赤い骸骨 シャア専用モモンガ   作:なかじめ

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アインズ様初の未登場回。クレマンティーヌ視点ですね。

なので登場人物全員が勘違い中。

ガンダムネタは控えめです…というかほとんど無いですね…

一応感想でご指摘貰ったんですけど、プルチネッラの喋り方の特徴で○○は→○○わという喋り方をするキャラなので、少々読みにくいかもしれないですけどそのままにしておきます。


AOG-22S

クレマンティーヌは今日、初めて先人の教えを守れば良かったと思った。今クレマンティーヌは、自分の糞ったれな故郷、そこでいつか聞いた覚えが有る『好奇心猫をも殺す』だったか、そんな六大神が残したコトワザ、その通りの状況に陥っていた。

 

 

…直ぐになんとかなってしまったが…。

 

 

発端はエ・ランテルからの最短ルートで有るアベリオン丘陵の方から聖王国に行こう、と思ってしまったのが大間違いだった。その辺の風花聖典の奴を捕まえてスレイン法国から持ち逃げしてきた秘宝、叡者の額冠を返してしまおうと思っていたのだが、結局風花の奴らには会うこと無くここまで来てしまったのだ。その為、もし漆黒聖典の連中にバッタリ出会う…なんて事になれば最悪、秘宝を持ち出した反逆者として対処されてしまう。

 

(あーあ…まっさか、風花の連中が私を追って来ないなんてねぇー。エ・ランテルではチラチラ見かけたと思ったんだけどなぁ〜。…もしかして…法国で何か有ったのかな?…だとしたら…ざまあみろ!って感じなんだけどな~)

 

なんてお気楽に考え、それでも他の六色聖典と出くわすリスクを抑える為にエ・ランテルからの最短ルートでは有るがやや危険なルートで有り、スレイン法国からの最短ルートでも有るが、途中に今現在戦争中のエルフ王国が有る為聖典の活動が活発では無いアベリオン丘陵を抜けてのルートを選択した…のがどうやら運の尽きだったようだ。

 

エ・ランテルからしばらく歩き、エルフ王国を避けてアベリオン丘陵に入りまたもしばらく歩いていると、遠くに何やら天幕が沢山建ち並ぶ人工的な施設が目に入った。

 

「おんやぁ〜、祭りか何かですかねぇ?こんななーんにも無い丘で?物好きな連中が居るもんだねぇ…いや、この辺りにはオークの部族が有るって言ってたっけ…その天幕かな?…それにしてはなんか装飾が…綺麗すぎない?」

 

クレマンティーヌは独りごち、その天幕の方に近づいて行ったのだが、何やら自分の想像とは全く真逆の、むしろ自分の大好きな匂い、それと沢山の何者かが上げる啜り泣くような声が自分の五感を刺激してきた。

 

(…は?マジで何なの?…余計気になってきた!)

 

クレマンティーヌは別に、その啜り泣く沢山の人を助けたいとか、悪を懲らしめるとかは全く考えてはいない。むしろその行為を行っている方に加担したかった。スレイン法国では勿論の事、エ・ランテルでも余り()()()()()は満たす事は出来なかった。もしかしたらもしかすると、この聖王国は自分にとっての天国になりうるかもしれない。自分のやりたい事を全力で出来るかもしれない。そんな考えが頭にチラついたが、クレマンティーヌは直ぐに冷静になって良く考える。

 

(いやいやいや、こんな所で元漆黒聖典の奴が秘宝を持ったまま拷問紛いの事をやってる…とか確実に始末されるでしょ…。…それに、あの…エ・ランテルで会った、神様に言われた事…)

 

『戦いから離れろ、良い女になるのだな…』

 

(ウフフ…今考えると…あの人やっぱりかっこいいわ…名前ぐらい聞いときゃ良かったなぁ…あの人には戦いから離れろって言われちったんだよねぇ~)

 

今自分の顔は盛大にニヤけているだろう。そんな事を考えると少し恥ずかしいが…

 

(仕方ないよねー。あんな強い人に…めっちゃ優しくしてもらったんだしー。やっぱり神様だったのかなー?)

 

と、完全に脳天気な事を考えながらも、足は勝手に天幕の方に進んでいた。

 

(…ちょっとだけ。ちょっとだけだから! …一方的に殴られる痛さと怖さを教えるのは、戦いとは言わない…よね?)

 

そして、遂にその天幕が建ち並ぶ一帯に辿り着くと、その一つの天幕を覆っている分厚い布を少し捲くって覗いて見た。

 

(すっご! うっわー…エッぐい事やってるなー…皮が完全に無いよ?あの子供…痛そー、剥がされたばっかりみたいだね…。こりゃやっぱりオークの仕業じゃないな…オークだったらもう食われてるだろうし…。ってかこれ、何の目的が有るんだろう…ん?…あれ?)

 

そこでクレマンティーヌは違和感に気付く。何かがおかしいと。その何かとは『ここには被害者しかいない』という事だ。加害者側の、行為を行った方の人間が一切見当たらない。あの子供はまだ皮を剥がれてから間もない、血が滴り、近くにはそれに使われただろう『道具』の数々がそのまま置かれている。皮を剥いでいる途中の人間までいた、まるで何かに気づき、直ぐに立ち去ったように。それに気付いた時、クレマンティーヌの全身を悪寒が襲った。それと真後ろから何かが見ている。今クレマンティーヌは天幕に顔を突っ込んだままの姿勢なのだが、その背後を囲まれている。そんな気配を背中から無数に感じていた。

 

「くっ!」

 

息を吐くようなそんな声と共に、スティレットを抜刀しすぐ様後ろに振り向くと同時に声が掛かった。

 

「これわこれわ。いらっしゃいませ、お嬢さん! 我々ナザリックの為に自らを犠牲にし、他人を笑顔にしようとわ! 素晴らしい精神です!! 歓迎致しましょう!」

「ヒッ…」

 

 

目の前、息の掛かるような本当に目の前に居たのは、白い衣装に顔には烏の嘴を象った仮面を付けた、何かだった。その何かの右手の人差し指と親指はクレマンティーヌの持つスティレットの先端をつまんでいる。一応、力を込めて押し引きしてみるがピクリとも動かない。

今まで漆黒聖典として戦ってきた経験からしてこいつは人間じゃない、そう直感したクレマンティーヌだったが…勝ち目が無いのも同時に理解してしまった。そして…その周りにも無数の異形…悪魔だろうか? 自分ですら知らないモンスター達が嘴仮面の男と自分を中心に囲んでいた。周りの悪魔達だけなら何とかなるかもしれない…しかし、今目の前に居る奴は、あのエ・ランテルに居た赤い全身鎧の神様と同様、自分のようなたかが英雄程度では勝ち得ない領域に居る奴だと直ぐに理解してしまった。以前の彼女なら、それでも死にたくない一心で立ち向かったかもしれない、だが彼女の心は奇しくもエ・ランテルで出会った神様に一度完全にへし折られてしまっていた。何とか神様に応援してもらい、更に時間の経過と共に立ち直って来てはいたものの…一度折れた心は、かなり脆くなっていた。

 

「わ、わ私の皮も…剥ぐ…の?」

 

クレマンティーヌがそう聞くと嘴仮面が自分を舐め回すように眺めた後に残念そうに首を横に振りながら口を開いた

 

「申し訳ございません。どうやら皮を提供してくださるおつもりのようでしたが、貴女わ少々育ち過ぎでございます。ですので貴女わオークとの繁殖実験に参加して頂きましょう!」

 

それを聞き、更に心がへし折られたクレマンティーヌは自分の意思に反してペタンと尻餅を着いた。

 

「おやおや…どうしましたか? ふふふ、心配する必要わ有りませんよ? まずわ、どちらからいらっしゃったのですかな?」

「エ、エ・ランテル…」

「む? エ・ランテル…ふむふむ。これわ初めての外国産ですな。おお! なんと素晴らしい! また新しい実験のデータを取ること出来ます!」

 

カチカチとクレマンティーヌは奥歯がぶつかる音を立てながらその目の前に居る男の話を聞いていた。自分の意識が飛ばないように、万が一…億が一でも逃げるチャンスが有るかも知れない。まあ、自身の優秀過ぎる経歴が…そんな物は無いと明確に告げていたのだが。

 

「まあ、無理…だよね…。あーあ、あの赤い神様の言うことを聞いて居ればこんな事にはならなかったのかなー…私って…ホントについてない…」

(好奇心猫をも殺すだっけ…?正にその通り…あの糞兄貴が聞いたら…笑われんのかな…糞ったれ!)

 

と、やけっぱちになり愚痴のつもりでぼそっと言ったのだが…周りがざわりと揺らめいた。

 

「…赤い…今…何とおっしゃいましたか?」

「え?あ、赤い神様」

「エ・ランテルで出会ったのですか?詳しくお願い致します」

「そ、そうだけど…赤い全身鎧の神様に…チッ! 見逃して貰った上に応援までしてもらったんだよぉ!! お前らには関係ねーだろっ!!!」

 

最後は勇気を振り絞り怒りを込めて、最後の反撃のつもりで言い放った。クレマンティーヌは完全にやけっぱちで、何の効果も…同情なんて物も期待はしていなかったその行動が…今後の彼女の人生を180度変えてしまうとは、その時は全く考えていなかった。

 

「な、何と…皆さん彼女を…見張っていて下さい! 私わ、デミウルゴス様に連絡を取ってみますので!」

 

そう周りの異形に支持を出すと嘴仮面は、恐らく伝言(メッセージ)の魔法を使い何処かと連絡を取っているようだった。

 

「申し訳ありません、デミウルゴス様! 実わ……でして…はい。え!? デ、デミウルゴス様のお使いになっている天幕に? よ、宜しいのですか? 相手わ只の人間ですが…か、畏まりました! その様に致します!」

 

そして魔法を切ると、此方に向き直ってくる嘴仮面。

 

「申し遅れました。私わプルチネッラと申します。貴方わいと尊きお方に何やらご縁が会ったご様子。今までの数々のご無礼、お許し下さい!」

「…はぇ?」

 

余りにも急すぎる展開に、流石のクレマンティーヌも全くついて行けずに居たが、周りの異形に抱え起こされ、気付けば一際大きな見事な装飾施された天幕の中に案内されていた。

 

「でわ、少しお待ち下さい。至高の御方に只今我らの上司、第七階層守護者が確認を取っていますので!」

「は、はぁ…」

(な、何!? どういう事なの!?)

 

それから暫く、その嘴仮面、プルチネッラと共にいる事になるのだが…かの守護者統括、アルベドが心配していたようにプルチネッラでは怯えさせてしまったのかどうかと言うと…実際にはそんな事にはならなかった。

 

「じゃ、じゃあ、あれは人間の子供の皮を剥いで、羊皮紙を作ってるっていうの!?」

「ええ。その通りですよ、クレマンティーヌさん。」

「すっごい! 私でもそんな事考えた事無かったわぁ…。そのデミウルゴス様っていう人は…天才ね!!」

「その通りです! あの方わ天才! しかし、我々の至高の主人、いと尊きお方わ…更にそのデミウルゴス様も超越されるといいます! ああ!何と素晴らしい!」

「うへー!すっごい!」

「本当に素晴らしい方です!」

「へえ…あの皮を剥ぐの…ああ、私もやってみたい!…んー、というかさぁ…私にペラペラ喋っちゃって良かったの?」

「ええ、貴女わここを見てしまったので、どちらにせよ我々の本拠地で有るナザリックに連れて行き楽しく過ごして頂くか、ここで死ぬまで楽しく過ごして頂くかの選択肢しかございませんので何の問題も有りません! どちらにせよ、笑顔を絶やさずに過ごせることをお約束いたしましょう!」

「あっはっは…聞かなきゃ良かったなー…」

 

何故だか…妙に馴染んで居た。恐らく、元々自分より強い神人と共に有り、人外の強さが存在する事が当たり前だった事。そして、それより更に強いだろうアインズとエ・ランテルで出会い、更にはその強さを肌で感じてしまったクレマンティーヌの中の何かが変わっていたのだろう。

異形に対する嫌悪感も、糞ったれな国、スレイン法国の連中への反骨心と、ズーラーノーンにも荷担し、アンデッドを見慣れていた事で殆ど無くなってしまったと言って良かった。

そうして、しばらくプルチネッラと談笑していたクレマンティーヌだったのだが、何やらいきなり目の前に、漆黒の渦、見ようによっては扉のような物が出現した事で、多少警戒を強めた。

 

「な、何?…これ、扉…なの?」

「これわ…」

 

その黒い扉から、ジャッと音を立て、地面にスラッと長い脚が飛び出してきた。次にクレマンティーヌが思った事は…感嘆だった。

 

(やっべー、超美人が出てきたよ…すっごい美人! でも…何これ?)

 

その超美人はプルチネッラを一瞥し、次にクレマンティーヌのほうを見て微笑むと、優雅な歩き方で近寄ってくる。クレマンティーヌは何時でも武器を取り出せるように少し身構えるが、そんな心配は全く不要だった。その超美人は目の前まで近づくとクレマンティーヌの前に膝を着いた。

 

「あ、あれ?な、何?」

「ナザリック戦闘メイド、プレアデスがユリ・アルファ、御身の前に」

「へ…?」

 

クレマンティーヌは全く意味が分からず、そんな返事しか出来ない。そのまま固まったままで居ると、ユリと名乗ったメイドはプルチネッラの方を向き口を開いた。

 

「守護者統括アルベド様より、プルチネッラ様に代わり、至高の御方の妹君をお世話をせよ、という御命令を受け、私はここにやって来ました。プルチネッラ様、不服は有りませんね?」

 

そうユリが、何とも無いように言った言葉だったがプルチネッラはまるで雷に打たれた様に全身を震わせていた。

 

「い、妹…君?」

「はい。その通りです。至高の御方が仰った事ですので間違いは有りません」

「わ、私わ…至高の御方の妹君になんと無礼な事を…クレマンティーヌ様!!」

「ふぁいっ!?」

 

クレマンティーヌは突然大声を自分に向って叫んだプルチネッラに変な返事で返してしまう。

 

「どうか!?どうかこの私の命だけでお許し頂けませんでしょうか!? 他の者の命はどうか!! 本来ならば全員の命で無ければいけない事わ分かってわいるのですが…従業員が居なくなってしまってわ皆を…笑顔にする事が出来なくなってしまいます!!」

「え、えぇ…」

「プルチネッラ様、そう言った事は至高の御方がお決めになる事です。貴方は処罰をお待ちになってください」

「うぃっ!? い、いや!処罰とか要らないから!ここに無断で近寄った私が悪いんだから!!」 

 

別にクレマンティーヌはプルチネッラの事を恨んでは居ないし、中々興味深い話を聞けて正直楽しかったというのも有る。それに…処罰をしろ!なんて言って誰かから恨みを、こんな恐ろしい奴の仲間から恨みを買うなんて真っ平ゴメンだった。

 

「おお!何と寛大で慈悲の有るお言葉か! ありがとうございます!これで私わ、引き続き皆を笑顔にする事が出来ます!」

「ええ、本当にお兄様に似て寛大で器の大きい御方…私からも礼を言わせて頂きます」

 

そう言って頭を下げる二人を前に、さっきからクレマンティーヌは一つの事が頭に引っかかっていた。

 

(い、妹…、兄?)

「え、えーと…私の兄が…何かしたの?…ですか?」

 

とクレマンティーヌがおっかなびっくり試しに聞いて見ると、代表してユリと名乗ったメイドが応えた。

 

「はい。貴方のお兄様は我々の偉大で至高の主人。私達が未来永劫仕えるべき偉大な御方です」

「…なっ!? は…はぁ、そうですか…」

(…あ、あんのクソ野郎…! 何やらかしやがった!?)

 

クレマンティーヌの心の中は、困惑から怒りへとシフトした。どうやら今自分は、あの忌々しいクワイエッセの奴のせいでいろいろ大変な目に遭っているらしい。しかし全く意味が分からない…どうやったらあのクソ真面目を絵に書いた奴が悪魔や異形の主人になれるのだろうか?まさかテイムした?と一瞬頭に浮かぶが流石に有り得ないだろう。それに彼等はそう言った感じでは無く、心から心酔しきっているようだった。

 

「それと…クレマンティーヌ様と仰るのですね? 御尊名伺いました」

「あ、はい。」

 

またしても深々と頭を下げて丁寧な言葉使いで話しかけて来るユリに対し、色々と考え込んでいたクレマンティーヌは完全に素に戻り、気の抜けた返事を返すが、ユリは全く気にしない様子でプルチネッラに向き直った。

 

「では、クレマンティーヌ様の事は私に任せ、貴方はこの施設の警備に回って下さい。守護者統括のアルベド様から、一旦作業を中止し警戒レベルを最大に引き上げろとの御命令を預かってきました。」

「畏まりました。」

「…彼女がここにいる間、鼠一匹通さないようにして下さい。」

 

クレマンティーヌは、二人の会話に耳を向けて、何となく話を聞いていたが、どうやら鼠一匹通さないレベルの警備をするらしい。これでどうやら逃げるのは不可能になってしまった…。

それと、このメイドなら何とかなるかと先程から観察しているのだが、まっっったくと言っていい程隙が無い。自分の武技を全部乗せした攻撃でも、華麗にカウンターをぶち込まれる未来しか見えなかった。

 

(…ダーメだ…このメイドもとんでも無いわ…。敵意が無いのが救い…かな…?)

 

「でわ、ユリ様。後わお願い致します」

 

そう言い、プルチネッラはユリに頭を下げると、クレマンティーヌの方に向き直り、再び頭を下げる。

 

「クレマンティーヌ様、それでわご機嫌よう」

「あ、はい……あーそれと、また色々聞かせてねー!ああ言う事誰かと話したのは初めてだから結構楽しかった!」

「おお! 流石わ御方の妹君! 人の身で有りながら悪魔の行為を楽しいとわ! 私で良ければ何時でもお相手しましょう! 最後に貴方の笑顔で見送って頂けるだけで…私わこれ以上なく満たされました!」

 

と、別れの挨拶をしてプルチネッラは天幕から出ていった。

 

「はー、中々面白い人だった…ん?」

 

と、クレマンティーヌがその天幕の中に居るもう一人に目を向けると何やら準備し始めていた。

 

「えーと…ユリ?さん? 何を?」

「向こうの準備が出来たら恐らく迎えが来ると思います。それまで紅茶は如何ですか?」

「こ、紅茶…?」

「ええ、守護者の1人で有るシャルティア様から飲ませて上げろと言われお預かりして来ました。…ああ、大丈夫ですよ!人間でも飲める本物の紅茶ですから! 血などは入っていません、ウフフ!」

 

そう朗らかに笑うユリの笑顔は、同じ女性で有るクレマンティーヌでも惚れそうになるくらい美しい笑顔だった。

 

「あー…じゃあ、頂きます、ユリさんは飲まないの?」

「ボク…ゴホン!申し訳ありません、私は飲食は不要の身体なのでお気遣い無く、さあ此方です。」

 

(ぼ、ボクっ娘!! な、何か…かわええ…!)

 

そんな、完璧な美人の何だか可愛らしいギャップを見つけ、いけないドアを開き掛けていたクレマンティーヌの前に、カップに入り、湯気が立ち上る紅茶が差し出された。

 

「…美味しそう。頂きます」

「ええ、どうぞ」

 

差し出された紅茶を飲みながらクレマンティーヌはユリに幾つか質問をしてみることにした。

 

「え〜と、ユリ…さんはクソ…じゃない兄の事をどう思ってるんですか?」

「仕えるべき主人。とてもお優しく頭脳明晰。更にはこの世界でも恐らく最強の御方です。」

「…う、嘘でしょ?あんなク()…兄が?」

「いえいえ、今のボ…私の言葉には嘘偽りはございません。貴女はお兄様に良く似て、とても謙虚なのですね」

 

そう、なんの迷いも無く真っ直ぐな目で見つめられながら言われ、あり得ない事だが彼女はそう信じ切っているらしい。

 

(優しいとか頭脳明晰はともかく…最強って…あり得ないでしょう! 一対一なら絶対に私の方が強いのに…私が法国を離れて少ししか経ってないのに超絶パワーアップして異形種の頭領になったっての!?…もしかして風花が追ってきてなかったのって…)

 

「クレマンティーヌ様?」

「あ、ああ、済みません…えーと、この後私はどうなるんですか?」

「お兄様の準備が出来次第、此方に迎えが来る手筈になっています。」

「…じゃじゃあ、兄に逢えるって事ですね?」

「はい。勿論でございます。」

 

その言葉を聞き、クレマンティーヌは更に考えをシフトした。もうどうなっても良いから取り敢えず兄に会ったら一発ぶん殴ってやろう、武技を全て発動して渾身の一撃をクソ野郎に叩き込んでやると。今更あの兄が何の用向きなのか知らないが、兄に従うのだけはまっぴら御免だ。しかし、従わなければ恐らく先程プルチネッラが言っていた通りここからまともに生きるのは不可能だろう。ならば最期に、一矢だけでも報いてやる。クレマンティーヌはこの先どうなるか分からないがそれまでは大人しくしていよう、と考えた。

 

「ウフ、楽しみだなー!!」

「フフフ、美しい兄妹愛ですね。」

「…えっ!?…あは、あっはっは!!」

「ああ、そうだ。お茶菓子もいかがですか?」

「おお! めっちゃ美味そう!」

「どうぞ、お召し上がりになってください。」

「はーい!頂きまーす!…これ、うっめ! おいひいよ! ユリふぁん!」

「ウフフ。お兄様は飲食が不要の方、こうしてお出ししたお菓子を美味しいと言って貰えるのも良い物ですね」

「…ぇ?」

 

(い、飲食不要? もしかしてスルシャーナ愛が酷すぎてアンデッドにでもなった…?…まあ…会えば分かるか…)

 

そうして、美人に見つめられながら少し緊張しつつもお菓子と紅茶に舌鼓をうっていると再び目の前に漆黒の扉のような物が現れた。

 

「ま、また?」

「お迎えが来られたようですね。シャルティア様!」

 

ユリが黒い靄に向って声をかけると中からドレスを着て頭には同じ柄の大きいリボンを着けた銀髪の、絶世の美少女が現れた。

 

「お待たせしんした…おお! この子がアインズ様の妹君でありんすか!?」

「ア、アインズ?」

「その通りでございます。この方こそアインズ様の妹君、クレマンティーヌ様です!」

「おお! 妾の予想通り…なかなか可愛い子でありんすねぇ!…ウヒヒ」

「ゴホン!」

 

手をワキワキしながらクレマンティーヌに近づいて来るシャルティアに向けて、ユリが一つ咳払いをした。そのユリの目は完全にジト目だった。

 

「む、ユリ…なんでありんすか?その目は…ああ、そうでありんした。申し遅れんした、妾は第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンと申しんす。以後宜しくお願いしんすぇ、クレマンティーヌちゃん!」

「は、はい…わ、私はクレマンティーヌです…。宜しくお願い…します…ってなにを!?」

 

シャルティアと名乗った少女は、ユリの咳払いで態度こそ改めた物の、行動は止まらなかった。クレマンティーヌに抱きついて来た…だけで無くいろいろ…撫で回しても来た。

 

「ウッフフフフ…そんなに怯えなくても良いでありんすよ、怖かったでありんすねぇ…、大丈夫でありんすよ、クレマンティーヌちゃん!…おんしは私が…私が守りんすから…心配しなくても大丈夫でありんす…グヘヘ…ほーれ良い子良い子、よしよしでありんすぇ…お、これはなかなか…」

「わちょっ…え!?いいっ!?」

 

貴方に怯えているんです、とはクレマンティーヌは言えなかった。今現在クレマンティーヌは完全に羽交い締めにされて自分より小さい美少女に頭…とか色々な所を引き続き撫でられていた。ささやかな抵抗をしていたが全く効果がない。

 

(な、なんちゅー馬鹿力なの!?ぜんっぜん振りほどけない!!…そ、そこ触らないで!!)

 

「うぃっ!? ちょおっ、そこは!! ユリさーん、ちょっと…助けて欲しいなー…」

「シャルティア様、いい加減にしないとアーちゃ…アウラ様に報告しますよ?」

 

ユリがジト目のままシャルティアに向けてそう言うと、バッと音を立ててクレマンティーヌの目では追えないスピードで離れて行ってくれた。

 

「ぐぬぬ! チビ助は関係無いでありんしょうが!」

「しかし、至高の御方の妹に対してその態度は余り良い事とは思えませんが?」

 

ユリの顔は真剣だ。少し怒りが混じって居ると言っても良かった。

 

「…ああ、おんしは聞いていんせんでしたね」

「?」

「妾がここに来る前に、その至高の御方自ら仰ったんでありんすよ。『我が妹とは言え、彼女は普通の人間。余り畏まったりすれば疲れてしまうだろうから対等に接してやってくれ』と。主の声に従うのが忠信の務め。ならば…妾は何か間違っているでありんすか?」

「…なる程、流石は至高の御方。そのようなご配慮までされていたとは…。いえ、シャルティア様は何も間違っていません。差し出がましい事を言い、申し訳有りませんでした」

 

ユリはそう言ったが、クレマンティーヌからすると『余計な事を言いやがって! あの野郎!』と至高の御方の配慮を恨む気持ちしかなかった。

 

「知らなかったんでありんす、仕方ないでありんすよ」

「ありがとうございます。…まあ、それを踏まえてもシャルティア様はいささかやり過ぎかと思われますが…」

「むう…ごっほん!…まあ、戯れはこのぐらいにしんしょう。クレマンティーヌちゃん」

「は、はい。」

 

クレマンティーヌは名前を読んだシャルティアと漸く落ち着いて対面する。やはり、相当な美少女だ。

 

(すっごい可愛い…妹にしたいタイプ。…変態じゃなければ。)

 

そんな事を思いながら何を改まって言ってくるのかと思って待っていたのだが…

 

「私の事はシャルティアお姉ちゃんと読んでくれて良いでありんすよ!」

 

どうやら妹になるのはこっちらしい。

 

「えぇ…は、はあ…」

 

訳が分からないので気の抜けた返事をしたのだが、何やらシャルティアはクレマンティーヌに対し何かを待っているように見つめてきていた。

 

「も、もしかして…えと、シャ、シャルティアお姉ちゃん?」

「ぬおっ! これは凄い!! やっぱり妹は良いでありんすなぁ、ユリ!!おんしは何時もこれを味わっていたのでありんすか!?病みつきになりそうでありんすよ!!やっぱり…ペロロンチーノ様はやっぱり正しかったでありんす!!」

「…ボ、ボクも妹の事は可愛いですけど、シャルティア様とは絶対に違う可愛いですよ」

「ふぅ…まったく、ユリはつれないでありんすね。」

「あの…何でお姉ちゃん?…なんですか?」

「ふっふっふ、それは妾と貴方の兄上様がそういう仲で有るんでありんすから…当然でありんしょう!将来妾は義理の姉になるでありんす! 今から練習しておいて損は無いと思いんすよ!」

「…ぐふっ…」

(こんな…小さい子が好きだったのか…あの野郎…)

 

クレマンティーヌは全く想像しなかった所から知りたくもなかった兄の性癖を不意打ちで知らされ、想定外のダメージを受けていた。

 

(…と言うことは…この人は男も女もいける口って事…?…こんな小さいのに?…すげぇ…)

 

「ウフフフ…クレマンティーヌちゃん、お姉ちゃんと、もう一回呼んで…ん?」

 

だらしない笑顔で話しかけてきたシャルティアが口を閉じたのでどうしたのかと思っていると、どうやら〈伝言(メッセージ)〉の魔法を受信したらしい。

 

「何でありんすか、アルベド。 今良いと『『こんの変態ヤツメウナギっ!! 抜け駆けしやがって!! くだらねー事言ってねーで早く帰って来いっ!!』』

 

「み、耳があああ…キーンて…キーンて…」

 

凄まじい大声だった為、ユリやクレマンティーヌにも向こうの声が聞こえたような気がした。シャルティアも余りの大声だったのか、耳がキーンとなっているようだ。

 

「「ぐうぅ!! うるっせーんだよ!!大口ゴリラ!! てめーの地獄耳は次元も超越すんのか!? もう少ししたら行くから黙って待ってやがれ!!」」

 

そこで魔法が切れたようだった。

 

「なにが早く帰って来いだ、あの野郎っ!! 全く!! 本当にうるさい女でありんすね!! ん?」

 

シャルティアが振り向くと、そこにはカタカタと震えるメイドと至高の御方の妹がいた。

 

「おやおや、全く…アルベドのせいで怯えてしまったでありんすね。可哀そうに…大丈夫でありんすよ、おんしは死なない、妾が守るんでありんすから…」

 

そう優しく言い、諭してくる…だけではなく何故か無駄なボディータッチもしてくるシャルティアに対し、大体は貴方のせいです、ともクレマンティーヌは言えない。どうやらこのシャルティアという美少女は自分如きではものの1秒でミンチより酷い事にされそうな程、話にならない実力差が有るのを先程抱きつかれた時に感じ取っていたからだ。それに…先程からチラチラと見える長いキバと赤い目…

 

「シャルティアさんは…「お姉ちゃん!」

「え?…シャルティア、お姉ちゃんは吸血鬼…なの?」

「そうでありんす。珍しいでありんすか?」

「え? は、はい。」

(男も女もいける吸血鬼…レベル高い…)

「面白いでありんすね、ナザリックでは人間の方が珍しい…いや居ないでありんした。ユリの妹だけしか」

「そうですね。」

「え?ユリさんは?」

「私はデュラハンです、この通り」

 

ユリはそう言いながら、首のチョーカーを外し首を持ち上げる。

 

「うわー…あはは…なる程…」

「では、ユリ」

「はい、何でしょう。シャルティア様」

「これに、クレマンティーヌちゃんを着替えさしてくんなまし」

 

シャルティアは空間から小さめの洋服ケースを引っ張り出してユリに手渡した。

 

「これは洋服ですか?…誰がお選びに?」

「何でありんすか?その目は?」

「この洋服は誰がお選びに?」

「…むぅ! 大丈夫でありんすよ! それはアルベドが選べとアインズ様からの御命令でアルベドが選んだ洋服でありんすから!」

「なら安心ですね」

「なんか釈然としないでありんす!」

「あ、あんの〜…」

「何でしょう、クレマンティーヌ様」

「アインズ様…と言うのが…私の兄の名前なんですか…?」

 

そうクレマンティーヌが聞くと何やら不思議そうな顔をしたシャルティアとユリが目を合わせて首を傾げていた。だが直ぐに何かに気づいたシャルティアが此方に振り向くと口を開いた。

 

「ああ、今はアインズ様と名を改めたのでありんすよ、今はアインズ・ウール・ゴウンと名乗っていんす」

「ああ、なる程。」

「…そ、そうなんだ…ですか」

(名を…改めた? あの真面目バカが?)

「ではクレマンティーヌ様、お召し物を着替えましょう。」

「な、何で着替えなんて…」

「貴女はこれから至高の御方に会うんでありんす、お兄様に恥をかかせぬようにきちんとした格好をするのは当然。他の守護者の前にも出なければならないでありんすからね」

「は、はぁ…分かっ…分かりました」

 

今、シャルティアの言葉には聞き逃せない単語が有った。『他の守護者』と確かにシャルティアは言ったのだ。それはつまり…

 

(こ、こんな強いのが…他にも居るっての!?マジかよ!? え?ちょっと待って…これって…割りかし…世界やばくね?)

 

以外と…自分だけでは無く、この世界自体がどうやら彼女の主で有り、自分の兄で有るクワイエッセの機嫌次第で割りとヤバイと言うことに、漸く、うっすらとだがクレマンティーヌは気づいてしまった。

 

(やっぱり…殴るのやめとこーかな…)

 

そんなこんなで、少しだけ冷静になったクレマンティーヌだった。

 

「さ、シャルティア様。一度退室して頂いて宜しいですか?」

「…ユリ、何ででありんすか?妾も女性、彼女も女性。ならば何の問題も無いでありんしょう?」

「ならその鼻の下を伸ばした顔をどうにかしてください」

「ぐぬぬ!」

「ゆ、ユリさん…だ、大丈夫ですから…」

「クレマンティーヌ様が言うのであれば…」

「いよっしゃ!!…ん?いやいや、何でも無いでありんすよ?」

 

ガッツポーズをしながら白々しい事を言っているシャルティアと、それをジト目で見ているユリに少し愛想笑いをしているクレマンティーヌ、一見平和そうに見えるがクレマンティーヌの心境は複雑だった。

クレマンティーヌはシャルティアの前で着替えるのはちょっと嫌だったが、シャルティアに機嫌を悪くさせて自分に良いことなど一つも無い。少し我慢をしようとクレマンティーヌは決意した。この怒りは全て奴にぶつけてやるとも決意した。

 

(胃が…胃が痛い…。何であたしがこんな我慢なんて…。あの糞ヤロー…絶対にぶん殴ってやる…)

 

そしてこの後、超絶美少女に舐めまわすように見つめられながら、超絶美女に着替えさせられるという辱めを受けた事で、先程の決意は宿命に変わった。

 

(絶対に…ぶっ飛ばす…! 泣くまでぶっ飛ばす!! 待ってろよぉぉぉお!?)

 

クレマンティーヌの、自らの兄への…最早愛を超え…憎しみをも超越し…宿命となった想いは届くのだろうか…。

 

 

 

まあ、届くわけ無いだろう、全てが勘違いなのだから。




アインズ様が出ないと不安になる…有ると思います。
突っ込み不在の恐怖…

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