そして、新年早々なのですが、何時も読んで頂いている方に、いきなり大事なご連絡があります。諸事情で次回がとても、3月中旬まで遅れます。詳しくは後書きを読んでください。本当にゴメンナサイ…
『おおっ!! これはン〜アインズ様っ!!! こちら自宅警備マイスター…貴方のパンドラズ・アクターでぇっす!! 現在ナザリック周辺は…ン〜異常有りまっせぇん!!』
第一声からこれで有る。いきなり辟易とし、魔法を解除しかけるがこいつに用が有るのは事実。そもそもアインズから〈
『そ、そうか…元気そうで何よりだ…』
『はいっ!! 何やら私の叔母様がそちらにいらっしゃるようで、自宅警備にも気合が入ります!! 最高の状態で叔母様をお迎えせねば…もしここに侵入者などが現れようものなら…私のトランザム・バーストが火を噴くぜ…! ですのでご安心下さいっ!!ン〜アインズ様っ!!』
それを聞き、いきなりマックスになったアインズの羞恥心や悲しみがごちゃ混ぜになったような何とも言えない微妙な感情が、アンデッドの精神の安定化により沈静化される。
(…す、姿を見なくとも精神の安定化を引き起こすとは…更に出来るようになったな! パンドラ! …あとナザリックの警備を自宅警備って言うんじゃ無い!!…まぁ、合ってるけどさ…)
アインズは未だ一言しか喋っていなかったが、パンドラズ・アクターのマシンガンの様に飛んでくる痛々しい言葉のボディブローによって、既に若干だが痛めつけられていた。
『ふ、ふむ…そ、そうか。やはりお前にとって叔母様になるのか…まあいい、張り切ってやってもらっている所悪いが、お前にも一度会わせておこうと思ってな。シャルティアをそちらに…いや、シャルティアとアルベドを向こうにやるのでお前は交代して此方に来てくれ』
アインズがそう言うと、一瞬考え込んだような間を置いて、パンドラズ・アクターは…吠えた。
『…おお…うおおおおっ!!!』
『な、何だ? ど、どうした?』
『…なんと!!こんなにも早くお会いできるとは…!!…やはり私達家族は運命の赤い糸で結ばれていた…おおっ!! この感情、まさしく愛だっ!!』
『愛っ!?』
『はいっ!! アインズ様の妹君、その存在を知った時から…お会いしたいと言う楽しみを超え、お会いできるという喜びを超越し…最早愛となりましたっ!!』
『ぐふぅっ…私の家族は化物ばかりか…』
妹からはお兄様、お兄ちゃんと呼んでくる責めに精神の安定化を何度も起こされ、子供…の様な何か…からはただ会話しているだけで精神の安定化を何度も起こされていた。もし、アインズの精神の安定化が体が光るというエフェクトでも付いていれば、アインズはこの短時間、切れかけた蛍光灯の様にチカチカしっぱなしだったろう。
『では…シャルティア様とアルベド様が来るのをお待ちしております! おぉ! 何と素晴らしい一日なんでしょうか〜ァ!!』
『…そ、そうか。…ではな。』
「何で、メッセージの魔法一つでこんなに疲れなくてはいけないんだ…次はアルベドとシャルティアか…」
「兄さん」
「うん?どうした?」
アインズは疲労困憊しながらも、アルベドとシャルティアに指示を出そうとしたのだが、クレマンティーヌに声をかけられた事で魔法を使うのを止め、クレマンティーヌの方に向き直った。
「アルベド姉さんとシャルティア姉さんをどうするの?」
「ね、姉さん?…ぐぁ…ああ、向こうに居る守護者の一人、まあ奴は領域守護者だが、その者は私が創造した守護者なのだ。その、パンドラズ・アクターと交代で向こうに行って貰おうと思ってな。」
「そっか…」
「ん?どうしたのだ」
「一つ、お願いが有るんだけど…」
そう言い、クレマンティーヌはアインズに近寄って上目遣いで何かをお願いし、頼みたいようだった。
「ね、願いとは?」
(だ・か・ら!! 上目遣いはやめてっ!! 弱いの!!)
「えっと…言いにくいんだけど…少し耳を貸して?」
「…耳? そんなもの無いのだが…」
「あっ…ん〜じゃあ人間でいう耳の所を貸して?」
アインズはそれで良いのか?と一瞬思うも、とりあえずクレマンティーヌの言う通りにした。
「ゴニョゴニョ…」
「…あっ!」
(ヤベェっ!! 耳が…耳があああっ!! 無いのにくすぐったい!! これがファントムペインって奴なのか!? というか、金髪美人に耳打ちはヤバイっ!!…ん?…こいつ何を言って…え?)
ひとしきりクレマンティーヌの願いを聞き、自分の予想した物とはかけ離れたその願いにアインズは一瞬だけ考え込むも、直ぐに頭に浸透し理解した所でクレマンティーヌの顔を凝視した。
「じょ、冗談…だよな?」
アインズはそう有って欲しいと思い、クレマンティーヌにそう聞いたのだが、残念ながらクレマンティーヌは首を横に振る。
「…ほ、本気か?」
「うん」
「な、何故?」
「私が…今後あの二人と仲良くやっていく為に…つまり私の為!お願い!兄さんっ!!」
「む、う、うむ…確かに…あの時の二人はおかしかったが…ぐうぅ! 仕方ないか…だが、お前の為にだからな?」
(やりたくてやるんじゃないぞ!)
「うん!ありがとう! 兄さんっ!!」
その頃、他の守護者達は、会議にも使えるように、大きなテーブルを何人も座れるような沢山の椅子が囲っている造りになっている、円卓状の部屋で、アインズから指示が有るのを待っていた。
その端っこ、テーブルから椅子を放した部屋の角に、クレマンティーヌの二人の姉が暗いオーラを振りまいて座っていた。
「…ハァ…」
「…はふぅ…」
アルベドはこれで何度目になるかも分からないため息をシャルティアと共に吐いた。他の守護者達も見ているが今だけは許して欲しい。アインズ様の前であのような失態をし、無様な姿を晒したのだ。他の守護者にもその辛さは分かる筈だ。
(…決して抱きしめて貰えなかったならでは無いのよ…決してっ!!)
「…ねぇ、マーレ。早く慰めてきなよ」
アウラが横に座って居るマーレにそう言うと、マーレは不思議そうな顔でアウラの顔をキョトンと見たあと、一瞬で驚愕の表情になった。
「…え? ええっ!? 何でボクが!?」
「一番当たり障りなさそうじゃん」
「ひ、ヒドイよ! お、お姉ちゃん! む、無理だよぉ」
さっきからこの調子だ。既にデミウルゴスとコキュートスは我関せずといった調子だった。アウラが一度理由を聞いたのだが…
「君達がアインズ様のお側に居たとき、既に私達は酷い目に有って居るのでね。今度は君達の番だよ?」
と、とても良い笑顔で言われてしまったのだ。
「はぁ…」
「はふぅ…」
「うるさいなぁ…」
「か、可哀相だよ…お、お姉ちゃん…」
「だーかーら!! 慰めてあげなさいよ!」
「無理だよぉ!お姉ちゃんがやってあげればいいのに…」
「嫌よ…絶対に面倒くさいもん…」
そんな感じで暫く待っていたのだが、急にアルベドがビイーンとバネ仕掛けでも入っているかのように立ち上がった。
「は、は! アインズ様!! 何でしょうか?…シャルティアと二人で部屋に? は、はぁ…畏まりました」
「な、なぁんでありんすかぁ?」
「アインズ様からよ、二人で部屋に行くわよ…」
「…お怒りになられていなかった?」
「…わからないわ。しかし! お怒りになられていようが至高の御方の命、聞かなくてどうするの?」
「了解しんした。行きましょうかぇ」
「では、デミウルゴス、行って来るわ」
「ええ。畏まりました」
その二人が部屋を出て、ドアが閉まるとアウラがボソッと口を開いた。
「バカじゃないの? あのお優しいアインズ様があんな事で怒ってる訳ないのに…大体、あんなのあの二人なら何時もの事じゃん」
そのアウラの言葉に他の守護者が頷いた。
そしてマーレはふと思った。守護者統括が、あれが何時も通りで良いんだろうかと。でも誰かに言うのは怖かったのでマーレは考えるのを止めた。
アルベドはシャルティアと共に、先程クレマンティーヌを案内した部屋へと戻ってきた。アインズからの用、シャルティアと二人での用がどういう物なのかは分からないが、至高の主人の命ならば、何の用でも構わない。来いと言うなら二の句も無く向かうだけだ。
「アインズ様。守護者統括アルベド、シャルティアと共に参りました」
「あ、あの! アルベド姉さんシャルティア姉さん!二人共入って下さい!」
「クレマンティーヌ?…畏まりました。」
「了解でありんす」
アルベドがドアを開け、シャルティアと同時に部屋ヘ入る。本来ならば部屋づきの一般メイドの役なのだが、戦闘能力皆無の一般メイドを外に連れ出す訳にはいかず、この偽のナザリックにはユリ・アルファを除き、メイドと言う存在は連れて来てはいなかった。そのユリも先程まで守護者が詰めていた部屋の前で待機していた為、今現在アインズの部屋には、アインズの命令通りアインズとクレマンティーヌしか居なかった。居なかった筈なのだが…
「…あら?アインズ様は?」
「居ないで…ありんすね」
部屋には挙動不審なクレマンティーヌしか居なかった。
「あ、あはは…後ろ」
と、先程よりも更に挙動不審な態度でアルベドとシャルティアが入って来た後ろ、ドアの方を指差すクレマンティーヌにつられ、シャルティアと二人して後ろを振り向いた…
瞬間だった。
ガシッと、突如現れた…恐らく不可視化の魔法を解除したアインズによって二人まとめて抱きしめられていた。
「…あっ!!」
「…ぅいっ!?」
シャルティアの顔が横に有るということは恐らくシャルティアは宙に浮いている。それぐらいガッチリと確かにハグ…なんて生易しい物では無く、抱きしめられていた。
「〜っ!!」
「…おおっ!!」
アルベドは声にならない声で、シャルティアは…欲情したような声で歓喜の声を上げた。
アインズは無いはずなのに高鳴る胸の鼓動を我慢しながら二人を下ろす。幾らクレマンティーヌの願いとは言え…かなりヤバかった…
(…アルベドのナイスバディも勿論良いが…シャルティアの薄い体もそれはそれで…ってそんな事じゃないっ!! 早く!! 早く精神の安定化をっ!!)
「ほぇ〜…」
「……皆〜アインズ様の胸はとっても良い所でありんすよ〜…早く戻って来いでありんす〜…」
何やら遠い目をしている二人の守護者を横目に見ながらクレマンティーヌの方を向くと、クレマンティーヌは親指を立てて此方を悪戯っぽい顔で見ていた。
「…はぁ…これで良いな? 言っておくが…もうやらないぞ!?」
「うんうん…いや〜、効果はバツグンだったね」
「…ああ…そのようだな…」
「アインズ様…我々の願いを聞いて頂き、ありがとうございました」
「ありがとうございましたでありんす」
「…ああ、まあ礼ならクレマンティーヌに言ってくれ」
「そうだったわ…クレマンティーヌ!」
そう言いながら、クレマンティーヌの方にアルベドはシャルティアと共に向き直った。
「良くも私達を謀ってくれたわね!」
「姉を罠に嵌めるとは…!」
「いいっ!?…ん?…ああ…喜んでくれたようで良かったです、姉さん方」
アルベドとシャルティアの顔は、口調とは裏腹に満面の笑顔だった。
「…今回は許しましょう…」
「次はちゃ〜んと言うんでありんすよ?」
「いえいえ! 兄さんの胸は…最高でしょう?姉さん?」
「お前に言われなくても分かっているわよ…だが敢えて言おう…最高だったと!」
「まあアルベドと一緒というのはちょっとアレでありんすけど…最高でありんしたね」
そんな何だか不穏な会話を本人の目の前で繰り広げる女性三人を極力無視しながらアインズは遠い目をしていた。
(こいつ等…仲良いな…。なんだか…今回は私の胃にとっての敵を増やしたような気がする…)
「では、私達はナザリックに戻り、パンドラズ・アクターと交代して参ります」
「うむ。それとアルベドには先程頼んだクレマンティーヌの部屋の件と、我々が戻り次第玉座の間でのクレマンティーヌの他のシモベへの紹介の件も頼むぞ」
「お任せ下さい!…ではシャルティア、頼むわよ」
「ええ、ではね…クレマンティーヌちゃん…またお話しんしょう」
「はーい、姉さん達もお気をつけて!」
二人が、シャルティアの〈
「パンドラズ・アクターというのはどういう人なの?」
「うん? ああ…何と言ったら良いのか…うーむ」
(…流石にアレを何と言ったら良いのか…分からん…たあここは…そうだな)
アインズが当たり障りの無い事を言おうと思い、口を開いたのだが…
「「いよっしゃああああああっ!!!!」」
と言う、大きな雄叫びが未だ消滅していないゲートの魔法の向こう側から聞こえて来た。アインズとクレマンティーヌは驚愕にそちらに振り向き、何事かと凝視していた。
「…私は…もう死んでも良い…いえ!違うっ!!…私は生きるっ!! 生きてアインズ様と、添い遂げるっ!!」
「アインズ様と添い遂げる…何とも、良い響きでありんすねぇ…でもその通りでありんす! アインズ様との運命は、私が切り開くっ!!!」
「クレマンティーヌ…流石だわ! あんなに最高のアシストをしてくれるなんて…」
「これからも…私達で可愛がって上げんしょう」
「そうね、その通りだわ。では行きましょう!」
それきり、ゲートの向こう側からは声が聞こえて来ず、そのまま消滅していった。
「…あ、あいつら聞こえていないとでも思っているのか?」
「い、良いんじゃないの?…凄い喜んでたし…私への嫉妬とかも無さそうだったし…」
「た、確かに…凄い喜びようだったな…でももうしないぞ…?」
「…私にも?」
「…え?は? 何をだ?」
「…ぎゅってしてくれないのかなーって」
その再びの妹の上目遣いの願いに、アインズは目眩がしてきたが何とか我慢する。そんな事を度々していたら下手をすればアインズはその度にあの二人も抱きしめなければいけなくなってしまう。…ただ、上目遣いは可愛いと思った。
「す、する訳無いだろ!! 変態じゃあるまいし!!」
「ちぇー…はっ! じょ、冗談だよ!冗談!」
そこでクレマンティーヌは、さっき怒り狂っていたアインズを思い出し、これ以上突っ込むのは止めようと判断した。
(この人は凄い良い人で可愛らしいけど…怒らせちゃダメな人だ。あれは…凄い怖かったし…)
「…あーっと、何の話しだったか…? ああそうだな、パンドラズ・アクターは…まあ見てみれば早いな。説明しにくいのだ」
「へぇ…分かった」
それから暫く待つと、ドアをノックする音が聞こえ、アインズが入れと言うとまず少し開けたドアの隙間から
ユリ・アルファが入って来た。パンドラズ・アクターが入って来ると思っていたアインズは少し驚き、ユリに問うた。
「む? ユリ、どうしたのだ?」
「は! 先程、我々の部屋にパンドラズ・アクター様がいらっしゃいまして、これからアインズ様の部屋に行かれると仰ったので、ボク…ゴホン、失礼しました。私が共として参りました。それと一応、パンドラズ・アクター様をお入れしていいものかの確認を…」
「うむ、それは問題無い。…しかし、随分と念入りだな」
「あ、ええ、そ、それは…あの時、宝物殿でお会いになったとき、アインズ様がパンドラズ・アクター様に対して酷く…その、苦手にされていたようなので…」
そのユリの言葉に、アインズは今すぐベッドにダイブしてジタバタしたい欲求にかられるが、そうもいかない。
(バレてるーーーーッ!! でも別に苦手じゃないからなっ!? どちらかというと羞恥だぞっ!?)
「う、ああ、なる程な…しかし大丈夫だ。彼は私が呼んだのだから何の問題も無いぞ…それと、金輪際あの宝物殿での事は他言無用だ。シズにも言っておけ」
「は、はい! 畏まりました!」
「良し、ではパンドラズ・アクターを入れてくれ」
「承知いたしました」
そうしてユリが部屋から退室し、パンドラズ・アクターが漸くこの部屋に入って来た。
パンドラズ・アクターがこの部屋に入って来た瞬間、横に居るクレマンティーヌからひゅっと息を飲む音が聞こえた。
「パンドラズ・アクター…至高なる偉大なる創造主の命により、参上致しました!! ン〜ンアインズ様っ!! ぅおおっ!! 此方が例の…」
「あ、はい。私が妹のクレマンティーヌです」
「貴方の存在を耳にしてから…ずっとお会いしとうございましたっ!! クレマンティーヌ叔母様っ!!」
「お、オバっ!?…パンドラ?ちゃん…その呼び方は止めて欲しいかな〜…」
「何故でしょうか?私にとって貴方は…」
このままでは埒が開かない。アインズはたまらず割って入った。
「ま、待て、パンドラズ・アクター」
「何でしょうか?アインズ様」
「あ、ああ。人間…の女性にとってオバサンというのは時として蔑称となるのだ」
「なんと!そんな事が!」
「そうそう」
「しかし…いや、そうですね!アインズ様とクレマンティーヌお…様が仰るのなら…何とお呼びすれば良いのでしょうか?」
「い、今…別に良いや。ん〜、普通にクレマンティーヌで良いんだけどなぁ〜」
「ならば…クレマンティーヌ様と…おお!良い響きです!例えるなら…「ま、待て! 兎に角話を聞くのだ」
(この世界を黒歴史にしてたまるもんかーーーッ!!)
危うくアインズの黒歴史ノート…誰にも見せられないそれの1ページが勝手に内容を話し始めるところだった。アインズは心の中で、安堵と疲れの両方の意味での大きなため息を吐いた。
「む、申し訳ありません! アインズ様!」
「うむ、良い。それでだ、まずはそうだな…お前に特別な任務…特命を与える」
「おおっ!! 特命!! なんと甘美な響きっ!!」
「…あ、ああ…」
(やめてっ!!確かに中二的な響きだけど口に出さないでっ!!)
「ゴホン…特命と言ってもそんなに難しい事では無い。今後、クレマンティーヌはナザリックで生活してもらう事になる。しかし、あそこは人の住んでいる場所では無い。色々な気苦労や、大変な事などが出てくるだろう。」
「…に、兄さん…」
「…そうかもしれませんね」
「しかし、先程クレマンティーヌにも言ったが私はナザリックの主。そう言った立場に有るものが身内に甘くする訳にはいかないのだ。他者の見ていない場ならまだ良いが、ナザリックで生活する以上そうも言ってられない。私は身内にこそ厳しく、と言うのが正しいと思っている」
「はい。当然ですね」
「うん。分かってる」
「そしてそれはお前もだ、パンドラズ・アクター。お前は私が作りし領域守護者。お前は私の子供だと言っても良い。」
「おお…! アインズ様…私を子と!」
「…ぐ…う、うむ。お前は子…のような物だ。それは間違ってはいないだろう」
(デス・ナイトに父さんと言われるよりは…良い…だろう。多分)
「そこでだ、お前にはクレマンティーヌの色々なフォローをしてやって欲しい。何か有ればクレマンティーヌの味方をしてやって欲しい。それがお前に与える特命だ。お前ならば、私の子とも言えるお前ならやってくれるな?」
これには言葉通りの意味ともう一つ、妹の振りだとか疑われないように、というかなり投げっぱなしな意味も有るのだが、パンドラズ・アクターの頭脳なら問題無いだろう。
「くわしこまりましたっ!! ン父上っ!!」
「…ぅ…ああ。そう言ってくれて嬉しいよ。本当に…。まあ、先程のシャルティアやアルベドの様子なら彼女達もクレマンティーヌのフォローなどは心配無いだろう。ん?…そう言えばクレマンティーヌ、アウラやマーレとはどうなのだ?」
アインズはふと疑問になり、両目が赤く、涙目になっているクレマンティーヌに質問してみた。
(…そんなに感動してくれるとはな…ふ、悪くは無い物だな)
「…アーちゃんとマーレちゃん? 可愛すぎて死にそうになるくらい可愛い!」
「アーちゃん?マーレちゃん?…まあ良いか。 まあ、確かにあの二人はとても可愛いらしい良い子だ。問題は無いか…コキュートスは?」
「あの人は…見た目に似合わずすっごいまとも! 凄いいい人!」
「ほう。…で、では…デミウルゴスはどうだ?」
これが一番心配なのだ。デミウルゴスの頭脳はアインズには計り知れない。正直、もう色々バレてる気がするぐらいだ。この答えを聞くのは怖いが聞かなくてはならない。どの道この後嫌と言う程顔を合わすのだから。
「デミウルゴスさん? 超仲良くなったよ」
「…ぇ?」
「おおっ! 流石はクレマンティーヌ…様っ!あの御方と人の身で有りながら仲良くなられるとは!!」
「うん、今度牧場に連れて行って貰う約束をしたの」
「ぼ、牧場? 牧場とか好きなのか?」
アインズがそう聞くと、クレマンティーヌはとても…そうとても良い笑顔になった。…アルベドやシャルティアがたまにするとても良い笑顔に。
「だぁい好き」
アインズは背筋が一瞬ゾクリとするのを感じた。今のは何だか色々な意味で怖い声だった。とても蠱惑的な…怖い声だった。
「そ、そうなのか…」
(牧場…動物好きなのか?…何だか声と裏腹に可愛らしい趣味をしているな…ふうむ、覚えておくか)
「…という事は…守護者達は問題無さそうだな…。うむ、流石だ」
「我等はアインズ様に仕えるのを至上の喜びとする者達! 当然ですな!」
「うむ、だがそんな彼等だからこそ…無理強いなどはしたくは無いのだ」
「どういう事でしょう?」
「ふむ、それは次の話にもつながってくるのだがな…そうだな、クレマンティーヌの事だ」
「はい。何でしょう?」
「兄さん?大丈夫なの?」
「…ああ、大丈夫だ。パンドラズ・アクターならば……。聞け、彼女は…スレイン法国の出身。それも元漆黒聖典の者だ」
「…ほう。やはりそうでしたか…しかし漆黒聖典だったとは」
「「…え?」」
少しの間を置いて、クレマンティーヌとアインズの声が重なった。アインズとしては『ええーーーっ! 何だってーーーっ!!』ぐらいのリアクションを想像していたのだが…終わって見れば…知っていたような口振りだったからだ。
「気づいていたの?」
「ええ。恐らく…というレベルでしたが」
「ほ、ほう、ど、どこで気づいたのだ?」
「クレマンティーヌ様は、アインズ様と初めてお会いになった時の事を、神様と呼んでいらっしゃったご様子。この辺りの国で、命の危機に咄嗟に出てくる強者を差す呼称が神様と言うのはあの国の、しかもかなり内部に食い込んだ人間しかおりません。それにあの時、エ・ランテルにいた時のアインズ様は、鎧で姿を隠し、全く本気では無いのにも関わらず見抜く、それはかなり高い能力やかなりの経験を持っていなくては出来ないでしょうから」
「「おおお…」」
二人は、義兄妹揃って感嘆の声をだす。ぐうの音も出ない見事な推理だった。恐らく証拠が足りなかっただけなのだろう。
「ふ…ふ、み、見事だ。パ、パンドラズ・アクター」
「お褒めに預かり光栄です! 父上っ!!」
アインズは苦し紛れに褒めては見たが、後ろにクレマンティーヌが居るので凄い気まずかった。何しろ自分は全く気付かなかった。パンドラズ・アクターに言われて初めて気づいた体たらくだった。
アインズにとってこの時、クレマンティーヌが(やっべ、動揺してる兄さん可愛い…うふふふふ)などと考えているというのは知る由もない事だった。
「…そして、彼女がもたらした情報から…シャルティアを洗脳した犯人が…それも個人まで特定が出来た」
「何と…! では、やるのですか?」
「うむ、その個人には当然、報復するさ。しかし…問題は次だ」
「問題…ですか?」
「ああ。スレイン法国に対してどうするか?…ということだ。お前ならどうする?」
「ふむ。私ならば…アインズ様の望む通りに」
アインズとしては、そう言われてしまうと困る。まあ実際にはそうして貰いたいというのは有るのだが、意見が欲しかったのだ。
「…ああ、そうか。私はな、パンドラズ・アクター、スレイン法国の民、無関係な民には慈悲を与えるべきだと思っている」
「…!」
無表情、卵のような顔にまん丸の口と目が有るだけのパンドラズ・アクターの顔に、アインズにも分かるぐらいの驚愕が浮かんでいるように見えた。
「…彼等は無実。確かに無知は罪とも言うが、しかし私は別に人類を根絶やしにしたいのでは無い。…それに、あの国はこのクレマンティーヌが生まれ、ここまで育った国なのだ。その場所を無に返してしまうのは…な」
「おお…!」「兄さん…そこまで私の事を…!」
クレマンティーヌ的にはスレイン法国なんてどうなっても良かったが、アインズがそこまで自分の事を考えてくれるという事がとても嬉しかった。
「…だからだ。あの国の…そうだな、恭順する者には慈悲を与えようと思っているのだ」
「…!…なる程…流石は…我が創造主…偉大なアインズ・ウール・ゴウン様…漸く…私にも理解が追いつきました…」
「…ん?」
(…理解?そんなに難しい事を言ったか? ただ単に人間に慈悲を与えるのをどう思うか聞きたいだけなんだが…)
アインズはどう言う事なのだろう?と不思議になり、パンドラズ・アクターを見てみるが、何やら考え込んでいるようだった。しかし、急にアインズの方に振り向くと、再び口を開いた。
「…フッフッフ…以前…デミウルゴス様と少しだけ会話した時には、帝国辺りからと私達は考えて居たのですが…まさかスレイン法国からとは…本当に素晴らしいっ!!流石は父上っ!!」
「…ん?」
「正に…一気に本丸を狙い撃つっ!!…という事ですねっ!?」
「…ぇ? う、うむ」
(本丸? カイレの事か?…何だか…嫌な予感がする)
「…かなり難しいでしょうが…いや…クレマンティーヌ様からの情報が有れば…行けるっ!!」
「そ、そうか? 協力してくれるか? クレマンティーヌ?」
「もっちろん。兄さんの為だもん」
「すーばーらしーいっです!! クレマンティーヌ様からの情報…そして…ここには、デミウルゴス様とアルベド様とっ!! 俺が居るっ!! …父上っ!! どうかっ!!この作戦っ!!我等守護者にお任せ下さいっ!!」
「…ふ、無論だ。元々そうするつもりだった」
(俺には無理!無理だからね!)
「…雪辱の機会来たれリっ、シャルティア様にもやって貰わねば…フッフッフっ!!フゥーァッハッハッハ!!」
「お、おう」
(雪辱…?まあ…良いか…というよりどうすれば良いのか分からん…)
「では、この後クレマンティーヌ様の紹介の折に、他の守護者の皆様へもオペレーションのご説明をお願い致しますっ!!父上!!」
「…ぇ?」
(は!? 俺がやるの!?)
「ん?どうなさいましたか?」
「あ、ああ…いや、他の守護者達は何処まで言えば良いのかと思ってな」
それを聞くと、パンドラズ・アクターは大袈裟に、雷に打たれたように体を震わせると、アインズを真っ直ぐ見返してきた。
「なる程…確かに我らに信を置けない、他の守護者の方々では理解出来ないかもしれないという気持ちは分かりますが…ご安心下さいっ!! 今回ばかりは我等を信用して頂きたく願いますっ!! そして説明ならば、私にして頂いた程度で充分っ!! アルベド様やデミウルゴス様は私以上の頭脳をお持ちの方々。必ずや父上の真の狙いを分かって頂けると思いますっ!!」
身振り手振りで熱く語るパンドラズ・アクターの余りの迫力に、アインズもクレマンティーヌも一歩後退していた。それ程の気迫、闘志。…別にアインズは信用していないなどとは一言も言ってはいなかったが…。アインズはその時、
(仲間思い…なんだな…そんな設定にしたっけ?…こいつは本当に分からん…)
と、誰かが聞いたら、『え?あんたにそっくりじゃん』と言われそうな事を考えていた。
「分かった、分かった。あの程度で良いのなら任せておけ。…さて、良い時間だな。お前は先にデミウルゴス達の部屋に行っていろ。私達も後から行こう」
「畏まりました、父上」
「…一応言っておくが、他の守護者の前では父上禁止だぞ?」
「くわしこまりましたっ!! ン〜父上っ!!」
パンドラズ・アクターがドアを閉めて出ていくのを見送ると、クレマンティーヌがポツリと呟いた。
「…大丈夫かな?」
「…分からん」
何時も読んで頂いている皆さんに大切な連絡が有ります。
前書きにもちょろっと書いたのですが更新が3月中旬ぐらいまでかなり遅れそうです。
実は私事なのですが、3月にとある国家資格を取る為の試験を受ける(受けさせられる)事になりました。(強制)
最初は楽観視していたのですが、これがとても内容が難しく、かなり勉強せねばどうにもならない強敵なのです。しかも試験料などは会社から出して貰っている手前、流石に勉強しないで惨敗する訳にも行かない…。
執筆と両立出来るかなーと、思ってたんですがやはり厳しいのです。ですので、試験が終わるまで一時休載とさせて頂きます。
不定期更新でやろうと思ってもみたんですが、勉強との間で両方中途半端になりそうなのでやはりここはどうせやるのならやってみようと思います。
何時も楽しみにしていただいている方、本当にゴメンナサイ!必ず試験が終わった3月中旬には続きを書いて行こうと思います!
こんな中途半端でぶった切るのは心苦しいのですが宜しくお願いします!
待っていてくれると本当に嬉しいですm(__)m