る、クルシュ・ルールーであった。

 

「もし一度、最も楽な共食という方法に手を出したりすれば!! そのままリザードマンは滅びてしまいます!!」

 

各部族の族長の前で涙ながらにそう進言し、共食いの危機は回避された。 彼女達の部族は共食いの経験が有るそうだ。 いや、どこの部族の歴史にも有るだろう。 そして共食いをしない…その次に出した彼等の考えは、北伐だった。

北の湖を支配している、強大なトードマン達を討伐し、彼等の餌場を奪取する。それが、族長達の答えだった。 

そしてそれもまた、不可能とも言える無謀な結論だった。 北の、水深の深い湖には強力なモンスターが生息し、それと普段から争い合っているトードマン達はリザードマンよりもとても強力であった。 その昔、ザリュースらが所属する"グリーン・クロー"族はトードマン達と戦争になり、大敗を喫した過去が有った。 それ故、シャースーリューもザリュースも、トードマン達の恐ろしさは口伝によって何度も聞かせてされている程だった。 

しかし、トードマンの恐ろしさをザリュースの兄、シャースーリューも進言したのだが、他の大多数のリザードマン達は最早…止まらなかった。

彼等の悲しみ、同族への愛は既に、トードマン達への憎悪に、恨みに変わっていた。

ザリュースと兄、シャースーリューは苦悩した。そして苦悩の末、多くのリザードマン達は死んでしまうだろうが、その中でも生き残った者達の為に、未だ幼く、戦いに出ずに生き残った者達の為に、この水位が減っていく原因を突き止め、出来る事なら排除しようと立ち上がったのだった。

そして、そのザリュース、シャースーリューのシャシャ兄弟に、付き合っても良いという、珍しいリザードマンが2人居た。

見た目はゴツく、言動も粗暴なゼンベル・ググー。だが、彼もまたザリュースと同じく旅人として世界を見、リザードマン達の中では珍しく自分達の事を客観的に見る事が出来る稀有な存在だった。

そして、クルシュ・ルールー。彼女は…ザリュースがひと目惚れしたメスのリザードマンで、彼女もまた、ゼンベルと同じく冷静で、頭の柔らかい、優しいリザードマンだった。

そして、リザードマンとは別に、ザリュースの兄とは違うもう一人の家族、ヒュドラのロロロ。 ロロロもまた、ザリュースに力を貸してくれると自ら、言葉は通じないが、進み出てくれた。

 

ザリュースとシャースーリューは、この異変に全く心当たりが無いわけではない。 彼等は父から、リザードマンの伝承を聞いて居たのだ。曰く、

 

「この湖の南に広がる森には魔樹が居る。 奴が目覚めればこの近隣は滅びる」

 

と言うものだ。 今回の異変が起きた時、二人の兄弟は真っ先に確信した、これに違い無いと。

そして、湖の最南端。 森と湖の境目に…それは居た。

この辺りは危険なモンスター等が、水を飲みに来る場所として知られ、リザードマン達は普段近寄らない場所だ。 それ故今まで誰にも気付かれず、ザリュース達が、戦支度している仲間に腰抜け共などと非難を浴びながらも出立し、わざわざ調査しようなどと思わなければ、今後も誰も気付かなかっただろう。 

まるで巨大な蛇の様に蠢く、木の根のような化け物。 

 

「こ、こいつぁ…やべぇな…こんな化物がこんなに近くにいやがったとは…」

「我々リザードマンの危機感の無さ…今まで互いにいがみ合ってきた為に周りが見えていなかったと言うことだ」

「これは一度撤退して、皆で来たほうが…きゃっ!!」

 

一瞬だった。 何かがヒュンッ!という音と共にザリュース達の横を風が通り過ぎたと思った時にはクルシュが後に吹き飛んでいた。 まだ間合いは遠い、それが油断を生んだ…だけではない。 

 

「クルシュっ!!」

「なっ!? 嘘だろっ!? お、おい!! 今の見えたか!?」

「み、見えなかった…! や、奴は…奴の攻撃はこんな距離まで届くのか!?」

 

まだ相対距離100メートルは有る。その距離を一瞬で潰し、更に一番後に居たクルシュに攻撃する。 その意味するところは…

 

「撤退はムリだ…我らはいつのまにか死地に飛び込んでいたらしい」

 

ザリュースが仰向けに寝転んだクルシュを確認しながら言う。 クルシュの胸の辺りは上下に動いている。

 

「良かった…。 クルシュは無事なようだ…」

「へ、でもよ…どうすっかね? これ」

「ここで我らがこいつをどうにか出来なければ…クルシュが無事な意味も、リザードマンの将来も無くなる」

「兄者の言うとおりだ。 たった…三人か」

 

ザリュースがそう言うと、ロロロが、シャアーッ! と一声鳴いた。

 

「そいつもやるってよ」

「ロロロにはクルシュを連れて逃げて貰おうと思ったが…それは甘いか」

「甘いな、弟よ。 お前は勇気が有るな。 私は先程から奴から視線が外せん…お前とゼンベルが居なければ震えて喋れもしなかっただろう」

「へっへ…俺もよぅ、兄ちゃんと一緒で、奴に釘付けだわな…愛のなせる技ってか?」

「兄者、ゼンベル、私が奴から視線を外せたのは、やはり兄者とゼンベルが居たからだ。 二人を信用しているからな」

「ふっ」

「へっ! じゃあよ…いっちょやるかね?」

「それしか無いようだな…頼みの綱は…それか?」

「ああ、その通りだ兄者。 フロストペイン…我らリザードマンが持つ武器で、このような化物相手に通用するのはこれしか無い」

「魔樹ったってデケえ木の根っこだ。 寒さは嫌だろうな。 そんじゃま、頼むぜザリュース」

「…ああ。 そして、…済まんな二人共…それにロロロ…付き合わせてしまって」

「そういうのは勝ってから言え」

「そうだっつうの」

「…そうだな。 良し! やるぞ!」

 

端から勝ち目など無かった。 先ずはシャースーリューが倒れ、次にザリュースを庇ったロロロが倒れ、次にはゼンベルだった。

 

「く、糞ったれが…せ、せめて腹がふくれてりゃよ…でもよ! 行けや!!ザリュース!! ぐああっ」 

 

ゼンベルはわざと無防備に突撃し、魔樹の横腹を顕にさせたのだ。 そのスキを逃すザリュースでは無かった

 

「うおおおおおっ!! アイシーバーストっ!!」 

 

轟音と共に、あたりを白い霧が覆い、魔樹がドサリと地面に落ちる音がした。

 

「手応え…有り! や、やったか…?」

 

ザリュースは確かな手応えを感じ、言ってはいけないセリフをポツリと呟く。

次の瞬間だった。

ドオッ! という音と共に、ザリュースの回りの地面が大きく揺れ、そこかしこから木の根が這い出て来る。その数10以上…

 

「なっ!? なっ!!?? わ、私が倒したのは…ほんの一部だったのかっ!?」

 

そして、それも間違いだった。

地に落ちた凍りついたと思われた魔樹の一部…それが一度大きく震えると、再び鎌首をもたげ、ザリュースを…目が無いのにも関わらず見下ろした。

 

「…ハ、ハハ!」

 

その余りにも絶望的な光景に、ザリュースは思わず笑ってしまう。そうして… 

ドスっ!

というような音が響くと同時にザリュースは酷い振動を感じ、次に腹部を激痛が襲う。

 

「ゴボっ…ゴハっ…っ!?」

 

ザリュースが腹を見下ろせば、木の根が、魔樹が完全にザリュースの腹に突き刺さり、次に首を後に向ければ背中から飛び出していた。

 

「か、かハッ…ぐ、ぐるじゅ…に、逃げ…ゴボっ…あ、兄者…ゼンベル…逃げ…ぼ…ロロ、ロ"逃げゴボっ…逃げでながまに、がぞぐにづだえろ!」

 

仲間に訴えるも、彼らも既に満身創痍、若しくは完全に気を失っている。

しかし、ザリュースはまだ諦めない。 諦める訳には行かなかった。 

 

「まだ…だ! まだ終わるわけには行かぬのだ…ゴボっ…」

 

その魔樹の根を掴み、無理矢理に引っこ抜こうとするものの、抜けない…どころかザリュースの、大切な何かが吸われているような感覚が有った。

 

「え、エナジー…ドレイン…ぐぞっ…こ、こんな奴の一部になど…畜生っ! ぢぐじょう!」

 

ザリュースが、絶望しかけたその時だった。 ザリュースの失いかけているその聴覚に、"声"がきこえたのだ。

 

『死に行く自分では無く、仲間を…種族を心配するとはな…天晴な奴だ』

『がっ…なっ!? だ、だれだ!?』

『えっ!? なっ!? そ、そうだな…うーむ…よし。 私は"神"、とでもしておいてもらおう』

『か、神?』

『ああ、お前達からすれば…相当上位の存在だと自負しているよ』

『…な、ならば救ってくれっ!! いや! 救って下さい!!』

『何をだ? お前をか?』

『違う!! リザードマンを!! 我らの種族を!!』

『ほう…クックック…運の良い奴らだ…良かろう…私は元々そのつもりだったのだしな』

『な、なんだと…?』

『まあ、気にするな…良し! コキュートス…やれ』

 

「畏マリマシタ!」

 

最後に、そんな…今までの人物とは違う硬質な声での言葉と、ガチガチと何か硬い物がぶつかり合う音を聞き、ザリュースは意識を手放した。

 

 

「ナーベラルよ、お前を一人エ・ランテルに戻すのは心苦しいが…済まぬが頼むぞ」

「お任せください、必ずや…身命に賭しても任務をこなしてみせます! どんな敵が来ようとも…!」

「…いや、だからな…何者かに襲われたりしたら、戦闘は考えずにお前に付かせた監視の為のモンスターを囮に逃げの一手を打って欲しいのだ。 戦闘や、情報を持ち帰るなどは考えなくても良いんだからな?」

「は!」

 

そのナーベラルのやる気満々な返事と表情にはアインズは不安しかなかった。 

 

(本当にこいつはやる気があれば有るほど空回りする奴だな…仕方ない)

 

仕方なくアインズは諦めて、言い方を変えた。 虎の威を…虎の威を…か、狩る狐? のようで嫌だったが…

 

「…一つ良いか? ナーベラルよ」

「はい、何なりと」

「お前の命は、我が友、弐式炎雷より預かっている物…それを忘れるな」

「に、弐式…炎雷様…」

「うむ。 そんなお前の命…それはそれこそ、私にとってはこの星より重いと知れ」

 

「「ぬあっ!?」」

「うぇっ!? あ、あ、あ、あ、アインズ様!?」

 

至高の41人効果は絶大だった。 ナーベラルなど、鼻血を出しているし、ユリを始め、プレアデスの面々は驚愕に目をひん剥いている。それに、アインズは満足していると、ジト目になったクレマンティーヌがアインズとナーベラルの間に入って来た。

 

「ほっほぅ…そーゆう事かぁ…へー…怪しいとは思ってたんだよなぁ…ふーん」

「ん? 何だクレマンティーヌ」

「いやいや、ナザリックではアルベド姉さんやシャルティア姉さんで…冒険者の時はナーベちゃんっつー事なんだねぇ…」

「は?」

「クククククレマンティーヌ様!! そ、そそそそそのような事はございません!!」

「おっとと、その慌てようは…んん?」

 

そこでようやくアインズは失言に気付いた。 

 

(星よりお前の命の方が大切…聞きようによっては…というかまんまじゃないか!!)

 

たまにリストバンドに頼らずにカッコ良い事を言おうとすればこれである。

 

「クレマンティーヌよ…本当にそのような事は無いのだぞ?」

「へぇ…本当ですか?」

 

その言い方はまるで、どこかの守護者統括のようだった。

 

(こ、怖ぇ…何でこんな怒ってんの、こいつ。 …成る程、シャルティアやアルベド…それにデミウルゴスが気に入った理由が少し分かった気がする…)

 

「当然だ。 "神"に誓ってそのような事は無い」

「ぷっ!」

「え? な、何かおかしな事を言ったか?」

「いやいや、だって私から見たら神様が神様に、誓うって…アッハハハ! 仕方ないね、信じてあげる」

「あ、あの、クレマンティーヌ様…どうかアルベド様とシャルティア様には御内密にお願い致します」

「あ〜そうだね…というか怖くて言えないっての」

「ありがとうございます!」

 

その問答を聞き、アインズは恐怖した。 クレマンティーヌが言わなくとも何処かから漏れる可能性が有る。

 

(ま、まずい…あの二人が出っ張ってきたら…ナーベラルが危ない! 主に俺のせいで… ええい! まだだ! まだ終わらんよ!)

 

「そ、…そ、そもそも、星より命が重いと言うのはナーベラルに限った話ではないのだぞ? 私にとって、私の回りの者の全ての命はこの星よりも重いと言うことだ。 勿論お前もだぞ、クレマンティーヌ。 お、覚えておきなさい」

「ふわっ!?」

 

全員同じレベルに引き上げる事でこの場を回避する事に成功し、アインズは息を付いた。

 

「…ふう…ではナーベラルよ。 本当に気を付けろよ? お前には魔法的な監視だけではなく、物理的な監視も強化する。 接敵した場合はまず撤退、無理そうなら私に連絡しろ」

 

アインズは注意深く、ゆっくりとナーベラルにそう言い聞かせる。 それに対しナーベラルは鼻血をユリに手渡されたハンカチで拭いながら、コクンコクンと頷きながら聞き、聞き終えると、

 

「畏まりました。 アインズ様」

 

と、今までと違い、落ち着いた様子で返事をしてきた。

 

「よし、もう大丈夫そうだな。 では、もし冒険者組合から依頼が来た場合、内容だけ聞き…いや、私に連絡してくれ」

「畏まりました」

「では…くれぐれも気をつけてな」

「は!」

「ナーベラル、本当に気をつけてね」

「ありがとうございます。 ユリ姉様、私は頑張って来ます!」

「…バイバイ」

「お土産ぇ宜しくねぇ」

「ナーちゃん頑張るっすよー!」

 

「…フフ、姉妹愛というのは良い物だな」

 

ユリに続き、他のプレアデスの姉妹達も手を振っている。 アインズにとっても微笑ましい光景だった。

そのやり取りを見ながらクレマンティーヌはしみじみと感じる事が有った。

 

(兄さんは天然ジゴロなんだな。 口説く為とかじゃなくあんなセリフを言うなんて。 これは要注意だわ…んん?…というか、なんで私こんなに嫉妬してんだろ…?)

 

そうして、ナーベラルが出立し、残されたプレアデスとクレマンティーヌ、そしてアインズはそのままアウラ達の待つ、第六階層に向かうことにした。

 

「アインズ様、私の妹の為にとても有り難いお言葉、本当に有り難いございました」

「ふ、気にするな。 よし、では皆、アウラ達の元に向かおう」

「あれ? 今日はユリさんにナザリックを案内してもらうつもりだったんだけど…」

「そうだったのか。 急で済まないのだが今日お前の力を借りたくてな」

「私の?」

「うむ。 今日これからリザードマン達の住む湖に出かける。 そこで色々な知識を借りたくてな」

「ふーん。 了解!」

「ユリ達も済まなかったな」

「いえ、案内など何時でも出来ますから」

 

歩きながら会話し、アインズは一つ気になっていた事をプレアデスの面々に聞いてみることにした。 プレアデスには事前に、クレマンティーヌと接する時は、いつぞやの実験…アインズが誤って『完全なる狂騒』を使ってしまった時に、アインズに接したように、砕けた感じで接してやれと言ってある。 それが実行出来ているか少し心配だったのだ。

 

「そういえば、お前達がクレマンティーヌに付き、世話…と言うよりトラップ等で自爆しないように見ていてくれると言うことだが、お前たちは上手くやれているのか? まあユリは仲良くなったと聞いたのだが」

「大丈夫大丈夫! 皆良い子だし! ねー、野良い…じゃなくてルプー?」

「…はい! その通りですね! 野良ネ…じゃないクレマンティーヌさん!」

「アッハハハ」

「うふふふふ」

 

(…え? 怖っ! なんで二人共青筋立ててんだよ!!)

 

「し、シズとエントマはどうなんだ?」

「…問題無い。 頭を撫でてくれた」

「私もとっても可愛いって言ってくれましたよぉ」

「そ、そうか… ナーベラルはどうだった?」

「ん? ナーベちゃんも良い子だったよ。 少し固いけど」

「ふーむ、では皆仲良く出来そうなのか?」

「大丈夫だよねー、ワンコロ…じゃないルプー」

「ぐ…そ、そうっすよねー、猫かぶり…じゃなくてクレマンさあん…」

「ぐぬ…あぁん? それは言うんじゃねぇよ…」

「んん? 何すか? 何て言ったんすかー?」

 

「…わ、私の精神が持たん時が…これが若さか」

(…お、おかしい…ふ、二人の美女が鼻がくっつく距離で見つめ合っているのに百合の花が咲かない…寧ろ二人に青筋だけが咲いていく…というかクレマンティーヌ…もうバレて来ているぞ…)

 

女性の怖さをしみじみと感じていると、シズがアインズの方を向き、口を開く。

 

「あ、あれは大丈夫なのか?」

「…アインズ様、あれは同族嫌悪」

「へ? シズ?」

「間違い無いですぅ」

「エントマもそう思うのか…」

「アインズ様、二人共ああですが、何だかんだ二人で気が合うようなので大丈夫かと」

「本当だろうな? お前達! 殴り合ったりするのは禁止だからな? 良いな!?」

「はーい」

「畏まりました、アインズ様」

「ルプスレギナ、幾らなんでもあの言葉使いは無いわよ。 後で私の部屋に来なさい」

「げぇ…」

「ざまぁ!」

「お前も後でアルベドの部屋に行け、シャルティアでも良いぞ。 私から伝えておこう。 好きな方を選べ」

「げぇ…あ、アルベド姉さんで…」

「しかし…頼むぞ本当に…いくらなんでも…私はお前達のエゴ全部など飲み込めやしない…ぉ、ぉぅ」

 

そんな一悶着を起こしつつも、ようやく第六階層、アウラ達の待つその場所に到着した。

 

「ふむ、揃っているようだな。 …いや、遅れたのは私か…済まんなお前達」

「いえ、待ってなどおりません!」

「例え待ったとしてもその時間も楽しい物でありんす」

「シャルティアノ言ウトオリデゴザイマス」

「は、はい、そ、そうです」

「ふふ、そうか。 では、今回集まって貰った理由はシャルティアから聞いたか?」

 

アインズが聞けば、各々が頷き、代表してこの階層の守護者で有るアウラが口を開いた。

 

「えーと、散歩に行くのと、ついでに私達に一番似合わない事をしに行くって聞きました」

「何それ?」

 

クレマンティーヌが真っ先に反応し、アインズに尋ねてきた。

 

「…ふむ、リザードマンが居たろう? 奴らを救いに行こうと思ってな」

「え?」

「な、何ででありんすか?」

「ふーむ、そうだな。 しいて言えば…少しばかりの同情…といったところか」

 

流石に彼等に言い訳作りとは言い難く、少しばかり言葉を濁した。しかし、同情というのも間違ってはいないずだ。

 

「同情…ですか?」

「ああ、この世界に確かに存在しているにも関わらず、誰からも手を差し伸べられる事なく消えようとしている。 …ふっ、いつぞやの誰かのようだと思ってな」

「誰か…?」

「まあ、その話はいつかしてやろう」

「楽しみにしていんす」

「ああ。 ふ、そして、万が一にも対応出来るようにアルベド達三人を除き全員で出る。 良いな?」

「「は!」」

「プレアデス達は守護者の穴を埋められるよう、第一階層にて警備を頼む。 末の妹にも連絡を取れ。 彼女ならスレイン法国の神人がもし攻めて来てもアルベド達が駆けつけるまで耐えられるだろう。 む、そう言えば彼女のワールドアイテムはシャルティアに渡していたのだったな…仕方ない、パンドラズ・アクターに頼み、臨時で何か一つ彼女に渡しておこう」

「畏まりました」

「ゆ、ユリ姉さん、今の兄さんの説明全部理解出来たの?」

「あれれー? もしかして分からなかったんすかー?」

「あん!?」

「あん!?」

「こら! アインズ様の御前でしょうが!」

「クレマンティーヌちゃん、妾達には恥をかかせないで欲しいでありんすねぇ」

「も、申し訳ありません! ユリ姉さん!」

「ごめんなさい。 シャルティア姉さん…」

 

アインズはさっき自分で名前をだしといてこういう事を思うのもどうかと思ったが、心の中でそれをシャルティアが言うのか…とは、思うも表情には出さず…いや、出せないが…一応シャルティアに礼を言う。

 

「シャルティア、うむ、うーんと…取り敢えず…ありがとう」

「はい。 アインズ様の…いえ、クレマンティーヌの姉として、クレマンティーヌが恥をかかぬよう今後も指導していけたらと思いんす」

「そ、そうだな」

 

アインズはそう言っている間、シャルティアの後で必死に笑いを堪えているアウラを見逃さなかった。

 

「…良し、出発前に一応アルベドに報告しておく…ん?」

 

アインズが《伝言/メッセージ》の魔法を発動しようとした瞬間、それよりも先に《伝言/メッセージ》がアインズ宛に飛んで来ているのに気付いた。

 

『な、ナーベラル! ど、どうしたのだ!? まさか何者かと接敵したのか!?』

 

先程、プレアデスやクレマンティーヌと一緒に、気をつけろと、心配しながらも送り出したナーベラルからだった。アインズの慌てた声色に、アインズの周囲がざわめく。

 

『い、いえ、アインズ様、実は冒険者組合から仕事の依頼がございまして』

『…ふぅ…そうか。 驚いたぞ。 一体どんな仕事だ?』

『ええ、何やら薬草採取らしいのですが、アダマンタイト級でなければ不可能な物らしいのです』

『ふーむ、成る程な…今回のスレイン法国との一件が片付けばパンドラズ・アクターに私の代理をさせようと思っている…それまで待ってもらうか』

『畏まりました』

『一応、詳細は聞いておけ』

『は! そう仰ると思いまして、確認しておきました』

 

アインズはその言葉に感動した。ナーベラルは成長していると。 

 

『そうか…お前も成長したな…』

(もうポンコツなどとは言わせんぞ…)

『勿体なきお言葉…ありがとうございます』

『うむ、では一体どの辺りでの仕事だ?』

『は! トブの大森林です』

『え?』

『トブの大森林でございます』

『…そうか』

『では、組合長に待つように『待てナーベラル』

『は、はい?』

『ナーベラル。 仕事を引き受け、ナザリックに帰還しろ』

『え? あの…』

『盛大に見送られ、日帰り…というのは恥ずかしいかもしれんが…済まない…我々はこれからその森に入ろうと思っていたのだ…折角だし片付けてしまおう…アダマンタイト級の仕事の報酬…ではなくその薬草が見てみたい』

『…は、はい…そ、そうでございますか…畏まりました…』

 

露骨にテンションの下がったナーベラルに対し、アインズは酷く同情した。 頭の中で、ヘニョリと萎んだポニーテールのナーベラルに謝罪しつつも気を取り直し、前を向く。

 

(あれだけ盛大に見送られ出かけたのに日帰りはやはり恥ずかしいだろう…しかし、無事に帰れるのだから良いでは無いか。 それにこればかりは誰も責められない。 そうだ、お金…先立つ物は少しでも多い方が良いのは間違いないんだ。 うん、誰も悪く無い)

 

「ユリ、ナーベラルがもう少ししたら帰ってくる」

「「え?」」

「…第一階層に行ったら…労ってやってくれ」

「は、はぁ…畏まりました」

「笑ったりするなよ? ルプスレギナ」

「わ、私だけに言うのでございますか…いえ、畏まりました!」

 

そうして、ようやくアルベドにこれから出かける事を話すと、彼女はあっさりと承諾してくれた。 そのあっさりさが逆に不気味では有ったが、ヤブヘビになっては困るのでアインズは何も言わずに会話を終わりにした。

 

「良し、ではプレアデス達は第一階層に、我々はここで一応リザードマンがどんな状態か確認してみるか」

「ここでって…どうやって?」

「このマジックアイテム、遠隔視の鏡〈ミラーオブリモートビューイング〉だ」

 

そうして、守護者達と共に鏡の前に陣取り、アウラの説明に沿って視点をリザードマンの集落へと変更していく。しかし、どうもおかしい様子だった。

 

「あれー…おっかしいなー」

「この集落も留守…全て死に絶えてしまったか?」

「いえー、流石にある程度は保存用の干物とか有ったんでそんなに早くは全滅しない筈です。 それに死体もないですし…」

「ふーむ、確かに妙だな」

 

アインズとアウラが困惑している中、ふと何かに気付いたシャルティアが声を上げた。

 

「んー、おや…ここ、何か動いたみたいでありんすよ!」

 

それは、ふとアインズが俯瞰で見たくなり少し視点を上げた時だった。 シャルティアが湖の南の方角を指を差した。

 

「…これは…なんだこれは…? 一応、戦い…なのか?」

「確カニ…一方的ニ、ヤラレテハイマスガ戦イダト思ワレマス」

「片方…弱い方がリザードマンで…なんだこの植物系のモンスターは」

「うーん…見たこと無いですねぇ」

「クレマンティーヌ…お前は何か心当たりが有るか?…ん?」

「…」

 

アインズが声をかけるも、クレマンティーヌはジッと、初めて見るような真剣な表情で画面を見つめていた。

 

「クレマンティーヌ?」

「あ…うん、これ知ってるかも…」

「何?」

「破滅の…竜王、カタストロフ・ドラゴンロード…」

「ドラゴン? これが?」

「あ、ああ、真なる竜王に匹敵するからってその名前にしたみたい…」

「ほぉ…ふーむ、これが破滅の竜王…」

「ヤバイよ! 兄さん! こいつが目覚めたら世界は滅亡するって口伝で!」

「この程度でか? アウラ、どんな物だ?」

「うーん、多分あれは一部だけなんで正確には分かりませんが…あの根っこでレベル70ぐらいだから…本体は高く80以上ぐらいでしょうか…」

「その程度か…」

「へ…?」

「クレマンティーヌよ、そろそろ我らのレベルを理解しろ。 一々驚いていたら体がもたんぞ」

「…りょ、了解」

「しかし、あのリザードマン達はそこまでレベルに開きが有るのにも関わらず喧嘩を売るとは…あれはもう駄目か。 ふーむ、他のリザードマンは…」

「アインズ様、シバシコノ戦イ、観戦シテモ宜シイデショウカ」

 

アインズが鏡を操作しようとすると、コキュートスが横から声をかけてきたのでそちらを見ると、コキュートスは食い入るように鏡の中の戦いを見つめている。

 

「…別に構いはしないが…何か気になる事でも有るのか?」

「イエ、ソノ力ヤ技術ニハ見ルトコロハゴザイマセン…デスガ…アウラ、アノリザードマン達ハ何カバッドステータスヲ負ッテイルノデハナイカ?」

「流石に画面越しじゃそこまで分からないけど…多分空腹のバッドステータスかな」

「ほぉ…」

「只デサエ格上ノ相手ニ、バッドステータスヲ負ッテマデ戦イヲ挑ム、ソノ精神ガ気ニナリマス」

「ふふ、成る程…やはりお前は武人建御雷さんの精神を貰っているんだな…」

「ナ、何トイウ嬉シイオ言葉…」

「あの人も、絶対に勝てなくとも何度も挑み続ける精神を持っていた。」

「タッチ・ミー様…」

「知っていたか…。 いや、コキュートスの言うとおりだ。 確かに、あの植物はどの道リザードマンを救う上で放置は出来んしな。 ふーむ、では音声も聞いて見るとするか」

「「あ!」」

 

アインズが離れた場所の音声を拾うマジックアイテムを懐から取り出そうとしたところ、鏡の中で動きがあった。

アインズが目をやれば、一人がやられ、次に一番デカイリザードマン…ワニのような見た目のリザードマンが無謀にも突撃し、やはりやられた。 しかし、最後に残ったリザードマンは、その植物の根っこの横腹に向け、その手に持った何かの魔法の剣を叩き付けたのだ。

その瞬間だった。 白い冷気が辺りを覆い、何も見えなくなってしまった。

アインズは急ぎ音声を拾うマジックアイテムを発動させた。そして、真っ先に聞こえて来た声は…

 

『や、やったか?』

(あ…これ駄目なやつだ…いや、レベル的に当たり前だけどさ…)

 

白い霧が晴れ、ようやく辺りが見えるようになると、轟音と共に辺りから根っこのようなモンスターが10以上飛び出してきた。

 

「随分と早いフラグ回収だったな…」

「え? 何ですか?」

「いや、あ!」

 

そうして先程、リザードマンの持つ魔法の剣で攻撃を受けた根っこすら動きだし、すぐにリザードマンは腹を貫かれてしまった。

 

「…まあ、そうだろうな。 あのレベルの開きは主人公補正とか言う問題じゃない。 ん? 何か言っているな…命乞いか?」

 

しかし、聞こえて来たのは命乞いなどでは無かった。

 

『かハッ…ぐ、ぐるじゅ…に、逃げ…ゴボっ…あ、兄者…ゼンベル…逃げ…ぼ…ロロ、ロ"逃げゴボっ…逃げでながまに、がぞぐにづだえろ』 

「…ほぉ…命乞いではなく、仲間心配するとはな…」

「アインズ様、オ願イシタイ儀ガアリマス!」

「こ、コキュートス!?」

「良い! コキュートス、皆まで言うな。 奴を…奴らを救いたいというのだろう?」

「ハ!」

「武人として何か感じる物が有ったのか?」

「ハイ。 今ノ奴ハ絶体絶命…シカシ、ソノ目ハ未ダギラツイテオリマス…奴ハマダ諦メテオリマセヌ…ソノ精神…正ニ武士道ニ通ズルカト…」

「フフフ、だから奴を失うのは惜しいと…?」

「ハイ…ドウカ…」

「良かろう、頭を上げろ。 行くぞ」

「ハ!」

 

『死に行く自分ではなく、仲間を…種族を心配するとはな…天晴な奴だ』

 

アインズは、コキュートスが自分に意見してくれた事、そして今まではあくまでも世間に対しての言い訳作りにしか思っていなかったが、リザードマン達なら助けても良いと本気で思い、それらに満足し、〈伝言/メッセージ〉を発動し、鏡の向こうのリザードマンに繋いだ。 

それに応える余裕など無いと決めつけて発動したので返事をされた時には思いっ切り動揺してしまったが…

シャルティアの開いてくれたゲートを潜り、コキュートスに命じる。

 

「コキュートス…やれ」

「畏まりました」

 

そのコキュートスの背中を見送りながらアインズは呟いた。

 

「フ、我々には似合わない事…クク、その通りだな。 だが…こいつらは誰からも手を差し伸べられる事が無かった…ならば誰が差し伸べる?…亜人種とは言え、この異形の者達に…そんなの決まってるじゃないか…」

 

アインズはそこまで呟くと天を見上げる。

 

「…この世界の全てが勘違いしているのだろう? 我々が邪悪なだけの異形の集まりだと。 ならば…見せてやろうじゃないか。 我々アインズ・ウール・ゴウンの、結成当初からの本来の目的というものを!」




_

アインズ様厨二乙…とか言わないで上げて下さい…

植物系モンスターこと、クルシュちゃんが初登場ですね! いや、あんまり思い入れとか無いですけどね…
クルシュちゃんと言えば、例のザリュースとの✕✕✕シーンはアニメ二期ではどうするんでしょうか? 見たくは無いけど…多分皆見たくは無いけど…オーバーロードならやりかねん…。そんなサービス要らねぇ…。

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