待ちに待った時が来たのだっ!!
多くの英霊達が無駄にエタったのでは無いことの証の為にっ!
再び完結という理想を掲げる為、赤い骸骨成就の為に…
ハーメルンよっ!! 私は帰って来たっ!!!
……フ、待たせたn…おっと…危ない危ない…それは違う人だった…あれ?
…はい。茶番終わりです。
申し訳有りませんでした!長々とお待たせ致しました!! 今後もお付き合い頂けるととても嬉しいです!
宜しくお願い致します!
そして復帰して一話目が…情けない奴っ!!なシャアっぽいアインズ様に…。
まあどんなに情けない奴でもデミウルゴス達が居ればポジティブアインズ様万歳シンキングでなんとでもなるっていう…
ナザリック 玉座の間
「さて、皆の者!! このナザリックに住まう者よ! 緊急の招集にも関わらず!! 私事で呼び出したのにも関わらず!! 良くぞ集まってくれた!! 感謝するぞっ!!」
玉座の間に集められた、守護者達、そしてその守護者が選びぬいた精鋭のシモベ達、そしてソリュシャンを除くプレアデス。彼等に向けて、アインズは開口一番感謝を述べた。
「感謝など不要にございます! 我ら、アインズ様がお呼びとあらば、星の反対側からでも即座に集まってみせましょう!!」
頭を下げたままの姿勢で、顔だけを此方に向けて守護者統括らしい態度でアルベドも返す。
「うむ。 お前達の忠誠、ありがたく受けとっておこう。 良し、では皆のもの、
アインズがそう言うと、一斉にザッと、いつ練習してるんだ?…と言いたくなるような見事なシンクロで全員綺麗に頭を上げた。
「今回集まって貰ったのは他でもない。私の…私の妹を紹介する為だ」
一度言い直したのは、やはり自分の妹というその単語に若干ながらの犯罪の臭い…ではなく戸惑いを感じるからだろう。
アインズのその言葉に未だクレマンティーヌを目にした事の無いシモベやプレアデス達から 『おおっ!』 と決して小さくないどよめきが起こる。
「それと…余り嬉しく無い話も有るが…」
そのアインズの言葉に、目の前の面々達は少しだけ不安そうな顔をしたが、直ぐに何時もの毅然とした顔に戻っていく。それを見てアインズは、それを発表する事に対して少しだけ気が楽になった。彼等なら大丈夫だと。
「…まあいい、それは後にしよう。では早速我が妹を紹介しよう…クレマンティーヌ、我が横に!」
「…え? あっ! は、はい!」
クレマンティーヌはぎこちない動きで、具体的には右足と右腕が同時に出るような歩き方で…まるで壊れたおもちゃのようなぎこちなさでアインズの横に歩いてくる。
(…うわー…でも無理も無いよなー…はっはっは、クレマンティーヌ俺にも気持ちは良ーく、良ーっく!…分かる! 分かるぞー!)
「こ! ここで良いでしゅか!?」
「あ、ああ。…無理も無いと思うが余り緊張するな…と言っても無駄か。まあ、直に慣れるだろう(俺もそうだったしね…)」
「な、慣れるかな?」
「た、多分。…良し、先ずは自己紹介から頼むぞ。 ここに集うのは私の最も信頼の置く各守護者、そして彼等が選んだ精鋭達だ。彼等がこのナザリックを、そしてお前を守ってくれるのだ。 失礼の無いようにな」
そのアインズの言葉に、シモベ達からは 『失礼などと!』 と珍しく大きな叫び声が聞こえてきた。
「ふむ、いい機会だから言っておくが…私は妹とお前達のどちらが大事だのという事は言わん。 お前達は私の親友であり最高の仲間でもあった、お前達が至高の41人と呼ぶ彼等が造りし者達だ。 それは何にも代える事は出来ない物だ。 掛け替えの無い者達だ。…勿論妹であるクレマンティーヌも大事だと思うがな。 だからこそ私は平等に扱おうと思うし、お前達にも対等に接してやれと言ったのだ」
「あ、アインズ様ぁ…!ぐすっ!」
「ん?」
アインズは本音を語っただけなのだが、守護者達やその後ろに立つシモベやプレアデスの目には光る物が有った。アインズが目を横に向ければクレマンティーヌの目にも。
「それに、ふふ…普通の人間が大仰に接されては疲れるだろうからな。だからこそお前達シモベにも対等に接してやって欲しい」
(これはマジだぞ!本当に疲れるんだぞ!)
「とても有り難いお言葉…本当に有難うございます! 皆、良いわね?これはアインズ様からの命令としてでは無く、お願いなのよ? 全員、クレマンティーヌとは対等に接するように」
「「お任せ下さい! アインズ様!」」
こういう時は本当にアルベドは頼りになる。命令ではなく、お願いとしても聞いてくれるとアインズとしてはとても嬉しく、有難かった。 やはりクレマンティーヌの事を妹と認めつつも、かつての仲間が造った彼等と、あくまで他所の人間であるクレマンティーヌを対等に扱えと「命令」するのはとても心苦しい物が有ったからだ。
「うむ、礼を言おう。頼むぞ皆…では気を取り直して、クレマンティーヌよ、宜しく頼む」
「は、はい! え、えと…クレマンティーヌ…といいます。これから宜しくお願いします!」
その、何だか転校生かのようなクレマンティーヌの自己紹介にアインズは思わず苦笑するが、シモベ達を見渡して見れば彼等の顔にも笑顔が浮かんで…るかどうか分からない者も何人かいるが…概ね好評なようだ。
「うむ、私からも宜しく頼む。…そして彼女にはさらに、私の妹というだけでなく…このナザリックにとって歓迎すべきポイントが有る…それは…」
アインズはそこまで言うと、アルベドとデミウルゴスの二名、このナザリックにおいて最高の頭脳とも言うべき二名の表情を窺ってみる。
するとやはりと言うべきか、パンドラズ・アクターの言うとおり、動揺を浮かべる他の守護者達やシモベ達と違い、恐らく気づいている…と思われるような何時もと変わらない優しい笑顔であった。
「そ、それは何なんですか!?アインズ様!?」
「ま、まさか…? まさかっ!?」
シャルティアが、驚愕の表情とともにそんな叫びを上げた事に、アインズは相当面食らっていた。
「…え? な、何だシャルティア…まさかお前も気づいたのか?」
「まさか…妹ではなく…婚約者と言うことでありんすか!?」
「「…はぁ!?」」
恐らくその場に居た全員が同時に困惑の声を上げただろう。玉座の間にそんな声が響いた。
「ぃよーし!シャルティア! とりあえず黙って聞いてくれ!」
「え?」
「では気を取り直して…気を取り直して…はぁぁ…」
こんな時にあんまりな事をぶっこまれ、アインズは深くため息をはき、気持ちを入れ替えた。ここから先は…余り笑えるような話ではなく…むしろその逆の話であり、こんな弛緩した態度で話して良い事ではなかったから。
「よし、では聞け! 彼女は…我々の最も欲する、スレイン法国の情報を持つ者! 目下最大の障害ともいえるスレイン法国出身者、そして…そのスレイン法国の最強の特殊部隊、漆黒聖典にかつて所属していた者と言うことだ!」
そのアインズの言葉に、玉座の間はざわめき、どよめき、困惑に支配されていく。しかし__
「黙りなさい! まだアインズ様の言葉の途中よ!」
「済まんな、アルベド」
「いえ、どうぞお続け下さい。」
「ああ…そして彼女から決定的な情報を得た…シャルティアを洗脳し、支配したワールドアイテムを使用したのは間違い無くあの国に居るものだ! その支配に使用されたアイテムこそ、ワールドアイテム…傾城傾国! いかなる種族であろうと洗脳してしまう恐ろしいアイテムだ!」
アインズは言い切ると、シャルティアの方を見やる。シャルティアは拳を強く握りしめ、歯を食いしばり、必死に怒りを堪えているようにアインズからは見えた。
(…シャルティア、お前は偉いな。俺はお前みたいに我慢出来なかったよ…クレマンティーヌの目の前だというのにな…)
そして、アインズは覚悟を決める。次に口に出さなければいけない事の為に…
「ここまでお前達に聞いてもらったが…ここで私はお前達に詫びねばならない事が2つ有る」
「え?」
「アインズ様…?」
「兄さん…?」
「私はこの事実をクレマンティーヌから聞かされた時、何も考えずに飛び出そうとした。直ぐにスレイン法国に飛んでいき、超位魔法を叩き込んでやろうとな…何時もお前達には慎重に、万全を期して事に当たれと言っているというのに…しかし…シャルティアをあの様な目に合わせた奴らなど…!…くっ、シャルティア…お前が今我慢していると言うのに…! 軽率な行動でお前をあのような目に会わせたと言うのに…済まなかった!」
アインズはその場で小さくだが頭を下げる。喋っている途中で激しい怒りがぶり返したが、我慢しているシャルティアの前だと言うことと、アンデッドの特性によってなんとか堪えた。
「あ、アインズ…様…」
「あ、頭を上げて、くんなまし! わ、私などの為に! アイ…」
シャルティアの言葉を、アインズは手で制す。もう一つ、シャルティアや他の者に謝らなければならないからだ。
「シャルティア、聞いてくれ。もう一つの謝らなければならない事を」
「は、はい」
「もう一つの謝らなければならない事とは、先程言ったように…先程言ったように行動出来ない、私自身の臆病さ加減だ…!」
「アインズ…様…?」
「な、何でですか!?シャルティアをあんな目に合わせた奴ら、命令一つでぶっ殺しに行きますよ!」
「勿論だ、シャルティアを洗脳した張本人で有るカイレとかいう老婆には…この世の地獄を味合わせてやるさ…!…いや…地獄すら生温い…このナザリックの真の恐怖をな…!そのときは頼むぞ、アウラよ!」
「は、はい!お任せ下さい!」
「ぼ、僕もやります!」
「私二モオ任セ下サイ!」
「…私も…やるでありんすよ…」
アインズは口々にやる気を表明している守護者と、黙ったままの、何やら考え込んでいるデミウルゴスとアルベドを見回すと再び口を開いた。
「ああ…問題はその後だ」
「その後…?」
「スレイン法国をどうするか、だ」
「潰しちゃいましょう!」
「フフ、私も…私もそうしたいのだがな…」
「え…?潰さ…ないんですか?」
アインズはその少し悔しさを滲ませるアウラの表情に、そしてマーレの、コキュートスの、そしてシャルティアの表情に、目を背けたくなるものの、しっかりと見据えて、その問いに答える。
「…ああ…そうだな…アウラよ、質問に質問で答えるようで申し訳ないのだが、お前はクレマンティーヌと仲良くしてくれているようだな?」
「え…?は、はい。友達になれたら良いなーと思って」
「うむ、そうだな…例えば…そのクレマンティーヌが、うーむ、そうだな。 バハルス帝国に行って…危害を、いや、殺されたりしたら…お前ならどうする? 私が何も口出ししないとしたらだ」
アインズのその問いに、アウラだけでなく、シャルティアも、マーレもコキュートスも、プレアデスも、そしてその場に居たシモベ達全員が殺意を顔に湛える。
「国ごと、ふっ飛ばします!」
「うむ、その通りだ。私でもそうする」
「じゃあ何でスレイン法国は!?」
「アウラ、口が過ぎるわよ!」
「アルベド! 良い!」
「も、申し訳ございません!」
アルベドが立ち上がり、アウラの元に行こうとするのをアインズは制す。
「良いのだ、アルベド。…アウラ、お前とクレマンティーヌが出会ったのはつい先程、それでもこうやって、我々の世界の者と、この世界の者でも仲良くなれるのだ。逆に言えば、スレイン法国に住まう凡百の民でさえ、我々が危惧するこの世界に居るかもしれない我々と同格のプレイヤーと…もしかしたら知り合いで、友となっているかもしれないという可能性は捨てきれないと言うことだ。クレマンティーヌから聞いた話では現在はプレイヤーはこの近隣には居ないという話だったが…。 これがリエスティーゼ王国やバハルス帝国で有ればまだ良い。冒険者組合やセバスの情報、それに酒場などの噂話などもそうだな。そう言った強大な力を持つ者の情報が集められるからな。…だが、あの国ではそれが無い。故にそう言った強者の情報が無いのだ。漆黒聖典や、スレイン法国の強者の情報は有ってもそれ以外の普通の民の情報がまるでな…恐らくはクレマンティーヌの話通りそんな奴はいないのかもしれない…だがな!ワールドアイテムもそうだった! 無いと思っていても確実では無いのだ! だからこそ私は臆病だと言ったのだ…有るかどうか分からない物に怯え、シャルティアの為に国の一つ潰せやしないとな…」
「…あ」
「もし仮にスレイン法国の民にそういった者やその友が居て…私だけが責められるのならば良い、それに我々100レベルの者ならば反撃も出来るだろう」
「当然です! 返り討ちにしてやりますよ!」
アインズはそのアウラの言葉に頷くが、すぐに他のシモベ達に目を向け再び口を開いた。
「…だが先程アウラが言ったように国ごと、このナザリックごと吹き飛ばす。そういった作戦を相手が取れば、そうなればこのナザリックでも弱いものや、そもそも戦う術を持たない者、そう言った者から犠牲になるだろう。勿論、本当に危険な戦いならば犠牲は出るかもしれん。その覚悟はしているさ…戦いは非情さ…私もその程度の事は考えている。フっ、そうだな」
そうだ。アインズは最悪、大の為に小を切るという選択は有りだと思っている。勿論その後復活もさせるし、そんな事を真っ向からしてきた相手にはそれ相応の報復をするつもりだ。だが…
「だが! 出来る事なら私はな…もうお前達を失う…そんな思いは二度と味わいたくはないのだ! 私の失敗でシャルティアを一度失った…もう同じ失敗を繰り返したくは無いのだ…だからこそ慎重に、危険を避けられるのならば極力避ける…どうか分かって欲しい…!」
アインズはそれだけ言い切ると視線を下に向ける。ナザリックの絶対者、アインズ・ウール・ゴウンとしてそう何度も頭を下げる訳には行かない。しかし、色々な思いから彼らから視線を一度外したかった故だった。
すると、グスっグスっというような、鼻をすするような音が響き、視線を上げればアウラやマーレ等の幼い者は目を拭っていた。
「アインズ様、一つ宜しいでしょうか?」
「む、アルベド。何だ?」
「アインズ様はワールドアイテムの事を危惧していなかったのがアインズ様の失敗と、仰っていましたよね?」
「ああ、それが私の罪。あれはシャルティアの失敗でも何でもない」
「…それを聞いてから…ずっと考えていたのです。 それがアインズ様の罪と仰るのならば、我々の罪はそれをアインズ様に進言出来なかったこと。…アインズ様、自らだけをお責めにならないで下さい」
「アルベド…そうか…有難う…(これは…アンデッドじゃなきゃ泣いてたかもな…アルベド、本当に有難う)」
アインズはアルベドに礼を言い、シモベ達を見回す。全員が何とか納得してくれたようだった。
「…だがこいつは別だ。確実に殺さねばならん今回の件の実行者、ワールドアイテムの所持者、カイレの件だが、我々には明確な報復の大義が有る。あの晩、シャルティアは盗賊の塒に囚われている哀れな人間の女性を助けようと私に出撃を嘆願してきた…そうだったな?シャルティア」
「え?」
「同じ女性として、奴隷同然となっていた女に同情し、お前は助けに行くと言っていた…と思ったんだがな?」
「そ、そうだったと…思うでありんす!」
「そしてそこから逃げ出した野党の一人を追っていた途中、スレイン法国の、漆黒聖典と行動を共にしていたカイレに、吸血鬼だからという理由だけでお前は洗脳され、支配されたのだ。どうだ、デミウルゴス。 これで報復の大義には充分だろう?」
「アインズ様、それはどちらから?」
アインズがデミウルゴスに問うと、デミウルゴスがそう聞き返して来た。
「冒険者組合でな、シャルティアを目撃したという女性冒険者に会ったのだ。裏は取れている。そしてその冒険者にもその様に言いくるめておいた。問題は無かろう」
「成程、流石はアインズ様…何事にも如才が無い…しかし…フフ…アインズ様、そろそろ彼等の、この場に居る者達の誤解を解いておいた方が宜しいかと思います」
「…ん?」
「くふ…ええ、アインズ様、私もその方が良いかと存じます」
「…え?」
「フーッハッハッハ!! さぁすがはアルベド様っ!! そしてデミウルゴス様っ!! アインズ様の真意にこうも早く気付くとはっ!!」
「…は?」
「当然よ」
「ですね。…しかし、危うくアインズ様の有難過ぎるお言葉に思考を放棄しそうになりはしましたが…」
「くふふ、そうね」
(あ、あれれー…? これはもしかして『何時ものやつ』が始まっちゃうのかい? そ、そんな深読みするとこ有りましたか? アルベドさん?デミウルゴスさん?)
その、ナザリック最高の頭脳三名、そしてアインズ・ウール・ゴウンを代表する中二病の息子たち三名の突然の…『何時ものやつ』に、玉座の間は今日何度目か分からないざわめきに包まれた。そのざわめきの中には当然アインズも含まれていたのだが…
「ど、どう言う事でありんすの!?アルベド、デミウルゴス!?」
「そうだよ!私達はアインズ様の言う事は理解出来てるよ!?」
シャルティアとアウラの、それとコキュートスとマーレも同じような表情でデミウルゴスとアルベドに顔を向ける。
デミウルゴスはそんな彼等の顔を一瞥すると、今度はアルベドとパンドラズ・アクターに顔を向けた。
「ふむ、アルベド?パンドラズ・アクター? 私で良いかね?」
「くふふ、ええ。お願いするわ。 こういう事を優しく説明するのは貴方の方が向いているでしょうからね」
「ん勿論ですっ!」
「アインズ様、宜しいでしょうか?」
(何がっ!?何が宜しいのっ!?)
アインズは心の中で三回程、そう絶叫すると、デミウルゴスに顔を向け、絶対者たる態度で口を開いた。
「ぐ、そ、そうだな…」
全然ダメだった…だが、守護者達はどうやら自分達が不甲斐ないのでアインズが悩んでいるように受け止めてしまったらしい…。
「オ、オ願イイタシマス! 我ラニモオ教エ下サイ!」
「か、必ずお役にた、立ってみ、見せますから!」
「私も!私にも教えて下さい!アインズ様!」
「私も…今度こそ、やってみせるでありんす! アインズ様!」
彼らの、特にシャルティアの悲痛な叫びがアインズの胸にグサグサと突き刺さる。アインズだって教えてやりたいのだ。しかし1つ、巨大な…巨大過ぎる問題が有る。
(な、何を!? 何を教えれば良いの!?)
しかし、何時までも悩んでいる訳にはいかない。今にもアウラとシャルティアは泣き出しそうに目を真っ赤にしている。そしてそれはそのまま、刃となってアインズの精神をガリガリと削っていく。
(…い、痛い…彼らの目線が痛い…ええい!こうなったら…デミウルゴス!…さんお願いします…)
「く、ならば答え合わせと行こうか、デミウルゴスよ…お手並みは拝見させて頂く…ぇ?」
アインズのその挑発的な言葉に、恐らく歓喜で身体をブルリと震わせたデミウルゴスがとても良い笑顔で、とても良い声で
「はい!」
と返事を一つすると、再び仲間である、同僚で有る守護者やシモベ達に振り向いた。
流石にアインズにも判っていた。この後デミウルゴスがここでぶちまける事は、今後に関わるターニングポイントだと。今までの対峙した変態集団や陽光聖典などでは無く、対国家だ。今後のナザリックに恐らく巨大な影響を及ぼす重要な事柄を、この後何を深読みしたのだか分からないがデミウルゴスが大きな花火として打ち上げるのだと。打ち上げた花火はもう戻せない。しかしその導火線はデミウルゴスが握っていた。つまり…詰んでいた。
(…何が…!? 何がどーなっちゃうの!?)
アンデッドの精神の安定化が何度も繰り返し起こる中、デミウルゴスの背に、心の中でそう絶叫するアインズだった。
「ふーむ、さて…先ずは君達に聞きたいのだが…」
そこで言葉を区切るデミウルゴスに対し、アルベドとパンドラズ・アクターを除くその場に居る全員が食い入るように見入っていた。勿論アインズもその内の一人だ。
「…まさか君達は、アインズ様が首謀者で有るカイレを除き、スレイン法国をこのまま放置するつもり…などと考えているのではないかね?」
「「え?」」
「……ぇ?」
そのデミウルゴスの言葉に、アインズを含む困惑の声が玉座の間にこだました。
「やはりそうなのか…流石にそれは失礼というものだよ? アインズ様、先程スレイン法国には強者は居ないと申していましたね?」
「あ、ああ…た、確かにスレイン法国にはそれなりに強い者も居るものの…神人だったか? そいつらも所詮難度250から280程度。レベルにすれば80から90程度だ。どうとでもなろう」
急に話を振られ、心臓…無いが…が飛び出しそうになったがなんとか堪え、そう答えた。
「分かるかね?諸君。 今やアインズ様は、スレイン法国に対して強者の情報、そして内部事情、指揮系統…更には報復の大義…全てご自身で、クレマンティーヌさんを妹としてまで入手されたのだよ? それらを鑑みて、そして彼我の戦力差を踏まえれば…はっきり言ってこのゲームはチェックまで行っていると言っても良い。 そんなほぼ終局に近いゲーム盤を、そのままの状態で放置するなど…そんな愚かな選択を我らの偉大な主人がすると思うのかね?」
「ぐぬ…こ、これが若さか…」
(ウルベルトさん…俺は貴方の息子に…愚かっていわれちゃったよ…)
一瞬、本気で馬鹿にされてるんじゃないだろうか? と思わないでもなかったが、ちらっと見えたデミウルゴスの横顔にはそんな気配は全く無かった。
そして、そんな事を考えていると、此方に目を向けたデミウルゴスとバッチリ目があってしまった。
「ど、どうした?」
「いえ、何か仰られたような気が致しましたので…私が何か失礼な事を言いましたでしょうか?」
「いやいや! なーんにも! お前はなーんにも間違った事は言っていないぞ! さ、続けなさい」
「畏まりました!」
そのデミウルゴスの言葉を、その場にいた者達が段々と理解して行くにつれ、その場をどよめきが支配して行く。
「ど、どういう事なんでありんすの?」
「さ、さっき…アインズ様が!?」
「ドウイウコトナノダ!?」
「フフフ、確かに…危険を犯さない、もしかしたら居るかもしれない強者に怒りを買わないようにすると言うニュアンスな事は仰いましたね」
「だ、だったら!…え?」
そのアウラの言葉をデミウルゴスが手を揚げて制する。
「フフフ、だったら…恨みを買わずに滅ぼせばいいのですよ!」
「「えっ!?」」
アインズはもう完全に白旗だ。一応デミウルゴスの一言一言に大仰に頷いたりはして居るものの既にアウラやシャルティア達と同様にデミウルゴスが何を言っているのか分からない。
(フッフッフ…ハッハッハッハ!! …どうしてこうなった…分からん…恨みを買わずに…滅ぼす!?…ほ、滅ぼすっ!?…でもこれって…どうなんだろ? 良いんじゃ、なかろうか?)
アインズはそこまで考え、兎に角話を聞こうと再び耳に神経を集中しはじめた。
「恨みを買わずに滅ぼすって…何言ってんのさ?」
「そ、そうですよ。 そ、そんな、事はむ、無理なんじゃ…?」
アウラとマーレの双子が、アインズの聞きたかった事をまず率先して聞いてくれる。本当にいい子達だ。
「うーん、そうだね。 国を滅ぼすと一概に言っても色々やり方は有るんだ。 先ずは君達が真っ先に想像したと思うけど…物理的に、対象の国に居る全ての物を破壊する、消滅させる、これも一つの滅ぼし方だ。 この方法が我々ナザリックにとって最も簡単な方法だろうね」
「…というか寧ろ他に有るんでありんすか? 滅ぼすといったらそんな物かと思うんでありんすけど?」
そのシャルティアの言葉に他の守護者やシモベ達もそうだと頷いている。
これは流石に他の方法も有るとアインズにも分かる。そしてナザリックの面々の脳筋ぶりに若干焦っていた。
(…いや、ゲーム時代からして滅ぼす=勝利なんだからNPC達のこの考えは仕方ないんだろうな…)
「シャルティア、勿論それが単語の滅ぼすという意味では正しいのは間違ってないよ。 しかし、他にも方法は有るんだよ。 二つ目としては、敵国の軍隊を壊滅させるという方法かな。 要は全面降伏させるということさ」
「「おお…」」と、その方法が有ったか!と言ったような溜め息混じりの声が上がり、彼等はデミウルゴス…ではなくアインズを畏敬の念を持って見つめて来ていた。
(これは俺にも分かった…だけどこれじゃあ…)
「シカシ…シカシソレデハ、結局誰カシラニ、恨ミヲ買ッテシマウノデハナイカ?」
そのコキュートスの上げた疑問の声に、その場に居た者たちから「「あっ」」と驚いたような声が上がった。
「…その通り。だからこそ、アインズ様が実行しようとしている手、それは…」
そこで勿体ぶって言葉を切る辺り、やはり中2病というべきか…
アインズも含め、ゴクリとツバを飲み込んだような音が幾つか響き、貯めに貯めた後、周りをぐるりと見回した後にデミウルゴスが口を開いた。
「…革命を起こすのだよ! 王をすげ替える! アインズ様こそがこの国の真の王だとね!」
一瞬の静寂の後、「おおおおおおっ…」っという嘆息の声が響き渡る。
「お、王…俺が…?」
「ちょ、ちょっと待って! デミちゃん!」
アインズの困惑の声を掻き消すようなクレマンティーヌの声が響き渡り、全員がそちらに振り向いた。
「で、デミちゃん?…ま、まあ良いでしょう。 何ですか?クレマンティーヌさん?」
「あ、あの、スレイン法国は王政じゃないよ? 王じゃなくて、六大神とかいう埃被った大昔のぷれいやーを信仰して国が纏まってるんだけど…」
その通り。スレイン法国は王による政治ではなく、宗教により国を纏め上げている。すげ替える王が居ないのではすげ替えようが無かった。
「おお、 いい質問ですね。流石は良く知っていらっしゃる。 しかし…それこそクレマンティーヌさんなら答えを知っているのでは? 私は貴方に聞いたのですよ?」
「え?」
「まあ直接聞いたのではなく、間接的にですが…質問を質問で返すようで申し訳無いのですが、貴方はアインズ様の絶対的な力を、その一端でも垣間見たときに…アインズ様の事をどういった存在だと思いましたか?」
「え? えーと…かみさ…あ!」
「それですよ。 フフフフフ! 王をすげ替えられぬのならば、神をすげ替えれば良いのです!」
「「おおおおおっ!!」」
今度こそ全員が納得行ったようで、爆発的な歓声が上がった。
「ククククク! 人間というのは…あー、失礼、クレマンティーヌさんの事を悪く言うのでは無いのですよ?」
「え、う、うん」
「人間というのは現金な存在です! 六大神などすでに存在せず! 祈っても拝んでも助けてはくれない! そんな神よりも目の前の救いを取る! それも自らが犯した罪を許し、アインズ様が王として! 神として戴いてくださるのですから! どちらを取るかなど明白! スレイン法国の最大の弱点はアインズ様達のようなプレイヤーという存在を無条件に神として敬う、その国の在り方その物なのです! 神など古臭いと言っていたクレマンティーヌさんでさえ、アインズ様を一目見れば神だと断言する! その国としての教育そのものがね!」
「「おおおっ…」」
「クク…フハハハハハッ!!! 人間以外の他種族を認めず! 異形種を排除…そんな傲慢で排他的な
奴らの上に我々異形種が立つ!! 素晴らしい…なんと皮肉が効き、気持ちの良い響だ…本当にアインズ様は素晴らしい…。 さて、こんなに素晴らしい報復が有るかね? 諸君っ!?」
デミウルゴスは余りの興奮からか、立ち上がり大仰に手を広げ、更に雄弁に語り始めた。
「フッ! 人類の敵の根絶…それが奴らの夢、奴らの望み…奴らの業っ!! 多種より強く! 多種より上へ!! 多種より先へっ!!! 脆弱な人間共が、そんな傲慢な教育を自国の民へ施して来たツケ…払ってもらわねばならないっ!! だからこそ殺さない! これからスレイン法国の愚民達は、アインズ様を神として崇め、我々に許しを乞う!! 永遠にっ!!! そして自らが忌み嫌い、妬み、殺すことしかしなかった異形種に国を乗っ取られ、それに気付かぬままに死んでいく! …クッ…ハハハ!! 諸君らにもう一度問う!! こんなに素晴らしい報復が有るかねっ!? アインズ様の選んだこの報復以上に素晴らしい報復が!?」
「「…無いですっ!! 流石はアインズ様っ!!」」
(デミちゃんノリノリだな…もうこれは止まらんな。 と、というか、お、王を通り越して神…だと? お、俺が…?)
そのデミウルゴスの演説には大ウケだった。全員が立ち上がり興奮を隠そうともしない。唯一ポツンとしているのはアインズ…と、あとは新参者のクレマンティーヌだけだった。
そんな中、一人の卵頭が『ビシィッ』という擬音がピッタリの動作で手を上げる。するとこれまた、いつ訓練したんだというように歓声がぴたっと掻き消えた。
「更に、私のようなコレクターとしての目線で付け加えるならば! 戦わない、破壊もしないとなれば、相手の持つ秘宝、そして数々のマジックアイテムなど、全てアインズ様に献上する事が可能となります! それにより、更にナザリックの戦力を素晴らしい物とすることができま…「それは素晴らしいっ!!…ぁ」
そのパンドラズ・アクターの余りに魅力的な提案に、アインズは己の意志とは別の部分で、玉座から立ち上がりパンドラズ・アクターを指差しながらかなりの大声で、しかも喰い気味に賛辞を上げてしまった。
(マズイ! こ、これではケチ臭いと思われる!!)
「アインズ様…?」
「フ、フフフフフフっ!! す、素晴らしいぞ!!お前達!! ま、まさかここまで私の思考を読み、更に噛み砕いて分かりやすく説明まで出来るとはっ!!」
「勿体なきお言葉…それにここまでアインズ様にお膳立てしてもらい、誰も理解出来ぬのでは申し訳が立ちませんでした…」
アインズの言葉に答えたアルベドの言葉に、頭脳担当以外の守護者達が皆切なそうな顔になる。アインズはそれを見て、とても居たたまれなくなってきた。
(ちゃ、ちゃうねん! 俺もそんなこと考えてなかったんや! こいつらが凄すぎんねん!)
内心でテンパリ過ぎて関西弁になりつつ、必死にフォローする言葉を考えて口にする。
「い、いや! お前たちも、私の言葉が足りずに、少し不快な思いをさせてしまったな…認めたくない物だな…自分自身の、若さ故の過ちというものは……ぇ?…ぉ、ぉぅ。」
「あ、アインズ様が悪い訳ではありんせん!」
「そ、そーです! 馬鹿なあたし達が悪いんです!」
「ぼ、僕達を怒ってく、ください!」
「申シ訳アリマセン!アインズ様!」
「……違う、お前たちは悪くは無い。私の口が足りなかったのだ。そして先程のアルベドでは無いが私の足りない部分をデミウルゴス達が進言してくれた。それだけの事。そうだ…気に病む事は無い。ただ認めて、次の糧にすれば良い。 それが、大人の特権だ!…お、おい!」
(い、今のはもしかして俺に言ってんのか!? こ、この野郎っ!!)
またも、勝手に口が動くが…今会話をしていた相手の中に、大人と呼べるのはコキュートスだけだ。…多分。
なので、辺りをシーンとした空気が流れ、アインズはかくはずのない冷や汗で地面に水溜まりが出来ているような錯覚さえ覚えた程だった。
「ま、まさか!?」
しかし、その空気を切り裂き、アルベドが声を上げた。そして全員がそちらに目を向ける。
「先程、進言出来なかった…そう言った私達の心を察して、挽回の機会をお与えに…!? 何という慈悲深さなのでしょう…くふっ…もうっ!…大好きっ…愛してるっ!」
「ああ…なる程…アインズ様、ありがとうございます!」
「う、うむ!…ふぅ」
アルベドの最後の言葉は取り敢えずスルーし、そのアルベドの横で「私も!私も!」と、叫んでいるシャルティアもスルーし、何とかなったと息を付いたが、そこで再びパンドラズ・アクターが口を開いた。
「デミウルゴス様、そしてアルベド様」
「何かしら?」
「何かね?」
「実は更に嬉しい報告がございます!それは…」
パンドラズ・アクターは、そこまで言うと頭の帽子に手をやり、思いっ切りカッコつけた中二病のポーズで勿体振った。
(や、止めてくれ! これ以上俺の精神耐性をゴリゴリしないでくれ!)
アインズは今にも悶絶しそうだったが、なんとか飲み込み、必死に耐えた。
「我々…アルベド様、デミウルゴス様、そして私に…この作戦の立案をお任せするとアインズ様にお約束頂きました!」
パンドラズ・アクターのその言葉に、デミウルゴス、アルベドの両名はバッとアインズの方に振り向いた。
「…ぇ? い、言ったな…確かに」
「あ、ありがとうございます!」
「全身全霊でやらせて頂きます!」
「…あ、ああ! 宜しく頼むぞ!」
(良く考えたら…俺じゃ、無理!絶対無理! 良くやったぞちょっと前の俺っ!!)
一瞬考えたが、もうこの流れはどうやっても止まらない。そしてこんな作戦の立案はアインズには不可能。ならばもう選択肢など無かった。しかし__
「で、でも…」
何時もは大人しいマーレがボソッと否定の言葉を出した事で、一同はマーレの方に向き直る。
「な、何? マーレ?」
「でも、こんな大事な作戦…あ、アインズ様の作戦が有るのならアインズ様の作戦でやった方が良いんじゃ…」
自信なさそうな口調は何時も通りだが、確固たる意志がそこには有るような気がした。
何時もはいい子なのになんでこんな意地悪な事を言うのだろうとアインズは泣きたくなったが、矢張り、頼りになるのは守護者統括だった。
「くふふ、マーレ」
「は、はい」
「貴方は、シャルティアがやられてしまった時どう思ったかしら?」
「え?えーと…」
「自分の事の様に悔しくは無かった?」
「あ、アルベド…?」
その突然、シャルティアの話をしだした事でシャルティアも困惑の表情を浮かべる。
「く、悔しかったです! だってぶくぶく茶釜様の弟君のペロロンチーノ様がお創りになったシャルティアさんがやられたんですよ!」
「ま、マーレ…」
「うんうん…そうだよね」
アウラが姉として、そんなマーレの肩をポンポンと叩き落ち着かせる。そんな二人を見て、シャルティアは更に悲痛な表情になっていく。
「そうよね。私も悔しかったわ。 自分の事の様に…」
「アルベド様…」
「アルベド…」
「だからこそですよ。 我々皆が、悔しかった。だからこそ我々に雪辱の機会をアインズ様がお与え下さったのです! 守護者の仇は守護者で討てと!」
そのデミウルゴスの言葉に今度は全員がアインズの方に振り向き、頭を下げる。
「「ありがとうございます!」」
「う、うむ! お前達も頼むぞ!」
そうして顔を上げると、シャルティアが何やら決意したような、吹っ切れたような表情でアルベドとデミウルゴスの方に向き直り声をかけていた。
「アルベド、デミウルゴス」
「何かしら、シャルティア」
「戦う事になるのなら…私に機会を…与えて欲しいでありんす」
そう言い、彼女には珍しく二人に頭を下げ、懇願した。
それを見て、デミウルゴスはアルベドをチラッと見るとアルベドもデミウルゴスに小さく頷いた。
「フフ、交渉の前には一発ガツンと殴らなければね。どの道カイレという者を呼び出すに当たって漆黒聖典を叩かなければならないでしょう。相手の最大戦力を叩きのめし力の差を示す大事な役目、貴女に任せます。 しっかりと働いてくださいね」
「任せなんし! このシャルティア…もう油断も慢心も無く、必ずややって見せんす! アインズ様の運命…私が切り開いて見せるでありんすよ!」
「では、皆さん。一端落ち着きましょう」
「そうね、各自定位置に戻り、最後に色々な確認をするわよ」
その定位置に戻っていく部下を見ながら、アインズはエライことになったと改めて思った。
もう引き返せない。行くしかないところまで来たと。
「では、良いですか?皆さん。 今度の作戦は我々が、立てますが、全員で十全、万全のバックアップをしてもらう事になると思います。気を抜かず心して準備に当たってください。 我々に任せて頂いた以上、失敗は許されません! …何しろ、ククク…これは、アインズ様のお望みの…世界征服のまだまだ第一歩なのですから!」
そうして、また再びデミウルゴスの口から出た言葉にアインズは引っくり返りそうになったのだった。
今回のお話は…すみません…完璧にリハビリがてらにだらだらしてます。それ故ほぼ話が進んでませんm(__)m
…試験勉強は普通にエンピツとノートでやってたから、文字を打つとき指先が反応してくれねぇ…
次回からは普通に話を進めて行きたいと思います!