シャア大佐のコンプレックスは3つ、マザコン、ロリコン…そしてシスコン。三冠王ですね。今回からはシスコンです。
過去最長。
???『削れる物は削り、入れなくて良いものは入れない! 文字数クリーン作戦の意味も分からずに!』
アインズは行動を開始した守護者を見届けると自分も行動を始める。
先ずは…
『ナーベラル、我々は一度エ・ランテルに戻るぞ。』
『ア、アインズ様っ!?か、畏まりました!!…
『ん?』
アインズは共にエ・ランテルに戻る為、ナーベラルに〈
『何か有ったのか!?』
何しろ今は厳戒態勢だ。今現在は地表部にマジックアイテム、グリーンシークレットハウスでコテージを作り上げ、そこに玉座の間にいたユリとシズ、ソリュシャンを除いたプレアデスとハムスケ、それから高レベルの隠密に特化したシモベが何体か詰めて警備に当たっている筈だ。何らかの敵が攻めて来た場合プレアデスには交渉と敵の強さや出方の調査を任せ、プレアデスだけでの対処が無理ならシモベに任せてナザリック内に撤退させる。その後はアインズと守護者でナザリック内でトラップやシモベなどを総動員して迎撃する、という手筈になっていた。ユリが玉座の間で仕事をしていた為、地表部に居る面子に…若干の不安は有ったが…。
『い、いえ何も有りません!! とても平和です!!』
『うん?そ、そうか。ならいいのだが…。 今は地表部だな?』
『はいっ!!その通りでございます!!ア、アインズ様…少し』
何だか平和と言う割には、アインズに対して焦っているような態度で先程からナーベラルは話している。
『うん? 直ぐに行くから待っていろ。』
『畏まりました! す、少しお待ちして…
『は、剥ぐ…?…まあいい、そちらに行くぞ。』
『ちょっ待』
そこで伝言の魔法を切り指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの能力を発動させる。そして地表部に転移すると、一応ノックし、反応が返って来る前にコテージの扉を開いた。
「何を……うん?」
アインズがコテージの中に入ると、ナーベラル、ルプスレギナ、エントマの三人が背中に何かを隠した所だった。隠したつもりだろうが、ハムスケの巨体が三人で隠せる訳も無く、尻がまるまるエントマの横からはみ出していた。
「アインズ様ぁ、ご機嫌麗しゅうでございますぅ!」
「アインズ様、シャルティア様の奪還、お疲れ様でございました!」
「アインズ様、お、お待ちしておりました。」
「
と、三人ともアインズの目を見ないで元気に挨拶してきた。何やら言葉使いと声色がおかしかったが…。それと三人の後からくぐもったハムスケの声が聞こえてきたが…。
「…何を隠しているんだ?…まあ…ハムスケなんだが」
「い、いえ!な、何も…あ!」
「狭いでござるよ!! 殿ぉ〜!!」
ナーベラルが何かを言う前に、その巨体で三人のメイドの隙間を器用に縫いながらアインズの元に駆け寄ってきた。
「ハムスケ…?…何だ、これは?」
アインズがまず目に止めたのは、背中に貼られた大量のシールだった。一円を象ったシールがハムスケの背中、頭の下の辺りに大量に貼り付けられていたのだ。
「ん〜、これは…一円か? …これには見覚えが有るぞ…。」
「あ、あの〜、アインズ様?それはですね、何とも言い難いと言いますか…」
「そ、そうなんですぅ。えっとぉ…」
アインズが考えていると、ルプスレギナとエントマも何かを言い訳するような口調で話しかけてくる。
「ふ、シズか?」
アインズがそう言うと、三人共にギクウっ!とでも言うように目を逸らす。
「ククク、なる程!妹を私から庇おうとしていたのか!」
「「申し訳ございません!!アインズ様っ!!」」
三人が綺麗に台詞と動きを揃えて頭を下げてくるが、アインズとしてはそこまで頭に来た訳では無い。というか、妹を庇う、と言う事に少し微笑ましい物を感じるぐらいだった。特にシャルティアとの戦いから張り詰めっ放しの今は有り難いぐらいだった。
(ん? あ、あれ? お、おかしいな…。俺は別に姉妹萌えとかシスコンじゃ無いのに…無かったのに! 何でこんなに?…まぁ、良いか、仲が良いのは悪い事じゃないし。)
「フッ! いや、良い! お前たちの可愛らしい姉妹愛に免じて全てを許そう!…ただし、今回だけだぞ?次からは正直に言うように。」
「「アインズ様…!」」
「その代わりに、この事は我々だけの秘密だ。良いな?」
「「ありがとうございます!!アインズ様!!」」
その返事を聞くと、周りを見回してハムスケや隠密で姿を消している…アインズには丸見えだったが…シモベ達にも声を掛ける。
「ハムスケも、他のこの場にいる者も良いな?」
「わかったでござる!」「畏まりました。アインズ様。」
ハムスケやシモベ達も頷く。これで良いだろう。アルベドなどにバレたりすればマズいが、ここにいる者だけなら大丈夫な筈だ。
しかし、それは良いとしてこのままではハムスケを連れて行けない。どうするか、とアインズは考えるが、すぐに考え直した。
「別にこいつは連れてく必要無いな。直ぐに戻る気だったし。」
「殿?」
「お前は留守番だな。後は…ルプスレギナ!」
「は!」
「シズを呼んで、ハムスケの背中のシールを剥がさせておけ。…一応、貼りすぎるなと注意も忘れずにな。」
その一言で、プレアデスの三人が不安そうな顔になる。恐らくだが、シズがアインズの怒りを買ったのでは?と思ったのだろう。
「か、畏まりました!」
(うーむ、一応怒ってはいないぞ?と言うのを分かりやすく言っておくか…。うーん…あ!これでいいか!)
「…フッ、そうだな。それと、私が戻るまでの間ハムスケの世話を頼む、そうシズに言っておいてくれ。」
その一言を聞き、三人は目を見合わせると笑顔になり、すぐにアインズに向き直る。
「「私達の妹を気遣って頂き、ありがとうございます!!」」
「うむ! では行くぞ、ナーベラル。」
「は!」
そうして、出発する前に一悶着有った物の、ナザリック地表部はとても平和だった。
アインズは魔力が未だ不十分なので、節約をかねてシャルティアに〈
(何でだろう…エロゲに触発されたペロロンチーノさんに『妹って…素晴らしいんだぜ?モモンガさん…』とか言って肩を掴まれて熱弁されたのを思い出すな。あの気持ちが少し分かった気がする。)
なお、その後そのエロゲのシークレットキャラの声優がぶくぶく茶釜という事が判明した事で、無事ペロロンチーノの中の妹ブームは鎮火された模様。
「アインザック組合長、吸血鬼の討伐の件、無事に完了しました。」
「なっ!? も、もうかね!?」
アインズもとい、モモンが組合に入ると、組合に居た全員が驚愕に目を剥き、受付嬢が組合長を呼びに全力ダッシュをするという珍しい光景を見た。その後にやって来た組合長に報告をすると、今の反応である。
「ええ、吸血鬼は完全に消滅させてしまったので証拠は残っていませんが、戦場跡をみて頂ければ分かると思います。」
「戦場跡…かね?」
「ええ、あの魔封じの水晶を暴走させて辺り一面ごと吹き飛ばしたので。」
「な、なんと…!」
その後、組合長に、応接室のようや部屋に連れられて労をねぎらわれると、モモンとナーベラルに組合長が二つのプレートを差し出して来た。
「異例も異例、通常で有れば有り得ないが…君達は今日からアダマンタイトだ。過去最速の昇進だな。おめでとう!」
「ありがとうございます。」
「それと、君達に礼を言いたいと言う者が居るのだが…会って貰っても良いかね?」
アインズはそれを聞き、まさかシャルティアを洗脳した奴では?と考える。タイミング的にあり得るかも知れない。横に居るナーベラルも少し警戒しているようだった。アインズは指輪を何時でも発動できるように準備しながら一応聞いてみる。
「……誰でしょう?」
「何と言えば良いか…今回の吸血鬼の目撃者とでも言えば良いのか…。吸血鬼と遭遇し、戦闘になったのにも関わらず生き残った唯一の冒険者だ。組合に吸血鬼の出現を知らせてくれた冒険者と同じチームの女性でね。何やら君に礼を言いたいそうなんだ。」
「ほぅ。…それならば是非とも。」
(良いじゃないか! シャルティアが何をしてたのかこれで分かるかも知れない!!)
「そうかね! 彼女の仲間はやられてしまったが彼女が生き残ってくれたお陰で吸血鬼の詳細な情報を持ち帰る事が出来、君を派遣する事が出来た。彼女のお陰で被害が拡大せずに済んだのだ。君が表の英雄なら彼女は影の英雄と言った所かな…。そんな彼女の希望、君に礼を、と言う事ぐらいは聞いてやりたくてね…。」
「なる程…了解しました。」
それを聞くと、満足そうにアインザック組合長はニコリと笑い、部屋を出て行く。
「では、呼んで来るので待っていてくれ。私は外で待っているよ。」
「ええ、ありがとうございます。」
『ナーベラル、一応お前は黙っていろ。』
『畏まりました。ですが、何故ですか?』
仲間を喪ったばかりの人を虫けら呼ばわりしたりするのは流石に可哀想だからです。…と言っても人間を見下しているナーベラルは多分聞いてくれないだろう。別の言い訳をアインズは咄嗟に思いついた。
『な、何か怪しい点が無いかじっと観察し、あ、後で私に教えて欲しいからだ!』
(苦しい!この言い訳は苦しいよ!)
しかし、ナーベラルは頼られたのが嬉しいのかとても良いドヤ顔になると
『私にお任せ下さい! 何か怪しい真似をしたら…俗人が天才の真似事などするとどうなるか…その身に教えてやりましょう…』
と、自信満々で答えて来た。アインズは自分に言われているようで、やっぱりスイッチの入ったナーベちゃんは、怖い…としみじみと思いながら、女性が入ってくるのを待っていた。
それから少し待つと、ドアをノックする音がした。
「どうぞ。」
そう、ドアの向こうにモモンが声を掛けると、ドアが空き、何処かで見たような女が入ってきた。
「し、失礼します。」
「…そうか、君だったのか。」
その女性は、初めてエ・ランテルに来た時に泊まった宿でポーションを弁償させられた女性冒険者だった。
(本当に、世界は狭いな…。こんな所で再びこいつと出くわすとは…。)
「は、はい。えと、あの時は弁償しろなんて言って本当にごめんなさい。」
と、その女性冒険者は頭を下げてくる。アインズ的には過ぎた事で有り、あの一件のお陰でンフィーレアとリイジーというポーション職人をナザリックの支配下に置けたとも言えるので、寧ろ感謝したいぐらいだった。
「構わないさ。しかし、君は私に謝罪では無く、礼が言いたかったのだろう? どういう事なんだ?」
「じ、実は…」
その後彼女、ブリタという女冒険者から聞いた話しを掻い摘むと、彼女は野盗の塒を調査、場合によっては襲撃する依頼を受けて仲間と共に現場に向かったのだが、現場に着いた途端、野盗の塒から吸血鬼が飛び出して来て仲間は全滅、ブリタも殺される寸前に、吸血鬼にとってはポーションがダメージになることを思い出し、ポーションを投げつけたのだという。そのポーション自体はダメージにならなかったが、何やら吸血鬼の様子が一変し…その後は気付いたら野盗の塒の中に有る女性を閉じ込めて置く牢屋に、野盗に捕まっていた女性達と共に閉じ込められていたのだという。ブリタはその時の恐怖が原因か、吸血鬼の顔や容姿は朧気にしか覚えていないらしい。
「…あなたから貰ったポーションが無ければ…私も…うぅ。」
「なる程な…」
(シャルティアを洗脳した者の情報は無しか…。大した情報では…うん? いや、これは使えるんじゃないか? それに…こいつがシャルティアの顔を覚えていないというのも好都合だ!)
アインズは、少し落胆したものの、この情報は全く違う方面で使える情報になる事に気付いた。その違う方面とは、シャルティアのやった事に対する言い訳という方面だ。
「…もしかしたら…もしかしたらだが、その吸血鬼はその野盗に囚われていた女性を救う為に野盗の塒に襲撃をかけたのかもな…」
(これで…どうだ? 結構筋が通って無いか…?)
「え? でもどうして私達を? 冒険者まで殺されたんですよ!?」
「落ち着いて聞いてくれ、もしかしたら君達は野盗の仲間だと思われたのかも知れない。だが、ポーションを投げつけた事で…野盗如きが持てるポーションでは無い事に気付き、君だけは助けたのかもしれないな…。」
「そ、そんな…!」
「君を責めている訳では無い。悪いのは野盗達と、まぁ、確認をしなかったその吸血鬼も…だな。…それに彼等は全員死んだんだ。だから復讐だとか吸血鬼に対する憎しみは君の為にならないと思う。どうだろうか?」
「そ、そうですね…本当にありがとうございます。」
「君は…まだ冒険者を?」
「いえ、引退します。流石にもう…。今後はカルネ村という村に移住しようと考えています。」
「そうかそうか! 実はあの村には縁が有ってね。 あのンフィーレア少年も移住したらしい! 彼に私の名前を出せば良くしてくれるだろう。」
(なんという好都合!あの村なら多少の監視も付けられるし、これ以上の情報も出回らない!! 素晴らしい!!)
自分にとって都合の良い選択をブリタがしてくれた事と、意外にも自分の考えた言い訳をすんなりとブリタが信じてくれた事で、アインズは自分が思った以上に機嫌が良くなっていた。
アインズがそんな少し悪い事を考えているなどいざ知らず、ブリタは涙を目に浮かべながらアインズに頭を再び下げてくる。
「ほ、本当に…本当に何から何までありがとうございます!」
「良いとも。仲間を喪った悲しみは…私にも分かるからな…」
「も、モモンさん…う、うぅ…」
「しかし、…ぅ…戦士は、生きている限り戦い続けねばならんのだ!…そうだな。君も、カルネ村での新しい人生を戦い続けて欲しい」
「はい!頑張ります!ありがとうございます!モモンさん!!」
そうして、貴重な情報と、アダマンタイトの冒険者のプレートを手に入れたアインズは用も済んだとナザリックに帰還する事にした。
「では、帰るか。」
「私は宿で待機していた方が良いのでは?」
「いや、今後の我々の行動の指針を決める重要な話し合いをする。お前にも出て貰うぞ。」
「畏まりました。では2日ほど休暇を貰うと、組合長に伝えて来ます。」
「うむ、そうだな。良い判断だ。」
ナーベラルは良いドヤ顔になると、畏まりました!と言い、組合長の居る部屋に向かって歩いて行った。
「戦士は、生きている限り戦い続けねばならん…か。…確かにその通りだ。俺も頑張らないとなぁ…。兎に角優先すべきは…」
(シャルティアを精神支配した奴を見つけ出す。復讐だけでは無く、他の守護者や、NPC達の脅威となる者を放って置く訳にはいかないだろう。アルベド達は今の集まっている状況証拠だけでどの程度の目星が付くんだろう? 俺よりよっぽど優秀だから頼んでは見たけど難しいよなぁ…)
そんな事を考えていると、ナーベラルが戻って来たのでアインズも立ち上がり、エ・ランテルの関所に向かい歩き出した。
アインズがナザリックに戻ると、コテージの前に現在ナザリックに居るプレアデスが全員集合し、出迎えてくれた。
「出迎えご苦労。 プレアデスは全員私と共に来い。他のシモベ達は引き続き警戒せよ!」
その場に居る全員が肯定の返事をしたのを確認し、アインズはナザリックの玉座の間へと向かう。
(ああやって地表部に小屋のような物を建ててプレアデスに番をして貰うのは悪く無いかもな…。それに…警備上の話しだけではなく、出迎えて貰うというのは悪く無い)
家族の居ないアインズ、鈴木悟にとって、誰かに出迎えて、お帰りなさいと言って貰えるのは新鮮であり、若干恥ずかしいのと同時に嬉しくも有った。
(うん、これはアルベドと相談して実行してもらおう。美人集団のプレアデスがナザリックとのファーストコンタクトなら相手も出方を変えるかもしれんしな。……最も対人間で不安が有るナーベラルは俺と一緒にエ・ランテルに居るし。)
「流石はデミウルゴス。今後も宜しく頼むぞ」
「…あぁ、有り難きお言葉。今後も全身全霊で励まさせて頂きます!!」
会議がスタートし、デミウルゴスから羊皮紙の牧場の件の報告を聞き、羊皮紙の安定供給も何とかなりそうだという嬉しい話を聞けた。このまま補給が無ければいずれ消費アイテムは枯渇し使えなくなってしまう。将来に目を向ければとても重要な問題だったが、流石はデミウルゴスだ。
「さて、アルベド。次の報告は?」
「はい。此方になります。アウラ、宜しくお願いするわ。」
アルベドは、アインズに分厚い書類の束を手渡して来ながら、アウラを指名する。
(うわー。分厚いなー。…あれ?…これってもしかして…今全部読めって事ですか?アルベドさん?)
「はい! 私からはトブの大森林の調査が概ね終了したことと、偽のナザリックの外装、そして内装もある程度は出来上がった事です!」
「ほう…思っていたよりかなり早いな。」
「…あ、えと、アインズ様の為に頑張りました!!」
そんな無邪気な事を言ってくれるアウラに、アインズの頬も自然に緩んだ。
「そうかそうか!…だが、キチンと休憩を取っているか?」
「はい!アインズ様に言われた通り、キチンと取っています!」
「うむ、他の皆もだぞ?」
そのアインズの問にその場にいた全員が肯定の返事を返してくる。それを聞くとアインズは書類をペラペラと捲り、アルベドに目を向けると少し考えた素振りをしながら口を開いた。
「…さて、そうだな…フッ、アルベド。お前にとって…アウラからの報告で気になった事は有ったか? 有るのならば聞かせてくれ。」
勿論自分も今全部を読んではいるけど、敢えて…敢えて、お前に聞くんだよ?という態度を全面に出し、アルベドに問う。…仕方ないのだ。余りにも情報量が多く、今アインズがこれを読み、噛み砕いて考えていては、一日では絶対に足りない確信が有った。
だから…意外にもビッシリと可愛い丸っこい文字で書き込まれた、アウラのやる気に満ち溢れ過ぎたとても分厚い報告書を読む気にならないとかでは無いのだ…決して。
(…心配するな、アウラ。後で絶対に読むからな?絶対だぞ?)
「そうですね…強いて言えば、湖に居るリザードマンでしょうか。」
「ほう、何が気になったのかな?」
そんな、試すような口ぶりでアルベドに質問してみた。
「はい。彼等を殲滅し、アンデッドの材料にしようと思っては見たんですが…どうやら我々が手を下すまでもなく絶滅しそうなので面倒が減った…という事でしょうか。」
「…ほ、ほう。そう…だな。」
アルベドから返って来たのは、想像以上に怖い返事だった。
「ではアインズ様、リザードマンは放置で宜しいですか?それとも…」
それともの後に続く言葉は、決して助けますか?という意味では無い。それとも殺しに行きますか?という意味だ。アインズからしても答えは勿論放置だ。助ける必要は無いし、殺しに行くとしてもリソースの無駄使いにしかならない。助けるなどアインズからしても論外だ。慈善事業など、今はそんな暇な事をしている時間は無い。
「当然だ。…しかし、原因となるアレはどういう事なんだ?」
と、少しボカシ、知ったかぶってアウラに向かって聞いてみる。
「あ〜、すみません…私にも原因は分からないんですよ。急に湖の水がどんどん減って行くなんて…別に異常気象とかじゃ無いんですけど…今度マーレを連れて行って調べさせた方が良いですか?」
そのアウラの答えに、アインズは興味を少し覚えた。水が干上がる、確かに毎年の、正確なデータなど無いので分からないが、トブの大森林の近くに有るカルネ村からもそのような報告は来ていない。だが、今後どうなるのか分からない以上、調べる事はしておいた方が良いかもしれない。
「そう…だな。頼めるか?マーレ。」
「は、はい! か、畏まりました!!ア、アインズ様!!」
「アウラも、良く頑張ってくれたな。」
「はい!ありがとうございます!」
アインズはアウラの返事を聞くと、アルベドへ目配せする。アルベドと目が合うとアルベドも頷いてきた。
「よし、さて…今日の本題だ。アルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクター、前に出よ!」
「「はっ!」」
「では聞こう。このナザリック最高の頭脳三人で考えた、シャルティアを洗脳した可能性の有る者、もしくは組織、それが何者なのか。勿論状況証拠しかない…いや、状況証拠すら乏しい今、確定は無理だというのは分かっているがな。それでも、考えておかなくてはならないと私は考えている。そして、私の考えとお前達の考えを合わせ、少しでも情報を共有しておきたいのだ。では…聞かせてくれ。」
アインズがそう聞くと、三人を代表してアルベドが答える。
「はっ! では先ず、個人の特定は矢張り不可能です。そして後は組織などですが、やはり情報が足りません。ですが、それでも可能性が高いのは…スレイン法国だと思われます。」
アインズの感想としては、やはりか。という物だ。
「ふむ、やはりそうなるのか。 一応聞くが、その根拠は?」
「はい。我々が話し合い、先ず除外したのは王国、それと帝国です。」
「ほう。それは何故だ?」
「セバスから上がってきた報告ですと、彼等は互いに戦争中、そしてお互いに切り札たる、王国にはガゼフ・ストロノーフ、帝国にはフールーダ・パラダインという、我々ナザリックからすれば雑兵と代わりませんが、人間の中では強者と言われている両者がいます。セバスや捕らえた陽光聖典から集められた乏しい情報から聞いたにすぎませんが、両国の指導者や周りを取り巻く貴族共の性格からして、それ程のワールドアイテムを所持していた場合、真っ先に使用、或いは見せつけて誇示し、併呑している物と思われます。そして、これは他の国にも当て嵌まると思われます。アーグランド評議国という例外はありますが」
アルベドからの説明は、とても分かりやすく、的を射ていた。
「ふむ、なる程な。そして、スレイン法国ならば…」
「はい。六色聖典などの秘密部隊を所有し、機密も他国に漏れておらず、陽光聖典へのあのような口封じの魔法を使ってまでの徹底ぶりからして、極秘に所持していても何ら不思議では有りません。…つまり、余りにも秘密主義が過ぎる為に返って答えを教えているような物、という事です。…もっとも、今現在得ている情報量での、完全な消去法での解釈に過ぎませんが。やはり、情報を今後も集めていくのが得策というのが、我々の考えでございます」
アインズはそれを聞き、玉座の背もたれに背中を押し付けながら天井を仰ぎ見る。アインズにもある程度目星は付いていたが、自分の最も信頼している頭脳三人から言われた事で、アインズの中ではスレイン法国でほぼ確定したと言っても良かった。
「消去法…か。そして情報を収集。確かに、そればかりは仕方ないな。…スレイン法国、面倒な奴らめ…!情報が欲しいが…時間が掛かりそうだな」
「アインズ様!スレイン法国の奴らを何人か攫ってきてしまえば良いんじゃないですか?」
アウラがそう聞いてくるが、アインズが答える前にアルベドが答えた。
「アウラ、それではダメなのよ。恐らく、その辺に居るスレイン法国の人間では、ワールドアイテムの情報は持っていないわ。国民の1人まで知っているようでは他の国にまで情報が漏れているでしょうから。」
「あ〜っ!そっか〜! 何も考えずに聞いて、申し訳ございません!アインズ様!」
「いや、分からない事が有ればそうやって聞くのは何も悪い事では無い。良くぞ聞いたな、アウラよ。」
アインズはホッと息を吐く。危うく、隠密系のシモベを使ってスレイン法国の奴を攫ってくるか?と言いそうになっていたからだ。
「ふーむ、仕方ない。兎に角私も冒険者の身分を利用し更に情報を集めてみよう。さて、他に無いか?」
大体の報告が済んだので、プレアデスも含めて何か無いかを確認すると、デミウルゴスが手を上げた。
「うん? デミウルゴス、牧場の件以外で何か有るのか?」
「いえ、牧場の件とも言えなくは無いのですが、一つ宜しいでしょうか?」
「お前の言うことだ。勿論、構わないさ。」
「ありがとうございます。実は先程、私の部下で有るプルチネッラから連絡が有ったのですが、どうやら羊皮紙牧場の周りを伺っている人間の女を捕らえたそうです。」
「ほう、それで?」
「はい、まあ用も無いので処分しようとしたらしいのですが…一応、何処から来たのか聞いた所、その女はエ・ランテルから聖王国に向かっている途中だったようなのです。」
エ・ランテル、その単語が出た事でアインズは無性に嫌な予感がしてきた。だが、特にエ・ランテルから聖王国に向かう、などと言った女には心当りは無いので先を促す。
「そ、それで?」
「はい。そして、そう言った後に、その女が何やらぶつぶつと、『折角赤い全身鎧の神様に見逃してもらって、応援までしてもらったのに…』などと、言っているようなのです。赤い全身鎧、一応ナーベラルに聞いて見ましたが、エ・ランテルには御一人しか存在しません!との答えでしたので…」
ナーベラルを見ると胸を張りドヤ顔になっていた。…赤い全身鎧、確かに…まごう事無き自分自身だった。エ・ランテルには自分以外には赤い全身鎧の冒険者は居ない。…というか…神様?
アインズはチラッと報告者であるデミウルゴスを筆頭に他の守護者を見回す。彼等の顔には『アインズ様が見逃したんだから絶対に何か重要な人間なんだ!すごい人なんだ!』と書いてあるようだった。…アルベドを除いて。アインズはそのアルベドが何やらブツブツと呟いているのに気付いた。
「その女、よくもアインズ様との間にずけすけと入る。恥を知れ…小娘…!」
「ア、アルベド…?」
「アインズ様…!!」
「な、何だ?アルベド?」
(このプレッシャー…アルベドからか!?)
そのプレッシャーを更に全開にし、アルベドはアインズに向かって話しかけて来る。
ティキーン(NT風SE音)
「…その女、一体アインズ様の何なのでしょうか?」
そう言ってくるアルベドは、口調こそ物腰柔らかで優しそうだったが、その表情は…阿修羅すら凌駕する例の表情だった。
(こ、怖っ!!…ん? 待て!? プレッシャーが増えただと!?)
アインズはその増えたプレッシャーを発している者にに目を向けた。
キラキラバシューン(SEED風SE音)
「私も…私も知りたいでありんすねぇ、アインズ様。…大丈夫ですよ、アインズ様、何も怖い事なんか無い…苦しい事も無い。だから。もう何もアインズ様を怖がらせる物はないから…だから…安心して…正直に答えて欲しいでありんす…」
目からハイライトが消え、何か悟りを開いたような顔でシャルティアもアインズに聞いてくる。
(シャルティアも、こ…怖っ!!何この状況!? ん?はっ!?)
アインズは小さいが、強さでは引けを取らないプレッシャーを二つ程感じ、そちらに目を向けた所で、その元凶と目が合ってしまった。
アウラとマーレが、プレッシャーを発しながらアインズをニコニコと可愛らしい笑顔で見つめていた。
(次に言う俺の返答いかんで、その女の運命が決まる……その女の存亡をかけた、対話の始まりっ!! …というか…そいつ…その女は一体誰なんだ!?…う…ちょっと待て!?何を言うつもりだっ!?)
「フッ、私の妹、とでもしておいてもらおう……妹とでも?…しておいてもらお…う?…ぅ?……ンンンーー!?」
その台詞を言ったのが、どこぞの軍隊の大佐なら『なる程。』程度ですんだだろう。しかし、アインズは違う。このナザリック内に置いてはそんじょそこらの総裁など生ぬるい程の忠誠を一身に受ける、正に偉大で、かつ至高の主人、今やナザリックに住む者達の忠誠の高さは、成層圏の彼方まで狙い撃つ程だ。
なので、エライことになった。
先ずは、玉座の間がどよめいた。
「妹…君…?」「至高の御方の妹様?」「アインズ様のい、妹君?」
「も、勿論義理の…?…だぞ? 血の繋がりは無いからな? ん? いや、血が流れて無いから当たり前…か? はは…は?」
「義理の…妹君?」「何と…!」「素晴らしい!」「お会いしたい!」
そして、そんな動揺が広がる中、真っ先に動いたのは…彼女だった。やはり守護者統括は格が違った。
「デェミウルゴスウゥうっ!!!!」
「うわっ! な、なんですか?アルベド」
「誰が!? 誰が妹様へのおもてなしをしているの!?」
「え、えぇ。プルチネッラにさせて」
「ダメよ!! 怯えさせてしまったらどうするの!? ならば!! ユリ・アルファぁ!!」
「はっ!何でしょう、アルベド様っ!」
「貴方なら完璧なおもてなしが出来る筈よ!!」
そう、アルベドが言い切った所で、ユリの横にシャルティアが優雅に歩いて来た。
「ユリ、早く行きんすよ。ゲートで送って差し上げんしょう。アルベドの言うとおり、おんしなら間違い無いでありんす。…そして…頼むでありんすよ?アインズ様の妹、という事で有れば将来の妾の、いえ妾達の妹、という事で有るでありんすから。」
「お任せ下さい!シャルティア様!」
「シャルティア! ナイス!!」
「今回ばかりはお互い協力しんしょう!!」
そう言い合い、パアン!とアルベドとシャルティアがハイタッチする音が玉座の間に響いた。
「お、おい?」
「アインズ様、ユリ・アルファを動かすご許可をお願い致します!」
「あ、お、おう。分かった…?」
「では、アインズ様、妾はユリを送りに一旦、離れさせて頂きたくでありんす。」
「アインズ様、妹君は私にお任せ下さいませ」
「う、うむ…?…いや、ちょっと待…あぁ…」
言うが早いかシャルティアとユリが転移門の向こうに消えて行った。
「では、アインズ様、ご準備が出来次第、アインズ様のお部屋に連れて来ても構いませんでしょうか?」
「あ、ああ?そう…いや、ちょっと待て」
「はい?」
流石に妹と言った手前、嫌です。とは言えないだろう。それに今更、そんな女は知らないなどとは言えなくなってしまった。妹などと言ってしまった瞬間にアインズは詰んでいたという事に、今になって気づいた。しかし、それでも相手は人間。敵意が無いかなど、色々調べてからで無いとナザリックには入れたくは無かった。
「アウラの製作してくれた偽のナザリックで会うことにしよう。工事の進捗状況も見るという事も兼ねてな。」
「え…でも、アインズ様! まだ完成した訳では…そんな場所で妹君と会うには…」
やはり未完成の物をアインズに見せるのは恥ずかしいのだろう。そしてそんな場所でアインズとその妹を会わせる訳にはいかないと言うアウラの忠誠を考えると少し悩む。だがアインズは、やはり外の、どこの誰かも分からない人間をここにいきなり連れて来る気はしなかった。
「構わん。彼女は人間…いきなりここに連れて来る訳にはいかん。それに私の最も信頼しているお前達守護者が心を込めて作ってくれた物ならば、ナザリックにも匹敵しよう。」
「でも…」
「アウラ、アインズ様の仰る事は何時でも正しい。つまり…今のアインズ様の言葉も…」
「正しいでありんす。チビ…じゃなくて…ぬしが頑張って作ってきたのはアインズ様も知っていんす。心配せずとも大丈夫でありんすよ。アインズ様、ユリ・アルファを無事に送り届けたでありんす」
「う、うむ。早かったな…止める間も無いくらい」
戻って来たシャルティアもアルベドの言葉への肯定と、アウラへの労りの言葉を掛ける。
「アルベド…シャルティア…ありがとう! 分かりました!アインズ様!」
少し難色を示していたアウラだったが、何やらタッグを組んだアルベドとシャルティアに諭され、了解してくれた様だった。そんな守護者同士の友情を確かに感じさせる感動の場面だったが、アインズには顔もしらない義理の妹が誕生する瀬戸際なのだ、流石に現実逃避して泣いている場合では無かった。
「あ、ああ…」
(どうする?どうすればいい!? 何が最善だっ!?)
「そして、アインズ様、ご心配なさらないで下さい!」
「うおっ! な、何がだ?」
「私は、実の妹と同様に!! アインズ様の妹君もっ!! 下等な人間などと思わずに!!…すっごく可愛がって見せますぅ!!」
「私も妹は居ないでありんすが、可愛がって見せるでありんす!…アインズ様の妹…絶対に可愛いでありんす…ウヒヒ」
「私だって! マーレと同じぐらい可愛がるもん!」
「ぼ、僕も!僕も大事にします!!」
「ククク…フッフッフ、ハッハッハ!!」
もう、笑うしかないアインズ様だった。
(何でアウラとマーレまで!? もう…もう、なるようになれぇえええ!!…というか…誰!? 一体私の妹は誰なの!?)
その日は、大魔王に妹が出来た記念すべき日となった。
そして…この世界の誰も気付いていない…知る由も無い所で、ひっそりとスレイン法国の存亡の危機が近づいていた。
アインズ様の妹…エ・ランテルで見逃して、応援までした女って…一体誰マンティーヌなんだ!?
つーか…なげぇ…。このぐらいでも大丈夫ですかね?