赤い骸骨 シャア専用モモンガ   作:なかじめ

28 / 32
「来たのかっ!?」 (「セーフティ解除!」)

「遅えんだよっ!!」 (「イクゾォ!」)

「待ちかねたぞっ!! アニメ第二期ぃっ!!」

「…この瞬間を待っていたんだーーーっ!!!」

「まだ終わる訳には…」ボカァン
(エクバのトラウマ並の感想)


Blu-rayを全巻買ってお布施をしたかいが…、それでも!!と言い続けたかいが有りました!!


AOG-27S

「せ、せかい…せいふく…?」

 

クレマンティーヌがそうポツリと呟くのが、静まり返った玉座の間に響渡る。

アインズはクレマンティーヌに感謝した。彼女がそう聞かなければ自分から聞かなければならなかったからだ。なにせ、今この玉座の間に居る、アインズとクレマンティーヌを除く全員が、シモベの一人ひとりに至るまで全員が

 

そりゃそうだ。

 

という顔でデミウルゴスの話に耳を傾けていたからである。この場で質問するのはかなりの勇気が要りそうだった。

 

「おや? アインズ様、クレマンティーヌさんにはまだお話はしていないのですか?」

 

デミウルゴスは、アインズに向かってそう問いかけてくるが、当のアインズからすれば…

 

(な、何をっ!? 何を話せっていうの!?…も、もしかして、せ、世界征服するということをか!? 俺だって今初めて聞いたんだぞ!! それなのに話なんて出来る訳ないでしょこのバカぁっ!!)

 

という心境だった。

とはいえ、流石に取り乱す訳にはいかない。それにここで、

 

「世界征服? 何言ってんの?」

 

などと言えば、

 

「え? あんたが何を言ってんの?」

 

と言われかねない雰囲気だ。なので…

 

「う、うむ。 せ、説明してやりなさい」

 

アインズには、その魔法の言葉を、切り札たる言葉をデミウルゴスに言うしかなかった。

 

「はい。畏まりました」

 

デミウルゴスはそれだけ言い、クレマンティーヌに向き直ると再び口を開いた。

 

「ではクレマンティーヌさん、簡潔に説明いたしますね?」

「え?…あ! はーい!」

「これは我々がこの未知の世界に転移してきて間もない頃の話なのですが、アインズ様のご命令により、厳戒態勢を取っていた為に私とその部下が臨時で守護する第一階層に、アインズ様が突然現れたのです、供も連れず、全身鎧を纏い、名前も伏せ『ダークウォリアー』様と名乗られて」

「ダークウォリアー?」

「ぶっ!!」

 

アインズは、自分自身ですら忘れていた恥ずかしい過去を、突然に暴露され、思わず吹き出してしまった。

 

「どうされました?アインズ様?」

「い、いや…懐かしい物だと思ってな…」

「そうでございますね…とても懐かしゅうございます」

 

一応、デミウルゴスはこれで誤魔化せたようだが、クレマンティーヌは何やら可愛らしく小首を傾げると、アインズに向き直り

 

「兄さん、ダークウォリアーって?」

 

と、古傷を抉るような質問を投げかけてきた。

 

「く、クレマンティーヌよ! そ、それは話の本質とは関係の無い…事だよな!?デミウルゴス!!」

「ええ、そうでした。 この美談はマーレに関する事だったのですが…そうですね。 後でお話しましょう」

「へー! マーレちゃんの? 聞きたい聞きたい」

「え、えへへ」

 

クレマンティーヌが、マーレの方を向いてニコニコと言い、マーレも照れながらはにかんでいる。とても微笑ましい光景だが、アインズには微笑んでいる余裕は無かった。

 

(やめてええええ!! 俺の恥ずかしい過去をほじくり返してバラさないでえええっ!! こ、こんな時限爆弾が有ったなんて…というか他にも絶対いっぱい有るぞ…うわあああっ!! あっ…)

 

パニックになりかけていたアインズだったが、ようやく精神の安定化が引き起こされ、窮地を脱する。しかし、冷静になった事で疑問が沸き起こった。

 

(し、しかし…この時に世界征服の話なんてしたか? 全く思い出せんぞ…でも何か…何か嫌な…嫌な予感が…)

 

人類の革新的な第六感で、これから暴露される恥ずかしい過去を、アインズは確かに感じていた。

 

「ふふ、では続きを」

「はーい」

 

デミウルゴスの言葉に、右手を上げて返事をするクレマンティーヌはようやく緊張から開放されたようだった。

 

「私は、アインズ様に…いえダークウォリアー様に「デミウルゴス!!」

「は、はい!!何でしょう、アインズ様!!」

「ダークウォリアーは死んだのだ…私の体が赤く染まり、この角が生えた時にな…だからその名はもう…よせ」

「申し訳ありませんでした!」

「良い、お前の全てを許そう」

(許して上げるから…頼むからそのダークウォリアーはやめてくれ…)

 

デミウルゴスは謝罪の為に下げていた頭を上げると、再びアインズに優雅な一礼をしながら感謝の言葉を述べた。

 

「寛大なお言葉…誠に有難う御座います」

「う、うむ!」

(ご、ごめん…もとはと言えば全部俺のせいなのに…)

 

「では気を取り直して…アインズ様に、供を付けるようお願いし、私が供として地上に出ると、アインズ様が突然、満開の星空に舞い上がったのです。私も直ぐにアインズ様を追い、空に飛びました。そしてようやく追いついた時にアインズ様が仰ったのです」

「ゴクリ…」

「ゴクリ…」

 

アインズとクレマンティーヌは、義兄妹揃ってツバを飲む。片方は期待から、片方は恐怖と緊張のごちゃまぜになった良く分からない感情からという違いは有ったが…

 

「満開の星空を、宝石になぞらえて、宝石箱のようだと、そしてその宝石箱はこのナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンを飾る為に有るのかもしれないと仰ったのです!」

 

「「おおお…!!」」

「宝石箱…兄さんロマンチストなんだね…」

「……」

 

「そして私は、いえ! 私達はそこで気付いたのです。 この宝石箱をアインズ様にお渡しする事こそが、我々のこれからの使命だと! クレマンティーヌさん、貴方の力も我々には必要です。これからはご協力頂けますか?」

「もっちろん! 私に出来る事なら!!」

 

「「おおおおおっ!! 流石はアインズ様の妹君!!」」

 

そんな、アインズを除いた玉座の間は大盛り上がりだったが、その部屋の名前にも有る玉座の周辺だけは、別の意味で大盛り上がりだった。

 

(言ったねぇ…確かにそんな事を言ったねぇ…あんまりにも綺麗な星空だったからついポロッとね…そしてデミウルゴス、それを世界征服に拡大解釈したということか…)

 

そこまで考え、アインズは玉座の間をぐるりと見回す。全員、知っていたんだろう。驚いた表情の者は居ない。ということは…

 

(うんうん、ということはあれかな?…デミウルゴス君、君はあれかな? その俺の、ポエム…よりおぞましい何かを…全員に言いふらしちゃったって事で良いのかな…? あっはっは…いやーまいったまいった…まいったなー……ぐぅううううぅうううっ!!!)

 

アインズの心境としては、今すぐ自室に飛び込み、部屋に鍵を掛け、ベッドにダイブしたい…それだけだった。

そんな事を考えている内、賢者タイム…ではなく精神の安定化が起こった事で再び冷静になると、アインズは次に考えるべき事、世界征服という事について、考えてみることにした。

 

(…しかし、世界征服か。 ユグドラシル時代も、そんな事を考えていたメンバーが居たっけなぁ。 しかし…どうなんだろう? 世界征服か…メリットとしては、この世界のあらゆる情報や物資、なんでも思いのままって事か…法律や秩序でさえも…デメリットは…大変って事ぐらいか? でも…悪くないかもな…フフ)

 

「…アインズ様?」

「ああ、すまんなデミウルゴス。少し考えていてな…それにしても…デミウルゴスよ、私の言葉、良くぞ覚えてくれていたな。 嬉しく思うぞ」

「ありがとうございます!…いい機会ですので、アインズ様、一つお聞きしたい事が有るのですが…」

「む、な、何だ?」

 

変な事を聞かれませんように! と神に、自分自身がそう呼ばれているにもかかわらず神に頼みながらアインズはデミウルゴスに問うた。

 

「世界征服が成ったら、どのような世界にしたいのか…今はまだ早いとは存じているのですが、既にスレイン法国も時間の問題。 少しでも良いのでお聞かせ願えたら…と」

「ほう…。 どのような世界にか…」

 

アインズは今の返事に、変にどもらず、声が震えなかった事に満点を上げたくなった。

 

(分かるかーっ! そんか事考えて…いや、いつかそんな事を思った気が…ああ、冒険者としての初めての仕事の時…人間も異業種も全ての種族が…だったか…しかしどうやってこいつらに説明を…いや、一つしかないな。 俺はアインズ・ウール・ゴウン、悪のギルドのギルドマスターだ。 魔王ロールしかないじゃないか!)

 

アインズは覚悟を決めると、玉座から立ち上がり、後光を背負い(流石にクレマンティーヌが居るので絶望のオーラはやめておいた)手を振りかざしながら口を開いた。

 

「うむ、確かにいい機会だ …では、私の今後、世界をどのようにしたいかという、プラン…という程では無いな。 希望と言ってもいいか。 更に言えばまだ国の一つも支配すらしていない。 なのでこの先幾らでも変わる可能性はある物だがな。 だが方向性は示しておくべきだろう」

(まだまだこれからって時だし、トラタヌになる可能性も有るしな…トラタヌ…取らぬタヌキの皮三昧…だったか? 昔の人はタヌキの皮を食べたんだろうか…? 美味いのか…?)

 

そんな、全く関係ない事を一瞬考えていたアインズだったが、デミウルゴスの返事によって思考の海から浮上した。

 

「はい。 その通りかと存じます」

「うむ。 そうだな。では聞いてくれ、皆のもの」

 

「「はっ!」」

 

「しかし…その前に、お前達に言っておきたい事が有る」

 

アインズがそう言うと、目の前にいた者たちが全員怪訝そうな、心配したような表情でアインズの言葉に耳を傾けた。

 

「私はな、この世界に来てから、シャルティアの件とは別に、それよりもずっと前から…非常に不愉快な事が有る」

 

そのアインズの言葉に、守護者達は揃って先ずは憤怒の表情に、そしてすぐに何故か泣きそうな表情になった。

 

「…ん?どうした?」

「ま、まさか…こ、この世界に来て、我々と沢山お話して下さるようになりましたね…そ、それが不愉快なので御座いますか…?」

 

アインズはまさにズコーだ。全く予想外の所からパンチが飛んできた気分だった。

 

「アルベド! 馬鹿を言うな!!」

「も、申し訳御座いません!!」

「何度も言わせるな。 お前達は素晴らしい…最初に言ったではないか。そうでは無いのだ」

「で、では…何が?」

「…ゴホン、私が不愉快な事…それはな…」

 

アインズはそこで一旦言葉を切る。守護者やシモベ達がゴクリとツバを飲む音が聞こえる。 そうして周りをぐるりと見回してから口を開く。 

 

「この世界の、我々より遥かに弱い者が、それよりも更に弱い者をいたぶり、従属させ、殺し、そして…それに喜び、悦に入っていることだ…我々に何の断りも無くな!」

 

「…おお…!」

 

「確かに生殺与奪は強者の権利…だが…非常に…」

 

そこまで言い、アインズは玉座の間に集った面々を再びぐるっと見回した後に、最後の言葉を告げた。

 

「不愉快だ!!」

 

そのアインズの言葉に、玉座の間に怒りのエネルギーが満ちていく。

アインズがぐるりと見回した視界の端で、何故かクレマンティーヌは顔を青くしていた…どうしたんだろうか?

 

「…クレマンティーヌ? どうした?」

 

クレマンティーヌは声を掛けられた事に余程驚いたのか、ビクッと大きく震えてからアインズの方に向き直った。

 

「い、いやいや!! なん…何でも無いよー!! あっはっは…」

 「ふむ?…体調が悪いのなら申し出ろよ? 無理はしなくても良いんだぞ?」

「は、はーい!」

 

そう言っているクレマンティーヌの視界の端で、デミウルゴスが、ニヤニヤ笑っているのが見えた。

 

(で、デミちゃん気づいてるな…あぶねー…こりゃー私も兄さんと出会ってなかったら即死パターンだったわ…私ってもしかして運がめちゃくちゃ良いんじゃ…?)

 

その通りです。

クレマンティーヌの返事を聞き、どうやら大丈夫そうな事を確認すると、アインズはゴホンと咳払いをしてから再び口を開いた。

 

「…最初はあのカルネ村だったな。 騎士達が無抵抗な農民を殺していた。 そして冒険者になってからもそんな奴等は居た。 戦う力を持たない少年を攫う変態集団などな…それにシャルティアが殺した野党達もそうだ。 今後、私がこの世を支配した時は、その権利は全て我々と、我々に恭順した者がもらう。 極端な話、戦う力など我々とそれに親しい者だけが持てばいい。 それを受け入れない者は…排除させてもらう!」

 

それを聞き、アルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクターの頭脳派三人の守護者達は雷に打たれたような、顔でアインズを見、そして代表でアルベドが口を開いた。

 

「あ、アインズ様は…この世界から争い事を無くすと…?」

「まあそれは極端な話だがな。 そしてそれを受け入れない場合、異形種だろうと排除する」

「異形種もですか?」

「そうだ。 シャルティアが異形種だからと言う理由で洗脳…その前に攻撃を仕掛けられたのは何故だ?」

「人間が愚かだから…でしょうか?」

「それも有る。 だがその前に、大昔に馬鹿な吸血鬼が居たからとは言えないか? 人間を、生きている者を考え無しに殺し、無駄な敵対心を抱かせるような愚かな行いをした馬鹿な吸血鬼が居たから、だからシャルティアも…そうは言えんか? それがアンデッドの本質かもしれないが、このナザリックにも生ある者、そしてアンデッドは共存している。 ならば我々が支配した世界では無理矢理にでも共存してもらうつもりだ」

「なる程…」

「ふむ、分かり易い例えで言えば…アルベド、私は会話をすれば人間とは言え、多少の愛着は湧くとお前に言ったな」

「はい。 仰っていました」

「仮に私が愛着を持った人間を、無関係で馬鹿な異形種が殺したとしたら、私はそいつを許すと思うか?」

「いえ。 その前に我々がその異形種を八つ裂きにしましょう」

「フ、そうか…ククク! そうだな!」

 

他の守護者を見れば、皆が頷いている。

 

「フフフ…そして、今後我々が治めるかもしれない国、その国民には人間もいるだろう。 異形種も居るだろう。 だが、我々ナザリックの下にいる限り、全ては平等だ。 そしてその上に我々アインズ・ウール・ゴウンが立つ」

「でも、馬鹿な人間や、馬鹿な異形種は嫌がるんじゃないですか?」

 

アウラがとてもシンプルで分かり易い質問を投げかけてきた。

 

「フ、ならば我々が、愚民共全てに叡智を授けてみせよう。 我々に恭順することこそが、自分達が生き延びる唯一の選択肢だとな。 それは我々ならば出来る…いや、我々にしか出来ない事だ!」

 

「「おおお…」」

 

「我々が法となり、秩序になる。 これはつまりアインズ・ウール・ゴウン、その成り立ちの理由である、異形種の救済の拡大解釈とも言える。 そこに、我々の為に働く人間も含めるだけだ。 そして私の支配下に居る人間も私の所有物…私の所有物に許可なく手を出す者は許さん!」

(これなら…かつてのギルドメンバー達、その中でも極端な二人、たっちさん、そしてその正反対で有るウルベルトさん、二人も納得してくれる筈…あくまで俺達の支配で、その中で無駄に殺さない…正義とも言えるし悪とも言える…これで文句が有るなら…フフ、是非とも出て来て言ってくれ!)

 

そんな事を考えていると、デミウルゴスが何やら頷いているのが目に入った。

 

「どうした? デミウルゴス」

「いえ、これならば他のプレイヤーという者が存在したとして、おおっぴらな反論はできまい…と思いまして」

「どう言うことでありんす?」

「アインズ様が多種間や、人間どうしの戦争や、争い事を無くす為にこの世界を支配する…それを大義名分として世界を征服する、それに反論した場合、そいつはどういう奴らだと思われるかな?」

「え? うーん…戦争をしたい奴ら?戦いが好きな奴らでありんすか?」

「その通り、そんな奴らは流石に愚かな人間共でも危ない連中だと思うだろう?…それはつまり、アインズ様の世界征服に、大っぴらに反論出来なくなるということさ」

「おお…! 流石はアインズ様でありんす!」

 

デミウルゴスの言葉に、シャルティア以外もアインズに向けて尊敬の眼差しで見てきているが、流石にそこまではアインズも考えていなかったので若干の気まずさしか無かった。

 

「ま、まあ、そういう事だ」

「アインズ様、ヨロシイデショウカ?」

「む? どうしたコキュートス」

 

コキュートスがこういう場で何かを発言するのは珍しいな、そう思いながら返事を待っていると、コキュートスは少し悩んだ後に口を開いた。

 

「戦イヲ無クス…シカシ、私ハ、私ハ戦イタイトオモッテシマイマス…ワタシハドウスレバヨロシイノデショウカ…」

「フッ、そんな事か…心配するな。 我々以外は戦う力を持たなくて良いと言ったのだ。 今後、お前が力を振るう機会など幾らでも有るさ。 それに余り口外して欲しくはないが、私も戦い自体は好きだぞ。 殺し合いだけが戦いではない。 試合や力比べなどは寧ろ推奨しようと思っているぐらいだ」

「オオ…! 無駄ナ質問ヲシテシマイ、申シ訳ゴザイマセン!」

「良いとも。 それに余り気は進まんが、お前達には今後戦って貰うことが多くなるかもしれんしな…その時は頼むぞ? コキュートス」

「御意! ソノ時ヲ心待チニシテオリマス」

 

「しかし…我々が国を持つ…か…ぐ…そろそろ我々も一個の軍として認めて貰わねばな…我々は未だ、奴らが定義する所のテロリストでしかない…だな…だからこそ、今回の作戦…頼むぞ、アルベド、デミウルゴス」

「お任せ下さい!」

「うむ、ではアルベドよ。 早速、解散しだいクレマンティーヌから情報を聞き、作戦を立案してくれ」

「畏まりました」

 

そこで、またも意外な人物が挙手しアインズに意見してきた。

 

「ア、アインズ様、宜しいでしょうか?」

「ユリ・アルファ? どうしたのだ」

「はい、クレマンティーヌ様は本日、色々有ってお疲れかと存じます。そろそろお休みになられた方が宜しいかと」

「はーい…ちょっと疲れてまーす…ユリさんありがとー」

 

ピラピラとユリに向けて手を振っているクレマンティーヌを尻目に、アインズはそのユリの言葉に落雷に遭ったような気分だった。自分であれだけ皆に休みをきちんと取るように言っていると言うのに…

 

「ゆ、ユリ!アインズ様がお決めに」

「待て、アルベド!」

「は!」

「全く…私が普段からいつも休むように言っていると言うのに…ユリよ、素晴らしい意見だった! 礼を言おう!」

「勿体無きお言葉」

「今のユリの意見、お前達も聞いたな! 私も完璧では無い! お前達も今のユリのように何か気付いた事が有れば申し出るように!」

 

「「は!」」

「アインズ様、では先程のユリの発言に加えて一つ宜しいですか?」

「ん? アルベド、どうした?」

「はい。 考えて居たのですが、やはり今のユリの意見で確信しました。 やはりクレマンティーヌの付き人にはプレアデスが付くべきかと」

「ほう。 言われてみればそうだな、確かに背格好も精神的な年齢も似通って居るし、この中では多少開きは有るがレベルも近いか…プレアデスよ、頼んでも良いか?」

「頼みなど不要でございます! 喜んでお受けします!」

「うむ、クレマンティーヌ」

「はーい」

「言うのを忘れて居たが、このナザリック内部は…お前ぐらいのレベルでは即死級のトラップがワンサカ有る。普段は切ってある物も多いが中には稼働している物も有る。 プレアデスの言う事は聞くように」

「げ…了解です」

 

「アインズ様」

 

今度はデミウルゴスだ。 まだ何か有るんだろうか…戦々恐々としながらもそちらに顔を向けて返事を促す。

 

「クレマンティーヌさんから情報を聞くのは、正直アルベドとパンドラズ・アクターをお借り出来れば、食事を取りながら、精々一時間も有れば終わるのですが、やはり明日にした方が宜しいでしょうか?」

「一時間なら頑張れそー!」

「ほう、ならば頼むか…」

 

しかしその時アインズに電流走る。今のデミウルゴスの言葉でアインズは重大な事実に気付いてしまった。

 

(こいつらに作戦任せたら…即効作り終わっちゃうんじゃないか!? マズイ!! 色々と心の準備をしたい!! というかクレマンティーヌだけじゃなくて俺も色々と有って疲れた!! 休みたい!! …これで明日出撃しましょうとか言われたら…)

 

 

先程は羞恥心から、今は精神的な疲労から、アインズはベットにダイブし、兎に角ゴロゴロしたい気分だった。

ゴクリ…とツバを飲み、アインズは何度目か分からない覚悟を決め、アルベドに向かって口を開く。

 

「アルベド、3日だ」

「は、はい?」

「デミウルゴスとパンドラズ・アクターを自由に使って良い。3日かけ、あらゆる事象、全ての情報、そして起こるかもしれない事、3者の全ての頭脳をフルに使って完璧な作戦を立案せよ」

「3日も要らないかと…いえ、畏まりました! お任せ下さい!」

「うむ!」

(あっぶねー!! 今3日要らないって言ったよな!? 国を乗っ取るんだよ!? ただのPVPとかじゃないのに…こいつら…やっぱすげぇ…!)

 

「では、解散!!」

 

 

 

アインズが去った玉座の間では、シモベ達をそれぞれの守護階層に戻した守護者と、プレアデス。そしてアインズが転移して帰ってしまった為に残されたクレマンティーヌ達が一箇所に集まり、口々にアインズを讃えている所だった。その中で、ユリ・アルファがアルベドに近づき頭を下げていた。

 

「アルベド様、食事を取りながらで済むところ、クレマンティーヌ様に休息をなどと余計な口を挟み、申し訳ありませんでした」

「ふふ、良いのよ」

「いえ、そういう訳には…」

 

そこに、デミウルゴスが近づきユリに向かって微笑みながら声を掛けた。

 

「アルベドが良いと言ったのはそう言う意味ではありませんよ。 ユリ」

「え?」

「くふふ、アインズ様は恐らく、貴方がああやって言って来るのを予測していたのよ」

「アインズ様が?」

「ええ、貴方がああ言ったとき、アインズ様はとても喜ばれているようでした」

「しかもその前に、私が進言出来なかった…そう言ったばかりだったしね」

「言われて見れば…確かにその通りですね」

「ってことは兄さんは…そこまで考えて話をしていたの!?」

「ふふ、クレマンティーヌちゃんはちょっとびっくりするかもしれんせんけど、アインズ様はいつもああやって二手三手先を行っているんでありんすよ…しかし…」

「ユリがああやって言うのを分かってたって事は、ユリの性格やクレマンティーヌとの関係が良くなってるって事とかも予測してたってことだよね…凄すぎる!」

「ああ、そうだね。 シャルティアとの一戦で戦者がとしての才覚は我々の予測の遥かに上だと言うことを証明してみせたばかりだというのに…」

「それにンアインズ様は!! 今回の作戦を立案する為に、クレマンティーヌ様と遥かに前から接触を行い…更にシャルティア様の犠牲を無駄にしない為に最適なタイミングで自らの妹とした…やはり凄まじいですな…」

「…もしかして…あの時、初めて出会った時に私が法国から逃げ出して…悩んでるのにも気づいてたのかな?」

「でしょうね…貴女にとっても、我々にとっても素晴らしい選択。…でしょう? ククク」

「ぐっ…だね…あとあれ内緒ね?」

「まこと…凄過ぎんす…」

「人の心の機微も読み…更には気遣い…虜にしてしまう程のカリスマ…流石はン〜アインズ様っ!!」

「くふふ! さっ! 当たり前の事を言うのはやめて! 皆で食事に行きましょうっ!!」

 

そうして、玉座の間ではいつも通りアインズに対しての忠誠心を、トランザム・バーストさせていた。

 

 

翌朝、アインズはアンデッドの為に眠れない。その為、結局ベットでゴロゴロしていたのだが、一晩中、考え事をしていた。

その中で一つ、決心出来た事が有った。それは…

 

(今回の事…スレイン法国を侵略…仮に作戦が上手くいかず、その時の相手の出方次第では…)

 

「皆殺しだ…覚悟は決めた。 不確定要素が大き過ぎる。 アルベド達を信頼していないのではなく、やはり最悪の事態も想定しておくべき…一晩悩んで決めたのはそれだけか…フ」

 

アインズは薄く笑い、そのスレイン法国の名前を地図から消す…という事についての考えにスイッチした。

 

(うーん、どうなんだろう…デミウルゴス達の言うとおり誰も死ぬこと無く、国を支配して地図から名前を消したとして…他の居るかもしれない強者達はなんて思うんだろう…)

 

「やはり、国を消す…ネガティブな感想を持たれても仕方無いのか…しかも、俺達アインズ・ウール・ゴウンだしなぁ…ここに来て悪のギルドというのがボティブローのように効いてくるとは…」

 

アインズだったら、そう思ってしまうかもしれない。そう考え、ならばどうする?…と次を考える。

 

「ふーむ、なら…口だけでは無く、本当に良いことをやっていますよ…と言うことをアピールしたりか…? ボランティアや慈善事業…? ク、ククク…俺達がか?」

 

自分達の、そう言った事に対する余りの似合わなさに思わず笑ってしまう。

 

「そもそも時間は3日しかない…今日動いたとして、3日で出来る慈善事業などたかが知れて…ん? 慈善事業…? その単語…何だか思い当たりが…何時だったか?」

 

アインズは記憶を掘り返しながら、視線を泳がせていたが、やがてその視線はベッドの脇のサイドボード、その上に置かれている分厚い資料の束へと辿り着いた。

 

「そうか…確かクレマンティーヌを連れて来る前…アウラからのリザードマン達の報告の時だ」

 

余りに多くのことが有り、随分昔の様に感じるな、とアインズはその羊皮紙の束に手を伸ばすが…その手がふと止まる。

 

(おかしい…本当に随分昔の様に感じるぞ…具体的には3ヶ月前ぐらいに…どうなっている! 時系列的にはつい…というか今日だというのに…時間が止まった? いや…時間対策は基本。 俺の対策は完璧な筈だ! 気のせいだな、気のせい)

 

アインズはその違和感を振り払い、その分厚い束を手に取る。

そして時間が止まっていたのは私のせいです。申し訳ありません、アインズ様…

アインズは資料の束をピラピラとめくり、お目当てのリザードマンのページを開くと、今更だが目を通してみる。

 

「…ふむ、悪くないかもな。 口だけでは無く、本当に滅びかけているリザードマンを救いましたよ…か。 まあ、そこまで劇的な効果は無いかもしれんが後々役に立つかもしれんしな…なになに?…飢餓に苦しんでいる、か…ならば餌をくれやればいいだけだし…3日も要らないぐらいだ…食料支援…十分ボランティアだな」

 

アインズは次に誰を連れて行くかを考える。 しかしそれも直ぐに思い付き、確認するかのように口に出した。

 

「ふむ、今仕事中のアルベド達三人以外、守護者は全員にしよう。

気分転換になるだろうし散歩ついでに連れて行こう…なら、現地の人間で有るクレマンティーヌもだな。 リザードマン達の習性も知っているかもしれんし」

 

そこまで確認すると、アインズはベッドから立ち上がり、寝室にいたアインズ当番のメイドで有るシクススの方に向き直った。

 

「おはようございます! アインズ様」

「うむ、おはよう」

「今日も見事な角の角度、反り具合、そして見事な赤色の体でございます!」

「そ、そうか…? あ、ありがとう」

 

これは毎朝違うメイドで有るにも関わらず、言葉の細かい部分こそ違えど、似たような事を言われる決まり文句なのだが、未だに慣れないでいる。そんなにこの赤い体と角が重要なのだろうか…? 一度聞いて見たことがあるのだが、彼女たち曰く、カリスマと強さの象徴…らしい。 女の子に角度とか反り具合とか言われるのは恥ずかしさしか無かったのでやめろと言ったのだが、やめてくれないので、もう放置した。

 

「では、本日のお召し物はどうなさいますか?」

「うむ…お前に任せよう」

「畏まりました! 全身全霊をもって、任務を遂行させて頂きますっ!!」

 

相変わらずだが、選んでくれというと、毎回こんなだ。 そんなに嬉しいのだろうか…? だが、今日は守護者を4人も護衛に連れて行く。それに加えて初接触となるリザードマン達の所に行く。なので…

 

「ただし、今日は外に行くつもりだ。 そして、余り威圧的では無い物で、戦闘能力はそこまで考えなくても良い…それを踏まえて選んでくれ」

「畏まりました!」

 

シクススはそこで、丁寧に一度頭を下げるとアインズより先に、寝室のドアに向かい、両開きのドアを、アインズのドレスルームに続いているそれを静かに開いた。

そうしてドレスルームに入り、着替えさせて貰っている時間を利用して、一番上に居るものから連絡する事にした。

 

『シャルティア、おはよう』

『あ、アインズ様っ!! お、おはようございます!!』

『む、もしかして忙しかったか?』

『いえっ!! 朝早くからアインズ様のお声を聞けて舞い上がってしまいましたっ!!』

『…水臭いな。 今更…って、ぅおい!?』

『ふぇっ!?』

「ぃえっ!?」

 

アインズの不用意な一言に、〈伝言/メッセージ〉の向こうのシャルティアだけでなく、服を選んでいたシクススまで首をぐいっと捻ってまでアインズの方に向け、驚愕の声を上げた。

 

『す、すまんすまん! 冗談だ!』

『そそそそうで!! そうでしたか!! びびびびっくりしました!!』

 

この冗談だ、というのが通用するだけで、アインズは安心出来る。 昨夜の会議でもそうだが、約三名程、冗談だ、と言う前に、既にアインズの考えとは全く違う所にボールは飛んで行ってしまっているものが居るからだ。

 

『す、すまんすまん…とにかく少し落ち着け…ありんすはどうした? あれが無いとお前らしく無いぞ?』

『は、はい…ふぅ…それでどうなされたのでありんすか?』

『うむ、今日は皆で…あの頭脳労働している者以外の守護者を連れ、散歩に行こうと思ってな』

『さ、散歩…でありんすか?』

『ああ、私はこれから、エ・ランテルに戻らなくてはならないナーベラルを見送り、その後だから…そうだな、10時に第六階層に、コキュートスも連れて集合していてくれ』

『了解したでありんす…あ、あのアインズ様? 本当に散歩に行くのでありんすか?』

『ふふふ。 まあそのついでにやる事も有るのだがな』

『ついで? そ、それは何でありんすか?』

 

『ふふふ、我らに最も似合わない事だ』

 




と言う訳でスレイン法国行く前に、リザードマンを助けに行きます。  

二期のアニメもリザードマン編からですね。しかし、リザードマン編のアニメどうするんでしょうか? アインズ様の出番が…5巻もあんま無かった…
そして王国編まで行くだろうから、蒼の薔薇にラナー王女…一期の声優チョイス完璧だったから期待してます!
まあまだまだ先の話なんでしょうけど。

俺も早く王国編まで行かなきゃ…次の次の次の次…? これもうry


二期決定したんだし、どっかのゲームメーカーがトチ狂…やる気を出してコンシューマーでゲーム化とかしないかしら…?
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。